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大阪地方裁判所平成21年10月14日証拠開示に関する裁定決定
刑事訴訟法316条の15第1項請求一部認容
主文
1検察官に対し,以下の各証拠を弁護人に開示することを命じる。
(1)Bの検察官に対する供述調書(平成21年6月3日付け,同月
17日付け及び同月30日付け)
(2)Cの検察官に対する供述調書(平成21年5月29日付け〔2
丁のもの〕,同年6月3日付け,同月4日付け及び同月17日付
け)
2その余の本件裁定請求を棄却する。
理由
1裁定請求の趣旨及び理由
本件裁定請求の趣旨及び理由は,主任弁護人作成の平成21年9月25日付け
裁定請求書(同月26日付受付け。以下「平成21年」のものについては月日の
みを記す。)記載のとおりであるが,その要点は,以下のとおりである。
(1)請求の趣旨
検察官に対し,A,B及びCの供述録取書等(弁解録取書,勾留質問調書,
取調べ状況を記録した媒体,捜査官が作成した取調べメモ,捜査官が作成し
た電話聴取書,本人が作成した報告書等を含む。)の全て(すでに開示され
ているものを除く。)を開示するように命令することを求める。
(2)請求の理由
ア弁護人による類型証拠開示請求及びこれに対する検察官の対応
弁護人がなした9月3日の類型証拠開示請求のうち,B,A及びCの供
述録取書等につき,検察官は,同人らの供述調書の一部を開示したものの,
その余の供述調書については,「検察官が取調べ請求している各人の供述
調書によって立証しようとする事項とは直接関連性のない別の事項につい
ての供述を録取したものであり,取調べ請求している各人の供述調書の証
明力を判断するために重要である証拠には当たらない」として証拠開示し
なかった。
イ証拠の重要性及び開示の必要性
上記Aら3名は,検察官が,本件被告事件にかかる公的証明書の発行に
関し,極めて重要な役割を果たしたと主張する者であり,検察官が開示を
しなかった供述調書等を含めてAらの供述経過を検討することが,検察官
請求証拠の証明力を判断するために重要である。
また,検察官は,被告人とA,B及びDとの間の共謀の成立を主張し,
Aらの供述調書によってこれを立証しようとするとともに,多数の間接事
実の積み重ねによってもこれを立証しようとしているところ,共謀の成否
を判断するにあたっては,被告人と実行行為者との関係,被告人の犯行動
機等,多岐にわたる間接事実を考慮すべきことになるのであるから,弁護
人は,検察官請求証拠に記載された間接事実との矛盾・そごの有無に加え,
共謀の推認を妨げ,あるいは推認力を減殺させる事実の有無,供述者の信
用性を減殺する事実の有無を含めて供述経過を検討することが重要である。
ウ開示による弊害の不存在
事案の性質からして,Aらの供述調書が開示されることにより,プライ
バシー侵害等の弊害が生じることは考えがたい。
2検察官の意見
本件裁定請求に対する検察官の意見は,検察官作成の10月2日付け意見書記
載のとおりであるが,その要点は,以下のとおりである(なお,検察官は,弁護
人のしたAら3名についての裁定請求に対し,「弁護人が申し立てた裁定請求に
ついての未開示の証拠は,検察官に対する供述調書だけである。」旨述べた。)。
(1)検察官が開示しなかったA,B及びCの各供述調書は,本件公的証明書の
発行及び行使に関する一連の経過とは関連性のない余罪捜査の対象となり得
る事実等に関する供述が録取されたものであり,「特定の検察官請求証拠の
証明力を判断するために重要である」証拠にあたらない。
(2)すでにAらに関する本件公的証明書の発行等に関する供述調書等のほか,
証拠物等を多数開示しているのであり,これら開示済みの各証拠によって,
Aらの供述の証明力の検討は十分に可能であり,Aらの供述調書のうち,未
開示の分について証拠開示の必要性は極めて低い。
(3)Aらの供述調書のうち,未開示の分については,本件以外の余罪に関する
事項が録取されており,供述者あるいは当該供述調書に名前が挙げられた関
係者の名誉,プライバシーを侵害するおそれがあり,開示による弊害が大き
い。
(4)以上によれば,本件裁定請求には理由がない。
3当裁判所の判断
(1)Aらの未開示の供述調書の存在
当裁判所は,本件裁定請求に関し,未開示のAらの供述調書の内容を検討
する必要があると判断し,10月5日,検察官に対し,未開示のAらの供述
録取書の全てを提示するように命じたところ,検察官は,以下の供述調書を
当裁判所に提示した(以下これら9通の供述調書を「本件各未開示調書」と
いう。)。
①Aの検察官に対する供述調書1通(6月21日付け)
②Bの検察官に対する供述調書3通(6月3日付け,同月17日付け,同
月30日付け)
③Cの検察官に対する供述調書5通(5月29日付け〔2丁のものと4丁
のもの各1通〕,6月3日付け,同月4日付け,同月17日付け)
(2)類型証拠該当性
本件各未開示調書は,いずれも検察官が取調べ請求をした供述録取書の供
述者の供述が録取されたものである。また,これまで提出された検察官の証
