弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件申立をいずれも却下する。
申立費用中、参加人Aの訴訟参加によつて生じた費用は同参加人の負担とし、その
余の費用は申立人らの負担とする。
○ 理由
(申立の趣旨、理由及びこれに対する意見)
第一 申立人らの申立の趣旨及び理由の要旨は、別紙一ないし三記載のとおりであ
る。
第二 被申立人の意見の要旨は、別紙四及び五記載のとおりである。
第三 補助参加人の意見は、別紙六記載のとおりである。
(当裁判所の判断)
第一 疎明資料によると、次の事実が一応認められる。
一 日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)は、昭和四〇年度を初年度とする第三
次長期計画を昭和三九年一二月に策定し、これに基づき、東海道本線東京・小田原
間線路増設工事のうち、鶴見・戸塚間(貨物別線)線路増設工事(鶴見・高島間の
一部線路移設工事及び戸塚駅改良工事等を含む。)、羽沢貨物駅新設工事及び北横
浜変電所新設工事並びにこれに伴う附帯工事(以下「本件事業」という。)を立案
し、右貨物別線線路増設工事(以下「本件工事」という。)として、横浜市<地名
略>から同市<地名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>、<
地名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>を経て、<地名略>・<地名略>
に至る横浜市内北部丘陵地帯を迂回する延長一三・七キロメートルに及ぶ貨物専用
鉄道の敷設を定め、昭和四二年四月正式決定をした。
二 右予定路線沿線は、その大部分が住宅地域であつたところから、申立人らを含
む地域住民の一部は、右計画決定をみるや、これに反対する意思を表明し、昭和四
二年六月申立人横浜新貨物線反対同盟連合協議会(以下「申立人反対同盟」とい
う。)を結成し、以来今日に至るまで、右貨物別線の建設に対する反対運動を続け
ている。
三 そして、申立人反対同盟を除くその余の申立人らは、いずれも肩書住所地に居
住しており、また、申立人B、同C、同反対同盟を除くその余の申立人らは、別紙
権利目録記載のとおり、裁決対象地について権利の種類欄記載の各権利を有してい
る。
四 建設大臣は、国鉄の申請になる本件事業につき、昭和四九年七月一七日土地収
用法第二〇条の規定に基づく事業の認定をなし、同日付官報で告示をした(建設省
告示第一〇〇九号)。国鉄は、同年一二月二五日から昭和五〇年七月一一日までの
間に、被申立人に対して別紙裁決対象地目録記載の1ないし44の各土地(以下同
目録記載の各土地をその番号により、それぞれ「1の土地」ないし「44の土地」
という。)を含む右起業地の一部につき収用・使用裁決の申請及び明渡裁決の申立
をなしたところ(なお、別紙裁決目録記載事件中、四九収八号、一二号、一三号は
昭和四九年一二月二五日、四九収一六号は昭和五〇年一月二一日、四九収一八号は
同年二月一七日、五〇収二号ないし九号は同年三月二八日、五〇収一一号は同年五
月二三日、五〇収一七号は同年六月五日、五〇収一九号は同年七月四日、五〇収二
〇号は同年七月一一日に各申請及び申立がなされた。)、被申立人は、昭和五三年
六月三日付で、別紙裁決対象地目録記載の各土地につき、同土地を別紙裁決目録記
載のとおり、収用明渡裁決にあつては、権利を取得し又は消滅させる時期、土地の
引渡し及び物件移転の期限をいずれも昭和五三年七月四日とし、使用明渡裁決にあ
つては、権利を取得する時期、土地の引渡しの期限をいずれも右同日(ただし、五
〇収一一号事件にあつては土地の引渡し期限は同年八月三日)、とする旨の収用明
渡及び使用明渡の各裁決をした。なお、五〇収一九号事件では、4の土地につき、
土地所有者不明ただし申立人B又は申立外Dとして、五〇収一七号事件では、3の
土地につき、関係人(存する場合の土地使用借権者兼物件所有権者)不明として、
それぞれ裁決した。
五 申立人Cは、五〇収八号裁決事件における使用明渡対象地(39の土地)の地
上建物に住んでいる。
第二 申立人らは、本件申立と同旨の理由で各関係裁決の取消を求める訴(横浜地
方裁判所昭和五三年(行ウ)第二七号)を提起するとともに、右裁決の執行及び裁
決後の手続の続行により回復の困難な損害を受けるとして本申立に及んだものであ
り、申立人らのうち申立人反対同盟は、法人格なき社団であると主張し、五〇収一
七号裁決事件の関係人として本件申立をなしている。
そこで、申立人反対同盟の当事者能力の有無について判断する。
疎甲第三二ないし第四一号証、同第四二号証の一、二によると、申立人反対同盟
は、昭和四二年六月一〇日の結成以来今日に至るまで本件貨物別線の建設に対する
反対運動を続け、社会的に実在する運動体として、右貨物別線沿線の住民が相当数
これに関与し、代表者、事務局長等が置かれ、ある程度組織化されている団体であ
ること、国鉄や横浜市が一時期は申立人反対同盟を右建設に関する交渉の相手方と
して扱つて来たことが一応認められる。しかし、右の如く、社会的には一つの団体
として紛争等の解決のための当事者となりうる団体であつても、かかる団体が、直
ちに、法的にも訴え又は訴えられる資格を備えた団体、すなわち権利義務の主体と
なりうる団体であるとまでいうことはできず、本件全資料によつても、申立人反対
同盟が、構成員の変更にも拘らず権利義務の主体となる団体として存続しているも
のとは認められない。
なお、申立人反対同盟の規約らしいものとして疎甲第三一号証が存在するけれど
も、その表題は「規約案」となつており、果して正規の規約として成立したものか
否か疑わしい。さらに、その内容を見ると、構成員は、「各地域の反対同盟又は自
治会」のみで、自然人は含まれず、また、社団の存立にとつて重要な事項である財
産の管理や執行機関に関する規定を欠いており、右規約から反対同盟の社団性を見
出すことは困難である。また、申立人反対同盟は、昭和四七年九月二二日に開かれ
た連合協議会総会において、個々の住民及び同申立人主張の各地区の反対期成同盟
が重畳的に申立人反対同盟の構成員となり、単一組織として整備された旨主張し、
右主張にそう資料もあるが、右資料によつても、同申立人が社団性を有する団体で
あるものと認めるには足りない。
従つて、当事者能力を欠く申立人反対同盟の本件申立は不適法であるが、仮に右申
立人が法人格のない社団であるといいうるとしても、同申立人が五〇収一七号裁決
事件において主張する工作物の所有権取得原因についての疎明資料は全くないの
で、申立人反対同盟は、本件申立をなす適格を有しないことに帰する。
第三 そこで、申立人反対同盟を除くその余の申立人らにつき、まず、執行停止の
積極的要件の一つである本件裁決の執行等による「回復の困難な損害」の有無につ
いて検討する。
一 収用明渡裁決による損害について
申立人E、同Bは、所有土地の収用裁決によつて、その土地所有権が起業者である
国鉄に移転するのみならず、その地上に貨物鉄道高架部分が建設されるのであるか
ら、これによつて回復困難な損害を生ずると主張する。
1 前記第一の四に認定のとおり、申立人Eは、自己所有の1、2及び5の土地に
つき収用明渡裁決(四九収八号、五〇収二〇号)を受けたものであるが、疎明資料
によれば、同申立人は右収用土地上に居住せず、同人の居住地である肩書住所地か
ら、右1、2の土地まではいずれも約五〇メートル、5の土地までは約二七〇メー
トルの距離があること、右1の土地及び残地五九・二一平方メートルにつき、申立
外Fが借地権を有して同土地上に木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建建物を所有し、自己
の用に供していたものであり、2の土地及び残地二四四・三五平方メートルにつ
き、申立外Gが借地権を有し右土地を使用していたこと、5の土地は、申立外H外
一一名が賃借又は転借している土地で、同土地上には右申立外一二名のうち一〇名
が建物を所有し、その余の二名は、右土地の一部を通路として使用しており、右建
物についても関係人として三名の賃借・使用借権者がいること、そして、本件各裁
決により、1、2及び5の土地に対する前記関係人の権利が消滅することが一応認
められる。
右のとおり、申立人Eは、本件工事の起業地から相当離れた地点に居住し、右収用
土地を前記のとおり賃貸していたのであるから、特に疎明のない本件においては、
右各土地が収用されることによつて、大きな損害を蒙るとはいい難く、また、後記
二3(一)(二)認定の事実からすれば、工事の続行並びにこれに続く列車の運行
により著しい生活被害を受けるとも言えないから、本件裁決の執行等により、同申
立人に生ずるであろう損害が、社会通念上金銭賠償の受忍ないし許容可能性の限度
を越えているものとは認められない。
従つて、申立人Eに前記回復の困難な損害が生ずるものとはいえない。
2 申立人Bについては、前記第一の四に認定のとおり、同申立人が所有権(持分
一一三六分の一)ありと主張している4の土地について、土地所有者不明、ただし
申立人B又は申立外Dとして収用明渡裁決(五〇収一九号)がなされている。
そして、疎明資料によると、右土地について申立人Bが主張の如き登記名義を有す
ることは一応認められるけれども、疎乙第五五号証の一、二によれば右登記は、い
わゆる一坪地主として本件工事に反対するため単に名前を連ねるだけの通謀虚偽表
示に基づくものであつて、同申立人が真の権利者ではなく、申立外Dが右権利な有
することが一応認められる。従つて申立人Bは、4の土地の持分権者とは言えない
から、本件裁決ないしその執行等により損害を蒙るいわれはないというべきであ
る。
また、仮に、申立人Bが右持分を有するとしても、疎明資料によれば、同人は、い
わゆる一坪地主として本件工事に反対するために持分を取得したものであり、しか
も、右持分は一一三六分の一に過ぎず、さらに、自ら右土地を使用しているもので
もなく、申立外I外二名がこれを賃借利用していたものであり、かつ、申立人Bが
居住する肩書住所地は4の土地から約一三〇メートルも離れたところにあり、さし
たる工事被害等もないことが一応認められるのであるから、右裁決の執行等により
同申立人に生ずるであろう損害は、金銭賠償により回復しうるものと認めることが
できる。従つて、同申立人に前記回復の困難な損害が生ずるものとはいえない。
二 使用明渡裁決による損害について
申立人ら(申立人E、同B、同反対同盟を除く。以下「申立人三七名」という。)
は、本件使用明渡裁決の対象地上に右申立人三七名の所有ないし居住にかかる家屋
が存在し、本件工事の施工及びその完成後における貨物列車の運行によつて、必然
的に騒音、振動その他の公害、環境破壊などの各種被害の発生が予想され、特に<
地名略>(足洗川流域)においては、地盤が極めて軟弱であつて、すでに着工され
たトンネル掘削工事により著しい地盤沈下を生じ、そのため右トンネル予定地周辺
に存在する家屋その他の工作物に激甚な工事被害が現に生じているのであつて、本
件使用明渡裁決対象地上及びその直近に居住する申立人三七名は、本件使用明渡裁
決の執行等により回復の困難な損害を蒙る旨主張する。
1 右申立人三七名は、前記認定の如く、別紙権利目録記載のとおり、裁決対象地
について権利の種類欄記載の権利を有しているところ(ただし、申立人Cを除
く。)、右裁決対象地(6ないし44の土地)につき前記使用明渡の各裁決がなさ
れたものであり、右使用裁決の内容は、疎明資料によれば、いずれも使用方法とし
て、左記のとおり定められていることが一応認められる。また、申立人三七名は、
前記認定のとおり、その肩書住所地に居住するものであり、疎明資料によれば、裁
決対象地又はその直近における右申立人らの所有家屋の有無及び居住の有無、さら
に、裁決対象地におけるトンネル土被りが別紙権利目録記載のとおりであり、右裁
決対象地又はその直近に存在する申立人ら所有家屋の種類、構造、面積は別表3記
載のとおりであることが一応認められる。

(一) 地下鉄道構築物設置のための地下使用とし、その使用範囲は東京湾平均海
面の左記範囲(東京湾平均海面上を(+)、同海面下を(-)、単位はメートルと
する。)とする。
四九収一二、一八号 (+)一七・〇五~(-)二・九五 (6・17の土地)
四九収一三、一六号 (+)一七・四二~(-)二・五八 (7ないし16の土
地)
五〇収二、三号 (+)一一・〇五~(-)八・九五 (18ないし22の土地)
五〇収四ないし七号 (+)二一・一三~(+)一・一三 (23ないし36の土
地)
五〇収八、九号 (+)一九・八五~(-)〇・一五 (37ないし43の土地)
五〇収一一号 (+)一六・三七~(+)二・三七 (44の土地)
(二) 地下鉄道構築物を保全するため当該土地に建物その他の工作物を設置する
場合の荷重は、前記使用範囲の上限において一平方メートル当り六トン以下とす
る。
(三) 当該土地において、前記使用範囲の下限より下に工作物を設置する場合、
地下鉄道構築物に支障を及ぼしてはならない。
(四) なお、申立人Jが持分四六分の一を有する44の土地については、さらに
地下鉄道構築物設置作業のため一時使用が付加されている。
2 (一)ところで、申立人Kは、前記認定のとおり、富士市に居住するものであ
つて、裁決対象地(39の土地)を所有するものの、同所に家屋を所有するもので
もなく、また居住するものでもないのであるから、右土地が国鉄の使用に供される
ことによつて損害を蒙むるとしても、右損害が社会通念上金銭賠償の受忍ないし許
容可能性の限度を越えているものとは認められず、従つて、同申立人に回復の困難
な損害が生ずるとはいえない。
(二) また、申立人J、同L、同M、同N、同Oは、前記認定のとおり、いずれ
も裁決対象地又はその直近に家屋を所有するものでも、居住するものでもなく、し
かも、疎明資料によれば、申立人Jの居住地は、裁決対象地のうち、6の土地から
約四〇〇メートル、44の土地から約七六〇メートル離れており、同Lの居住地
は、6ないし12の土地からいずれも約一三〇メートル、同Mの居住地は15の土
地から約一四五メートル、同Nの居住地は43の土地から約一七〇メートル、同O
の居住地は6の土地から約一三〇メートルそれぞれ離れていること、また、6の土
地は、本件工事に反対するいわゆる一坪地主九〇名の共有になるもので、申立人P
がその土地使用借権を有し、同土地上に建物を所有して同人及び申立人Qが居住し
ていること、44の土地は、申立外合資会社大久保屋商店が土地賃借権及び使用借
権を有し、同会社代表者が四六分の四五の持分を有していること、申立人J、同
L、同Oは、6の土地の共有者九〇名のうちの一人として、それぞれ二〇〇分の
四、二〇〇分の一〇、二〇〇分の一の持分を有するにすぎず、また、44の土地に
ついて申立人Jは四六分の一の持分を有するが実質的利用関係のない一坪地主であ
ることが一応認められる。
以上の事実関係のほか、右申立人らの裁決対象地を国鉄の使用に供することによ
り、右申立人らの蒙むる騒音、振動等の被害が社会的に受忍の限度内とされる程度
を越え、そのため右申立人らに生活権や財産権の重大な侵害をもたらすことの疎明
もないから、右申立人らに前記回復の困難な損害が生ずるものとは認められない。
(三) なお、疎明資料によれば、申立人Rは、34の土地については三二分の一
の持分を有するものの、同土地上に居住せず、かつ家屋を所有していないものであ
り、申立人Sが右土地につき三二分の三一の持分を有し、同土地上に建物を所有し
かつ居住しているものであつて、申立人Rの右持分は、いわゆる一坪地主として本
件工事に反対するために取得したものであること、しかも、右土地は、同申立人の
住居地から約四〇〇メートルも離れていることが一応認められる。
右事実によれば、34の土地を国鉄の使用に供することによつて生ずることあるべ
き損害は金銭賠償をもつて足りるというべきであるから、右土地についての裁決の
執行等により同申立人に回復の困難な損害が生ずるものとは認められない。
3 申立人三七名のうち、申立人K、同J、同L、同M、同N、同Oを除く申立人
三一名(以下「申立人三一名」という。
ただし、申立人Rについては34の土地を除く。以下同じ。)は、いずれも裁決対
象地又はその直近に居住ないし家屋を所有しているものであるから、右申立人三一
名につき、本件工事の施工及びその完成後における列車の運行による状況を検討す
る。
(一) 本件工事の施工による損害について
(1) 本件工事のうち、申立人三一名の裁決対象地における工事内容は、前記認
定の使用範囲内にトンネル工法により地下鉄道構築物を設置するものであり、ま
た、右裁決対象地における土被りが八・二メートルないし二五・九メートルあるこ
とは前記認定のとおりである。
(2) <地名略>地区について
疎明資料によれば、申立人T、同U、同Vが居住しかつ家屋を所有している<地名
略>所在の18ないし22の土地は、いずれも工事件名生麦トンネル(延長一八八
一メートル)の未着工区域(延長二七メートル)内にあり、右土地の地下土被り約
一〇・七メートルないし約一一・二メートルの地点にトンネル構造物が構築される
こと、右構造物の構築は、現在一般に用いられている山岳トンネル方式のうち、地
表面等に対する影響の最も少ないとされる側壁導坑先進上部半断面工法(以下「導
坑式」という。)がとられることになつており((右工法は、トンネル断面の左右
に位置する側壁を構築するために導坑を設け、側壁コンクリートを打込み、これを
アーチ支保工の堅固な基礎として利用し、所定の大きさに切広げてゆく工法であつ
て、掘削工事はそれぞれの切羽の上部に鋼製の矢板を先進させ、主として人力によ
り掘削するものである。)、その工事予定期間は約二か月であること、右生麦トン
ネルについては、前記導坑式により、一六三一メートルの区間(土被り最低で約一
〇メートル)が既に施工済みであり、また二二三メートルが現在施工中であるこ
と、これまでに、<地名略>の起業地沿の地域の一部に、右トンネルの掘削工事若
しくはそれに先立つてなされた地盤改良工事(セメントミルクの注入)によると思
われる若干の地盤沈下ないし隆起が生じ、このため右地域の一部に擁壁の亀裂等の
損害が発生したことが一応認められるけれども、右トンネル工事による騒音や振動
が地表において生活被害をもたらす程度のものであつたことの疎明はなく、また、
右被害発生地区を除く施工済み区間において、
その地上及び直近地に工事による被害が生じたことの疎明もない。
ところで、疎明資料によれば、右発生した被害の程度は、補修工事等により回復が
可能なものと認められるうえ、18ないし22の土地の土被り、工事方法、施工済
区間における被害の有無・程度等に関する前記認定事実に照らせば、生麦トンネル
の右土地部分の工事が施工されることによつて、同土地直近に居住しかつ家屋を所
有する前記申立人らが居住家屋や日常生活等に著しい被害を蒙むるものとは認め難
く、仮に、家屋等に何らかの被害が生じたとしても、右被害は補修あるいは金銭賠
償により回復しうるものと認められる。
(3) <地名略>地区について
疎明資料によれば、申立人W、同X、同Y、同Z、同P1、同P2、同P3、同P
4、同P5、同P6、同P7、同S、同P8、同P9、同P10、同P11、同P
12、同P13、同P14同C、同P15、同P16が居住ないし家屋を所有して
いる<地名略>所在の23ないし42の土地は、いずれも工事件名大口台トンネル
(延長八〇五メートル)の未着工区域(二三六メートル)内にあり、右土地の地下
土被り約一一・八メートルないし約二五・九メートルの地点にトンネル構造物が構
築されること、右構造物の構築には、前記導坑式がとられることになつており、そ
の工事予定期間は、六・七か月であること、右大口台トンネルについては、前記導
坑式により掘削される区間が六五〇メートルで、そのうち三六〇メートルの区間
(土被り最低一一メートル)がすでに完了し、五四メートルが現在施工中であり、
<地名略>の前記工事区間が残る未着工区間二三六メートルにあたるものであり、
その余の一五五メートルの区間は開削工法により工事が行なわれている(その内一
三五メートルは施工済みで、残り二〇メートルは施工中である。)こと、さらに、
これまでに、前記導坑式によつて完成した三六〇メートルの区間においては、軽微
