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平成22年2月10日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成16年(ワ)第18443号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成21年10月21日
判決
東京都渋谷区《以下省略》
原告株式会社アジア著作協会
同訴訟代理人弁護士水戸重之
同三谷英弘
同鈴木真紀
同野中信孝
同古西桜子
東京都品川区《以下省略》
被告株式会社第一興商
同訴訟代理人弁護士原秋彦
同野宮拓
同水野信次
主文
1別紙裁判所楽曲目録−作詞(却下),−作曲(却下)各記載の楽曲の著作
権侵害に基づく損害賠償請求に係る原告の訴えを却下する。
2被告は,原告に対し,2300万5495円及びこれに対する平成16年
9月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告のその余の請求を棄却する。
4訴訟費用はこれを50分し,その49を原告の,その余を被告の各負担と
する。
5この判決は,2項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求及び答弁
1請求
(1)被告は,原告に対し,9億7578万6000円及びこれに対する平成
16年9月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)仮執行宣言
(なお,1項の請求に関して,原告は,平成20年5月16日の本件第28回
弁論準備手続期日で陳述された同日付け準備書面(5),平成21年9月16日
の本件第4回口頭弁論期日で陳述された同日付け原告準備書面(13),同年10
月21日の本件第5回口頭弁論期日で陳述された同月13日付け原告準備書面
(14)において,損害額の主張を整理,訂正し,いずれの準備書面においても損
害額は9億1080万1232円である旨主張している。)
2答弁
(1)本案前の答弁
原告の訴えを却下する。
(2)請求の趣旨に対する答弁
原告の請求を棄却する。
仮執行宣言が付される場合には,担保を条件とする仮執行免脱宣言
第2事案の概要
1本件は,著作権等管理事業者であり,韓国の楽曲について著作権の信託譲渡
を受けたと主張する原告が,いわゆる通信カラオケ事業者である被告に対し,
著作権(複製権,公衆送信権)侵害に基づく損害賠償請求(民法709条,著
作権法114条3項)又は不当利得返還請求(民法703条)として,9億7
578万6000円(ただし,第1,1のとおり,請求を整理した後の損害額
の主張は,9億1080万1232円である。)及びこれに対する本訴状送達
日の翌日である平成16年9月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を求める事案である。
2争いのない事実等(争いのない事実以外は,証拠を項目の末尾に記載す
る。)
(1)当事者等(甲1,乙7の1)
ア原告は,平成14年4月15日に設立され,音楽著作物の著作権に関す
る著作権使用料の徴収及び管理等を目的とする株式会社であり,著作権等
管理事業法に基づき,同年6月28日付けで文化庁長官の登録を受けた著
作権等管理事業者である。なお,原告は,登録時は,商号が「株式会社韓
日著作協会」であったが,平成15年4月15日付けで現商号に変更した。
イ被告は,音響機器のリース及び販売等を目的とする株式会社であり,カ
ラオケ用楽曲データ(歌詞データを含む。以下「楽曲データ」という。)
を,著作権者から複製又は公衆送信の許諾を得て作成し,自らの製造に係
る業務用通信カラオケ装置(以下「カラオケ端末機」という。)のハード
ディスクに搭載する等した上,通信カラオケリース業者に対してカラオケ
端末機の販売等を行ういわゆる通信カラオケ業者である。
ウ訴外株式会社ザ・ミュージックアジア(以下「TMA」という。)は,
平成13年3月26日に韓国法に基づき設立された,韓国ソウル市を本店
所在地とし,著作権信託管理等を目的とする株式会社である。TMAは,
本件訴訟係属後である平成18年10月4日,臨時株主総会決議において
解散の決議がされ,平成19年3月28日,清算結了による閉鎖登記がさ
れた。
(2)請求対象楽曲・不知楽曲
ア原告作成の別紙7作詞・作曲管理リスト,同8作詞管理リスト及び同9
作曲管理リスト(以下「原告楽曲リスト」といい,各リストは,その番号
により,「原告楽曲リスト7」などと表記する。)各記載の楽曲は,原告
が,各リストの「(請求対象期間中の)管理期間」(なお,「請求対象期
間」とは,平成14年6月28日から平成16年7月末日までの期間をい
う。)欄各記載の期間において,原告にその著作権が帰属していたと主張
する楽曲(以下「請求対象楽曲」という。)である。
イ請求対象楽曲のうち,被告作成の別紙楽曲目録11(不知楽曲)(以下,
被告作成の別紙楽曲目録1∼3,5∼8,13及び14とともに「被告楽
曲目録」といい,各目録は,その番号により「被告楽曲目録1」などと表
記する。)記載の楽曲は,被告が,原告への著作権の帰属について「不
知」と認否する楽曲であり,別紙裁判所楽曲目録−作詞,同−作曲(以下
「裁判所楽曲目録」という。)記載の各楽曲のうち,「権利者管理番号」
欄を緑色で示す楽曲がこれに対応している(なお,被告は,弁論準備手続
終結後である平成21年9月16日の本件第4回口頭弁論期日で陳述され
た同日付け被告準備書面(12)において,同目録11の各楽曲は,原告が証
拠を提出しなかったから,原告の著作権管理権限は認められない旨を主張
するが,被告は,従前の弁論準備手続においては「不知」と認否して,特
に争う理由を明らかにしてこなかったものであり,また,原告は,原告楽
曲リスト7∼9及び上記裁判所楽曲目録各記載のとおり,被告楽曲目録1
1記載の各楽曲について,対応する契約書等の書証を提出したり,書証の
成立の真正について当事者間に争いがないものとして整理する等して,立
証活動を行っており,被告もこの点に関して特段の反論をしていなかった
ものであるから,被告の上記主張を採用することはできない。)。
(3)作詞家・作曲家等の著作権の信託等
ア原告は,請求対象楽曲に対する韓国の作詞家,作曲家,音楽出版社等の
著作者(以下「原権利者」という。)の著作権について,(ア)原権利者と
TMA間の著作権譲渡契約(以下「原権利者・TMA契約」という。)に
より,TMAに対して,又は,(イ)原権利者と原告間の著作権信託譲渡契
約(以下「直接契約」という。)により,原告に対して,いずれも上記著
作権を譲渡ないし信託譲渡したと主張する。
イ原告は,上記各契約に対応する書証を整理し,原告楽曲リスト7∼9の
「契約書」欄及び「確認書」欄各記載の契約書及び確認書A∼Cを提出す
る。このうち,同欄に「*」が記載された請求対象楽曲は,当該書証の成
立について当事者間に争いがないものである。また,被告は,別紙被告確
認書目録A∼C記載のとおり,各確認書の成立について認否するとともに,
否認する理由を整理している。
ウ確認書A∼Cの記載内容は,概ね次のとおりである(なお,提出されて
いる確認書には,成立に争いがあるものがある。)。
(ア)確認書A(甲79の1∼131)は,原権利者が,原権利者・TM
A契約の対象となる楽曲を明確にする目的で作成されたものであり,原
権利者が,添付された楽曲リストの楽曲について,TMAに著作権を譲
渡していたことを確認している。
(イ)確認書B(甲75,甲80の1∼44,甲86の1∼44)は,原
権利者・TMA契約を締結していた原権利者が,TMAに対して,自己
の楽曲の著作権を譲渡していること,TMAの解散後は,既に発生し徴
収分配が未了の著作権使用料は,原告から直接分配を受けることを希望
すること(なお,甲80の9は,原権利者作家1が,TMAとの契約を
解約し,原告と直接契約を締結したこと),原告が,信託受託者として,
徴収分配等の管理を行うために訴訟を提起し,訴訟当事者として訴訟を
続行する権限を有することを,それぞれ確認している。
(ウ)確認書Cは,原権利者・TMA契約を締結していた原権利者が,T
MAに対して,自己の楽曲の著作権を包括的に信託譲渡していること
(甲81の1∼11),又は,直接契約を締結している原権利者が,原
告に対して,著作権を信託譲渡していること(甲81の41∼45)を,
それぞれ確認している。
(4)TMAと原告間の著作権信託契約(甲67,68,乙24)
アTMAと原告は,平成14年10月17日及び平成15年9月18日,
TMAが,原告に対し,現に所有する著作権及び将来取得する著作権を信
託財産として譲渡し,原告は,これを管理する旨の著作権信託契約(以下
「TMA・原告契約」という。)を締結した。
イ平成15年9月18日付けTMA・原告契約(乙24)は,TMAから
の契約の解除について,「TMAは,信託期間内においても書面をもって
原告に通知することにより本契約を解除することができる。この場合,本
契約は,通知の到達の日から6か月を経過した後最初に到来する3月31
日をもって終了する。」(19条1項)と定めている。
(5)TMA・原告契約の解除(乙7の2,乙24)
アTMAは,原告に対し,平成18年7月14日付け書面により,平成1
5年9月18日付けTMA・原告契約(乙24)19条に基づき,同契約
を解除する旨の意思表示をした(ただし,解除の効力については争いがあ
る。)。
イ平成19年3月31日が経過した。
(6)TMAの解散(乙7の1)
前記(1)ウのとおり,TMAは,本件訴訟係属後である平成18年10月
4日,臨時株主総会決議において解散の決議がされ,平成19年3月28日,
清算結了による閉鎖登記がされた。
(7)被告の行為
ア被告は,カラオケ施設又は社交飲食店等の事業所(以下「通信カラオケ
事業所」といい,その事業所を営む者を「通信カラオケ事業者」とい
う。)において,当該事業所の客に,通信カラオケとして楽曲を歌唱させ
ることを可能にするために,楽曲データを記録するためのハードディスク
内蔵のカラオケ端末機に,楽曲データを大量に記録し,当該カラオケ端末
機をカラオケリース業者に販売し,又はリースする等している。
イ被告は,通信カラオケ事業所の客が新たに発売された楽曲(新譜)を歌
唱することを可能にするために,新譜に関する楽曲データを被告の管理す
るセンターサーバに記録し,同サーバから各事業所に設置されているカラ
オケ端末機においてダウンロード可能な状態にした上,実際,カラオケ端
末機にダウンロードさせている。
ウ被告は,前記ア及びイにより,楽曲データをカラオケ端末機のハードデ
ィスクに記録することにより楽曲を複製し,かつ,新譜の楽曲データをカ
ラオケ端末機のハードディスクに蓄積させるために,楽曲を公衆送信する
行為(送信可能にする行為を含む。)を行っている。
(8)使用料規程の内容等(甲69,乙40)
ア原告の使用料規程
原告の定める業務用通信カラオケに関する使用料規程(以下「原告規
程」という。)は,次のとおりである。
(ア)業務用通信カラオケに著作物を利用する場合の使用料は,次の(イ)
と(ウ)の合計額に消費税額を加算した額とする。
(イ)基本使用料
基本使用料は,著作物の数によって1か月ごとに定めるものとし,次
のとおりとする。
著作物の数1000曲まで,月額基本使用料10万円
著作物の数2000曲まで,月額基本使用料20万円
(以下略)
(ウ)利用単位使用料
利用単位使用料は,端末機器1台につき1か月ごとに定めるものとし,
次のとおりとする。
端末機器の数1台∼5000台,1台当たり月間使用料500円
(略)
端末機器の数14万1台∼15万台,1台当たり月間使用料210円
端末機器の数15万1台以上,1台当たり月間使用料200円
イ社団法人日本音楽著作権協会(以下「JASRAC」という。)の使用
料規程
JASRACの定める業務用通信カラオケに関する使用料規程(以下
「JASRAC規程」という。)は,次のとおりである。
(ア)業務用通信カラオケに著作物を利用する場合の使用料は,次の(イ)
と(ウ)の合計額に消費税を加算した額とする。
(イ)基本使用料
①基本使用料に関する包括的利用許諾契約を結ぶ場合
業務用通信カラオケ事業者が設定しているアクセスコード数によっ
て1か月ごとに定めるものとし,月額使用料は,次のとおりとする。
なお,アクセスコード数とは,業務用通信カラオケにおいてそのリク
エストのために1楽曲データごとに付与されている楽曲コードの総数
をいい,使用料の算出に当たっては,当該コード数に97/100を
乗じた数とする。
アクセスコード数500コードまで,月額使用料5万円
(略)
アクセスコード数2万コードまで,月額使用料260万円
アクセスコード数2万コードを超える場合,2000コードまでを
増すごとに加算する額20万円
②①によらない場合
通信カラオケ事業者が利用できる状態に置かれている著作物の数に
よって1か月ごとに定めるものとし,月額使用料は,再生されるべき
時間が5分までの著作物1曲につき200円とする。
(ウ)利用単位使用料
①利用単位使用料に関する包括的利用許諾契約を結ぶ場合
サーバー,端末機械等(以下「受信装置」という。)1台につき1
か月ごとに定めるものとし,月額使用料は,情報料を課すべき受信装
置1台当たりの月間の情報料の10/100の額又は950円のいず
れか多い額とする。ただし,情報料の14/100の額が950円を
下回る場合は,その額又は650円のいずれか多い額とする。なお,
「情報料」とは,業務用通信カラオケを利用するに当たり,受信先に
おいて通常支払うことが必要とされる,受信等に伴う対価(消費税を
含まない。)をいう。情報料が不明の場合は,業務用通信カラオケ事
業者が得る受信装置1台当たりの情報料収入に170/100を乗じ
た額を情報料とすることができる。
②①によらない場合
業務用通信カラオケ事業者が,通信カラオケ事業所に設置された受
信装置へのアクセスコードの入力に応じ,演奏に供する著作物を1曲
1回提供する(公衆送信であるか複製物によるかを問わない。)ごと
に定めるものとし,その使用料は,再生されるべき時間が5分までの
著作物1曲につき40円とする。
(エ)備考
①(イ)①及び(ウ)①の規程を適用する場合において,月間の利用単位
使用料の総額の25/100の額が月額基本使用料を下回る場合の月
額基本使用料は,アクセスコード数にかかわらず,その利用単位使用
料の総額の25/100の額とする。月額基本使用料と月間の利用単
位使用料の総額の合算額が5万円を下回るときは,5万円を当該月の
使用料とする。
②(イ)②又は(ウ)②の規程を適用する場合において,次のいずれかに
該当するときは,それぞれ次のとおりとする。
a再生されるべき時間が5分を超える場合は,5分までを超えるご
とに5分までの使用料に(イ)②の規程の場合は200円を,(ウ)②
の規程の場合は40円を,それぞれ加算する。
b歌曲において,楽曲に著作権がない場合又は著作権が本協会の管
理外の場合は,1曲の使用料の6/12とする。歌曲において,歌
詞の著作権が本協会の管理外の場合は,1曲の使用料の6/12と
する。
③著作物の利用形態など特別の事情により本料率により難い場合の使
用料は,本料率の範囲内で,利用者と協議の上定めることができる。
(9)原告と社団法人音楽電子事業協会(以下「AMEI」という。)との交
渉の経緯(甲8,32,33,69,113,乙3,32,34,37(枝
番を含む。),証人丙,同丁)
ア前記(1)アのとおり,原告は,平成14年4月15日設立され,同年6
月28日付けで,著作権管理事業法に基づく著作権等管理事業者として,
文化庁長官の登録を受けた。
イ原告は,平成14年7月ころ,文化庁から,原告規程について,利用者
又はその団体の意見を聴取するようにとの指導を受けた。
ウ原告の事務局長丙(以下「丙」という。)は,平成14年8月1日,利
用者団体であるAMEIを訪問し,原告規程等を交付した上,質問及び意
見があれば,1週間を目途に連絡をもらいたい旨要請した。
エAMEIの著作権・ソフト委員会カラオケ部会長丁(以下「丁」とい
う。)は,原告に対し,平成14年8月8日付け書面(乙3)により,期
間をおいた上で,団体としての意見を述べたい旨等を伝えた。
オ原告は,平成14年8月9日,文化庁長官に対し,著作権等管理事業法
13条1項に基づき,原告規程(甲69)の届出をした。
カ原告は,平成15年5月28日ころ以降,AMEIの会員に対して書面
を送付し,使用料等の打合せをするよう申し入れた。
キ原告とAMEIは,平成15年7月9日,AMEIにおいて,1回目の
協議をした。
ク原告とAMEIは,平成15年11月28日,原告において,2回目の
協議をした。
ケ原告は,AMEIに対し,平成16年1月15日付けメール(甲32)
により,今後のAMEIとの協議を取り止める旨を通知した。
コ原告は,被告に対し,平成16年5月20日付け書面(甲33)により,
これまでの著作物の使用に関し,使用料相当額を支払うこと,今後,原告
との間で著作物の使用に関する契約を締結すること等を請求した。
サ原告は,当裁判所に対し,平成16年8月31日,本件訴訟を提起した。
(10)本件訴訟提起後の経緯(証人作家2)
アTMAは,原権利者・TMA契約を締結した当初は,原権利者に連絡す
ることもあったが,年月の経過とともに,連絡する機会は減少した。
イ前記(5)のとおり,TMAは,平成18年7月,原告に対して,TMA
・原告契約19条に基づき,同契約を解除する旨の意思表示をし,平成1
9年3月31日が経過した。また,前記(6)のとおり,TMAは,平成1
8年10月に解散の決議をし,平成19年3月28日に清算結了の登記を
した。
ウTMAの元従業員の作家2によると,平成21年7月時点において,原
権利者のうち,約半数の者については,TMAとして連絡を取ることが容
易でない状況にある。
3争点
(1)本案前の主張
(2)著作権の帰属
(2)−1請求対象楽曲の著作権
(2)−2被告楽曲目録1(JASRAC管理楽曲)の請求対象楽曲
(2)−3被告楽曲目録2(根拠書類不存在楽曲)の請求対象楽曲
(2)−4被告楽曲目録3(契約期間満了楽曲)の請求対象楽曲
(2)−5被告楽曲目録5(楽曲リスト不存在楽曲)の請求対象楽曲
(2)−6被告楽曲目録6(原権利者との権利連鎖不存在楽曲)の請求対象
楽曲
(2)−7被告楽曲目録7(TMA関連楽曲)の請求対象楽曲
(2)−8被告楽曲目録8(TMA関連楽曲−韓国業法違反分)の請求対象
楽曲
(2)−9被告楽曲目録13(書証の成立を否認することに伴う否認)の請
求対象楽曲
(2)−10被告楽曲目録14(取り下げられるべき請求)の請求対象楽曲
(3)故意・過失
(4)損害論
(4)−1損害
(4)−2過失相殺
(5)その他の主張(権利濫用・禁反言)
(6)不当利得返還請求(予備的請求)
4争点に対する当事者の主張
(1)本案前の答弁
(被告)
原告は,請求対象楽曲の著作権を有していないから,著作権侵害を理由と
する損害賠償請求訴訟の原告適格を欠く。
(原告)
被告の主張は争う。原告は,請求対象楽曲の著作権を有している。
(2)著作権の帰属
(2)−1請求対象楽曲の著作権
(原告)
ア原告は,請求対象期間中の原告楽曲リスト7∼9記載の各管理期間にお
いて,原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約,又は,直接契約によ
り,請求対象楽曲に対する原権利者の著作権の信託譲渡を受けている。
イ原権利者・TMA契約の法的性質については,契約書の表題(著作権譲
渡契約書)及び約定の記載(音楽著作権を乙に独占的に譲渡する。3条),
並びに,韓国では,許可を受けた管理事業者は韓国音楽著作権協会(以下
「KOMCA」という。)のみであり,それ以外の団体は,業として楽曲
著作権の「信託譲渡」を受けることができないため,音楽出版社は,原権
利者から楽曲の著作権を権利譲渡の形式で譲り受けた上で,管理事業者に
信託譲渡する形式を一般的に採用していることからすると,(期限付き)
著作権譲渡と解される。
(被告)
ア原告の主張する事実は,後記(2)−2以下の請求対象楽曲の範囲におい
て,否認ないし争う。
イ原権利者・TMA契約の法的性質については,対象作品に係る著作権の
譲渡(契約書3条)の目的が,対象作品の利用促進,完全なる権利・救済
及び管理のためとされ(同1条),契約期間も定められている(同5条)
ことからすると,権利の管理運用目的で,期間を定めた上でされた譲渡で
あり,信託譲渡と解される。
(2)−2被告楽曲目録1(JASRAC管理楽曲)の請求対象楽曲
(原告)
