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平成20年1月31日判決言渡
平成19年(行ケ)第10303号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年11月26日
判決
原告X
被告株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ
訴訟代理人弁護士大野聖二
訴訟代理人弁理士中村仁
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2006−89028号事件について平成19年7月24日
にした審決を取り消す。
第2前提事実(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実である。)
1特許庁における手続の経緯等
(1)特許庁における手続の経緯
ア被告は,平成13年9月17日,商標登録出願(商願2001−83
974号)をし,平成14年9月6日,「iモード」の標準文字の商標
につき,指定役務を第38類「移動体電話による通信,電子計算機端末
による通信,電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」
として,特許庁から,商標権の設定登録(商標登録第4602351
号)を受けた(甲3。以下,この登録商標を「本件商標」という。)。
イこれに対し原告は,平成18年3月13日,本件商標に係る指定商品
中,第38類「移動体電話による通信,電子計算機端末による通信ネッ
トワークへの接続の提供」についての商標登録(以下「本件商標登録」
という。)の無効審判請求(無効2006−89028号事件)をし,
特許庁は,平成19年7月24日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は同年8月2
日原告に送達された。
(2)原告の有する特許権
ところで,原告は,発明の名称を「数字キーのみを用いて総ての文字・
記号を入力することが可能な入力装置とそれを用いたフィルム描写装置」
とする特許(特許第3611580号)についての特許権(出願日・平成
8年2月26日,優先日・平成7年4月21日,登録日・平成16年10
月29日。甲1の1)及び発明の名称を「INPUTDEVICETOINPUT
CHARACTERSANDSYMBOLSFORRECORDINGCHARACTERSANDSYMBOLSONAFILM」
とする米国特許(米国特許第6,097,990号)についての特許権(
出願日・1996年(平成8年)2月26日,優先日・1995年(平成
7年)4月21日,登録日・2000年(平成12年)8月1日。甲1
0,11)を有している(以下,これらの特許権を併せて「本件各特許
権」という。)。
2審決の理由
別紙審決書の写し記載のとおりである。すなわち,本件商標は,第38
類「移動体電話による通信,電子計算機端末による通信,電子計算機端末に
よる通信ネットワークへの接続の提供」を指定役務として,「iモード」の
文字を標準文字で表してなる商標であるとした上で,①本件商標を付した携
帯電話の構成要素及び実施形態は,原告の有する本件各特許権を侵害してい
るので,商標法29条1項(判決注・「商標法29条」の趣旨)に該当する
との無効理由による本件審判請求は,商標法46条1項各号に列挙された事
由以外の事由による不適法な請求であって,補正することができないので,
却下すべきである,②本件商標は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそ
れがある商標」(商標法4条1項7号)には該当しない,③本件商標は商標
法4条1項19号に該当するとの原告の主張は,新たに無効理由を追加し,
請求の理由の要旨を変更するものであるから,商標法56条1項で準用する
特許法131条の2第1項により認められないので,本件商標登録は,商標
法46条1項の規定により無効とすることはできない,というものである。
第3当事者の主張
原告主張の審決の取消事由は,訴状の「請求の原因」の3の(8)(8頁末行
∼10頁末行)に記載されているとおりである(該当部分を判決末尾に別
紙「原告の主張」として添付する。)。
これに対し,被告は,本件商標が商標法4条1項7号に該当するかどうか
は,本件商標が使用される対象の移動体電話(「iモード対応」端末)によ
り判断されるべきでなく,本件商標の構成のみによって判断されるべきであ
るから,審決に誤りはないとして,原告の主張を否認した。
第4当裁判所の判断
1審決の取消事由の有無
別紙「原告の主張」によれば,原告は,審決には,本件商標の商標法4条
1項7号該当性等の判断の誤りがあることなどを取消事由として主張してい