な被害が一部に生じた程度にすぎないことが一応認められるのであつて、右認定事
実によれば、大口台トンネルの右土地部分の工事が施工されることによつて、同土
地もしくはその直近に居住ないし家屋を所有する前記申立人らが、右家屋や日常生
活等に著しい被害を蒙むるものとは認め難く、
仮に家屋等に何らかの被害が生じたとしても、それは、補修あるいは金銭賠償によ
り回復しうるものと認められる。
(4) <地名略>地区について
疎明資料によれば、申立人Q、同R、同P17、同P18、同P19、同P20が
居住ないし家屋を所有している<地名略>所在の6、11、13、14、16、1
7の土地は、いずれも工事件名篠原トンネル(延長一三八〇メートル)の未着工区
域(二一八メートル)内にあり、右土地の地下土被り約八・二メートルないし約一
六・七メートルの地点にトンネル構造物が構築されること、右構造物の構築には導
坑式がとられることになつており、その工事予定期間は五・七か月であること、右
篠原トンネルについては、前記導坑式により、その大船側(西側)九五〇メートル
(土被り最低約七メートル)がすでに施工済みであり、また二一二メートルが現在
工事中であること、<地名略>地域をほぼ北から南に流れている足洗川沿いの地域
(とくに、<地名略>付近)は、低湿地帯で極めて地質が悪く、そのため、本件工
事のうち、右地域にまたがる東横線と交わる付近から大船方向に約一六〇メートル
の区間のトンネル工事は開削方式により施工されていること、また、右一六〇メー
トルの区間の西方に隣接する未着工区域二一八メートルの地質は、右と異なり、表
土は関東ローム層で、その下は強固な三浦層となつているため、前記導坑式を採用
したこと、以上の事実が一応認められる。
ところで、疎甲第二四号証、同第四四号証、疎丙第二号証によれば、<地名略>の
開削方式による工事施工に際し、相当量の漏水があり、そのため前記足洗川流域に
おいて、足洗川の方向に傾斜して地盤沈下が生じ、その結果、不等沈下による地割
が生じたり、家屋の傾斜やコンクリート土台・ブロツク塀等にひび割が入つたりす
るなどの本件工事に起因する各種被害が発生していること、かような工事被害の発
生に対し、国鉄は、直ちに漏水を防止するための止水工法を採用して、慎重に工事
を進めており、また、工事被害に対しては、応急修理を施したり、修復費用を補償
するなどして対応に努めていることが一応認められる。
右事実によれば、<地名略>地域に発生している各種被害は、工事による漏水が原
因となつて生じた地盤沈下に起因するものであつて、右地域が極めて地質の悪い低
湿地帯であることが被害を拡大した要因と考えられるところ、本件<地名略>の未
着工区域の地質は右と異なるものであるから、同区域の施工によつて前記申立人ら
主張のような工事被害が生ずるものと推断することはできず、また、前記認定にか
かる<地名略>の使用裁決対象地(6、11、13、14、16、17の土地)の
土被り、工法等から判断して、篠原トンネルの右土地部分の工事が行なわれること
によつて、同土地上もしくはその直近に居住ないし家屋を所有する前記申立人ら
が、右家屋や日常生活等に著しい被害を蒙むるものとはいまだ認め難い。仮に、右
工事の施工により家屋等に何らかの被害が生じたとしても、前に認定した国鉄の対
応並びに後記(二)(1)認定の七項目協定等の事情によると、右被害について
は、国鉄としても直ちに何らかの対応策を講じることが期待できるから、右被害が
社会通念上金銭賠償の受忍ないし許容可能性の限度を越えるものとは認め難い。
(二) 列車の運行による被害について
(1) 騒音、振動、日照阻害等の公害対策
疎明資料によれば、本件事業計画発表以来、申立人ら沿線住民や関係自治体の本件
工事に対する対応ならびに公害防止対策に関し、次の事実が一応認められる。
イ 国鉄の本件事業計画が発表されて以来、申立人らを含む沿線住民の強い反対運
動が起つた。このため、横浜市は、市公害センター及び計画局によつて既設貨物線
の列車による騒音、振動の影響調査を実施し、横浜国立大学工学部交通公害研究会
の協力のもとに、右測定結果の解析と本件工事による被害対策とについて検討を進
め、昭和四三年八月一二日「東海道新貨物線計画による騒音、振動調査の解析に関
する報告書」(以下「報告書」という。)を公表した。
ロ その後、右報告書を踏まえ、学識経験者及び住民、国鉄、神奈川県、横浜市の
各関係者からなる国鉄新貨物線公害対策協議会が昭和四五年四月に設置され、右協
議会は、専門委員会として、技術小委員会を設けた。
右小委員会は、同年九月二八日「国鉄横浜新貨物線建設に伴う公害対策に関する技
術小委員会中間答申」(以下「中間答申」という。)を行つた。中間答申は、横浜
新貨物線建設に伴つて予測される公害につき、これを最少限度にとどめるための対
策を答申したもので、環境基準として、騒音については、「沿線に所在する一般民
家(屋外)において、列車軌道による騒音の影響を五五ホーン(A)以下とするこ
と。」、振動については、「沿線に所在する一般民家(屋外)の地表面において、
列車軌道による振動の影響を〇・三ミリメートル/秒以下とすること。」、日照に
ついては、「沿線民家において、冬至に三時間以上の日照を確保すること。」を挙
げるとともに、その実現の諸対策として、軌道構造に関しては、全線にわたり、ロ
ングレール、砂利・砕石等の有道床、PC枕木の採用、レールと枕木との間にゴム
パツトを使用すること、基礎は平地から高架に移行する部分及び高架部分において
強固な支持層まで根いれする構造とすること等を、また、列車速度に関しては、高
架部分等を通過する際の速度を時速五五キロメートル以下とすること、さらに、緩
衝地帯及び準緩衝地帯に関しては、右騒音、振動の環境基準及び側壁の高さ等の観
点から、上り下りの軌道中心より両側に緩衝地帯(原則として居住の用に供する建
物を設置しない地帯)及び準緩衝地帯(周囲の状況や住民の選択により公害防止対
策をすることのできる地帯)を設置することを提言しているほか、高架部分の側壁
の高さ、トンネル出入口付近の吸音措置等に関しても提言を行つている。
ハ 横浜市は、右中間答申と地元住民の要望等に基づき、昭和四七年四月国鉄に対
する要求、要望を整備した別紙七記載のとおりの「国鉄新貨物線別線部分に係る環
境整備ならびに公害防止の諸条件について」(いわゆる七項目と称するものであ
り、以下「七項目」という。)を地元住民に提案し、申立人反対同盟の同意は得ら
れなかつたものの、沿線地域住民により新しく発足した横浜新貨物線公害対策協議
会の同意を得て、同年五月二日これを国鉄に申し入れた。これに対し、国鉄は、同
年五月四日付をもつて右申し入れを基本的に了解した旨の回答を行つた。
ニ 以上の沿線住民、地方自治体との交渉経過にかんがみ、沿線地域の環境整備と
公害防止のための前記諸条件を遵守すべき立場にある国鉄は、中間答申で提示され
た諸対策を尊重して工事を施工することとした。すなわち、国鉄は、騒音対策とし
て、高架部分に高防音壁(一部全覆工を含む)を設置し、振動対策として、ロング
レール、砕石による有道床、PC枕木、ゴムパツトを使用し、また、トンネル区間
の一部には防振けたを用いた特別なバラスト軌道を採用し、さらに、高架橋や地盤
軟弱で土被りの浅いトンネル区間には、六メートルないし二〇メートル幅の緩衝地
帯を設置するとともに、基礎は強固な支持層まで根いれするように設計施工し、列
車速度に関しても前記環境基準を満すべく定めることにしているなど各種の公害防
止策を施している。
(2) 列車による騒音及び振動の影響を受ける地域
疎乙第七号証によれば、防音壁、ロングレール、ゴムパツトなどの防音、防振対策
が行われることを前提として、列車による騒音、振動の影響を必ずうける地域、す
なわち、騒音による広範囲の苦情が必ずおき、かつ、地盤振動が基準値(〇・三ミ
リメートル/秒)を少くとも確実に越える地域は、列車速度を時速七〇キロメート
ルとした場合、平地で五〇メートル以内、高架(六メートル)で三二メートル以
内、トンネルでは土被り四メートルのとき線路に直角方向に四メートル以内(土被
り六メートル以上のときは右地域の対象外)、また、トンネル直上(土被り厚さ)
では四メートル以内の地域であり、右地域の決定は、平地及び高架では騒音によ
り、トンネルでは振動によつているもので、騒音だけをとらえれば、トンネルにつ
いては土被り三・五メートル以下の部分が影響圏(五〇ホーン(A)を限界とした
場合)であつて、それ以上の土被りがあれば、その地表面では五〇ホーン(A)を
越えるおそれが一応ないことが認められる。
また、疎乙第四五号証によれば、緩衝地帯は必ず基準値を越える地帯、準緩衝地帯
は基準値を越えるおそれのある地帯とされているが、振動に関していえば、トンネ
ルの場合、土被り四メートルのとき線路に直角方向に四メートル以内が緩衝地帯、
四メートルないし九メートルが準緩衝地帯、土被り八メートルのとき同方向に四メ
ートル以内が準緩衝地帯(緩衝地帯なし)であり、さらに、トンネル直上(土被り
厚さ)では、土被り四メートル以内が緩衝地帯、土被り一〇メートル以内が準緩衝
地帯であることが一応認められる。
(3) ところで、疎甲第一五ないし第一九号証、疎丙第五号証の一、二、同第一
一号証によれば、日本鉄道建設公団の建設にかかる国鉄武蔵野南線は、昭和五一年
三月に開通したが、その後間もなく沿線住民から騒音、振動被害の申出があり、川
崎市公害局は、同月二六日から同年四月一二日にかけて一〇か所にわたり騒音、振
動を測定した結果、開削方式による土被りの浅いトンネル部分(三か所、土被り約
二・六メートルから約五・六メートル)で基準値の数倍の振動が、また、土被りが
約一二メートル以上ある地点(五か所)においても基準値を上回る振動がそれぞれ
測定され、騒音については、トンネル部分につき特に高い騒音が測定されなかつた
ものの、トンネル開口部付近では八七ホーン(A)もの騒音が測定されたこと、右
振動の測定方法は、測定機器(公害用振動計とペン書きオツシログラフ)を、トン
ネル部分ではトンネルの直上部、開口部分では住宅敷地の地表面に置き、数時間に
わたり(最短で一時間)通過する列車ごとに波形記録したものであるが、前記公団
は、同年五月一九日から二五日にかけ、川崎市公害局が測定した右地点において、
中央公害対策審議会騒音振動部会の昭和五一年二月二八日付報告による測定機器及
び測定方法(いずれも川崎市公害局によるそれとは同一でない。)に従い振動を測
定した結果、トンネル部分の振動速度平均値は、土被り四・三メートルの地点を除
く七か所で〇・三ミリメートル/秒を越えていなかつたこと、ところで、右公団及
び国鉄は、武蔵野南線の被害軽減策として、トンネル出口付近の騒音に対しては、
軌道面に消音バラストを散布するとともに防音壁を追加設置する対策を施し、振動
低減策としては、ロングレールのエキスパンシヨン・ジヨイント継目溶接や、軌道
のバネ常数を低下させるための軌道パツト更換を実施し、さらに、被害家屋の補修
等を行うなどの対策を講じていることが一応認められる。
右のとおり、武蔵野南線における振動被害については、川崎市公害局による測定と
前記公団による測定とで、その測定結果に差異がみられるが、右差異は、測定機器
及び測定方法の違いもさることながら、測定日時が異なるのであるから、測定対象
である列車の編成、速度等の相違によることが考えられ、また、右測定後において
は前記防振対策も行われていることからして、川崎市公害局による前記振動の測定
結果が武蔵野南線の現在の状態を正しく表わしているとは必ずしもいえない。
(4) そこで、前記申立人三一名につき列車運行による被害の有無を検討する
と、騒音については、前記二1で認定のとおり、右申立人らの使用裁決対象地にお
けるトンネルの土被りは八・二メートルないし二五・九メートルある上、騒音の影
響地域や国鉄の防音対策等から考えて、中間答申で基準値とする五五ホーン(A)
を越えて右裁決対象地に居住する右申立人らに影響を及ぼすものとは認め難く、そ
の他本件の全疎明資料によつても、騒音被害をもたらすことは認めるに足りない。
次に、振動について検討すると、前記武蔵野南線において列車振動による被害が生
じたことは認められるが、本件貨物別線は、武蔵野南線と異なり、前記二3(二)
(1)認定の如き各種防振対策が実施されているのであつて、右武蔵野南線におい
て生じたと同様の振動被害が本件貨物別線においても生ずるものと直ちにいうこと
はできない。
また、右申立人らの使用裁決対象地の土被り最低値は八・二メートルであるが、前
記二3(二)(2)で認定した振動の影響地域から考察すれば、基準値(〇・三ミ
リメートル/秒)を確実に越えるのは土被り四メートル以下の地域であり、土被り
一〇メートル以下の場合はトンネル直上で、土被り八メートルの場合は線路に直角
方向に四メートルの地域で、それぞれ基準値を越す可能性があるにすぎない。
さらに、前述のとおり、国鉄は、七項目協定をなすなどしているので、被害には直
ちに対応策を講ずることが考えられるから、右裁決対象地を列車が運行することに
より前記振動の基準値を著しく越える事態が生ずるおそれがあるものとは認め難
く、仮に、右基準を幾分上回つたとしても、それは、社会通念上受忍の限度内にあ
るものと認められるから、かかる被害は金銭賠償をもつて足りるものといいうる。
(三) 従つて、右申立人らに関する使用裁決の執行等により同人らに回復の困難
な損害が生ずるものとはいえない。
第四 なお、仮に、本件各裁決の効力ないしその執行等が停止されるときは、左記
のとおり、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある。
一 疎明資料によると一応次の事実が認められる。
1 神奈川県は、東京都中心部及び京浜工業地帯の後背地として、気象条件や交通
の便にも恵まれているところから、人口の増加率が極めて高く、それにともない国
鉄利用者も激増し、昭和三〇年後半に入ると、電車の編成車輛の増加、運転間隔の
短縮など国鉄の努力にも拘わらず、既存の施設では飽和状態に達し輸送の安全確保
が問題視されるに至つた。かかる都市集中化の傾向は全国的なことでもあつたの
で、昭和三九年一二月二五日に開かれた経済関係閣僚懇談会においても、「日本国
有鉄道の新長期計画の実施について」と題して、昭和四〇年度から昭和四六年度ま
での新長期計画を決定し、そのうち神奈川県関係では、東海道本線新鶴見・小田原
間(三複線化・複々線化)を策定した。
なお、昭和四〇年当時東海道本線東京・平塚間には旅客線用の複線が、平塚・小田
原間には客貨併用の複線がそれぞれ存するのみであり、東京・大船間の昭和四〇年
におけるラツシユ時一時間の上り通過人員は約五万一、〇〇〇人、混雑率は約二五
六パーセントで、さらに、混雑が予想される状況にあつた。ちなみに、前記閣議決
定では、通常通勤者の耐えうる混雑度を二六〇パーセントとしている。
2 右のような状勢の下で、現在、東海道本線東京・大船間を従来の旅客線と併行
して走る貨物線を旅客線として使用するため、昭和四一年五月に運輸大臣の認可を
受け、完成予定昭和四七年一〇月と定めて計画されたのが本件貨物別線である。
ところで、東京・大船間付近の通勤、通学時のラツシユの混雑は一層その度を増
し、昭和五一年には、東京・大船間のラツシユ時、一時間の上り通過人員は約八万
六、〇〇〇人となり、混雑率は約三一二パーセントに達し、混雑の激しい時間帯も
昭和四〇年度の一時間から二時間以上に拡大している。
そこで、神奈川県議会は、昭和五二年一〇月一一日国鉄東海道線、横須賀線の通
勤、通学ラツシユ時における混雑がすでに極限状態にあるとの認識のもとに、右混
雑を緩和するため、本件貨物別線の早期完成を決議している。
3 右貨物別線は、すでに全長の約九一パーセントにあたる約一二・五キロメート
ルが完成し、その余も漸次着工し、本件裁決部分約五〇〇メートルを含む約一キロ
メートル余(約九パーセント)が未完成となつているにすぎない。
本件貨物別線が完成すれば、輸送力が増強され、ラツシユ時における混雑緩和の一
助となることは間違いない。
二 右認定事実によると、仮に、本件各裁決の効力ないしその執行等が停止され、
右工事の完成が遅延することになれば、極限状態に達している通勤、通学時の混雑
状態がさらに長期にわたつて継続し、また、深刻化することが予測されるのであつ
て、これに前記第三認定の事実を総合して考察すれば、本件各裁決の効力ないしそ
の執行等を停止するときは、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあることが
明らかである。
第五 以上の次第で、申立人反対同盟の申立は不適法であり、その余の申立人らの
申立は理由がないから、本件申立をいずれも却下することとし、申立費用の負担に
つき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条、第九四条を各適用し
て、主文のとおり決定する。
(裁判官 宍戸清七 三宅純一 桐ケ谷敬三)
(別紙一)
申立の趣旨
起業者日本国有鉄道の東海道本線東京・小田原間線路増設工事のうち、鶴見・戸塚
間(貨物別線)線路増設工事(鶴見・高島間の一部線路移設工事及び戸塚駅改良工
事等を含む)、羽沢貨物駅新設工事及び北横浜変電所新設工事並びにこれらに伴う
附帯工事にかかる土地収用・使用裁決申請事件及び明渡裁決申立事件について、昭
和五三年六月三日付被申立人がなした別紙裁決目録記載の収用裁決処分の効力は、
横浜地方裁判所昭和五三年(行ウ)第二七号裁判取消請求事件の本案判決あるまで
これを停止する。
との裁判を求める。
申立の理由
第一
一 当事者
1 申立人らは、いずれも肩書地に居住し、日本国有鉄道(以下国鉄という)の本
件鶴見・戸塚間(貨物別線)線路増設工事(以下本件工事という)に必要とされる
土地ないしそれに近接する地域の住民であつて申立の趣旨記載の処分をうけたもの
である。
2 被申立人神奈川県収用委員会は、土地収用法第五一条に基づき設置され、同法
第四七条等、同法記載の権限を行う行政委員会である。
二 裁決
被申立人は、起業者国鉄の東海道本線東京・小田原間線路増設工事のうち、鶴見・
戸塚間(貨物別線)線路増設工事(鶴見・高島間の一部線路移設工事及び戸塚駅改
良工事等を含む)、羽沢貨物駅新設工事及び北横浜変電所新設工事並びにこれらに
伴う附帯工事について、昭和五三年六月三日付で別紙裁決目録記載のとおり収用、
使用及び明渡の各裁決処分をなした。
三 本件裁決に至るまでの経過
1 本件工事の決定とその発表
(一) 国鉄は、昭和四〇年度を初年度とする第三次長期計画を策定し、これに基
づき、横浜市<地名略>から<地名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>、
<地名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>を経て<地名略
>、<地名略>に至る現東海道線から大きくはずれ、市内北部丘陵地帯を迂回する
延長一三・七キロの貨物専用鉄道を敷設することを決定し、昭和四一年四月突然右
計画を発表し、同四二年四月正式決定をした。
右予定路線沿線は、市内でも有数の良好な住宅地域であり、実に沿線の九一・三パ
ーセントが住居地域である。
(二) 申立人らを含む地域住民は、右計画の正式決定をみるや一斉にこれに反対
する意思を表明し、同年六月には予定沿線地域住民八、七〇〇世帯をもつて、横浜
新貨物線反対同盟連合協議会を結成し、以後今日に至るまで鉄道公害による地域環
境及び健康の破壊、市内有数の良好な住宅地域を選定した立地選定の誤り、そして
国鉄がこの計画の大義名分とする通勤ラツシユ緩和対策の欺瞞性を明らかにし、粘
り強い反対運動を展開している。
2 申立人ら反対住民は、昭和四八年五月一二日、横浜地方裁判所に、地域環境、
健康破壊等を理由として、国鉄を被告とする貨物鉄道敷設工事差止請求第一次訴訟
を提起し、その後、昭和四九年一月二三日、第二次訴訟を提起し、同裁判所昭和四
八年(ワ)第六四一号、同四九年(ワ)第六七号事件として、第五民事部に係属中
である。
3 昭和四九年七月一七日、建設大臣は、建設省告示第一、〇〇九号により、国鉄
の申請になる本件事業につき、土地収用法第二〇条の規定に基づく事業認定をなし
た。そこで申立人ら反対住民は、同年八月一四日、建設大臣に対し、行政不服審査
法に基づき、右事業認定に対する異議申立をなし、同事件は現在審理中であり、更
