弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件申立てをいずれも却下する。
2申立費用は,申立人らの負担とする。
理由
第1申立て
相手方は,本案事件の第一審判決言渡しまで,別紙図面記載のア,イ,ウ,
エ,オ,カ,キの各点を順次結んだ道路部分につき,コミュニティバスの運行
を平成20年11月29日に開始する処分を仮にしてはならない。
第2事案の概要
本件は,別紙図面記載のア,イ,ウ,エ,オ,カ,キの各点を順次結んだ道路
部分(以下「本件道路部分」という)の沿線の住民である申立人らが,相手方。
は本件道路部分につきコミュニティバスの運行を平成20年11月29日に開始
することを予定しているが,これは,沿線住民の意見聴取等の手続に重大な瑕疵
があり,合理性・必要性を欠く路線の変更を一方的に公表して決定するなど違法
,,,な処分であるとしてその差止めを求める訴えを提起しこれを本案事件として
その仮の差止めを求めている事案である。
1関係法令の定め
()道路運送法1
ア道路運送法は,貨物自動車運送事業法と相まって,道路運送事業の運営
を適正かつ合理的なものとし,並びに道路運送の分野における利用者の需
要の多様化及び高度化に的確に対応したサービスの円滑かつ確実な提供を
促進することにより,輸送の安全を確保し,道路運送の利用者の利益の保
護及びその利便の増進を図るとともに,道路運送の総合的な発達を図り,
もって公共の福祉を増進することを目的とする(道路運送法1条。)
イ一般旅客自動車運送事業を経営しようとする者は,国土交通大臣の許可
(),,,を受けなければならず同法4条その許可申請は路線又は営業区域
営業所の名称及び位置,営業所ごとに配置する事業用自動車の数その他の
一般旅客自動車運送事業の種別ごとの事業計画など所定の事項を許可申請
書に記載し,必要書類を添付して行わなければならない(同法5条。)
国土交通大臣は,その許可申請について,①当該事業の計画が輸送の安
全を確保するため適切なものであること,②上記①のほか,当該事業の遂
行上適切な計画を有するものであること,③当該事業を自ら適確に遂行す
るに足る能力を有するものであることの各基準に適合するかどうかを審査
して許可の適否を判断しなければならない(同法6条。)
ウ一般旅客自動車運送事業者は,事業計画の変更をしようとするときは,
国土交通大臣の認可を受けなければならない(同法15条1項。)
国土交通大臣は,その認可申請について,経営の許可申請と同様に,前
記イ①ないし③の各基準に適合するかどうかを審査して認可の適否を判断
しなければならない(同法15条2項。また,路線定期運行を行う一般)
乗合旅客自動車運送事業者は,運行計画を定め,又は運行計画の変更をし
ようとするときは,あらかじめ,国土交通大臣に届け出なければならない
(同法15条の3。)
エ一般乗合旅客自動車運送事業者は,旅客の運賃及び料金の上限を定め,
又はこれを変更しようとするときは,国土交通大臣の認可を受けなければ
ならず(同法9条1項,上限の範囲内で運賃を定め,又はこれを変更し)
ようとするときは,あらかじめ,国土交通大臣に届け出なければならない
(同条3項。)
一般乗合旅客自動車運送事業者は,運送に適する設備がないとき等の例
外に該当しない限り,運送の引受けを拒絶してはならず(同法13条,)
路線を定めて行うものを除き,発地及び着地のいずれもが営業区域外に存
する旅客の運送をしてはならず(同法20条,路線定期運行を行う一般)
乗合旅客自動車運送事業者は,その事業を休止し,又は廃止しようとする
ときは,その6月前(一定の場合には30日前)までに,その旨を国土交
通大臣に届け出なければならない(同法38条。)
オ上記イないしエの規制に係る罰則として,①国土交通大臣の許可を得な
いで一般旅客自動車運送事業を経営した者(同法4条1項違反)は,3年
以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し又はこれらを併科し(同
法96条1号,②(a)国土交通大臣の認可を受けないで事業計画の変更)
をした者(同法15条1項違反,(b)運行計画の届出をしないで運行を)
した者又は変更の届出をしないで運行計画の変更をした者(同法15条の
3違反,(c)国土交通大臣に届出をしないで運賃を定め又はこれを変更)
した者(同法9条3項違反,(d)法定の除外事由がないのに運送の引受)
けを拒絶した者(同法13条違反,(e)路線を定めて行う場合以外で,)
発地及び着地のいずれもが営業区域外に存する旅客の運送をした者(同法
),,20条違反(f)路線定期運行を行う一般乗合旅客自動車運送事業者で
その事業の休止又は廃止を6月前(一定の場合には30日前)までに国土