るものと解される。しかし,当裁判所は,以下のとおりの理由により,原告
主張に係る取消事由はいずれも失当であると判断する。
(1)商標法4条1項7号該当性について
原告の主張は必ずしも明らかではないが,原告は,「iモード」の標章
を使用して,対応端末「デジタル・ムーバーF501iHYPER」を発売
したり,同対応端末の画面操作やインターネットを介してメールの交換等
をさせたりする被告の行為が原告の有する本件各特許権を侵害することに
なるので,本件商標は,「他の法律によって,その使用等が禁止されてい
る商標」,「一般に国際信義に反する商標」,「構成自体に問題がなくて
も,指定商品について使用することが社会公共の利益や一般的道徳観念に
反することとなる商標」として,商標法4条1項7号に規定する「公の秩
序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するから,本件商標
登録には無効理由があると主張しているものと解される。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,商標が商標法4条1項7号に該当するかどうかは,特段の事
情のない限り,当該商標の構成を基礎として判断されるべきものであり,
指定商品又は指定役務についての当該商標の使用態様が他人の権利を侵害
するか否かを含めて判断されるべきものではない(立体的形状の商標の使
用が他人の物の発明に係る特許権や他人の意匠権に抵触する場合などにお
いても,立体的形状自体が商標を構成するから,商標の構成のみによって
判断されるべき場合の例外には該当しない。)。特に,商標法29条にお
いて,商標権者による登録商標の使用が,その使用の態様により出願日前
の出願に係る他人の特許権等と抵触するときには,指定商品又は指定役務
のうち抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることが
できないと定められ,知的財産権相互の調整が図られていること等に照ら
すならば,指定商品又は指定役務についての商標の使用態様によって他人
の特許権等を侵害することがあったとしても,すなわち,そのような使用
がされたり,あるいはそのような使用がされる事態が想定される状況等が
あったとしても,そのことから直ちに当該商標が,「公の秩序又は善良の
風俗を害するおそれがある商標」に該当するものと判断すべきではないと
いえる。
本件においてこれをみると,本件商標は,「iモード」を標準文字で表
す構成からなる典型的な文字商標であって,本件商標の構成・内容から,
他人の特許権等を侵害するものということはできない。そうすると,原告
主張に係る本件商標の使用が原告の有する本件各特許権に抵触するという
理由をもって,本件商標が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあ
る商標」に該当するということはできず,この点の原告の主張は失当であ
る。
(2)原告のその他の主張について
ア商標法4条1項19号に該当するとの取消事由について
審決は,原告が弁駁書で,本件商標は,商標法4条1項19号に該当
する無効理由があると主張した点が,新たな無効理由の追加であり,請
求の要旨の変更に当たるとして,商標法56条1項で準用する特許法1
31条の2第1項に違反すると判断した。しかし,本件のように,その
主張に係る基礎的事実を何ら変更,追加することなく,単にその無効理
由の根拠条項を明らかした場合にも,新たな無効理由の追加であるとし
て,審判の対象を細分化し,原告の主張の当否に関する判断を行わなか
った審理運営のあり方に妥当を欠く点がなかったかについては疑問があ
る(このような審理は,審決により確定する効力の範囲を著しく狭くす
る結果を招く。)。
しかし,その点はさておくとして,別紙「原告の主張」を勘案して
も,原告は,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日
本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又
は類似の商標」(商標法4条1項19号)が存在する事実を何ら主張,
立証していないから,同号の取消事由に係る原告の主張はそれ自体失当
であることは明らかである。
イ本件商標の構成要素の認定の誤りについて
原告は,本件商標の構成要素は,「iモード」の標準文字そのものの
みではなく,移動体電話(「iモード」対応端末。例えば,デジタル・
ムーバーF501iHYPER)から直接インターネットに接続してメール
のやり取り等ができることをも含めて構成として認定すべきであるにも
かかわらず,審決が,「本件商標は,「iモード」の文字を標準文字で
表してなる」と認定したのは誤りである旨主張する。