ア原告は,被告楽曲目録1の請求対象楽曲について,著作権を有している。
イ被告の主張に対する反論
(ア)JASRAC管理楽曲
被告楽曲目録1の各楽曲については,JASRACが原権利者から
「業務用通信カラオケの支分権」について信託の受託をしていることを
基礎付ける根拠がない。
①JASRAC作成の「管理楽曲確認書」と題する書面(乙4)は,
管理楽曲の支分権について言及がなく,いずれの支分権の管理を行っ
ているのか不明である。
②同書面は,作成時である平成19年7月6日時点でJASRACが
何らかの権利を管理していることを表明した資料にすぎない。
③JASRAC作成の書面(乙54の2)では,音楽出版社から甲1
14のうちの9曲の信託を受けて管理していたとされるが,原権利者
が管理に供したことの根拠とはならない。
④JASRACのJ−WID表示において,業務用通信カラオケの支
分権管理状況に関する欄に「#」記号(当該支分権・利用形態につい
ては,管理を委託していないことを意味する。)が記載されている楽
曲は,JASRACの管理下にはない。
⑤平成19年4月17日付けで被告が受領したJ−WIDデータには,
全楽曲に「出展PO」,「出版PJ」の表示(サブ出版社又は出版社
がその旨の届出を行ったことを示す。)があるから,原権利者本人が
管理に供したことの根拠とはならない。
⑥被告は,原権利者に対する使用料分配を基礎付ける証拠を提出して
いない。
(イ)対抗要件欠缺
①準拠法
直接契約は,準拠法が日本法であるが,原権利者・TMA契約は,
準拠法を韓国法と定めている(19条,乙15の1,2)。
②正当な利益
被告楽曲目録1の楽曲について,JASRACは無権利者であるか
ら,JASRACからその使用許諾を受けているとする被告も無権利
者であり,「登録が存在しないことを主張するについて正当な利益を
有する第三者」(大審院昭和7年5月27日判決・民集11巻11号
1069頁参照)には該当しない。JASRACの管理委託権限を証
明するためには,JASRACと出版社及び出版社と原権利者間の契
約関係を立証する必要がある。
③登録制度
著作権の登録制度は,現実の利用者が少なく,制度として機能して
いないから,被告の対抗要件欠缺の主張は,条理に反する。
ウ乙64∼66
乙64∼66(いずれも分配明細書)の証拠申出は,時機に後れた攻撃
防御方法(民訴法157条)として却下されるべきである。
(ア)被告は,弁論準備手続終結後,かつ,証拠調べ終了後である平成2
1年9月16日の本件第4回口頭弁論期日において,上記証拠を提出し
ようとしており,提出時期からして時機に後れた攻撃防御方法である。
(イ)上記証拠は,原権利者3名がJASRACから使用料の支払を受け
たか否かに関する証拠であり,これが提出されると,新たな主張立証が
必要となるから,訴訟の完結を遅延させるものである。
(ウ)上記証拠は,内容が不明確な上,被告の立証趣旨との関連性も乏し
いから,本来的に証拠価値を欠いており,その提出は,訴訟の混乱と不
当な引き延ばしの意図に基づくものである。したがって,被告には,故
意又は少なくとも重過失が認められる。
(被告)
ア原告の主張は,否認する。
イJASRAC管理楽曲
請求対象楽曲のうち,被告楽曲目録1の各楽曲は,JASRACの管理
楽曲である。原権利者は,JASRACを介して本件著作物の使用料の分
配を受けており,原告に対して,重ねて著作権を信託譲渡等する理由はな
い。
(ア)JASRAC作成の「管理楽曲確認書」と題する書面(乙4)は,
被告の確認依頼(乙25)に基づき,平成19年7月6日付けでJAS
RACが業務用通信カラオケの支分権を管理する楽曲を証明したもので
ある。元々,JASRACは唯一の仲介人であり,著作権等管理事業法
施行後も,当初は,著作権等管理事業者は他に原告しか存在せず,楽曲
を他からJASRAC管理に切り替えることは想定できなかったから,
特段の事情のない限り,以前からJASRAC管理であったと推認でき
る。
(イ)原告請求対象期間後の原告の具体的な請求時に近接する時点におい
て,請求対象楽曲がJASRAC管理楽曲に含まれているのであれば,
既往の使用料を請求する信託受託者としての原告の権限は,消滅してい
る。
(ウ)JASRACの書面(乙54の2)によると,JASRACは,甲
114の楽曲のうち,作家51(甲114の15)を除き,通信カラオ
ケに関する支分権を音楽出版社から信託を受託している。
(エ)J−WIDの「#」表示は,原権利者との直接的管理委託契約の有
無を示すにすぎず,JASRACが著作権を管理しないことを意味しな
い。
(オ)J−WIDの「出典PJ」,「出典PO」と表示された楽曲は,J
ASRACが委託者に対し,当該著作物について,他人の著作権を侵害
していないことの保証義務を課し,必要に応じて資料を提出させ確認す
ること等により,管理権限を担保している。
(カ)JASRACが使用料を分配していないことについては,その立証
がない。また,分配がないとしても,そのことと,JASRACの管理
権限の有無とは関連性がない。
ウ対抗要件欠缺
仮に,請求対象楽曲の著作権が二重譲渡されているとしても,被告は,
原告が当該著作権の移転について対抗要件を備えない限りは,原告の著作
権を認めない(なお,請求対象期間後における原告の具体的な請求時に近
接する時点で,請求対象楽曲がJASRAC管理楽曲に含まれているから,
請求対象期間中に二重譲渡が生じていたことが十分にうかがわれる。),
(ア)準拠法
一般に,物権及び知的財産権の内容,効力,得喪の要件等は,当該物
権又は知的財産権の所在地の法令を準拠法とすべきものとされている。
法の適用に関する通則法13条は,物権に関して,その趣旨に基づくも
のであるが,その理由は,物権が物の直接的利用に関する権利であり,
第三者に対する排他的効力を有することから,そのような権利関係につ
いては,目的物の所在地の法令を適用することが最も自然であり,権利
の目的の達成及び第三者の利益保護という要請に最も適合することにあ
ると解される。著作権は,その権利の内容及び効力がこれを保護する国
(以下「保護国」という)の法令によって定められ,また,著作物の利
用について第三者に対する排他的効力を有するから,物権の得喪につい
て,所在地法が適用されるのと同様の理由により,著作権という物権類
似の権利の支配関係の変動については,保護国の法令が準拠法となるも
のと解される。
なお,準拠法を韓国法とする原権利者・TMA契約19条は,譲渡の
原因関係である契約等の債権行為に適用があるにすぎない。
(イ)正当な利益
著作権法は,著作権の移転は登録しなければ第三者に対抗できないと
し(77条1号),第三者とは,登録が存在しないことを主張するにつ
いて正当な利益を有する第三者に限られるが,二重譲渡だけでなく,著
作物の利用許諾を受けた者も含まれる。
被告楽曲目録1の請求対象楽曲は,JASRACの管理楽曲であると
ころ,被告は,当該楽曲について,JASRACと業務用通信カラオケ
による管理著作物利用に関する合意書(乙26)を締結し,その使用許
諾を受けているから,被告は,当該楽曲の著作権の原告への移転に関す
る登録の有無について,法律上の利害関係を有する第三者である。
(ウ)対抗要件の欠如
原告が被告に使用料を請求するためには,請求対象楽曲について,原
権利者から原告への著作権の移転に関する登録(著作権法77条1号)
を必要とするから,被告は,原告が当該著作権譲渡について対抗要件を
備えない限りは,原告の著作権管理権限を認めない。
エ債権の準占有者に対する弁済
被告は,著作権等管理事業法施行後も,JASRACと音楽著作物利用
許諾契約を締結して使用料を支払さえすれば,ほとんどすべての楽曲を利
用することができるというJASRACの音楽著作権管理の実績に係る信
頼に基づき,被告楽曲目録1の請求対象楽曲についても,JASRACと
の契約に基づき,正当に利用許諾を得たと信じて使用料を支払い続けたの
であるから,何らの過失はない。したがって,民法478条又は同条の類
推適用により,有効な支払として認められるべきである。
オ乙64∼66
原告の主張は争う。
(ア)上記証拠は,証人の証言に対する弾劾証拠であり,時機に後れて提
出したとはいえない。
(イ)上記証拠は,被告がJASRACに調査を依頼し,平成21年7月
上旬に入手したものであり,弾劾証拠として準備したこと等からしても,
被告には故意重過失はない。
(ウ)原告は,更なる反証は予定していないから,上記証拠が提出されて
も,訴訟の完結を遅延しない。
(2)−3被告楽曲目録2(根拠書類不存在楽曲)の請求対象楽曲
(原告)
ア原告は,被告楽曲目録2の請求対象楽曲について,著作権を有している。
イ被告の主張に対する反論
(ア)1つの楽曲の作詞と作曲は,それぞれ独立の著作物であるため,単
に作詞と作曲の一方についてのみ原告が管理している共作楽曲の場合で
あっても,被告の指摘する問題に該当しない。
(イ)作詞又は作曲が複数人による共作である場合には,当該共作に係る
部分が共有著作物となるが,韓国の楽曲の共有者同士は,共有者の持分
の運用については別個独立に意思決定することが一般的であり,相互に
意思決定を阻害する意図を持つことはない。
よって,原告が作詞・作曲の一部のみを管理する楽曲であっても,当
該楽曲の著作権譲渡に関する他の共有者の包括的な同意は得られている。
(ウ)原告規程(甲5,甲69)は,包括料金制を採用しており,ある1
曲のうち,作詞家又は作曲家の一部につき原権利者から原告が管理委託
を受けていれば,当該楽曲は原告の管理楽曲とみなした上で,利用者の
「著作物数量」(利用楽曲数)を考慮して,基本使用料金を算定してい
る(JASRACの包括使用料規程においても,同様である。)。
したがって,原告の請求対象楽曲には,作詞家と作曲家全員から原告
が管理委託を受けている楽曲のみならず,そのいずれか一方から管理委
託を受けているもの,及び2名以上が共同で作詞又は作曲を行った楽曲
で1名以上の原権利者から管理委託を受けているものを含んでいる。
(被告)
ア請求対象楽曲のうち,被告楽曲目録2の各楽曲については,原告への著
作権の帰属及びそれに基づく権利行使について十分な立証がないから,原
告には著作権が帰属していない。
イ請求対象楽曲のうち,原告が作詞・作曲の一部のみを管理している共作
楽曲については,他の共有者が信託譲渡について同意していないため,当
該著作権の信託譲渡は無効であり(著作権法65条1項),原告は,何ら
権利を有していない。
(2)−4被告楽曲目録3(契約期間満了楽曲)の請求対象楽曲
(原告)
ア原告は,被告楽曲目録3の請求対象楽曲について,著作権を有している。
イ直接契約には,自動更新規定が明記されている。
ウ仮に,被告楽曲目録3の楽曲につき,契約期間が満了しているとしても,
平成18年法律109号による改正前の信託法(以下「旧信託法」とい
う。)63条は,信託が終了した場合であっても,信託受託者が帰属権利
者に対して残存する信託財産を移転するまでは,信託は存続するものと擬
制される(法定信託)と解されているから,本件においても,本件楽曲使
用料の徴収・分配が終了するまで,信託が存続し,原告は受託者としての
業務を継続できるものと解される(後記(2)−6参照)。
(被告)
ア請求対象楽曲のうち,被告楽曲目録3の各楽曲については,平成21年
9月16日時点で,原権利者・TMA契約又は直接契約の契約期間が満了
しているから,原告には著作権が帰属していない。なお,直接契約には,
更新条項(6条)があるが,①著作物使用料等の分配実績が別に定める信
託契約の期間に関する取扱基準に規定する額に満たない場合,及び②著作
権の侵害行為を行うなど本契約の継続を困難とさせる事由があった場合の
いずれにも該当しないことが条件となっており,原告は,各直接契約につ
いて,当該条件が充足されていることを主張立証していないから,各直接
契約が更新されたとみることはできない。
イ期間満了の場合,直接契約については,信託終了後の法定信託の成否の
問題となり,原権利者・TMA契約については,その法的性質が期限付き
著作権譲渡契約であったとしても,期間満了により当該著作権は原権利者
に復帰する結果,TMAは著作権を有しないことになるから,TMA・原
告契約における著作権の信託は,権利の連鎖を欠くこととなる。
ウ契約書の契約期間の満了
被告楽曲目録3では,「確認書A」又は「確認書C」が提出された楽曲
を除外しているが,上記各確認書を考慮することなく,契約書に定める契
約期間自体が満了している契約を抽出すると,原権利者・TMA契約及び
直接契約のすべてが期間満了の対象となる結果,請求対象楽曲のすべてが,
契約期間が満了していることになる。
(2)−5被告楽曲目録5(楽曲リスト不存在楽曲)の請求対象楽曲
(原告)
ア原告は,被告楽曲目録5の請求対象楽曲について,著作権を有している。
イ被告の主張に対する反論
被告楽曲目録5所定のTMA契約に基づく楽曲は,そのすべてがTMA
契約の契約対象として特定されている。
(ア)被告楽曲目録5の楽曲のうち,相当数は,確認書A(甲79の1∼
131)により,対象楽曲リストが添付,追完されている。
(イ)確認書Aのない楽曲も,原権利者の作成した「自己の創作した楽曲
の著作権をTMAに譲渡したことを認める」旨の確認書B(甲80の1
∼44)を提出しており,原権利者が,原権利者・TMA契約を締結し
た際に,請求対象楽曲の著作権を譲渡したことが明らかである。
(ウ)確認書A又は確認書Bのない原権利者についても,原権利者・TM
A契約を締結した際に,全曲の著作権を譲渡する意思を有していたこと
は自明である。原権利者・TMA契約の締結によって,TMAに自己の
楽曲を管理委託する意思を表明している原権利者が,たまたま楽曲リス
トが添付されていなかったからといって,「1曲も管理委託する意思が
なかった」と解釈するのは,原権利者の合理的意思に著しく反する。当
該原権利者は,楽曲を限定せずに自己の楽曲全部について広く管理委託
に供する意思を有していたと解するのが自然な合理的意思解釈である。
(エ)原権利者作成の「契約書」,「確認書A」ないし「確認書C」につ
いては,いずれも原権利者本人の意思に基づき作成されたことが明らか
である。
①原権利者・TMA契約の契約書(以下「原権利者・TMA契約書」
という。)の作成時には,原権利者本人が必ず署名した。原権利者の
押印のなかった書面は,後に,原権利者にメールや電話,訪問等で連
絡を取り,説明した上で,代理で押印することの承認を得ており,事
前の確認なく押印したことはなかった。
②確認書A(甲79の1∼131)の署名・押印については,当時の
TMA代表者の作家3が直接原権利者と面会して原権利者本人から自
筆の署名をもらったものと,電話又はメールによって原権利者本人の
意思を確認した上で,TMAにおいて担当者が記名し,原権利者から
預かり保管していた印鑑を押印して作成したものが存在する。しかし
ながら,原権利者に連絡せずに,TMAが独自の判断で代筆や捺印し
たケースはなく,原権利者の多くが,自己の楽曲に関する著作権をT
MAに期限付き譲渡をするに際して,TMAが原権利者に代わって当
該楽曲の管理手続を行う目的で原権利者の印鑑を用いることを許諾し
ていた。したがって,確認書Aに関しては,少なくとも「TMAに対
して楽曲の著作権を期限付きで譲渡し,管理委託に供する」という原
権利者の意思に欠けるところはない。なお,原権利者は,TMAに対
して預託している印鑑を取り戻すことはなかったから,確認書Aの作
成について,原権利者の事後的な追認も認められる。
③確認書B(甲80の1∼44)は,本訴訟係属中の平成19年4月
ないし5月ころ,原告が原権利者の自宅に直接郵送で送付し,原権利
者本人が,当該書面の内容をよく理解した上で署名押印して作成し,
原告に返送されたものであり,原権利者本人の自筆によるものである。
④確認書C(甲81の1∼11)のうち,被告が契約書と「署名の筆
跡が異なる」と主張するもので,別紙原告確認書目録Cの「確認書C
自筆/代筆」欄に「自筆」と記載されている各確認書Cになされた署
名の筆跡を見ると,いずれも確認書Bの返信用封筒に記載された署名
と明らかに同一の筆跡であったり,署名に用いているペンの違いや,
ハングルの書体の違い程度の差異しか認められないものばかりである。
⑤確認書A及び確認書Cにおいて言及されている「原契約」の日付と
「原契約」自体の日付との間に不一致が認められるものが存在するが,
その多くは,TMAが,確認書上において記載すべき原契約の締結日
として,その「初期合意」が成立した日付を誤って記載したにすぎな
いものである。
⑥その他の個々の楽曲における日付の不一致に関する事情は,原告確
認書目録A及び同目録Cの「原告の反論」欄に記載するとおりである。
⑦確認書Aの内容に記載の違いがあるのは,確認書Aの中には,aT
MA契約に係る原権利者が作成したもの(甲79の1∼131),b
TMA以外の韓国の会社であるNS企画との間で契約を締結していた
原権利者から取得した確認書(甲79の132∼153),及びc原
告と直接契約を締結した原権利者から取得した確認書(甲79の15
4)が含まれているからである。
⑧確認書Cの内容に記載の違いがあるのは,確認書Cの中には,aT
MA契約に係る原権利者が作成した確認書(甲81の1∼11),b
原告との間で直接契約を締結した,NS企画契約に係る原権利者から
取得した確認書(甲81の13∼37),及びc原告と直接契約を締
結している原権利者から取得した確認書(甲81の41及び甲81の
45)が含まれているからである。
⑨作家4(芸名作家5,権利者管理番号115),作家49(権利者
管理番号117)及び作家6(芸名作家7,権利者管理番号118)
の各確認書Cの記載が各人の契約内容と合致していないことについて,
これら3人の確認書C(甲81の7∼9)は,作家8が代理(甲82
の1∼3)して作成しているところ,作家8自身は,原告との直接契
約に基づく管理作家(権利者管理番号2060)であるため,本来T
MA契約に基づく作家であるはずの当該3人の確認書Cについても,
誤って,自己と同一の契約関係を前提とする確認書C(原告と直接契
約を締結している内容)に署名して提出してしまったものと推測され
る。作家9(権利者管理番号40)は,同人の死亡により作家10が
著作権を承継している(甲87)。
⑩TMA契約につき,契約書に添付された楽曲リストの作成日付が契
約書の締結日よりも後になっている例があるのは,契約締結後に当該
原権利者が新たな楽曲を創作したような場合に,適宜楽曲リストを更
新したという経緯によるものである。すなわち,TMAは,原権利者
の創作した楽曲が更新されるたびに新たに楽曲を追加したリストを作
成して差し替え,原権利者に対して,更新後の楽曲リストを交付して
いた。原告は,TMAから原権利者捺印後の契約書の写しを受領する
際,差替後の楽曲リストを受領したものである。このことは,日付の
先後のある契約書と楽曲リストとの間に割印がなされていないことか
らも,明らかである(甲83の21等)。
⑪確認書B(甲80の1∼44)4項における「原告が日本での著作
権使用料及び関連する一切の費用等について原告が著作権の信託受託
者として徴収及び分配等の管理を行うために,訴訟を提議し,訴訟当
事者として当該訴訟を続行する権限の有することを確認する」という
記載からも明らかなように,同確認書の4項は,原告が「信託受託者
たる地位」に基づいて訴訟を追行する権限を有することを「確認」す
るものにすぎず,訴訟行為を「委任」する内容ではない。原権利者が
TMAを通じて原告に楽曲の音楽著作権を信託した目的は,原告をし
て日本国内における楽曲使用料を徴収せしめ,その分配を受けること
であって,訴訟行為を「主タル目的」とする旧信託法11条の訴訟信
託に該当しない。
⑫TMAは,原権利者本人の意思に反して印鑑を用いるような「日常
的な冒用」行為を一切行っていない。
(被告)
ア請求対象楽曲のうち,被告楽曲目録5の各楽曲については,原権利者・
TMA契約の「契約書」に添付されるべき対象楽曲リストが添付されてお
らず,契約の対象楽曲が特定されていないから,原告には著作権が帰属し
ていない。
イ原告は,追完・追認の資料として「確認書A」及び「確認書B」を提出
するが,「確認書B」は,原契約書によりTMAに譲渡された楽曲の著作
権を特定していないから,追認を認めることはできない。また,成立を否
認する「確認書A」及び「確認書B」は,偽造されているから,追完を認
めることはできない。これらの「確認書」の提出のない契約についても,
すべての楽曲が対象となるという商慣習は立証されていない。
