弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人両名をそれぞれ禁錮二月に処する。
     被告人両名に対しそれぞれこの裁判が確定した日から一年間その刑の執
行を猶予する。
         理    由
 本件控訴の趣意は検察官が提出した控訴趣意書に記載されたとおりであり、これ
に対する答弁は弁護人東城守一、同久保田昭夫、同山本博が連名で提出した答弁書
に記載されたとおりであるから、いずれもこれを引用し、当裁判所は次のとおり判
断をする。
 控訴趣意第一の二について。
 論旨は、原判決は、被告人AのB巡査に対する公務執行妨害の訴因事実中、同被
告人が同巡査着用の制服の襟元を掴んで引張り、ボタン三個をもぎ取つたとの点に
ついては、証明が十分でないと判示したが、右の事実を認めなかつた原判決には判
決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認がある、というのである。
 よつて検討するのに、本件の訴因は公務執行妨害であつて器物損壊ではないので
あるから、要するに問題は被告人AがB巡査着用の制服の襟元を掴みボタンがちぎ
れるほど強く引つぱつて同巡査の身体に暴行を加えた事実があるかどうかという一
点に帰着するものであるところ、一件記録を精査すると、この点につき原判決の説
示するところは首肯するに足り、なお当審における事実の取調の結果を加えて考え
てみても右の暴行の事実を認定するのにいまだ十分ではない。しかも、そればかり
でなく、右の事実は原判決が有罪と認定した同巡査のネクタイを引つぱつてその首
を絞めかつその左下腿部を蹴り上げた暴行の事実とあわせて包括一罪をなすものと
して訴因とされているのであるから、その一部である所論の暴行が認められるか否
かはもともと判決に影響を及ぼすことが明らかであるともいえないのである。それ
ゆえ、いずれにしてもこの点の論旨は理由がない。
 控訴趣意第一の一および第二について。
 論旨は、要するに、原判決は、被告人両名を含む本件ピケ隊がピケツトを張つた
行為は威力業務妨害罪を構成するものであることを肯定しながら、その際の客観的
情勢においては、警察官がピケ隊に対して実力行使をすることができる警察官職務
執行法五条後段所定の要件が存しなかつたとし、警察官の本件実力行使は適法な職
務執行と認められないと判示しているけれども、本件の場合入局しようとする局職
員またはこれを阻止しようとするピケ隊員らの身体に対し危険のおよぶおそれのあ
る客観的状況が生じていたことは証拠上明白であり、警察官職務執行法五条後段の
要件を具備していたことが明らかであるにもかかわらず、その点を誤認してB巡査
らの職務執行を違法な行為であるとし、被告人らの同巡査らに対する暴行につき公
務執行妨害罪の成立を否定し、正当防衛であるとして被告人両名に無罪を言い渡し
た原判決には重大な事実誤認および法令の解釈適用の誤りがある、というのであ
る。
 そこで、これに対する判断に先だち、まず本件訴訟の経過をみてみるのに、原判
決は被告人らの本件ピケツテイングの違法性を検討したうえ、右は一般民間企業に
おける労働組合の争議行為としては許される範囲内のものであるが、本件争議行為
は公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項により禁止され
たもので、かかる争議行為については労働組合法(以下「労組法」という。)一条
二項の適用の余地がないから、本件ピケツテイングは威力業務妨害罪を構成すると
し、ただ本件の場合警察官の実力行使は警察官職務執行法(以下「警職法」とい
う。)五条の要件を欠いていて適法な職務行為とはいえないので、被告人らのこれ
に対する暴行行為は公務執行妨害罪にあたらないばかりでなく、正当防衛として暴
行罪の成立も認められないとして無罪を言い渡した。これに対し差戻前の控訴審判
決は、同じく公労法一七条違反の争議行為に労組法一条二項の適用がないことを理
由に本件ピケツテイングにつき威力業務妨害罪の成立を認め、警察官の実力行使の
