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平成27年11月27日判決名古屋高等裁判所
平成26年(ネ)第342号損害賠償請求,承継参加申出控訴事件(原審津地
方裁判所平成21年(ワ)第893号,同平成25年(ワ)第174号)
主文
1原判決のうち控訴人津市敗訴部分を取り消す。
2上記部分につき,被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3控訴人Aの控訴に基づき,原判決のうち控訴人Aに関する部分を次のとおり
変更する。
(1)控訴人Aは,被控訴人Bに対し,152万円及びこれに対する平成22
年1月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被控訴人Bのその余の請求(当審における選択的追加請求を含む。)を
棄却する。
4訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人らと控訴人津市との間においては,
被控訴人らの負担とし,被控訴人Bと控訴人Aとの間においては,これを10
分し,その9を被控訴人Bの負担とし,その余を控訴人Aの負担とする。
5この判決3項(1)は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人津市
(1)原判決中,控訴人津市の敗訴部分を取り消す。
(2)上記の部分につき,被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
2控訴人A
(1)原判決中,控訴人Aの敗訴部分を取り消す。
(2)上記の部分につき,被控訴人Bの請求を棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人Bの負担とする。
3被控訴人B
(1)控訴人らの控訴をいずれも棄却する。
(2)控訴人Aは,控訴人津市と連帯して,被控訴人Bに対し,644万17
80円及びこれに対する平成22年1月8日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え(被控訴人Bは,当審において,不法行為に基づく損害
賠償請求を選択的に追加した。)。
(3)控訴費用は,控訴人らの負担とする。
4被控訴人C
(1)控訴人津市の控訴を棄却する。
(2)控訴費用は,控訴人津市の負担とする。
第2事案の概要(略語は,新たに定義するものを除き,原判決の例による。以下,
本判決において同じ。)
1本件は,被控訴人Bが所有していた原判決別紙物件目録記載1及び2の土
地(B土地)並びにこれに隣接する道路(本件道路)において陥没事故(本件
道路陥没事故)が発生し,被控訴人BがB土地上に所有する原判決別紙物件目
録記載3の建物(本件建物)に居住できなくなったと主張して,
(1)被控訴人Bが,
アB土地を含む区域の宅地造成事業について開発許可を行い,かつ,本件
道路を管理する控訴人津市に対し,国家賠償法1条1項又は同法2条1項
に基づく損害賠償として,2745万6300円並びに5104万320
1円に対する損害発生の日である平成18年7月9日から平成25年3月
8日(債権譲渡の日)まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,及
び2745万6300円に対する平成25年3月9日(債権譲渡の日の翌
日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を
求めるとともに,
イB土地の宅地造成を行った上で被控訴人BにB土地を売却した控訴人A
に対し,民法415条に基づく損害賠償として,5104万3201円及
びこれに対する損害発生の日である平成18年7月9日から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案と,
(2)被控訴人Bから控訴人津市に対する国家賠償法1条1項又は同法2条1
項に基づく損害賠償請求権のうち本件建物に関するものから2358万69
01円を譲り受けた被控訴人Cが,控訴人津市に対し,上記2358万69
01円及びこれに対する債権譲渡の日の翌日である平成25年3月9日から
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案
である。
2原審は,被控訴人Bの請求について,控訴人津市に対する請求を国家賠償法
2条1項に基づく損害賠償金4642万5601円から上記1(2)の債権譲渡
金額を控除した2283万8700円及びこれに対する損害発生の日である平
成18年7月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
並びに上記1(2)の債権譲渡金額2358万6901円に対する前同日から債
権譲渡の日である平成25年3月8日までの民法所定の年5分の割合による遅
延損害金の限度で,控訴人Aに対する請求を644万1780円及びこれに対
する催告(訴状送達)の日の翌日である平成22年1月8日から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金の限度でそれぞれ認容し,被控訴人
Cの控訴人津市に対する請求を全部認容した。
これに対し,控訴人らは,それぞれその敗訴部分について控訴を申し立てた。
また,被控訴人Bは,当審において,控訴人Aに対し,原審で主張していた
債務不履行に基づく請求に加え,不法行為に基づく請求を原審認容額の限度で
選択的に追加し,不法行為に基づく損害賠償金644万1780円及びこれに
対する不法行為の後(訴状送達の日の翌日)である平成22年1月8日から支
払済みまで年5分の割合による金員の支払を求めた。
3その余の事案の概要は,原判決8頁3行目の「一帯(後に本件道路陥没事故
の現場となる部分を含む。)に厚さ最大8mの」を「一帯に」に改め,11頁
2行目の「原告が」から3行目末尾までを次のとおり改め,次項以下に当審に
おける当事者の主張を加えるほか,原判決「事実及び理由」欄の第2の2ない
し5記載のとおりであるから,これを引用する。
「本件建物に関して生じた損害賠償請求権から2358万6901円を譲渡し,
その頃,これを控訴人津市に通知した(丁7)。
(8)控訴人Aへの訴状の送達
被控訴人Bは,平成21年12月19日,控訴人Aに対し,本件道路陥没
事故による損害の賠償を求めて本訴を提起した。本件の訴状は,平成22年
1月7日に控訴人Aへ送達された。」
4当審における控訴人津市の主張
(1)予見可能性についての追加的主張
控訴人津市による道路の設置管理に関して問題になるのは,D開発区域の
どこかで地面が「陥没」することの予見可能性ではなく,本件道路陥没地点
が「陥没」することが現実的に予見可能であったかどうかである。
これについて,原判決は,平成16年のDとの32条協議の中でD開発区
域付近の空洞調査の実施が必要である旨を指摘したことを予見可能性を基礎
付ける事実として挙げている。
しかし,これは,D開発区域のどこかに磨き砂の廃坑が依然として存在し
ていて陥没の危険性が残存しているかもしれないという抽象的な認識に基づ
きDに注意を喚起したものであって,本件道路陥没地点の空洞による陥没事
故を予見していたためではない。
本件道路陥没地点は,もともとは標高22.8mの平坦な谷であったとこ
ろ,平成4年頃に誰かがこれを埋め立てて標高30.1mまで盛土を行った。
その後,控訴人Aは,平成16年頃に山林整形を行い,本件道路陥没地点の
西側の谷を埋め立てた。このように,本件道路陥没地点の盛土が行われたの
は平成4年頃であるところ,当時,都市計画法29条の開発許可の権限を有
していたのは三重県知事であり,控訴人津市は,この埋立ての事実を知らな
かった。
また,本件道路を施工する際,道路部分を掘り下げても空洞は見当たらず,
重量のある締固め用ロードローラーで転圧したりトラクターショベルで資材
を運んだりしていても,重量のある建設機械が地中に転落するような空洞が
あることはうかがわれなかった(乙6の5枚目,39枚目)。したがって,
本件道路が通常の衝撃に対して安全なもので,安全かつ円滑な交通を確保す
ることができるものであったことは明らかである。
(2)回避可能性についての追加的主張
原判決は,控訴人津市が「D開発区域内の一定数のか所において深度20
