弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件申立てをいずれも却下する。
2申立費用は申立人の負担とする。
事実及び理由
第1申立て
1処分行政庁が平成23年10月18日付けで申立人に対してした在留期間更
新不許可処分の効力は,本案事件の判決が確定するまで停止する。
2処分行政庁が平成23年12月20日付けで申立人に対してした在留期間更
新不許可処分の効力は,本案事件の判決が確定するまで停止する。
3処分行政庁は,申立人に対し,仮に在留期間を1年とする在留期間更新許可
処分をせよ。
第2事案の概要
1本件は,「投資・経営」の在留資格をもって本邦に在留していた中華人民共
和国(以下「中国」という。)国籍を有する外国人女性である申立人が,処分
行政庁から2度にわたり在留期間更新不許可処分を受けたことから,これら不
許可処分の各取消し及び在留期間更新許可処分の義務付けを求める本案事件を
提起するとともに,行政事件訴訟法25条2項に基づきこれら不許可処分の効
力の停止及び同法37条の5第1項に基づき在留期間更新許可処分の仮の義務
付けを求めている事案である。
2前提事実等(各項記載の疎明資料等により認められる事実等)
(1)申立人の身分事項等
申立人は,▲年(昭和▲年)▲月▲日,中国において出生した中国国籍を
有する外国人女性である。申立人の家族として,夫であるA(▲年(昭和
▲年)▲月▲日生まれの中国人,在留資格「技能」,在留期間平成26
年2月9日まで),子であるB(平成▲年▲月▲日生まれの中国人,
在留資格「家族滞在」,在留期間平成26年6月29日まで)が本邦に
在留している。(甲7,疎乙1)
(2)申立人の入国及び在留状況(疎乙1)
ア申立人は,平成16年10月5日,関西空港に到着して,大阪入国管理
局(以下「大阪入管」という。)関西空港支局入国審査官から,在留資格
「就学」,在留期間を1年とする上陸許可を受けて本邦に上陸した。
イ申立人は,大阪入管において,在留期間更新許可申請を行い,平成17
年10月13日,在留資格「就学」,在留期間を1年とする在留期間更新
許可を受けた。
ウ申立人は,大阪入管において,在留資格変更許可申請を行い,平成18
年5月31日,在留資格「留学」,在留期間を1年とする在留資格変更許
可を受けた。
エ申立人は,大阪入管において,在留期間更新許可申請を行い,平成19
年6月11日,在留資格「留学」,在留期間を1年とする在留期間更新許
可を受けた。
オ申立人は,大阪入管において,在留資格変更許可申請を行い,平成20
年1月11日,在留資格「家族滞在」,在留期間を1年とする在留資格変
更許可を受けた。
カ申立人は,大阪入管において,在留資格変更許可申請を行い,平成20
年11月6日,在留資格「投資・経営」,在留期間を1年とする在留資格
変更許可を受けた。
キ申立人は,大阪入管において,在留期間更新許可申請を行い,平成21
年10月22日,在留資格「投資・経営」,在留期間を1年とする在留期
間更新許可を受けた。
ク申立人は,大阪入管において,在留期間更新許可申請を行い,平成22
年11月9日,在留資格「投資・経営」,在留期間を1年とする在留期間
更新許可を受け,在留期限は平成23年11月9日となった。
(3)エステティックサロン「C」の開店等
申立人は,平成20年6月10日,エステティックサロン等の経営等を目
的とするD株式会社(以下「本件会社」という。)を設立し,本件会社は同
年7月8日,大阪市α×番10号βにおいてエステティックサロン「C」の
営業を開始した。申立人は,平成20年7月1日から同年11月5日の間を
除き,本件会社の代表取締役を務めている。(甲1,疎乙9)
(4)本件各不許可処分に至る経緯
ア申立人は,平成23年8月24日,大阪入管において在留期間更新許可
申請(以下「本件申請①」という。)を行ったところ,法務大臣から権限
の委任を受けた処分行政庁は,同年9月29日にCの実態調査を行った上
で,同年10月18日,申立人に対し,「あなたの在留状況が好ましいも
のと認められません。決算等事業の経営状況からみて,本邦で安定的・継
続的に「投資・経営」の在留資格に該当する活動を行うものと認められま
