弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 東京高等検察庁検事長佐藤博上告趣意について。
 所論は、原判決にはその認定した事実に対して法令を正しく適用しなかつた違法
があると言うのである。すなわち、『原審の認定した被告人AとBとの間に行われ
た会談の事実とその内容、その行われた具体的環境と事情とを尠しく分けて考察す
ると、(一)Aの過去における行政官として又政治家としての経歴は、原審認定の
通りであつて、そこにうかがわれるAの実力と勢威と聡明とはなみなみならぬもの
があり、(二)そのAが他に廻る心算ではあつても、税金を納めるべく彼自身運転
手の動かす自家用車に乗つて滝野川区役所へ行くというその道すがら、記録に見ら
れるようなCという人物の邸宅を訪れたのであり、(三)C邸にはCはaへ静養に
行つて不在ではあつたが、Dが居り、(四)そのBはCの秘書格といわれているが、
記録に示されたような政治的経歴を持つていて、唯の所謂鞄持以上の人物であり、
(五)このBは又遠からず必ずaのCを訪れて留守中の出来事を報告する者であり、
(六)このBを相手にして被告人Aは原審裁判所認定のように「E君等はあのまゝ
では遂に行くところがなくなつて仕舞う」という感慨を述べたのである。……この
Aの述懐の内容は、Aが意図すると否とに関係なく、Bを通じてその儘の形でか又
は変つた形をとつてか、必ずCに伝わり、場合によつては問題となつたE一派の代
議士等が民自党への復帰という純粋の形ではなくとも、「何等か現実の政治に影響
を与える」動力となり得るものであるから、……昭和二二年勅令第一号特にその第
一五条の立法趣旨と経過から観て、覚書該当者としてのAには禁止された「政治上
の活動」の意義を持つものであつて、該法条を適用して処罰すべきであつたのに、
その挙に出でなかつたのは擬律において錯誤あり』と主張するのである。
 しかしながら、原審は自ら直接的に審理した結果と全記録に存する数多くの証拠
とにつき、極めて細心の注意をもつて互に比較考量し、証言内容の虚々実々を丁寧
に吟味し、実体的真実の発見に努め終始誠実な態度をもつて慎重に事実の認定をし
ているのである。そして、論旨主張の前に揚げた(一)ないし(六)の事実中、「
そこにうかがわれる被告人の実力と勢威と聡明とはなみなみならぬものがある」と
の点及び「このBは又遠からず必ずaのCを訪れて留守中の出来事を報告する者で
ある」との点は原判決の明らかに認定していないところであるが、その余の点は被
告人とBとの間に行われた会談の具体的環境と事情として原判決も大体において認
定している。しかしながら、原判決はそればかりではなくもつと突込んで当時の情
勢として、(イ)「昭和二三年三月一五日日本自由党が解散し、新に民主自由党が
結成せられたが其の際E外約七名の代議士等が之に参加せずに新に日本自由党を結
成したこと」、「E一派の日本自由党は、保守大合同を目標とし併せて旧日本自由
党幹部の刷新と民主的運営を期する所謂反幹部的気運に基いて結成せられたもので
あつて、政界の情勢に急激な変化のない限り、新日本自由党結成後未だ一箇月も経
過しない昭和二三年四月二日頃の本件行為当時においては、同人等において民自党
に復帰する意思があつたものとは認められない」こと、(ロ)「C一人の意見によ
つて容易すぐその去就を決するものとは認め難い」こと、(ハ)「Cにおいても新
日本自由党結成に当り所謂残留組の行動に賛意を表していたのであるから、同人等
の民自党への復帰について斡旋の労を執ろうとする意思がなかつたことが認められ
る」こと、(ニ)「本件当時民自党幹部の間においては、E一派の民自党への復帰
不許可の方針は略同党の党是となつていて、E一派の復党は実現困難の情勢にあつ
たことが窺知せられる」こと、(ホ)「Cの民自党方面に対する発言権も、旧日本
自由党F総裁、G幹事長時代に比し著しく弱化し、その発言が民自党幹部等から拒
否されている」こと、(へ)「Cの斡旋によつてもその復党は困難と認めざるを得
ない」こと、(ト)「本件当時被告人においてBの主張するごとき発言又は申出を
なす必要ないし事情が存在したと認められる証拠は全く見当らない」こと、(チ)
「被告人において覚書該当者は政治的活動を禁止されていることを認識していたこ
と」「被告人は追放後ポツダム宣言の趣意を体して政界との交渉を絶ち、専ら実業
方面において活動していること」を認定しているのである。そして、これ等のすべ
ての環境と事情の下において、被告人がBとの間における僅か三〇分前後に過ぎな
い四方山の雑談中に談たまたまE一派の消息に及んだので、同人等の行動について
「E君等はあのままでは遂に行くところがなくなつて仕舞う」と単なる所感を述べ
たに過ぎないものと推断せざるを得ないと原判決は認定したのである。そしてさら
に、原判決は、「前敍の如き情況の下における被告人のE等の行動に関する所感の
発表は、Bとの間における雑談中の一話題に関するものであつて、被告人において
何等政治的意図を有したものとは認められないから、仮令その所感が政治上の事項
に関する場合であつても、夫れが旧知の者と相対しての雑談中に表われた一話題に
関して政治的の意図なくしてなされたような程度のものは、公職に関する就職禁止
退職等に関する勅令第一五条に規定する所謂政治上の活動に該らざるものと認める
を相当とする」旨をも判示しているのである。そこで、覚書該当者が同条により「
政治上の活動」を禁止されているのは勿論であり、同条にいわゆる「政治上の活動」
とは、原則として政府、地方公共団体、政党その他の政治団体又は公職に在る者の
政治上の主義、綱領、施策又は活動の企画、決定に参与し、これを推進し支持し若
しくはこれに反対し、あるいは公職の候補者を推薦し支持し若しくはこれに反対し、
あるいは日本国と諸外国との関係に関し論議すること等によつて、現実の政治に影
響を与えると認められるような行動を言うものと解するを相当とすることは、すで
に当裁判所判例の示すとおりである(昭和二三年(れ)第一八六二号、同二四年六
月一三日大法廷判決)。また、覚書該当者の政治上の活動を処罰するには、いわゆ
る目的犯のように特に政治的目的ないし政治的意図は要件として要求されてはいな
いものと解すべきことも、前記判例において明示されている。ただ客観的行動の考
察だけでは、政治上の活動に該当するかどうかが疑わしい場合においても、被告人
の主観的意思の考察によつて、政治的目的ないし政治的意図をもつてなされたとき
は、政治上の活動と認めるを相当とする事例の存すべきことは当然である。そこで、
原判決は、目的犯処罰の場合のように、単に政治的意図がないから政治上の活動に
該当しないと判断したものではなく、本件における諸般の具体的事情と環境の下に
おいて、前記のごとく客観的に考察しても、また主観的に考察しても政治上の活動
に該当しないと判断したものである。従つて、その判断は、正当であつて前記判例
の趣旨に反することもなく、法令に違反するところもない。上告論旨は、結局原審
の自由裁量に属する事実の認定を非難するに帰着し、法律審に対する適法の上告理
由として認めることはできない。
 よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 長部謹吾関与
  昭和二四年一一月一七日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