適法性に関しては、右は警職法五条後段の要件を充たすばかりでなく、本件実力行
使の際は威力業務妨害の違法状態が継続していたのであるから、ピケ隊員引き抜き
行為は現行犯たる威力業務妨害行為に対する鎮圧行為として適法な職務行為である
として被告人両名に公務執行妨害罪の成立を認めたのである。ところが、上告審で
ある最高裁判所大法廷は、本件ピケツテイングが威力業務妨害罪を構成するとの前
示判断に関し、最高裁判所昭和三九年(あ)第二九六号同四一年一〇月二六日大法
廷判決(刑事二〇巻八号九〇一頁。以下「C事件判決」という。)を引用したう
え、公労法一七条一項に違反してなされた争議行為にも、労組法一条二項の適用が
あるものと解すべきであり、公労法一七条一項に違反するというだけの理由で、た
だちに本件ピケツテイングを違法であるとした右の判決は法令の適用を誤つたもの
であるとして、これを破棄し本件を当裁判所に差し戻したのである。
 したがつて、以上の経緯にもかんがみれば、被告人両名を無罪とした原判決の当
否を審査するにあたつては、まず、本件ピケツテイングの違法性すなわちそこに威
力業務妨害罪の成立があるかどうかを考え、次に本件警察官の実力行使たる引き抜
き行為の適法性ないしはそれが刑法上保護に値する職務行為であるかどうかを考え
てみなければならない。
 一 本件ピケツテイングの違法性について。
 (一) まず、本件における争議の経緯ならびにその際の被告人らの行動につい
てみるのに、原判決が第二の一の(一)、(二)および第二の二の(一)、(二)
に挙示する各証拠および当審における事実取調の結果を合わせ考えると、(1)D
組合は、昭和三三年一月開催の中央委員会および同年二月開催の戦術会議により、
同年のいわゆる春季闘争の一環として、一律に二、四〇〇円の賃金値上げを主な要
求項目として要求七項目を掲げ、新賃金引上げに関する公共企業体等労働委員会の
調停進行の状況を考慮して同年三月二〇日前後に全国各地の統轄局においてそれぞ
れ勤務時間内食い込みの職場大会を開催する闘争方針を決定し、D横浜郵便局支部
(支部長E)に対しても同年三月一七日にD神奈川地区本部を経由し、闘争指令第
三七号をもつて三月二〇日午前八時三〇分から同一〇時三〇分までの二時間勤務時
間内食い込み職場大会の開催を指令したのであるが、当時時間内職場大会は郵便法
七九条に違反するので刑事罰の対象にもなるとの大臣通達が発せられており、横浜
郵便局長をはじめとするいわゆる管理者側は右通達を掲示するとともに同局支部あ
て文書で警告するなどの措置をとつており、支部組合員には刑事罰の対象となるよ
うなことまでして組合活動をすることには消極的意見が強かつたので、同支部は右
職場大会の開催を拒否して前記指令を返上するとともに同支部執行委員は全員右役
職を辞するに至つたこと、(2)そこで、前記地区本部は右事態に対処し、同地区
本部の責任において右闘争指令を実施するため、横浜郵便局内に、右地区本部執行
委員その他上部機関役員らで構成する臨時闘争指導部(以下「臨闘」という。)を
設け、あくまで前記三月二〇日の勤務時間内二時間食い込み職場大会の開催を企図
し、同局支部組合員に対し前記指令に基いて右闘争の指導にあたるとともに、Fに
対し、当日横浜郵便局員の就労を阻止するためのピケツト要員の支援動員方を要請
したこと、(3)他方横浜郵便局の管理者側においては、局員の就労を図り業務の
正常な運営を確保するため、できる限り多数の職員を掌握し、ピケ隊との摩擦を避
けつつ入局させる方針をたてるとともに、ピケ隊によつて入局が阻止されることを
おもんばかり、同月一九日同局長G名義の文書をもつて、所轄加賀町警察署長あて
に警官出動を要請し、当日ピケ隊により局職員の入局が阻止された場合には右郵便
局の業務運営確保のためこれを排除してほしい旨の依頼をしたこと、(4)翌三月
二〇日午前七時前後ころにはFの動員したピケツト要員一〇〇名前後が右郵便局職
員通用門および他の二つの出入口にピケツトを張り、午前八時ころにはその数約二
〇〇名位に達し、被告人らを含む多数のF傘下の労組員が職員通用門を中心として
厚いいわゆるマス・ピケを張り、スクラムを組んだり、労働歌を高唱するなどして