に、同五〇年六月六日、建設大臣に対し、土地収用法第二〇条第二号ないし第四号
違反を理由とする事業認定取消訴訟を、横浜地方裁判所に提起し、昭和五〇年(行
ウ)第八号事件として、第一民事部に係属中である。
4 右訴訟係属中も、国鉄は、反対住民を切り崩し、着着と工事を進めた。その結
果、本件予定路線沿線付近には、右工事に伴う騒音、振動等により健康破壊及び激
甚な家屋の損傷が発生した。国鉄は、反対住民の右損傷の修復の申出に対し、右各
訴訟を取り下げなければ修復に応じないといた卑劣な態度に出て、反対運動を切り
崩そうとした。
5 他方、国鉄は、被申立人に対し、昭和四九年一二月二五日付で本件事業につ
き、収用、使用裁決の申請及び明渡裁決の申立をなし、被申立人は、昭和五三年六
月三日付で裁決をなした。
第二 本件裁決は、左記の理由により違法であり取り消されるべきである。
一 事業認定の違法
建設大臣は、国鉄の申請に係る本件事業につき、昭和四九年七月一七日、建設省告
示一、〇〇九号をもつて、土地収用法第二〇条の規定に基づく事業の認定をなし
た。しかしながら、右事業認定には、以下の様な違法があり、取り消されるべきで
あり、従つて本件裁決も違法となり取り消しを免れない。
1 土地収用法第二〇条第二号違反
(一) 国鉄は公共事業を遂行するにふさわしい意思と能力を有しない。
従来、国鉄は「公共」事業という美名に隠れて、沿線住民の意思も汲まず、一方的
に工事計画を策定し、工事完成後の騒音、振動等による生活環境破壊についても全
く顧みず、あるいは住民を欺瞞して工事を強行してきた。沿線住民も疑問を抱きつ
つも結局泣き寝入りをしてきた。
ところが七〇年代に入り、高度経済成長政策のひずみが津々浦々に現われ、公害裁
判においても画期的な判決が下され、人間の生存や生活環境について深刻な反省が
なされるとともに、従来の経済発展の範囲内で環境が保全されればよいという経済
発展に比重を置いた環境論の誤りが広く認識されるに至つた。
従つてただ単に公共事業であるという理由で住民に忍従を強いることは、もはや許
されないことであり、却つて公共事業、なかんずく国鉄の場合は、事業の規模が広
範囲にわたるものであるから、それだけ沿線住民に及ぼす被害も大きくなるので十
分の公害防止対策をとることが要請されるわけである。
土地収用法の解釈にあつても、右の反省のうえにたつてなされるべきものである。
公共事業という公的性格を帯有するものが事業を施行する場合には、環境破壊につ
いては、より細心の注意を払い、一層の防止努力を払うことが要求されるのであ
る。従つて土地収用法第二〇条第二号の解釈にあたつても、ただ単に経済的意思と
能力に限られるものでなく、事業計画策定から事業認定申請に至るまでの手続や公
害防止についての態度をも含めて解釈しなければならない。
(イ) 事業計画策定から事業認定申請及び現在に至るまでの国鉄の非民主性
事業計画の策定のうわさを沿線住民が耳にしたのは昭和四一年八月で、住民は同年
九月に直ちに篠原菊名地区反対同盟を結成し、反対陳情、請願を関係当局に行つた
ものの、国鉄は立地選定の根拠、公害対策等について、住民に何ら明らかにするこ
となく、一方的に昭和四二年四月工事計画を最終決定してしまつた。
以後、住民と国鉄当局とは幾度となく話合つたものの右疑問は何ら解明されないど
ころか、却つて右話合いにおいて、計画の是非、立地選定の是非、公害対策等すべ
ての点において住民により論破され、窮地に陥つた国鉄は昭和四七年三月、粘り強
く反対運動を展開してきた横浜新貨物線反対同盟連合協議会に対し「連合協議会は
解体したものとみなす」という三下り半をつきつけ現在に至るも話合いを拒否し続
けている。
このように、国鉄は沿線住民の意思を全く無視し、更には住民の疑問を解明するこ
となくひたすら工事強行を企てている。
(ロ) 公害防止を行う意思と能力の欠如
横浜市が昭和四三年八月に発表した「東海道新貨物線計画による騒音、振動調査の
解析に関する報告書」によれば、沿線住民の生活環境が破壊されることが一〇〇パ
ーセント確実視されているにもかかわらず、(因みにこの「報告書」は種々の問題
点を含んではいるが、その点についてはさておき)国鉄は何ら実効性のある公害防
止策をたてていない。
国鉄の公害防止対策と称するものは、延長一三・七キロメートルのうち七割をトン
ネルとし、交差はすべて立体とし、ロングレール、ゴムパツキング、PC枕木を使
用し、防音壁を設ける等である。
しかしながら、国鉄の右の「公害対策」は、予定地域の地形構造と建設の経済性の
みから出発したものであり、実効性の伴わぬものである。
全線の七割がトンネルというのは丘陵地帯である横浜においては設計上必然の事態
であり、真に公害防止をはかるためには全線を地下化して安全な三浦層地盤を通さ
なければならないのであるが、工費、工期のみの削減を至上命令とする国鉄は、鶴
見分岐点と羽沢貨物駅が地上であることと勾配を国鉄の内規に従い一、〇〇〇分の
一〇以下にとどめるという関係から、全線を地下化する設計をとらず、且つ横浜線
と大口駅北方で立体交差させることから、この付近を高架とすることにしたもので
ある。そのためトンネル部分が浅くなり、結果的に七割となつたに過ぎないのであ
る。しかもトンネルが浅い結果、軟弱な地盤のシルト層を通過することになり、地
盤沈下、振動の被害が大きくなることが必至である。
ロ ングレール等についても、公害防止対策に基づくものではなく、国鉄が実績か
ら割り出した耐久性、経済性、保全の容易さから採用したに過ぎないものである。
このようなお粗末極まる「公害防止対策」にたつているので国鉄は騒音、振動の規
制値(目標値ではなく)を明確に数値をあげて答えられないし、工事完成後の貨物
のダイヤすら公表し得ないのである。静かな住宅地を重い貨物列車が高速で通過す
る工事をなす際、具体的な数値を挙げないでひたすら工事を強行する国鉄のこの住
民を愚弄する態度には一片の良心のかけらも存しないのである。国鉄はかつて東海
道新幹線建設の際、新幹線建設及び走行による沿線住民への影響について「ひかり
の如くアツという間に過ぎ去るから何の迷惑をかけることもありません」などと全
く事実に反する説明をして住民を欺瞞して用地買収を行つたが、このような行為を
再三にわたつて繰り返す国鉄には、少くとも公害防止を行なおうとする意思が全く
ないのである。
(二) 横浜新貨物線計画を含む国鉄第三次長期計画は国民に過大な負担をかけ、
それなしには右計画を遂行する財政能力、経営能力を欠くものである。
国鉄は昭和三九年以来、毎年赤字経営を続けているが、その主たる要因が貨物輸送
の赤字にあることは周知の事実である。貨物輸送は昭和三六年の値上げ年度に六〇
億円の利益をあげただけで、昭和三一年度以来、毎年赤字を計上している。
ところが横浜新貨物線敷設計画もその一環である国鉄第三次長期計画の本質は貨物
輸送の近代化を第一の狙いとしているものである。国鉄第三次長期計画は
(1) 通勤混雑緩和(2)幹線輸送力の増強(3)線路増設、電化車輛の増備
(4)貨物輸送方式の近代化等、総花的に目的を羅列しているが、その予算分析に
基づき、国鉄の真の意図を探究すると、総予算二兆九、〇〇〇億円のうち、貨物近
代化に投ぜられる予算は少く見積つても一兆三、〇〇〇億円以上あり(国鉄発表の
予算中には奇妙なことに貨物輸送近代化予算は一銭も計上されていないが)、通勤
対策費の二倍に達するものであり、右事実に徴すれば国鉄の真の意図が奈辺に存す
るか多言を要しないであろう。
このように、貨物輸送に巨額の投資を行なうことは、経営上も財政的にも全く理解
に苦しむところであるが、更に赤字を累積させることは必至である。国鉄当局はこ
の赤字を旅客運賃の引き上げによつて切り抜けようとするのであるが、かような態
度は大資本を優遇し、乗客を冷遇するものであり、全く許し難いものといわざるを
得ない。とくに大都市の通勤客は通勤ラツシユに連日悩まされつつ、貨物輸送の赤
字の穴埋めをしているのであるが、現在最も緊急を要する大都市の通勤ラツシユ対
策を、お座なりにし、貨物輸送の近代化にのみ狂奔して、赤字を累積させる国鉄は
公共事業を遂行するにふさわしい意思と能力を具備しているとはいえない。
2 土地収用法第二〇条第三号違反
(一) 本件沿線地域環境の特色
横浜新貨物線の延長一三・七キロメートルのうち、横浜国際港都建設法による住居
専用地域及び住居地域は、一二・五キロメートルにも及び全体の九一・三パーセン
トに該当する。住居専用地域とは、「良好な住居の環境を保護するため定める地
域」であり、住居地域とは、「主として住居の環境を保護するため定める地域」で
あつて、本件貨物線が閑静な住宅街のど真中を貫通するものであることは一目瞭然
としている。
土地の利用形態、なかんずく住居地域の生成についてみると、それは、人為的に形
成されることは稀であつて、住宅地として適切なところに、人々が居住するように
なり、おのずと住宅地域が形成されるに至る、という過程を辿つたことがはつきり
している。
本件貨物線建設予定地も、住民が、その英知によつて歴史的に形成してきた地域的
特性を保護・発展させることが、土地の適正かつ合理的な利用であるとの判断のも
とに、住居地域あるいは住居専用地域として指定されたものである。
このように長い歳月を要して形成された地域環境を一挙に破壊することが必至な本
件計画は、あきらかに、立地選定を誤つたものである。
(1) 本件事業計画は地域環境を著しく破壊する。
本件貨物線を発生源とする被害は、予定路線及び緩衝地帯の一、〇〇〇戸を超える
世帯が立退きを強制され、またはその屋下な貨物列車が走るという赤裸々な財産的
人格的権利の侵害のほか、本件貨物線の敷設工事の完成後構築物の存在自体や列車
の運行により惹起されるものは以下のとおりである。
(イ) 住民生活の環境基盤の破壊
(ロ) 騒音、振動被害
(ハ) 地盤沈下、変形がもたらす家屋、上下排水路の損傷
(ニ) 日照阻害
(ホ) 電波受信障害及び電話の雑音混入
以上のほか、建設工事に伴う被害として諸種のものがあり、激しい騒音、振動等に
よる健康破壊、家屋の著しい損傷等が生じ申立人ら沿線住民を苦しめている。
(イ) 住民生活の環境基盤の破壊について
本件事業計画に伴う工事そのものが、本来自然の破壊であり、緑の収奪であるが、
前述したように実効性のある公害防止対策を欠いたまま工事を強行しているので、
地域住民が孜々営々として築きあげてきた生活環境を「動く工場」である鉄道で分
断し、一挙にこれを破壊することは必至である。
このような住民の意思に基づかない地域環境の全面的破壊こそが、後述の個別被害
とともに、住民の基本的権利を侵害するものとして許されない。
横浜市は昭和四三年八月「東海道新貨物線計画による騒音、振動調査の解析に関す
る報告書」を発表したが、この報告書は国鉄に援助を求めていること、基本資料に
信頼性が薄いこと、解析の方法に疑問があること、住民が参加していないこと等、
多くの問題を含んでいるものであるが、右報告書によつても生活環境を破壊する公
害の発生を一〇〇パーセント裏付けるものとなつている。
(ロ) 騒音、振動被害等について
以下騒音、振動及び地盤沈下に限定して言及する。
右報告書では時速七〇キロメートル以上の解析を行なつていないが国鉄は反対同盟
との話合いの席上、時速一一〇キロメートルと言明しているので、右報告書の資料
を使用して、更に同報告書で解析した際、利用した距離減衰の実験式によつて時速
一〇〇キロメートルの場合を想定すると、平地で三〇〇メートル、九メートルの高
架で二〇〇メートルにわたり「広範囲の苦情が必ず起る」六〇~六五ホン以上に達
することとなる。
振動についても、同報告書は地盤、地表の状況、構築物の重量及び分布、軌条の条
件及び軌道の剛性等、複合する条件が多く定量的に把握できないという留保つきで
報告しているが、騒音の場合と同様、同報告書の解析結果を時速一〇〇キロメート
ルの場合にあてはめると、「住居地基準値」〇・三ミリメートル/秒を超える地点
は平地で一〇〇メートル、高架で五〇メートルと推定される。特にこの基準値は人
体に障害を与える限界であつて、家屋の被害はそれ以下で頻発する。地盤の沈下も
しくは変形については、本件貨物線の予定路線の地盤は極めて軟弱なシルト層であ
るが、水抜き工事及び構築物の重量加載によつて地盤の傾斜変形を招く被害事実
は、今日までの工事で井戸水涸渇、家屋の亀裂、建付不良となつた家屋はおびただ
しい数にのぼり、道路の陥没もみられる事実によつて立証される。
また<地名略>地区では修理不能となつた家屋一棟があり付近に陥没も起きてい
る。
これらの事実は、ただに工事中の一時期に止まらず、長期かつ、徐々に被害が起
り、地震集中豪雨等の自然災害と重なつた場合には、予測し得ない惨事が発生する
のである。
騒音、振動の被害については、川崎市公害局が昭和五一年四月発表した「武蔵野南
線騒音振動測定結果」が何よりも被害の大きさを立証している。
以上の如く、本件貨物線の敷設工事の完成後、構築物の存在自体や列車の運行によ
り深刻な騒音、振動、地盤沈下等が広範囲にわたり発生するのは必至である。その
うえ貨物線は夜間の輸送が一日のうちでピークとなるのであるから、人間にとつて
最も大切な睡眠を妨げ、生活が極度に破壊されることは必定である。
すなわち、本件計画は、住民が営々として築いてきた閑静な住環境を破壊するにと
どまらず、人間が居住することすらできないような状態を惹起させるものであり、
土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものとは到底いえない。換言すれば、国鉄
は立地選定を誤つたのであり、しかも、それを故意に誤つたものであるから悪質極
りない。この一事からしても事業認定は直ちに取り消さなければならないものであ
る。
国鉄は、現計画案の他、東京湾岸を通す案及び現在線に併設する案の比較検討のう
えに、現計画を決定したと称するが、その検討を経ていないことは、反対同盟と国
鉄当局との話合いの中で、はしなくも暴露されてしまつた。他の二案は工費・工期
の点で、現計画案のおよそ二倍かかるという主張であるが、少なくとも工費につい
て大幅な水増しが行われているのは明白であるが、それはさておき、このように一
見して比較の対象にもならないものを比較したと称すること自体不自然であり、国
鉄が他案を真面目に検討していない何よりの証左といえよう。土地収用法第二〇条
第三号の要件に該当するか否かについて、この二案の比較検討も重要なメルクマー
ルの一つであることは明白である。国鉄は立地選定にあたり、貨物輸送力の近代化
のため交通の要衝で、しかも、広大な敷地を確保し得る貨物駅を先ず選定し、この
貨物駅と鶴見・戸塚間を最短距離で結ぶ現計画線の路線決定をしたものであり、他
の二案は反対運動を鎮静させるための方便にしか過ぎなかつたものであつて、この
点については慎重に判断すれば容易に理解し得るところである。
3 土地収用法第二〇条第四号違反
(一) 本件事業の本質
事業計画の申請書によれば、本事業計画の理由として、(1)通勤ラツシユ緩和
(2)長距離列車対策(3)貨物駅の整理統合を併せて掲げているにもかかわら
ず、国鉄は通勤ラツシユ緩和のみを前面に押し出し大々的に宣伝している。しか
し、後述するように、「通勤ラツシユ緩和」という大義名分は、本件計画の真の目
的を隠し、地域住民の反対運動を押し潰すためのみに用意されたに過ぎず、真の目
的は、大資本本位の貨物輸送力の強化である。
(イ) 「通勤ラツシユ緩和」の欺瞞性
東京・小田原間線増工事を通勤対策という側面からみるといくつかの矛盾があるこ
とに気付く。
A 本件計画が東京・小田原間になつていること。通勤ラツシユ緩和を図るには、
東京・大船間を二複線とするのが必要というのが国鉄の言分であるが、これから食
み出る大船・小田原間の線増は何のために行なわれるのか。答は簡単明瞭、それは
貨物専用に使われるのである。
B 神奈川県内で横浜駅に次いで乗降客の多いのは、川崎駅であるが、大船・東京
間の現貨物専用線を横須賀線に転用するため、横須賀線は川崎駅に停らなくなつて
しまう。このような通勤ラツシユ緩和の抜本策なるものが存在し得るものだろう
か。
C 現在の平塚・品川間の貨物専用線を、通勤ラツシユ時間帯に走る貨物列車の本
数は僅かであり、この時間帯だけ貨物列車を走らせなければ、国鉄が第三次長期計
画の目標としている「通勤ラツシユ緩和」と同一の結果を作ることも可能であるこ
と。
等々である。
(ロ) 大資本本位の貨物輸送力の強化
しかし、本件計画を国鉄の貨物輸送対策との関連の中で考察すると、今回の計画の
真の目的が奈辺にあるか明瞭になる。
横浜新貨物線の建設と併せて、東海道本線の貨物線は平塚駅から小田原駅まで延長
され、あらたに平塚・小田原間貨物列車専用線が併設されることになつており、大
船・平塚間に湘南貨物駅が、平塚・小田原間に西湘貨物駅が新設された。
一方、新鶴見操車場は武蔵野線に接続、また鶴見駅から塩浜操車場に至る新線が建
設され、同操車場は、京葉線に接続する。武蔵野線は新鶴見操車場から中央本線の
西国分寺駅・東北本線の南浦和駅を経由し、常盤線の新松戸駅に至り、同駅から総
武本線の西船橋駅を経由して京葉線に結ばれる小金線に接続する。京葉線は、京浜
工業地帯の中心部にある塩浜操車場から東京港を経由して木更津に至る東京湾々岸
の貨物線である。
これら武蔵野線・小金線・京葉線を合わせて東京外環状線と総称。
東京の中心から放射状に延びる五つの国鉄幹線-東海道本線・中央本線・東北本
線・常盤線・総武本線―が東京外環状線で相互に結ばれる。この東京外環状線と東
海道本線・新幹線及び第三京浜国道を結ぶ場所に羽沢貨物駅が設置され、これと東
海道本線鶴見・戸塚を結んだ最短距離が本件横浜新貨物線である。
以上で明らかなように、横浜新貨物線は、東京湾々岸の京浜工業地帯・京葉工業地
域と相模湾々岸の湘南工業地域とを結ぶ貨物輸送路の一環として、さらに大きく
は、太平洋ベルト地帯の貨物輸送動脈の一環として計画された路線であり、まさ
に、高度経済成長政策のおとし子である。しかも、国鉄の貨物及び物資別内訳をみ
ると、台所に直結する米・鮮魚・冷凍品・食料工業品等々は、およそ八パーセント
に過ぎず、その他は全て重化学工業の原料・製品であり、大資本本位の貨物輸送力
強化であることは多言を要しないであろう。「通勤ラツシユ緩和」とは、右貨物線
の敷設の結果不要になつた在来の貨物専用線を横須賀線に転用する結果国鉄も認め
たように全く一時的に、多少「緩和」されるに過ぎず、いわば貨物輸送力強化の僅
かな副産物に過ぎないのである。
(二) 結語
以上、明らかにしたように、本件新貨物線敷設の目的が大資本本位の貨物輸送力の
強化にあり、沿線住民に及ぼすものは、騒音・振動・地盤沈下等を含む生活環境破
壊のみといつても過言でなく、目ぼしい恩恵というものは皆無である。貨物輸送の
内容は前述したとおりであり、貨物線の敷設によつて利益を得るのは、大資本のみ
である。大資本による買い占め・売り惜しみ・価格釣り上げを指摘するだけで、大
資本の利益イコール国民の利益といえないことは既に国民の常識となつている。因
みに高田賢造著「土地収用法」日本評論社刊によれば、本条本号の「公益上の必
要」の定義につき同著一四一ページにおいて、土地収用法第二条の「公共の利益と
なる事業のための必要」の観念に合致しなければならないし、同著四〇ページにお
いて、「この公共の利益とは、なるべく多数の人々を裨益するものでなければなら
ず、公共の利益にとつて有用であり、実益があり、かつ正当なものであることを意
味する。事業が直接に公益のためになるのではなく、国民経済に貢献し、それがひ
いて間接に公共のためになるだけでは必ずしも十分とはいえない。公共の利益にと
つて便宜的なものや附属的なものであつてはならない。
」と解説しているが、現今の大企業の姿勢を考えれば一層この定義を厳格にあては
めねばならないのである。
よつて、本件事業計画は、土地を収用する公益上の必要があるとはいえない。
4 手続きの違法性
(一) 事業認定申請手続上の瑕疵
(イ) 土地収用法第二四条第二項違反
同項によれば、市町村長(横浜市の場合には各区の区長)が建設大臣より、事業認
定申請書及びその添付書類を受け取つた時には「直ちに」公告することが義務づけ
られているが、本件の場合において右申請書類が各区長に送付されたのが昭和四六
年六月であつたにもかかわらず、公告がなされたのが、およそ一年後の昭和四七年
