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平成25年10月17日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成25年ワ第127号商標権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成25年8月7日
判決
原告株式会社アクセス
同訴訟代理人弁護士稲田正毅
同山下侑士
被告株式会社ユメックス
被告株式会社ユメックス商事
上記両名訴訟代理人弁護士影山光太郎
同園山佐和子
同島岡雅之
同伊藤蔵人
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告
(1)被告らは,別紙商品目録記載の商品に別紙標章目録記載の標章を付し又は
同標章を付した同商品を輸入し,販売し,引渡し,販売若しくは引渡しのた
めに展示してはならない。
(2)被告らは,別紙標章目録記載の標章を付した別紙商品目録記載の商品を廃
棄せよ。
(3)被告らは,原告に対し,連帯して1650万円及びこれに対する平成24
年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)訴訟費用は被告らの負担とする。
(5)1,3及び4につき仮執行宣言
2被告ら
主文同旨
第2事案の概要
1前提事実(証拠等の掲記がない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者
原告は,「婦人靴の製造・輸入及び販売」等を目的とする会社である。
被告らは,いずれも「衣料品,服飾雑貨,家庭用品の輸出入業,卸売及び
小売販売業」等を目的とする会社である。
(2)原告が有していた商標権
ア原告は,以下の登録商標(以下「本件登録商標」という。)に係る商標権
(以下「本件商標権」という。)を有していた。
登録番号5170958号
出願日平成20年3月3日
登録日平成20年10月3日
商品及び役務の区分第25類
指定商品被服,履物
商標(標準文字)
イ被告株式会社ユメックスは,平成24年7月30日,本件登録商標の商
標登録について,商標法50条1項に基づく商標登録の取消しの審判請求
をした。同請求は,同年8月14日,予告登録をされた(甲11)。
上記請求について,平成25年3月25日,本件登録商標の商標登録を
取り消す旨の審決がされ,同審決は確定した(乙15)。
上記審決の理由の要旨は,上記請求の登録前3年以内に,商標権者,専
用使用権者又は通常使用権者のいずれもが,指定商品について本件登録商
標の使用をしたとは認められないというものである。
(3)原告による商品の販売
原告は,「」や「」という標章(以下「原
告標章」という。)を付した商品(以下「原告商品」という。)を販売してい
た(販売を開始した時期については主張立証がない。また,本件登録商標を
使用していたか否かについては,後記のとおり争いがある。)。
(4)被告らの行為
被告株式会社ユメックスは,別紙商品目録記載の商品に別紙標章目録記載
の標章(以下「被告標章」という。)を付した商品(以下「被告商品」という。)
を輸入し,被告株式会社ユメックス商事に販売した。
被告株式会社ユメックス商事は,平成24年5月ころから,被告商品を販
売した。
被告商品は,本件登録商標の指定商品である。
2原告の請求
原告は,①被告らの行為により本件商標権を侵害されたとして商標法36条
に基づき,また,被告らの行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当
たるとして同法3条に基づき,被告らに対し,被告標章の使用差止め及び被告
商品の廃棄を求めるとともに,②本件商標権侵害による不法行為及び不正競争
防止法4条に基づき,1650万円の損害賠償及びこれに対する平成24年6
月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求
めている。
3争点
(1)本件商標権侵害に基づく請求に関する争点
ア被告標章は本件登録商標に類似するか(争点1-1)
イ被告標章は商品の品質又は用途を普通に用いられる方法で表示する商標
(商標法26条1項2号)であるか(争点1-2)