ウ確認書A∼Cについて,被告が成立を否認する確認書及び否認の理由は,
被告確認書目録A∼C記載のとおりである。
(2)−6被告楽曲目録6(原権利者との権利連鎖不存在楽曲)の請求対象楽

(原告)
ア原告は,被告楽曲目録6の請求対象楽曲について,著作権を有している。
イ被告の主張に対する反論
被告が主張するような契約上の地位の譲渡は存在せず,また,原権利者
とTMAの間の契約関係が終了し信託が終了しても,信託の清算が結了す
るまでは,信託関係は存続するとみなされるから,依然として既往の使用
料を徴収分配する権限は,原告に帰属する。
(ア)被告楽曲目録6の楽曲のうち,乙5に基づいて解約されたと主張さ
れる契約については,その原権利者の多くが,原契約期間内に発生した
著作権使用料及び関連する一切の費用等について,原告が著作権の信託
受託者として訴訟を提起し,訴訟当事者として当該訴訟を続行する権限
を有することを確認する旨の確認書Bを提出しているから,上記原権利
者は,「将来的な契約関係の解消」のみを意図したにすぎず,請求対象
期間中の使用料徴収,分配の信託を解消する意思を有していないもので
ある。なお,確認書Bは,いずれも原権利者本人の意思に基づいて作成
されている。
(イ)被告が「契約上の地位譲渡」により権利連鎖が切断されたと主張す
る楽曲のうち,作家11及び作家12各作成の契約上の地位譲渡契約書
(乙6)は,当該原権利者の意思に基づかずに無断で作成されたもので
ある。作家3(甲76)も,契約書が間違って作成されたという点につ
いて一貫して供述しており,変遷はない。
(ウ)IONエンターテイメントへの譲渡の主張を含めて,契約上の地位
を譲渡するにせよ,契約を解除するにせよ,それらが請求対象期間後に
なされた限り,既に発生した請求対象期間における権利関係に基づく原
告の請求に対しては,何ら影響を及ぼさない。たとえ信託の終了事由が
生じても,原告の使用料徴収・分配の権限が消失するわけではない。
(被告)
ア請求対象楽曲のうち,被告楽曲目録6の各楽曲については,原権利者に
よる原権利者・TMA契約の解除,又は,同契約におけるTMAの契約上
の地位の譲渡により,TMAが著作権を有しない結果,原告への著作権の
帰属も認められない。
すなわち,原権利者が原権利者・TMA契約を解除し(乙5の1ないし
11),又は,同契約におけるTMAの地位を株式会社シールミュージッ
クに譲渡する内容の契約上の地位の譲渡契約(乙6の1ないし4)が締結
され,あるいは,TMAが,その管理する楽曲に関する権利義務を,平成
18年9月30日ころにIONエンターテイメント株式会社に譲渡したこ
と(甲76)により,TMAは,信託財産である著作権を失ったことにな
るから,原告は,TMA管理のすべての楽曲について,その著作権を有し
ていない。
イ(ア)請求対象期間後の原告の具体的な請求時に近接する時点において,
原告への著作権の帰属を基礎付ける原権利者との契約関係が,契約解除
や契約上の地位の譲渡等により消滅している以上,原告には,既往の使
用料を請求できる権限は帰属していない。
(イ)原権利者は,解約時の書面では,「確認書B」のように将来的な契
約関係の解消のみを意図した等とは明確化していないから,解約時にそ
のような意図であったと解することはできない。
(ウ)「確認書B」によると,原権利者は,原権利者・TMA契約を解約
している。原権利者は,確認書Bにおいて,原告に「訴訟を提起し,訴
訟当事者として当該訴訟を続行する権限」があることを確認しているが,
著作権等管理事業者は,届出した管理委託契約約款によらなければ,管
理委託契約を締結してはならないこと(著作権等管理事業法11条3
項)や,信託は,訴訟行為を主たる目的とすることができないこと(旧
信託法11条)等からすると,上記確認書Bの作成時点において,原権
利者と原告間に新たな信託関係の設定を合意する趣旨のものとは解され
ず,原告が「訴訟を提起し,訴訟当事者として当該訴訟を続行する権
限」があるか否かは,信託契約の解約と受託者の権限に関する法律関係
に係る法の趣旨に委ねられる。
(2)−7被告楽曲目録7(TMA関連楽曲)の請求対象楽曲
(原告)
ア原告は,被告楽曲目録7の請求対象楽曲について,著作権を有している。
イ被告の主張に対する反論
(ア)清算結了の登記
TMAが解散し,清算結了の登記を了していることについて,韓国の
判例は「株式会社の場合,清算結了の登記が行われたとしても,依然権
利義務関係が残っていれば会社の法人格はまだ消滅しなかったものとみ
なされる」(韓国大法院1994年5月27日宣告94ダ7607判決。
以下「大法院判決」という。甲78)とし,韓国の通説も「清算結了の
登記は清算結了の事実を公示するものにすぎず,法人格を消滅させる創
設的な効力はない。それ故,清算結了の登記がなされたとしても,事実
上清算が結了していないときは,会社は依然として存続するものであり,
事実上清算が結了しない場合になされた清算結了の登記は無効であり,
抹消されなければならない」とする。
本件では,原告は,TMAに対し,多額の貸金債権を有するとともに
(甲77),TMA・原告契約に基づき楽曲の管理手数料を請求する権
利を有し(15条1項),他方で,TMAに対して,著作権管理によっ
て得た著作権使用料等を分配する義務を負っており(1条),また,T
MAは,原権利者・TMA契約に基づき各原権利者に対する使用料分配
債務を負っている(9条)から,上記大法院判決が,対世効の有無や権
利帰属に係る物的関係を射程にするか否かを論じるまでもなく,原告・
TMA間,原権利者・TMA間には多数の債権債務関係が残存しており,
TMAの法人格が消滅しないことは明らかである。したがって,TMA
が債権債務等の残余財産を清算して「事実上清算が結了」しない限り,
清算結了登記がされても,当該登記は無効になる。
(イ)TMA・原告契約の解約
TMAから原告に対する一方的な解約は有効でない。TMA・原告契
約19条(解除)は,旧信託法57条を明文化したものと解されるが,
「有償委任において委任が委任者の利益とともに受任者の利益をも目的
としているときは,一方的な解約が認められない」(大審院大正9年4
月24日判決・民録26巻562頁,以下「大正9年大判」という。)
とされている。上記判例は,債権者が,債務者に対し,第三者に対する
債権者の債権の取立てを委任し,その取立金額の1割を手数料として債
務者に与え,その金額を債務者の債権者への債務の弁済に当てるという
事案におけるものであるところ,TMA・原告契約は,原告が第三者か
ら著作権使用料を回収した場合に,手数料を一部控除して,TMAの原
告への債務の弁済に当てるという内容である(同契約15条)点で,上
記判例の事案と同様に解すべきである。したがって,TMA・原告契約
は,委任が委任者の利益とともに受任者の利益をも目的としている契約
に当たり,TMAには一方的な解約が認められない。
(ウ)法定信託
仮に,TMAによって,TMA・原告契約が解約された場合であって
も,解約は信託契約の終了原因の一つにすぎず,信託が終了した場合に
おいて,信託受託者が帰属権利者に対して残存する信託財産を移転する
までは,信託は存続するものと擬制される(法定信託。旧信託法63
条)。法定信託は,「原信託の延長」となるから,他の終了原因の場合
と同様,受託者たる原告は,継続して残務の処理を行うことができ,本
件では,楽曲使用料の徴収・分配が終了するまで,信託が存続し,原告
は受託者としての業務を継続できると解される。そのように解すること
は,TMAの合理的意思及び原権利者の利益保護にも適うものである。
①旧信託法63条が規定する信託終了時の法定信託の性質(復帰信託
又は原信託の延長)については,「原信託の延長」に該当するのは,
「信託行為二定メタル信託財産ノ帰属権利者」が存在する場合とされ,
このような「…帰属権利者」には,信託行為において信託終了時の財
産帰属権利者として定められた者のみならず,「給付を受ける権利が
まだ残っている収益受益者」(残存信託財産の中に未収財産のある原
信託の受益者)を含むと解されている。したがって,信託契約である
直接契約の受益者(原権利者)及びTMA・原告契約の受益者(TM
A)は,著作権使用料の分配をいまだ受けていない以上,いずれも著
作権使用料の「給付を受ける権利がまだ残っている収益受益者」に該
当するため,本件は上記「…帰属権利者」が存在する場合に当たり,
法定信託の性質は「原信託の延長」に該当する。
②「原信託の延長」と考えられる場合,受託者の職務権限は,「残務
の処理,信託財産の受益者への移転,対抗要件の具備,それらの完了
するまで信託財産を保存し,適当に収益を上げること(ただし,直ち
に回収し得ないような条件で投資してはならないとされる。)」まで
認められるところ,本件の受託者たる原告は,信託期間中に既に発生
した著作権使用料を回収するという残務の処理又は信託財産を保存し,
適当に収益を上げることを行うにすぎず,新たな投資を伴う行為を行
うものではないから,信託終了後,受託者たる原告が著作権使用料回
収を行うことは,受託者の職務権限として当然に認められる業務に該
当する。
③旧信託法の改正が検討された法制審議会信託法部会においても,法
定信託の性質が審議され,その結果,旧信託法63条を引き継いで法
定信託を規定する現信託法176条が,「原信託の延長」であること
を明確化している。
④解除
原権利者・TMA契約が解除により終了した場合,以下の理由から,
原告は残務処理として,本件楽曲使用料の徴収・分配を継続して行え
ると解すべきである。
aTMAの合理的意思
ⅰTMAは,解除通知では,TMA・原告契約解約後の信託の残
務処理等について何ら意思表明をしていないが,本件において,
仮に,原告が「残務処理」(未回収楽曲使用料の徴収・分配)を
行わない場合,多額の未回収使用料債権・債務がTMAに帰属す
ることになり,結果的に当該使用料の徴収・分配の債務不履行責
任を負わされるという不都合が生じる。したがって,解約時にT
MAとしては,少なくとも既発生の債権債務については,原告が
残務処理として回収し,それをTMA又は原権利者に分配するこ
とを期待していたはずであって,これをTMAの合理的意思と解
すべきである。
ⅱ被告は,原告とTMA間の著作権信託契約(甲68)の19条
は「残務処理」を行うためのリード・タイムを設けた規定である
とするが,継続的契約において,解約通知後,解約の効果が発生
するまでに一定の猶予期間を設けることは一般的に見られること
であって,原告・TMA契約だけの特殊な内容とはいえない。
ⅲ本件では,作家3が,解除時において,「解除後も原告をして
請求対象楽曲に係る既発生の使用料の徴収・分配を継続して行わ
せる意思」を有していたことを明言しており,受託者である原告
もこれを行う意思を有しており,双方の意思が合致している。し
たがって,解除時の契約両当事者が,「解除の効果を既発生分の
使用料の徴収・回収には及ぼさない」という意思を有している点
で意思が合致しており,当該解除の効果を契約締結時の意思のみ
から推測しようとする被告の主張は,不合理である。
b原権利者の利益保護
原告が「残務処理」を行わない場合,解約後に,個々の原権利者
に未履行の使用料債権が帰属したとしても,自らの権利を実現する
ことは実質的に不可能であるから,原権利者は,結局,既発生の使
用料債権の回収を断念しなければならなくなる。原権利者の多くは,
いずれも原権利者本人の意思に基づき作成されたことが明らかな確
認書B(甲75)を提出し,TMAの解散後も,原告を通じた使用
料の徴収・分配を望んでおり,原権利者の利益・意思を無視するこ
とはできない。
cTMAが原権利者に対して解約を申し入れたという被告の推測を
裏付ける根拠資料は,何ら存在しない。
⑤被告の主張に対する反論
a本件において,被告のように「受益者は,受託者が現実に徴収し,
又は受領した著作物使用料等の分配を受ける権利しか有していな
い」と解すると,受益者は徴収されていない著作権使用料や損害賠
償金を請求する権利を有さないことになり,著作権使用料を適切に
徴収し,分配するという信託の目的を達せられず,個々の原権利者
の保護にも反し,確認書Bにおいて,未徴収の使用料を分配するよ
う現実に求めている各原権利者の意思にも反する。したがって,各
契約の受益者は,受託者が現実に徴収し,又は受領した著作物使用
料等の分配を受ける権利だけでなく,受託者に対し,未徴収の著作
権使用料や損害賠償金を請求する権利をも有すると解すべきであり,
それらが存在する本件は,「残存信託財産の中に未収財産がある場
合」に該当する。
b「指定帰属権利者」の範囲について,委託者兼受益者のように,
原信託が終了しても,原信託存続中に享受すべき信託の利益を喪失
してしまうという不合理が生じない原信託の受益者は,指定帰属権
利者には含まれないとする被告の主張は,独自の解釈である。
c被告が引用する「信託契約終了時に帰属権利者への権利帰属が即
時に生じる」とする裁判例(大阪高裁平成13年11月6日判決)
は,a特定金外信託の場合であって,b信託法36条1項,37条
等に該当する事情がなく,かつ,c帰属権利者(受益者)である著
作権者に移転すべき信託財産が特定していて,d対象著作権の権利
移転に特段の障害もない場合には,信託契約の終了時に帰属権利者
への権利帰属が即時に生じると解しても,信託法63条の趣旨に反
するものではない等として,例外的に,契約終了時に,帰属権利者
への権利帰属が,即時に生じることを許容している。
しかしながら,本件では,本件各契約の信託設定時の信託財産は
金銭ではないので,特定金外信託に当たらず,各契約の受益者は信
託財産から費用報酬等を受けるから,旧信託法36条1項,同37
条に該当する事情がある等,上記要件を充足しない。また,本件は,
被告が引用する上記裁判例のような「利殖目的の信託」ではなく,
受託者の運用の結果,委託者に何らかの損失を生じさせる危険を内
包するものでもない。したがって,本件における信託契約の終了時
期について,上記裁判例の射程は及ばない。
d解除の場合は,解除と同時に残余信託財産が帰属権利者に物権的
に帰属するから,復帰信託又は原信託の延長のいずれについても法
定信託が成立する余地はないとする被告の主張は,根拠がない。本
件では,原権利者・TMA契約の両当事者が,「契約を解消しても,
既発生の債権債務について,原告に使用料の徴収・分配を委ねる」
点において意思が合致しており,被告の主張は失当である。
e本件では,請求対象楽曲を使用した被告が当該楽曲に係る著作権
使用料を支払わないがために,原告がその使用料を徴収してこれを
原権利者に分配する業務に約5年もの長時間を要するという異常事
態が生じているから,被告の主張する「特段の事情」がある場合に
ほかならない。また,原告は,残務たる楽曲使用料の徴収・分配が
終了するまで原信託の延長が生じると主張しているだけであって,
「永久に継続する」などとは一切述べていない。
(被告)
ア請求対象楽曲のうち,被告楽曲目録7(TMA関連楽曲)の各楽曲は,
TMA・原告契約及び原権利者・TMA契約が,TMAの平成19年3月
28日の清算結了により「信託契約の目的不達成」により終了しているこ
と,また,少なくともTMA・原告契約が,TMAによる解約通知により
平成19年3月31日をもって有効に終了していることから,原告にはそ
れらの楽曲に係る著作権が帰属していない。
イ清算結了の登記
原告が主張する清算結了の登記に関する韓国の判例は,清算法人とその
債権者という二当事者間の債権関係について判示したものにすぎず,当該
債権者以外の第三者との関係での対世効や権利帰属に係る物権的関係につ
いてまで,その射程に置くものではない
ウTMA・原告契約の解除
(ア)TMA・原告契約19条は,解除の要件について,書面による通知
が必要であるとし,解除の効果についても,通知の到達した日から6か
月を経過した後最初に到来する3月31日をもって発生するとして,旧
信託法57条と異なる条件を定めているから,同法59条の「第五十七
条…ニ拘ラス…別段ノ定アルトキ」に該当し,同法57条は適用されな
い。
(イ)原告が援用する「有償委任において委任が委任者の利益とともに受
任者の利益をも目的としているときは,一方的な解約が認められない」
との判例(大正9年大判)の事案は,債権者たる委任者が債務者たる受
任者に有償委任を行い,それにより受任者が委任者に負っている債務の
返済原資を創出せしめていたというものであり,本件と事案を異にする。
単に報酬の特約があるだけでは,受任者の利益を目的とした委任とはい
えないと解されており,TMAによる解約の効力を制限することはない。
(ウ)法定信託
TMA・原告契約の解除等により信託が終了した場合,法定信託(旧
信託法63条)の目的及び趣旨からすると,信託財産の帰属権利者への
移転に何ら障害がない場合には,信託の残余財産は,信託の終了と同時
に,即時に帰属権利者に移転すると解されるから,信託の清算も既に結
了しており,楽曲の著作権の原告への帰属は認められない。
①旧信託法63条が規定する信託終了時の法定信託の性質(復帰信託
又は原信託の延長)については,「原信託の延長」に該当するのは,
「信託行為二定メタル信託財産ノ帰属権利者」が存在する場合とされ,
この「…帰属権利者」には,信託行為において信託終了時の財産帰属
権利者として定められた者のみならず,「給付を受ける権利がまだ残
っている収益受益者」(残存信託財産の中に未収財産のある原信託の
受益者)を含むと解されている。しかしながら,原権利者・TMA契
約及び直接契約における原権利者は,契約上「原信託存続中において
も,受託者が現実に徴収し,又は受領した著作物使用料等の分配を受
ける権利」しか有しておらず,受託者であるTMA又は原告に対して,
「未徴収の著作権使用料や損害賠償金を請求する権利」は有していな
いから,「残存信託財産の中に未収財産のある」場合に該当しない。
また,上記の解釈は,原信託存続中の受益者が,原信託の終了という
一事をもって原信託存続中に享受すべき信託の利益を喪失してしまう
とするのは不合理であるという価値判断に基づいているところ,この
ような不合理が生ずるのは,「残存信託財産の中に未収財産のある原
信託の受益者」が,委託者と異なる場合であるから,委託者兼受益者
のように,このような不合理が生じない原信託の受益者は,指定帰属
権利者には含まれないと解される。本件では,原権利者・TMA契約
及び直接契約の委託者兼受益者である原権利者は,その楽曲の著作権
が復帰すれば,自ら又は他の著作権等管理事業者をして,将来におい
てだけでなく,既往の分についても,当該楽曲の使用者から使用料を
徴収し,かつ,不法使用者に対して損害賠償を請求することができる
から,原信託の延長を擬制しなくても不都合はない。むしろ,原信託
の延長を認めると,権利の分離帰属が生じて法律関係が複雑になり,
楽曲の使用者が二重に徴収を受けるなど不合理な事態を招来すること
になる。
②法定信託(旧信託法63条)は,「復帰信託」であれ「原信託の延
長」であれ,信託財産が帰属権利者に移転するまでの間のみ成立する
にすぎない。そして,信託の終了原因が発生しても,信託財産は帰属
権利者に物権的に帰属するわけではないと解するのが通説ではあるが,
他方で,法定信託の趣旨は,「信託が終了しても,信託財産がその帰
属権利者に完全に移転するまでは,信託はなお存続するものとみなし
て,帰属権利者の財産を保全し,信託事務の残務整理を完全なものに
しようと」することにあるから,信託財産の帰属権利者への復帰移転
に何ら障害がない場合には,信託の残余財産は,信託の終了と同時に,
即時に帰属権利者に移転すると解すべきである。法定信託の目的を達
成したと評価できる状況にあるにもかかわらず,法定信託を存続させ
る理由はない。
本件では,信託財産が楽曲の著作権という無体財産権であって引渡
しを観念し得ず,また,信託について著作権登録もされていないため,
信託終了の際に,著作権登録の抹消あるいは移転等の手続も不要であ
るから,信託財産の移転に特段の障害もない場合であり,信託の終了
と同時に,信託財産は,帰属権利者に即時に移転すると解すべきであ
る。
③仮に,法定信託が原信託の延長だとしても,受託者の第1の責務は
残余の信託財産を帰属権利者に移すことであり,受託者はそれが完了
するまでの間,信託財産を保存し,適当に収益を上げることができる
にすぎないから,「残務が終了するまで」原信託の延長が生じると解
するのは受託者の任務違背であるし,そのような解釈は,信託の終了
事由が発生しているにもかかわらず,受託者が信託財産を移転する旨
の別途の意思表示をしないことにより,いつまでも法定信託が存続す