交通大臣に届け出なかった者(同法38条違反)は,100万円以下の罰
金に処する(同法98条1号,6号,7号,9号,10号,15号。)
カ国土交通大臣の上記許可,認可等の権限は,地方運輸局長に委任するこ
とができる(同法88条2項。以下,国土交通大臣又はその権限の委任を
受けた地方運輸局長を「国土交通大臣等」ともいう。。)
()杉並区自治基本条例(平成14年杉並区条例第47号。以下「区基本条2
例」という)及び杉並区区民等の意見提出手続に関する規則(平成15年。
杉並区規則第57号。以下「区手続規則」という)。
,,ア区基本条例は杉並区における自治の基本理念を明らかにするとともに
区民の権利及び義務,事業者の権利及び責務,区政運営の基本原則並びに
区民及び事業者(以下「区民等」という。)の区政への参画及び協働の仕組
みに関する基本となる事項を定めることにより,自立した自治体にふさわ
しい自治の実現を図ることを目的とする(同条例1条。)
杉並区は,重要な政策及び計画の策定に当たり,事前に案を公表し,区
民等の意見を聴くとともに,提出された区民等の意見に対する区の考え方
を公表しなければならない(同条例28条1項本文。)
,()。区基本条例の施行に関し必要な事項は規則で定める同条例32条
イ区基本条例の委任を受けて制定された区手続規則は,①杉並区長(以下
区長というは意見提出手続の対象となる政策及び計画以下政「」。),(「
策等」という)の策定をしようとするときは,当該政策等の策定前に相。
当の期間を設けて,政策等の案を作成した趣旨,目的及び背景並びに論点
その他関連する資料で区長が必要と認めるものを政策等の案とともに公表
しなければならず(同規則5条1項,2項,②政策等の案及び上記資料)
(以下「公表案等」という)は,担当課,杉並区区政資料室,区民生活。
部区民課各区民係,区立図書館,その他区長が必要と認める場所での閲覧
又は配布及びホームページへの掲載並びに政策等の案の概要の広報への掲
載により行うものとする(同条3項。)
区長は,政策等を策定したときは,①提出された意見等の概要,②提出
された意見等に対する区の考え方,③政策等の案を修正したときは,当該
修正の内容,④その他区長が必要と認める事項を,上記②と同様の方法に
より公表するものとする(同規則8条。)
2前提事実
一件記録(本案事件の記録を含む。以下同じ)によれば,以下の事実を一。
応認めることができる。なお,各末尾に本件の疎明資料を掲記した。
()原告らは,本件道路部分の沿線に居住する住民である(申立書添付地1。
図2枚目)
()杉並区では,A株式会社(以下「A」という)が,一般乗合旅客自動2。
車運送事業者として,道路運送法による当該事業の経営の許可を得て,相手
方の策定に係る計画を踏まえ,相手方の委託を受けて「B」と呼ばれるコ,
ミュニティバスを,平成12年11月25日からは「C路線」と呼ばれるα
駅(D線)とβ駅(E線)を結ぶ路線において,平成16年11月1日から
は「F路線」と呼ばれるβ駅とγ駅(いずれもE線)を結ぶ路線において,
それぞれ運行してきた(乙4,7,8。。)
()相手方は,その後「G路線」と呼ばれるδ駅(D線)とε駅(E線)3,
を結ぶ路線におけるコミュニティバス事業の計画を立案し,平成19年7月
1日付けの相手方の広報誌「広報すぎなみ(以下「区広報誌」という)」。
及びインターネット上の相手方のホームページ(以下「区ホームページ」と
いう)において,別紙図面記載の実線及び波線の路線(ただし,別紙図面。
記載のイ,ウ,エ,オ,カの各点を順次結んだ部分を除く。以下「本件旧路
線」という)においてコミュニティバスを運行する計画案(以下「本件旧。
計画案」という)を作成したことを発表し,本件旧計画案について,区基。
本条例28条に基づく区民等の意見提出手続により,区民等の意見を募集し
た(甲3)。
()相手方は,平成19年12月11日付け広報誌において,本件旧計画案4
に対する約60件の意見の中の主な意見である「計画案の一部の道路状況が
悪いので,もっと最適なルートを検討してほしい」との意見を受けて「道,
路状況などの調査検討を行い,一部ルートを変更しました」として,コミュ
ニティバスの運行する路線を,本件旧路線から別紙図面記載のイ,カの各点
を結んだ部分を除いた上で同イ,ウ,エ,オ,カの各点を順次結んだ部分を
加えた路線(以下,この変更後の路線を「本件新路線」という)に変更す。
る旨の計画案の変更を発表した(甲4)。
()申立人らは,平成20年5月27日付け申入書(甲6,同年7月1日5)
付け要望書(甲8,同年8月21日付け「質問事項<杉並区コミュニティ)
バスδ∼ε路線の件>」と題する書面(甲10,同年10月20日付け質)