m程度のボーリング調査」を行うように行政指導していれば,「空洞が発見
されていた可能性は十分あったということができ」,「空洞が確認されてい
れば,空洞による陥没事故が発生する可能性が高い土地であることを認識す
ることができ」たと判示する。
しかし,本件道路陥没地点は,Dが本件道路で空洞調査をした5か所の地
点とは全く別の場所である。したがって,Dが空洞調査をした場所で6mよ
りも深い20mの深度でボーリング調査をして空洞が発見できたとしても,
そして,その空洞に地盤改良措置をとったとしても,本件道路陥没地点の陥
没という結果を回避できなかったことは明らかである。
(3)行政の危険管理責任の補充性
控訴人AがB土地の開発行為をし,被控訴人CがB土地の地盤に適した工
法によらずに本件建物を建築したことによってこれら当事者が負う責任は,
被控訴人Bに直接被害を与えたことによる危険責任である。これに対し,控
訴人津市が負う責任は,行政の危険管理責任である。この場合,行政の責任
は,もっぱら損害の直接原因である土地災害や犯罪など自然や社会における
危険を適正に管理し損害の発生を防止しなかったところにある。
したがって,本件における第一次的責任者は,控訴人Aや被控訴人Cであ
って,控訴人津市は第二次的責任者にすぎない。よって,控訴人津市が控訴
人Aや被控訴人Cより重い責任を負うことはあり得ない。
(4)被控訴人Bの代替地への転居損害について
ア本件道路陥没事故と転居損害との因果関係について
被控訴人Bが代替地へ転居するための費用相当額の損害(土地購入代金
見込額や建物建築工事代金見込額など。以下「転居損害」という。)は,
本件道路陥没事故と相当因果関係のある損害ではない。
すなわち,この転居損害は,B土地の地中に存在する空洞によりB土地
を建物の敷地とすることができないことによる損害であるが,B土地の空
洞は,本件道路が建設される以前から存在していたもので,本件道路陥没
事故により形成されたものではない。本件道路陥没事故は,B土地にある
空洞という隠れた瑕疵を露呈する契機とはなったが,本件道路陥没事故と
B土地の空洞の存在との間には,いわゆる原因の競合としての原因の共働
も原因の重複も付加的原因の関係もない。
したがって,本件道路の陥没事故と転居損害との間には因果関係がない。
イ本件建物及びB土地の修復可能性について
控訴人津市は,平成18年10月20日に本件道路陥没地点付近の復旧
工事に着工し,平成19年2月28日にこれを完成させた。
この復旧工事の結果,現在までに,B土地が本件道路陥没地点の方向に
ずり下がる事態は再び発生することなく,目視の限りでは本件建物の傾斜
が本件道路の陥没当時よりひどくなったこともない。これは,上記工事の
効果が工事後9年経った現在でも有効に持続していることを示すものであ
る。
これに対し,E意見書(丁19)は,「仮に,本件土地について前述の
とおり工事を実施し,宅地としての状態を復旧したとしても,地下坑道が
ある限り,本件土地の前面道路等が陥没する危険は何ら解消されず,周辺
土地を含めた宅地としての安全性は何ら対応できるものではない。」とす
る(丁19・8頁)。
しかし,地下坑道がある限りB土地の前面道路等が陥没する危険は何ら
解消されないということと,道路管理の瑕疵とは別の次元の事柄である。
本件道路が再び陥没してB土地がずり下がり,再度本件建物が傾いたら,
そのときに控訴人の国家賠償法上の責任が問題になるにすぎない。
また,B土地の地下の空洞は,深度13m~25mの間のN値34~5
0という非常に堅固な地盤に挟まれる形で存在し,この堅固な地盤によっ
て支持されているから,B土地は安定している。そして,本件道路陥没事
故後にA開発区域に3軒の建物が新築されていることからしても,本件道
路陥没地点の周辺が宅地としての安全性に欠けるということはない。
さらに,本件建物についても,本件道路陥没事故後,本件建物の土間コ
ンクリート部や布基礎に亀裂は一切見られず,玄関ドア枠にも窓枠にも引
き戸の枠にもゆがみはなく,玄関ドアの開閉に何らの支障はない(乙16
写真1)。他方,本件建物の沈下部分の地盤は,上記のとおり既に改良済
みであって,当該箇所についてはアンダーピニング工法も不要である。
したがって,本件建物は,北西隅の沈下部分をジャッキアップして全体
を水平に戻す方法で補修することができる。
(5)補修費用
上記(4)のとおり,本件建物は,北西隅の沈下部分をジャッキアップして
全体を水平に戻す方法で補修ができるが,本件では,補修費用を見積もる時
間に制約がある上,壁内等の不可視部分の詳細把握が困難であるため,控訴
人津市においては上記方法による補修費用を直接算定することができない。
そこで,公共事業の施行に伴う損失補償(一般補償)の算定基準(乙17)
を準用する見積により,浮揚工法による建物移転(曳家)を想定して算定す
ると,その額は建物について986万8869円,外構について130万0
342円になる(乙16)。
そして,本件建物の北西隅の沈下部分をジャッキアップして全体を水平に
戻す方法による場合は,上記の浮揚工法よりも補修費用は低額になる。また,
上記費用には,基礎工事費としてすべての基礎取り壊し費及び新設費を含ん
でいるが,実際には,現存する基礎はそのまま使うことができるので,費用
はさらに低額になる。
5控訴人A
(1)時機に後れた攻撃防御方法
被控訴人Bによる不法行為に基づく訴えの追加的変更(6(10))は,当審
の終結間際になって行われたもので,時機に後れており認められるべきでは
ない。
(2)違法性の不存在
本件において,控訴人Aが被控訴人Bに売却したB土地には何の瑕疵もな
いから,控訴人Aに債務不履行はない。
また,売買目的地周辺がかつて磨き砂採掘跡地であったことの説明義務は,
債務の本旨の中核をなすものではないから,説明義務違反は債務不履行の問
題ではなく,不法行為責任の範疇に属するものである。
仮に,この説明義務を広い意味での債務ととらえるとしても,その内容は
契約上の信義則である。したがって,仮に,宅建業法35条の説明義務違反
があったとしても,それが民法上の債務不履行を構成するかどうかは,契約
法の理念に則り,事案の特殊性を考慮して判断されるべきである。
本件において,控訴人Aは適切な空洞調査を行ったが,危険を予測できる
空洞は皆無であった。そして,陥没事故は,本件売買契約の時点まで多年に
わたり生じていなかった。その上,B土地を含むF地区が磨き砂採掘跡地で
あることは,津市在住の人であれば皆知っているにもかかわらず,人々はF
地区の土地を購入して家屋を建設し,長年生活している。これらの実情から
すれば,購入者に対し磨き砂採掘跡地であることを告げたとしても,購入者
が売買契約を締結しない可能性が高いとはいえない。
さらに,控訴人Aは,B土地周辺全体の状況について把握している控訴人
津市から開発の許可を得ており,B土地はもちろんのこと,周辺の土地につ
いても崩落の危険がないものとして控訴人津市を信頼していた。控訴人Aは,
こうした理由から,相当な理由をもってB土地には陥没は起こりえないと信
じた。
これらの状況からすると,B土地周辺がかつて磨き砂採掘地であったこと
は,宅建業法に定める説明義務の範疇に属さない。また,仮に,同法の構成
要件に該当するとしても,控訴人Aがこれを説明しなかったことは,信義則
違反とまで評価されるものではなく,違法性がない。
(3)因果関係の不存在
本件において,磨き砂採掘跡地の規模や分布は不明であり,周辺に立派な
家屋が林立して団地を形成し,過去長年磨き砂跡地が陥没したことはもちろ
ん,その兆候さえなかった。こうした当時の客観的状況を踏まえると,被控
訴人Bは,仮にB土地が磨き砂跡地であるという説明を受けたとしても,B
土地を購入したと考えられる。したがって,仮に控訴人Aに説明義務違反に
基づく信義則違反が認められるとしても,B土地の購入との間に相当因果関
係は認められない。
(4)損害
仮に,控訴人Aに債務不履行又は不法行為責任が認められるとしても,
B土地の客観的価値は,控訴人Aが本件道路陥没事故後に周辺の土地を売却
した価格よりも高い。控訴人Aが周辺の土地を廉価で販売したのは,控訴人
Aが会社経営上の都合により,廉価であっても売却して資金を得る必要があ
ったからである。
そして,土地の価格は,本件道路陥没事故のあった平成16年から控訴人
Aが周辺土地を売却した平成23年までの間に,全国で下落しているから,
価格を単純に比較すると一般の下落率に従った価格下落の影響を受けること