ウ本件登録商標の商標登録は商標登録無効審判により無効にされるべきも
のであるか(争点1-3)
エ商標権侵害に関する過失の推定が覆滅されるか(争点1-4)
オ本件商標権に基づく請求は権利の濫用に当たるか(争点1-5)
カ本件商標権に基づく差止請求の可否(争点1-6)
(2)不正競争防止法違反に基づく請求に関する争点
ア原告標章は原告の商品表示として需要者の間に広く認識されているか
(争点2-1)
イ被告標章は原告標章に類似するか及び混同のおそれの有無(争点2-2)
ウ故意又は過失の有無(争点2-3)
エ被告標章は不正競争防止法19条1項1号の「普通名称等」であるか
(争点2-4)
(3)損害の有無及び金額(争点3)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1-1(被告標章は本件登録商標に類似するか)について
【原告の主張】
以下のとおり,被告標章は,本件登録商標と外観において類似し,称呼及び
観念において同一であるから,類似する。
(1)外観
被告標章はの文字が1つであるのに対し,本件登録商標はの文字が
2つであるものの,その他の文字は共通であるから,外観において類似する。
(2)称呼
いずれからも「ラガッツァ」の称呼が生じる。
(3)観念
被告標章はイタリア語で「少女」を意味する単語であり,本件登録商標は
それに由来する造語であるから,いずれも「少女」の観念が生じる。
【被告らの主張】
以下のとおり,被告標章は,本件登録商標と外観において類似するものの,
称呼において類似の範囲にあるとはいえず,観念において全く異なるから,出
所の混同を生じさせる程度には類似していない。
(1)外観
被告標章はの文字が1つであるのに対し,本件登録商標はの文字が
2つであるものの,その他の文字が共通であることは認める。
(2)称呼
被告標章はイタリア語であり,「ラガッツァ」という特定の称呼が生じる。
これに対し,本件登録商標は造語であるから,特定の称呼が生じない。一
般的な読み方としてローマ字又は英語として発音すると,「ラッガッザ」又は
「ラグガッザ」の称呼が生じる。
(3)観念
被告標章はイタリア語であり,「少女,(未婚の)若い女性,女の子」を意
味する。
これに対し,本件登録商標は,単にアルファベットを配置したにすぎない
全くの造語であり,特別の意味を有しないから,何らかの観念を生じさせる
ことはない。
2争点1-2(被告標章は商品の品質又は用途を普通に用いられる方法で表示
する商標であるか)について
【被告らの主張】
以下のとおり,被告標章は商品の品質又は用途を普通に用いられる方法で表
示する商標である。
したがって,商標法26条1項2号により,本件商標権の効力は,被告標章
には及ばない。
(1)我が国においてイタリア語が一般に普及していること
我が国において,近年,イタリア語の学習者は増加しており,普及が進ん
でいる。大学や語学学校のイタリア語講習会の通学者数は約1万人であり,
のテレビ・ラジオのイタリア語講座の視聴者数は約35万人にも上る。
(2)被告標章はイタリア語の基本的な単語であり,ファッション業界において
普通に使用されるものであること
被告標章は,イタリア語で日常的に使用される基本的な単語であり,商品
の品質又は用途を示すものとして一般に使用されている。
我が国でも,ファッション業界では,商品の特性や属性を表示するものと
してイタリア語が普通に使用されている。
(3)被告標章を普通に用いられる方法で使用していること等
被告標章に接した取引者・需要者は,被告標章から「女性用の商品」とい
う程度の意味合いを容易に認識・理解するにとどまる。
被告らは,被告商品の品質又は用途を示すものとして,被告標章を普通に
用いられる方法で表示して使用しているにすぎない。
【原告の主張】
以下のとおり,被告標章は商品の品質又は用途を普通に用いられる方法で表
示する商標ではない。
(1)我が国においてイタリア語が一般に普及していないこと
我が国において,イタリア語は,第二外国語の中でも,他の言語と比べて
特に学習環境に乏しい。学部科目として開設している大学数でみると,イタ
リア語は,英語,中国語,フランス語,ドイツ語,朝鮮語(韓国語),スペイ
ン語,ロシア語よりも数が少ない。
一般的には,イタリア語は,あいさつに関する単語が知られている程度で
ある。