明予定事実によれば,Aら3名は,いずれもその立場や果たした役割等に照
らして,同人らの供述録取書に対する弁護人の証拠意見が不同意である場合,
検察官から証人として尋問を請求されることが確実視される者といえるから,
本件各未開示調書は,いずれも刑事訴訟法316条の15第1項5号ロに該
当することが明らかである。
(3)証拠の重要性及び開示の必要性
そこで,本件各未開示調書の証拠としての重要性及び開示の必要性について
検討する。
ア供述者の立場等
まず,Aは,本件被告事件の共犯者として起訴された者であり,検察官
のこれまでの主張によれば,本件被告事件にかかる公的証明書の発行を受
けた団体「Y」主宰者の一人であって,同団体の会長である共犯者Dを介
して,同人の旧知の国会議員に対し,公的証明書の発行に関してX省への
口添えを依頼したり,自ら当時X省のX1局X2部X3課X4室X5係長であっ
たBに対して公的証明書の発行を催促したりするとともに,不正に発行さ
れた公的証明書を行使したとされる人物である。
Bも,A同様に本件被告事件の共犯者として起訴され,検察官のこれま
での主張によれば,当時X省の担当係長として,上記「Y」側からの要請
や被告人からの指示等を受け,内容虚偽の公的証明書を作成したとされて
いる人物である。
Cについては,本件被告事件の共犯者とはされていない者であるが,検
察官のこれまでの主張によれば,当時X省のX1局X2部長として,Dから
口添えを依頼された上記国会議員から,公的証明書の発行を要請され,被
告人に対し,公的証明書の発行に向けた便宜を図るよう指示するなどした
とされる人物である。
このように,A,Bについては,本件の共犯者として重要な役割を果た
した者であり,Cについても共犯者とはされていないものの,共犯者に準
ずる程度に重要な役割を果たしたものといえる。
イAらの供述の重要性等
検察官のこれまでの主張によれば,被告人は,上記のように国会議員に
よる要請を受けていたCから,公的証明書発行に向けた便宜を図るよう指
示を受けるなどし,Bに対して本件公的証明書の発行を指示したとされ,
この件は,団体としての実体の有無にかかわらず,公的証明書を発行する
ことが決まっている「議員案件」と位置づけられ処理されたとされている。
そして,検察官は,共犯者による実行行為や被告人との共謀状況について,
共犯者であるA及びB並びに被告人の上司であったCの供述を直接証拠な
いしこれらの事実を推認させる間接証拠として請求しているものと考えら
れる。このような検察官の主張及び本件で想定される証拠構造に照らせば,
弁護人において,被告人の防御のために,Aら3名の供述について,その
証明力を判断する必要性が,類型的にみて非常に高いものであるとみられ
る。
ウ本件各未開示調書の概要
当裁判所が検察官から提示を受けた本件各未開示調書の概要は本件裁定
判断に必要最小限の範囲で検討すると,以下のとおりであった。
①Aの検察官に対する供述調書
Dほか数名とともに行った別件詐欺事件についての共謀状況,犯行態
様等に関する事項
②Bの検察官に対する供述調書3通
X省内部で本件被告事件以外の不正行為が行われていたことに関する
事項ないし本件被告事件及びB単独の被告事件以外にBが単独で犯した
という別件案件に関する事項
③Cの検察官に対する供述調書5通
CがX省幹部等として国会議員等の対外的関係で不正行為を行ってい
たとか,便宜を受けていたとする事項及び上記X省内部での不正行為が
行われたことに関する事項
大阪地方検察庁への出頭前日の宿泊場所に関する事項(5月29日付
け検察官に対する供述調書〔4丁のもの〕)
エ上記記載内容を踏まえた本件各未開示証拠の重要性及び証拠開示の必要

①Aの検察官に対する供述調書
Aの上記検察官に対する供述調書は,Aが本件被告事件についての被
疑者として勾留されている期間に,しかも,その事件の被疑事実につい
ての取調べとして行われ,その際に供述した内容を録取したものである。
しかし,その内容は別件事件に関するもので,X省側の関与も明らかと
はされていないものであり,いわば別件取調べにおいてAが供述した内
容を録取したものと認められ,本件被告事件との関連性はうかがわれな
い。したがって,本件被告事件との関係では,証拠としての重要性は低
く,また,これを開示する必要性も低いものと認められる。
②Bの検察官に対する各供述調書
Bの上記検察官に対する各供述調書は,Bが,本件被告事件についての
被疑者として勾留されている期間に,しかも,その事件の被疑事実につ
いての取調べとして行われ,その際に供述した内容を録取したものであ
る。本件被告事件に関する事項も一定程度言及されており,特に,6月
30日付け検察官に対する供述調書においては,被告人が本件被告事件
の犯行に及んだ動機に関する事項についても録取されているほか,Bが
本件被告事件について単独犯であると供述していた動機やその際根拠と
していた他の単独での別事件,その後,供述を変えた理由に関する供述
も録取されているところであって,重要な事項に関する供述を含むもの
といえる。そして,Bは,本件被告事件における中心的役割を果たした