気勢をあげ、局職員の入局を極力はばむ態勢を示していたこと、なお、組合側から
は午前七時すぎには管理者の通用門の出入りをも一切禁止する旨の放送がなされ、
また午前七時に出発予定の速達一号便もピケ隊がその通行に容易に応じなかつたた
め午前八時一五分ころ漸く出局する状態であつたこと、そして午前八時三〇分に就
労予定の一般内勤局員は当日午前七時ころから出足よく出勤してきたが、ピケ隊と
の衝突をさけ、前記通用門東隣の神奈川県庁分庁舎前歩道上にたむろして形勢をう
かがうような形になつていたので、管理者側は各課ごとに局員の掌握につとめ、午
前八時三〇分前後にはその数も約一五〇名位に達していたこと、一方臨闘側は組合
員を横浜公園に誘導して職場大会を開催することを意図していたが、右誘導は困難
な状況になつたので、前記通用門前に集つた支部組合員、ピケ隊員を対象に職場大
会を開催することを決し、午前八時二〇分前後から労働組合宣伝カーの上から各議
員、H党代表、F幹部等の挨拶、激励演説等を始め、その状態はほとんど実力行使
による警官の介入直前まで続くに至つたこと、他方警官側は同日午前七時ころ郵便
局付近の神奈川県庁中庭に一個小隊(約三五名)が待機していたが、午前八時四〇
分ころにはさらに三個小隊の警官と警察広報車一台が出動し、現場においてピケ隊
と相対峙するとともにピケ隊に拡声機を通じ、出勤する職員をピケツトで妨害する
ことは威力業務妨害罪になるからピケツトを解くように数次にわたり要求したが、
ピケ隊はこれを拒否して応ぜず、そのころ局側管理者である横浜郵便局次長Iは一
部の課長とともに一部局員の先頭に立つて二、三回ピケ隊に身体ごと接触して入局
しようと試みたが、ピケ隊に強く拒否され、押返されてその目的を達しない状況で
あつたこと、午前九時前後ころ臨闘側は警察側の実力行使が行なわれた場合に警
察、ピケ隊両者間に不測の実態の生ずることを懸念するとともに横浜郵便局支部の
組織の弱さをも考え合わせ、この辺が潮時と局長と臨闘側代表者とのトツプ会談を
もつて事態収拾を計ろうとし、その方針をマイクで放送するとともに警察側にも申
入れを行ない、地区本部のJ書記長から局外にいるI次長を通じて局長にその旨申
入れたが、局長はピケを解かない限り話合には応じられないとの態度を堅持してこ
れに応じなかつたところから、臨闘側代表者およびI次長は当時職員通用門はピケ
隊にはばまれて通行できなかつたため公衆室脇通路から局内に入り、局長に面会を
求めたが、臨闘自体を否定してその話合いに応ずる意思のない局長は姿を見せず、
午前九時一〇分ころ局側から話に応ずる意思はないので警察力によつてもピケを排
除してほしい旨の要請が警察側になされ、ついにK警備本部長は管理者側の度重な
る要請もあつたため現地指揮者L機動隊長に実力行使を命じ、午前九時二〇分ころ
同隊長は隊員に実力行使の命を下すに至り、かくてスクラムを組み座り込んでこれ
に抗議するピケ隊員の引き抜きが警察官により順次行なわれ、約二〇分間でピケ隊
が排除されるに至つたこと、(5)そして、前記のようなピケ隊によるピケツテイ
ングの結果、就労を希望する多数の組合員たる局職員が午前八時三〇分よりピケ解
除に至るまで入局することができず、その結果各人の業務が妨害され、それに伴い
各種の郵便業務が妨害されるに至つたこと、がそれぞれ認められる。
 (二) そこで、右認定の事実関係を前提として、本件ピケツテイングの違法性
を考究するについては、まず、順序として、本件勤務時間内二時間食い込み職場大
会そのものの違法性について一応検討しておく必要があるわけであるが、公共企業
体等の職員の争議行為を禁止した公労法一七条一項が憲法二八条に違反するもので
ないことは前記C事件判決の示すとおりであるところ、右の職場大会への参加は、
組合の要求達成の一手段として組合員が勤務時間中にいつせいに職場を離脱しその
間集団的に労務の提供を停止するものにほかならないから、まさしく同盟罷業の一
種であることは疑いなく、また、その同盟罷業の時間は二時間という比較的短いも
のであるとはいえ、郵便業務が今日国民の生活に必要欠くべからざるものであつて