せん。」との事実を根拠に「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当
の理由があると認められません。」との理由で不許可とした(甲2,疎乙
2,8。以下「本件不許可処分①」という。)。
イ申立人は,平成23年10月28日,再度,大阪入管において在留期間
更新許可申請(以下「本件申請②」といい,本件申請①と併せて「本件各
申請」という。)を行ったところ,処分行政庁は,同年12月20日,申
立人に対し,本件申請②について,申請どおりの内容では許可できないが,
申請内容を出国準備を目的とする申請に変更するのであれば申出書を提出
するよう促す通知書を交付した。しかし,申立人は出国準備を目的とする
申請に変更する申出書を提出する意思がないことを明らかにしたことから,
処分行政庁は,同日,本件申請②について「あなたの在留状況が好ましい
ものと認められません。」との事実を根拠に「在留期間の更新を適当と認
めるに足りる相当の理由があると認められません。」との理由で不許可と
した(以下「本件不許可処分②」といい,本件不許可処分①と併せて「本
件各不許可処分」という。)。(甲5,疎乙4,5)
(5)本案事件の提起等
申立人は,平成23年12月28日,大阪地方裁判所に対し,本件各不許
可処分の取消しを求めるとともに,在留期間更新許可の義務付けを求める本
案事件を提起した上で,同日,本件各不許可処分の効力の停止を申し立てた。
さらに,申立人は,平成24年1月6日,本件に在留期間更新許可の仮の義
務付けを求める申立てを追加した。(当裁判所に顕著な事実)
(6)本案事件提起後の事情
大阪入管主任審査官は,平成24年2月13日,申立人について,不法就
労助長及び不法残留を容疑事実として,収容令書を発付した(疎乙24)。
申立人は,同月15日,大阪入管入国警備官により上記収容令書を執行さ
れるとともに,同日,仮放免許可を受け,仮放免された(疎乙24,25)。
3争点
(1)本件各不許可処分の効力停止に関する申立ての利益があるか。
(2)重大な損害を避けるため緊急の必要があるか(本件各不許可処分の効力
停止の関係)。
(3)償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるか(在留期間更
新許可の仮の義務付けの関係)。
(4)本案について理由がないとみえるか(本件各不許可処分の効力停止の関
係)。
(5)本案について理由があるとみえるか(在留期間更新許可の仮の義務付け
の関係)。
4当事者の主張
(1)争点(1)(本件各不許可処分の効力停止に関する申立ての利益がある
か。)について
(相手方の主張)
申請に対する拒否処分の効力の停止は,当該処分がされなかった状態に回
復するにすぎないから,一般的には申立人の権利の保全等に役立つ結果とな
らず,申立ての利益を欠くものである。
ところで,平成21年法律第79号による改正(以下「平成21年改正」
という。)後の出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)21条4
項,20条5項は,在留期間更新許可申請をした外国人について在留期間の
満了の日から許可処分がされるまでの間のその者の法的地位が不安定になる
などの問題を解決するために,同申請に対する処分がされる日又は従前の在
留期間の満了の日から2月を経過する日のいずれか早い日までの間は,従前
の在留資格をもって本邦に在留できるものとした。申立人についていえば,
在留期間の満了の日(平成23年11月9日)から既に2か月を経過してい
るから,仮に本件各不許可処分の効力停止によって本件各申請をした状態に
回復したとしても,法24条4号ロの退去強制事由に該当することに変わり
はない。
したがって,申立人には本件各不許可処分の効力停止を申し立てる利益は
ない。
(申立人の主張)
法は,在留外国人に対して在留期間更新許可の申請権を認め,これに対応
して適法な更新許可申請に対しては許否いずれかの処分をすべきことを法務
大臣の義務としているのであって,在留期間更新許可の申請をした外国人は,
その申請が権利の濫用にわたるなどの特段の事情がない限り,許否いずれか
