弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 各被告人の弁護人稲本錠之助の上告趣意は末尾に添えた別紙書面記載のとおりで
ある。
 論旨第一点について。
 原判決は、その事実摘示(一)の(1)において、被告人A、B、C、D、原審
相被告人E並びにF、Gが「H方に押掛け、同人を脅迫して、澱粉の集荷を斡旋さ
せてこれを交付させようと共謀し、」右の者等がH方に到り同人を脅迫して、「澱
粉の集荷交付を強要し、右H並びにその長男Hに被告人等の要求に応じないとHの
身体や生命に危害を加えられるかも知れないと畏れさせて、右H父子をして甘藷澱
粉三百貫を集めて引渡すことを承諾させ………右Hより澱粉一四九貫及び玄米一俵
を交付させてこれを喝取し」たとの事実を認定しているのであるが、その挙示する
証拠によれば、被害者Hが甘藷澱粉三百貫の集荷交付方を承諾したけれども、右認
定のように、その十分なる実行ができなかつた関係上、澱粉一四九貫の他に、さら
に玄米一俵を交付したことが窺われる。されば、右玄米一俵の交付も被告人Bを始
め前記共謀者全員の犯罪実行の結果に外ならないから、被告人Bにおいて、共謀者
中の他の者が右のような情況の下に玄米一俵の交付を受けた事実を知らなくても、
その全部の結果について刑事責任を負わなければならない。よつて論旨は理由がな
い。
 同第二点について。
 原判決が、Iに対する検事の聴取書謄本及び司法警察官の聴取書抄本、並びにJ
に対する検事の聴取書謄本を夫々証拠として援用していること、並びに原審第二回
公判調書に「各聴取書」について証拠調をした旨の記載はあるが、聴取書謄本又は
聴取書抄本について又別にその証拠調をした旨の記載のないことは所論のとおりで
ある。しかし本件記録中には、聴取書として原本たる多くの聴取書の外に、所論指
摘の聴取書謄本同抄本が編綴されており、謄本又は抄本の原本たる聴取書は編綴さ
れていない。そして、原審第二回公判調書には、ただ単に「各聴取書」とのみ記載
され、「各聴取書原本」と記載されていないのであるから、右「各聴取書」の中に
は前示各聴取書の謄本及び抄本も含まれていると解するのを相当とする。従つて、
原審においては、前示聴取書謄本及び抄本についても適法な証拠調が行われたもの
といわなけれはならないのであるから、論旨は理由がない。
 同第三点について。
 刑法第五四条第一項後段の犯罪の手段たる行為というのは、犯罪の性質上通常他
の種の犯罪の手段として用いられるものであるか否かを標準として定むべきもので
あることは当裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第一一一七号、
同二四年七月二二日大法廷判決)。そして、甘藷澱粉の恐喝はその性質上通常必ず
しも甘藷澱粉を食糧管理法の条項に違反して運搬する手段としてなされるものとい
うことはできない上、甘藷澱粉の恐喝とそれを食糧管理法に違反して不法に運搬す
る罪とは、犯罪構成要件も異り、被害法益も異つているから、原判決が本件恐喝罪
と食糧管理法違反の罪とを併合罪として処断したことは正当である。論旨は理由が
ない。
 よつて本件上告を理由ないものと認め、旧刑訴法四四六条に従い、主文のとおり
判決する。
 以上は、当小法廷裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 石田富平関与
  昭和二六年九月二五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保

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