ることとなり,受託者が恣意的に信託の終了時期をコントロールする
ことができることになる。
本件において,KOMCAの会員である韓国作家らは,平成18年
1月1日の「相互管理契約」発効後は,全世界の著作権をKOMCA
に信託している結果,KOMCA経由で日本の通信カラオケの使用料
を受領できるはずであるが,それにもかかわらず,原告が信託受託者
として「請求対象楽曲」の著作権を有していると解釈することは不合
理である。
④改正後の信託法においては,信託の終了後も清算が結了するまでは
原信託が存続することが明文化されたが(176条),法制審議会信
託法部会においては,旧信託法の解釈について,「いわゆる原信託が
存続する見解と,新たにいわば復帰が生ずるという見解に分かれてお
ります」と紹介されているから,改正による「原信託の延長」との位
置付けをもって,旧信託法の法定信託の性質の解釈の根拠とすること
はできない。
⑤裁判例(大阪高裁平成13年11月16日判決)においても,旧信
託法63条が「一種の法定信託の成立を認めたのは,例えば信託財産
が不動産であるような場合,信託終了後の残存財産を権利者に帰属さ
せるに当たって,登記手続等で,なお相当日数を要することが少なく
ない実情にかんがみ,そのような場合の帰属権利者の保護を図る趣旨
であると解される」とした上で,「本件信託のような特定金外信託の
場合であって,信託法36条1項,37条等に該当する事情がなく,
かつ,帰属権利者(受益者)である被控訴人に移転すべき信託財産が
特定していて,権利移転に特段の障害が存しない場合には,信託契約
の終了時に帰属権利者への権利帰属が即時に生じると解しても,信託
法63条の趣旨に反するものではない」として,被告の見解が是認さ
れている。そして,権利移転に特段の障害がない本件のような場合に
は,信託契約の終了時に帰属権利者への権利帰属が即時に生じると広
く解すべきである。
⑥解除については,旧信託法57条は,委託者が単独受益者を兼ねる
場合,委託者はいつでも信託を解除できるとし,同58条は,単独受
益者が,信託財産を用いなければその債務を完済することができない
場合には,受益者又は利害関係人の請求により,裁判所は,信託の解
除を命ずることができるとする。そして,同61条は,両規定により
信託が解除された場合には,残存する信託財産は受益者に「帰属す」
とするが,この「帰属す」とは,帰属権利者であることを確認的に示
すとともに,物権的な帰属をも意味すると解されるから,解除の場合
は,法定信託が成立せず,残余財産は,信託終了と同時に,帰属権利
者に物権的に移転すべきであると解される。
したがって,信託行為で定めた解除条項に基づいて解除したとして
も,上記法の規定を前提とすると,同様に解される。
⑦信託財産の帰属権利者への帰属を物権的帰属と解さない理由は,特
別の意思表示がないのに物権変動を生ずると,その時期が不明確にな
るおそれがあることであるが,TMA・原告契約19条による解約は,
解約の意思表示と解約の効力発生時期の間に最低6か月のリードタイ
ムを設け,その間に受託者たる原告において信託の終了の準備を行い,
解約の効力発生日において残余の信託財産を委託者たるTMAに物権
的に帰属させる旨の「特別の意思表示」であるから,物権変動の時期
を明確化していると解される。
したがって,本件では,平成19年3月31日に信託財産の帰属権
利者への移転が完了したと評価できるから,結局,法定信託は終了し
ている。
⑧法定信託の趣旨と,TMA・原告契約19条の趣旨からすると,次
のとおり,本件では,TMA・原告契約は平成19年3月31日をも
って有効に終了し,そのすべての信託財産も同日にTMAに移転して
いると解されるから,法定信託の成立の余地はなく,法定信託が観念
的には一瞬成立したと仮定したとしても,平成19年3月31日に信
託財産の帰属権利者への移転が完了したものと評価できるから,結局,
法定信託は終了したというべきである。
なお,原権利者の利益保護の観点等を考えるにしても,次のとおり,
TMA・原告契約の解約に関し,信託終了後の法定信託の成立や信託
財産の管理権限が,委託者兼受益者(TMA)の現状の財産管理能力
や,信託関係人ではない原権利者の利益,意思に依拠することは,妥
当ではない。原権利者の保護は,原権利者・TMA契約における損害
賠償等の問題として規律されるべきである。
aTMAの合理的意思
ⅰTMAの合理的意思については,解約通知(乙7の2)には,
何らTMAが原告に残務処理を期待するような記載はなく,むし
ろ「最近貴社との委託関係をこれ以上維持し難い事情が発生し…
やむを得ず…解約」とされていること,解約申入れから契約終了
まで6か月以上のリードタイムが設けられていること,TMAは,
一刻も早く清算手続を結了させることに重きを置いていたはずで
あることからすると,TMAが,原告に残務処理を期待していた
とは考えられない。
ⅱTMA・原告契約19条からすると,残務処理を行うための期
間として6か月以上の猶予を受託者に与え,他方,期間満了まで
は,委託者は,楽曲著作権を第三者に信託できないとされている
から,解除通知をしたTMAとしては,原告に対して付与した残
務処理のための猶予期間は,解除通知の到達後6か月を経過した
後に最初に到来する3月31日である平成19年3月31日まで
であり,それ以降は,自ら権利行使するか,原告とは別の第三者
に著作権を信託譲渡して,使用料の徴収を図る意思であったとい
うべきである。
ⅲ契約の解釈において契約締結後の事情を斟酌するのは,相当で
ない。なお,TMAの解約通知(乙7の2)において,「委託関
係をこれ以上維持しがたい事情が発生した」としており,契約解
除後も原告が既発生の使用料を徴収分配することを望む意思はな
かったことが明らかである。
b原権利者の利益保護
原権利者の保護の観点については,解約及び清算により,著作権
は原権利者に復帰するから,原権利者が日本での著作権使用料の回
収を望むのであれば,直接原告に信託譲渡するか,OP・SPを通
じてJASRACに信託譲渡する等,他にも手段はあるのであって,
清算手続に入っているTMAが原告との信託関係を維持する必要性
はない。また,TMA・原告契約の解釈について,契約当事者では
ない原権利者の意思が影響することはあり得ないが,原権利者の意
思としても,平成18年1月1日に「相互管理契約」が発効し,K
OMCA経由で日本の通信カラオケに関する使用料を容易に受領で
きるのであるから,著作権を原告に信託したままにすることは想定
し難い。そもそも,KOMCAは,原権利者の楽曲に係る全世界の
著作権を信託受託しているから,少なくとも「相互管理契約」の発
効以降については,KOMCAとの権利関係を無視して一方的な意
思解釈をすることはできない。
(2)−8被告楽曲目録8(TMA関連楽曲−韓国業法違反分)の請求対象楽

(原告)
ア原告は,被告楽曲目録8(TMA関連楽曲−韓国業法違反分)の請求対
象楽曲について,著作権を有している。
イ被告の主張に対する反論
TMAのような音楽出版社が,多数の原権利者から楽曲の著作権譲渡を
受けた上で,当該著作権を著作権等管理事業者であるJASRACやKO
MCAに信託譲渡するという法的構成で事業を行うことは,一般的に行わ
れている。業法上の許可の有無をもって,当然に私法上の委任契約が影響
を受けるかのような被告の主張は,両者の関係を混同したものであり,同
許可の有無にかかわらず,私人間において楽曲の著作権管理を委託するこ
とは,通常の市民の観念からしても,何ら不自然なものではない。
したがって,被告楽曲目録8に関する上記被告の主張は,失当である。
(被告)
請求対象楽曲のうち,被告楽曲目録8(TMA関連楽曲−韓国業法違反
分)の各楽曲は,次のとおり,韓国の業法に違反して締結された原権利者・
TMA契約に基づくから,著作権はTMAに帰属しておらず,原告の管理権
限も否認される。すなわち,TMAは,韓国の文化観光部に申告届出された
代理仲介業者(申告番号271)にすぎず,別途の事業許可を必要とする
「著作権信託管理」行為を行うことができないところ,原権利者・TMA契
約を締結することは,同行為に該当し,違法と考えられるからである。
(2)−9被告楽曲目録13(書証の成立を否認することに伴う否認)の請求
対象楽曲
(原告)
ア原告は,被告楽曲目録13(書証の成立を否認することに伴う否認)の
請求対象楽曲について,著作権を有している。
イ被告の主張に対する反論
(ア)原権利者作家14の契約書(乙58,甲80の60)について
乙58及び甲83の60は,いずれも原権利者作家14が任意に署名
した同一の契約書の写しであって,署名は異ならない。すなわち,原告
は,当初,TMAから上記原権利者の平成14年10月15日付け「音
楽著作権譲渡契約書」の写し(以下「契約書写し1」という。)を受領
したが,当該契約書には,割印も押印もなかったため,補完を指示した
ところ,既に署名された契約書の4枚目の契約当事者記名押印欄に捺印
がされ,1頁目ないし3頁目の各頁に割印がされて,その後,原告が,
捺印後の契約書の写し(以下「契約書写し2」という。乙58)を受領
したものである。そして,原告は,当初,被告に契約書写し2(乙5
8)を提示していたが,甲83の60を提出する際,両契約書が混同し,
契約書写し2の1頁目ないし3頁目及び契約書写し1の4頁目が甲83
の60とされたものである。
したがって,原告が,契約書を作為的にすり替えた事実はなく,同原
権利者に係る楽曲を管理する権限を有する(乙58)。なお,契約書の
捺印の補完作業においては,原権利者に事前に事情を説明した上で,原
権利者に押印について承諾してもらってから,TMAが契約書に押印す
るという作業がされた。
(イ)甲83の184(作家15の契約書)について
仮に,TMAが,原権利者・TMA契約締結時において,作家15と
TMA以外の音楽出版社との間で海外著作権契約が成立していることを
知っていたとしても,背信的悪意性が何ら裏付けられるものではない。
同契約20条は,作家15に係る契約書1通のみに記載されているにす
ぎず,当該条項をもって,TMAが,同人以外の原権利者と原権利者・
TMA契約を締結することも著作権の二重譲渡となることを認識してい
たとの主張は,被告の一方的な推測の域を出ず,ましてや原権利者・T
MA契約に基づく原告のすべての請求は背信的悪意者による権利濫用で
あるとする被告の主張は,暴論である。なお,現在に至るまで,作家1
5に係る楽曲に関して,他の出版社等から原告に対する権利主張等は一
切なされていない。
(被告)
請求対象楽曲のうち,被告楽曲目録13(書証の成立を否認することに伴
う否認)の各楽曲は,次のとおり,書証のすり替えが行われたり,著作権の
二重譲渡を前提とした条項を含む契約を根拠としているから,原告には著作
権が帰属していない。
ア原告は,従前提出した捺印済みの契約書(乙58)とは異なる署名によ
る捺印のない契約書(甲83の60)を提出し,作為的な書証のすり替え
をしており,偽造が疑われる。
イ契約書(甲83の184)の20条は,TMAが,原権利者・TMA契
約を締結する際,著作権の二重譲渡であることを認識しており,当初の著
作権譲渡との兼ね合いで紛争が生じたときには,原権利者に不利益が生じ
ないように調整する義務を負うべきものである旨定めているから,TMA
は,二重譲渡にリスクを感じる原権利者を積極的に勧誘して,原権利者・
TMA契約の締結に至ったというべきであり,結局,原告は,TMAを利
用して,「著作物…の利用を円滑にし,もって文化の発展に寄与する」と
の著作権等管理事業法1条所定の目的に反するような著作権の帰属に疑義
を生じさせる行為を積極的に行っていることがうかがわれるから,上記書
証に基づく著作権の帰属は認められない。
(2)−10被告楽曲目録14(取り下げられるべき請求)の請求対象楽曲
(原告)
ア原告は,被告楽曲目録14(取り下げられるべき請求)の請求対象楽曲
について,著作権を有している。
イ被告の主張に対する反論
被告楽曲目録14(取り下げられるべき請求)の各楽曲に係る証拠は,
いずれも原告が,裁判所の指示に従って提出し,裁判所において原本確認
が行われて証拠調べが実施されたものである。よって,原告は,従前の主
張を維持する。
(ア)甲83の199(作家16の契約書)は,偽造されたものではない。
(イ)甲85の7(作家17の契約書)について
元々,原告は,作家17との間で,平成14年11月10日付けの音
楽著作物譲渡契約書(甲129)を直接締結していたが,その後,株式
会社コピーライトバンク(以下「C社」という。)を通じた間接的な契
約形式,すなわち,作家17がC社に著作権を譲渡し,C社が原告に当
該著作権を信託譲渡するという契約形式に変更することとし,平成15
年12月23日,作家17とC社間で音楽著作権譲渡契約書(甲13
0)を,原告とC社間で著作権信託契約書(甲121)をそれぞれ締結
し,契約を切り替えたものである。ただし,作家17とC社間の契約は,
上記切替えのために作成されたことに照らし,作家17と原告間の契約
の日付を参照して,同契約の日付を記載したものである(甲130・3
条ただし書)。なお,作家17は,原告に対して自己の楽曲の著作権を
信託譲渡していることを確認している(甲79の154)。
したがって,原告は,同人に係る請求対象楽曲に対して,管理権限を
有している。
(ウ)作家18の契約書は,従前,原告が提出した契約書の写しが最終頁
のみであったため,作家18の意思を確認し,不備のない契約書(甲1
23)を提出した。
したがって,原告は,同人に係る請求対象楽曲に対して管理権限を有
している。
(被告)
ア請求対象楽曲のうち,被告楽曲目録14(取り下げられるべき請求)の
各楽曲は,原告と被告が,平成18年2月1日の本件第10回弁論準備手
続期日(以下「確認基準日」という。)において合意した証拠提出方法に
関する「確認条項」,すなわち,請求原因を基礎付ける証拠は原告提出済
書類がすべてであり,それ以外には,請求原因を基礎付ける証拠となり得
る書類は一切存在しない旨の条項に違反し,同日以後,提出した契約書等
に係るものであるから,このような契約書等に証拠能力は認められず,原
告には著作権が帰属していない。
イ仮に,契約書等に証拠能力が認められるとしても,それらが「確認基準
日」に存在したのであれば,同時点で提出可能であったにもかかわらず,
原告提出済書類には含まれていなかったから,同日以降に偽造された疑い
がある。
(3)故意・過失
(原告)
ア被告は,被告が著作権等管理事業者としての登録を受けた平成14年6
月28日以降,平成16年7月末までの請求対象期間について,原告が有
する本件の著作権を侵害することを知り,又は,知り得たにもかかわらず
過失によりこれを知らないで,原告の許諾なく請求対象楽曲を複製又は公
衆送信するという著作権侵害行為を行っている。
イ著作物を利用する者は,当該著作物の著作権者から承諾を得るべきこと
が大原則であり,利用者は自らが利用しようとする著作物について,自ら
の責任と負担において,あらかじめ著作権者が誰であるかを調査し,著作
物ごとに真の著作権者の承諾を得ることが当然に要求される。他人の音楽
著作物を用いて通信カラオケ事業を行う被告の場合,自らが利用しようと
する個々の音楽著作物について,利用に先立って著作権者の承諾を得てい
るかを確認すべき立場にあり,著作権等管理事業法の施行に伴ってJAS
RAC以外の著作権等管理事業者が存在するようになったのであれば,な
おさらである。また,平成14年ないし平成15年当時は,韓国の唯一の
著作権等管理事業者のKOMCAとJASRACとの間で相互管理契約が
締結されていなかったから,被告を含むカラオケ事業者は,個別のサブパ
ブリッシャーを経由して信託がされない限り,JASRACが韓国楽曲を
信託管理することはないことを明確に認識していた。しかしながら,被告
は,自らが利用する韓国楽曲について,必要最小限の権利調査さえ行うこ
となく無断利用を継続し,原告からの請求後も,支払に一切応じず,無断
利用を継続した。「原告の管理権限の疑義」があることをもって楽曲の無
断使用につき過失がないとする被告の主張は,詭弁にほかならない。
(被告)
ア原告の主張は争う。
イ原告は,AMEIとの接触開始から1年近く後の平成15年6月まで,
被告に対して楽曲リスト(乙63)を交付せず,被告は,どの楽曲につい
て著作権の管理権限を関係者に確認すればいいのか対応できなかった。交
付された楽曲リストも,JASRACと重複するものが多く,日本人の創
作にかかる楽曲が含まれる等したため,AMEIは,権利関係の説明と管
理権限の根拠書類の提出を求めたが,原告は,これに応じることができず,
協議を一方的に打ち切り,一応の根拠書類が被告に提出されたのは,本件
訴訟提起後の平成18年2月1日であった。そして,原告が,韓国では楽
曲の著作権を二重,三重に譲渡することが当たり前と認めていたことや,
原告のビジネスに関する当初の説明が虚偽であったこと,JASRACへ
の楽曲登録がカラオケ使用よりも遅れても,JASRACが遡及的にカラ
オケ使用料の分配を行い,事後的に適法な権利処理をすることが当時の実
務であったこと等を併せ考慮すれば,AMEI又は被告が,原告の著作権
管理権限を証する書類の提出を要求することは必然であった。
したがって,仮に,被告に著作権侵害が認められるとしても,被告には,
「請求対象期間」全部について,又は,少なくとも楽曲リストの交付前の
平成14年6月28日から平成15年5月までの期間について,当該侵害
について過失はない。
(4)損害論
(4)−1損害
(原告)
ア原告は,被告が著作権を侵害したことにより,次のとおり,原告規程
(争いのない事実等(8)ア)により算定される使用料相当額の損害(著作
権法114条3項)を被った。
(ア)基本使用料
被告は,平成14年6月28日から同年9月までの間は,1000曲
以下の楽曲を使用しているから,その間の月額基本使用料は10万円で
あり,同年10月から平成16年7月末日までの間は,1001曲以上
2000曲以下の楽曲を使用しているから,その間の月額基本使用料は
20万円である。
したがって,上記期間の基本使用料は,10万円×(3日/30日
(日割り計算)+3か月)+20万円×22か月=471万円となる。
(イ)利用単位使用料
被告が管理するカラオケ端末機台数(甲92)を前提とすると,平成
14年6月の3日間(日割り計算)及び同年7月は,1台当たり月額2
10円,同年8月から平成16年7月までの間は,1台当たり月額20
0円となるため,総額は,別紙「著作物使用料月別計算書」記載のとお
り,8億6271万9745円となる。
(ウ)損害額
(ア)と(イ)の合計額は8億6742万9745円であり,消費税を加
算すると,損害額は,合計9億1080万1232円となる。
イ著作権法114条3項は,著作権侵害がなされた場合の損害額の最低保
証として,「著作権・・・の行使につき受けるべき金銭の額に相当する
額」,すなわち使用料相当額を用いる旨を規定しているところ,著作権者
が既に第三者に対する利用許諾の条件を明示している場合には,当該条件
をもって,同条項に定める「相当する額」とみなすべきであり,本件では,
原告規程がその算定基準となるべきものである。無断使用によって生じた
損害額が,正規の利用者の支払額より少ないことは,公平の見地並びに著
作権等管理事業法及び著作権法114条3項の趣旨から認められない。
ウ原告規程について
(ア)原告規程は,有効な規程である。
①著作権等管理事業法では,指定著作権等管理事業者以外の著作権等
管理事業者(以下「一般管理事業者」という。)は,使用料規程の策
定・変更について,利用者又はその団体からの意見聴収の努力義務が
訓示的に課されており(13条2項),仮に,意見聴取が十分でなか
ったとしても,当該使用料規程が無効となることはない。上記意見聴
取は,当該使用料規程に関する意見を求めるものであって,管理する
著作物リストの提出やその他の情報の提供を行うことを義務付けてい
ない。さらに,文化庁長官は,使用料規程の届出を受理した日から起
算して30日を経過するまでの間,上記使用料規程の内容が利用者の
利益を害しないか等について判断し,不合理な点があれば,内容の変
更等の業務改善命令(20条)等を行使することができるが,当該使
用料規程自体は,届出によって有効となる。よって,同法に基づいて
使用料規程が有効に成立している以上,利用者がその無効を主張して
支払を拒絶することは認められない。
②原告は,文化庁の指示に基づき,原告規程を各利用者及び利用者団
体に交付するとともに,各両者及び利用者団体の意見を十分聴取した。
