弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原決定を取り消す。
本件を高松地方裁判所に移送する。
       理   由
 本件抗告の要旨は、
 抗告人は主文第1、2項と同旨の決定を求め、その理由として述べるところは、
 抗告人は昭和22年12月26日当時愛媛県警察部長A、同経済警察課長B、同
警察部監察官C及びその他の関係者を次に述べるような涜職罪被疑者として松山地
方検察庁に告発した。すなわち被告発人等は部下の犯罪捜査事務について指揮監督
をなすべき職務にありもしくはあつたものであるが、(一)元愛媛県警部補Dが八
幡浜警察署経済主任として勤務当時同県E郡F村村長等72名の涜職、窃盗、食糧
管理法違反等の被告事件につき捜査中被告発人等はその職権を濫用して右Dに圧迫
を加えその捜査事務の遂行を中止するのやむなきに至らしめ以てその行うべき権利
の行使を妨害し、(二)右Dは常に民主日本国家建設の熱意に燃えポツダム宣言受
諾後の日本国民の一人として又自己当然の職責を自覚して右事件の真相究明に努力
していたこととて上司等の右の不当な干渉に不満を禁ずることができず聯合国軍政
部当局にその実情を具申するため陳情書を準備していたところ被告発人等は自己等
の非行の暴露せられることを恐れDに強いてその陳情書の案文を提出させるなどそ
の職権を濫用し同人をして義務のないことを行わせたものである。なおDは上記の
ような威圧にたえかねて遂にその職を辞するに至つたものである。しかるにこの告
発事実につき捜査の任に当つた松山地方検察庁検察官Gは昭和23年10月6日そ
の犯罪の嫌疑がないとの理由で被告発人等をすべて不起訴処分に付した。抗告人は
それを不服として同年同月9日附で高松高等検察庁に抗告状を差し出したところ昭
和24年9月4日同庁検察官Hは同年8月29日附で抗告棄却の決定をした旨抗告
人に通知して来た。しかしながら抗告人はこの処分にも承服できないので刑事訴訟
法第262条第1項により同検察官所属の高松高等検察庁の所在地を管轄する高松
地方裁判所に対し本件を裁判所の審判に付することを請求するため同条第2項の規
定に従いその請求書を右検察官に差し出した。しかるに右検察官は抗告人の審判請
求書を松山地方検察庁に転送し、同地方検察庁はそれを同地方裁判所に送付した。
そして松山地方裁判所はそれを受理し昭和24年9月17日附で、抗告人が本件審
判の請求を高松地方裁判所に対して申し立てたのは不適当であつて本件については
松山地方裁判所が管轄権を有する。そして松山地方検察庁が本件告発事件について
不起訴の処分をなしたのは昭和23年10月6日であつてその日から起算して本件
の審判の請求はすでにその請求権の消滅後になされたことが明白であるという理由
によつて抗告人の審判の請求を棄却する旨の決定をなし、その決定の謄本は昭和2
4年9月21日送達せられて抗告人はその決定の告知を受けた。
 しかしながら本件告発事件について(一)高松高等検察庁検察官Hがなした松山
地方検察庁検察官の不起訴処分に対する抗告人の抗告を棄却する旨の決定は最初に
松山地方検察庁検察官がなした不起訴の処分とは別箇の不起訴処分であつて、かよ
うな処分が刑事訴訟法第262条第1項にいわゆる刑法第193条乃至第196条
の罪について告訴又は告発をなした事件について検察官の公訴を提起しない処分に
該当しないという理由はなく、当然それに包含せられるべきものである。従つてそ
の処分に対し抗告人は刑事訴訟法第262条第1項によつてその処分をなした検察
官Hの所属する高松高等検察庁の所在地を管轄する高松地方裁判所に対し本件告発
事件を審判に付することを請求することができるものである。更に(二)抗告人の
本件審判の請求は高松地方裁判所に対してなされたものであるから同地方裁判所が
その当否を審判する管轄権を有するものであつて抗告人から審判の請求を受けない
松山地方裁判所はこれを審理する管轄権を有しないものである。よつて松山地方裁
判所のなした原決定を取り消し、本件を適法な管轄権を有する高松地方裁判所に移
送する旨の決定を求めるため本件抗告に及んだというにある。