の処分がされるまでは在留期間が経過した後においても,不法残留者として
の責任を問えないという意味において,本邦に在留することができる。
被告の指摘する平成21年改正は,在留期間更新許可申請をした外国人が
許可不許可の処分を待つ間に最大2か月まで不法残留とはならないことを明
文化した上で,当該在留資格における活動まで認めるものであって,従来の
規定よりも申請中の外国人の法的地位を安定させ,改善することを目的とし
ている。平成21年改正のかかる目的に照らせば,同改正後も,在留期間更
新許可申請をした外国人は,その申請が権利の濫用にわたるなどの特段の事
情がない限り,許否いずれかの処分がされるまでは在留期間が経過した後に
おいても,不法残留者としての責任を問えないという意味において,本邦に
在留することができるとの解釈を維持すべきである。
また,平成21年改正は,行政手続としての入管業務の運用上,在留期間
内に申請に対する処分がされなかったため問題となっていた事案を想定した
にすぎないのであって,執行停止などの司法手続について全く想定していな
いものである。
そして,本件において,本件各不許可処分の効力の停止は,申立人に対し
て不法残留にならないという法的状態を回復させるものであるから,申立て
の利益を有するというべきである。
なお,在留期間から2か月が過ぎれば自動的に執行停止の申立ての利益を
欠くという相手方の主張によれば,立法によって執行停止が事実上不可能と
されることになるが,このような法解釈は,執行停止の制度の運用を拡大し,
速やかな申立人の権利救済を目指す実務の流れと逆行するだけでなく,申立
人の裁判を受ける権利を侵害するものであり,違憲である。
(2)争点(2)(重大な損害を避けるため緊急の必要があるか。)及び争点(3)
(償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるか。)について
(申立人の主張)
①申立人は,退去強制手続によって,入国警備官の取調べ等を受け,さら
には収容されることもあり得るなど人権侵害を余儀なくされる危険にさらさ
れている。②また,申立人が早期に経営復帰できなければ,本件会社の経営
状態が悪化する高度の蓋然性があり,仮に本件会社が破綻すれば,申立人が
本邦で必死に勉強し,苦労して立ち上げた会社を失うという著しい精神的損
害と,それに伴って申立人一家が生計の基盤を失うという重大な損害が生じ
る。③さらに,申立人には平成▲年▲月▲日生まれの子がおり,仮に申立人
が収容された場合には,幼い子を自ら養育するという親としては何物にも代
え難い機会を奪われることとなる。
これらに照らすと,本件各不許可処分により生ずる重大な損害を避けるた
め緊急の必要があるのはもとより,申立人に在留期間更新許可処分がされな
いことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある
といえる。
なお,仮放免は本案判決前に取り消される可能性があること,収容令書の
期間経過後は退去強制令書によって収容される可能性が高いこと,仮放免中
は申立人は本件会社の業務を行うことはできないことなどに照らすと,申立
人が仮放免を受けたという事実によって,上記損害を避けるための緊急の必
要性が減少するものではないというべきである。
(相手方の主張)
申立人について,収容令書が執行されるとともに,即日,仮放免されたも
のであるから,退去強制手続が進められることによって,申立人の生活に深
刻な影響を及ぼし,回復が著しく困難な状況を生じさせるおそれがあるとい
うことはできない。
また,申立人は資格外活動に当たる者を稼働させて不法就労を助長してい
たのであって,本件会社が破綻した際の申立人の精神的苦痛は法的保護に乏
しい上に,金銭賠償により回復が可能な損害であり,社会通念上も金銭賠償
のみによることが著しく不相当であるともいえない。申立人の主張する精神
的損害等は反射的な利益にすぎない上,生計の基盤を失うという点について
は,申立人の夫も稼働しているのであるから,仮に本件会社からの収入が途
絶したとしても,直ちに申立人家族の生命健康の維持に重大な支障が生ずる
とはいえない。
これらに照らすと,本件において,申立人に重大な損害あるいは償うこと