すなわち,原告は,平成14年6月28日に事業者登録を行ったが,
同庁担当者に原告規程の案を交付して,必要な指導を受けた際,「原
告規程案を提示し,関係する利用者団体から意見聴取するように。」
との指示と,利用者団体一覧表の交付を受けたため,各利用者の意見
を聴取した。その後,各利用者の対応及び意見を取りまとめて同庁に
提出し(甲43),同年8月9日に原告規程を登録した。その後,同
庁から,原告規程の内容について,業務改善命令等を行使されたこと
もない。
(イ)原告規程の内容は,合理的である。
①原告規程が,利用楽曲数と受信装置台数を基準とした包括的な使用
料規程を設定したのは,1曲ごとの録音・演奏について逐一報告させ
て課金すると,事務処理手続が極めて煩雑になってしまうことから,
利用者である通信カラオケ事業者及び著作権等管理事業者両者の便宜
に配慮したことによる。内容的にも,原告は,JASRAC規程と比
べて,通信カラオケ事業者の事情により配慮した規程を採用している。
②通信カラオケ事業に関して,包括的に著作権使用料を算定する際に
は,利用対象の著作物の一部を著作権等管理団体が管理していなくて
も,著作権使用料の算定に管理割合を勘案しない運用が一般的である。
③JASRACに対する使用料の支払や,AMEIとJASRAC間
の著作権等管理事業法施行以前の協定を理由として,新規事業者であ
る原告に対する支払を拒絶等する行為は,著作権等管理事業者間の自
由競争を妨げ,新規参入者を排除する行為として許されない。
④カラオケメーカー他社と原告との間で著作物使用規程が締結されて
いない原因は,最大手かつAMEIの主要メンバーである被告が原告
との間で本件訴訟で争っている状況によるものであり,各メーカーが
原告規程の相当性を否定したことによるものではない。また,一般管
理事業者が設定した使用料規程には,原則的に相当性が認められるの
であって,契約締結の実績といった利用者側の任意に依存する事情を
基準とすべきではない。
著作権法114条3項の趣旨は,著作権侵害における損害額立証の
手間を省かせて権利者を保護する点にあるところ,著作権の侵害者と
権利者の間に従前から契約関係が存在することは「まれ」なことから,
契約関係にない当事者間において著作権侵害が行われた場合であって
も,契約が締結されていた場合を仮定して損害賠償請求額を算定させ
るというものにほかならない。「原告規程に基づいて損害金を算定で
きるのは,契約が成立している場合に限られる」との被告の主張は,
著作権法114条3項にも反する。
⑤基本使用料の算定根拠としての「品揃え」の主張は,被告の私見に
すぎない。JASRAC規程は,その管理楽曲数735万曲を前提に
策定されたものではなく,被告の実際の使用料の支払実績も,上記J
ASRACの「品揃え」に相当する基本使用料とは一致していない
(なお,顧客は,利用可能な楽曲の種類等の要素を総合考慮して判断
するため,韓国の人気楽曲を網羅している原告の管理楽曲は,「品揃
え」の対価たる価値を十分に有している。)。また,音楽著作物につ
いては,管理楽曲数の多寡にかかわらず,JASRAC規程に準じた
使用料規程に従って使用料を徴収することが実務上一般的であり,J
ASRAC規程からかけ離れた低廉な使用料を設定することは,むし
ろ原権利者の権利保護の見地から望ましくないとされている。
⑥利用単位使用料の根拠を楽曲の増加量であるとする主張は,被告の
私見にすぎない。利用単位使用料が受信端末の台数に応じて定められ
ている趣旨は,楽曲の使用料を個別徴収(1曲が1回使用されるごと
に徴収する方法)ではなく包括的に徴収する場合に,多数の受信端末
を保有している利用者ほど楽曲を多数回使用しているのが通常である
ことに着目して,その保有する受信端末の台数に応じて公平な徴収を
行うことにあると解される。楽曲の増加数と利用単位使用料とは,無
関係である。
エ被告の主張する算定方法は,いずれも不当である。
(ア)カラオケビジネス上の問題点については,カラオケ設置店舗がJA
SRACに異議を唱えるべき内容にすぎず,損害額の算定基準に関係す
る事情には当たらない。
(イ)JASRAC規程をベースに管理楽曲数により按分比例する方式を
採用することは,妥当でない。著作権侵害に基づく損害賠償額の算定に
おいて,「経済合理性のある金額を算定すべき」との見解は,何らの根
拠がなく,「JASRACの使用料を支払の上限とする」との見解も,
著作権等管理事業者間の自由競争を妨げ,新規参入を阻害することとな
る。廃止された著作権に関する仲介業務に関する法律(以下「旧仲介業
法」という。)において独占的に事業を営むことができたJASRAC
の管理楽曲数等を原告の管理楽曲数と比較し,使用料相当額を按分比例
的に算出することは,著作権等管理事業者として新規に参入する原告の
ような団体の運営に困難を強いることになり,また,使用料規程に即し
た使用料が徴収できない場合には,管理を委託した権利者が当該著作権
等管理事業者との契約を解消するおそれが高く,著作権等管理事業者の
ビジネスの根底を覆しかねない。そもそも代替性のない著作物について
は,「按分比例」という算定方式によって損害額を計算することが本来
的になじまないのであり,音楽楽曲の場合は,当該楽曲を管理する各団
体の提示する使用料規程に基づいて算定すべきである。
(ウ)演奏ログ数(アクセス回数)に応じて損害額を按分比例の方式で算
定する方法も,妥当ではない。上記のとおり,按分比例により損害額を
計算することは妥当ではないし,本件で問題とされているのは,複製権
の侵害であって,演奏ログ数に関連する演奏権の侵害は一切問題とされ
ていないから,複製権の侵害における損害の算定において,演奏権の回
数を基準として採用することは,複製権(著作権法2条1項15号,同
21条)と演奏権(同法22条)の違いを無視することになる。なお,
被告の主張する演奏ログ数(アクセス回数)は,請求対象期間において,
被告がこれを正確に把握していた可能性は,極めて低い。
(エ)JASRAC規程のインタラクティブ配信規程が適用される利用形
態は,個人が楽しむために配信することを前提とするものであり,業務
用通信カラオケという利用形態とは,営利目的の有無という大きな違い
があるから,営利目的で著作物を無断使用した場合の使用料相当額の算
定においては,何ら参考とならない。
(オ)個々の作家の受領金額は,損害額の算定根拠とならない。業務用通
信カラオケ事業者から著作権等管理事業者である原告が使用料を「徴
収」する段階での損害相当額の問題と,原告と権利者との間の「分配」
に関する事情とは,何ら関係がない。また,各著作権者が受け取るべき
使用料の総額は,「請求対象期間」中において,個々の著作権者が日本
における業務用通信カラオケの使用の対価として受領した金額を基準と
すべきである。原告の管理手数料率とKOMCAの管理手数料率とがほ
ぼ同額であろうという仮定にも,何らの裏付けはない。被告の主張する
アクセス数の算定そのものには不合理な点が認められるし,算定の基準
となるべき数額は,請求対象期間当時のものを用いるべきである。
オ算定例
(ア)原告規程による場合
前記アのとおり,損害額は,(ア)基本使用料と(イ)利用単位使用料の
合計額8億6742万9745円に消費税を加算した合計9億1080
万1232円である。
(イ)個別課金方式による場合(1曲当たりの損害)
①JASRAC規程による場合
a基本使用料
通信カラオケ事業者が利用できる状態におかれている「著作物の
数」を基準とし,1か月ごとに再生されるべき時間が5分までの著
作物1曲につき200円を月額基本使用料と定める。
b利用単位使用料
業務用通信カラオケ事業者が,通信カラオケ事業所に設置された
受信装置へのアクセスコードの入力に応じ,演奏に供する著作物を
1曲1回提供するごとに,使用料は,再生されるべき時間が5分ま
での著作物1曲につき40円と定める。
c減額措置
原告規程は,自己が権利を有する管理割合を勘案して使用料を減
額する措置を採用しており,1つの楽曲において作詞若しくは作曲
のいずれかに著作権がない場合,又は,作詞若しくは作曲のいずれ
かがJASRACの管理外の場合には,1曲の使用料を6/12の
額(半額)に減額する旨を規定する。ただし,包括的利用許諾契約
については,その適用対象から除外している。
dその他
CDグラフィックス等1枚当たり5分未満の著作物の使用料につ
いては,著作物1曲につき600円をCDグラフィックス等の複製
枚数で除して得た額又は11円のいずれか多い額に,消費税相当額
を加算した金額を,著作物の利用使用料と定める。また,カラオケ
用ICメモリーカードに著作物を利用する場合の使用料については,
著作物1曲につき600円をカラオケ用ICメモリーカードの複製
枚数で除して得た額又は11円のいずれか多い額に,消費税相当額
を加算した金額を,著作物の利用の使用料と定める。
②原告規程による場合
原告は,カラオケ用ICメモリーカードに著作物を利用する場合の
使用料については,著作物1曲につき8円(歌詞楽曲それぞれ4円)
に月間の出荷枚数を乗じて得た額に,消費税相当額を加算した金額を,
著作物の利用の月額使用料と定め,実際に徴収している。原告規程に
は具体的な規程はないが,「第1章から第12章の規程の適用するこ
とができない利用方法により著作物を利用する場合は,著作物の利用
の目的及び態様その他の事情に応じて利用者と協議の上,その使用料
又は額を定めることができる」旨の規定に基づき徴収している。
(被告)
ア原告の主張は争う。
イ原告規程は,適用されない。
(ア)AMEIが原告規程の適用に同意した事実はなく,原告担当者も原
告管理楽曲の使用料については後日話合いで決めるという認識であった
から,本件訴訟の損害賠償の算定に当たって,原告規程が当然に適用さ
れることはない。
(イ)原告規程は,次のとおり,策定の際,利用者又は利用者団体から意
見聴取をしておらず,その努力もしていないから,著作権等管理事業法
13条2項違反の重大な手続違反等があり,無効である。
①原告は,著作権等管理事業者として登録した平成14年6月28日
当時,従業員数は7名であり,このような原告が,利用者団体(38
団体)から適切な意見聴取をしたとはいえない。
②原告は,平成14年8月1日にAMEI等を訪れた際,会社資料
(乙1),新聞記事(乙2)及び原告規程を交付した。しかしながら,
お盆休日前の慌ただしい時期に十分な意見聴取を行うことは不可能で
あり,AMEIの丁も,同月8日,個人の立場で,原告規程について,
1週間程度で会員の意見を集約して伝えることは困難であること,検
討する前提として,楽曲リストの交付を受ける必要があることを述べ
たが(乙3),原告は,同月9日には,原告規程を文化庁に届出して
おり,その際,AMEIの意見を「管理楽曲リストの提出を希望」と
する事実に反する記載をした資料(甲43)を添付した。原告自身も,
平成15年5月28日時点で,業務用通信カラオケの使用料について
の協議を経ていないという認識だった(乙34)。
③原告規定に関する意見聴取の前提として交付された会社資料には,
原告の著作権等管理事業者としての信頼性を著しく損なう,ビジネス
スキームについての重大な虚偽の説明があった。
(ウ)原告規程は,およそ合理性が認められない。
①旧仲介業法の趣旨は,「著作物使用料規程の内容が合理的且つ公正
であることを保障するとともに,著作物の利用を簡易且つ円滑化し,
以て著作物利用者を保護することにある」(大阪高裁昭和45年4月
30日判決)と考えられるのに対し,著作権等管理事業法は,使用料
規程の合理性と公正さについて慎重な担保手続を定めておらず,同様
には評価できないところ,原告規程は,利用者団体との協議を経てい
ないどころか,その意見を聴取しているとはいえず,一方的に届け出
られたものであるから,そのような原告による「指値」に被告が拘束
される理由はない。
②JASRAC規程との対比
aJASRAC規程では,原則として,包括的利用許諾契約の締結
を前提として,基本使用料と利用単位使用料の合計額に消費税相当
額を加算した額とされている(争いのない事実等(8))。なお,利
用単位使用料は,端末機の総台数と各端末機について支払われる情
報利用料を基に計算されるため,JASRAC管理楽曲の総数や被
告の収載利用楽曲の総数が増加しても,影響を受けない。
(a)膨大な管理楽曲数に基づく使用料規程
基本使用料については,本来,各楽曲データについての通信カ
ラオケ事業者のサーバーにおける送信可能化行為は,1楽曲につ
いて1回限り行われており,通信カラオケ事業所における各端末
受信装置における各楽曲データのダウンロード複製も,装置の導
入据付時に際しての一括複製又はその後の公衆送信を通じての追
加的複製という1回限りの行為である。しかしながら,各楽曲デ
ータについて,JASRACが継続的に毎月,基本使用料を徴収
しているのは,膨大な数の利用可能な楽曲を前提に,事業者がサ
ーバーに大量に蓄積して通信カラオケ事業所による利用に供する
という「品揃え」行為の対価であると説明されるからである。
また,利用単位使用料は,通信カラオケ事業者が,通信カラオ
ケ事業所における端末受信装置に向けて,毎月公衆送信を通じて
ダウンロード複製のために提供する追加的な楽曲データの提供の
対価として徴収する「情報利用料」を,使用料課金の基本とする。
追加的複製行為について毎月の使用料を継続的に課すことは,J
ASRAC管理楽曲の毎月の膨大な増加量,端末受信装置に毎月
追加的にダウンロード複製される大量の楽曲数(月当たり約10
00曲)のうち,圧倒的大部分を占めるJASRAC管理楽曲の
数を前提にすれば,合理性がある。
(b)通信カラオケ事業者の意見に基づく使用料規程
JASRAC規程は,策定の際,国内のほとんどの通信カラオ
ケ事業者が加盟するAMEIとの間で4年以上にわたって協議さ
れており,通信カラオケ事業者の意見が反映されている。
b原告規程
(a)原告規程の基本使用料は,月額10万円又は20万円である
が,JASRACの管理楽曲数が735万曲であるのに対し,原
告の管理楽曲数は不明,請求対象楽曲は1261曲であるから,
利用客に対する歌唱可能楽曲の「品揃え」料としての合理性を伴
っているとはいえない。原告の場合,1回限りの著作物利用行為
について,毎月継続的に基本使用料を課することには,合理的な
根拠はない。
(b)原告規程の利用単位使用料は,通信カラオケ事業者が楽曲デ
ータの配信の対象としている端末機各1台につき月ごとに定めら
れるが(月額500円ないし200円),JASRAC規程では
「情報利用料」の金額をベースにした「情報利用料」の10%相
当額(現状で1500円)という一定額であるのに対し,原告規
程は何をベースにしたのか,根拠が示されていない。
被告のDAMの場合,収載楽曲総数約10万0300曲のうち,
JASRAC管理楽曲が約9万7000曲であるのに対し,原告
の請求対象楽曲は最大時でも1215曲(又は44曲)にすぎな
い。この収載楽曲数における,JASRACの管理楽曲に対する
原告の管理楽曲の相対的比率(約1.25%又は0.05%)を
考慮すると,JASRACの利用単位使用料(月額約1500
円)に対比した原告の利用単位使用料(月額200円ないし50
0円)は,相対的比率でいえば,最大比率1/3(33.33
%),最小比率2/15(13.34%)であり,過大な金額で
ある。JASRACの「利用単位使用料」(月額約1500円)
をベースに原告の収載楽曲占有率(1.25%又は0.05%)
を乗じた金額を計算すれば,18.8円又は0.8円でしかない。
なお,JASRACの潜在的利用可能楽曲数約735万曲(仮に,
すべてDAMに収載しても,利用単位使用料は増大しない。)と
原告の「請求対象楽曲」数1215曲(又は44曲)を対比した
場合には,相対的比率は約0.017%(又は0.0006%)
にすぎない。
原告に関しては,毎月追加的安定的に提供されて利用に供され
る楽曲があるわけでない。各楽曲は,1回限りの各端末受信装置
における複製行為しかされないにもかかわらず,実際の複製利用
楽曲数とは全く無関係に,毎月継続的に各端末受信装置について
徴収されることになり,合理的な根拠はない。
ウ経済合理性のある使用料の料率
業務用通信カラオケの使用料に関して唯一適用された実績があるのは,
JASRAC規程第10節1(1)及び2(1)に基づく包括許諾方式であり,
特に,利用単位使用料は,JASRACとAMEIが長期の交渉の末に合
意に至り,内容も,通信カラオケ業界のビジネスモデルを踏まえた合理的
なものであるから,これに基づき,被告が「請求対象期間」にJASRA
Cに現に支払った金額を基に,損害額が算出されるべきである。なお,上
記包括許諾方式は,JASRACの管理楽曲数が膨大であることを前提と
しているから,以下のような方法に基づいて,何らかの按分を行うのが妥
当である。
(ア)管理楽曲数按分方法
被告が「請求対象期間」についてJASRACに対して現に支払った
業務用通信カラオケについての使用料額を,JASRAC管理楽曲数及
び原告管理楽曲数の相対的比率に応じて按分する方法である。
包括許諾方式に基づき被告が追加の利用単位使用料の支払なしに使用
し得るJASRACの管理楽曲の総数と原告の管理楽曲の総数との相対
的比率に応じて按分する方法であり,JASRAC管理楽曲数735万
曲と原告管理楽曲数(最大で1200曲程度)の相対的比率で按分する
のが妥当である。
(イ)演奏ログ数按分方法
被告が「請求対象期間」についてJASRACに対して現に支払った
業務用通信カラオケについての使用料額を,「請求対象期間」において
被告が管理するカラオケ端末機に収載されたすべての楽曲の総アクセス
回数と著作権侵害が認定された請求対象楽曲の総アクセス回数の相対的
比率に応じて按分する方法である。
インタラクティブ配信のストリーム型について利用者団体と各著作権
等管理事業者の間において暫定合意されている方法を,インタラクティ
ブ配信と著作物の利用形態が同一である業務用通信カラオケにも準用す
る考え方であり,各著作権等管理事業者は,一定の情報料又は広告料等
収入の一定割合を使用料率とする包括的利用許諾契約方式を定めている
が,著作権等管理事業者が増えるにつれて,利用配信業者はコスト増と
なるので,利用配信業者が各著作権等管理事業者に支払うべき使用料の
合計額が一定レベルとなるように,各著作権等管理事業者の定める使用
料をそのまま適用するのではなく,配信業者のストリームサイトにおけ
るアクセス回数の総数と当該著作権等管理事業者が管理する楽曲へのア
クセス回数の相対的比率により按分して,使用料を算出するものである。
(ウ)韓国の作家が受領する業務用通信カラオケについての対価からのア
プローチ
①「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(著作
権法114条3項)が,著作権等管理事業者に管理を委ねている各作
家が受け取るべき使用料の総額に,著作権等管理事業者の管理手数料
を加算したものと同額であることに着目し,より単純に,個々の作家
が現に日本における業務用通信カラオケの使用の対価としてどの程度
の金額を受領するのか算定した上で,それに著作権等管理事業者の管
理手数料を加算することにより算出する手法である。
②この手法は,JASRACとKOMCAが,2007年12月10
日付け相互管理契約(2008年1月1日発効)を締結し,それぞれ
が管理する著作物の相手国における使用について使用料を相互に授受
することとなり,韓国の作家は,KOMCAの会員になってさえいれ
ば,JASRAC及びKOMCAを通じて,自己の楽曲著作物の日本
における使用について使用料の分配を受けることができるようになっ
たことから,ある作家の楽曲の業務用通信カラオケに関する使用料の
金額は,著作権を行使する著作権等管理事業者に変動があったとして
も,基本的に同等であるべきであるという考え方に基づいている。
③そして,「請求対象期間」である2002年6月28日から200
4年7月31日までの間の「請求対象楽曲」の業務用通信カラオケに
よる使用の対価の額は,2008年1月1日以降に韓国の作家が日本
における業務用通信カラオケによる使用について得ている対価の額と,
基本的に同等であるべきである。なぜなら,当該楽曲の通信カラオケ
システムにおける使用の態様やそれに対する「情報利用料」という対
価の支払の実態は,「請求対象期間」と「相互管理契約」発効日たる
2008年1月1日以降とで,何ら異なるところはないからである。
④業務用通信カラオケの使用料の分配方式は,次のとおりである。全
体の99.5%を分配対象使用料として著作者への分配に回し,0.