 よつて考案すると、
 本件記録によれば、抗告人が涜職罪被疑者として愛媛県警察部長A等を松山地方
検察庁に告発したところ同検察庁検察官がその被告発人等すべてを不起訴処分に付
したので抗告人はそれを不服として高松高等検察庁に抗告状を差し出したところ同
庁検察官Hは抗告棄却の検察処分をした。そこで抗告人は右告発事件について刑事
訴訟法第262条第1項の規定によつて裁判所の審判に付することを請求する権利
があるとしてその請求書を、右H検察官所属の高松高等検察庁の所在地を管轄する
高松地方裁判所にあてて、右H検察官に差し出したものであることが明らかであ
る。ところで新刑事訴訟法は旧刑事訴訟法において採用していた検察官の起訴独占
主義に対する一つの重大な例外を認めた。それは刑事訴訟法第262条以下に規定
するいわゆる準起訴手続の制度であつてその手続においては、旧刑事訴訟法上公訴
は常に検事のみが行いその例外を認められなかつたのに対し、公務員のいわゆる涜
職罪(刑法第193条乃至第196条)の告訴告発事件については検察官のなした
不起訴処分に対し当該事件の告訴、告発人はその検察官所属の検察庁の所在地を管
轄する地方裁判所に対し事件を裁判所の審判に付することを請求する権利を与えら
れ、その請求を受けた裁判所が請求を理由がありとして事件を管轄地方裁判所の審
判に付する決定をしたときはその事件については公訴の提起があつたものとみなさ
れるのであり、更に進んでその事件の審判においては裁判所はその事件について公
訴の維持にあたる弁護士を指定し、その指定を受けた弁護士が事件について公訴を
維持するため裁判の確定に至るまで検察官の職務を行うこととされている。すなわ
ちそれは、ある場合には検察官の関与なくして、いや更にその意に反しても事件が
起訴、審判されることがあるのを認めるものであつてその手続においては検察官
は、公訴権の主体乃至は公訴の維持にあたる原告官としての地位から全面的に排除
されることとなつているのである。この制度はいうまでもなく、いわゆる公務員の
涜職事件について公訴権の独占に伴う弊害の発生を防止してその公正な運用を期
し、ひいては日本国憲法の要請する基本的人権の尊重に奉仕させることをその立法
の趣旨、目的とするものであるが、刑事訴訟法の諸規定は右に述べたこの制度の基
本的構造から見れば、裁判所に対し審判の請求がなされた事件についてはできうる
限り検察官のその事件に対する関与を排斥することによりこの制度の立法の趣旨、
目的を実現しようとしているものであるといえよう。果してしからば刑事訴訟法第
258条は、検察官は事件がその所属検察庁の対応する裁判所の管轄に属しないも
のと思料するときは、書類及び証拠物とともにその事件を管轄裁判所に対応する検
察官に送致すべき旨を規定しているが、この規定により検察官が管轄裁判所を自ら
判断してその裁判所に対応する検察官に事件を送致できるのは検察官自らが公訴権
の主体としての地位にあり、その自らの責任において公訴権を運用する場合のこと
であつて、さような場合ではないことが前記のところから明らかである、いわゆる
準起訴手続においても右規定が検察官に対して、請求権者の申立の如何を問わずに
自ら管轄権を有する裁判所を判断しその裁判所に審判の請求書を送付する権限を与
えたものと解することは困難である。なお又この準起訴手続において検察官のなし
た不起訴の処分に対し裁判所の審判に付する請求をなすには、請求書を、不起訴処
分をなした検察官に差し出し、その検察官を経由して裁判所に申し立つべき旨を刑
事訴訟法第262条第2項が規定しているのであるが、かように検察官を経由して
裁判所に申立をなさしめるこの規定の趣旨は単に事件について検察処分をなした当
該検察官をして再度の考案をなす機会を与え、是正すべき処分については自らその
措置を講ぜしめて訴訟経済をはかるという目的のため設けられたものにすぎない。
それは同法第264条が検察官は右の請求を理由があるものと認めるときは改めて
公訴を提起すべきものと規定し、又刑事訴訟規則第171条が検察官はその請求が
理由がないものと認めるときは同条所定の期間内に意見書を添えて請求書を書類及