公共性がきわめて強く、その僅かな遅延でもとり返しのつかぬ損失を与える場合が
あり、その職務の停廃は国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるものである
ことを考えると、右の二時間の同盟罷業もまた明らかに公労法一七条一項の禁止す
る争議行為にあたり、したがつて違法なものであるといわざるをえない。
 (三) 次に本件ピケツテイングの違法性について考えてみるのに、基本となる
争議行為(本件においては勤務時間内食い込み職場大会と呼ばれる同盟罷業)が右
のように公労法一七条一項の禁止に違反する違法なものである以上、これを実効あ
らしめるために行なわれるいわゆるピケツテイングもまた事の性質上違法であるこ
とは認めざるをえないところである。しかしながら、その争議行為が公労法一七条
一項の規定に違反し違法であるからといつて、それは当然にいわゆる可罰的違法な
のではなく、この行為にも労組法一条二項の適用の余地があつて、同条項に該当す
るかぎりこれに対して刑事罰を科することがきないことは前記C事件判決および本
件差戻判決の趣旨とするとおりあるから、かかる争議行為に伴うピケツテイング
も、それが労組法一条二項にいう「正当なもの」すなわち相当な範囲内のものであ
る以上は、前記のように違法ではあるにしても、その違法性は刑罰を科するに足る
だけの程度に達しないものと解するのが相当である。ところで、本件についてみる
のに、原判示の争議行為である勤務時間内食い込み職場大会は、前認定のようにそ
の目的は労働者の経済的地位の向上を主眼とするものであり、政治目的のためにな
されたストライキだとはいえず、またそれ自体は暴力を伴うものでなく、不当に長
期にわたるものでもないことなどに照らせば、労組法一条二項にいわゆる「正当な
もの」ということができるのであつて、可罰的違法性を帯びるものであるとはいえ
ない。しかし、いうまでもなく、基本となる争議行為(たとえば同盟罷業)は違法
でなく、あるいは可罰的違法を欠く場合であつても、これに付随して行なわれるピ
ケツテイングがつねに同様であるということはできず、その態様いかんによつては
違法ないし可罰的違法であることは十分考えられるのであるから、本件において
も、ピケツテイングの違法の程度のいかんは、それ自体としてまた別個に諸般の事
情を考慮したうえ判定されなければならないところに属する。
 (四) よつて、進んで本件ピケツテイングの違法の程度について考察すると、
ピケツテイングが相当性の範囲内にあるか否かは右に述べたように諸般の事情を考
察することによつて決せらるべきものであるが(最高裁判所昭和二七年(あ)第四
七九八号同三三年五月二八日大法廷判決、刑集一二巻八号一六九四頁等参照)、そ
の諸般の事情としては、ピケツトの相手方のいかんないしはその立場が重要なもの
として考慮される必要がある。そこで、この点につき検討してみるのに、公共企業
体等の職員および組合は公労法一七条一項により争議行為を禁止されているのであ
るから、組合自身も組合員もこれを行なつてはならない義務を負つているこという
までもない。それゆえ、組合としては組合員に対して同盟罷業への参加を強制する
ことのできない筋合いのものであり、これを組合員の側からいえば、各組合員は、
法に従うべきであるという建て前からも、また自らが解雇等の民事責任を負わない
ためにも、組合の指令にもかかわらず、同盟罷業に参加することなく就業する業務
を負うとともに権利を有するものである。いいかえれば、公共企業体等の組合がた
とえば同盟罷業の決議をしても、その決議は違法であつて民間企業の組合の場合の
ように組合員に対し法的拘束力をもつものではなく、組合員としてはその決議に従
わずに就業しても、特段の事由のないかぎり組合の統制に対する違反ないしはいわ
ゆる裏切りの問題は生じないと解すべきである。したがつて、これに対するピケツ
テイングの態様、程度も、組合員が組合の同盟罷業の決議に従う義務のある民間企
業の場合と趣きを異にするのであつて、公共企業体等の組合としては、同盟罷業の
決議に従わず就業しようとする組合員に対し、同盟罷業に参加するように平和的に