5%は分配保証資金として支払を留保する(最終的には著作者への分
配に回す。)。分配対象使用料のうち80%が送信分配資金として扱
われ,うち90%がアクセス回数に応じての分配(利用回数分配基
金)に回され,うち10%が全登録楽曲に対する分配に回されるので,
結局,72%がアクセス回数に応じて配分され,28%が全登録楽曲
に配分される。
⑤したがって,一定期間分の使用料としてJASRACがKOMCA
に対して分配した金額のうち,①アクセス回数に応じて分配されるべ
き72%相当額を当該分配対象期間のアクセス回数で除すれば,1ア
クセス当たりの分配額が算出され,②全登録楽曲に分配されるべき2
8%相当額を当該分配対象期間の全登録楽曲数で除すれば,全登録楽
曲1曲当たりの分配額が算出されこととなる。
また,分配対象期間については,アクセス回数についてサンプリン
グ調査ではなく全数調査を開始した2008年4月∼6月の四半期を
選んでいるところ,この分配対象期間について上記①及び②を計算す
れば,1アクセス当たりの分配額は,1.169円(小数点第四位四
捨五入),1か月についての1楽曲当たりの分配額は,91.51円
(小数点第三位四捨五入)となる。
したがって,この手法によれば,著作権侵害が認められた「請求対
象楽曲」の「請求対象期間」における演奏ログ数×1.169円+9
1.51円×25.1ヶ月(「請求対象期間」を月数に引きなおした
もの)×著作権侵害が認められた「請求対象楽曲」数が,損害賠償金
額となる。
(エ)なお,各方法においては,被告による侵害が認められる楽曲数に基
づいて損害賠償額が算出されるべきである。
(4)−2過失相殺
(被告)
請求対象楽曲に係る著作権の全部又は一部に関する被告の権利侵害が成立
するとしても,原告が自己の著作権管理権限について,時宜に適った方法で,
被告又はAMEIに対して合理的な説明を行い,その根拠を示さなかった結
果であるから,原告には過失がある。したがって,損害賠償額の算定におい
ては,民法722条2項に基づき,原告の当該過失の割合に応じて過失相殺
がされるべきである。
(原告)
ア被告の主張は争う。
イ原告は,原告の管理権限について,時宜に適った方法で,被告又はAM
EIに対して合理的な説明を行っている。また,仮に,平成14年当初の
原告の説明内容に不備があったとしても,被告が,自ら利用する著作物に
関する権利関係を何ら調査せずに,継続的に利用し続けた故意又は過失を
減殺するものではなく,原告には過失はない。
(5)その他の主張(権利濫用・禁反言)
(被告)
原告は,平成14年の韓日著作協会時代は準備期間中であったことを前提
に,平成15年6月に再び被告やAMEIに連絡を取ってきているから(甲
16),同月より以前の期間について著作権侵害を主張し損害賠償を求める
ことは,禁反言の法理に反し,また,権利濫用である。
(6)不当利得返還請求(予備的請求)
(原告)
仮に,被告について過失が認められないとしても,被告は,法律上の原因
なく原告の管理する著作権を無断で利用することによって,利益を受け,そ
のために原告に著作権使用料相当額の損失を及ぼした。
よって,不当利得(703条)に基づき,著作権使用料相当額の返還を予
備的に主張する。
(被告)
ア原告の主張は争う。
イ被告に不当な利得は存しないので,原告の主張自体失当である。
第3当裁判所の判断
1被告楽曲目録11(不知楽曲)の請求対象楽曲について
争いのない事実等(2)のとおり,被告楽曲目録11(不知楽曲)の請求対象
楽曲(裁判所楽曲目録−作詞,−作曲記載の各楽曲のうち,「権利者管理番
号」欄に緑色で示す楽曲がこれに対応している。)については,被告は,不知
と認否し,本件における弁論準備手続の終結までに,特に争う理由を明らかに
していないから,裁判所楽曲目録−作詞,同目録−作曲の当該各楽曲の欄に記
載する証拠及び弁論の全趣旨に照らして,これらの楽曲(作詞18楽曲,作曲
28楽曲)については,原告に著作権の帰属を認めるのが相当である。
2次に,事案の性質上,原告が,原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約
に基づき著作権の信託譲渡を受けたと主張する請求対象楽曲について検討する。
上記楽曲には,被告が争点(2)−7被告楽曲目録7(TMA関連楽曲)におい
て主張する請求対象楽曲(裁判所楽曲目録の各楽曲のうち,黄色で示す楽曲)
のほか,後記のとおり,裁判所楽曲目録の各楽曲のうち,薄い黄色で示す楽曲
については,原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約に関する楽曲と解さ
れるから,併せて検討する。
(1)争いのない事実等(4)及び(5)のとおり,TMAと原告は,平成14年1
0月17日及び平成15年9月18日,TMAが現に有する著作権及び将来
取得する著作権を,原告に信託譲渡し,原告がこれを管理する旨の著作権信
託契約(TMA・原告契約)を締結したこと,このうち,平成15年9月1
8日付けTMA・原告契約(乙24)には,TMAからの契約の解除につい
て,「甲(TMA)は,信託期間内においても書面をもって乙(原告)に通
知することにより本契約を解除することができる。この場合本契約は,通知
の到達の日から6か月を経過した後最初に到来する3月31日をもって終了
する。」(19条1項)との定めがあったところ,TMAは,原告に対し,
平成18年7月14日付け書面により,上記契約条項に基づき,同契約を解
除する旨の意思表示をし,平成19年3月31日が経過したことが,それぞ
れ認められる。
そして,外国法人であるTMAと原告との間で締結されたTMA・原告契
約における解除の効力については,債権的法律行為の効力等について定める
法の適用に関する通則法7条により,当事者の選択した地の法が準拠法とな
ると解される。本件においては,TMA・原告契約は,準拠法を日本国法と
定めているから(32条,乙24),我が国の法律が準拠法となる。
そうすると,TMAによる上記契約条項に基づく解除は,「信託ノ解除ニ
関シ信託行為ニ別段ノ定アルトキ」(旧信託法59条。なお,TMA・原告
契約には,信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律2条により,
旧信託法が適用される。)に該当するから,これにより,同契約は,平成1
9年3月31日の経過をもって,解除により終了したと認めるのが相当であ
る。
原告は,委託者であるTMAによる一方的な解除は効力を有さないと主張
し,委任契約に関する「有償委任において委任が委任者の利益とともに受任
者の利益をも目的としているときは,一方的な解約が認められない」との判
例(大正9年大判)を引用した上,TMA・原告契約は,原告が,第三者か
ら著作権使用料を回収した場合に,手数料を一部控除して,TMAの原告へ
の債務の弁済に当てるという内容である(同契約15条)から,上記判例と
同様,一方的な解除は認められないと主張する。
しかしながら,仮に,信託契約であるTMA・原告契約について,上記判
例と同様の考え方が当てはまるとしても,上記契約(乙24)15条は,原
告が,信託著作権の管理によって得た著作物使用料の中から管理手数料を控
除することや,業務遂行に要する支出について定めるに止まり,単なる手数
料の控除や報酬の特約以上に,受託者である原告についての何らかの経済的
利益(例えば,受託者の委託者に対する債務の弁済等)について定めるもの
とはいえない。そうすると,TMA・原告契約は,有償委任契約ではあるが,
当該委任が,委任者の利益とともに受任者の利益をも目的としていると認め
ることはできず,上記判例とは事案を異にするから,委任契約を一方的に解
約できない場合には該当しないというべきである。
したがって,TMAによるTMA・原告契約の解約も有効と認められるか
ら,原告の上記主張を採用することはできない。
(2)次に,争いのない事実等⑹のとおり,TMAは,平成18年10月4日,
臨時株主総会決議において解散の決議をしたことが認められる。そして,争
いのない事実等(1)ウのとおり,TMAは,韓国法に基づき設立された,本
店所在地を韓国ソウル市とする法人であり,TMAの属人法である韓国法に
おいては,我が国と同様に,会社は,解散すると,以後は,清算の目的の範
囲内において,会社の現務を結了し,債権を取り立て,債権者に債務を弁済
し,残余財産を分配する等の清算事務を行うことができるにとどまるから,
TMAにおいても,解散後は,清算の目的の範囲を超える行為を行うことは
できず,原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約のいずれに関しても,
清算事務としての行為を行うことができるにすぎないものと解される。
そして,このような平成18年10月から平成19年3月までのTMAの
解散等の事情が,原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約に定める信託
関係に及ぼす影響については,債権的法律行為の効力等について定める法の
適用に関する通則法7条,又は,法例7条1項により,当事者の選択した地
の法が準拠法となると解される。本件においては,原権利者・TMA契約は,
準拠法を韓国法と定め(19条,乙15の1,2),TMA・原告契約は,
準拠法を日本国法と定めているから(32条,乙24),上記各契約におい
ては,当事者がそれぞれ選択した上記の各国の法律が準拠法となる。
そうすると,TMAの解散後,TMAの下においては,上記各契約におけ
る本来の信託の目的を達することはできなくなるというべきであるから,原
権利者・TMA契約については,韓国信託法55条により,また,TMA・
原告契約については,旧信託法56条により,いずれも信託の目的が不達成
に至ったというべきであり,信託の終了事由が発生したと認めるのが相当で
ある。
なお,上記信託の終了事由に関し,原告は,原権利者・TMA契約(甲8
3の1・14・80,乙15)の法的性質について,「音楽著作権譲渡契約
書」という契約書の表題や「音楽著作権を…譲渡する」との約定(3条)等
から,期限付き著作権譲渡契約であると主張するが(第2,4(2)−1(原
告)イ参照),同契約では,対象となる作品の利用促進や権利の管理等を目
的として,原権利者からTMAに対して著作権の譲渡がされていること(1
条,3条,13条)等からすると,原権利者・TMA契約は,著作権の管理
等を目的として,著作権が譲渡されているから,信託譲渡と解するのが相当
である。
また,原告は,平成19年3月にTMAの清算結了による閉鎖登記が無効
である等と主張する。しかしながら,原告も,TMAの解散等の経緯につい
て争うものではなく,上記認定の経緯に照らして,原権利者・TMA契約及
びTMA・原告契約のいずれにおいても,信託について終了事由が生じてい
ることは明らかといえるから,本件においては,上記登記の効力について論
ずるまでもなく,信託の終了事由が生じたことを前提に,著作権の帰属等に
ついて検討するのが相当と解される。
(3)そこで,原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約のいずれにおいて
も,信託の終了原因が生じたことを前提に,原告に当該楽曲の著作権が帰属
しているか否かを検討する。
ア信託が終了した場合,残存する信託財産が帰属する主体については,信
託行為において,残存信託財産の帰属権利者を定めているときは,その指
定された者が帰属権利者となるとされる(旧信託法62条。韓国信託法6
0条。なお,残存信託財産中に,未収財産のある原信託の受益者も,特に
制限する事由のない限り,指定された帰属権利者に該当すると解され
る。)。また,信託が終了した場合,上記の帰属権利者の利益を保護し,
信託事務の残務処理を完全なものにするため,信託関係は,信託財産がそ
の帰属権利者に移転するまでは,なお存続するとみなされるが(旧信託法
63条,韓国信託法61条),このいわゆる法定信託については,帰属権
利者が,上記の指定された帰属権利者である場合には,受託者が既存の信
託における清算段階の事務を行うことになるから,原信託の延長として,
従前の信託関係が存続するものと解するのが相当である。そして,この場
合,受託者の職務権限は,基本的には従前と変わらないものの,法定信託
の目的が,帰属権利者に対して残余財産を移転することであるから,その
範囲内における残務の処理,信託財産の帰属権利者(受益者)への移転,
対抗要件の具備,それらが完了するまで信託財産を保存し,適切に収益を
上げること(ただし,直ちに回収し得ないような条件で投資してはならな
いとされる。)に限定されると解される。
イ本件において,信託契約である原権利者・TMA契約では原権利者が,
また,TMA・原告契約ではTMAが,それぞれ各契約の受益者に該当す
るところ,本件訴訟において請求されている,請求対象期間における請求
対象楽曲の著作権に対する侵害に基づく損害賠償請求権は,残存信託財産
中に存する未収財産であり,これは,上記各契約における各受益者に対し
て,順次移転されるべき財産であるから,上記各受益者は,「残存信託財
産中に未収財産のある原信託の受益者」であり,信託行為中に指定された
帰属権利者に該当するというべきである。
したがって,原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約における信託
の終了については,残存信託財産が帰属権利者に移転するまで,原信託の
延長としての法定信託が存続すると解するのが相当である。
なお,被告は,上記「未収財産」とは,現実に回収し,受領した金銭等
のみが該当するところ,本件では,このような財産は存在しないから,信
託行為により指定された帰属権利者がある場合には該当しない旨主張する
ようであるが,上記「未収財産」について,いまだ回収がなされていない
財産一般ではなく,現実に回収し受領した金銭等に限定的に解釈する合理
的理由は認められないから,被告の上記主張は採用できない。
ウ次に,本件の原信託の延長としての法定信託において,受託者が行うべ
き具体的な信託の清算事務の内容等について検討する。
本件においては,原権利者・TMA契約における受託者はTMAであり,
TMA・原告契約における受託者は原告であるところ,両契約に基づく信
託の終了時点において,TMAは,原権利者の請求対象楽曲の著作権を原
告に信託譲渡し,原告は,信託財産である請求対象楽曲の著作権に基づい
て,本件訴訟を提起し,既に発生している請求対象期間における請求対象
楽曲の著作権侵害に基づく損害賠償請求を行っていたものであるから,受
託者の清算事務としては,いずれもこのような信託財産の返還や損害賠償
請求の処理,管理手数料等の精算等の事務を行う必要があると解される。
そして,このうち,信託財産である請求対象楽曲の著作権の返還について
は,引渡しを観念することはできず,また,上記著作権は,いずれも信託
について著作権登録がされたものではないから,返還のために特段の手続
を取ることを必要とせず,著作権は帰属権利者に返還され,返還事務とし
ては既に完了した状態にあると解するのが相当である。他方,上記の損害
賠償請求の処理については,従前,TMA・原告契約の受託者である原告
において,本件訴訟を提起し,訴訟追行をしてきており,いまだに損害金
の現実の回収・分配が完了したものではないから,原則的には,現実の回
収及び分配が完了するまで清算事務が継続すると解するのが相当である。
しかしながら,本来,法定信託においては,既に終了事由の発生した信
託において,帰属権利者に対して残余の信託財産を確実に移転することを
目的としていることからすると,法定信託における清算事務を継続するこ
とに著しい支障が生じており,帰属権利者において,早期に信託財産の返
還を受け,その管理利用の在り方について改めて検討できる機会を付与さ
れることが,帰属権利者の利益の観点から相当な場合には,帰属権利者に
対して残余の信託財産(損害賠償請求権)を移転すれば足り,それにより
清算事務は完了すると解するのが相当である。
本件において,争いのない事実等(6),(10)のとおり,TMAは,平成
18年10月に解散し,平成19年3月には清算結了の登記を了しており,
平成21年7月時点においては,原権利者の半数程度とは容易に連絡が取
れない状況となっていること等からすると,仮に,原告が,使用料相当額
の損害金を回収したとしても,帰属権利者がその回収等を信託の清算事務
として原告に委ねる旨の特段の意思を明確に表明していない限りは,その
後の,原告とTMA間,TMAと原権利者間の各清算事務が円滑に遂行さ
れることは到底期待できない。また,上記のとおり,信託財産のうち,著
作権そのものについては,既に返還事務が完了した状態となっており,既
発生の使用料相当額の損害賠償請求権についても,その回収方法を著作権
の管理と併せて検討する機会を与えることが,帰属権利者の利益保護の観
点から相当であること等からすると,帰属権利者において,既発生の上記
損害金について,上記の意思を表明しない限り,法定信託における清算事
務を継続することに著しい支障が生じているというべきであるから,受託
者としては,帰属権利者に上記損害賠償請求権を移転すれば足り,それに
より清算事務は完了すると解するのが相当である。
したがって,本件では,帰属権利者が,原告に対し,信託の清算事務と
して,本件訴訟における使用料相当額の損害賠償請求権を行使すること,
及び,訴訟を追行することを認めるとの意思を表明している場合(本件に
おいては,確認書Bにおいて,原権利者のこのような意思が表明されてい
る。)に限り,原告に上記の著作権侵害に基づく損害賠償請求権が帰属し,
かつ,これを行使することができるというべきである。
この点,原告は,TMAの意思及び原権利者の保護の観点から,すべて
の請求対象楽曲について,原告に上記請求権が帰属すると主張するようで
あり,当時のTMA代表者作家3の陳述書(甲76)においても,原告に
よる訴訟の追行を要望する旨述べているが,TMAは,TMA・原告契約
における受益者(帰属権利者)であるとともに,原権利者・TMA契約に
おける受託者であり,当該信託の清算事務の範囲内において,信託財産で
ある請求対象楽曲の著作権の帰属権利者である原権利者の意向に基づく行
為のみをなし得るというべきであるから,作家3が上記のような供述をし
たとしても,原権利者において訴訟追行等の意思を表明しない限り,作家
3又はTMAの意向が法的意味を有するものではない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(4)原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約に関する楽曲
以下,被告楽曲目録7記載に係る原権利者・TMA契約及びTMA・原告
契約に関する楽曲(裁判所楽曲目録−作詞,−作曲記載の各楽曲のうち,黄
色で示す楽曲がこれに対応している。)について,①原権利者・TMA契約
書の成否,②確認書B(争いのない事実等(3)のとおり,「TMAの解散後
においても,原告が,使用料の回収分配のために,訴訟の提起追行すること
を要望する」旨の記載がある。)の存否及び成否に応じて,具体的な類型ご
とに判断する。
なお,被告楽曲目録7には記載されていないが,原権利者作家19及び同
作家16の各楽曲(裁判所楽曲目録−作詞,−作曲記載の各楽曲のうち,薄
い黄色で示す楽曲がこれに対応している。)については,各原権利者につい
て,原権利者・TMA契約を締結した旨を記載する確認書B(甲80の42
(B−42),甲80の43(B−43))が提出され,原権利者作家16
については,原権利者・TMA契約書(甲83の199)も提出されており,
原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約に関する楽曲と解されるから,
併せて判断する。
ア原権利者・TMA契約書の成立に争いがない楽曲
(ア)原権利者・TMA契約書の成立に争いがない楽曲(裁判所楽曲目録
−作詞,−作曲記載の各楽曲のうち,「契約書」欄に,「*」が記載さ
れ,同欄が薄い青色で示されている楽曲がこれに対応している。)は,
同契約書の成立に争いがないことから,原権利者・TMA契約の締結が
認められる。そして,このうち,原権利者作家20(作詞)及び作家2
1(作曲)の各楽曲(上記目録の「契約書」欄に斜線を施した楽曲)を
除き,他の原権利者の各楽曲については,確認書Bが存在し,各確認書
Bの成立に争いがないから(上記目録の「確認書B」欄に「*」が記載
され,同欄が薄い青色で示されている楽曲がこれに対応している。),
当該楽曲については,信託の終了後においても,信託の清算事務として,
原告に,本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の
損害賠償請求権が帰属すると認めるのが相当である。
(イ)なお,(ア)の楽曲には,作詞又は作曲が共作であり(裁判所楽曲目
録−作詞,−作曲記載の各楽曲のうち,「管理番号」欄以外が橙色又は
ピンク色で示されている楽曲がこれに対応している。また,被告楽曲目
録2−2参照),その一部の原権利者についてのみ,原権利者・TMA
契約書及び確認書Bの成立に争いがない楽曲がある。そして,共作の楽
曲において,一部の共有者による持分の信託譲渡が認められるか否かは,
当該信託譲渡の原因関係である契約の効力等によるから,法例7条1項
により,当事者が選択した国の法律が準拠法となると解される。本件に
おいては,上記一部の原権利者の持分の信託譲渡を約した原権利者・T
MA契約は,準拠法を韓国法と定めているから(19条,乙15の1,
2),当事者が選択した韓国法が準拠法となる。そして,同法によると,
共作の楽曲において,一部の共有者が自らの持分を信託譲渡することに
ついて,他の共有者の同意を得なければ,当該著作権の信託譲渡は認め
られない(韓国著作権法45条1項)ところ,上記各楽曲については,
他の共有者が同意していることを認めるに足りる証拠はないから,信託
譲渡は許されず,原告に,本件訴訟において請求する著作権侵害に基づ
く使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができない。
原告は,他の共有者の包括的な同意は得られており,韓国の楽曲の共
有者は,相互に意思決定を阻害する意図を持つことはない等と主張する
が,これを認めるに足りる証拠もない。
なお,共作楽曲のうち,原権利者作家22(確認書Bは甲80の44