になる。実際は,陥没したことのみに基づく下落率は9%である(丙20)。
そうすると,本件における被控訴人Bの損害は,陥没による価格低下分とし
て,本件売買契約の代金の9%である136万8000円になる。
(5)消滅時効
仮に,控訴人Aに不法行為責任が認められるとしても,被控訴人Bは,本
件道路陥没事故のあった平成18年7月9日には不法行為の事実を認識し得
たはずであるから,それから3年を経過した平成21年7月9日の到来によ
り消滅時効が完成している。控訴人Aは,平成26年10月30日陳述の準
備書面をもってこの時効を援用する。
6被控訴人B
(1)国家賠償法1条1項に基づく請求についての補充主張
国家賠償法1条1項に基づく請求については,被控訴人Cの主張(7(1))
を援用する。
(2)予見可能性についての追加的主張
国家賠償法2条1項で問題とされる予見可能性とは,特定の地点において
災害や事故が発生することについて具体的に予見できることまでは必要でな
く,一定の地域で,災害や事故が発生する蓋然性があることを予見できれば
足りる。したがって,昭和52年の線引き見直しの際における控訴人津市の
認識や,昭和52年調査報告書(甲12)で指摘された内容,控訴人AやD
に対して宅地造成後においても安全が確保できるよう開発許可の条件を付け
たこと(乙1,丁2),本件道路陥没事故が発生する約10か月前と3か月
前の2度にわたって本件道路陥没地点に近いF公園で陥没事故が発生してい
たことからして,控訴人津市が本件道路陥没地点の陥没の危険性を十分に予
見していたことは明らかである。
また,控訴人津市は,本件道路陥没地点の盛土が平成4年頃に行われたと
主張しているが,この主張は,証拠(甲15の2,丙5の1・9枚目及び1
0枚目,丙11・2枚目)に反する。本件道路陥没地点の盛土は,本件開発
許可にかかる開発行為の際に行われたものである。それにもかかわらず,控
訴人津市は,本件開発許可に当たって,盛土による影響を考慮しておらず,
都市計画法に違反している。
このほか,被控訴人Bは,被控訴人Cの主張(7(2))を援用する。
(3)回避可能性についての追加的主張
本件道路陥没事故後,控訴人津市が空洞調査を行った本件道路陥没地点付
近の7地点のうち4地点において,いずれも深度20mの範囲内で空洞が確
認された(丙8~11)。また,控訴人津市は,本件道路陥没事故後,津市
F地区における開発行為許可申請業者に対しては,磨き砂採掘跡の空洞の有
無を確認するために調査深度20mのボーリング調査を実施するように行政
指導を行うようになった(証人M35頁)。これらのことから,控訴人津市
がDに対する開発許可手続において少なくとも20mのボーリング調査を行
っていれば,本件道路陥没地点の空洞を確認することは十分に可能であった。
そして,確認された空洞については,G団地を開発したHが空洞処理をした
ように,水締め転圧,埋め戻し処理,セメント安定処理等を行えば空洞によ
る陥没の危険性を除去することができた(乙7)。
このほか,被控訴人Bは,被控訴人Cの主張(7(3))を援用する。
(4)行政の危険管理責任の補充性について
控訴人津市の主張する行政の危険管理責任の補充性は,被害者である被控
訴人Bに対する責任を制限する根拠とはなり得ない。行政主体は,被害者と
の関係では,直接加害者と同様に不真正連帯債務者として被害額全額の損害
賠償責任を負う。
(5)被控訴人Bの代替地への転居損害について
ア本件道路陥没事故と転居損害との因果関係について
被控訴人Bは,本件道路陥没事故と転居損害との因果関係について,被控
訴人Cの主張(7(5)ア)を援用する。
イB土地及び本件建物の修復可能性について
控訴人津市は,本件道路陥没事故後に応急修繕工事を行ってはいるが,
注入材の選択や注入率及び注入ピッチの設定が不適切で,注入範囲も不十
分である上,崩壊土の体積収縮に対する検討も欠いている。そのため,こ
のままでは周囲の土砂が崩壊土の未改良範囲に流出し,隣接地域の地盤を
弱体化させる可能性及び周辺地域の陥没を誘引する危険性が懸念される。
また,本件委員会は,「すでに施工されているグラウト工による緊急対
策工は,道路付近での当初の地盤陥没の拡大に対してある程度の効果は見
込めるものと思われるが,これは陥没地域全体をカバーできるものではな
く,陥没の主因であると考えられる地下水の処理も行っていないため,今
後の経過を注意深く観察する必要がある。」と警告し,集水井工を施工し
た上,復旧対策の効果が十分確認されるまでは,陥没箇所周辺の立ち入り
を引き続き禁止する必要があるとしている。
なお,控訴人津市は,平成19年2月28日に応急修繕工事を実施して
から現在まで当該工事部分が再陥没していないことをもって,上記工事実
施により復旧工事が完了したと主張する。しかし,昭和52年報告書(甲
12)においても,空洞による陥没の危険性は長期間のうちに徐々に拡大
発展することが指摘されているから,短期間の経過観察をもって再陥没の
危険性はないということはできない。
したがって,B土地は,控訴人津市が集水井工などの復旧対策工事を実
施しない限り,被控訴人Bがいかなる復旧工事を行ったとしても,宅地と
して安全性を満たさないことは明らかである。
また,仮に,B土地の復旧工事が可能であるとしても,その費用は,
(6)で後述するとおり,転居損害を上回る。加えて,B土地の復旧工事に
伴う曳家工事を行う場所を確保することも困難であるから,B土地の復旧
対策工事は現実的に不可能である。
さらに,本件建物は,本件道路陥没事故により,ゴルフボールやテープ
が勢いよく転がり下りるほど大きく傾き,多大なねじれ圧力が加わってい
ることは明らかである。
したがって,B土地及び本件建物が修復不可能であることは明白である。
このほか,被控訴人Bは,被控訴人Cの主張(7(5)イ)を援用する。
(6)補修費用についての予備的主張
仮に,復旧工事によって被控訴人Bの損害が回復するとしても,アンダー
ピニング工法を採用したグラウト工法の工事費用は,消費税を8%とすると
4693万1400円を要する。
また,E意見書(丁19)によれば,B土地の復旧工事費用として,薬液
注入工事による場合は9980万円,鋼管杭の挿入工事による場合は503
2万円かかるとされ,見積書によれば,二重管複相注入工法による薬液注入
工事の費用は8671万1000円(税別。丁27),上位工法(二重管ダ
ブルパッカ工法)による薬液注入工事の費用は9496万4000円(税別。
丁30)かかるとされる。このことからしても,仮に本件土地についてのみ
復旧工事を行ったとしても,被控訴人Bが主張する転居損害を上回る費用が
発生することが裏付けられる。
このほか,被控訴人Bは,被控訴人Cの主張(7(6))を援用する。
(7)控訴人Aの説明義務違反の違法性
売買の対象となっている土地が磨き砂の採掘跡地であり陥没のおそれがあ
ることから都市計画法上の開発許可の条件として空洞調査を確実に履行する
ことが条件として付されているとの事実は,当該土地の購入予定者にとって
は,売買契約を締結する際の重要な判断要素となることが明らかであり,同
事実の説明義務違反は,売買契約上の売主の付随的義務違反として債務不履
行に当たる。
また,控訴人Aは,B土地が磨き砂の採掘跡地であることは,宅建業法に
定める説明すべき事項の範疇外であると主張するが,都市計画法上の開発許
可の条件として磨き砂の採掘跡の空洞調査を確実に履行することが条件とし
て付されていたことは,宅建業法35条1項2号に基づく説明義務の範疇に
含まれることは明らかである。
(8)説明義務違反と損害との因果関係
被控訴人Bは,もし,控訴人Aが宅建業法に基づく説明義務に基づき,上
記の開発許可の条件について説明を行っていれば,B土地を購入することは
なかった。
(9)控訴人Aの賠償すべき損害
B土地には空洞が存在し,これに対する処置をしない限り,将来のB土地
及び周辺地盤の陥没について担保することはできない。したがって,B土地
の宅地としての経済的価値は無に等しいから,控訴人Aは,少なくともB土
地の売買金額相当額を賠償すべきである。
(10)控訴人Aの不法行為責任(訴えの追加的変更)
控訴人Aは,被控訴人Bの上記主張(原判決引用部分)のとおり,被控訴
人Bに対してB土地が磨き砂の採掘跡地であるという説明をせず,本件開発
許可に付されていた許可条件を示さなかった。この説明義務違反は,債務不
履行だけでなく不法行為にも該当する。よって,被控訴人Bは,控訴人Aに
