弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人鶴敍,同芥川宏,同柴橋修の上告趣意は,事実誤認,単なる法令違反,量
刑不当の主張であり,被告人本人の上告趣意は,事実誤認の主張であって,いずれ
も刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論に鑑み記録を調査しても,刑訴法411条を適用すべきものとは認め
られない。
付言すると,本件は,被告人が,(1)自己が清算人を務め,かつ,その債務に
つき連帯保証人である会社の清算方針を巡って意見が対立していた養父から会社の
実権を奪うとともに養父の生命保険金を詐取することを目的として,夜間人気のな
い場所に養父を呼び出した上,その頭部を鉄アレイで殴打し,さらに自動車に乗
せ,自らが運転してコンクリートブロック壁に同車を衝突させ,養父を交通事故に
見せかけて殺害し,生命保険会社から多額の保険金をだまし取った殺人,詐欺の事
案,(2)上記保険金は第三者の手に渡り被告人の手元に残せなかったものの,こ
れを取り戻すことができるなどと妻に嘘を言い続け,その嘘の発覚により同女が愛
想を尽かし,被告人のもとを去ることになるのを恐れていっそ殺害してしまおうと
考え,同女の飲み物に睡眠導入剤を混入し,入浴中の同女の抵抗を排してその顔を
浴槽の湯に漬けて溺死させた上,死体を海に投棄した殺人,死体遺棄と,これに伴
って生命保険金をだまし取った詐欺の事案,(3)その後,交際中の女性宅から運
転免許証を窃取し,これを使って,口座を開設して銀行から預金通帳を,携帯電話
機の販売店2店から携帯電話機をそれぞれだまし取った窃盗1件,有印私文書偽
造,同行使,詐欺各3件,不正に入手したクレジットカードを使用してテレビゲー
ム機をだまし取るなどした詐欺10件の事案である。
量刑上重視すべき(1)及び(2)の殺人等の各事実について情状をみると,その動機
は,(1)については利欲性の高い悪質なもので,(2)についても極めて自己中心的か
つ身勝手なものであり,いずれも酌量すべき点は認められない。その態様は,(1)
においては,交通事故死に見せかけるために綿密に計画を練って下準備を施し,夜
間,養父を人気のない場所に呼び出し敢行した計画性の高いものである上,鉄アレ
イで頭蓋骨が砕けるほど強打しても養父が絶命しなかったため病院に連れて行くな
どと嘘を告げて車に乗せ,交通事故を装ってコンクリートブロック壁に車を衝突さ
せたという卑劣かつ残忍なものである。実子同様に被告人を育て,会社の跡取りと
して金銭的な援助もしてきた養父に対し,正に恩を仇で返す非道なものである。ま
た,(2)においては,あらかじめ用意した睡眠導入剤を妻の飲み物に混入するなど
して敢行した計画的なものであり,一緒に入浴し浴槽につかって眠り始めた妻の頭
部を湯の中に漬け,目を覚まして抵抗する同女を浴槽内に転倒させその顔を湯に漬
け続けて殺害したという執ようかつ非情なものである。海で事故死したように偽装
するため,死体を寝ているように見せかけ,夜釣りの下見に行くなどと偽って子ら
と共に車で岸壁まで搬送して海中に投棄しており,誠に冷酷である。2名の尊い生
命を奪った結果は,極めて重大である。被告人と被害者である妻との間の長男は被
告人への感情を和らげ生存を願うものの,多くの遺族の処罰感情は極めて厳しい。
そうすると,被告人には前科がないこと,養父殺害につき保険金目的であること
を否定し,また,背景にはかつての養母の死が養父による殺害であるとの思いもあ
ると述べるものの,その余は他の事件も含め事実関係を認めて反省の態度を示して
いることなど,被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても,被告人の刑事責
任は極めて重大であり,原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は,やむを得な
いものとして当裁判所もこれを是認せざるを得ない。
よって,刑訴法414条,396条により,裁判官全員一致の意見で,主文のと
おり判決する。なお,裁判官田原睦夫の補足意見がある。
裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。
本件では,原審で,第1審判示第4の事実の被害者Aと被告人夫婦の長男である
Bが情状証人として出廷し,被告人に対する死刑の回避を訴えていることに鑑み,
以下のとおり若干の意見を補足する。
Bは,亡Aが殺害された当時12歳であり,妹C(当時8歳)と共に,幼くして
最愛の母親を父親たる被告人に殺害されたのであって,亡Aの遺族の中ではCと共
に最大の被害者である。しかもBは,Cと共に被告人と海釣りに行ったという被告
人のアリバイ工作を担わされたのであって,一審では,B(当時15歳)は被告人
に対し,「僕は,最後までお父さんのことを信じていました。そんな僕のことをお
父さんは裏切った」,「お父さんは,僕やCちゃんを好きだと言ってるけど,もし
お母さんを殺しているところを見られていたら,僕やCちゃんのことも殺していた
のか」との手紙を出すなど,被告人に対して強い不信感を示していた。
ところがBは,一審判決後の平成17年7月に被告人に手紙を出したのをきっか
けに文通を開始し,また再三接見に赴き,原審第2回公判(平成18年9月7日)
には情状証人として出廷するに至っている。同証言及び原審で調べられたBから被
告人に対する手紙によれば,Bは,被告人が犯した各犯行については十分に理解し
ており,また被告人に母を奪われ,それ迄の幸せな生活から一転し,上記証人とし
て出廷する迄の6年半余の間様々な労苦をしてきたことが窺われる。
他方で,その証言や手紙からは,Bと被告人との真摯な父子関係が伝わってくる
のであり,Bは被告人を憎みながらも,「でも,お前は俺の父親じゃけー!まだお
前の事,父親として好きじゃけー!死刑になるなや!」と訴えているのであって,
最大の被害者の一人である息子の,父の存在が自らの生き甲斐だから残された唯一
の親である父までを奪わないでほしい,との訴えは誠に重い。
しかし,原判決が詳細に認定し,また法廷意見で指摘するとおりの本件各殺人事
案の動機,態様,犯行後の行動等からすれば,上記の事実をもってしても,被告人
を死刑に処した原判決の量刑が,それを破棄しなければ著しく正義に反するとまで
は認め得ないと言わざるを得ない。
検察官佐藤崇公判出席
(裁判長裁判官大谷剛彦裁判官那須弘平裁判官田原睦夫裁判官
岡部喜代子裁判官寺田逸郎)

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