(B−44))の楽曲については,裁判所楽曲目録−作詞では,確認書
B欄に「*」が記載され,成立に争いがない旨表示されているが,被告
作成の確認書B目録記載のとおり,原権利者・TMA契約書と確認書B
の筆跡が異なるとして,確認書Bの成立を否認しており,上記原権利者
の証人尋問等においてもこの点が立証されていないから,真正に成立し
たものと認めることはできず,いずれにしても,当該楽曲については,
原告に権利の帰属を認めることはできない。
イ原権利者・TMA契約書の成立に争いがある楽曲
(ア)原権利者・TMA契約書の成立に争いがある楽曲(裁判所楽曲目録
−作詞,−作曲記載の各楽曲のうち,「契約書」欄に書証番号が記載さ
れている楽曲がこれに対応している。)のうち,確認書Bが存在しない
楽曲(上記目録のうち,「確認書B」欄に何らの記載がない楽曲がこれ
に対応している。)は,仮に,原権利者・TMA契約の締結を立証する
ことができても,原権利者は,信託の終了後の清算事務については,特
に何らかの意思を表明しているとは認められないから,原告に,本件訴
訟における著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属す
ると認めることはできない。
なお,原権利者作家23については,原告は,当初,同原権利者の確
認書Bとして甲80の21(B−21)を提出したが,後に,同原権利
者の確認書Bは存在しない旨確認しているから,確認書Bが存在しない
楽曲として整理する。
(イ)原権利者・TMA契約書の成立に争いがある楽曲(裁判所楽曲目録
−作詞,−作曲記載の各楽曲のうち,「契約書」欄に書証番号が記載さ
れている楽曲がこれに対応している。)のうち,確認書Bが提出されて
いる楽曲(上記目録の「確認書B」欄に書証番号が記載されている楽曲
がこれに対応している。)について
①原権利者作家24,作家25,作家1の各楽曲(裁判所楽曲目録−
作詞,−作曲記載の各楽曲のうち,上記原権利者名が薄い青色で示さ
れている楽曲がこれに対応している。)については,原権利者・TM
A契約書及び確認書Bの各成立について,上記各原権利者の証人尋問
により立証がされているから,当該楽曲については,原告に,本件訴
訟において請求する著作権に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が
帰属すると認めるのが相当である。
②原権利者作家26(確認書Bは甲80の1(B−1)),同作家2
7(同甲80の3(B−3)),同作家28(同甲80の5(B−
5)),同作家29(同甲80の7(B−7)),同作家30(同甲
80の10(B−10)),同作家31(同甲80の13(B−1
3)),同作家32(同甲80の14(B−14)),同作家33
(同甲80の15(B−15)),同作家34(同甲80の17(B
−17)),同作家35(同甲80の19(B−19)),同作家3
6(同甲80の20(B−20)),同作家37(同甲80の27
(B−27)),同作家38(同甲80の29(B−29)),同作
家39(同甲80の30(B−30)),同作家40(同甲80の3
1(B−31)),同作家41(同甲80の32(B−32)),同
作家42(同甲80の36(B−36)),同作家43(同甲80の
39(B−39))の各楽曲(上記目録の「確認書B」欄に斜線を施
した楽曲)について,被告は,被告作成の確認書B目録記載のとおり,
原権利者・TMA契約書,確認書A,確認書Bの筆跡が異なるとして,
各書証の成立を否認し,また,原権利者作家44(確認書Bは甲80
の2(B−2))の楽曲については,被告作成の確認書B目録記載の
とおり,原権利者・TMA契約書と確認書Bのサインが異なるとして,
書証の成立を否認している。そして,これらの書証の成立については,
上記各原権利者の証人尋問等による立証はされていないから,真正に
成立したものと認めることはできず,当該楽曲については,原告に,
本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠
償請求権が帰属すると認めることができない。
原告は,上記のうち,一部の確認書B(甲80の1,3,5,7,
10,13∼15,17,19,20,27,29,31,36)に
ついて,原権利者・TMA契約書及び当該確認書Bの筆跡は,原権利
者の自筆であり,確認書Aの筆跡は,原権利者の自筆とは異なるが,
TMAが,メールや電話で原権利者の意思を確認の上,代筆したので,
いずれも真正に成立している旨を主張し,当該主張に沿う証拠(甲1
11(枝番を含む。),証人作家2)もある。
しかしながら,上記各証拠は,いずれも原権利者の意思が直接表れ
たものではないから,書証の成立の立証としては不十分であり,また,
原告が自筆であると主張する原権利者・TMA契約書及び確認書Bに
ついても,書証の成立が積極的に否認されている以上,その立証を要
すると解されるが,そのような立証はされていないから,その成立を
認めることもできないというべきである。
原告は,一部の確認書B(甲80の2,30,32)については,
原権利者の自筆であると主張するが,上記と同様に,書証の成立につ
いて立証はされていないから,その成立の真正を認めることはできな
い。
③原権利者作家45(原権利者・TMA契約書は甲83の57,確認
書Aは甲79の41(A−41),確認書Bは甲80の8(B−
8))の楽曲について,被告は,被告作成の確認書A,B目録各記載
のとおり,原権利者・TMA契約書と確認書Aの筆跡が異なり,確認
書Aと確認書Bの筆跡が異なるとして,各書証の成立を否認している。
そして,上記原権利者の証人尋問等による立証もされていないから,
真正に成立したものと認めることはできず,当該楽曲については,原
告に,本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の
損害賠償請求権が帰属すると認めることができない。
原告は,原権利者・TMA契約書と当該確認書Bの筆跡は,原権利
者の自筆であり,確認書Aの筆跡は,原権利者の自筆とは異なるが,
TMAが,メールや電話で原権利者の意思を確認の上,代筆したので,
いずれも真正に成立している旨を主張するが,上記のとおり,その成
立の真正を認めることはできない。
④原権利者作家46(原権利者・TMA契約書は甲83の77,確認
書Aは甲79の56(A−56),確認書Bは甲80の12(B−1
2))の楽曲について,被告は,被告作成の確認書A,B目録各記載
のとおり,原権利者・TMA契約書と確認書Aの成立については,筆
跡が異なるとして,書証の成立を否認し,確認書Bの成立については,
その成立を否認せず,単に,日付の記載がない点を指摘するに止まる。
したがって,確認書B(甲80の12)については,真正に成立した
ものと認めることができるが,同確認書Bにより指示された当該原権
利者とTMA間の音楽著作権譲渡契約(1条)がいかなる契約を指す
のか不明であり,また,原権利者・TMA契約書及び確認書Aの成立
については,上記原権利者の証人尋問等による立証もされていないか
ら,真正に成立したものと認めることはできず,当該楽曲については,
原告に,本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額
の損害賠償請求権が帰属すると認めることができない。
⑤原権利者作家47(原権利者・TMA契約書は甲83の87,確認
書Aは甲79の63(A−63),確認書Bは甲80の16(B−1
6))及び原権利者作家48(原権利者・TMA契約書は甲132,
確認書Aは甲79−91(A−91),確認書Bは甲80の28(B
−28))の各楽曲について,被告は,被告作成の確認書A,B目録
各記載のとおり,書証の成立を否認するものの,否認の理由としては,
各書面に記載された「期間」の齟齬について指摘するにとどまるから,
書証の成立を積極的に争うものではなく,当該楽曲については,原告
に,本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損
害賠償請求権が帰属すると認めるのが相当である。
⑥原権利者作家5(原権利者・TMA契約書は甲83の115,確認
書Bは甲80の23(B−23)),原権利者作家49(原権利者・
TMA契約は甲83の117,確認書Bは甲80の24(B−2
4))及び原権利者作家7(原権利者・TMA契約書は甲83の11
8,確認書Bは甲80の25(B−25))の各楽曲について,被告
は,被告作成の確認書B目録記載のとおり,各書証の成立を否認する。
そして,否認の理由として,原権利者・TMA契約書と確認書Bは作
家8名義であるが,同人に対し,上記原権利者が,著作権を管理委託
している旨の記載がないことを主張する。しかしながら,原告は,上
記原権利者の作成に係る,各原権利者が作家8に著作権を管理委託す
る内容の委任状(甲82の1∼3)を別途提出し,被告においても,
特にその成立について争っていないものであり,また,被告は,原権
利者・TMA契約書及び確認書Bについて,作成名義人による作成自
体について争うものとは認められないから,当該楽曲については,原
告に,本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の
損害賠償請求権が帰属すると認めるのが相当である。
⑦原権利者作家19(確認書Bは甲80の42(B−42))につい
ては,原権利者・TMA契約書の提出がなく,確認書B(甲80の1
2)の成立が認められるとしても,同確認書Bにより指示された当該
原権利者とTMA間の音楽著作権譲渡契約(1条)がいかなる契約を
指すのか不明であるから,当該楽曲については,原告に,本件訴訟に
おいて請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が
帰属すると認めることはできない。
⑧原権利者作家16(確認書Bは甲80−43(B−43))の楽曲
については,被告は,原権利者・TMA契約書(甲83の199)が
偽造された疑いがあると主張し(第2,4(2)−10(原告)ア参
照),その成立を否認するところ,この点については,上記原権利者
の証人尋問等による立証もされていないから,真正に成立したものと
認めることはできず,当該楽曲については,原告に,本件訴訟におい
て請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属
すると認めることができない。
ウなお,原権利者作家13の楽曲については,被告楽曲目録7に記載され,
他方で,原告は直接契約の契約書を提出する等しており,原権利者・TM
A契約及びTMA・原告契約による楽曲なのか,直接契約による楽曲なの
か明らかではないが,いずれの楽曲も,確認書A∼Cのすべてについて,
その成立につき当事者間に争いがないから,いずれの契約関係によるもの
であれ,原告に対する著作権の信託譲渡がなされ,かつ,確認書Bも真正
に成立していると認められるから,原告に,本件訴訟において請求する著
作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めるのが
相当である。
(5)以上によると,原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約に関する楽
曲のうち,原告に,本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相
当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができる楽曲は,次のとおり
であり,裁判所楽曲目録−作詞,−作曲及び裁判所楽曲目録−作詞(認容),
−作曲(認容)の黄色で示した楽曲のうち,各確認書B欄を薄い青色で記載
した楽曲がこれに対応する。
ア作詞256楽曲
イ作曲191楽曲
(6)また,その余の楽曲については,原告には,本件訴訟において請求する
著作権に基づく損害賠償請求権が帰属していないから,原告は原告適格を欠
くというべきである。
3直接契約に関する請求対象楽曲について
(1)次に,請求対象楽曲のうち,原告が,直接契約により著作権の信託譲渡
を受けたと主張する請求対象楽曲について検討する(裁判所楽曲目録−作詞,
−作曲のうち,楽曲名等に塗りつぶしのない楽曲がこれに対応する。)。
(2)直接契約の契約書の成立に争いがない楽曲
ア直接契約の契約書の成立に争いがない楽曲(裁判所楽曲目録−作詞,−
作曲のうち,「契約書」欄に「*」が記載されている楽曲がこれに対応す
る。)は,直接契約の締結が認められるから,原告に,本件訴訟において
請求する著作権に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認め
ることができる。
イなお,裁判所楽曲目録−作詞の作家50(権利者管理番号0201)の
楽曲について,原告は,契約書及び確認書の成立に争いがないと整理する
が,被告は,被告楽曲目録2において根拠が不明であるとして当初より争
っており,原告によりこの点に関する主張立証がなされていないから,同
楽曲については,原告に,本件訴訟において請求する著作権に基づく使用
料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができない。
ウ他方,裁判所楽曲目録−作曲の作家18(権利者管理番号2023)の
楽曲について,被告は,被告楽曲目録14において同楽曲を挙げ,その契
約書(甲123)は,平成18年2月1日の本件第10回弁論準備手続期
日に確認した証拠提出時期に関する合意に反して提出されたから,証拠能
力は認められない,仮に,証拠能力が認められるとしても,書証の成立を
否認すると主張する。
しかしながら,原告は,従前,被告に示した契約書の写しが最終頁のみ
であったことから,後に不備のない契約書(甲123)を提出したとする
ものであり,不十分ながら,契約書を被告に示していたことがうかがわれ
ること,原告は,従前,裁判所楽曲目録−作曲のとおり,同楽曲について
は,契約書及び確認書の成立に争いがないものとして整理しており,仮に,
契約書の成立に争いがあるとしても,確認書の成立について当事者間に争
いはないから,直接契約が締結されたことが推認され,原告に,本件訴訟
において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰
属すると認めるのが相当である。
(3)直接契約の契約書の成立に争いがある楽曲
ア直接契約の契約書の成立に争いがある楽曲(裁判所楽曲目録−作詞,−
作曲のうち,「契約書」欄に書証番号が記載されている楽曲がこれに対応
する。)は,契約書の成立に争いがあるが,このうち,確認書A∼Cのい
ずれかが存在し,その成立について当事者間に争いがない楽曲(裁判所楽
曲目録の「確認書」欄に「*」の記載がある楽曲がこれに対応する。)に
ついては,直接契約が締結されたことが推認されるから,原告に,本件訴
訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が
帰属すると認めることができる。
イ直接契約の契約書の成立に争いがある楽曲(裁判所楽曲目録−作詞,−
作曲のうち,「契約書」欄に書証番号が記載されている楽曲がこれに対応
する。)のうち,確認書A∼Cが提出されていても,その成立について当
事者間に争いがあり,他に成立に争いのない確認書が存在しない楽曲(裁
判所楽曲目録の「確認書」欄に書証番号が記載されている楽曲がこれに対
応する。)については,直接契約及び確認書のいずれについても,上記原
権利者の証人尋問等による立証がされていないから,真正に成立したもの
と認めることはできず,当該楽曲については,原告に,本件訴訟において
請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると
認めることができない。
ウなお,原権利者作家17の楽曲については,直接契約の契約書のほか,
契約関係に変遷があったとして,他の契約書及び確認書Aが提出されてい
るが,その成立について当事者間に争いがあり,契約書及び確認書のいず
れについても,上記原権利者の証人尋問等による立証がされていないから,
真正に成立したものと認めることはできず,当該楽曲については,原告に,
本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請
求権が帰属すると認めることができない。
(4)以上によると,直接契約に関する楽曲のうち,原告に,本件訴訟におい
て請求する著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると
認めることができる楽曲は,次のとおりであり,裁判所楽曲目録−作詞,−
作曲及び裁判所楽曲目録−作詞(認容),−作曲(認容)の楽曲名等に塗り
つぶしのない楽曲のうち,各確認書A∼C欄を薄い青色で記載した楽曲がこ
れに対応する。
ア作詞15楽曲
イ作曲56楽曲
(5)また,その余の楽曲については,原告には,本件訴訟において請求する
著作権侵害に基づく損害賠償請求権が帰属していないから,原告は原告適格
を欠くというべきである。
4原告に権利の帰属が認められた請求対象楽曲について,被告のその余の否認
理由について,検討する。
(1)争点(2)−2被告楽曲目録1(JASRAC管理楽曲)の請求対象楽曲に
ついて
ア被告は,被告楽曲目録1(JASRAC管理楽曲)の楽曲は,JASR
ACの管理楽曲であるから,原告にはその著作権が帰属していないと主張
する。
しかしながら,JASRACが,その作成する「管理楽曲確認書」と題
する書面(乙4)により,当該請求対象楽曲が管理楽曲であることを確認
しているのは,請求対象期間後の平成19年7月6日時点であるから,請
求対象期間における原告への当該楽曲著作権の信託を否定するものとはな
らない。また,仮に,請求対象期間後における原告の具体的な請求時に近
接する時点において,JASRACが当該楽曲を管理しているとしても,
そのこと自体によって,必然的に原告に対する当該楽曲の信託が終了して
いると認めることはできない。
したがって,被告の主張を採用することはできない。
イ被告は,仮に,原告とJASRACに対し,著作権を二重譲渡した状態
であるとしても,原告は,対抗要件である文化庁における登録を具備して
いないから,法律上の利益を有する被告に対して,その著作権を対抗し得
ないと主張する。
しかしながら,上記のとおり,JASRAC作成の「管理楽曲確認書」
と題する書面(乙4)は,請求対象楽曲期間後の平成19年7月6日時点
で,当該楽曲がJASRACの管理楽曲であることを確認するにすぎない
から,請求対象期間において,上記二重譲渡がされていたことを認めるに
は足りず,その他上記事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告の主張を採用することはできない。
ウ被告は,過失なくJASRACに請求対象楽曲に関する使用料を支払っ
ていたから,債権の準占有者に対する弁済(民法478条)となる等と主
張する。
しかしながら,このような主張は,本件弁論準備手続終了後であり,か
つ,証拠調べ終了後の平成21年9月16日の本件第4回口頭弁論期日に
おいて陳述された被告準備書面(12)において,初めて主張されたものであ
り,被告において,従前主張することのできなかった特段の理由はなく,
また,このような主張を審理すると,訴訟の完結を遅延させることとなる
から,時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)に該当する。
したがって,上記被告の主張は,職権により,却下する。
エなお,原告は,被告の提出する乙64∼66号証が,上記本件第4回口
頭弁論期日に提出されたものであり,時機に後れた攻撃防御方法(民訴法
157条1項)であるとして,却下を申し立てる。
しかしながら,上記書証は,請求対象楽曲がJASRACの管理楽曲で
あり,原告に著作権が帰属しないこと,仮に,原告とJASRACに二重
譲渡された状態であるとしても,原告は対抗要件を具備していないこと等
の被告の上記主張に関する書証であり,その立証趣旨も,証人尋問された
原権利者ら(作家24,作家25,作家1)が,JASRACを通じて著
作権使用料の支払を受けたか否かに関して行った証言について,弾劾証拠
として提出するものであるから,必ずしも時機に後れているとはいえない。
したがって,原告の上記申立てを採用することはできない。
(2)争点(2)−3被告楽曲目録2(根拠書類不存在楽曲)の請求対象楽曲につ
いて
ア被告楽曲目録2(根拠書類不存在楽曲)の請求対象楽曲のうち,同2−
1−作詞の楽曲については,契約書及び確認書が提出されていないから,
原告への権限の帰属を認めることはできない。また,同2−1−作曲の楽
曲についても,一部の確認書の提出はあるが,契約書の提出はないから,
原告への権限の帰属を認めることはできない。
イ被告楽曲目録2(根拠書類不存在楽曲)の請求対象楽曲のうち,同2−
2−作詞,−作曲記載の各楽曲は,作詞又は作曲が共作であり,原告が作
詞又は作曲の一部のみを管理し,他の共有者が信託譲渡について同意して
いないと被告が主張するものである。そして,上記各楽曲については,他
の共有者が同意していることを認めるに足りる証拠はないから,前記3
(4)ア(イ)と同様に,原告に,本件訴訟において請求する著作権侵害に基
づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認めることができない。
(3)争点(2)−4被告楽曲目録3(契約期間満了楽曲)の請求対象楽曲につい

被告楽曲目録3(契約期間満了楽曲)の請求対象楽曲について,被告は,
契約期間の満了により,原告には著作権が帰属していないと主張する。
しかしながら,仮に,契約期間が終了し,信託関係が終了したとしても,
上記のとおり,信託終了の場合には,信託財産を帰属権利者に移転するまで
は,法定信託が存続し,原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約に関す
る楽曲のうち,原告に,本件訴訟において請求する著作権侵害に基づく使用
料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認められる楽曲(前記第3,2)に
ついては,法定信託が存続することを前提に,上記権利が帰属すると認めら