(2)ファッション業界でもイタリア語は普通に用いられるものでないこと等
イタリアにおける著名ブランドも,日本語による商品紹介では,女性用や
男性用といった商品の品質,用途等を示すため,英語又は英語のカタカナ読
み表記を用いており,イタリア語を使用していない。
被告標章は,我が国の需要者に「少女用の商品」という品質又は用途を示
すものとして認識されてはいない。
3争点1-3(本件登録商標の商標登録は商標登録無効審判により無効にされ
るべきものであるか)について
【被告らの主張】
以下のとおり,本件登録商標は商標登録を受けることができない商標である
から,その商標登録は商標登録無効審判により無効にされるべきものである(商
標法46条1項)。
したがって,原告は,被告らに対し,本件商標権を行使することができない
(商標法39条,特許法104条の3第1項)。
(1)商標法3条1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用をす
る商標」ではないこと
原告は本件登録商標の出願時から現在に至るまで本件登録商標を使用した
ことがなく,「」(原告標章)のみを使用してきた。
したがって,原告は,本件登録商標の商標登録時において,本件登録商標
を使用する意思を有していなかったものであるから,本件登録商標は「自己
の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」ではない。
(2)同法3条1項6号の商標であること
本件登録商標は造語であるが,イタリア語の「」を直感させる商
標であり,「」は「少女,(未婚の)若い女性,女の子」を意味する
基本的な単語であって,若い女性や少女向けの商品を表すものとしてファッ
ション業界で現に使用されている。
したがって,本件登録商標は間接的に品質等を表示するものであり,公益
上,特定人に独占させることが不適当な商標であるから,同法3条1項6号
の商標である。
(3)同法4条1項7号の商標であること
現代では国際的に商品・情報が流通しているから,他国の言葉について,
その言葉と牽連性が強い商品の商標として独占的な使用を許すことは,国際
的な信義に反するものである。
前記のとおり,「」はイタリア語で若い女性や少女向けの商品を表
すものであり,これについて独占的な使用を許すべきではない。
したがって,本件登録商標は同法4条1項7号の商標である。
(4)同法4条1項16号の商標であること
本件登録商標は,指定商品のうち,少年,成年男子,老人又は年配の婦人
向けの被服や履物に使用されると商品の品質を誤認させるものであるから,
同法4条1項16号の商標である。
【原告の主張】
以下のとおり,本件登録商標は商標登録を受けることができない商標ではな
い。
(1)商標法3条1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用をす
る商標」であること
原告は,本件登録商標の登録時もそれ以降も本件登録商標を使用する意思
を有していた。
現に,原告は,女性向けファッション雑誌である「」の平成22年7
月号,平成23年4月号及び同年7月号において,「」と表記し
た広告を掲載しており,本件登録商標を使用していたものである。
(2)同法3条1項6号の商標ではないこと
前記2【原告の主張】のとおり,イタリア語は一般に普及しておらず,本
件登録商標はイタリア語の「」を想起させるものではない。
また,我が国において,「」は,「少女用の商品」という品質等を
示すものとして認識されていないから,同法3条1項6号の商標ではない。
(3)同法4条1項7号の商標ではないこと
本件登録商標はイタリア語の「」を直感させるものではなく,原
告がアルファベットを配置して創作した造語にすぎない。
したがって,本件登録商標の独占的な使用を認めても国際的な信義に反す
るものではないから,同法4条1項7号の商標ではない。
(4)同法4条1項16号の商標ではないこと
前記のとおり,本件登録商標はイタリア語の「」を直感させるも
のではなく,商品の品質等を表すものではない。
したがって,商品の品質について誤認を生ずるおそれはないから,同法4
条1項16号の商標ではない。
4争点1-4(商標権侵害に関する過失の推定が覆滅されるか)について
【被告らの主張】