者の一人であり,検察官が被告人と共犯者との間の共謀の事実等を立証
する上で必要不可欠の人物であるといえることに照らせば,その供述の
信用性を判断する上で,上記のようなBの供述が録取された供述調書に
ついて,弁護人において証拠開示を受け,その内容を検討する必要性が
高いものと認められる。
③Cの検察官に対する各供述調書
Cの上記検察官に対する各供述調書のうち,5月29日付け(2丁の
もの),6月3日付け,同月4日付け及び同月17日付けの各供述調書
は,上記のとおり,C自身がX省の幹部等として,国会議員等との対外
的関係で不正行為に及んでいたことなどが録取されたものである。そし
て,検察官のこれまでの主張によれば,被告人が本件被告事件の犯行に
及んだ動機には,本件公的証明書の発行が「議員案件」であったという
点が挙げられているところ,「議員案件」であれば公的証明書を発行す
ることが決まっているということが,当時のX省X1局X2部内部での共
通認識であったのか否かについては,X省ないし同省X1局X2部の体質
や対国会議員との関係がいかなるものであったかとも関連している。
したがって,Cの上記供述は,本件被告事件と関連性があるものとい
うべきであり,被告人の犯行動機等に関する検察官の上記主張との関係
では,その供述を把握しその真偽を確認することが,検察官請求証拠の
証明力を判断する上で重要であるといえる。そして,Cは,被告人に対
し,本件公的証明書の発行について便宜を図るように指示したとされる
ものであり,B同様に,本件被告事件の立証上重要な人物であるといえ
るので,その供述の信用性を判断する上で,上記のようなCの内容が録
取された供述調書についても,弁護人において証拠開示を受け,その内
容等を検討する必要性があると認められる。
他方,Cの上記検察官に対する供述調書のうち,5月29日付け(4
丁のもの)については,Cが大阪地方検察庁に出頭する前夜の,宿泊場
所に関するものであり,本件被告事件と特に何ら関連性を有しない事項
であって,重要な証拠とは認められないし,Cの供述の信用性を判断す
る上で必要性がある事項とはみられない。
オ小括
以上によれば,本件各未開示調書のうち,以下の各供述調書については,
証拠の重要性及び開示の必要性があると認められる。
①Bの検察官に対する供述調書3通(6月3日付け,同月17日付け,
同月30日付け)
②Cの検察官に対する供述調書4通(5月29日付け〔2丁のもの〕,
6月3日付け,同月4日付け,同月17日付け)
他方,本件各未開示調書のうち,以下の各検察官調書については,本件
被告事件と関連性がない事項に関するものであり,その重要性は低く,こ
れを開示する必要性もまた低いものと認められる。
③Aの検察官に対する供述調書
④Cの検察官に対する供述調書(5月29日付け〔4丁のもの〕)
(4)開示に伴う弊害
ア弊害の内容
本件各未開示調書には,上記のとおり,本件被告事件とは別個のいわゆ
る別件に関する事項や,X省内での不正行為等に関する事項が録取されて
いて,本件被告事件とは直接関係しない人物等も多数登場するところであ
り,これらの開示を認めることで,供述者の余罪や,本件被告事件と関係
が明らかとされていない者に関する不正行為の事実,不正行為に関与して
いるのか明らかでない者の名前等が弁護人及び被告人に明らかになってし
まうことから,上記の者らに対する,名誉ないしプライバシーに影響する
ことは否定できない。
イ弊害の程度
また,名誉ないしプライバシーの中でも,個人の犯罪事実,不正行為に
関する事項は,ひとたびこれが明るみに出た場合,事後的な回復が困難な
ものであり,保護の必要性が類型的に高いものということができる。
もっとも,証拠を開示することにより,弁護人及び被告人に供述者ない
し第三者の余罪等に関する事項が示されるものの,開示を受けた証拠の目
的外利用の禁止等の諸規定(刑事訴訟法281条の4等)や弁護人に課せ
られた弁護士倫理等により,開示された証拠に関する情報流出等の危険は
相当程度防止できるのであるから,開示証拠に関する内容が世間一般に知
れ渡るなどといったより強度の弊害が生じるおそれが高いものということ
はできない。
(5)結論
以上検討した証拠の重要性及び開示の必要性並びに開示に伴う弊害の諸点
を総合考慮すると,上記(3)のオの①,②に列挙した7通の各供述調書につい
ては,開示に伴う弊害に勝るほどの証拠の重要性及び開示の必要性があると
いえるので,検察官に対し,証拠開示を命ずるべきである。他方,上記(3)の
オ③,④に列挙した2通の各供述調書については,証拠の重要性及び開示の
必要性があるとは認められないので,この点に関する証拠開示命令の請求に
は理由がない。
以上のとおり,本件裁定請求は上記の限度で理由があるから,検察官に対
し,主文掲記の各証拠を弁護人に開示することを命じ,その余の裁定請求を
棄却することとする。
平成21年10月14日
大阪地方裁判所第12刑事部
裁判長裁判官横田信之
裁判官難波宏
裁判官安原和臣

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