れているものであるから,被告の上記主張を採用することはできない。
また,直接契約に関する楽曲のうち,原告に,本件訴訟において請求する
著作権侵害に基づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認められる
楽曲(前記第3,3)について検討すると,本件において,直接契約には,
契約の更新に関する条項(6条,甲46等)が定められ,一定の事由が生じ
ない限り,従前と同一条件で更新される旨定められているところ,原告は,
「自動更新規定」(同条項)による更新を含めて,直接契約に基づき原権利
者から著作権の信託譲渡を受けたことを主張していると解されることや(前
記第2,4(2)−4(原告)イ参照),当事者間において,上記一定の事由
の有無について争われていないことから,直接契約について,更新が否定さ
れるような事由が生じ,契約期間が満了したと認めることはできず,被告の
上記主張を採用することはできない。
なお,被告は,直接契約の更新は,上記一定の事由である,①著作物使用
料等の分配実績が別に定める信託契約の期間に関する取扱基準に規定する額
に満たない場合,及び,②著作権の侵害行為を行うなど本契約の継続を困難
とさせる事由があった場合等のいずれにも該当しないことが条件となってお
り,原告は,上記条件を主張立証していないから,契約が更新されたとみる
ことはできないと主張する。
しかしながら,上記のとおり,原告は,直接契約における「自動更新規
定」(契約6条)により,同契約が更新されたことを前提に著作権の帰属を
主張していると解され,特段,原告の主張に不足な点は見受けられない。ま
た,仮に,被告の上記主張を,直接契約の更新が否定される一定の事由の有
無について主張したものと解するとしても,被告の上記主張は,本件弁論準
備手続終了後であり,かつ,証拠調べ終了後の平成21年9月16日の本件
第4回口頭弁論期日において陳述された被告準備書面(12)において,初めて
主張されたものであり,被告において,従前主張することのできなかった特
段の理由はなく,また,このような主張を審理すると,訴訟の完結を遅延さ
せることとなるから,時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)に
該当する。
したがって,被告の上記主張は,職権により,却下する。
(4)争点(2)−5被告楽曲目録5(楽曲リスト不存在楽曲)の請求対象楽曲に
つて
被告楽曲目録5(楽曲リスト不存在楽曲)の楽曲について,被告は,原権
利者・TMA契約の「契約書」に対象楽曲リストが添付されておらず,契約
の対象楽曲が特定されていないから,原権利者には著作権が帰属していない
と主張する。
しかしながら,上記のとおり,原権利者・TMA契約及びTMA・原告契
約に関する楽曲のうち,原告に,本件訴訟において請求する著作権侵害に基
づく使用料相当額の損害賠償請求権が帰属すると認められる楽曲については,
いずれも確認書Bの成立について当事者間に争いがないか,その成立の真正
が認められるものであり,原権利者は,同確認書において,自己の創作した
楽曲の著作権をTMAに譲渡したことを認めているのであるから,上記楽曲
については,原権利者が,原権利者・TMA契約において,TMAに著作権
管理を委ねる意思を有していたと認めるのが相当であり,このことは,契約
書に対象楽曲リストが添付されていなかったことにより左右されるものでは
ない。
したがって,被告の上記主張を採用することはできない。
(5)争点(2)−6被告楽曲目録6(原権利者との権利連鎖不存在楽曲)の請求
対象楽曲について
被告楽曲目録6の各楽曲について,被告は,原権利者による原権利者・T
MA契約の解除,又は,同契約におけるTMAの契約上の地位の譲渡により,
TMAが著作権を有しない結果,原告への著作権の帰属も認められない等と
主張する。
しかしながら,同楽曲目録6の楽曲のうち,前記第3,2により,原告に
権利の帰属が認められた請求対象楽曲については,仮に,原権利者による原
権利者・TMA契約の解除がされ,契約関係が終了したとしても,法定信託
が存続することを前提に,上記権利が帰属すると認められているものである
から,被告の上記主張を採用することはできない。
また,前記第3,2により,原告に権利の帰属が認められた請求対象楽曲
の原権利者のうち,作家12(権利者管理番号0200)については,契約
上の地位譲渡契約書(乙6の4)が提出されているが,原告は,同契約書の
成立を争っており,この点についての立証がされていないから,契約上の地
位が譲渡されたことを前提とする被告の上記主張を採用することはできない。
(6)争点(2)−8被告楽曲目録8(TMA関連楽曲−韓国業法違反分)の請求
対象楽曲について
被告楽曲目録8(TMA関連楽曲−韓国業法違反分)の楽曲について,被
告は,TMAは,韓国の業法に違反し,著作権信託管理の事業許可を得ずに,
著作権管理業を行っているから,TMAの締結した原権利者・TMA契約等
は違法であり,原告には著作権管理権限がないと主張する。
しかしながら,業法上の許可を得ていないことが,直ちに私法上の契約の
効力に影響し,契約が無効となるということはできず,他に私法上の契約を
無効とすべき違法な事情を認めるに足りる証拠はないから,被告の主張を採
用することはできない。
(7)争点(2)−9被告楽曲目録13(書証の成立を否認することに伴う否認)
の請求対象楽曲について
被告楽曲目録13の楽曲については,原告にその著作権の帰属が認められた
楽曲は含まれていないから,同被告楽曲目録の楽曲に関する被告の主張を検
討するまでもない。
(8)争点(2)−10被告楽曲目録14(取り下げられるべき請求)の請求対象
楽曲について
被告楽曲目録14の楽曲のうち,前記第3,2及び3により原告に権利の
帰属が認められた請求対象楽曲については,前記第3,3(2)ウに判断した
とおりである。
5争点(3)故意過失について
争いのない事実等(1)イのとおり,被告は,楽曲データを,著作権者から複
製又は公衆送信の許諾を得て作成し,自らの製造に係るカラオケ端末機のハー
ドディスクに搭載する等した上,通信カラオケリース業者に対してカラオケ端
末機の販売等を行う株式会社であるところ,このような業務用通信カラオケ事
業者であれば,他人の著作物を利用する際には,その著作権を侵害することの
ないよう,当該著作権の帰属を調査し,事前に著作権者から複製又は公衆送信
の許諾を得るべく万全の注意を尽くす義務がある。特に,本件においては,平
成13年10月1日の著作権等管理事業法の施行後は,JASRAC以外の著
作権等管理事業者が存在する可能性があり,争いのない事実等(9)のとおり,
現に,平成14年6月28日に原告が著作権等管理事業者として登録し,同年
8月以降,被告の加入するAMEIを訪問する等して,断続的ながら交渉して
いたものであり,また,請求対象期間である平成14年6月28日から平成1
6年7月末日までの間は,韓国の唯一の著作権管理事業者のKOMCAとJA
SRACとの間の相互管理契約の締結による著作権の管理も行われておらず,
そのことは周知の事実であったのであるから,被告においては,利用しようと
する楽曲に関し,事前に著作権の所在等について調査検討し,著作権者から許
諾を得る等して,著作権侵害の結果を防止すべき注意義務があった。
しかしながら,被告は,これを怠り,漫然と請求対象楽曲の利用を継続して
きたのであるから,被告には,過失があったというべきである。
被告は,原告から楽曲のリスト(乙63)の交付を受けるまでは対象となる
楽曲が分からず,その後も,被告が求めても原告は説明・資料を提出せず,平
成18年2月1日に根拠資料を提出するに至ったから,請求対象期間すべて,
又は,少なくとも平成15年5月までの間は,過失はない等と主張する。
しかしながら,上記のとおり,他人の著作物を利用しようとする場合には,
自ら,著作権者の許諾を得るべく,事前に著作権の所在等について調査し,検
討すべきところ,被告は,何ら積極的に権利関係について調査検討した様子は
ないから,原告の対応が上記のとおりであったとしても,被告が注意義務を果
たしたということはできない。
したがって,被告の主張を採用することはできない。
6争点(4)損害論,(4)−1損害について
(1)被告は,上記侵害が認められる楽曲について,争いのない事実等(7)のと
おり,楽曲データをカラオケ端末機のハードディスクに記録することにより
楽曲を複製し,また,新譜の楽曲データをカラオケ端末機のハードディスク
に蓄積させるために,楽曲を公衆送信する行為(送信可能にする行為を含
む。)をしているから,これにより,原告に生じた損害を賠償すべきである。
(2)損害の算定
ア弁論の全趣旨により,音楽著作物の著作権の大多数は,JASRACに
対する信託により管理されており,業務用通信カラオケの分野においても,
利用される楽曲の大半はJASRACが管理する楽曲であること,上記著
作権の管理において,実務上適用されているのは,JASRAC規程(乙
40)であり,同規程は,利用者団体であるAMEIとの協議を経て合意
され,文化庁に届け出られたものであって,利用者の意見が一定程度反映
されたものであることが認められるところ,上記JASRAC規程に基づ
き算定される使用料は,上記著作権の利用の対価額の事実上の基準として
機能するものであり,著作権法114条3項に基づく使用料相当損害金を
定めるに当たり,これを一応の基準とすることには合理性があると解され
る。
そして,原告が原権利者からの委託を受けて管理する楽曲の総数が明確
ではなく,JASRACの管理する楽曲の総数(700万曲以上)より桁
違いに少ないものと推認されることからすると,前記の損害金は,JAS
RAC規程(乙40)の包括的利用許諾契約方式(争いのない事実等(8)
イ(イ)①,(ウ)①)により算定するのは相当ではなく,同規程の個別課金
方式(争いのない事実等(8)イ(イ)②,(ウ)②)により,原告が管理する
楽曲ごとに,個別に算定するのが相当である。
イ原告は,原告規程を基準に使用料相当損害金を算定すべきであると主張
するので,検討する。
争いのない事実等に加え,証拠(甲8∼10,16∼33,43,69,
113,乙3,32∼35,37(枝番を含む。),証人丙,同丁)及び
弁論の全趣旨によると,原告とAMEIとの交渉の経緯について,次の各
事実が認められる。
(ア)争いのない事実等(1)アのとおり,原告は,平成14年4月15日
に設立され,同年6月28日付けで,著作権等管理事業法に基づく著作
権等管理事業者として,文化庁長官の登録を受けた。
(イ)原告は,平成14年7月ころ,文化庁から,原告規程について,利
用者又はその団体の意見を聴取するようにとの指導を受け,その後,約
2週間をかけて,利用者団体約100社を,順次訪問し,原告規程等に
ついて説明した。
(ウ)原告の事務局長丙は,平成14年8月1日,一利用団体としてAM
EIを訪問し,原告の会社説明資料,管理委託契約約款及び原告規程を
交付した上,質問及び意見があれば,1週間を目途に連絡をもらいたい
旨要請した。
(エ)AMEIの著作権・ソフト委員会カラオケ部会長丁は,原告に対し,
平成14年8月8日付け書面(乙3)により,1週間の期間で会員各社
の意見を取りまとめて回答することは時間的に不可能であること,著作
権信託譲渡の根拠や管理楽曲のリストが示されていない中で,包括的な
定めのある原告規程を検討し,意見を述べたり,協議をすることは難し
いこと,原告の資料提出の後,改めて十分な期間をおいた上で,団体と
しての意見を述べたいこと等を伝えた。
(オ)原告は,平成14年8月9日,文化庁長官に対し,著作権等管理事
業法13条1項に基づき,原告規程(甲69)の届出をした。なお,原
告が訪問した利用者団体のうち,AMEI以外は,いずれからも特に意
見の提出はなかった。
(カ)原告は,AMEIに対し,平成14年8月15日,原告規程及び管
理委託契約約款の差替版を送付したが,その後,しばらくの間,AME
Iに連絡したり,資料を送付することはなかった。
(キ)原告は,管理する楽曲をある程度整理できたとの認識から,使用料
を徴収したいと考え,平成15年5月28日ころ以降,AMEIの会員
に対して書面を送付し(甲8),原告が管理する楽曲の使用料を徴収す
るため,使用料等の打合せをするよう申し入れた。
(ク)AMEIの丁は,原告に対し,平成15年6月25日付け書面(甲
9)により,原告の主張の根拠となるもの及び資料等の提出を受けた上
で,十分な検討期間を設け,その後,原告規程について協議を行う必要
がある旨を回答した。原告は,平成15年6月26日付け書面(甲1
0)により,上記回答内容に理解を示した上,早期に協議を開始したい
旨を伝えた。
(ケ)原告とAMEIは,平成15年7月9日,AMEIにおいて,1回
目の協議をした。AMEIは,原告に対し,原告の事業スキームの変更
について説明すること,原権利者とTMA間及びTMAと原告間の各契
約の内容を開示し説明すること,原告が管理していると主張する楽曲全
曲の情報を開示すること,原告規程については,上記の点等が明確にな
った後に協議することを等を求めた。
(コ)AMEIは,平成15年7月中旬ころ,韓国の音楽出版社から,原
告が,AMEIとの協議が整ったのでカラオケメーカーから使用料を徴
収できる旨話しているとの情報の提供を受けた。AMEIが原告にこの
ことを確認したところ,原告は,同月23日付け電子メール(乙35)
により回答し,原告としては,AMEIとの話合いの場があっただけで,
使用料徴収に関しての合意という状態でないことを承知しており,その
ような事実は,韓国の著作者達に通達していない旨を述べた。
(サ)原告は,AMEIに対し,平成15年8月,契約曲リスト,著作権
信託契約雛形等の資料及び回答書を送付したが,AMEIは,更に説明
と追加資料の提出を求め,その後も相互に電子メールのやりとりをする
等した。
(シ)原告とAMEIは,平成15年11月28日,原告において,2回
目の協議をしたが,AMEIとしては,原告の説明や資料が十分ではな
いとの認識であった。AMEIの丁は,原告に対し,平成15年12月
26日付け再要望書(甲31)により,更に説明と資料を求めた。
(ス)AMEIとしては,原告規程が包括的な定めであるため,その妥当
性,経済的合理性を検証するためには,まず,原告が,何曲について適
法に著作権を保有管理しているのかを確認する必要があり,その確認を
経た後でなければ,原告規程について協議することはできないとの認識
であった。これに対し,原告は,結局,交渉中,AMEIに対し,原権
利者,TMA及び原告の信託譲渡契約等に関する署名押印済みの契約書
を開示したり,原告のホームページに管理楽曲のリストを公表したりす
ることはなかった。
(セ)原告は,AMEIに対し,平成16年1月15日付けメール(甲3
2)により,今後のAMEIとの協議を取り止める旨を通知した。
(ソ)原告は,被告に対し,平成16年5月20日付け書面(甲33)に
より,これまでの著作物の使用に関し,使用料相当額を支払うこと,ま
た,今後,原告との間で著作物の使用に関する契約を締結すること等を
請求した。
(タ)原告は,当裁判所に対し,平成16年8月31日,本件訴訟を提起
した。
以上の認定事実によると,原告規程については,利用者団体であるAM
EIにおいて,包括的利用許諾方式を定める原告規程の内容を検討する前
提として,原告が管理する楽曲の根拠の説明及び資料の提出を求め,原告
も一応これに応じていたが,なお不十分な点が多く,結局のところ,AM
EIが原告規程の内容について検討の上,意見を述べる状況には至らなか
ったのであるから,原告により,利用者団体の意見聴取義務が十分に履行
されたとはいえない。
そうすると,原告規程が既に文化庁に届け出られており,AMEI以外
の利用者団体からは,特に意見の提出はなかったことを考慮しても,前記
の交渉過程により,原告規程の内容の合理性が基礎付けられたと認めるこ
とはできない。
また,内容においても,原告規程の利用単位使用料は,カラオケ端末機
に楽曲を複製することに対する対価と解されるが,管理楽曲数が700万
曲を超えるJASRACのJASRAC規程における利用単位使用料の最
低額が650円であるのに対し,管理楽曲数が桁違いに少なく,これを正
確に算定することが困難な原告の原告規程における利用単位使用料の最低
額が200円であり,いずれも毎月徴収することを予定していること等か
らすると,原告規程が必ずしも合理的な内容と認めることはできず,これ
を使用料相当損害金の算定の基準として採用することはできないというべ
きである。
原告は,一般管理事業者の意見聴取は,努力義務が訓示的に課されてい
るにすぎないし,管理する著作物等の情報提供は義務付けられておらず,
原告は業務改善命令を受けたことがないことなどを理由に,原告規程を適
用すべきであると主張する。
しかしながら,原告の主張する事情が認められるとしても,上記に認定
した経緯のとおり,原告規程は,文化庁に届出られたものの,利用者団体
の意見聴取が十分行われないまま推移し,実際にも適用されることがなか
った合理性を欠くものであるから,音楽著作物の著作権の使用料相当損害
金算定の基準としては不適当なものであり,これを採用することはできな
いといわざるを得ない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
ウ被告は,使用料は,請求対象期間に被告がJASRACに現に支払った
金額に基づき,JASRACと原告の各管理楽曲数が異なることを考慮し
て,何らかの按分を行い算定すべきであると主張するが,被告が現実に支
払った使用料の金額を,被告が損害賠償として著作権管理業者に支払うべ
き使用料の上限とすることや,これを原告とJASRACで按分すること
について,合理的な根拠を見出すことはできないから,被告の上記主張を
採用することはできない。
(3)以上を前提に,具体的な損害額を算定する。
上記のとおり,本件において,使用料相当損害金は,JASRAC規程
(乙40)の個別課金方式(争いのない事実等(8)イ(イ)②,(ウ)②)によ
り,原告が管理する楽曲ごとに個別に算定するのが相当であるから,1楽曲
当たり,作詞,作曲のそれぞれにつき,基本使用料は1か月各100円,利
用単位使用料は各20円とするのが相当である。
そして,上記のとおり,本件において,原告が管理していると認められる
楽曲数は,作詞が289曲,作曲が275曲であるところ,これらの各楽曲
に対するアクセス回数は明らかではない。そこで,原告が当初請求していた
請求対象楽曲1297曲に対する請求対象期間における総アクセス回数25
3万9241回(被告準備書面(8)21頁)に,請求対象楽曲数における原
告が管理していると認められる楽曲数の占める割合を乗じた数をもって,原
告が管理していると認められる楽曲に対するアクセス数と認めるのが相当で
ある。
さらに,各楽曲の管理期間も考慮すれば,上記損害金は,次のとおり算定
するのが相当である(なお,原告の管理する楽曲のうち,再生されるべき時
間が5分を超える楽曲があることを認めるに足りる証拠はない。)。
ア基本使用料相当損害金
(ア)作詞49万9300円
(イ)作曲42万2435円
なお,各楽曲の管理期間について,1か月当たり100円を乗じて算定
した金額(1か月に満たない部分は,日割計算する。)を合計した金額で
ある。
イ利用単位使用料相当損害金
(ア)作詞
253万9241回×289/1297曲×20円=1131万59
69円
(イ)作曲
253万9241回×275/1297曲×20円=1076万77
91円
ウ合計2300万5495円
7争点(4)−2過失相殺
被告は,被告による著作権侵害が成立するとしても,原告が,その権限につ
いて時宜に適った方法で被告又はAMEIに合理的な説明を行わず,また,根
拠を示さなかった結果であるとして,過失相殺(民法722条2項)を主張す
る。
しかしながら,被告による著作権侵害は,被告が,利用しようとする音楽著
作物について,自らすべき著作権の帰属に関する事前の調査をせず,当該著作
物を利用し続けたことにより成立したものであるから,仮に,原告が上記の対
応をしていたとしても,過失相殺の根拠とはならないというべきである。した
がって,被告の上記主張を採用することはできない。
8争点(5)その他の主張(権利濫用,禁反言)
その他,被告は,原告の,AMEI又は被告との連絡の経緯から,禁反言又
は権利濫用の主張をするが,このような主張は,本件弁論準備手続終了後であ
り,かつ,証拠調べ終了後である平成21年9月16日の本件第4回口頭弁論
期日において陳述された被告準備書面(12)において,初めて主張されたもので
あり,被告において,従前主張することのできなかった特段の理由はなく,ま
た,このような主張を審理すると,訴訟の完結を遅延させることとなるから,
時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)に該当する。
したがって,被告の上記主張は,職権により,却下する。
9争点(6)不当利得返還請求(予備的請求)
原告は,予備的請求として不当利得返還を請求するが,上記のとおり,被告
による侵害が認められる楽曲以外の請求対象楽曲については,原告に著作権の
帰属を認めることはできないから,原告は,これらに関する訴えについての原
告適格を欠くというべきである。
第4結論
以上によれば,本件訴えのうち,裁判所楽曲目録−作詞,−作曲記載の各楽曲
のうち,別紙裁判所楽曲目録−作詞(却下),−作曲(却下)記載の楽曲に関す
る部分については,原告は原告適格を欠いているから,これを却下することとし,
原告が原告適格を有する別紙裁判所楽曲目録−作詞(認容),−作曲(認容)記
載の楽曲については,原告の請求は,2300万5495円及びこれに対する訴
状送達の日の翌日である平成16年9月9日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合の遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるからその限度で認容し,そ
の余の請求は理由がないから棄却することとし,仮執行免脱宣言は,相当でない
からこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
清水節裁判長裁判官
菊池絵理裁判官
坂本三郎裁判官

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