対し,債務不履行に基づく損害賠償請求と選択的に,不法行為に基づく損害
賠償請求として644万1780円及びこれに対する不法行為の後(訴状送
達の日の翌日)である平成22年1月8日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員の支払を求める。
(11)控訴人Aの不法行為責任の消滅時効について
控訴人Aは,被控訴人Bに対し,磨き砂層の空洞調査を行うことが本件開
発許可の条件として付されていることを説明しておらず,また,重要事項説
明書にも開発許可の条件を示した書類を添付していなかった。そのため,被
控訴人Bは,本件訴訟で平成24年2月9日に控訴人津市が開発行為許可書
の控え(乙9の2)を提出するまで本件開発許可に上記条件が付されている
ことを知らなかった。
したがって,被控訴人Bが控訴人Aによる宅建業法に基づく説明義務違反
を認識したのは平成24年2月9日であり,不法行為責任の時効期間は経過
していない。
7被控訴人C
(1)国家賠償法1条1項に基づく請求についての補充主張
ア都市計画法33条に基づく開発許可審査手続との関係における津市長及
び控訴人津市の公務員の職務上の義務違反について
都市計画法33条1項7号の趣旨は,災害防止の観点から,開発行為を
行政庁による「許可」にかからしめ,行政庁による開発許可を通して当該
開発区域内外で生活する住民の生命,身体の安全等の保護を図ろうとする
ことにある(最高裁平成9年1月28日第三小法廷判決参照)。そして,
被控訴人Cが原審で主張した事実(原判決11頁18行目から13頁10
行目まで)からすれば,控訴人津市には,定性的には,A開発区域内の土
地又はこれに隣接する区域の土地の地中に存在する空洞を端緒とした地表
陥没等の災害が発生し,これを引き金として,本件土地内の地盤が沈下又
は流出するに至るなどの危険性を具体的な因果経過に即して十分に認識又
は予見することが可能であったというべきである。また,本件道路陥没地
点を含めA開発区域に隣接する区域一帯に施された最大8mの盛土は,A
開発区域における開発行為と一体のものと評価できる上,控訴人Aによる
開発行為とDによる開発行為は実質的にみて一体の開発行為と評すべきで
ある。
以上によれば,開発許可行政を担う控訴人津市の公務員及び津市長には,
本件開発許可の審査に際し,自ら実施した昭和52年調査の結果及びそこ
に示された今後の調査方針等の内容等をも踏まえて,自ら又は控訴人Aを
して,本件開発許可申請区域内のほか,これに隣接し本件開発許可申請区
域内に影響を及ぼしうる本件道路陥没地点等の周辺地域を含めて必要かつ
十分な「空洞の存否に関する調査」や「地質,地盤の状況等に係る調査」
を実施させ,更に,空洞の充填工事や,適切な地下浸透水の排水措置を行
うなどの安全性を確保するための施策を講じさせた上で,当該開発行為の
内容を実質的・具体的に検討,審査して開発許可をなすべき注意義務が課
せられていたというべきである。
それにもかかわらず,控訴人津市には,被控訴人Cが原審で主張した
(原判決15頁24行目から16頁18行目まで)とおり,必要かつ十分
な調査や安全確保のための施策についての実質的な検討,審査すら行わな
いまま,漫然と許可をしたという義務違反がある。
イ都市計画法36条に基づく工事完了検査との関係における津市長及び控
訴人津市の公務員の職務上の義務違反について
これについても,原審で主張した(原判決16頁19行目から17頁1
9行目まで)とおりであるが,上記アで述べた事情からすれば,開発許可
行政を担う控訴人津市の公務員及び津市長は,本件での工事完了検査に際
し,本件開発許可申請区域内のほか,更に,これに隣接し本件開発許可申
請区域内に影響を及ぼしうる本件道路陥没地点等の周辺地域を含めて必要
かつ十分な「空洞の存否に関する調査」や「地質,地盤の状況等に係る調
査」が実施されたものであるかどうか,また,適切な空洞の充填工事等が
実施され,安全上必要な措置が講じられているかどうかについて,実質
的・具体的な検査を行う作為義務を負っていたと解すべきである。
それにもかかわらず,控訴人津市には,被控訴人Cが原審で主張した
(原判決17頁10行目冒頭から19行目末尾まで)とおり,控訴人Aか
ら提出された「AF地内開発工事に伴う空洞調査報告書」(甲5)の結果
のみをうのみにして,漫然と本件開発行為の完了検査を終え,検査済証を
交付した。
(2)予見可能性についての追加的主張
国家賠償法2条1項で問題とされる予見可能性とは,特定の地点において
災害や事故が発生することについて具体的に予見できることまでは必要でな
く,一定の地域で,災害や事故が発生する蓋然性があることを予見できれば
足りる。被控訴人Cの上記主張事実(原判決11頁18行目から13頁10
行目まで及び24頁17行目から26頁1行目まで)及び控訴人津市がD開
発区域の地盤や地質状況等に関して資料を有していたこと等からすると,控
訴人津市は,本件道路を含めたD開発区域内の地中に空洞が存在する可能性
が高く,盛土のため帯水するなどして陥没事故を惹起し得る水ミチが発生す
る可能性が高いこと等を具体的に認識することができた。
また,控訴人津市が,本件道路陥没地点の盛土が平成4年頃に行われたと
主張していることについては,被控訴人Bの主張を援用し,控訴人津市の主
張が証拠に反すること,控訴人津市は,本件開発許可において盛土による影
響を考慮しておらず都市計画法に違反していることを主張する。
このほか,被控訴人Cは,控訴人津市の予見可能性についての被控訴人B
の主張(6(2))を援用する。
(3)回避可能性についての追加的主張
控訴人津市は,本件道路陥没地点はDが本件道路において空洞調査をした
5か所の地点とは全く別の場所であるから,この5か所の地点で深度20m
程度のボーリング調査をして空洞が発見できたとしても,本件道路陥没事故
という結果を回避できるものではなかったと主張する。
しかし,この5か所の地点で空洞が発見されていれば,必要に応じて更に
詳細な空洞調査をするとともに,地下水の流入を防止する措置をとったり,
グラウト工により地盤(中間層)を固化する地盤回廊措置をとったりするな
どして,本件道路陥没地点を含めたD開発区域内での陥没事故を未然に回避
することも可能であったというべきである。
このほか,被控訴人Cは,控訴人津市の回避可能性について,被控訴人B
の主張(6(3))を援用する。
(4)行政の危険管理責任の補充性について
控訴人津市の主張する行政の危険管理責任の補充性については,被控訴人
Bの主張(6(4))を援用する。
(5)被控訴人Bの代替地への転居損害について
ア本件道路陥没事故と転居損害との因果関係について
本件道路陥没事故は大規模なものであり,本件道路のうち本件道路陥没
地点以外の部分については具体的な調査や抜本的な陥没防止対策すら講じ
られていない。したがって,本件道路は依然として危険である。そして,
これに隣接する本件建物等は,住居としての効用を満たさないほどの甚大
な被害,マスコミ等による報道が繰り返され,いわゆる心理的瑕疵にも類
似した大きな損害が生じ,財産的価値も著しく毀損されている。そうであ
る以上,転居損害はB土地の地中に存する空洞を問題とするまでもなく本
件道路陥没事故との相当因果関係を有する。
また,転居損害は,控訴人津市による国家賠償法1条1項違反によって
B土地の空洞が放置されたことと,同法2条1項違反による本件道路陥没
事故とが競合して生じた損害である。したがって,控訴人津市は,転居損
害を賠償すべきである。
さらに,控訴人津市は,本件開発許可に関与した当時,B土地を含む本
件開発許可申請区域内に空洞が存在することも予見又は認識し得たところ,
本件道路の管理者となった後も,同様に,B土地の空洞について予見可能
性があった。そうだとすれば,B土地の空洞の存在は予見可能な特別事情
に当たるから,控訴人津市は,民法416条2項の類推適用により,被控
訴人Bの転居損害についても賠償責任を免れない。
イB土地及び本件建物の修復可能性
人為的な構造物(磨き砂坑道等)に発生する陥没現象では,陥没箇所の
周辺にも緩みが生じて陥没の拡大が懸念される(丁35の1頁図1)。そ
うしたところ,B土地の北側などでは,地盤の緩みによる地表変状が確認
されている(丙11・30枚目「図-2.20観測点移動変化図」及び
41枚目「図-5.3グラウト工平面図」で2本の波線で示された部分,