五月であり、右条項に違反すること明白である。
更に昭和四七年五月四日より二週間右申請書類等の縦覧が開始されたが、反対同盟
の抗議行動により、昭和四七年五月一〇日神奈川及び港北の両区役所において、同
年五月一二日鶴見区役所において、更に同年五月一六日神奈川区役所において縦覧
が阻まれたにもかかわらず、縦覧は同年五月一七日をもつて、打切られた。右経過
から明らかのように同項の「公告の日から二週間その書類を公衆の縦覧に供しなけ
ればならない」という要件を充足せず、違法である。
(ロ) 同法第二二条、第二三条違反等
昭和四五年三月、当時の建設大臣P21は、反対同盟の代表に対し、学識経験者の
意見聴取及び公聴会の開催を約束しながら、これらの機会をもつことなく、一方的
に事業認定をしてしまつた。
更に同一の機会に建設大臣は事業認定をする前に、反対同盟の住民と事前協議をす
る旨の確約をかわしながら、右確約を無視し、事業認定を下したことは信義則に反
し、違法のそしりを免れない。
(二) 鉄道敷設法を脱法する違法な計画
鉄道敷設法によれば、新たな鉄道の敷設は、国会の決議による法律の定めるところ
と規定されているにもかかわらず、国鉄は本件計画を新線建設とせず「線増」と称
して国会に付議せず、工事に着工している。東海道線より四キロメートルも隔つた
ところに敷設される本計画は、社会常識的にみて既設線路の増加をはかる「増線」
ではなく、新たな鉄道路線の敷設であることは明白である。よつて本件貨物線計画
は、鉄道敷設法の脱法行為として違法である。
そもそも国会の議決を経ることを要する趣旨は、言うまでもなく、新設の場合に
は、新たに権利が侵害される沿線住民の範囲が広くなるため国会の審議に載せ、慎
重に決定するということであるから、本事業計画において、国会の議決を経なかつ
たことは、民主主義の否定でありこの違法は看過し得ないものである。
よつて以上の諸事由により事業認定は取消さるべきである。
二 土地調書、物件調書の違法
土地、物件調書は、被収用地等を明確にし、これを審理の対象として、収用委員会
の手続が進められるのであるから、収用委員会の審理手続において最も基本となる
べき書面であり、かつ被収用地等の所有者らが収用等により侵害を受くべき権利の
範囲を明確ならしめ、被収用者らの財産権を不当に侵害することのないようにする
ための文書である。そこで、土地収用法は起業者に対し、適正な手続に従い、法に
定められた事項について正確な内容を記載した調書を作成すべきことを義務づけて
いる。
したがつて、土地、物件調書の作成手続に違法があつたり、記載内容に誤りがあつ
た場合には、その土地、物件調書は無効となり、かかる無効な調書に基づいてなさ
れた裁決は違法であつて、取消しを免れない。
すなわち、本件においては次に述べるような土地、物件調書の無効理由があるので
かかる無効な調書に基づいてなされた各裁決は取消されなければならない。
1 調書作成手続における違法
(一) 土地収用法第三五条違反
同法第三五条は、土地、物件調書を作成するため、土地等に立入つて調査、測量す
るには、当該土地等の占有者に予め通知すべきことを要求している。
これは、同法第一一条の準備のための立入りの場合よりも特にその要件を厳格にし
ている。これは、土地等の占有者の権利を濫りに侵害しないように配慮すると同時
に収用手続における審理の基礎をなすところの調書作成の一環として行われること
から、その手続を厳格ならしめ、土地所有者らの権利擁護を図ろうとしているもの
である。
したがつて、適法な占有者に対する通知を欠いたまま作成された土地、物件調書は
無効である。
本件において、法第三五条に違反し占有者に対する通知を欠いているものは別表1
のとおりである。
すなわち、同表(1)に掲げた申立人らは、いずれも、明らかに当該土地の占有者
であるにも拘らず、国鉄はこれを恣意的に占有者として認めず何ら通知をなさなか
つたものである。同表(2)に掲げた申立人らについては、土地収用法における通
知は到達主義によるべきか了知主義によるべきかは置くとしても、いずれの申立人
らも、法第三五条の通知を受取つていない。国鉄はこれらの申立人は正当な理由な
く受取りを拒否したものとして、通知があつたものとみなしているが、これまでの
国鉄自身の態度からしてかかる主張は許されない。すなわち、昭和四七年三月一八
日以来、当時六、〇〇〇世帯以上にのぼる反対住民が現に存在し、かつ組織的に活
動してやる事実が存在していたにも拘らず、国鉄は住民運動を分断するため、一方
的に反対同盟の存在を否定し、「反対同盟は解体したものと解釈する」などと通告
したうえ、その後反対同盟を一切無視し、反対同盟から発信する郵便物ですらこと
ごとくその受取りを拒否してきたものである。かかる不当な態度をとり続けてきた
国鉄が、いかなる者からの、かついかなる内容の文書であるか全く不明の文書を申
立人らが受取らなかつたことについて「正当な理由なくして受取りを拒否した」な
どと主張できる筈のものではない。
更に申立人らが受取らなかつたのは発信者及び文書内容も不明な郵便物なのである
から、このような場合国鉄としては別の方法によつて、通知をなすべきであり、他
の方法を講ずることもせずに、通知があつたとみなすことは法第三五条の趣旨から
して許されない。
(二) 土地収用法第三六条違反
同法第三六条は、調書を作成するに当つて土地所有者らを立会わせ、その署名、押
印を受けるべきことを起業者に義務づけている。
旧法では、起業者及び土地所有者らの協力のもとに調書を作成すべきものとしてい
たが、現行法は、調書作成を起業者に義務づけ、土地所有者らには、右作成に参加
する権利を認める形式にしたが、その趣旨は旧法と変るところはない。
このように法は、権利関係を明確にすべき調書作成に当つて、実質的に土地所有者
らを関与せしめることによつて所有者らの権利保護を図ろうとするものであるか
ら、土地所有者らの立会い、署名、押印は、単に形式の問題に止まるものではな
く、調書作成に当つて、土地所有者らを現実に立会わせ、異議申立ての権利行使の
機会を実質的に保障したうえで、現実に、署名、押印を得ることが要求されている
のである。
本件において、権利者に立会いの機会も与えず、かつ土地所有者らの署名、押印も
得ずに調書が作成されたものは別表2のとおりである。
これらはいずれも法第三六条に違反する無効な調書である。
2 調書の内容における違法
(一) 起業地表示図とのくい違い
起業者は、収用等の裁決申請をなす際、起業地表示図を添付し、被収用地等と起業
地の関係を明示しなければならない。そもそも土地収用等の原点ともいうべき起業
地の範囲が、表示図と調書との間においてくい違いがあるなどということはとうて
い許さるべきではない。
しかるに、次に掲げる土地、物件につき作成された調書の記載は、明らかに右表示
図に示されている被収用地等の範囲と著しく異る。したがつて、これらの調書は収
用地等の範囲について正確な内容が記載されておらず真実に反するので、いずれも
無効な調書だといわなければならない。
(1) <地名略>(Q)
(2) <地名略>(L)
(3) <地名略>( 〃 )
(4) <地名略>( 〃 )
(5) <地名略> ( 〃 )
(6) <地名略>( 〃 )
(二) 地積が不正確
本件における土地調書は、すべて地積測量図が概算で表示計算されており、公図な
いし土地台帳の地積をそのまま記載してあるだけで、実測値を記載したものではな
く、とうてい法の要求している土地調書とはいい得ない無効な調書である。
(三) 所有者らの誤り
次の各調書は、すでに述べたように、法第三五条の通知を欠き、第三六条の署名、
押印もない違法があるだけに止まらず所有者らの記載が明らかに誤つており、調書
としての効力は全くない。
(1) 五〇収八号<地名略>に関する調書にはCが所有者として記載されている
が、これは明らかに誤りである。
すなわち、右調書に記載されている物件の所有者はA(富士市<地名略>)であつ
てCは単に右物件に居住している者にすぎないのである。
(2) 五〇収一七号<地名略>に関する調書には「所有者不明」と記載されてい
るが、これは国鉄が意図的に事実を無視して作成したものである。
すなわち、同調書記載の物件の所有者は横浜新貨物線反対同盟連合協議会(<地名
略>、代表者J、法人格なき社団)の所有するものであり、この事実を国鉄におい
て明らかに認めていたにもかかわらず、国鉄は、
反対運動を切り崩すための手段として社会的に現存する右反対同盟の存在を昭和四
七年三月以降ことさらに無視し続けてきたため、調書の作成に当つても「所有者不
明」などという違法な処理を行つたものである。
(3) 四九収一三号<地名略>に関する調書には借地権者としてP17が記載さ
れているが、当該土地所有者自身が使用しており、賃貸している事実は全くない。
したがつて、調書の記載は明らかに誤つており無効な調書である。
三 被申立人の裁決手続の違法
1 被申立人の本件取消請求事件の審理及び裁決は、横浜新貨物線の昭和五五年一
〇月開通を至上命令として、それを達成させるために審理すべき事項が山積してい
るなかで強引に審理を打ち切りなされた、いわば政治的裁決であり、手続の公正を
害し、取り消されるべきものである。
(一) 国鉄は、巨額の赤字に苦しみ、その再建対策要綱を発表し、その中で、昭
和五五年度において貨物輸送の近代化、合理化等の施策を講ずることとし、それに
基づき、昭和五三年一〇月及び同五五年一〇月にダイヤ改正を行うこととしてい
る。
(二) 横浜新貨物線については、昭和五五年一〇月のダイヤ改正に間に合わせて
開業し、「所要の近代化・合理化」を行うこととし既に労働組合との協議に入つて
いる。
また東戸塚駅等の設置についても、横浜新貨物線の開業を前提とし、かつ昭和五五
年の開業を目指している。
以上の事を総合すれば、横浜新貨物線の開通については昭和五五年一〇月が至上命
令となつていることは明らかである。
(三) 用地取得後の工期は、試運転の期間を含めて最短二年であることは、東戸
塚駅の設置だけでも三年の期間を設定していることからも明らかである。逆算すれ
ば、昭和五五年一〇月の開業に間に合わせるためには、遅くとも昭和五三年九月ま
でに用地の取得が行われなければならないことになる。更には、関係住民の抵抗を
考えれば、昭和五二年末あるいは同年度末までに、本件各裁決が下りていなければ
ならない。
(四) 昭和五二年夏頃から、被申立人が昭和五二年末あるいは同年度末までに裁
決をするとの情報が国鉄及び被申立人周辺から繰り返し流され、いくつかの報道機
関がこれを採りあげた。
(五) 更に同年一〇月東戸塚駅の設置が、横浜新貨物線の開通を前提に発表さ
れ、通勤客と関係住民の分断がはかられた。
(六) 同年一〇月二三日、
横浜重慶飯店で行われた秋田県人会において、同会会長でもあつた、被申立人の会
長P22は、反対同盟の秋田県人に対し、裁決を昭和五二年末あるいは同年度末ま
でに行う旨言明し、反対運動を止めるよう強要した。
(七) これらの事実は、被申立人が中立、独立して審理をなすべき本来の権限を
自ら放棄し、国鉄と共謀し、国鉄のスケジユールに合わせて審理、裁決を行つたこ
とを証明している。
即ち、その詳細は後述のとおりであるが、被申立人は昭和五二年五月には、それま
で続いてきた「懇談会」を何ら具体的な根拠なく「審理」に切り替え、さらに同年
一〇月「使用事件」と「収用事件」に全く一方的かつ抜き打ちに分離し、同五三年
三月には裁決申請手続の違法問題が継続中であるにもかかわらず、同年四月八日か
ら損失補償問題に入る旨の一方的決定を行い同日には、申立人らのまだ補償問題に
入る段階ではない。補償問題についての意見は、裁決申請手続の違法問題審理終了
後述べる旨の意見を全く無視し、実質審理を全く行わないまま「結審」した。更
に、その後「審理」を再開せよという申立人らの要求をも全く無視して裁決したも
のである。
2 本件裁決手続の違法の詳細は以下のとおりである。
(一) 裁決書によると「本件調査、審理を昭和五〇年七月二一日以来昭和五三年
四月八日までの約三年にわたつて実施して起業者及び本件権利者の意見を十分に聴
取した」という。
しかしながら、被申立人は起業者の意見についてはともかく、申立人ら権利者の意
見は十分に聴かず問答無用の審理打ち切りを行い裁決を強行した。
(二) 本件について、被申立人は、昭和五〇年七月二一日本件収用、使用事件が
関係当事者が多数で事業規模も大きく、かつ重大な社会的問題となつているところ
から、関係当事者の意見を十分に聴き適正に裁決を行うため、土地収用法第六二条
にいう審理を開始するに先だち懇談会を開催する旨の意向を申立人らが所属する反
対同盟に示し、右両者間にその旨の合意が成立した。
しかして、右懇談会において取り扱われる事項は、主として裁決申請書に添付され
ている土地物件調書の作成手続が土地収用法に抵触し、また、その内容が虚偽であ
り、土地収用法第四七条の「その他この法律の規定に違反する時」に該当し却下さ
れるべきであるとの点(以下裁決申請手続の違法と略称)であり、懇談会において
論議された事は、そのまま後日、
審理に採用する合意が申立人らと被申立人との間に成立した。
この懇談会について、被申立人は土地収用法第六五条にいう調査としたい旨の意向
を表明し、申立人らは、これについて理解を示した。
懇談会の場において、被申立人は、申立人らに対し、再三にわたり、「情にかな
い、理にかない、法にかなつた」裁決を行う旨、強調し、申立人らの意見を十二分
に聴くことを確約した。
(三) ところが、昭和五二年一月二九日の懇談会の席上、被申立人会長は、懇談
会で検討すべき事項が残つているにもかかわらず、懇談会終了予定時間である一二
時を経過した後、突然懇談会が二年近くにわたつて開かれたというだけの理由で、
次回より土地収用法第六二条にいう審理に移行する旨言明し、前項記載の約旨に反
する態度を示した。
(四) しかしながら、申立人らは、懇談会で解決すべき問題が残つているため、
右処置に反対した。昭和五二年二月二六日は既に懇談会の期日として指定されてい
たため、被申立人は同日は懇談会として開催せざるを得なかつた。
同年二月二六日の懇談会の席上において、被申立人は再び三月より審理の場にする
旨言明した。
右について結局、懇談会においては合意が見られず、同年三月一九日被申立人と申
立人ら権利者の代理人らで話合うこととなつた。
三 月一九日の話合いの内容は概ね左のとおりである。
被申立人側の意見は要約すると、
「収用委としては正式の審理に移行することに既に決定しており動かすつもりはな
い」(会長)「審理になつてもお考えになつていることを全て言つてくれて構わな
い」(P23委員)「本件貨物線による具体的な被害も出して欲しい」 (会長)
というものであつた。
このように被申立人は、審理に移行しても懇談会と内容は少しも変らず結審を急ぐ
ことはないことを言明したため、権利者代理人らは、次回四月二日は懇談会とし、
その後は審理とすることに同意した。
(五) 昭和五二年四月二日の最後の懇談会においても、被申立人は、審理に移行
しても十分審議を尽くすことを繰り返し明言した。
(六) ところが、同年五月七日の審理に至るや、被申立人は、裁決申請手続の違
法の問題については、争点がはつきりしたので総括的意見を述べるようにと言明
し、早くも前項記載の態度を変えようとした。しかしながら、申立人ら権利者の抗
議にあい、従来の争点について審理が進められた。
(七) 被申立人は、同年九月三日の審理において、権利者ら復代理人が審理につ
いて、「懇談会」と発言したことの言葉尻をとらえて当日の審理を打ち切つた。
(八) 同年九月二六日、被申立人と権利者ら代理人は、審理の進め方について話
合い概ね左記の合意に達した。
今後の審理において
(1) 権利者らは、審理について、懇談会であるという発言をしない。
(2) 裁決申請手続の違法について、なお審理を進めるが、争点について重複を
避ける。
(九) 昭和五二年一〇月八日は、右申し合わせを権利者らが守つたため、静謐な
中で審理が進められた。ところが被申立人は、同日の終了直前に至り突然次回より
収用事件と使用事件を分離して審理することを明らかにした。
しかしながら、これに先立つ同年九月二六日の進行についての事前準備の話合いの
際には、このような事は、何も話合われておらず、まつたくに唐突陰険なものであ
つた(この意図は後日明確となつた)。
(一〇) 同年一一月一九日は、収用事件を使用事件と分離し、前者のみについて
審理がなされた。
同日は、被申立人が一方的に分離した理由の明示をめぐつて議論がなされたが、結
論が出ず、別の期日に被申立人と権利者ら代理人弁護士と話合いをし、打開策を見
出すこととした。
(一一) 同年一一月三〇日、右話合いが行われ、左記の合意が成立した。
(1) 分離は認めるが事実上併合審理とする。
(2) 両事件に共通する問題(裁決申請手続の違法等)については、引き続き審
理する。
(一二) ところが、昭和五二年一二月三日の審理の冒頭、被申立人は、またもや
突然、損失補償の問題の審理を行うと発言し再び合意を無視する態度に出たため、
その点をめぐつて審理が紛糾し、期日外で話合いをすることとなつた。
(一三) 同年同月一九日、右話合いが、被申立人と権利者ら代理人との間でなさ
れ、昭和五三年一月一〇日までに、権利者ら側が争点整理を行つたらその意見書を
提出し、重複を避けるための参考とすることどなつた。
(一四) 同年一月一四日、右意見書が単なる争点整理のものであるか、あるいは
未審理の今後の審理の対象となる事項を整理したものであるかについて権利者ら側
と被申立人で齟齬があり、被申立人と権利者らとの間で再び期日外で話合うことと
なつた。
同年同月二四日、右話合いがもたれ、
同年二月二五日までに未だ審理されていない裁決手続の違法性についての意見書を
提出し、その意見書に基づき裁決申請手続の違法の問題につき審理を行うこととな
つた。
(一五) ところが、被申立人は、またもや右合意に反して、同年三月四日の審理
において、右意見を全く無視して次回から損失補償の問題を審理する。意見があれ
ば三月の末までに書面を提出すること、三月一五日に現地調査を行うことを(申立
人ら代理人の右期日は差し支えるとの意向を全く無視し)一方的に決めてしまい、
更に同年四月八日の審理において、後述するように、突然審理を終結してしまつ
た。
(一六) 裁決書によると
(1) 申立人ら権利者が「裁決申請上の違法性の問題につき未だ議論が尽されて
おらない、未整理である、あるいは申請手続関係をまず結着判断して却下すべきで
あると主張し、当委員会の方針に従わずその後の数回の審理においても事態の進展
をみることができなかつた。この間、当委員会は●次にわたり裁決は損失補償問題
を含め最後に一括判断する建前である旨を説明してきたがこれらの人びとはこれを
理解しようとしなかつた」
(2) 「しかしながら、審理の促進は委員会の使命であるので、昭和五三年三月
一五日本件対象土地等の調査のため現地に赴いたところ、これらの人びとから集団
実力行使による不法な激しい妨害を受け」
(3) 「更に同年四月八日の審理の場においても、当委員会はこれまでどおりの
委員会の方針を再々述べて局面の新展開を期待したけれども本件権利者を含むこれ
らの人びとは申請手続関係につきまず判断をし、先決すべきであるとの従来からの
主張を改めず、なお論議が尽されておらないと主張しながら、新たな事実でもない
事柄をこもごも発言し、あるいは当委員会に抗議釈明を要求する等、会長の審理指
揮に従わず、審理の場は騒然たる状態であつた」
(4) 「他方これらの人びと以外の権利者からは、意見書によつて損失補償に関
しつぎつぎと具体的意見が出され、かつ又長期の審理遅延のために不安定な生活を
余儀なくされ将来の生活設計にも支障をきたすので一刻も早い裁決を切望する旨の
意見も提出され、起業者また速かなる裁決を求めているので、当委員会は、これら
のことを無視するわけにはいかず、審理の場がこのような状態ではもはや審理を継
続しても無意味と判断して、
審理を終結することとした」
と審理を終結した理由を述べているが、これは事実と全く相違し、故意に真実をね
じ曲げて違法な審理手続を正当化しようとするものであつて許し難いところであ
る。
以下項を改めて反論する。
(一七) (1)前項(1)のうち、裁決申請手続上の違法性の問題につき未だ論
議が尽されておらないという主張を申立人ら権利者が主張したのは事実である。こ