前提事実2イのとおり,本件登録商標の商標登録は不使用により取り消さ
れている。
また,前記2【被告らの主張】のとおり,商標法26条1項2号により,本
件商標権の効力は被告標章には及ばない。
しかも,前記3【被告らの主張】のとおり,本件登録商標の商標登録は商標
登録無効審判により無効にされるべきものである。
これらのことからすれば,被告らが被告標章の使用について本件商標権を侵
害しないと考えたことには十分な理由があるから,商標権侵害に関する故意又
は過失はない。商標法39条が準用する特許法103条の過失の推定は覆滅さ
れるべきものである。
【原告の主張】
前記2【原告の主張】のとおり,被告標章が商標法26条1項2号の商標で
ないことは明らかである。
また,前記3【原告の主張】のとおり,本件登録商標の商標登録は商標登録
無効審判により無効にされるべきものでもない。
本件登録商標は商標公報等によって公示されているものであるから,被告ら
には被告らの行為による本件商標権侵害について過失がある。
5争点1-5(本件商標権に基づく請求は権利の濫用に当たるか)について
【被告らの主張】
前記3【被告らの主張】1のとおり,原告は,本件登録商標の指定商品に
ついて,本件登録商標()ではなく,原告標章()のみ
を使用してきたものである。
原告標章()は登録されることができないものであり,現に,原
告がした「」の商標登録出願は拒絶査定をされている。
これらのことからすると,原告は,使用する意思がない本件登録商標の商標
登録を受けることにより,他人が品質又は用途を示す商標として「」
を使用することについて妨げ,その使用を独占しようと図ったものである。
よって,本件登録商標の商標登録出願は,商標権の詐取と,それによる不当
な排他的独占を意図したものであるから,本件商標権に基づく本件請求は権利
の濫用に当たる。
【原告の主張】
前記3【原告の主張】1のとおり,原告は,本件登録商標を使用する意思
を有しており,上記被告らの主張は前提を誤っている。
6争点1-6(本件商標権に基づく差止請求の可否)について
【被告らの主張】
前提事実2イのとおり,本件登録商標の商標登録は取り消されたから,本
件商標権に基づく差止請求には理由がない。
7争点2-1(原告標章は原告の商品表示として需要者の間に広く認識されて
いるか)について
【原告の主張】
以下のとおり,原告標章は原告の商品表示として需要者の間に広く認識され
ているものである。
(1)原告標章
原告は,「」や「」という標章(原告標章)
を付して原告商品を販売してきた。
「」の表記のうち,「」の部分の方が「
」の部分よりも,文字の大きさ,太さ,スペースの占める割合は
格段に大きい。また,「」の部分が「」よりも上段に配
置されるなど,「」の部分が需要者の注意を惹くように表記していた。
原告標章の要部は「」であり,販売実績及び広告・宣伝によって,
この部分が原告の商品表示として需要者の間に広く認識されている。
(2)販売実績
原告は,インターネット上に通販サイトを開設して,原告標章を付した原
告商品を販売するとともに,各地の卸売業者及び小売業者に販売してきた。
原告標章を付した商品の販売実績は,過去3年間で41万足を超えており,
総売上高は約9億6800万円にも上る。
(3)広告・宣伝
原告は,平成22年から,複数回にわたり,女性向けファッション雑誌で
ある「」において,原告標章を付した商品の広告を掲載した。
同誌の発行部数が42万5000部であることからしても,原告標章は全
国の需要者の間に広く認識されているものである。
【被告らの主張】
原告標章は,原告の商品表示として需要者の間に広く認識されているもので
はない。
(1)販売実績
原告が原告標章を付した商品を販売していることは認め,その余は否認又
は知らない。
(2)広告・宣伝
「」の発行部数が約40万部であること,原告の商品が掲載されたこと
は認め,その余は否認又は知らない。
8争点2-2(被告標章は原告標章に類似するか及び混同のおそれの有無)に
ついて
【原告の主張】
被告標章は原告標章と同一又は極めて類似している。
被告商品は女性向けラバーシューズであり,原告商品と需要者が共通である
から,需要者が被告商品を原告商品であると誤認,混同するおそれも極めて高
い。
【被告らの主張】
否認又は争う。