のできない損害を避けるため緊急の必要があるということはできない。
(3)争点(4)(本案について理由がないとみえるか。)について
(相手方の主張)
在留外国人の在留期間更新の許否は,法務大臣及びその権限の委任を受け
た地方入国管理局長(以下「法務大臣等」という。)の広範な裁量に委ねら
れている。しかるに,以下の各事情に鑑みれば,処分行政庁による本件各不
許可処分はその裁量権の範囲を逸脱し,又は裁量権を濫用してされたものと
は認められない。
ア申立人は,中国国籍のE及びFの2名を,本邦で適法に稼働する資格が
ないことを知りながら,Cにおいて就労させていた。かかる不法就労助長
行為は,出入国管理行政上看過できないものであり,在留の相当性の判断
においても重大な消極的事由として評価されるべきものである。
なお,申立人は在留資格「日本人の配偶者等」への在留資格変更許可申
請をしていたEは雇用していなかったと供述するが,Eの供述に照らし,
申立人の供述は信用できない。
また,Fは在留資格「留学」で在留し,資格外活動許可を得ていたが,
平成23年6月に大学を除籍処分となったため,適法に就労することので
きない状態にあった。Fは店舗に住み込んでCで稼働していたのであるか
ら,申立人においてFが不法就労と認識し,あるいは十分認識することが
できた状況にあった。
イ本件会社について資本金の500万円を維持することができておらず,
前回の在留期間更新許可申請時に提出された事業計画書に記載されていた
350万円の増資を申立人が行っていないことからしても,申立人が経営
する本件会社の経営の安定性・継続性に重大な疑義があった(なお,甲4
の事業計画書は平成23年10月27日付けで作成されたものであるから,
本件不許可処分①の後の事情にとどまる。)。
(申立人の主張)
以下の各事情に鑑みれば,処分行政庁のした本件各不許可処分は,いずれ
もその裁量権を逸脱する違法なものである。
アCにおいて就労資格のない者が就労していたことは事実であるが,申立
人は決して不法就労と認識しながらこれを助長したものではないから,違
法性は軽微であり,これをもって素行が不良であるとはいえない。
なお,Eは,気軽に仲間同士で中国語の話せる環境を求めて,近い将来
ビザが出れば雇用される予定の店で,「何もしないのも悪いし,何か自分
でも役に立ちたい」と自主的にCを手伝いに来ていたにすぎず,本件会社
がEを雇用したことはない。
また,Fは平成23年6月大学を除籍処分となっているとされるが,申
立人は出産準備等のため,同年2月12日から同年5月4日まで,同月2
3日から25日まで,同年6月18日から同月29日までの各間,中国に
帰国しており,Cにはほとんど行っておらず,Fが大学を除籍処分になり,
不法就労状態となっていることは知らなかった。
イ申立人の経営努力の結果,本件会社の経営状態は改善していたのである
から,事業の安定性・継続性に問題はない。
なお,甲4の事業計画書は,本件不許可処分①時点での本件会社の経営
状況の実態を説明したものに他ならないから,本件不許可処分①の適法性
を左右するに足りるものである。また,前回の在留期間更新許可申請時に
は本件会社の増資を予定していたが,本件会社の経営状態が改善したため
増資が不要になったにすぎない。さらに,処分行政庁は,本件不許可処分
②では本件会社の事業の安定性・継続性について言及しておらず,本件会
社の経営状態に問題がなかったことを自認している。
(4)争点(5)(本案について理由があるとみえるか。)について
(申立人の主張)
争点(4)についての申立人の主張のとおり,本件各不許可処分はいずれも
その裁量権を逸脱する違法なものとして取り消されるべきものであり,処分
行政庁は申立人に在留期間更新許可処分をすべきである。
(相手方の主張)
争点(4)についての相手方の主張のとおり,本件各不許可処分の取消請求
に理由があるとはいえないから,在留期間更新許可処分の義務付けの訴えは
本件各不許可処分が取り消されるべきもの(行政事件訴訟法37条の3第1
項2号)であるとの要件を欠いた不適法なものである。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(本件各不許可処分の効力停止に関する申立ての利益があるか。)