勧誘または説得するのはピケツテイングとして相当な範囲内のものということがで
きるが、その程度を越え実力またはこれに準ずる方法を用いて組合員の就業を阻止
することは、他にこれを相当ならしめる特段の事情の存在しないかぎり、相当な限
度をこえるものとして許されないといわなければならない。ただ、このように考え
ると、その結果民間企業ならば許される程度のピケツテイングであつても、公共企
業体等の場合は許されないものが生ずることになるが、これは、その相手方たる組
合員の立場の相違が諸般の事情の重要なものとして考慮される結果にほかならない
のである。そして、ピケツテイングが右の相当な限度を越えた場合においては、す
でに労組法一条二項にいわゆる「正当なもの」ということはできす、その行為が刑
法二三四条の構成要件に該当するかぎり同条によつて処罰さるべきいわゆる可罰的
違法性を有するものとみることができる(これに対し、最高裁判所昭和四二年
(あ)第一三七三号同四五年六月二三日第三小法廷決定、刑集二四巻六号三一一頁
は、公共企業体等に準ずる地方公営企業の労働組合の同盟罷業に際し、これより脱
落した組合員の運転する市電の前に約四〇名の組合員が立ちふさがり、これを腕力
で排除しようとした当局側の者ともみ合つた行為を正当な行為にあたるとしている
のであるが、右の事件においては、従来の経緯特に当局側の誠意を欠く態度から組
合がやむなく同盟罷業に踏み切つたものであることが特段の事情として判示されて
いるところからみると、当該同盟罷業の違法の程度が低いこと、したがつてまた市
電の運転に当たつた脱落組合員の裏切り的性格が比較的強いことにかんがみ、行為
の態様および実質的に私企業とあまり変わりない市電の乗客のいない車庫内のでき
ごとであつたことなどの事情をもあわせ勘案してそのピケツテイングの相当性を認
めたものと解すべきであつて、にわかにこれをかかる特別の事情のない一般の場合
に及ぼすべきでないことは、同決定が「このような行為は、それが争議行為として
行なわれた場合においても、一般には許容されるべきものとは認められない。」と
説示していることからみても明らかである。)。
 <要旨第一>(五) そこで、以上の見解を前提として本件のピケツテイングの違
法性をみるのに、まず本件の同盟罷業については特にこれを一般の場合
と違つて違法でないとしまたは違法性が微弱であるとするだけの事由は発見するこ
とができず、そうしてみると、横浜郵便局支部が同盟罷業の性質を有する勤務時間
内食いこみ職場大会開催の指令を違法であるとして拒否し指令返上の挙に出たこと
も、同支部所属の各組合員が原判示当日出勤就業しようとしたことも正当な行為で
あつて、組合側としてその入局を実力を用いてまで阻止することを正当ならしめる
特段の事情があつたものとは認められない。そして、他方本件のピケツテイングの
態様をみると、前に認定したところから明らかなように、組合員の入局、就業を一
切認めないのはもとより、その他の者の出入をも認めない態勢にあつたということ
ができ、そのことは速達一号便がなかなか出発することができなかつた事実、局側
管理者の出入りをも禁止するとの放送がなされた事実、警察側介入に近い終りのこ
ろには臨闘側代表者すら職員通用門からの入局を阻止された事実などからも認める
ことができる。そして、その阻止の方法としては、前記のように多数のピケ隊員に
より厚いピケツトが張られていたことからみても、ことには局側管理者Iらが現に
一部組合員を率いて身を挺して入局しようと二、三度試みたがピケ隊に押し返され
て失敗した事実からみても、単に勧誘または説得によつて入局を断念させようとい
うようなものではなく、実力をもつてあくまでもその入局を阻止しようとするもの
であつたと認めざるをえない。そうであるとすれば、公共企業体等の同盟罷業であ
る本件の場合において、前に説明したように特にこれを相当とする事情の認められ
ない以上は、右のピケツテイングは相当性すなわち労組法一条二項の正当性の範囲
を逸脱するものであること明らかだというべきであり、それが刑法二三四条所定の