9争点2-3(故意又は過失の有無)について
【原告の主張】
原告は,前記7【原告の主張】のとおり,広告・宣伝を通じて,原告標章を
需要者に周知し,販売実績を上げてきた。
被告らは,被告標章を使用するに当たり,適切な確認を怠ったものであるか
ら,故意又は過失(不正競争防止法4条本文)がある。
【被告らの主張】
否認又は争う。
争点2-4(被告標章が不正競争防止法19条1項1号の「普通名称等」で
あるか)について
【被告らの主張】
被告らは,若い女性向けのサンダルについて,若い女性用品の普通名称等で
ある被告標章を普通に用いられる方法で使用したにすぎない。
したがって,被告標章は不正競争防止法19条1項1号の「普通名称等」に
当たるから,被告らの行為について同法3条及び4条は適用されない。
【原告の主張】
否認又は争う。
争点3(損害の有無及び金額)について
【原告の主張】
(1)逸失利益
被告らは,1足約500円で少なくとも5万足の被告商品を販売した。
被告商品の製造単価は約200円である。
したがって,被告らは,少なくとも1500万円の利益を受け,原告は,
同額の損害を被った(商標法38条2項,不正競争防止法5条2項)。
〔計算式〕-×
(2)弁護士費用
前記1の逸失利益の1割に相当する弁護士費用150万円は本件と相当
因果関係のある損害である。
【被告らの主張】
前記3【被告らの主張】1のとおり,原告は,本件登録商標を全く使用し
ておらず,本件登録商標を利用した売上げは一切ない。
したがって,売上げ減少による逸失利益は存在しないから,商標法38条2
項,不正競争防止法5条2項の適用の前提を欠いている。
第4当裁判所の判断
以下のとおり,被告標章が本件登録商標に類似するとしても(争点1-1に
対する判断),本件請求は権利の濫用に当たる(争点1-5に対する判断)。
また,本件登録商標の商標登録は取り消されているから,本件商標権に基づ
く差止請求には理由がない(争点1-6に対する判断)。
これらのことからすると,本件商標権侵害に基づく請求には理由がない。
原告標章は,原告の商品表示として需要者の間に広く認識されているものと
は認めるに足りない(争点2-1に対する判断)から,不正競争に基づく請求
についても理由がない。
1争点1-1(被告標章は本件登録商標に類似するか)に対する判断
(1)類否判断の基準
商標の類否は,同一又は類似の商品に使用された商標がその外観,観念,
称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察
すべきであり,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な
取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和43年2月27日第
3小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
(2)被告標章と本件登録商標の対比
ア被告標章の構成
被告標章の構成は別紙標章目録記載のとおりであり,その外観,称呼及
び観念は以下のとおりである。
(ア)外観
アルファベットの大文字で「」と表記した後に続けて,小文字で
「」と表記されている。
(イ)称呼
「ラガッツァ」の称呼が生じる。
(ウ)観念
イタリア語で「少女,(未婚の)若い女性,娘,女の子」の意味であり,
イタリア語を解する者にとっては,同様の観念を生じさせる(乙2,3
〔枝番省略〕)。英語の「!」と同義であり,ファッション用語として
は,「""!#$%」(女の子の服)などという表現で用い
られる(乙4)。
イ本件登録商標の構成
本件登録商標の構成は(標準文字)であり,その外観,称
呼及び観念は以下のとおりである。
(ア)外観
いずれもアルファベットの大文字で「」と表記されてい
る。
(イ)称呼
原告の主張によれば,イタリア語の「」の造語であるという
のであり,イタリア語を解する者においては,「ラガッツァ」の称呼を生
じうる。もっとも,イタリア語を解しない者や造語であることを認識す
る者にとっては,「ラッガッツァ」,「ラッガッザ」や「ラグガッザ」など
の称呼が生じうるものであり,称呼を特定し得ない。
(ウ)観念
原告の主張によれば,イタリア語の「」に由来する造語であ
