弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人Aに対する原判決を破棄する。
     被告人Aを懲役十月及び罰金一万円に処する。
     被告人Aが右の罰金を完納することができないときは金二百円を一日に
換算した期間同被告人を労役場に留置する。
     原審において証人Bに支給した費用は被告人Aの負担とする。
     被告人Cの本件控訴を棄却する。
     当審において被告人Cのために附した国選弁護人山崎清に支給した費用
は被告人Cの負担とする。 ○理由
     本件控訴の趣旨は末尾添附の被告人Aの弁護人柴田睦夫、被告人C本人
並びにその弁護人山崎清の夫々差し出した各控訴趣意書記載のとおりである。
     被告人Aの弁護人柴田睦夫の控訴趣意第一点について
     覚せい剤取締法第四十一条第四項が「営利の目的で又は常習として云
々」と規定していることは所論の如く<要旨第一>であるが、ここに謂うところの営
利の目的とは利益を得る目的を指称するものであつて継続文は反覆して利益 第一>を得る目的のあることを必要とするものではないと解すべきであるから常習と
して敢行された場合にはその数個の行為を包括して一罪として処断すべきであるか
らといつて営利の目的でなされた場合もこれと等しく常に一罪として処断すべきで
あるとの所論は採用できない。むしろ営利の目的の存することを一の加重要件とし
たに過ぎないものと解するのが相当である。しかも本件訴訟記録全体を精査しても
被告人が単一の犯意の下に原判示の各所為に及んだものとは認め難いから原審が被
告人の原判示の所為に対し併合罪の規定を適用したことは相当であり、所論の如き
法律の解釈適用を誤つた違法はないから論旨は理由がない。
     同第三点について
     原判決は原判示第一の事実認定の証拠の標目として一、証人Dの当公廷
での昭和三十年一月十七日の供述(右は弁護人も認めているとおり昭和三十年一月
二十一日の原審第五回公判廷における供述の誤記であると認める)一、Dの検察官
に対する昭和二十九年十月十四日附及び同年十二月十一日附各供述調書その他を掲
げていることは所論の如くであるが、論旨は先ず右D証人の前記公判廷における供
述は同人の検察官に対する前記各供述調書に記載されているところとなんらくいち
がうところはなく、くいちがいの生じたのは弁護人の反対尋問によるものであり、
かくの如く反対尋問によつてはじめてあらわれた証言とくいちがうからといつて弁
護人の異議申立を却下して検察官に対する供述調書の証拠調をなしこれを採証する
が如きは刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号に違反し憲法の認めている審問権
を全く有名無実に帰するものであると主張するからこの点について考えるのに、同
証人の前記公判廷における供述を調べてみると右供述は前後矛盾する点が多々あ
り、前に検察官の面前においてなした供述と相反し、若しくは実質的に異つた供述
をしておること明らかであり且つ前記各供述調書はその信用性の情況的保障に欠け
るところは認められないから、原審が前<要旨第二>記各供述調書を採証しているこ
とは固より相当である。そして刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号後段の 旨第二>前の供述と相反するか若しくは実質的に異つた供述をしたときとは必ずしも
主尋問に対する供述のみに限らず、反対尋問に対する供述をも含むものと解するの
が相当であり所論は独自の見解というべく到底採用することはできない。次に論旨
はD証人は前記原審公判廷において「Eの息子からFの姉さんが持つて来たから買
つて呉れといわれて三百本を受け取り同人に千五百円を渡した。その際被告人が持
つて来たかどうかは知らないが、Eの息子から聞いたものであり、金千五百円も被
告人に渡したのでなく、Gの息子に渡した」旨を供述しておるのであるが、これに
よつて、Dが何人かからヒロポンを買つたことは明らかであるが、右の証言によつ
ては被告人がDにヒロポンを譲渡したという事実は認めることはできない。同人の
証言は法律の禁止する伝聞証拠であり原審がこの証拠をもつて原判示第一の事実を
認定したのは明らかに刑事訴訟法第三百二十条に違反すると主張するのであるが原
審は右D証人の供述中論旨摘録の部分の如きは採証しなかつたものと解するのが相
当であるから、この点に関する論旨も採用できほい。
     更にまた論旨は原審は証人Dの原審第五回公判廷における供述を排斥し
同人の検察官に対する各供述調書を採証しているが同人は先に同第四回公判廷にお
いて偽証をなしたので検察官から十分注意を受け偽証をすれば処罰を受け且つ執行
猶予も取り消されるべきことを肝に銘じた上での証言であるから十分措信するに価
する供述であるのにこれを信用せず却つて宣誓もしなければ反対尋問にもさらされ
ていない検察官の面前における供述を採証しているのは採証の法則に違反すると主
張するけれども前叙の如く右D証人の原審第五回公判廷における供述は前後矛盾す
るところが多く措信し難い点がすくなくないのに反し検察官に対する同人の各供述
調書の記載はいずれも事理に叶い、いささかも不合理不自然のところは認められな
いから原審がこれら各供述調書を採証したことは相当であり所論の如き採証法則の
違反はない。それゆえ各論旨は理由がない。
     (その他の判決理由は省略する。)
     (裁判長判事 中村光三 判事 脇田忠 判事 鈴木重光)

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