丁19・5頁の赤線で囲まれた範囲)。これについて,I作成の意見書
(丁35)は,「B邸の家屋は陥没部ではないが,『緩み領域』に入って
おり,今後の再陥没や変形・沈下の懸念がある。」などと指摘している
(丁35・6頁)。
また,控訴人津市の応急修繕工事は,支持層の選択,薬液注入の深度,
注入材,注入率,注入孔ピッチ等が不適切なため,効果に疑問が残る。
さらに,控訴人津市の応急修繕工事では,本件道路陥没地点及びその周
辺区域における地下水流の遮断・排水にかかる措置を講じていない。
以上の諸事情に照らせば,地下水流の遮断・排水措置とこれを前提とす
る適切な地盤改良措置が講じられない限り,B土地は,物理的にも社会通
念上も,もはや復旧不能である。
控訴人津市は,応急修繕工事の完成時期である平成19年2月28日か
ら現在まで当該工事部分が再陥没したことがないと主張するが,宅地に要
求される性能は,宅地が家屋の基礎となる地盤として利用される期間にお
いて,有害な沈下・陥没や滑りを引き起こさないことであるから,宅地は
半永久的に安全でなければならない。したがって,変状が発生していなく
ても,地盤工学的見地から安全と評価できなければ,そこは危険な土地と
いうべきである(丁35・9頁)。
その上,仮に,B土地の復旧が可能であるとしても,(6)で後述すると
おり,転居損害を超える高額な補修費用を要する。また,B土地の復旧に
伴う曳家工事をする場所もない上,鋼管杭挿入工事は周辺地盤への影響を
与える危険もある。これらを考慮すると,現実の復旧工事は不可能であり,
本件土地の復旧ができない以上,本件建物の復旧を試みること自体無意味
である。
したがって,被控訴人Cが請求する建物の建替費用相当額は,本件道路
陥没事故と相当因果関係を有する。
このほか,被控訴人Cは,被控訴人Bの主張(6(5)イ)を援用する。
(6)補修費用
仮に,百歩譲ってB土地の復旧が可能であるとしても,B土地を住居の敷
地としての用に供するためには,根本的に緩んでしまった地盤を改良するた
めの「薬液注入工事」又は「鋼管杭の挿入工事」等の地盤改良工事を行うこ
とが不可欠である。
そこで,薬液注入工事をする場合,「二重管複相注入工法」を用いた薬液
注入工事の費用が8671万1000円(丁27)になり,曳家工事費用1
420万円(丁33)を加えると,合計1億0091万1000円の費用を
要することになる。この二重管複相注入工法よりさらに浸透効果の高い上位
工法である「二重管ダブルパッカー工法」を用いて薬液注入工事をすると,
薬液注入工事だけでも9496万4000円を要する(丁30)。
また,B土地の周辺事情等により,曳家工事を実施できない場合には,E
意見書(丁19)の図5に記載の特殊工法を用いて建物下部に薬液を注入さ
せることが必要になるが,この工法は業者も限られ,費用も約1億円程度か
かる(丁19・7頁)。
また,鋼管杭の挿入工事をする場合には,約5032万円の工費を要する
(丁33,34)上,実際に工事をする場合には,これに加えて労災保険料
及び工事保険料並びに事後調査の結果を受けた追加工事等の「間接工事費」
も加算されることになる。
このように,仮にB土地を復旧させる場合でも,原審で認容された464
2万5601円の転居損害を超える高額な修補費用を要する。
第3当裁判所の判断
当裁判所は,被控訴人らの控訴人津市に対する請求は,いずれも理由がなく,
被控訴人Bの控訴人Aに対する請求は,説明義務違反(不法行為)に基づく損
害賠償金152万円及びこれに対する平成22年1月8日から支払済みまで年
5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余は理
由がないと判断する。
その理由は,次のとおりである。
1認定事実
認定事実については,原判決52頁14行目の「2地点」を「4地点」に改
め,53頁4行目の「本件」の後に「道路」を加えるほか,原判決「事実及び
理由」欄の第3の1(36頁11行目から57頁17行目まで)記載のとおり
であるから,これを引用する。
2津市長等の職務上の義務違反の有無(国家賠償法1条1項関係)について
(1)原判決の引用
津市長等の職務上の義務違反の有無(国家賠償法1条1項関係)について
は,原判決57頁26行目の「被告Aによって行われた」及び58頁3行目
の「加えて,」から8行目末尾までをそれぞれ削り,次の(2)に当審におけ
る当事者の主張に対する判断を示すほかは,原判決「事実及び理由」欄の第
3の2(57頁18行目から59頁24行目まで)記載のとおりであるから,
これを引用する。
(2)当審における当事者の主張に対する判断
被控訴人らは,本件道路陥没地点を含めA開発区域に隣接する区域一帯に
施された最大8mの盛土は,A開発区域における開発行為と一体のものと評
価できる上,控訴人Aによる開発行為とDによる開発行為は実質的にみて一
体の開発行為と評すべきであるから,津市長等は,本件開発許可の審査(都
市計画法33条)及び工事完了検査(都市計画法36条)に際し,本件開発
許可申請区域内だけでなく,これに隣接し影響を及ぼしうる本件道路陥没地
点等の周辺地域を含め,自ら又は控訴人Aをして調査や安全対策を行わせ,
十分な審査や検査を行う作為義務を負っていたと主張する。
しかし,証拠(乙10.11,丙5の2・5枚目)及び弁論の全趣旨によ
れば,本件道路陥没地点は,もともとは標高22.8mの平坦な谷であった
ところ,平成4年頃に何者かがこれを埋め立てて標高30.1mまで盛土を
行ったこと,当時,都市計画法29条の開発許可の権限を有していたのは三
重県知事であり,控訴人津市は,この埋め立ての事実を知らなかったこと,
その後,控訴人Aが平成16年頃に山林整形を行ったが,その時には本件道
路陥没地点を埋め立てていないことが認められる(平成16年1月14日に
作成された造成計画断面図(丙5の1・9枚目)においても,B土地(同図
の(1)-(1)断面図の左端)には,擁壁の隙間部分に最大高さ1.6mの盛土
がされているが,本件道路に盛土は見られない。)。
そうすると,本件道路陥没地点付近の最大8mの盛土は,本件開発許可の
10年以上前に行われたもので,控訴人Aによる開発行為とは無関係という
ことになるから,この盛土をA開発区域における開発行為と一体のものと評
価することはできない。
また,証拠(乙4,丙5の1,18,19)及び弁論の全趣旨(控訴人A
平成26年9月1日付け準備書面)によれば,A開発区域とD開発区域は隣
接しているものの,控訴人Aが本件開発許可申請をした平成16年2月19
日の時点では,Dが隣接地域で開発行為を行うことは明らかになっておらず,
A開発区域内には生活に必要な道路が整備されていること,Dが開発行為に
ついて都市計画法32条に関する協議申出書を控訴人津市に提出したのは,
控訴人Aが平成16年5月7日に本件検査済証の交付を受けた約2か月後の
同年7月6日であったことが認められる。
このことからすると,控訴人Aによる開発行為とDによる開発行為が実質
的にみて一体の開発行為であると評価することはできない。
以上によれば,津市長等が本件開発行為許可に係る手続を行うに際し,本
件開発許可申請区域外にある本件道路陥没地点について調査や安全対策を講
じる義務があるとは認められない。
したがって,その余の点を判断するまでもなく,被控訴人らの控訴人津市
に対する国家賠償法1条1項に基づく請求は理由がない。
3控訴人津市の本件道路の管理の瑕疵の有無(国家賠償法2条1項関係)につ
いて
(1)本件道路陥没事故発生の原因
上記(原判決8頁22行目から9頁16行目まで)のとおり,本件道路は,
D開発区域内にあり,Dによる開発行為の一環として築造され,開発許可権
者である津市長がDによる開発行為について工事が完了した旨の公告を行っ
たことにより,公告の翌日である平成17年8月10日をもって控訴人津市
がその管理者となり,それ以降,本件道路陥没事故の発生日である平成18
年7月9日を含め,控訴人津市の管理下にあった(乙4,丙1,4の2,
3)。
本件道路陥没事故は,本件委員会が考察した(原判決54頁22行目から
55頁21行目まで)とおり,陥没地が元の谷地形最深部にあり,周辺の雨
水,浸透水が集中して流入する場所にあったところ,この部分に盛土が行わ
れたため,盛土内に水が滞水するとともに,不均一な地下水の流れ(部分流)
が生じ,この部分流が火山灰層(磨き砂層)の強度を低下させ,火山灰層
(磨き砂層)内に存在する空洞の天端(天井)付近で陥没を発生させて空洞