るが,造語であるため,直ちには,特定の観念を生じることはない(外
観において,「」と混同した場合に,イタリア語を解する者に
関してのみ,「少女,(未婚の)若い女性,娘,女の子」の観念を生じさ
せる。)。
ウ対比判断
被告標章は大文字の「」に続いて小文字の「」からなるのに対
し,本件登録商標はすべて大文字である上,「」が2つであるという違い
はあるものの,両標章を構成するアルファベットのうち「」又は「」
以外は共通である。
したがって,被告標章と本件登録商標は外観において類似するものとい
うべきである。
また,称呼については,同一又は類似の称呼が生じうるものと認められ
る。
観念については,イタリア語を解する者においては,類似の観念が生じ
うる。他方で,イタリア語を解しない者(本件登録商標の指定商品に係る
国内の需要者において,イタリア語である「」の意味を理解する
者が多いとはいえない。)にとっては,被告標章も本件登録商標も特定の観
念を生じることがない。
このように,被告標章は,本件登録商標と外観において類似し,称呼に
おいて同一又は類似の称呼が生じうるものである上,商品の出所を誤認混
同するおそれが認められない場合に当たるような取引の実情があるともい
えない。
したがって,被告標章は本件登録商標に類似するものと認められる。
2争点1-5(本件商標権に基づく請求は権利の濫用に当たるか)に対する判

以下の理由から,本件商標権に基づく請求は権利の濫用に当たる。
(1)関連事実
本件に関連する事実として,以下の事実が認められる。
ア本件登録商標の商標登録出願
原告は,平成20年3月3日,本件登録商標の商標登録出願をし,同年
10月3日,商標登録された。
イ被告らの行為
被告株式会社ユメックスは,被告商品を輸入し,被告株式会社ユメック
ス商事に販売し,被告株式会社ユメックス商事は,平成24年5月ころか
ら,被告商品を販売した。
ウ原告による「」(標準文字)の商標登録出願と拒絶査定
原告は,平成24年5月18日付けで,「」(標準文字)の商標
登録出願をした。
これに対し,特許庁審査官は,平成25年3月11日付けで,拒絶査定
をした。その理由の要旨は,以下のとおりである(乙10,13)。
指定商品を取り扱う業界においては,男性用を&'((メンズ),女性用
を)((レディース),子供用を'((キッズ)等のように,用途を表
示するものとして外国語が普通に使用されている。
上記商標は「少女,若い女性」を意味するイタリア語であるところ,指
定商品を取り扱う業界では,イタリアはファッション流行の発信地として
親しまれ,イタリア語のブランド名も多数存在し,イタリア語は商品の特
性や属性を表示するものとして普通に使用されている。
したがって,上記商標に接した取引者・需要者は,「女性用の商品」程度
の意味合いを容易に認識・理解するにとどまるから,上記商標は単に商品
の品質を表示するにすぎないから商標法3条1項3号に該当し,指定商品
以外に使用するときは商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから同
法4条1項16号に該当する。
エ被告株式会社ユメックスによる本件登録商標の商標登録の取消審判請求
被告株式会社ユメックスは,平成24年7月30日,本件登録商標の商
標登録について,商標法50条1項に基づく商標登録の取消しの審判請求
をした。同請求は,同年8月14日,予告登録をされた(甲11)。
上記請求について,平成25年3月25日,本件登録商標の商標登録は
取り消す旨の審決がされ,同審決は確定した(乙15)。
(2)検討
前提事実及び前記1によると,原告は,原告標章(「
」や「」)を自己の商品に付して使用していたにもかか
わらず,当初は,「」や「」の標章について登録出願する
ことをせず,これに「G」を1文字加えた,造語である「」(本
件登録商標)について登録出願をしたこと,これが登録された後も,原告標
章の使用を継続していることが認められる。原告が「」の登録出願
をしたのは,本件登録商標の登録出願から4年以上も経過した後,被告商品
の販売が開始された時期である。
このような原告の対応は,前記1ウの拒絶理由を考慮したためであるこ
とがうかがわれる。
そうすると,本件商標権に基づく請求は,原告があえて登録出願を避けた
「」又は「」(被告標章)の使用について本件商標権の権