について
在留外国人により在留期間更新許可申請がされた場合において,在留期間
の満了の日までにその申請に対する処分がされないときは,当該外国人は,そ
の在留期間の満了後も,当該処分がされる日又は従前の在留期間の満了の日か
ら2か月を経過する日のいずれか早い日までの間は,引き続き当該在留資格を
もって本邦に在留することができる旨規定されている(平成21年改正後の法
21条4項,20条5項)。これは,同改正前は,在留外国人が在留期間の満
了の日までに在留期間更新許可等の申請をした場合において,当該申請に対す
る処分が在留期間の満了の日までにされないときは,在留期間の満了をもって
当該外国人は不法残留となっていたところ(このことは,最高裁平成16年
(あ)第1595号同17年4月21日第二小法廷決定・刑集59巻3号376
頁が,在留期間更新不許可の通知を受け取っていない外国人に係る平成16年
法律第73号による改正前の法70条1項5号の不法残留罪の成否について,
在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留した以上,
不法残留罪の構成要件に該当し,違法性阻却事由の存否が問題になるにとどま
るとしていることからも明らかである。),直ちに不法残留状態とするのが酷
な場合があり,また,その後在留期間更新許可処分がされた場合にはその効力
が遡って生じるとしていたことから,在留期間の満了の日から許可処分がされ
るときまでの間の外国人の法的地位が不安定になるなどの問題があったため,
同改正により,この問題の立法的解決を図ったものである。そうであるところ,
平成21年改正においても,在留資格を有する外国人が在留期間更新許可を申
請し,従前の在留期間満了の日から2か月を経過した日の後については,何ら
特別の規定は置かれていないから,従前の在留期間満了の日から2か月を経過
した時点で在留期間更新の許否に関する判断がされていないときに,当該外国
人が従前の在留資格をもって適法に本邦に在留していると解することはできな
い。したがって,仮に,在留期間更新不許可処分の効力を停止してみたとして
も,在留期間更新許可申請がされたのに対し法務大臣等が何ら応答をしていな
い状況に復するにとどまるから,在留期間満了の日から2か月を経過した場合
には,従前の在留資格をもって適法に本邦に在留しているということはできず,
法24条4号ロの退去強制事由があるというほかなく,当該外国人に対する退
去強制手続の進行を止めることはできない上,当該外国人は従前の在留資格に
おいて認められていた活動をすることもできないと解される。そうすると,在
留期間満了の日から2か月を経過した場合には在留期間更新不許可処分の効力
停止の申立ての利益は失われるというほかない。
本件についても,申立人は「投資・経営」の在留資格をもって在留してい
たところ,その在留期間の満了の日は平成23年11月9日であって,既にこ
れから2か月を経過しているのであるから,本件各不許可処分の効力停止の申
立ての利益は失われており,これら申立ては不適法である。
これに対し,申立人は,在留期間更新許可の申請をした在留外国人は,そ
の申請が権利の濫用にわたるなどの特段の事情がない限り,許否いずれかの処
分がされるまでは在留期間が経過した後においても,不法残留者としての責任
を問えないという意味において,本邦に在留することができ,このような状態
に復するという意味で在留期間更新不許可処分の効力停止を認めることができ
る旨主張し,平成21年改正によって在留期間更新不許可処分の効力停止が事
実上不可能となるというような解釈は,効力停止を含む執行停止の制度の運用
を拡大し,速やかな申立人の権利救済を目指す実務の流れと逆行するだけでな
く,申立人の裁判を受ける権利を侵害するものであり,違憲である旨を主張す
る。しかしながら,本邦に在留する外国人に在留期間更新について申請権があ
り,法務大臣等にこれに応答する義務があったとしても,そのことから同申請
に対する許否の決定がされるまでの在留を当然適法であるとみるべき法的根拠
は,法の規定からは見出すことができず,かかる解釈は上記最高裁決定に抵触