び証拠物とともに刑事訴訟法第262条所定の裁判所に送付すべき旨規定している
ことに徴し明らかである。従つて右検察官経由の規定も右に述べたその趣旨、目的
の範囲を超えて検察官に対し、請求を受けるべき管轄裁判所がいずれの裁判所であ
るかを審査し、その自らの判断に従つて自ら管轄権があると考える裁判所に請求書
を送付する権限を与えたものと解すべきではないこと勿論のことである。準起訴手
続において審判の請求権者が数箇の刑事訴訟法第262条第1項にいわゆる検察官
が公訴を提起しない処分があると考えるとき(例えば本件において松山地方検察庁
の検察官がなした不起訴の検察処分と高松高等検察庁の検察官がなした抗告人の抗
告棄却の決定という検察処分)そのいずれの検察処分につきいずれの裁判所に対し
審判の請求をするかは、刑事訴訟法のこの手続に関する前記の基本的構造からすれ
ば、請求権者自らがその責任において決定しうるし、又決定すべきことがらである
といわねばならない。そして請求権者の主張するある検察処分(本件においては高
松高等検察庁のH検察官がなした抗告人の抗告棄却の決定)が果して刑事訴訟法第
262条第1項にいわゆる公訴を提起しない処分に該当するかどうかはもとより審
判の請求につき管轄権を有する地方裁判所の判断すべきことがらである。そこで結
局刑事訴訟法第262条第2項により裁判所に対する審判の請求書を受け取つた検
察官としては、いずれの検察処分につきその請求がなされるべきかは勿論のこと、
いずれの裁判所がその請求につき管轄権を有すべきかの自らの判断の如何にかゝわ
らず、請求が理由がないものと考へるときは請求者の申し立てた地方裁判所と同法
同条第1項所定の地方裁判所が形式上一致する限り請求者の申し立てた当該地方裁
判所にその請求書を送付すべきものであるといわねばならない。しかして本件にお
いてこれをみれば抗告人は高松地方裁判所にあててその請求書を差し出したのであ
るから、それを受け取つた検察官としては当然それを同地方裁判所に送付すべきも
のであつた。しかるにこのことなくして抗告人の右請求書を受け取つた前記H検察
官は自ら、抗告人の請求は松山地方裁判所に申し立てらるべきものであるとしてそ
の請求書を同地方検察庁に転送し、同検察庁は同地方裁判所に送付し、同地方裁判
所において抗告人主張のような理由によつて抗告人の請求を棄却したのが記録にあ
らわれた本件の経緯である。ところで抗告人は右H検察官のなした前記抗告棄却の
決定という検察処分が刑事訴訟法第262条第1項にいわゆる検察官の公訴を提起
しない処分に該当すると主張しその処分を不服として本件審判の請求をしたもので
あることは、その請求書からして十分にこれを認めることができることである。そ
して抗告人の主張がその趣旨である以上は、右検察処分がいわゆる公訴を提起しな
い処分に該当するかどうかは審判の請求を受けた地方裁判所が先ず判断すべきこと
がらであつて当裁判所としてはここで判断すべきことがらではないからその判断は
しないが刑事訴訟法第262条第1項の規定に徴し抗告人の本件審判の請求につい
て管轄権を有する地方裁判所はその処分をなしたH検察官所属の高松高等検察庁の
所在地を管轄する高松地方裁判所であることが明らかであつて、それについて松山
地方裁判所は管轄権を有しないものといわねばならない。従つてH検察官がその権
限を超えて送付した抗告人の請求書を松山地方裁判所が受理し、抗告人の主張の趣
旨を釈明することなくしてその管轄権を認め、抗告人の請求につき審判をしたのは
不法に管轄を認めた違法があるものといわねばならない。
 そこで本件抗告はその理由があるので刑事訴訟法第426条により松山地方裁判
所のなした原決定を取消し、同法第399条の趣旨に則り本件を管轄裁判所である
高松地方裁判所に移送することとする。
 よつて主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 坂本徹章 裁判官 塩田宇三郎 裁判官 浮田茂男)

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