域を拡大し,これが地表まで影響を及ぼしたことによって生じたと認められ
る。そして,本件道路陥没事故の発生には,本件道路が,①元の谷地形最深
部にあり,周辺の雨水,浸透水が集中して流入しやすい場所にあったこと,
②Dがされていたことから水ミチ
上載圧の影響があったこと,③旧地山の
空洞直上の土被りが浅いことの諸条件に加え,④大きな降雨により地中への
水の供給が増えたことも影響していると認められる。
以上によれば,本件道路陥没事故は,本件道路が,磨き砂層内の空洞の上
にあるだけでなく,その場所が浸透水が集中して流入する場所でもあった上,
土被りが浅いところに盛土がされた上に築造されていたという,陥没事故が
発生しやすい特徴を備えていたところへ,降雨によって水が供給され,時間
の経過とともに空洞域の拡大が進行して生じたということができる。
(2)B土地及び本件道路が所在する津市F地区の開発の状況
(ア)津市F地区では,江戸時代から磨き砂の採掘が行われ,明治時代から
昭和20年頃までが最盛期であったが,昭和52年当時においても2箇所
で採掘が行われていた。なお,戦時中,採掘跡は機密的な工廠としても利
用されていた(甲12,乙2)。
(イ)昭和43年の都市計画法の改正により,都市計画区域を市街化区域
(すでに市街地を形成している区域及びおおむね10年以内に優先的かつ
計画的に市街化を図るべき区域。都市計画法7条2項)と市街化調整区域
(市街化を抑制すべき区域。同条3項)に区分する,いわゆる線引き制度
が創設され,津市F地区については市街化区域に区分された(甲14の1,
2,乙4,証人M)。
(ウ)昭和52年に線引きが見直されることになったが,控訴人津市は,昭
和52年の都市計画区域の線引きの見直しに合わせて,昭和52年調査を
行い,津市長は,この調査結果を参考にして,津市F地区のうち,B土地
を含む,J団地とK団地の間に挟まれた合計28haの土地(L地区)に
ついて,当時の土地利用計画策定権者であった三重県知事に対して,市街
化の進展がなく,磨き砂の採掘により住宅立地が危険であるとの理由を挙
げて,市街化調整区域に区分されるべきであるとの意見を述べた。これに
対し,津市F地区の住民の一部から,当該地域では,市街化区域編入後,
住宅地としての開発も進み,工事中や開発許可申請中の土地も多く,土地
所有者は既に種々の計画を立てていることから,市街化区域のままにして
ほしいとの陳情が三重県議会に提出された。また,三重県は,昭和52年
8月5日に,津都市計画区域の変更案について,公聴会を開催し,津市F
地区の住民からは,L地区を市街化調整区域に変更することに反対し,三
重県に上記変更案の見直しを迫る意見が出された。そこで,三重県議会の
土木常任委員会において更に審議し,現地調査するなどした結果,開発行
為については現地調査を十分行って開発許可をしていくので,再度市街化
区域に編入して,地域一帯を良好な市街地に整備するとの理由により,L
地区について市街化区域のままとする案が作成され,昭和52年10月に
開催された三重県都市計画地方審議会においてこれが承認された(甲14
の1及び2,15の3,甲17の1ないし4,乙4,証人M)。
(エ)昭和52年から本件開発許可がなされた平成16年までの約30年間
に,F地区28haのうち26haが既に宅地開発され,昭和52年報告
書により,地下に「みがき砂の採掘跡の空洞」,「廃坑(立坑,一部斜坑)
位置」,「陥没地形」,「崩壊地形」が表示されている部分も,既に建物
の敷地や,「道路」や「公園」になっている(乙4,丙17の1,2,1
8,19)。
(3)控訴人津市が本件道路陥没事故を予見し得た可能性について
ア本件土地付近の地形について
(ア)昭和52年調査においては,調査地内にはかなりの密度で陥没地や
崩壊地が存在しており,特に,J団地付近からほぼ南北方向でK団地方
面に伸びる沢筋とSの北側を東西方向に伸びて連なる山地の周辺に多く
みられると指摘されているところ(甲12の5,6頁),D開発区域は,
昭和52年の地形からすれば,谷地形最深部にあり,上記J団地付近か
ら伸びる沢筋に近いと認められる(甲12の15頁(地質平面図及び断
面図),附図-1,乙3,丙4の1の2枚目)。その後,上記2(2)の
とおり,本件道路陥没地点付近の谷(乙10,11によれば,平成3年
当時の標高は22.8m)は,平成4年頃に何者かによって埋め立てら
れ,Dが開発行為許可申請をした平成16年には,標高30.1mの平
坦な土地になった(控訴人津市平成26年8月25日付け準備書面)。
(イ)昭和52年報告書には,磨き砂層自体は全体的によく締まった地層
であって,昭和52年調査によれば,磨き砂層の上部にある神戸層のう
ち,泥層は非常に堅く,砂・シルト互層のうちのシルト層もよく締まっ
ていること等が記載されている(甲12・11,14頁)。
(ウ)本件委員会報告書によれば,同委員会によるボーリング調査で磨き
砂中に発見された空洞に関し,同調査における№6及び№7地点では,
空洞直上は硬質で強度を保っており,現時点では安定した状態であると
考えられる,とされている(丙11・4項(36枚目))。
また,本件委員会報告書によれば,磨き砂層の空洞直上が良好な地盤
の場合には,地盤内で陥没が発生しても,陥没の影響は地表面にはほと
んど及ばないとされている(丙11・3項(32枚目))。
本件委員会報告書は,陥没発生の原因として,陥没地は元の谷地形最
深部にあり,周辺の雨水,浸透水が集中して流入する場所にあり,そこ
に盛土を行ったため,盛土内に水が滞水するとともに,新たな水ミチ
(雨水が浸透してできる地下水の通路)が形成されたことを指摘してい
る(丙11・4項)。しかしながら,昭和52年報告書で陥没地や崩壊
地が多いとされたJ団地付近からほぼ南北方向でK団地方面に伸びる沢
筋とSの北側を東西方向に伸びて連なる山地の周辺には,多くの家が建
ち並んでおり,その中には,昭和52年当時は谷地形の最深部であった
地区もあるが,これらの場所を含め,約30年にわたって津市F地区の
開発対象地では本件同様の陥没事故は発生しなかった(乙3,4,弁論
の全趣旨)。
本件委員会報告書は,地盤の陥没,沈下といった問題の究明に当たっ
ては,陥没原因が地下にあるとともに,地形・地質,地下水,気象等の
要因が複雑に重なり合っているため,明確にその原因を特定することは,
現時点の学問,技術レベルでは不可能であること,今回発生したような
陥没は,全国各地でかなり発生しているにもかかわらずあまり顕在化し
ておらず,その結果を直接利用できない問題があること,このように,
地盤の陥没・沈下は,地下の状況を明確にできない上,地域性が大きく,
その予知が困難であるとともに突発的に発生する可能性があることを指
摘した上で,住民の生活の安全・安心な環境を守るために,地下水位及
び流向・流速等の観測,地表での沈下状況の確認,過去にさかのぼって
のF地区全体の団地造成前後の状況の確認,多数地点でのボーリング調
査の実施,ハザードマップの作成等を行うことを提言している(丙1
1・6項(42枚目))。
イ宅地開発業者による空洞調査及び安全確保策
(ア)証拠(乙4,7)及び弁論の全趣旨によれば,D開発区域に隣接す
るG団地を造成したHは,平成13年12月17日に津市に「G団地造
成工事空洞調査及び処理報告書」(乙7)を提出したこと,同報告書に
は,電気探査により異常が認められた全ての箇所を計画地盤から下10
mまで試掘し,存在が確認できた縦穴の空洞(1か所のみ)については,
水締め転圧を行い,埋め戻し処理を行ったこと,試掘の結果,空洞が確
認されなかった宅地についても,さらに安全を期するため,宅地の地盤
を1m掘り下げたところをバックホウセメントと土を混合かくはんして
転圧して地盤を固化した浅層混合処理工法で厚さ1mのいわば人工の
「地盤」を宅地の地下1m付近一面に造ったこと,平成12年10月の
ボーリングにより存在が確認された計画地盤から約15m下の空洞につ
いては,空洞上の地下12~15mの地層の粘性が高く,既に50年以
上の年月が経過し,安定していることなどから,地盤より5~6mの浅
い部分でよほど大きな荷重をかけない限り崩落のおそれはないものと判
断し,宅盤のセメントの安定処理をするにとどめたこと等が記載されて
いること,このようにして造成されたG団地では,現在までに,宅地等
の陥没現象は発生していないことが認められる。
(イ)控訴人津市は,控訴人AやDとの間で32条協議を行った際,「申