利行使をしようとしているものというほかない。
また,原告は,本件登録商標がイタリア語の「」に由来する造
語であり,これを想起させることを前提として,被告標章()が本
件登録商標と類似する旨の主張をしている。他方で,原告は,本件登録商標
の無効審判請求において,本件登録商標の無効を回避するために,本件登録
商標が「」(被告標章)と類似しない旨主張し,その旨の審判を得て
本件商標登録の無効を回避しており,本件でも同旨の主張をしている。この
ような原告の対応(主張)は,禁反言の原則に照らし,許されないものとい
うべきである。
ところで,原告は,これまで5回にわたり,ファッション雑誌で
「」と表記した広告を掲載し,本件登録商標を使用した旨主張
している。その使用の態様は後記42のとおりであるが,仮に当該広告の
掲載について本件登録商標の使用に当たりうるとしても,その使用は僅かな
ものであるし,前記のとおり,本件登録商標については不使用を理由とする
登録取消の審決がすでに確定しており,商標権が消滅したとみなされる日ま
での間に被告標章が使用された期間はわずか3か月にとどまる。
以上の事情を併せ考慮すれば,本件商標権に基づく請求は権利の濫用に当
たり,許されないものというべきである。
3争点1-6(本件商標権に基づく差止請求の可否)について
前提事実2イのとおり,本件登録商標の商標登録は取り消されたことが認
められる。
よって,本件商標権に基づく差止請求には理由がない。
4争点2-1(原告標章は原告の商品表示として需要者の間に広く認識されて
いるか)に対する判断
以下の理由から,原告標章が原告の商品表示として需要者の間に広く認識さ
れているとは認めるに足りない。
(1)原告商品の販売実績
原告は,「」の標章を付した商品について,平成22年に6万02
86足,平成23年に23万6803足,平成24年に11万9664足を
販売したこと,合計9億6778万4276円の売上げを得たことについて
主張し,その旨の記載をした原告作成名義の書面(甲7)を提出している。
他に上記販売実績を裏付ける客観的な証拠は何ら提出されていないが,
仮に上記販売数量等を前提としたとしても,原告商品の市場占有率等につい
て,周知性の獲得を根拠づける立証はない。また,原告商品の平成22年以
前の販売実績については明らかでない。
そうすると,原告が主張する原告商品の上記販売実績のみをもって,原告
標章が原告の商品表示として需要者の間に広く認識されているとは認めるに
足りない。
(2)広告・宣伝の状況
次に原告標章の広告・宣伝状況についてみると,原告は,女性向けのファッ
ション雑誌である「」において,平成22年7月号(甲8の1),平成2
3年4月号(甲8の2),7月号(甲8の3),8月号(甲8の4),平成24
年2月号(甲8の5)の5回にわたり,見開き2頁の広告を掲載したことが
認められる。また,「」は,発行部数が42万5000部の月刊誌である
ことも認められる(甲9)。
もっとも,これらの広告では,原告が有する以下の登録商標(登録番号第
5345963号)又は同登録商標下部の文字部分(同一の色彩及び同一の
書体で表された「」と「」の文字の間に,赤色の「」を右に傾斜
させ,その「」の上部で,左後方に傾斜させた灰色の「」を鎖状に連鎖
させたものを配した標章)が使用されたものと認められる。
上記のとおり,掲載誌の発行部数が相当な数量に上るとはいえ,原告商品
以外にも多数の同種商品の広告が掲載されていることも明らかであり,わず
か見開き2頁の広告を年に数回掲載したからといって,このことのみでは原
告の商品表示として需要者の間に広く認識させるものであるとまでいえない。
(3)小括
他に,原告標章が原告の商品表示として需要者の間に広く認識されている
と認めるに足りる主張立証はない。
したがって,不正競争防止法2条1項1号に基づく原告の請求にも理由が
ない。
5結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求にはい
ずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官山田陽三
裁判官松阿彌隆
裁判官西田昌吾
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