原告の主張は,審決の取消理由との関係が必ずしも明らかではない
が,商標とは,「文字,図形,記号若しくは立体的形状若しくはこれら
の結合又はこれらと色彩との結合」(商標法2条1項柱書)であって,
その使用態様を含めて商標の構成要素ないし内容を判断すべきでないこ
とは規定上明らかである(なお,この点は,商標の登録要件の有無の判
断において,指定商品又は指定役務との関係が考慮されるべきであるこ
とを否定するものではない。)。
そして,前記第2の1(1)アによれば,本件商標は,「iモード」の標
準文字で構成されるから,審決の本件商標の構成要素の認定の誤りをい
う原告の主張は,理由がない。
(3)小括
その他,原告は縷々取消事由を主張するがいずれも理由がなく,原告の
主張は失当である。
2結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取
り消すべき瑕疵は見当たらない。よって,原告の本訴請求は理由がないか
ら,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀
(別紙)「原告の主張」
(1)取消理由1
「まず,当事者間で請求の利益について争いがあるも,一概に請求の利益がな
いとも断定できないので,以下,本案に入って審理する。」について一部認
め,他は否認する。
甲第1号証から甲第108号証の提出した書類を審理して頂きたい,商標法第
29条(他人の特許権等との関係)(先使用による商標の使用をする権利),
特許権侵害(米国及び日本国),商標法第4条第1項第7号(他の法律によっ
て,その使用等が禁止されている商標,一般に国際信義に反する商標),商標
法第4条第1項第19号について争う。
(2)取消理由2
「商標登録無効審判における無効理由は,商標法第46条で規定されていると
おり,原則として法廷列挙主義をとっている。すなわち,第46条の規定で列
挙された事由以外の事由によっては無効審判を請求することができないもので
ある。
そうとすれば,商標法第29条第1項に該当するとした無効理由による本件審
判請求は,不適法な請求であり,補正することができないものであるから,却
下すべきものである。」について否認する。認定の誤りである。
商標法第29条(他人の特許権等との関係)(先使用による商標の使用をする
権利)特許権侵害(米国及び日本国),商標法第4条第1項第7号(他の法律
によって,その使用等が禁止されている商標,一般に国際信義に反する商
標),商標法第4条第1項第19号について争う。
(3)取消理由3
「本件商標は,上記第1のとおりの構成よりなるものであるから,上述したよ
うに商標に当たらないことは明らかである。」について否認する。認定の誤
りである。
本件商標である「iモード」の構成要素とは,「iモード」の標準文字その
ものではなく,移動体電話(「iモード」対応端末)例えば「iモード」対
応初号機デジタル・ムーバーF501iHYPERから直接,インターネット
に接続してメールのやり取り等ができる構成の事であって,「iモード」の
標準文字のみの意味ではない。したがって移動体電話(「iモード」対応端
末)が無ければ成り立たない。
原告は,本件商標である「iモード」の文字を付した携帯電話の構成要素及
び実施形態の解釈の相違について争う。
甲第4号証及び甲第7号証,1999年1月22日「iモード」のサービス
開始及び対応端末「デジタル・ムーバーF501iHYPER」の発売。NT
Tドコモ製品「iモード」対応初号「iモード」対応端末「デジタル・ムー
バーF501iHYPER」の画面操作で直接,インターネットに接続してメ
ールのやり取り等ができる構成要素及び実施形態の事である。
特許権侵害(米国及び日本国),商標法第4条第1項第7号(他の法律によ
って,その使用等が禁止されている商標,一般に国際信義に反する商標,構
成自体に問題がなくても,指定商品について使用することが社会公共の利益
や一般的道徳観念に反することとなる商標,)商標法第4条第1項第19号
について争う。
(4)取消理由4
「請求人は,弁駁書において,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に
該当すると主張しているが,これは新たに無効理由を追加し,請求の理由の
要旨を変更するものであるから,商標法第56条第1項で準用する特許法第
131条の2第1項により認められない。」について否認する。認定の誤り
である。
特許権侵害(米国及び日本国),商標法第4条第1項第7号(他の法律によ
って,その使用等が禁止されている商標,一般に国際信義に反する商標)商
標法第4条第1項第19号について争う。

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