の点について申立人ら権利者は、被申立人の求めに応じて昭和五三年二月二五日付
権利者意見書を提出し、これに記載された論議が尽くされていなかつた事項につい
て審理することは、被申立人も認めていたところであり、委員会の方針に従わなか
つたというのは事実に反するところであり、四月八日の審理の場においても申立人
ら権利者代理人が具体的な陳述を始めんとしていたのを無視し、結審してしまつた
ものであり、被申立人の方にこそ、約束を無視した審理手続の違法が存するのであ
る。申請手続に対する判断を求めた点は、権利者代理人が当初において、意見とし
て述べたことはあるけれども、これに固執することなく審理に協力してきたことは
前述のとおりであり、被申立人の方針に従わなかつたということは全く事実に反す
るところである。
(2) 同(2)について、現地で権利者ら住民が現地調査に反対したのは事実で
ある。しかし、それは、前記のとおり、被申立人が、現地調査の目的もはつきりさ
せず、かつ申立人ら代理人の都合を全く無視して突然一方的に決定したものであ
り、ただ単に、うわべだけ現地調査を行つた実績をつくり、裁決の地ならしをせん
とする被申立人の態度に対する抗議であり、その責任を権利者らに転嫁するのは誤
りである。
(3) 同(3)について、同(3)のうち、論議が尽されていないと主張したこ
とは事実であるが、その他は事実に反するものである。
即ち、昭和五三年二月二五日付権利者ら意見書に基づき、代理人弁護士P24が補
足的説明をするといつているのを無視し、審理を打ち切つたことは前述したとおり
であり、抗議、釈明を要求したことはあるが、それは、昭和五三年一月一四日の審
理の際、県の職員と思われる者が、いやがる傍聴人に接近して顔写真を撮影したこ
とにつき、その者の肖像権侵害及び傍聴人に対するいやがらせということで、撮影
者の役職、氏名の明示を権利者ら側で求めていたところ、その明示がなされなかつ
たため、ごく僅かの時間を割いて再度右につき明らかにする様、それが出来ない場
合には、被申立人の陳謝を求めたに過ぎず、被申立人の指示に基づいて行動してい
た職員が公安関係の者と疑われたため、氏名はともかくその役職だけでも明示して
ほしいと申立人らが主張したに過ぎず、これすら明示し得なかつた被申立人に混乱
の責任が存することは明白である。
再三再四に亘り前言を翻して、形式的に補償の問題をとりあげ早期結審のみを目指
して強引な進行を行つた被申立人に挙げてその責任が存するのである。
(4) 同(4)について、他の権利者の不安定な生活を除去するために結審をし
たが如き理由はつけ足しに過ぎない。もしそうであるとすれば、それらの人達の審
理を分離し手続を進行させればよいことである。被申立人の真意は、審理にはまと
もに応じようとせず、ただ早期裁決だけを要求する国鉄の意向に従い、昭和五五年
一〇月開通に間に合わせようとすることにあつた。このため、当然尽さなければな
らない審理をも中断し、強引に審理を打ち切り、裁決を行つたものである。したが
つて、補償の問題については、全く審理されていないのである。
3 申立人ら権利者が、今後の審理の場で主張、立証せんとした主要な点は左のと
おりである。
(一) 裁決申請手続の違法について
(1) 申立人ら権利者の昭和五三年二月二五日付意見書の性格
申立人ら権利者の昭和五三年二月二五日付意見書提出の経過は前述したとおりであ
る。右音見書は権利者らのこれまでの意見(申請手続段階までの違法に関する)を
書面としてまとめるという性格のみならず、これまでの審理で起業者が答弁してい
ない事実について、新たに釈明を求め、争点を明確にするという性格のものであつ
た。従つて、当然のことながら、右意見書にのつとつて、論点の一つひとつについ
て補充を要する点は口頭で補充しながら双方の主張を明確にし、争点を明らかにす
る作業が次の作業として前提とされ、更に次の段階として証拠の提出が予定されて
いたのである。これが、意見書提出についての権利者ら代理人と被申立人との合意
内容となつていたのである。
(2) 申立人らの意見主張半ばにおける唐突な結審の、違法性
右意見書提出(昭和五三年二月二五日)以降被申立人による審理は二回開かれた。
一回目の三月四日、これは前回の審理事項の継続であつて、意見書に関する審理は
なかつた。従つて、意見書に関する審理は、四月八日ただの一回であり、しかも収
用と使用で一時間ずつの期日指定であれば、収用については正味四〇分の審理でし
かない。しかも権利者ら代理人の釈明を求める発言途中の一方的な結審宣告であ
り、右被申立人による結審は、申立人ら土地所有者、関係人の意見陳述、証拠提出
の機会を奪う違法な手続であることが明らかである。
(3) 意見陳述、証拠提出の機会を奪われた論点
右意見書に記載された範囲に限つて被申立人によつて申立人ら権利者の意見陳述、
証拠提出の機会が奪われた論点は左のとおりである。
(イ) 土地収用法第三五条第二項の占有者概念問題
申立人ら権利者は、右意見書において、土地収用法第三五条第二項の通知を為すべ
き占有者の問題について、起業者の主張あるいは取扱いの不当性を論ずる前に、起
業者自身が為した主張及び取扱い自体のなかに矛盾があることを明らかにし、左の
とおり釈明を求めたが、これに対し、起業者が何らの答弁をしないばかりか、被申
立人も起業者に釈明を要求するでもなく、あるいは自ら当該論点はいつの審理ある
いはどの意見書で既に明らかにされている等の答弁も為さないまま結審した。
A 民法上の原則と起業者昭和五一年四月三〇日付意見書とのくい違い。
起業者は、一方では民法上の占有概念を原則といいながら、昭和五一年四月三〇日
付意見書では、これと異なる占有概念(間接占有者は占有者であらず)を主張し
た。いずれを前提とすべきか。
B Q・R事例とP25・P26事例とのくい違い。
Q夫妻とP25夫妻は、占有者を論じる意味では全く同一の事実関係にある(建物
名義は妻で、当該建物に夫妻同居)にもかかわらず、起業者は、Qの場合は、妻R
にのみ通知し、P25の場合は、夫妻双方に通知を為している。
この間の取扱いの異同の理由。
C P25に対する起業者の主張自体の矛盾。
起業者が、P25に対し、土地収用法第三五条第二項の通知を為したことは争いな
い。
ところが、起業者昭和五〇年一二月九日付意見書によると、「P25に対する通知
は、立入要件たる通知ではない」と右P25は、占有者ではないかの如き主張をし
ておきながら、昭和五一年七月一七日の収用委員会の席上、起業者代理人は、「P
25は、共同占有者と認定した」と答弁した。この間の矛盾について、申立人ら
は、
前記意見書に次のとおり釈明を求めた。
(A) P25は、法第三五条第二項にいう占有者ではないのか。
(B) 占有者でないとすると、通知したのは何故か。その法的効果姐何。
(C) 起業者主張相互に矛盾ないか。ないとすれば格別の理由を示せ。
(D) 矛盾あるいはくい違いあるとすれば、いずれが正しいのか。
(ロ) 土地収用法第三五条第二項の通知の
A P27、P28について
起業者が同居している事実を認めながら何故通知しなかつたかその理由
B P29、P30について
P31と同居している右二名について、同居の事実を確認したのか否か、同居を認
めるなら通知をしなかつた理由
C 土地収用法第三五条第二項の通知の発信がなく、かつ同法第三六条第二項の要
請があつた者について、取扱いを区別すべき理由
(二) (1)損失補償に関する申立人らの意見陳述及び立証をさせずに結審
申立人ら被収用、使用者の財産権が前述のとおり、違法不当な事業認定(住民を欺
しての貨物線建設)で、しかも著しく低廉な「補償」で侵害される立場にあつた。
従つて申立人らは、そのかけがえのない財産ひいて生活を守るため重要な損失補償
の算定につき具体的に意見を述べ、かつ立証をする予定でいた。例えば、次の諸点
などを用意していた。
(イ) 国鉄主張に係る標準地選定の誤りについて
(ロ) 右標準地の価格が著しく低廉であることについて
(ハ) 右標準地の価格の算定(不動産鑑定士による立証)
(ニ) 国鉄主張に係る標準地と各被収用、使用土地の減価増価要素の誤りについ
て(立証を含む)
(ホ) 国鉄主張にある借地権、使用借権の補償額算定の誤りについて(立証を含
む)
(ヘ) 地下使用の場合の補償価格の算定について(立証を含む)
(ト) 国鉄主張に係る補償率表が根拠薄弱であることについて
(チ) 本件被収用、使用土地の地積の誤りについて(立証を含む)
ところが、被申立人は、昭和五三年四月八日の審理の中で、とにかく結審を急ぐあ
まり、申立人らがいまだ補償問題についての意見を述べる段階でないとして被申立
人会長の審理指揮に異議を述べている最中に突如としてすべての審理の打切りを宣
言した。
右打切りは、当日の審理の打切りではなく、すべての審理の即時打切りであつて、
権利者らはもとより、傍聴者、報道関係者もただ唖然とするばかりであつた。
この模様を「抜き打ち結審」(読売新聞、四月九日付朝刊)と「用地問題が結審、
わずか一時間余り」(毎日新聞、四月九日付朝刊)と報道されていることからも、
異常な審理打切りのことが理解されよう。
なるほど、被申立人としては、早期に補償問題に入りたいとの意向も理解されない
わけではない。しかし、収用委における審理も従来の審理の流れに沿つて進行され
るべきは当然である。被申立人会長が、前記審理の流れを無視して「すぐ補償につ
いて意見を述べよ」と指揮し、これに異議を述べている最中に、すべての審理を打
切ることは、意図的としか言いようがない。申立人らは、補償に関する意見を有す
ることは既に表明しており、かつその重大性に鑑み(土地収用法第六三条第二項第
三項)後日の審理の場で発言の機会を与えることは充分に可能であるし、そのよう
にすべきであることは言うまでもない。
申立人らに補償問題に関する意見を述べさせず、即時結審した被申立人の真意は、
本件補償に関する国鉄の申請が杜撰であつて、本件が関係者多数であり、複雑、困
難な諸問題を数多く含んでいるため、申立人らに発言の機会を与えると、今後さら
に多くの審理を続けねばならないので、これを封じ、早期に収用することにあると
断言して間違いない。
申立人ら被収用、使用者らの損失補償の算定に関する意見を聞かないで、どうして
公正な審理と言えようか。実に前代未聞の不公正な審理手続きと言う外はない。以
上のとおり、被申立人は申立人らの土地収用法第六三条第二項に定める意見を述べ
る権利及び同条第三項に定める立証の権利を一切奪つたまま結審したのであつて、
審理手続に重大な瑕疵があることは明白である。
(2) 何ら証拠資料なく補償価額を算定した裁決
その結果、必然的な事であるが、被申立人の裁決は杜撰の一言につきる。補償問題
に関して言えば、驚くべきことに、何ら証拠資料なく損失補償の価格を算定してい
るのである。
即ち、収用委員会の基本的任務は、損失補償の価格の合理的な算定にあるところ、
その算定にあたつては当然のことながら、複数の不動産鑑定士に鑑定を命じてこれ
を算定するのが通例である。収用委において、何ら鑑定することなく補償価格を算
定した例は聞かない。
ところが、前記のとおり、被申立人は、理性を失い前後の見境いなく結審した結
果、標準地比率評価法に基づいて補償価格を算定するにつき、当該標準地の価格が
いくらであるかすら鑑定をすることなく、また何らの証拠資料もないのに、国鉄の
主張そのものを鵜呑みにして価格を認定しているのである。想像を絶する裁決と言
わなければならない。
根本の標準地の価格についてすら、かくの如きであるから申立人らの個別の補償価
格についての算定がいかに杜撰であるかは多言を要しないであろう。借地権価格が
底地価格より低く評価されたり、私道(現状道路)と宅地(現況)の評価を同じと
算定したりするなど枚挙に暇がない。これは、申立人らの意見立証を出させず、か
つ被申立人も実際に現地に臨んで鑑定あるいは調査せず(土地収用法第六五条違
反)結審したからに外ならない。
四 以上の理由により、本件裁決の取消を求めるため、昭和五三年六月二七日本訴
に及んだものであるが、前述した如く本件裁決には、種々の重要な点について違法
が存するにもかかわらず権利取得の時期及び明渡しの期限は昭和五三年七月四日と
され起業者が右日時到来後、本件収用、使用地において高架部分の建設及びトンネ
ルの掘削を開始することは明らかである。
起業者の本件事業計画の本質が無用の長物化した大企業本位の貨物輸送の抜本的近
代化にあり、立地選定を誤つたものであり申立人らの生活環境、健康破壊を惹起せ
しめ公益上の必要性の存しないことは詳述したが、起業者の本件収用、使用地にお
ける工事により、右土地上及びその直近に居住する申立人らに対し激甚な家屋の損
傷及び健康破壊が生じ、本件裁決処分後の手続の続行により、申立人らは、回復困
難な損害を受けることは明らかで、かつそれを避けるため緊急な必要がある。
また、本件裁決の事業は、貨物輸送の抜本的近代化であるが、それは既に無用の長
物と化しており、起業者が申立人らを欺くために掲げている「通勤ラツシユ緩和」
も本件裁決の事業をまたなくとも、朝晩のラツシユ時間帯に現行の貨物線に通勤電
車を走らせることによつて可能であるから、本件において裁決処分の効力停止によ
り公共の福祉に重大な影響を及ぼすことはあり得ない。よつて本申立をなすもので
ある。
(別紙二)(申立人らの追加申立書一)
一 本件執行停止の積極的要件
回復困難な損害の発生について
いうまでもなく、土地収用法における裁決は、収用権の内容及びそれによる損失補
償の内容を確定する行政処分であるが、本件において、その双方につき、実体的に
も手続的にも重大な違法が存することは既述のとおりである。
ところで、本件各裁決に基づく権利取得及び明渡の効力は、昭和五三年七月四日の
経過によつて発生するものであることは各裁決書によつて明らかであるところ、右
各裁決処分が執行され、もしくはその手続が続行されるときは、申立人らに回復困
難な損害を生じ、これを避けるために緊急の必要がある。以下その理由を分説す
る。
1 収用明渡裁決について
土地所有者たる申立人E、同Bに対する収用明渡裁決については、これが執行され
るときは、その土地所有権が起業者たる日本国有鉄道に移転するばかりでなく、そ
の地上に貨物鉄道高架部分が建設されるに至ることは必定であり、これによつて回
復困難な損害を生ずることは明らかである。
2 申立人横浜新貨物線反対同盟連合協議会の損害について既述のとおり、五〇収
一七号事件裁決において、物件の所有者は右協議会であり、このことは審理の場に
おいて再三明らかにされ、被申立人もこれを知恣していたにもかかわらず、右裁決
においては、起業者の違法な物件調書をうのみにして「所有者不明」として処理さ
れている。
右物件は、鉄道高架部分の予定路線上に存するので、右収用明渡裁決が執行される
ときは、真実の権利者たる同協議会の権利が侵害され、回復困難な損害を受けるに
至ることは火を見るよりも明らかである。
3 使用明渡裁決について
(一) 前記1及び2の使用明渡裁決は、鉄道トンネル部分の敷設のための土地使
用権の設定を目的とするものであるが、右土地上には、申立人らの所有ないし居住
にかかる家屋が存し、その地下にトンネルが掘削され鉄道が建設されるときは、既
述どおり、騒音・振動その他の公害及び各種の環境破壊が生ずることは必然であ
る。
(二) 就中 <地名略>地区における鉄道建設予定地は、地盤極めて軟弱であ
り、既に着工した本件とンネル掘削工事により、著るしい地盤沈下、変動を生じ、
これがためトンネル予定地周辺に存在する家屋その他の工作物に甚大な損傷(家屋
の傾斜、コンクリート床・壁面の亀裂、水道管破裂、ガス漏洩等)を与えているこ
とは、横浜地方裁判所に係属中の本件貨物線にかかる昭和四八年(ワ)第六四一号
及び同四九年(ワ)第六七号事件の検証の結果(疎甲第二四号証)によつて明らか
である。
右<地名略>地区における申立人ら所有建物のトンネル土被り及び建物構造は被申
立人主張のとおりであるが、右建物地下において、トンネル工事を施行するとき
は、トンネル予定地から数十メートル離れた箇所においてすら、前記の如き工事被
害が発生することであるから、申立人ら家屋について回復し得ざる甚大な被害が発
生することは明らかである。
よつて、申立人らは使用明渡裁決についても、これが執行され、もしくはその手続
が続行されるときは、回復困難な損害を受ける虞れが顕著であり、これを避ける緊
急の必要があるものというべきである。
(三) 被申立人は、トンネル部分の使用裁決にかかる申立人ら所有家屋につい
て、被害が及ぶことは殆んど考えられないとか、仮に被害が発生したとしても軽微
なもので金銭補償により回復可能であるとか主張しているが、第一に、本件貨物線
掘削工事の施行及びその完成後における貨物列車の運行によつて各種の被害が発生
することは既述のとおりであり、第二に、特に<地名略>地区(足洗川流域)にお
いては、激甚な工事被害が現に発生していることも前述のとおりである。そのた
め、国鉄は右地区における工事を一時中止し、一旦掘削した工事用堅坑に水を貯溜
して掘削による影響を防止する一方、掘削によつて被害が発生した周辺地域の土地
家屋の買収工作をすすめていた程である。
したがつて、右工事がそのまま再開続行されるときは、まさに回復困難な被害が発
生するであろうことは明らかである。第三に、その他の地域(トンネル部分)につ
いても、厳密な科学的検証もなさずして、「仮に被害が発生しても補償で片がつ
く」などと考えることは、いやしくも公正中立たるべき収用委員会のとるべき態度
ではない。そもそも、本件裁決に至る審理の過程においては、本件貨物線工事によ
る被害について申立人らの意見書は提出されたが、被申立人は何らの審理も判断も
なしていないのであつて、すべてこれらに関する被申立人の意見は、起業者国鉄の
審理外の意見をそのままおうむ返しに繰り返しているに過ぎず、その不当なること
は明らかである。
二 執行停止の消極的要件
公共の福祉に重大な影響をおよぼすおそれがないことについて
1 被申立人は、本件事業、特に貨物別線の必要性についてるる述べているが、そ
の観点は、結局のところ、貨物別線の完成が通勤ラツシユ緩和の全ての前提になつ
ており、またそこにつきている。
しかし、右観点は全く事実と異つており、貨物別線の完成は通勤ラツシユ緩和とは
全く無関係である。
(一) 即ち、現行貨物専用線を通る貨物列車は横浜駅基準で午前七時から九時ま
でで、わずか七本であり、ピーク時一時間には三本だけである。これらの貨物列車
のダイヤをずらし、ラツシユ時間帯だけ通勤電車を通せば、一つの島式ホームを上
下線に使つても三分三十秒間隔、一時間当り一六本を増やすことが出来る。また一
時間当り三本程度の貨物列車をそのまま存続させたままでも最低九本の通勤電車を
走らせることが出来る。
(二) 他方、仮に貨物別線が完成した場合の通勤列車の運行本数を試算してみる
と、被申立人の述べる如く一時間当り二〇本が四〇本になるという事実は以下述べ
るように有りえない。
現在、湘南電車と横須賀線合わせて一時間二〇本の運行が確保されているのは、湘
南電車が朝のラツシユ時間帯に戸塚・保土ケ谷・川崎駅に停車しないからである。
即ちこれら三駅は一つの島式ホームを上下線に使用していることから、三分間隔で
列車を発着させると動きがとれなくなつてしまうからである。従つて、現在三分間
隔で電車が発着しているのは大船・横浜・品川・新橋の四駅だけであり、新橋を唯
一の例外としてこれらの駅は一つの島式ホームを上り専用もしくは下り専用に使つ
ているのである。
つまり、一つのプラツトホームの両側を上りまたは下り専用に使う(片側だけとす
れば六分間隔)ことによつて、はじめて三分間隔の発着は可能となるのである。
ところで、一つの島式ホームを上下線に使つての最小運転間隔の実績は高崎線の三
分三〇秒間隔で一時間当り一六本である。
貨物線を転用する客線の設計を見ると例えば、横浜駅は一つの島式ホームを上下線
に使うことになつており、三分間隔の運行は不可能である。ここで既に現行二〇本
が倍の四〇本になるという主張は崩れる。
(三) 更に、現行の旅客線は「通勤輸送と幹線輸送は極力分離する」との国鉄の
方針に基づき、優等列車優先に使われることは明白である。
現在優等列車は横浜駅基準で朝七時から九時まで、通勤電車に押されて一本も通つ
ておらず、これらの優等列車及び伊豆方面からの優等列車を東京のビジネスアワー
に合わせて進行したいというのが国鉄の悲願である。しかし、新通勤線が川崎駅を