するものというべく,このような解釈を前提として在留期間更新不許可処分の
効力停止を認めることはできないというべきである。そして,在留期間更新不
許可処分を受けた外国人が,同処分の取消訴訟を提起して,同処分を争うこと
は何ら妨げられないのであるから,従前の在留期間の満了の日から2か月を経
過した場合には在留期間更新不許可処分の効力停止の申立ての利益は失われる
との解釈が,当該外国人の裁判を受ける権利を侵害するものとして憲法に違反
するとはいえない。
2争点(3)(償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるか。)に
ついて
(1)仮の義務付けは,裁判所が本案判決の前に暫定的に行政庁に具体的
な処分をすべきことを命じて,本案事件の結果と同じ内容を仮の裁判で
実現するものであるから,行政事件訴訟法37条の5第1項にいう「償
うことのできない損害」とは,同法37条の2第1項にいう「重大な損
害」よりも,損害の回復の困難の程度が比較的著しい場合であって,金
銭賠償が不可能な損害のほか,社会通念に照らして金銭賠償のみによる
ことが著しく不相当と認められるような場合をいうものと解される。
(2)申立人は,在留期間更新許可を仮に義務付けなければ,退去強制手
続によって,申立人の人権が侵害される危険がある旨を主張する。しか
し,在留資格のない外国人に対し退去強制手続によって退去を強制する
ことは法が予定しているところであって,在留期間更新不許可処分を受
けた申立人が法の定める退去強制手続を受けるおそれがあることをもっ
て,直ちに償うことのできない損害と評価することはできない。また,
申立人は,平成24年2月15日に,いったん収容令書により収容され,
即日,仮放免によって釈放されたこと(前記前提事実(6)),大阪入管
において,事案によっては,退去強制令書の収容部分の執行の同日に仮
放免をするという運用もされていること(当裁判所に顕著な事実),そ
もそも申立人に対し退去強制令書発付処分がされるかどうかも不確定で
あることに照らすと,申立人が現実に身柄を拘束され,申立人の子を自
ら養育する機会が奪われるという事態が生ずる高度の蓋然性があるとは
いえない。
このほか,申立人は,早期に経営復帰できなければ,本件会社の経営
状態が悪化する高度の蓋然性があり,仮に本件会社が破綻すれば,申立
人は著しい精神的損害を被り,また,申立人一家が生計の基盤を失うと
いう経済的損害を生ずる旨を主張する。しかしながら,本件会社が経営
するCでは10名程度の従業員が稼働していたものであることや,申立
人の夫Aも本件会社の取締役となっていること,申立人が子の妊娠や出
産等で長期間Cに出ていなかった間も同店の営業は続けられていたこと
(甲1,疎乙9)に照らせば,申立人がCで稼働できないことによって
本件会社が直ちに破綻するとは認め難く,また,申立人の夫Aの稼働に
よっても,申立人一家の生計を支えられないことについて疎明があると
はいえない。さらに,本件会社の破綻による申立人の精神的損害の点も,
かかる損害について金銭賠償にのみよることが社会通念に照らして著し
く不相当であるとまではいえない。
(3)以上から,本件で申立人に在留期間更新許可処分がされないことに
より生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるとは
認められない。
3以上の検討の結果によれば,本件各不許可処分の効力の停止を求める申
立ては申立ての利益を欠き,在留期間更新の仮の義務付けを求める申立て
は,償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるとはいえないか
ら,いずれも却下を免れない。
よって,申立費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を
適用して,主文のとおり決定する。
平成24年4月2日
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官田中健治
裁判官尾河吉久
裁判官長橋正憲

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