請地周辺には,みがき砂採掘跡地が見うけられるので,申請地の空洞調
査を実施し,宅地造成後においても安全が確保できるよう留意された
い。」という内容を32条同意の条件にした(乙1,4,丁1)。
(ウ)控訴人Aは,平成16年3月に「空洞調査」(甲5)を控訴人津市
に提出し,Dは,平成17年7月11日に空洞調査報告書(乙8)を控
訴人津市に提出した。
控訴人Aから提出された報告書には,比抵抗二次元電気探査と試掘に
よる空洞の有無の確認調査を実施したところ,空洞は確認されなかった
旨,開発区域外周に坑道の進入が確認されていないことや地質的要因か
ら,開発区域内の深度10m以内に空洞のある可能性はかなり低いと判
断される旨の記載があり,Dから提出された報告書には,調査地点全て
において空洞が確認されなかった旨の記載がある。
ウ本件道路の築造工事の状況等
証拠(乙6の15,39,58,59頁,証人M14頁)によれば,本
件道路の築造に当たっては,水道管を布設するため,深さ2.5mまで掘
削をし,舗装をするため重量のある締固め用ロードローラーで転圧し,ト
ラクターショベルで資材を運ぶなどの作業が行われたが,空洞の存在をう
かがわせる状況はなく,中間検査においても,道路の路盤支持力検査のた
めの平板載荷試験や現場密度試験などの試験結果は所期の数値を満たして
いたと認められる。
そして,本件道路では,平成17年8月5日に完了検査(丙4の3)を
受けてから本件道路陥没事故が発生するまで約11か月の間,表面の亀裂
などの予兆があった形跡はない。
エF公園での陥没事故
上記(原判決51頁11行目から19行目まで)のとおり,本件道路陥
没事故(平成18年7月9日)に先立ち,平成17年9月9日及び平成1
8年4月18日頃に陥没が発生している。
しかし,F公園での陥没事故は,本件道路陥没地点から約65m離れて
いるところ,F公園で1回目の陥没が発生した平成17年9月9日から本
件道路陥没事故までの約10か月の間に,F公園の同じ場所で大きさ1m
程度の小規模な陥没が起きたにすぎない。
そして,上記イ(ア)のとおり,磨き砂採掘跡地における地表面の陥没は,
地形・地質,地下水,気象などの要因が複雑に重なり合って生じるもので
あるところ,本件道路陥没地点に隣接するB土地においては,深度15~
17m及び19~21mの各場所に空洞は存在するものの,深度13~2
5mの間のN値34~50という非常に強固な地盤と洪積層と思われる凝
灰岩に挟まれる形で存在しており,陥没のおそれがあるとは認められない
(甲8,丁9の2)。
オ本件道路陥没事故の予見可能性
本件委員会報告書は,地盤の陥没,沈下といった問題の究明に当たって
は,陥没原因が地下にあるとともに,地形・地質,地下水,気象等の要因
が複雑に重なり合っているため,明確にその原因を特定することは,現時
点の学問,技術レベルでは不可能であること,地盤の陥没・沈下は,地下
の状況を明確にできない上,地域性が大きく,その予知が困難であるとと
もに突発的に発生する可能性があることを指摘している。そして,昭和5
2年当時谷地形の最深部であった場所を含め,宅地開発が進められた津市
F地区において本件道路陥没事故までに同様の規模の陥没事故が発生した
ことはなかったこと,平成16年に控訴人Aから,平成17年にDからそ
れぞれ控訴人津市に提出された報告書には,調査地点全てにおいて空洞が
確認されなかった旨の記載があったこと,平成17年9月9日に本件道路
陥没地点から約65m離れたF公園で陥没が発生したが,近接した土地で
あっても,地下の状況が全く異なることがあること,本件道路を築造する
過程では,公園での築造では用いないような大きな重量のある締固め機械
などが用いられていること等を考慮すれば,控訴人津市において,本件道
路陥没事故発生前に,本件道路陥没地点付近において陥没事故が発生する
ことを具体的に予見し得たとは認め難い。
(4)本件道路陥没事故を回避し得た可能性について
ア昭和52年報告書には,坑内掘りの跡地が47箇所で確認されたが,坑
内への土砂流入,水没,酸欠など安全面に問題があるため,廃坑の分布,
坑内の状況など十分な探索はできなかった旨の記載があり(甲12・6
頁),三重県歴史教育者協議会の編集に係る文献には,1989年から磨
き砂採掘用に掘られたトンネルの調査に取り組んだが,約2000m余を
確認したものの,落盤や崩壊さらに浸水など危険な状況になり,それ以上
の調査はできずに打ち切った,との記載がある(乙2・79頁)。
イ昭和52年報告書は,今後の調査方針として,まず調査地内を約150
mのグリッドで区分し,グリッドの交点付近で平均深度30mのボーリン
グ調査を実施するなどの広域的調査を行い,その結果を踏まえて個々の土
地利用区域に限った調査を行うことを提言し,後者の調査に関しては,廃
坑の詳細な分布状況を知るためには,坑道の幅が2~3m程度であること
から,調査地点もかなりの密度で設ける必要があることを付言している
(甲12の29,30頁)。また,本件委員会報告書中の住民の生活の安
全・安心な環境を守るための方策の提言において,多数地点でのボーリン
グ調査を実施することが盛り込まれていることは,上記のとおりである。
ウ一方,本件委員会報告書によれば,磨き砂層の空洞直上が良好な地盤の
場合には,地盤内で陥没が発生しても,陥没の影響は地表面にはほとんど
及ばないとされているところ,同委員会によるボーリング調査で空洞が確
認された同調査における№6及び№7地点においても,空洞直上は硬質で
強度を保っており,現時点では安定した状態であると考えられる,とされ
ている(丙11・4項(36枚目))。そして,Hが造成したG団地にお
いては,地表面から約15m下に空洞が存在することが確認されたG団地
において,現在まで宅地等の陥没現象が発生していないことは上記のとお
りである。
エ控訴人津市は,地表から下方10mの位置までを調査深度として,F地
区の約28ha(28万㎡)の長方形の土地について2m四方のグリッド
で分割し,それぞれの交点で地表下方10mの位置までボーリング調査す
るとすれば,その費用は約70億円と試算されること,既に住宅が建って
いるところでは住宅を除去する必要があること等を指摘し,空洞が存在す
る位置を確認する義務を負うのは控訴人津市ではなく,宅地開発業者自身
であり,地方公共団体である控訴人津市には,宅地開発業者が私的経済活
動として行う宅地開発事業のために,莫大な調査費用を費やして津市F地
区全体の空洞調査を実施する法的義務はない旨主張している(原審におけ
る平成22年11月12日付け準備書面3)。
このような調査費用の試算や宅地開発事業における責任の所在に関する
控訴人津市の主張の当否についての判断はひとまずおくとしても,控訴人
津市が,昭和52年以降も宅地の開発が進み,住宅等が立ち並ぶようにな
ったF地区において大規模な地下の調査を行うに当たっては,予算や住民
の意向など様々な制約を伴うこと自体は否定し難い。
オまた,証拠(証人M)によれば,控訴人津市が,本件各陥没事故後,F
地区で開発行為を行おうとする業者に対し,深度20mのボーリング調査
を実施するよう指導する旨の内規を作成したことが認められるところ,D
は,開発行為に先立ち,本件道路において深さ4m程度までの鋼管の打ち
込みによる空洞調査を行っているが,その場所は本件道路陥没地点(丙4
の2・4枚目道路部分にある№6付近)と異なる場所にあるから(乙8),
仮に4mの深さを20mまで延長して調査していたとしても,本件道路陥
没事故の原因になった空洞を発見できていたか否かは明らかではない。
カ以上によれば,本件道路陥没事故が発生する以前において,本件道路陥
没事故の発生を回避するために控訴人津市がどのような措置を講ずるべき
であったかを特定することは困難であり,また,リスクを減少させるため
の何らかの措置を講じることによって本件道路陥没事故の発生を回避でき
た蓋然性が高いとも認め難いから,結局,控訴人津市において,本件道路
陥没事故を回避し得る具体的な可能性があったとは認めるに足りないとい
わざるを得ない。
(5)まとめ
以上によれば,控訴人津市には,本件道路陥没事故の予見可能性も結果回
避可能性もなかったというほかなく,本件道路の管理の瑕疵があったとは認
められないから,その余の点を判断するまでもなく,被控訴人らの控訴人津
市に対する国家賠償法2条1項に基づく請求は理由がない。
4被控訴人Bの控訴人Aに対する請求について
(1)販売責任(調査義務違反)について