迂回して通らなくなるため、川崎駅での現行停車本数、一時間当り八ないし九本の
実績は国鉄としても確保せざるを得ないと思われる。
以上を総合すると新通勤線一時間当り最大一六本、現行旅客線八ないし九本、合計
二四ないし二五本の通勤電車が通ることになる。現行二〇本に対し僅かに二割ない
し二割五分の増加にすぎないのである。
(四) 去る六月二六日国鉄東京南鉄道管理局は横須賀線逗子駅にCTC(列車集
中制御装置)を設置し、本件貨物別線の完成を前提として三割近い輸送力増強を図
ると発表した。
これは先の試算と増強率でほぼ見合い、他ならぬ国鉄の運行部門が三割近い輸送力
増強しか図らないことを言明しているのである。
冒頭に述べたように、肝心なのはこの程度の通勤輸送力の増強ならば、現行貨物線
の活用によつて十二分に可能であり、貨物別線建設の必要はまつたくない。
2 以上のように、本件貨物別線は通勤ラツシユ緩和のためには全く不必要であ
り、巨大なスクラツプ作りにすぎない。
のみならず本件工事を進捗させることは収用部分の土地所有者関係人に回復不可能
な損害を与えることは明白であり、使用部分についても工事による被害で家屋の損
傷等日常生活が阻害されることは過去の実績から確実である。
更に、本件裁決の執行は必然的に貨物別線の完成と開業をもたらし、これが沿線住
民に与える被害は想像すら出来ないものになろう。
現行ダイヤを前提とすれば、午後一一時から午前六時までの深夜に総貨物列車本数
の五割以上が通過する。成田・羽田空港ですらこの時間帯は飛行禁止であり、大阪
空港では午後九時から飛行禁止である。
また武蔵野南線の実績にみられる如く、開通後の被害は常に国鉄の予想のみなら
ず、住民・自治体の予想をはるかに越えたものになつており、地域社会、住宅地と
しての環境等が根底から破壊されることは誰の目にも明らかである。
よつて、本件裁決の執行は著しく公共の福祉に反するものといわざるを得ず、緊急
に停止されなければならない。
(別紙三)(申立人らの追加申立書二)
申立人横浜新貨物線反対同盟連合協議会(以下「反対同盟」という)の社団性に関
する事実関係
一 反対同盟の組織等
1 反対同盟は、昭和四二年六月一〇日、五地区の反対期成同盟の住民代表による
総会において結成され、同日、全会一致で規約を決定した。その後、右規約は若干
改正されたが、規約として明文化したものは右結成当時のものしか現存しない。
2 反対同盟は、最高意思決定機関として連合協議会総会があり、反対同盟加入住
民の居住する地域から約一〇〇世帯に一名以上の割合による代表者によつて結成さ
れ、原則として毎年一回開催され、反対同盟の代表者をはじめ、その他の役員を選
出する。会議の意思決定は、全員一致を原則としている。
3 右総会で選出される役員は、次のとおりである。
(1) 代表一名=反対同盟を代表し、会務を総括する。
(2) 事務局長一名=反対同盟の執行機関である事務局会議を統括し、必要に応
じ代表の代理をする。
(3) 事務局長代理一名=事務局長の職務を代理する。
(4) 会計一名=反対同盟の財産を管理し、会計事務を統括する。
4 反対同盟は、法人格なき社団としての実体を備え、結成以来今日まで、実に一
一年に亘り、統一した組織活動を行つてきており、これまでも、対外的にもかかる
取扱いを受けている。
たとえば、国鉄自身も、いわゆる三下り半をつきつけるまでは、反対同盟を法人格
なき社団として認めてきたし、横浜市はもとより、被申立人自身反対同盟をかかる
ものとして取扱つてきたのである。
このように、反対同盟は長年に亘つて統一した組織体として社会的に存在してお
り、法人格なき社団としての実体に問題はないのである。
二 反対同盟の推移
1 反対同盟は、昭和四二年の結成当時は、連合体としての色彩の濃い団体であつ
たが、昭和四七年ころから、国鉄の反対同盟切り崩し工作が陰湿に行われる中で、
同年三月一六日、反対同盟の構成員の一部約八〇世帯が、「公害対策協議会」なる
国鉄の協力組織を作り上げ、これに符合するように、同月一八日、国鉄から、いわ
ゆる三下り半が反対同盟に対して通告されてきた。
一方横浜市も、国鉄の反住民的態度を助長させる態度を改めようとはしなかつた。
このような厳しい情勢の中で、反対同盟は、有効な反対運動を展開するためにはよ
り強固な団体として整備し直す必要に迫られてきた。
そこで、同年九月二二日、連合協議会総会において、名称は従来のままとし、個々
の住民および<地名略>、<地名略>地区、<地名略>地区、<地名略>地区、<
地名略>、<地名略>(<地名略>)地区の反対期成同盟が、重畳的に反対同盟の
構成員となり、文字どおり単一組織としての実体を備えるための整備を図つたので
ある。
2 連合協議会総会は、住民運動団体としての性質上、月一回開催され、反対同盟
の運動方針、
規約の改正等の重要事項を決議する他、代表ならびにその他の役員の選出、会計の
承認は、年一回行うこととされ、そのように運営されてきた。会議は原則として全
員一致をもつて決議し、やむを得ない場合にのみ例外的に多数決によつて議決して
きた。
反対同盟の執行機関として、事務局会議が存在し、毎週一回開催されてきている。
財産の管理についても会計係が前記総会において毎年選出され、資産管理をはじめ
会計事務を統括し、毎年六月に開催される総会において会計の報告がなされ、総会
においてこれを承認してきた。
3 このように、反対同盟は、構成員の変動があつたにも拘らず団体として今日ま
で存続しており、代表の方法、総会の運営、財産の管理等、前記単一組織化された
後はさらにこれらの点が明確化され、今日まで新たな規約に基づいて運営されてき
たものである。
したがつて、反対同盟は法人格なき社団としての実体を充分備えている団体である
といえよう。
(別紙四)(被申立人の意見書)
申立の趣旨に対する答弁
申立人らの本件申立てを却下する。
申立費用は、申立人らの負担とする。
との裁判を求める。
○ 理由
第一 横浜新貨物線反対同盟連合協議会の当事者能力について
横浜新貨物線反対同盟連合協議会(以下「反対同盟」という)は本件申立ての当事
者の一人として名前を連ねている。
民事訴訟法第四六条によれば「法人に非ざる社団又は財団にして代表者又は管理人
の定めあるものは其の名において、訴え又は訴えられることを得」とされているの
であるが、右社団と認められるためには「団体としての組織をそなえ、多数決の原
則が行われ構成員の変更にかかわらず、団体が存続し、その組織において、代表の
方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確立していることを要す
る」(最高裁昭和三九年一〇月一五日判決民集一八巻八号一六七一ページ)もので
ある。
ところで、被申立人の審理段階においても、反対同盟は、右判例にいう同法第四六
条の法人に非ざる社団にして代表者又は管理人の定めあるものとは到底認められ
ず、当事者能力を欠いたものであるから反対同盟の本件申立ては速やかに却下され
るべきものである。
第二 申立ての理由に対する認否
「第一」
一 当事者について
1 認める。
2 認める。
二 裁決について
認める。
三 本件裁決に至るまでの経過について
1 本件工事の決定とその発表について
(一) 第一段「現在の東海道本線から大きくはずれる」こと及び「昭和四一年四
月突然右計画を発表した」ことは否認し、その余は認める。
第二段、認める。ただし、住居地域は事業認定申請当時は八七パーセント、事業認
定時は六四パーセントである。
(二) 不知。
2 認める。
3 認める。
4 否認する。
5 認める。
「第二」
一 事業認定の違法の主張について
前段の事実は認めるが、後段は争う。
1 土地収用法第二〇条第二号違反の主張について
(一) 否認する。
(イ) 第一段、申立外日本国有鉄道(以下国鉄という)が昭和四二年四月工事計
画を決定したことは認めるが、その余は不知ないし否認する。
第二段、国鉄が反対同盟に対し「反対同盟連合協議会は解体したものと解釈する」
旨通知したことは認めるが、その余は否認する。
第三段、否認する。
(ロ) 第一段、否認する。
第二段、認める。ただし、外に緩衝地帯の設置等最新の公害防止対策をとつてい
る。
第三段、争う。
第四段、全体の約七割がトンネルであることは認めるが、その余は争う。
第五段、ロングレールであることは認めるが、その余は争う。
第六段、否認ないし争う。
(ニ) 第一段、争う。
第二段、国鉄が赤字が続いていることは認める。
第三段、国鉄第三次長期計画の目的は認めるが、その余は争う。
第四段、争う。
2 土地収用法第二〇条第三号違反の主張について
(一) 第一段、おおむね認める。ただし、住居地域は前述のとおりである。
第二段、争う。
第三段、おおむね認める。
第四段、争う。
(二) 第一段、争う。
第二段、争う。
(イ) 住民生活の環境基盤の破壊についてとの主張に対して
第一段、争う。
第二段、争う。
第三段、横浜市の報告書発表は認めるが、その余は争う。
(ロ) 騒音、振動被害等についてとの主張に対して
第一段、争う。
第二段、否認する。
第三段、争う。
第四段、争う。
第五段、争う。
第六段、否認ないし争う。
3 土地収用法第二〇条第四号違反の主張について
(一) 本件事業の本質の主張について
前文、事業目的は認めるが、その余は否認ないし争う。
(イ) 「通勤ラツシユ緩和」の欺瞞性の主張について
前文、争う。
A 前段は認めるが、後段は争う。大船、
平塚間は旅客専用線の増設であり、平塚、小田原間は客賃分離のための線増であ
る。
B 前段は認めるが、後段は争う。
C 否認する。
(ロ) 大資本本位の貨物輸送力の強化との主張について
第一段、争う。
第二段、認める。
第三段、認める。
第四段、争う。
(二) 結語
争う。
4 手続きの違法性の主張について
(一) 
(イ) 土地収用法第二四条第二項違反の主張について
第一段、区長送付の日時及び公告月は認めるが、違法主張は争う。
第二段、二週間の縦覧期間は縦覧に供されており、申立人らの主張は争う。
(ロ) 同法第二二条、第二三条違反等の主張について
第一段、否認する。
第二段、争う。
(二) 
争う。
二 土地調書、物件調書の違法の主張について
前文、第一段、認める。
第二段、争う。
第三段、争う。
1 調書作成における違法の主張について
(一) 争う。
(二) 争う。
2 調書の内容における違法の主張について
(一) 争う。
(二) 争う。
(三) 前文、争う。
(1) 争う。
(2) 争う。
(3) 争う。
三 被申立人の裁決手続の違法の主張について
別途主張する。
四 第一段、争う。
第二段、争う。
第三段、争う。
第三 本案の理由がないことについて
申立人らが申立理由中に主張する違法理由については、次のとおりいずれも理由が
なく、本案は理由がないことが明らかであるので本件申立ては却下されるべきであ
る。
一 本件事業認定の違法主張について
1 そもそも土地収用法は、事業認定と収用裁決を分離し、それぞれ別個の機関に
当たらせることとしている。すなわち、土地収用法は、事業認定に属する部分の事
業の公益性の判断は、事業認定庁に一任し、それ以後の具体的な収用・使用の決定
を収用委員会に任せることとし、一つの行政処分を行うに際し、二つの行政機関に
関与せしめ、それぞれの職分権能を分離しているのである。
したがつて、もし、収用委員会が事業認定庁に優越して、事業認定の適法か否かを
審査し得るとすると、事業認定庁の行政上の意思は後に収用委員会の批判にさらさ
れ、既に確定した事業認定処分の効力を左右する結果となるおそれがある。
よつて、事業認定庁は、土地収用法第二〇条について審査して公益性についての判
断をし、収用委員会は、同法第四七条の規定により申請を却下すべき場合を除き、
同法第四八条第一項及び第四九条第一項に規定する事項についてのみ審理し裁決す
るのであり、裁決手続において事業の公益性について判断する権能を有しないもの
である。
2 しかし、本件事業認定も適法であること以下のとおりである。
(一) 本件事業認定にかかる鶴見―戸塚間に複線の線路を増設する、鶴見・戸塚
間(貨物別線)線路増設工事(鶴見・高島間の一部線路移設工事及び戸塚駅改良工
事等を含む)羽沢貨物駅新設工事及び北横浜変電所新設工事ならびにこれらに伴う
工事(以下「本件工事」という)は、東京―小田原間の線路増設工事(以下「全体
工事」という)の一部である。
(二) 右全体工事が計画されたのは次のような事情によるものである。
すなわち、現在東海道本線の東京―平塚間には旅客専用の複線があるが、平塚―小
田原間には客貨併用の複線のみである。現在これ等の線路によつて、通勤、通学輸
送と長距離幹線輸送とを行つているが、年々増加する輸送量のために通勤、通学時
の混雑度はすでに極限に達している状態であり、しかも増大する輸送量をさばくた
めに、必然的にラツシユの時間帯はだんだんと長くなる傾向にあるのが実情であ
る。
このような状況の中で利用者である多くの神奈川県民が毎日大変な苦労をして通
勤、通学をしている。
起業者としては、このような事態を緩和するための輸送力増強策として、列車の連
結両数を増やしたり、列車回数を増やすなど、すでに可能な限りの対策をとつてき
た。
しかし、東京―大船間の旅客専用線においては、一五両編成の列車を一時間に二〇
本の割合で運転するという運転保安上ぎりぎりの状態まで輸送力をあげているが、
現在の状態ではもうこれ以上輸送力を増やすということが不可能な事態になつてい
る。
このような事態を打開するためには、線路を増設して輸送力を大巾に増強する以外
に方策がないとの実情に基づくものである。
(三) 右全体計画は、昭和三九年一二月策定され、昭和四一年五月一六日、日本
国有鉄道法第五三条により適法に運輸大臣の認可がなされ、その後、適法な手続を
経て、本件事業認定がなされたのである。
二 土地調書、物件調書の違法主張について
1 調書作成手続の違法主張について
(一) 土地収用法第三五条違反の主張について
(1) 申立人らは、別紙1に記載する占有者に対して、法第三五条による通知を
欠いているので、当該土地調書、
物件調書は、無効である旨主張している。
(イ) 同別表1の(1)に記載されている者は、いずれも当該起業地あるいはそ
の地上物件の占有者であるにもかかわらず、通知を欠いた旨主張する。
その中申立人Qは、四九収一二号事件の土地調書及び物件調書の記載によれば、起
業地を含む横浜市<地名略>、宅地一二九平方メートルの所有者の一人であること
は認められるが、右土地上には、右物件調書の記載によれば、R所有の建物が建築
され、同人が右土地の使用借権者として右土地を建物所有のため占有していること
が認められる。
ところで、法第三五条による土地の占有者とは、右土地の上に建物所有のため使用
貸借している者があるときは、右使用借権者であり、起業者は、右使用借権者に通
知すれば足りるのであるから、申立人Qにつき右土地の立入調査に際し法第三五条
の立入通知をしなかつたからといつて同法第三五条の通知を欠いたこととはなら
ず、申立人Qの主張は理由がない。
ついで、A及びP32は、本件申立ての当事者ではなく、同人に対する通知欠如の
主張は申立人らにとつて自己の権利に関係のない違法主張で許されない。
(ロ) 前同別表1の(2)に記載されているR外一六名の申立人は、法第三五条
の通知を受け取つていない旨主張する。
起業者が、被申立人委員会の審理において提出した書類によれば、右申立人らに対
しては起業者は、立入ろうとする土地、又は物件の所在、立入ろうとする日時、立
入りの目的を記載した文書を書留配達証明郵便にて送付したところ、右申立人らは
いずれも受領拒絶したことが認められる。
したがつて、起業者の法第三五条による立入通知は、右通知文書の送付により右申
立人らは了知し得べき状態にあつたものと認められるから、右申立人らに対する法
第三五条による通知を欠いた旨の主張は理由がない。
なお、右申立人らは、起業者と反対同盟の関係等から受領拒否の正当理由がある旨
主張するが、前記郵便は申立人ら個人に対するものであり、また前記書証によれば
発信者も文書の内容も明確であり、正当理由がある旨の主張は理由がない。
(二) 土地収用法第三六条違反の主張について
(1) 申立人らは、起業者は別表2(1)に記載されている者に対し、立会署名
を求めなかつた旨の主張をしている。
(イ) 右記載中、P32、
Aは、本件申立ての当事者ではないので向人らが立会署名、押印要請通知を受け取
らなかつつた旨の主張は、申立人らについては自己の権利と関係のない違法主張で
許されない。
(ロ) 右記載中、横浜新貨物線反対同盟連合協議会は、前述のとおり権利能力な
き社団としての社会的存在にまでいたらず、したがつて、財産権の帰属主体として
の能力を欠くものである。
しかして、反対同盟は、被申立人五〇収一七号事件審理には、土地所有者あるいは
関係人である旨の立証は何らしていない、かかる者に対する立会署名を求めなかつ
たからといつて、同事件の土地調書及び物件調書の作成が違法無効であり同事件の
裁決が違法である旨の主張は理由がない。
(ハ) 右記載中、申立人Yは、被申立人五〇収四号事件の土地調書の記載によれ
ば、横浜市<地名略>の土地所有者であることが認められるが、同事件の審理にお
いて、立会署名を求められなかつた旨の意見は何ら述べておらず、本件訴訟におけ
るかかる主張は理由がない。
なお、郵便物配達証明書、P33陳述書によれば、同申立人は、起業者から昭和五
〇年一月一六日付郵便による法第三六条の立会要請文書を受領していることが認め
られ、同申立人の主張は理由がない。
(ニ) 右記載中、申立人J、同L、同Tは、いずれも起業者が被申立人の審理に
際し、提出した立会署名押印要請書によれば、各事件について書留配達証明郵便に
よる法第三六条の通知を不在により右郵便物が郵便局に保管され、郵便局職員がそ
の受領方について通知していたにもかかわらず、同人らは受領せず、さらに起業者
は、申立人J、同Lには職員を派して要請したが同要請を拒否し、また、同Tは通
知電報を発信したが、右電報も受領拒否していることが認められ、右申立人らの立
会署名を求められなかつた旨の主張は理由がない。
(2) 申立人らは、申立書別表2(2)記載の者は立会署名要請通知を受け取つ
ていない旨を主張する。
(イ) 右記載中、P34、P35、P36、P37、P38、P39、P40、
P41、P42、P43、P44、P45、P46、P47、P48、P49、P
50、P51、P52、P53、P54、P55、P56はいずれも本件申立ての
当事者ではないので、
同人らが立会署名押印要請通知を受け取らなかつた旨の主張は、申立人らについて
は自己の権利と関係のない違法主張で許されない。
(ロ) 右記載中、その余の申立人P16外二六名は、起業者が被申立人の各事件
の審理の際提出した書類によれば、起業者の書留配達証明郵便による立会要請通知
を受領拒否していることが認められ、右要請を了知し得たものであるから立会要請
を欠く旨の主張は理由がない。
2 調書の内容における違法主張
(一) 起業地表示図とのくい違いの主張について、申立人Qは、被申立人の四九
収一二号事件の起業地について、同Lは、四九収一三号の起業地について、土地調
書の収用地の範囲が不明確で真実に反する旨主張する。
右申立人らの本件申立書の記載の主張によるも具体的にどのように不正確でどのよ
うに真実に反するのか明らかでないが、土地収用法によれば土地調書作成に当たつ
ては、土地所有者は土地調書の記載事項に真実でない旨の異議を有する者は、その
内容を当該調書に付記し署名押印することができ(同法第三六条第三項)、土地所
有者は法第三六条第三項の規定によつて異議を付記した者がその内容を述べる場合
を除くの外、土地調書の記載事項の真否について異議を述べることができない、た
だし、その調書の記載事項が真実に反していることを立証するときはこの限りでは
ない(同法第三八条)とされているところ、同申立人らは前記土地調書において何
ら異議を付記しておらず、また被申立人の前記事件の審理において、記載が真実で
ない旨何ら主張立証しておらず本件訴訟におけるかかる主張は理由がない。
(二) 地積不正確の主張について
申立人らは、関係する土地調書において、前記同様何ら異議を付記しておらず、被
申立人の審理においても何ら主張立証しておらず理由がない。
(三) 所有者らの誤り
(1) 五〇収八号事件の物件所有者の誤りの主張について申立人らは五〇収八号