「威カヲ用ヒ」たものにあたることは疑いなく(証拠によれば、入局就業しようと
して通用門前に参集した一般組合員の大部分は現実にピケツトラインに身を以て接
触したわけではない。しかし、前記のようにピケツテイングの態様をまのあたりに
見て入局することを断念していたのであるから、その入局しなかつたことがピケ隊
の威力行為によるものであることは明らかである。)、右の不法な威力行使の結
果、入局就労しえなかつた組合員の業務およびこれに伴う局の業務が現に妨害され
たことも明らかであるから、右の場合に威力業務妨害罪が可罰的違法性あるものと
して成立することは肯認されなくてはならない。
 二 公務執行妨害罪の成否特に職務執行の適法性について。
 一件記録によれば、前記のように警察官によるピケ隊員の引抜きが行なわれた
際、ピケ隊のうちにあつた被告人Aが同被告人を引き抜こうとした機動隊員巡査B
に対し、そのネクタイを引つぱつて首を絞め、さらに同人の左下腿部を蹴り上げる
等の暴行をし、また、同じくピケ隊のうちにあつた被告人Mが同様ピケ隊の排除を
なしつつあつた巡査Nに対し、同人の左下腿部および左大腿部を足蹴りにするなど
の暴行を加えたことが認められるところ、原判決は、すでに引用したように、本件
において被告人らを含むピケ隊による威力業務妨害罪が成立しかつ継続しているこ
とはこれを認めたが、警察官の被告人らに対する本件実力行使は警職法五条の要件
をみたさないから違法であり、結局適法な職務行為とはいえず、公務執行妨害罪は
成立しないと解するのである。
 <要旨第二>しかしながら、警職法五条は犯罪がまさに行なわれようとするのを認
めたときに警察官に対し警告ないしは制止の権限を認めた規定であつ
て、まだ犯罪が行なわれない前の段階を対象としたものであるから、進んで犯罪が
現に行なわれている場合にもこの規定がそのまま適用されると解するのは相当でな
い。けだし、同条が警察官の介入につき厳格にその要件と限度とを規定しているの
は、まさにそれが行なわれようとしているにもせよ。まだ犯罪が現に実行されてい
ない段階のことであるから、基本的人権保障のためこれを明定する必要があるから
と解せられるが、これに反し現に犯罪が実行されている段階に立ち至れば、これを
阻止するのは公共の秩序の維持に当たる警察の当然の責務であるし、またこの場合
には現行犯として行為者を令状なしに逮捕することすら認められているところから
みても、あえてその要件ないし阻止行為の態様を限定するまでのこともないため、
別段の規定を設けなかつたものと解されるからである。それゆえ、すでに犯罪が現
に実行されている段階においては、警察官としては当該犯罪を鎮圧阻止するために
必要と認められる限度において、しかも憲法に保障する個人の権利および自由を不
当に侵害し権利の濫用にわたらないがぎりは、犯人に対し犯罪の実行をやめさせる
ため強制力を行使することが許され、この場合においては特に警職法五条後段の要
件を必要としないものと解するのが相当である。
 ところで、本件についてこれをみるに、前記のように被告人らを含むピケ隊によ
る威力業務妨害罪が成立し、現にその犯罪が行なわれつつあると認められるのであ
るから、被告人らに対して右犯罪を鎮圧排除するための手段としてなされたB巡
査、N巡査の本件引き抜き行為は、警職法五条の要件を充足するか否かにかかわり
なく、これをなしうるところであるというべく、労働争議に際しての警察の介入
は、公共企業体等の場合であるにせよ、労働基本権尊重の根本精神に照らし、また
労働争議における集団性、流動性等の特質にかんがみても、不当な干渉にならない
ように特に慎重でなければならないのであるが、本件においては、前認定のような
警察が実力行使をするに至つた経過に徴すれば、警察の本件における実力行使がそ
の権限を濫用したもので違法なものであるとは考えられない。
 してみれば、B巡査、N巡査の各被告人に対してした前記実力行使は刑法上保護
に値する適法な公務の執行であるということができ、その公務執行に対してなされ
た被告人両名の前認定の暴行行為はいずれも公務執行妨害罪を構成すること明らか
であるというべきである。