被控訴人Bの控訴人Aに対する販売責任(調査義務違反)に基づく請求が
認められないことは,原判決71頁8行目冒頭から23行目末尾までに記載
のとおりであるからこれを引用する。
(2)説明義務違反について
本件において控訴人Aに説明義務違反が認められることについては,次の
とおり加えるほか,原判決71頁26行目冒頭から74頁10行目末尾まで
に記載のとおりであるからこれを引用する。
控訴人Aは,適切な空洞調査を行い危険を予測できる空洞は皆無であった
こと,陥没事故は多年にわたり生じていなかったこと,B土地を含むF地区
が磨き砂採掘跡地であることは周知の事実であるのに人々は土地を購入して
長年生活していること,これらの実情からすれば,購入者に対し磨き砂採掘
跡地であることを告げたとしても購入者が売買契約を締結しないとは思えな
い上,控訴人Aが控訴人津市から開発の許可を得ており,相当な理由をもっ
てB土地及びや周辺の土地について崩落の危険はないと信じていたことから
すれば,控訴人Aが磨き砂採掘跡地であるとの説明をしなかったことは,信
義則違反とまで評価できず,違法性がないと主張する。
しかし,上記のとおり,開発許可の内容は宅建業法35条1項に定める重
要事項である上,A開発区域が磨き砂採掘跡地であることは,B土地が崩壊
する可能性があることを示す事実である。そして,控訴人Aの主張する上記
事情によっても,B土地が崩壊する可能性を完全に否定することはできない
のであるから,A開発区域が磨き砂採掘跡地であることは,買主の意思決定
に影響を及ぼす事実であることが明らかである。
したがって,控訴人Aの主張は採用できない。
(3)控訴人Aの説明義務違反と相当因果関係のある損害の範囲について
被控訴人Bは,B土地を購入する際,他の業者の所有する土地についても
並行して検討を進めており,B土地を含めた付近一帯が磨き砂の採掘跡地で
あることを知っていれば,間違いなく他の業者の土地を購入していたと述べ
る(甲13)。
しかし,証拠(乙1,9の2)によれば,本件開発許可の許可条件は,3
2条同意に付された「申請地周辺には,みがき砂採掘跡地が見うけられるの
で,申請池の空洞調査を実施し,宅地造成後においても安全が確保出来るよ
う留意されたい。」という条件を確実に履行するというものであるから,上
記条件の説明には,空洞調査の有無及びその結果についての説明が伴うこと
になる。そうすると,控訴人Aは,上記のとおり空洞調査を行っていたので
あるから,A開発区域内の深度10m以内に空洞が存在する可能性はかなり
低いという上記空洞調査の結果を示すことになったと考えられる。そうであ
れば,仮に,被控訴人Bが,本件開発許可の許可条件について控訴人Aから
説明を受け,B土地が磨き砂跡地であることを知ったとしても,空洞調査の
結果が上記のとおりである以上,被控訴人BがB土地の購入を取りやめたと
は考え難い。
証拠(甲1,6,13)によれば,被控訴人Bは,本件売買契約当時,他
の不動産業者が所有する土地について購入を検討していたものの,できれば
それまで暮らしていた生活圏内に自宅を新築したいというこだわりがあった
ことからB土地を紹介してもらった経緯があり,B土地は上記他の土地に比
べて高台で見晴らしがよく,価格面でも納得ができると考えていたこと,被
控訴人Bは,平成15年12月頃からハウスメーカーに自宅建築の相談をす
るとともに敷地を探し始め,B土地を購入しようとした後,ハウスメーカー
との交渉難航により平成16年5月頃にB土地の購入を取りやめたが,その
後再びB土地の購入を希望し,被控訴人Cから,B土地に対する深度9.5
mまでのスウェーデン式サウンディング試験等による地盤調査結果の報告を
受け,同年8月26日に本件売買契約の締結に至ったことが認められる。
上記のような控訴人A及び被控訴人Cの地盤調査の結果,本件売買契約当
時の周囲の状況や被控訴人BがB土地を購入した経緯などからすると,仮に,
被控訴人Bが,本件開発許可の許可条件について控訴人Aから説明を受け,
B土地が磨き砂跡地であることを知ったとしても,B土地の購入を取りやめ
たとは考え難い。
もっとも,証拠(丙16の1,2)によれば,控訴人Aは,平成23年1
月30日,A開発区域内に所在するP土地を,代金1000万円(1㎡当た
り約4万0106円)で,同年6月30日,A開発区域内に所在するQ土地
を,代金870万円(1㎡当たり約4万1757円)で売却したが,これら
の売買契約においては,当該物件を含め,周辺は磨き砂採掘跡地であり,そ
のことを踏まえ買主から値引きの申出があり,売買価格を決定した旨及び,
売主は,売却後に磨き砂採掘を原因として買主がこうむった損害を補償する
旨の,特約条項が付されていたことが認められる。これらの売買価格は,本
件売買契約における土地の代金1520万円(1㎡当たり約7万1037円)
を大幅に下回るものであるから,仮に,被控訴人Bが控訴人Aから,本件売
買契約の際にB土地が磨き砂採掘跡地であるという説明を受けていれば,そ
のことを考慮して価格交渉がされ,B土地の売買価格はより低額になってい
たと推認される。一方,R作成の調査報告書(丙20)によれば,本件売買
契約が締結された平成16年から平成23年までの間に,津市全体では2
2%,F地区では9%土地価格が下落していることが認められるから,本件
売買契約における土地の代金と上記2筆の土地の代金との差異が専ら対象物
件が磨き砂採掘跡地であるという説明がされていたか否かによって生じたと
見ることはできない。
そこで,当裁判所は,上記調査報告書(丙20)によれば,A開発区域
(OⅡ)の1㎡当たりの価格は,平成16年においては5万5000円でF
地区全体の価格と同じであったのに対し,平成23年においては,4万50
00円でF地区全体の5万円より10%低くなっていること(丙20・4
頁),平成23年の路線価を見ても,A開発区域は,F地区に多くみられる
路線価3万円よりも10%低い2万7000円であること(丙20・3,8
頁)を考慮し,控訴人Aの説明義務違反によって被控訴人Bが被った損害の
額を,本件売買契約の代金の10%である152万円とすることを相当と判
断する。
(4)控訴人Aの消滅時効の主張について
控訴人Aは,被控訴人Bが本件道路陥没事故のあった平成18年7月9日
には不法行為の事実を認識し得たとして,その3年後の平成21年7月9日
の到来により不法行為責任の消滅時効が完成していると主張する。
しかし,上記(原判決47頁7行目から15行目まで)のとおり,本件売
買契約の重要事項説明書には,本件開発許可の許可条件が記載された別紙は
添付されておらず,被控訴人Bが,本件道路陥没事故が発生した平成18年
7月9日頃までに,控訴人Aが本件開発許可の許可条件を説明しなかったこ
とに気付いていたとは認められない。
したがって,控訴人Aの消滅時効の主張は理由がない。
(5)まとめ
以上検討した結果,被控訴人Bの控訴人Aに対する請求は,説明義務違反
に基づく損害賠償金152万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である
平成22年1月8日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払
を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。
なお,当審における選択的追加請求についても,損害賠償金152万円及
びこれに対する遅延損害金を超える部分は,上記説示に照らし理由がない。
第4結論
以上によれば,被控訴人らの控訴人津市に対する請求は,いずれも理由がな
いから棄却すべきであり,被控訴人Bの控訴人Aに対する請求は,152万円
及びこれに対する平成22年1月8日から支払済みまで年5分の割合による金
員の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却
すべきである。
よって,これと一部異なる原判決は一部相当でなく,本件控訴は理由がある
から,原判決のうち控訴人津市敗訴部分を取り消して同部分に対する被控訴人
らの請求を棄却し,控訴人Aに関する部分を変更することとして,主文のとお
り判決する。
名古屋高等裁判所民事第2部
裁判長裁判官孝橋宏
裁判官戸田久
裁判官森淳子
(原判決別紙添付省略)

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