事件の物件調書中横浜市<地名略>所在木造二階建日本瓦ぶき建物の所有者はCと
記載されているがAの所有である旨主張する。
ところが、Aは、本件申立ての当事者となつておらずかかる主張は申立人らにとつ
て自己の権利に関係ない主張(申立人Cについては、自己の権利を否定する主張)
であるので許されない。
(2) 五〇収一七号事件の所有者不明の記載について横浜新貨物線反対同盟連合
協議会は、前述のとおり当事者能力を欠き本件訴訟において違法を主張することは
許されない。
すなわち、右同盟が当事者能力を欠く以上右物件が右同盟の所有であるから裁決は
違法である旨の主張は理由がない。
(3) 四九収一三号事件の物件調書の記載について
申立人Lは、被申立人の四九収一三号事件の土地調書に賃借人としてP17が記載
されているのは、真実に反する旨主張するが、同申立人は右土地調書において何ら
異議を付記しておらず、また被申立人の同事件の審理において右記載が真実と異な
る旨の主張立証を何らしておらずかかる主張は理由がない。
三 本件裁決手続の違法主張について
1 申立人らは本件裁決が起業者である国鉄の都合にあわせて強引に審理が打ち切
られた政治的裁決であり、手続の公正を害するものと主張するが、そのような事実
は全くなく申立人らの主張は失当である。
2 本件収用裁決に至るまでの経過
被申立人は、本件工事にかかる土地収用(又は使用)裁決申請及び明渡裁決申立て
を受理し、これらを併合審理することにして、昭和五〇年六月三〇日、審理を開始
したところ、Jを代理人とする本件申立人らを含む多くの人々は、本件裁決申請書
等の作成過程に不当、違法及び疑義があるとし、被申立人は、これを不受理、却下
すべきであると主張して審理に応じようとしなかつた。
被申立人は、本件につき、公正かつ慎重な審理を行う建前から、当初は土地収用法
第六五条第一項に基づく調査(懇談会という名称)を開始することとし、後になつ
て審理手続に入り、こうして本件調査、審理を昭和五〇年七月二一日以来、昭和五
三年四月八日までの約三年にわたつて実施して、起業者及び本件申立人らを含む権
利者の意見を十分に聴取した。
そして、被申立人は、裁決申請手続関係に関する両当事者の主張ならびに争点がそ
れぞれ明らかになつた段階、すなわち、昭和五二年一〇月に至つて申請手続関係に
つき、補充ないし新たな意見がなおあるならばこれが陳述の機会を許すこととしつ
つ、今後は、収用関係と使用関係を分離して、主体を損失補償において審理する旨
宣言して、損失補償に関する具体的意見の陳述を促した。
ところが、本件申立人らを含むこれらの人々は、裁決申請上の違法性の問題につき
未だ論議が尽されておらない、
未整理である、あるいは申請手続関係をまず結着判断して却下すべきであると主張
し、被申立人の方針に従わず、その後の数回の審理においても事態の進展をみるこ
とはできなかつた。
この間、被申立人は、数次にわたり、裁決は損失補償問題を含め最後に一括判断す
る建前である旨を説明してきたが、これらの人々はこれに理解を示そうとしなかつ
た。
しかしながら、審理の促進は被申立人の使命であるので、昭和五三年三月一五日、
本件対象土地等の調査のため、現地に赴いたところ、これらの人々から実力行使に
よる不法な激しい妨害を受け、更に、同年四月八日の審理においても、被申立人
は、これまでどおりの審理の方針を再々述べて局面の新展開を期待したけれども、
本件申立人らを含むこれらの人々は、申請手続関係につきまず判断をし、先決すべ
きであるとの従来からの主張を改めず、なお論議が尽されておらないと主張しなが
ら、新たな事実でもない陳述ずみの意見を繰り返し述べ、本件に直接関係のない事
柄をこもごも発言し、また、被申立人に抗議釈明を要求する等、被申立人の審理指
揮に従わず、審理の場は、騒然たる状態であつた。
他方、これらの人々以外の権利者らからは、意見書によつて損失補償に関してつぎ
つぎと具体的意見が出され、かつ、長期の審理遅延のために、不安定な生活を余儀
なくされ、将来の生活設計にも支障をきたすので、一刻も早い裁決を切望する旨の
意見も提出され、起業者もまた速かな裁決を求めているので、被申立人は、これら
のことを無視するわけにはいかず、審理の場がこのような状態では、もはや審理を
継続しても無意味と判断して、審理を終結することにした。
そして、起業者代理人ならびに土地所有者、関係人及びその代理人から提出のあつ
た諸書類、資料、意見書及び調査と審理の席における当事者の陳述ならびに被申立
人の現地調査の結果により、昭和五三年六月三日、裁決をするに至つたものであ
る。
被申立人の行なつた本件裁決に至るまでの調査及び審理等の経過は、以上述べたと
おりであり、被申立人が起業者である国鉄及び申立人らを含む権利者に対し意見を
述べる機会を十分に与えたにもかかわらず、申立人らは、再三にわたりいたずらに
手続の遅延を策し、自から意見陳述の機会を放棄したものであつて、被申立人は、
このような申立人らの態度から、これ以上審理を継続することは無益であると判断
し、
審理を打ち切つたものであるから、申立人らの意見を聞かず審理打切り、裁決を強
行したとする申立人らの主張は、事実に反するものであり、失当である。
なお、申立人らは、被申立人が何らの証拠資料もなしに損失補償の価格を算定した
と主張するが、本来土地収用関係の補償については、土地収用法第六章の諸規定及
び公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱があり、起業者はこれらに則り、不動産
鑑定士による鑑定評価額を主な参考資料として評定した標準地の価格を基礎とし、
補償額を申立てており、権利者から特段の資料が提出されなかつた本件において、
被申立人が起業者の申立額に、時点修正を加えてなした損失補償の決定に違法は存
しない。
第四 回復困難な損害について
一 申立人らは、起業者の本件収用地における工事により、右土地上及びその直近
に居住する申立人らに対し、激甚な家屋の損傷及び健康破壊が生じ、回復困難な損
害を受ける旨主張する。
しかし、起業者の工事により申立人らが回復困難な損害を受けるおそれは全くな
い。
二 工事による家屋の損傷について
1 本件収用地上及びその直近に家屋を所有している申立人ら及びその所有家屋の
状況は別表3のとおりである。
したがつて、別表3記載以外の申立人らについては、工事により家屋の損傷が起こ
る可能性は全くない。
2 ところで、別表3記載の申立人らの家屋についても、本件工事によりその家屋
に対し被害が及ぶことは殆んど考えられず、仮に何らかの被害が発生したとして
も、極めて軽微な被害であり修復、金銭補償により回復できるものであり、回復困
難な被害とはいえないものである。
これを詳述すれば次のとおりである。
(一) 別表3記載の申立人T、同宮田嘉一、同Vは、横浜市<地名略>の本件各
使用裁決の地下使用地の地上もしくは直近地に家屋を所有している。
右申立人らの家屋の所在地は、いずれも工事件名生麦トンネルの未着工区域内にあ
り、右所在地の地下土被り約一〇・七メートルないし約一一・二メートルの地点に
トンネル構造物が構築されるものである。右構造物の構築は、山岳トンネル方式の
うち、地表面等に対する影響の最も少ない側壁導坑先進上部半断面工法をとること
になつている。
ところで、生麦トンネルは、一、六三一メートルの区間(土被り最低約一〇メート
ル)は既に同工法により施工済みであるが、
施工済区間の工事により、その地上及び直近地には何ら工事被害が発生した事実は
認められない。
したがつて、右申立人ら所有家屋の所在する未着工区間においても同様の工法によ
りトンネル構造物が構築され、土被りも十分あるので、工事による家屋被害のおそ
れはないというべきである。
また仮に家屋被害が発生しても、その程度は極めて軽微であると推定され、補修あ
るいは金銭補償により十分回復できるものである。
(二) 別表3記載の申立人R、同P17、同P19、同P20は、横浜市<地名
略>の本件使用裁決による地下使用地の地上もしくはその直近に家屋を所有してい
る。
右申立人らの所有家屋所在地は、いずれも工事件名篠原トンネルの未着工区域内に
あり、右所在地の地下土被り約八・二メートルないし約一六・七メートルの地点に
トンネル構造物が構築されるものである。右トンネル構造物の構築においても、山
岳トンネル方式のうち地表面等に対する影響の最も少ない側壁導坑先進上部半断面
工法をとることになつている。
ところで、篠原トンネル工事で、起業者は未着工区間の大船方九五〇メートルの区
間(土被り最低約七メートル)は既に同工法によりトンネル構造物の構築が施工済
みであるが、施工済区間の工事により、その地上及び直近地には何ら被害が発生し
た事実は認められない。
したがつて、申立人ら所有家屋の所在する未着工区域内においても同様の工法によ
りトンネル構造物が構築され、土被りも十分あるので、工事による家屋被害が発生
するおそれはないというべきである。
また仮に家屋被害が発生しても、その程度は極めて軽微であると推定され、補修あ
るいは金銭補償により、被害は十分回復できるものである。
(三) 別表3記載の申立人らのうち、申立人W、同X、同Y、同Z、同P1、同
P2、同P3、同P4、同P5、同P6、同P7、同S、同P8、同P9、同P1
0、同P11、同P12、同P13、同P14同C、同P15、同P16は、横浜
市<地名略>の本件使用裁決の地下使用地の地上に家屋を所有している。
右申立人らの家屋所在地は、いずれも工事件名大口台トンネルの未着工区域内にあ
り、
右所在地の地下土被り約一一・八メートルないし約二五・九メートルの地点にトン
ネル構造物が構築されるものである。右構造物の構築においても、山岳トンネル方
式のうち地表面等に対する影響の最も少ない側壁導坑先進上部半断面工法をとるこ
とになつている。
ところで、大口台トンネルは、三六〇メートルの区間(土被り最低一一メートル)
は既に同工法により施工済みであるが、施行済区間の工事により、家屋に被害が生
じたのは一軒のみであり、建物の壁に毛髪程度の亀裂が生じたにすぎない。そして
右被害については、家屋所有者に補償金を支払い円満に解決している。
したがつて、右申立人ら所有家屋の所在する未着工区間の工事による家屋の被害が
発生するおそれは極めて少く、仮に発生しても、極めて軽微であり、補修あるいは
金銭補償により十分回復できるものである。
三 健康被害について
1 申立人らのうち、別表4に記載する申立人らの住所地は、本件収用地から約五
〇メートルないし約七六〇メートル離れた地点にあり、工事被害を受けるおそれは
全くない。いわんや健康上の被害を受けるおそれは全くない。
2 申立人らのうち、別表5に記載する申立人らは、本件収用地上にそれぞれ居住
しているが、右収用地において、施工される工事内容は同表記載のとおりである。
ところで、同表記載の申立人Qないし同P16の居住家屋関係の工事は、いずれも
土被り八・二メートルないし二五・九メートルの地下において約二ケ月間ないし約
七ケ月間にわたり、側壁導坑先進上部半断面工法により施工することになつてい
る。
右工法は、前記大口台トンネル、篠原トンネル、生麦トンネルの施工済区間合計
二、九四一メートルの区間の工事に際してもとられたが、その施工に際しては振
動、騒音は地表面において殆んど感知し得ない程度のものであり、したがつて、申
立人らの居住地における工事による振動、騒音も同様であると考えられるので右申
立人らに健康上の被害があることは全く考えられない。
四 なお、本件申立人らの土地所有権等の収用については、本件裁決においても補
償の対象としており、仮に補償に不服がある場合には損失補償の訴えによつて救済
されるべきものであつて、それをもつて回復困難な損害といえないことは土地収用
という制度上当然の事柄である。
第五 本件裁決の効力停止は公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある。
一 本件事業、特に貨物別線の必要性
1 序
(一) 各種事業所や工場等が集中している東京都中心部及び京浜工業地帯の後背
地の一部をなし、また気象条件にも恵まれている紳奈川県は、人口の増加率が極め
て高く、その増加は、自然増加に起因するというよりもむしろ住宅地が郊外へ移動
するに伴い発生した社会増に起因するものである。このため、首都圏整備計画の一
環として行われている市街地開発地域の指定や神奈川県総合計画の一環として行わ
れている住宅建設計画等も、いずれも当初の近距離電車区間沿線における右指定や
建設等から、川崎市や横浜市を中心とする半径五〇キロメートル圏に拡大移行し、
これを反映して神奈川県内から東京都内及び京浜工業地帯への通勤圏も既に小田原
市付近にまで拡大されるに至つている。
(二) ところで、東海道本線東京・小田原間のうち、東京・平塚間には旅客線用
の複線が、また平塚・小田原間には客貨併用の複線がそれぞれ存するのみであるた
め、国鉄は、年々増加する通勤、通学客の輸送力増強策として、これまで、旧型電
車を性能の良い新型電車に置き換えたり、電車の編成車両数を増加したり、運転間
隔を短縮して一時間あたり二〇本の割合で電車を運行するという輸送力の限界状態
で対処してきた。しかしながら、年々増加する輸送量のため、昭和四〇年当時にお
いてすら、東京・小田原間のうち、最も混雑の激しい東京・大船間のいわゆるラツ
シユ時の一時間当りの上り通過人員は約五一、〇〇〇人であり、混雑率はすでに約
二五六パーセントにも達する状態であつた。
この状態を打開するためには、線路を増設して抜本的に輸送力を増強する以外に方
法はなかつた。
2 貨物別線完成の緊急性
(一) 東海道本線東京・小田原区間のうち特に混雑の激しい東京・大船間は、前
記昭和四〇年以降も増々その混雑度を増し、昭和五一年には、ラツシユ時の一時間
当りの上り通過人員は約八六、〇〇〇人であり、混雑率は約三一二パーセントにも
達するばかりか、混雑の激しい時間帯も二時間以上へと拡大してきているのであ
る。
このような状態はもはや通勤、通学者の肉体的な限度を超えており、またホームで
の混雑状態などからみても予測し得ない事故の発生することも考えられる。
(二) ところで、貨物別線完成後は、現在の東海道貨物線が旅客専用線として使
用できるため、
東京・大船間の電車設定可能本数は一時間当り二〇本から四〇本に増加でき、極限
状態にある混雑を緩和することができるのである。
(三) 以上述べたことからも明らかのように、本件事業である貨物別線完成の緊
急性は何人にも明らかである。
3 東海道本線東京・小田原間線路増設工事計画及びその進捗状況
(一) 国鉄は、前述したような事態を打開するため、東京・小田原間に新たに旅
客専用線を確保することとし、このため、東京・平塚間の旅客専用線を現在の複線
から複々線とし、平塚・小田原間を現在の客貨併用の複線から旅客専用の複線とす
ることとして次のとおり計画し、その建設に着手した。
(1) 東京から品川までの区間(約六・五キロメートル)は、地下鉄方式による
別線を増設する。
(2) 品川から新鶴見操車場入口までの区間(一〇・二キロメートル)は、現在
の品鶴貨物線を旅客線に転用し、線増はしない。
(3) 新鶴見操車場入口から鶴見までの区間(約七・六キロメートル)は、右操
車場及び右品鶴貨物線の東側に併設して線増するとともに、この線増したものを現
在の東海道貨物線に取付けて旅客線とする。
(4) 鶴見から戸塚までの区間(約一九・二キロメートル)については、現在の
横浜駅付近には線増する余地がなく、しかし他方において旅客線は私鉄等が集中し
ていて乗換え客が多い横浜駅をぜひとも経由させる必要があるので、貨物線を旅客
線に転用し、貨物線を別線として線増する。
右別線とする区間は、鶴見起点一・九キロメートルの地点から、横浜駅の北西部を
大部分トンネルで通つて現在の東海道貨物線品濃トンネル出口付近で右貨物線に併
設されるまでの約一三・七キロメートルの区間であり、右別線となる区間以外の部
分は現在線に併設して線増する。
(5) 戸塚から小田原までの区間(四三・〇キロメートル)のうち、戸塚から平
塚までの区間(約二二・九キロメートル)は、現在の貨物線を旅客線に転用すると
ともに、右貨物線に併設して新たな貨物線を線増し、平塚から小田原までの区間
(約二〇・一キロメートル)は現在の東海道本線に併設して線増する。
(二) 前記東海道本線東京・小田原間線路増設工事の昭和五三年六月末までの工
事進捗状況は次のとおりである。
(1) 東京から品川までの区間は全部完成し、昭和五一年一〇月から営業を開始
している。
(2) 新鶴見操車場人口から大船までの区間のうち、いわゆる別線以外の部分は
高架橋建設やレール敷設工事等もあと数日間の工事日数を残す程度にほとんど完成
している。
右別線部分については、トンネルや高架橋等の土木工事が既に完成している部分が
約九一パーセント(延長距離にして約一二・五キロメートル)、現に工事中の部分
が約四パーセント(同約〇・五キロメートル)、そして用地問題が未解決の理由の
ためにいまだ工事に着手できなかつた部分が約五パーセント(同約〇・七キロメー
トル)となつている。
(3) 大船から平塚までの区間
大船から平塚までの間(約一七・三キロメートル)については、貨物駅の新設工事
や駅舎の改良工事等は完成したが線増工事については、早期完成を必要とする東
京・大船の区間に引続いて着工する予定である。
(4) 平塚から小田原までの区間
平塚から小田原までの間(約二〇・一キロメートル)については、現在全線にわた
つて工事中であり、昭和五四年三月完成の予定である。
二 本件裁決の執行停止が公共の福祉に及ぼす影響
1 前述したところから明らかなように、東海道本線東京・小田原間のなかで最も
通勤、通学時の輸送力が不足している東京・大船間は貨物別線を除いて工事が完成
しており、また貨物別線についても、その用地問題が未解決な部分、すなわち、本
件裁決にかかる部分を除くと構造物の大部分は完成しているのである。そして、右
未解決部分について現在直ちに工事に着手したとしても、貨物別線の工事完成は昭
和五四年三月となる見込みであり、さらに、試運転等を行い開業したあと、現在の
貨物線の旅客線化工事を行い、試運転等を行つて東京・大船間の湘南、横須賀線の
分離運転が実施する運びとなるので、通勤、通学時の混雑緩和の実現ができるまで
にはなお相当の期間を要するのであり、当初開業予定の昭和四七年一〇月よりも大
巾な遅延となるのである。
なお、この工事が遅延していることに対し、沿線の住民の住民諸団体から神奈川県
議会に対し、早期完成を求める請願が相次いで提出され、神奈川県議会は、昭和五
二年一〇月一一日「横浜新貨物線建設促進に関する決議」を行なつたのである。
2 また東京・小田原間の線路増設工事に要する費用は、当初は約一、二五五億円
と見込まれていたが、
その後工事の長期化に伴う物価の騰貴等によつて最終的には約二、三五〇億円(そ
のうち貨物別線に関するものは約八〇〇億円)にも達するものと見込まれ、そのう
ち昭和五二年度末までに要した費用は約一、六九〇億円(そのうち貨物別線に関し
て要したものは約五五〇億円)である。そして、現在、右約一、六九〇億円のう
ち、東京・品川間の線路増設工事に要した約三八〇億円が一部有効利用されている
にすぎないのである。
3 このように万一、本件裁決の効力が停止されると限界を超えた通勤ラツシユが
なお長期間継続し、国民に多大の不便を強いることとなり、加えて起業者が建設し
た公共施設の活用が遅延することとなるものである。
他方、本件裁決の効力停止が認められなかつたとしても本件裁決の結果現に居住し
ている家屋等の移転を余儀なくされる者は本件申立人らのなかには皆無であり、右
申立人らの大多数は単に所有ないし占有している家屋の地下においてトンネル工事
が行なわれるにすぎないものである。
以上述べたことからも明らかなとおり、万一本件裁決の効力を停止することはまさ
に公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるものであつて、本件申立ては却下
されるべきものである。
(別紙五)(被申立人の追加意見書)
一 回復困難な損害がないことについて
1 収用明渡裁決について
(一) 申立人E関係
(1) 申立人Eが土地所有者であるとして本件収用裁決の対象とされたのは、
イ 四九収八号事件の
横浜市<地名略>
宅地 四六・五八平方メートル
同町一六番八