 しかるに、B巡査らの本件における実力行使を警職法五条による適法な職務行為
にあたらないとの理由によりこれに対しては公務執行妨害罪の成立する余地なく、
被告人らの暴行は正当防衛にあたるとして被告人両名を無罪とした原判決には判決
に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈適用の誤りを犯した違法があるものであ
つて、原判決はこの点において破棄を免れない。したがつて、右職務行為が適法で
あると主張する論旨は結局理由があることに帰する。
 以上の次第で、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇
〇条但書により次のとおり自判する。
 (罪となるべき事実)
 被告人Aは、F事務局員、被告人MはOP労働組合員であつた者であるが、D組
合は、昭和三三年三月一七日D神奈川地区本部を経由してD横浜郵便局支部に対
し、春季闘争の一環として同月二〇日午前八時三〇分から勤務時間内二時間食いこ
み職場大会を開催することを指令したところ、同郵便局支部(支部長E)は、右職
場大会の開催を拒否し、同指令を返上するとともに同支部執行委員が総辞職したの
で、前記地区本部はこれに対処し、横浜郵便局内に右地区本部執行委員らで構成す
る臨時闘争指導本部を設けてあくまで右職場大会を開催することを企図し、同支部
組合員に対し前記指令に基いて右闘争の指導にあたるとともに、Fに対し当日右郵
便局員の就労を阻止するためのピケツト要員の支援動員方を要請した。かくて同年
三月二〇日午前八時ころにはすでに、被告人両名を含む同F傘下の各労働組合員約
二〇〇名が横浜市中区日本大通五番地横浜郵便局通用門前路上にほぼ数列から成る
ピケツトラインを張り、スクラムを組んだり労働歌を高唱するなどして気勢をあげ
て同局職員らの出勤を阻止する態勢を示すに至つたので、出勤してきた組合員であ
る局職員もあえて局内に入ることができす、現に内勤職員の出勤時間である午前八
時三〇分すぎには同郵便局次長Iをはじめ課長らが組合員である一部局職員の先頭
に立ち、再三身を挺してピケツテイングを排除して入局就労しようとしたにもかか
わらず、ピケ隊員はこれを押し返して強く阻止し、不法な威力を用いて入局就労を
希望する組合員および同郵便局の業務を妨げるに至つた。そこで、同郵便局長Gの
要請により出動していた神奈川県警察本部機動隊約一〇〇名は、被告人らを含むピ
ケ隊員に対し数次にわたり違法なピケツトを解除すべき旨の警告をしたが、ピケ隊
はこれを無視して応ぜす、同郵便局通用門付近において座り込みを開始するに至つ
たので、同郵便局からの度重なる要請もあり、ついに同日午前九時二〇分ころから
実力をもつて右違法なピケツトを排除しようとしたのであるが、その際、
 第一 被告人Aは、同日午前九時三〇分ころ、同所においてピケ隊の引き抜きを
始めた同機動隊員巡査Bに対し、同人のネクタイを引つぱつて首を絞め、さらに同
人の左下腿部を蹴り上げる等の暴行をし、
 第二 被告人Mは、同日午前九時二五分ころ、同所においてピケ隊員の引き抜き
を始めた同機動隊員巡査Nに対し、同人の左下腹部および左大腿部を足蹴にする等
の暴行をし、
 それぞれ右両警察官の職務の執行を妨害したものである。
 (証拠の標目)(省略)
 (法令の適用)
 被告人両名の判示所為は各刑法九五条一項にあたるので、いすれも所定刑中禁錮
刑を選択し、その刑期の範囲内で被告人両名をそれぞれ禁錮二月に処し、情状によ
り被告人両名に対し同法二五条一項を適用し、いずれもこの裁判が確定した日から
一年間その刑の執行を猶予することとし、原審および当審における訴訟費用は刑訴
法一八一条一項但書により全部被告人両名に負担させないこととして、主文のよう
に判決をする。
 (裁判長裁判官 中野次雄 裁判官 寺尾正二 裁判官 粕谷俊治)

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激動の時代に
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