弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人Aに関する原判決を破棄する。
     被告人Aを懲役三年に処する。
     被告人Aに対し当審昭和三十年(う)第四一八号事件の原審における未
決勾留日数中九十日を右本刑に算入する。
     押収に係る受理証一通(東京高等裁判所昭和三十年押第一五四号の一)
パンフレット一綴(前同押号の一六)を被告人Aから没収する。
     当審の訴訟費用は被告人Aの負担とする。
     被告人B同Cの本件控訴をいずれも棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣旨は末尾添附の被告人Aの弁護人深田養一、被告人A本人の当庁昭
和三十年(う)第四一八号同第四一九号被告事件につき夫々差し出した控訴趣意書
(以下前者を第一、後者を第二控訴趣意書と略称する)、被告人Bの弁護人清水胤
治、被告人C本人の大々差し出した各控訴趣意書記載のとおりである。
 被告人Aの弁護人深田養一の第一控訴趣意書第二点について
 原判決の挙示する証拠の標目を綜合すれば被告人Aが原判示日時頃行使の目的を
もつて原判示D株式会社社長Eに依頼して関東財務局F出張所作成名義の昭和二十
七年十一月二十九日附「受理証第百四十二号貸金業等取締法第十三条に基きG株式
会社の届出書式を受理する」旨の文書数通をタイプ印刷させた上、その頃原判示場
所において右文書中の一通に関東財務局F出張所名下に謄写版原紙を使用して関東
財務局F出張所という角型印影を顕出し、右文書の上部に有合せの契印を押捺し、
もつて偽造した公務所の印章を使用した公務所たる関東財務局前橋財務部の作成す
べき貸金業の届出を受理する旨の公文書一通の偽造を遂げた上、原判示日時場所に
おいてあたかもこれを真正に成立したもののように装つて相被告人Bに交付して行
使したことを認めるに十分である。論旨は関東財務局F出張所なる公務所は存在し
ないのであるから、かかるものの作成名義並びにその印章を使用しなからとて公文
書偽造罪は成立しないと主張<要旨>するのであるが、公文書偽造罪は実在する公務
所又は公務員の作成すべき文書または図画を偽造する場合のみならず一般人
をして実在する公務所又は公務員の作成すべき文書または図画であると誤信せしめ
るようなものを偽造する場合においても成立するものと解すべきであるところ(昭
和十九年二月二十二日大審院第二刑事部判決参照)関東財務局前橋財務部という公
務所の存在することは本件記録に徴し明白であり、同財務部長が貸金業等の取締に
関する法律第十七条第四条等により同法第三条第四条による貸金業を行おうとする
者から届出書が提出された場合には所定の事項を調査したうえ、その届出書を受理
したときはその届出をした者に届出受理書を交付しなければならない職責があるの
であるから原判示関東財務局F出張所作成名義の昭和二十七年十一月二十九日附
「受理証第百四十二号貸金業等取締法第十三条に基きG株式会社の届出書式を受理
する」旨の書面はその形式、外観によつても一般人をして実在する公務所たる関東
財務局前橋財務部がその職務権限内において作成した公文書であると誤信せしめる
に足るものであるから、前記名義を冒用して原判示届出受理書を偽造した所為が公
文書偽造罪を構成することはいうまでもない。また論旨は前記書面は貸金業等取締
法第十三条に基き云々と記載されているけれども右の法条は貸金業者に対する業務
の停止に関するものであつて貸金業を行おうとする者の届出に関するものではない
からこれをもつて偽造公文書ということはできないと主張するからこの点について
考えてみるのに、なるほど貸金業を行おうとする者の届出及び届出の受理に関する
法条は前記法律第三条第四条であり、同法第十三条は業務の停止に関する法条であ
ることは論旨の指摘するとおりであるが、右書面の骨子は貸金業等取締法に基きG
株式会社の届出を受理したとの点にあり、たとい同法第十三条とあるのは誤りであ
るとしても一般人をして右文書は関東財務局前橋財務部がその権限内においてG株
式会社の貸金業を営むことを承認してその届出を受理してこれを作成したものと信
ぜしむるに足る形式外観を具えているものであることは否定できない。更に論旨は
本件犯罪行為の実体は一時掛、日掛、月掛等預金の受入を目的とする業務に関する
ものであるから右の文書が預金業務免許に関するものならば大衆を信用させるに足
りるものであろうが、貸金業免許の文書では何ら利用価値がなく紙屑に等しいもの
であるから本件においては公文書偽造罪は成立しないと主張するのであるが公文書
偽造罪の成立には公文書の公信力を侵害する危険を生ずれば足りるのであり、その
主観的利用価値の大小の如きにはなんらかかわらないのであるから所論は到底採用
できない。従つて原審が被告人の所為に対し公文書偽造罪をもつて問擬しているこ
とは相当であり、所論の如き擬律錯誤の違法は存しないから論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 中村光三 判事 脇田忠 判事 鈴木重光)

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