宅地 三・七九平方メートル
ロ 五〇収二〇号事件の
横浜市<地名略>
宅地 一五一・五六平方メートル
である。
(2) ところで、右イの土地は、右申立人が自から使用していたわけではなく、
申立外F及び同Gが建物所有等を目的として借地していたものである。
また、右ロの土地は、同様申立外H外一一名が建物所有を目的として借地していた
ものである。
したがつて、申立人自身の本件土地の実質的利用関係は、他人をしてこれを利用さ
せるにすぎないものである。
(3) そして、右申立人の右各土地の収用に対する補償としては、
土地収用法第六章及び公共用地の取得に伴う損失補償規準要綱の規定により起業者
が算出した見積り金額に同法第七一条に定める修正率を乗じて得た価格(四九収八
号事件においては金三六二万六、五〇〇円、五〇収二〇号事件においては金一、〇
三三万六、七〇七円)を計上して裁決しており、右補償金は右申立人の受領拒否の
ため、昭和五三年六月二三日付で横浜地方法務局に供託されている。
(4) したがつて、本件各収用裁決によつて、土地所有権が起業者たる申立外日
本国有鉄道(以下「国鉄」という)に移転し、その地上に鉄道高架部分が建設され
るとしても、現在の申立人の本件土地についての実質的利用関係によれば右申立人
に何らの損害も発生しないものである。
仮に何らかの損害が発生したとしても、それは土地の利用制限の損害であり、金銭
賠償により補償しうる損害であり、回復困難な損害とはいえない。
(二) 申立人B関係について
(1) 申立人Bが土地所有者であるかもしれないとして本件収用裁決の対象とな
つた土地は五〇収一九号事件の
横浜市<地名略>
宅地 二九五・一八平方メートル
である。
(2) ところで、右土地については、一、一三六分の一の持分権を右申立人又は
申立外Dが権利を有しているにすぎない。すなわち、右申立人は、右土地につき登
記簿上一、一三六分の一の持分を有する旨登記されているが、右登記は、いわゆる
一坪地主として本件工事に反対するため単に名前を連ねるだけの通謀虚偽表示に基
づくものであり、右申立人は真の権利者ではなく、真の権利者申立外Dは、右申立
人を被告として右登記抹消請求訴訟を提起し、一、二審とも裁判所により右請求が
認容されているのである(ただし、右申立人は東京高等裁判所に上告中である)。
しかも右申立人は、右土地を自ら使用しているわけではなく、右土地は、申立外I
ほか二名が賃借して使用していたものである。したがつて、申立人自身の本件土地
の実質的利用関係は、他人をしてこれを利用させるにすぎないものである。
(3) そして、右土地の持分権の損失の補償としては、右申立人が土地所有者と
確定した場合は右申立人に対し、金二万三、八七二円(前記同様の計算方式によ
る)と計上し裁決している。右補償金は、昭和五三年六月一三日付で横浜地方法務
局に供託されている。
(4) したがつて、
本件裁決により右土地の所有権が起業者に移転し、右土地上に鉄道の高架部分が建
設されるとしても、現在の申立人の本件土地についての実質的利用関係によれば、
右申立人には何ら損害が発生するとはいえないものであり、仮に何らかの損害が発
生しても金銭賠償で十分回復できるものであり、とうてい回復困難な損害とはいえ
ない。
2 横浜新貨物線反対同盟連合協議会(以下「反対同盟」という)の損害について
(一) 反対同盟が、本件申立ての当事者能力を欠き、また、不動産の所有権を取
得しうる人格を有しないことについては、すでに意見書で述べたとおりである。
したがつて、反対同盟が、五〇収一七号事件裁決に掲げる物件の所有者であるから
損害が発生する旨の主張はその前提を欠き理由がない。
(二) なお、右物件については、関係人不明としてではあるが、土地使用借権が
あると確定した場合には土地使用借権者に対し、前記同様金二万七、八五二円、物
件所有権があると確定した場合には、物件所有権者に対し、工作物移転の費用とし
て金二五万九、七一四円の損失補償を計上して裁決しており、右補償金は、昭和五
三年六月二八日及び同月一三日付で土地収用法第九五条第四項及び同法第九七条第
二項によりそれぞれ横浜地方法務局に供託されている。
したがつて、仮に反対同盟が右物件の所有者を確定すれば、右供託金を受領するこ
とにより補償されるのであり、また仮に右補償金額に不服があれば、起業者を被告
として損失補償の訴えを提起できる(土地収用法第一三三条)ものであつて、反対
同盟が何ら損害を蒙ることはないものである。
更に右物件は、鉄塔の骨組だけが現存するのみであり、現在居住使用されている形
跡は認められない。
したがつて、右物件移転により、反対同盟に損害が発生することはない。
ところで、仮に本件裁決が取り消された場合には、起業者は、原状回復の義務があ
るのであるから、本件裁決によりいつたん移転された物件を原状に回復することに
なるが、右回復に伴う損害は金銭賠償により十分回復できるものである。
(三) その余については、補助参加人の意見書を援用する。
(別紙六)(補助参加人の意見書)
申立ての趣旨に対する答弁
申立人らの申立てを却下する。
申立て費用は、申立人らの負担とする。
との裁判を求める。
○ 理由
第一 申立書中、申立理由に対する主張は、
被申立人の意見書を全部援用する。
第二 申立人らの昭和五三年七月一〇日付準備書面(別紙二)に対する反論
一 回復困難な損害の発生の主張中、3使用裁決についての反論
1 (一)申立人らは、その所有ないし居住にかかる家屋が存在する地下にトンネ
ルが掘削され鉄道が建設されるときは、騒音、振動その他の公害及び各種の環境破
壊が生ずることは必然であると主張するが、既に被申立人の意見書に述べられてい
るとおりトンネル区間の工事の施工に際しては振動、騒音は地表面において殆んど
感知し得ない程度のものであつて環境破壊が生ずることはないものである。
(二) また、完成後における貨物列車の運行によつて各種の被害が発生すると主
張しているもののようであるが、既に被申立人の意見書で述べられているとおり、
本件工事の起業地はその六七パーセントをトンネルとして計画されており、公害防
止に十分配慮されて路線が定められているのである。
更に、国鉄は、横浜市が別線部分の騒音、振動、日照について沿線住民に与える影
響を最小限度にとどめるためいわゆる「七項目」の諸条件を国鉄に申入れたのに対
し基本的に了解した旨の回答を行い、本件貨物別線の建設に当つては、環境整備な
らびに公害防止につき右「七項目」に掲げた諸条件を遵守して工事を施工してい
る。
(三) なお、「七項目」に示されている環境基準のうち騒音については、土被り
厚さが三・五メートル以上あればトンネル上部において五〇ホーン(A)を超える
おそれのないものであるところ、本件使用裁決地の土被りは既に被申立人の意見書
で述べられているとおり八・二メートルないし二五・九メートルであり、横浜市申
入れの五五ホーン(A)を超えることはないものである。
また、振動については土被り八メートル以下ではトンネル直上において基準値を超
えるとあるが、国鉄は中間答申(二ページ)に示されている軌道構造よりもさらに
振動防止に有効な軌道構造を採用することとしているのであるから、被申立人意見
書別表5に示されているトンネル土被りからして申立人らには、いずれも〇・三ミ
リメートル/秒を超える振動の影響を受けるおそれはないのである。
なお、「振動規制を行うに当つての規制基準値、
測定方法等及び環境保全上緊急を要する新幹線鉄道振動対策についての当面の措置
を講ずる場合のよるべき指針について」(報告)の三二ページによれば〇・三ミリ
メートル/秒の振動は補正加速度レベル(振動規制法ではこれを測定単位としてい
る)でいえば六〇dB(デシベル)である。
右報告書は、夜間において睡眠妨害等の影響を生ぜしめない公害振動の基準値を定
めているが (右報告三八ページ)、右夜間における基準値は六〇dBとなつてい
る(右報告七ページ)。
したがつて、本件工事完成後の列車の運行によつても、騒音、振動その他の環境破
壊が生ずることは必然であるとする申立人らの主張は、理由がない。
2 申立人らは、<地名略>地区におけるトンネル掘削工事により、付近の家屋に
地盤沈下等の被害が生じたことから申立人らの家屋について回復し得ざる甚大な被
害が発生するとしているが、以下に述べる理由により失当である。
(一) 申立人ら主張の被害(ただし、被害の程度は地盤沈下に起因する家屋の若
干の傾斜、壁の亀裂等で、申立人ら主張のような甚大な損傷ではない)が生じた地
域は、<地名略>地先の足洗川沿いの低湿地で極めて地質の悪い(ピート層)おぼ
れ谷になつている場所であるが、同所付近のトンネル掘削工事によりかなりの量の
漏水があり、その影響が足洗川流域に現われ、多少の地盤沈下を生じた結果であつ
た。右被害発生後、国鉄は工法について種種改良を加え引続き工事を実施している
が、その後は被害の発生を見ていない。そして、右被害については、国鉄は、応急
修理を行うとともに金銭補償により回復すべく鋭意努力中である。
なお、右工事区間には申立人らが取り消しを求めている本件裁決の対象地は皆無で
あり、申立人らの所有家屋に被害が発生した事実もない。
(二) これに対して申立人らが取消しを求めている本件使用裁決地は、いずれも
地盤も高く、地質は表土が関東ロームでその下は強固な三浦層となつており、地下
構造物はこの三浦層に構築されるものであり、前述の被害の発生源となつた工事地
域とは異なり、前述<地名略>地先の足洗川沿いの地域のように多量の漏水が予想
される場所ではない。
(三) そして申立人らが取り消しを求めている本件使用裁決の存する地域は、土
被り八・二メートルないし一六・七メートル、で、地質ならびに土被りの類似した
地域において、
同一の工法によりトンネルを掘削した結果何ら被害の発生した旨の申出がなかつた
ことは既に被申立人の意見書で述べられているとおりであり、本件使用裁決地の工
事により、家屋被害が発生するおそれはなく、<地名略>地先の足洗川沿いの工事
により多少の被害が発生したから本件使用裁決地の工事により申立人らの所有家屋
にも同様の被害が発生する旨の主張は理由がない。
二 公共の福祉に重大な影響をおよぼすおそれがあることについて
1 申立人らは、貨物別線の完成は通勤ラツシユ緩和とは全く無関係であると主張
するが、貨物別線の必要性については既に被申立人の意見書で述べられているとこ
ろであるが、申立人らの本準備書面の主張について反論すれば次のとおりである。
(一) 申立人らはラツシユの二時間(午前七時から九時までの間)の間に通る貨
物列車は七本にすぎない旨主張するが、例えば、同じ線上の新鶴見操車場・鶴見間
においては、横浜地区の港湾地帯等に接続している高島貨物線が合流することもあ
つて、右同時間帯に一四本も通るのであつて申立人らが主張するように単に列車本
数の少ないある特定区間のみを採り上げて問題とすることはできない。
また、通勤、通学客のラツシユ緩和のためには、貨物線の現行のダイヤをずらし
て、ラツシユ時間帯には通勤、通学電車だけを走らせることで十分である旨主張す
るが、貨物列車のダイヤは各地の操車場や積卸し駅等における操車作業等を全国的
に配慮した上決定されるものであり、しかも、東海道本線においては一日の貨物列
車の本数が片道約一五〇本以上にものぼるため単に一部区間に限つて、しかも特定
時間帯全部について貨物列車の運行を停止することはできない。
また、貨物列車をそのまま存続させて通勤電車を走らせることは実際上甚だ困難で
あり、もし、仮に極くわずかの本数が入るにしても、貨物列車の速度に影響され到
着時間が長くなるなどその利用効率はきわめて低くなるので極限状態に達している
混雑を緩和する効果は到底期待できない。
なお、過密ダイヤ区間においては、列車運転保安上及び効率的な列車設定計画上客
貨分離を行なうことが最も望ましく、申立人らの主張はかかる保安上の理由を無視
する暴論である。
(二) 申立人らは、貨物別線が完成したとしても、一つの島式ホームを上下線で
使用する以上、
通勤電車の運行可能回数が被申立人の主張するように四〇本になることはあり得な
い旨主張するが、電車の運転間隔は、線路構造、車両性能、保安設備、停車時分等
によつて決定されるものであつて、単にホームの形状のみによつて決定されるもの
ではない。
(三) 申立人らは、貨物別線が完成したとしても、現行の旅客線は、東京のビジ
ネスアワーに合わせたいわゆる優等列車優先に使われることになることが明らかで
ある旨主張するが、当該目的のための優等列車は既に東海道新幹線の運行により十
分その目的を達せられているとともに、現にラツシユアワー時には優等列車は運行
されていないのであつて申立人らの右主張は独善的推測といわざるを得ない。
また、申立人らは、新通勤線が川崎駅を迂回して通らなくなると主張するが、前述
したように新通勤線上に川崎駅に代る新鹿島田駅(仮称)を設置することとしてお
り、湘南電車は川崎駅に、横須賀電車は新鹿島田駅(仮称)にそれぞれ停車するこ
ととなり、通勤客の利便は倍加されることとなるのである。
(四) 申立人らは、横須賀線逗子駅にC・T・Cを設置し、本件貨物別線の完成
を前提として三割近い輸送力増強を図ると発表したとし、あたかも貨物別線の完成
により通勤輸送力が三割しか増強しないと主張するが、C・T・C設置は横須賀線
(大船~久里浜)の運転保安の近代化・経営改善のためのものであり本件工事完成
に伴う列車設定可能本数とは関係がないものである。
2 以上述べてきたように、本件貨物別線は通勤ラツシユ緩和のためには是非とも
必要な線路であることは明らかであつて、巨大なスクラツプ作りにすぎないとする
申立人らの主張は独断にすぎない。
また、本件工事を進捗させても既に被申立人の意見書で述べられているとおり、収
用部分の土地所有者関係人に何ら損害を与えることなく、また、使用部分について
も今後の工事によつて家屋に損傷を与えるおそれはなく、たとえ、何らかの損傷が
発生しても、補修可能な程度であるから日常生活が阻害されるということはあり得
ないのである。
また、申立人らは、貨物別線が完成し開業すれば、沿線住宅に与える被害は想像す
ら出来ないものになると主張するが、既に述べたとおり最小限度の影響にとどめる
ように横浜市から提示された環境基準を守るべく国鉄は種々の施策を実施している
のであるから、申立人らの右主張は理由がない。
現行ダイヤでは、申立人らのいう時間帯には横浜駅付近で上り貨物列車及び下り貨
物列車合わせて全体の三七パーセントが通過しているが、貨物別線の環境基準は貨
物列車は夜間も昼間とほぼ同一頻度で運転される現実をふまえて定められているの
である。
また、申立人らは、武蔵野南線(以下「南線」という)の事例をとりあげて開通後
は環境等が根底から破壊されるとしているが、貨物別線では、南線で施工されてい
ない騒音及び振動防止の軌道構造、高防音壁(一部では全覆工)、緩衝地帯等を設
けるなど事情が異なることを無視した主張である。
なお、南線の実績の振動についての測定結果は、公害用振動計とペン書きオツシロ
グラフを用いて通過する列車ごとに地表面において、振動速度を波形記録して求め
たものとされている。ところが、「振動規制を行うに当つての規制基準値、測定方
法等及び環境保全上緊急を要する新幹線鉄道振動対策について当面の措置を講ずる
場合のよるべき指針について(報告)」(昭和五一年二月二八日中央公害対策審議
会騒音振動部会振動専門委員会)によれば測定の計器、方法及び振動の評価等につ
いては、次のように定めている。
(1) 測定の単位には、鉛直振動補正加速度レベル(デシベル)を用いる。
(2) 測定計器は、公害用振動レベル計(仮称)又は同等以上の性能を有する振
動計を用いる。
(3) 測定値は、原則としてメーターの指示値とするが、メーターと同等の指示
をうるため記録計等を用いることも可とする。
(4) 指示計器の動特性は、人体の振動感覚の対応性がよいスロー(遅い動特性
として一秒の特性)とする。
(5) 測定は、上り及び下り列車合せて、原則として連続して通過する二〇本の
列車について、当該通過列車ごとの振動のピークレベルを読みとり、そのうちの大
きさが上位半数のものを算術平均して振動の評価を行うものとする。
疎甲第一九号証に示されている川崎市が測定を行つた場所において、鉄道建設公団
が右で示した方法のうち測定単位を振動速度として測定した結果によれば、トンネ
ル部分では土被り八メートル以上の地表面においては振動が〇・三ミリメートル/
秒を超えている地点はない。
したがつて、本件裁決地中申立人らの所有建物の所有地は、土被り八・二メートル
ないし二五・九メートルであるので、
仮に貨物別線に南線と同じ鉄道構築物を構築したとしても横浜市の提示した振動基
準を超えるものではない。
三 右準備書面のその余の申立人らの主張については、被申立人の意見書を援用す
る。
(別紙七)
国鉄新貨物線別線部分に係る環境整備ならびに公害防止の諸条件について
1 別線対策組織などに対する協力について
日本国有鉄道は、今後とも別線部分沿線住民の環境整備ならびに公害対策につい
て、横浜市および地元の別線対策組織(以下「地元」という。)とじゆうぶんに協
議されたい。
2 環境基準について
騒音、振動、日照について、沿線住民に与える影響を最小限度にとどめるため、日
本国有鉄道は、別線の沿線地域にあつては、次の目標値によられたい。
(1) 騒音
沿線地域に与える影響を五五ホーン(A)以下にとどめられたい。
(2) 振動
沿線地域に与える影響を〇・三ミリメートル/秒以下にとどめられたい。
(3) 日照
沿線地域に対して、冬至に三時間以上を確保されたい。
(4) 地形その他の関係にもとづく特殊な環境については、横浜市および地元と
協議のうえ、適切な措置を講ぜられたい。
3 軌道構造について
高架部分、平地部分およびトンネル坑口付近については、効果的な遮音効果のある
構造とし、箇所によつては有蓋構造を考慮されたい。なお、美観についてもじゆう
ぶん配慮されたい。
4 ダイヤ編成および試運転時の手直しについて
列車運行については、ダイヤ編成上特段の配慮をはらわれるとともに、試運転段階
において騒音、振動などの影響が予測される場合は、横浜市および地元と協議し、
必要な手直しを行なわれたい。とくに、午後一一時から午前六時までに通過する列
車本数の削減を図るとともに、速度も時速五〇キロメートル以下とされたい。 
 ゛
なお、ダイヤについては、横浜市および地元に提示されたい。
5 監視および測定について
(1) 日本国有鉄道は、横浜市の要請により沿線の騒音、振動、日照、列車速度
などを測定せられ、そのデータを公表されたい。
(2) 横浜市および地元によつて、独自に測定が行なわれる場合においては、横
浜市の要請によつて、日本国有鉄道はこれに協力されたい。
6 環境整備について
日本国有鉄道は、騒音、振動などの影響を考慮し、横浜市および地元と協議して、
緩衝地帯を設けられたい。また、
その利用についても同様に横浜市および地元と協議されたい。この際、ガケくずれ
防止、公園、子どもの遊び場、集会施設、緑地、側道などの設定および道路、下水
道などの整備については、日本国有鉄道としても最大限の努力をされたい。
なお、横浜市としてもじゆうぶん配慮するものである。
7 その他
(1) 建設中および建設後をとわず、今後も生ずる環境の破壊、たとえば電波障
害、地盤沈下、井戸水の涸渇などの損害が生じた場合は、万全の対策をとられた
い。
(2) 運行開始後、沿線地域に損害が生じた場合、日本国有鉄道は、ただちに調
査を行ない、即時、その解消を図られたい。これらに要する費用ならびに公害補償
については、日本国有鉄道の負担とされたい。
(3) 工事中の公害、災害防止については、横浜市および地元と協議のうえ、じ
ゆうぶんな対策を講ぜられたい。
(4) 工事中といえども、東海道線の混雑緩和については、日本国有鉄道におい
て努力されたい。
(5) 別線部分については、将来、貨物専用線でなく、旅客との併用線として計
画され、既設鉄道との交差位置には、駅の設置などを考慮し、相互利用ができるよ
うにされたい。
(6) 別線部分の建設にあたつて補償が必要となる沿線住民に対しては、納得し
うる補償を行なわれたい。
(7) その他重要な問題については、横浜市および地元とじゆうぶん協議された
い。
(裁決目録等 省略)
以上

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