問書(甲12)により,相手方に対し,本件旧路線から本件新路線への変
更につき,沿線住民への十分な説明や意見・要望の聴取が実質的にされて
おらず,安全面・環境面で数々の疑問もある等として,改めて相手方の主
催で所要の回数の住民説明会を開き,区長が直接面会するなどして沿線住
民の意見を十分に聴き,路線を見直すように要望した(甲6,8,10,。
12。)
,,,,()これに対し相手方は平成20年6月9日付け同年7月18日付け6
同年9月1日付け,同年10月31日付け各書面により,申立人らに対し,
①区手続規則等にのっとり区広報誌及び区ホームページ等を通じてパブリ
ックコメントを行い,所要の手続を経て準備を進めたこと,②本件新路線
の整備は,区内の南北移動の交通改善及び交通不便地域の解消を主目的と
して進めてきた南北バス交通の路線整備の一環として行うものであり,か
つ,本件新路線の沿線は,高齢化率の高い地域で,高齢者等の外出支援に
大きな成果が期待できること,③警察の実地指導においても,道路幅員・
環境自体は小型バスが通行することに大きな問題はないと判断されている
こと等を理由として本件新路線を更に変更する考えはない旨回答した甲,。(
7,9,11,13)
()Aは,上記()の計画案の変更を踏まえ,相手方の委託を受けて,本件新74
路線をコミュニティバスの運行する路線とする変更後の計画案(以下「本件
新計画案」という)に基づいて事業計画の変更(路線延長)をすることと。
し,平成20年8月25日,道路運送法15条1項に基づき,同法88条2
項により国土交通大臣の権限の委任を受けた関東運輸局長に対し,一般乗合
旅客自動車運送事業(路線定期運行)の事業計画の変更の認可申請をし,同
年11月17日,関東運輸局長からその認可を受けた(乙1,4,10)。
()本件新路線に係る本件新計画案の概要は,以下のとおりである(乙18。
ないし4)
ア運行開始日平成20年11月29日
イ運行時間帯δ駅発午前7時40分から午後7時まで
ε駅発午前8時08分から午後7時28分まで
ウ運行回数20分間隔/1日の片道運行本数35本
エ所要時間δ駅からε駅まで約20分
ε駅からδ駅まで約25分
オ運賃等
1乗車100円(大人・小人同一料金,就学前幼児無料)
カバス車両
マイクロバス(H製「○○)」
車両台数3台
乗車定員32人(客席+立ち席+乗務員1人)
エンジン仕様メーカー標準ディーゼルエンジン
キバス停留所30か所
()相手方とAの各担当部局を問合せ先とする「○○バス「B」δ∼εG路9
線11月29日(土)運行開始」との書面(表面に路線図,裏面に時刻表
)。()の記載されたものが区民への配付用の書面として作成されている乙2
3争点
行政事件訴訟法37条の5によれば,仮の差止めが認められるための要件と
しては,①適法な本案訴訟(差止めの訴え)の提起があったこと,②処分がさ
れることにより生ずる「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」が
あること,③本案について理由があるとみえるときであること(同条2項,)
④公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときでないこと(同条3項)
を要するものとされているところ,以下のとおり,本件申立てが上記各要件を
満たしているか否かが本件における争点となる。
()ア適法な本案訴訟の提起の有無1
イ本案について理由があるとみえることの有無
()償うことのできない損害を避けるための緊急の必要の有無2
()公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれの有無3
4争点に対する当事者の主張
()争点()ア(適法な本案訴訟の提起の有無)及び同イ(本案について理由11
があるとみえることの有無)について
(相手方の主張の要旨)
ア相手方は,地域行政上,バス路線の誘致,バス車両の購入,バス停留所
施設の確保巡行経路の安全対策利用者の実態調査等に関する役割を担っ,,
ているが,本件バス路線に係る一般乗合旅客自動車運送事業の事業者はA
である。
イ本件申立ての本案の訴えは,抗告訴訟の一つである差止めの訴え(行政
事件訴訟法3条7項)として提起されており,申立人らは,同訴えにおい
て,被告(相手方)において本件道路部分におけるコミュニティバスの運
行を平成20年11月29日に開始することにつき,これが抗告訴訟の対
象となる「処分」であるとして,その差止めを求めている。
しかし,抗告訴訟の対象となる「処分」とは,公権力の主体である国又
は公共団体の機関が行う行為のうち,その行為により直接に国民の権利義
務を形成し又はその範囲を確定することが法律上又は条例上認められてい
るものをいうと解されるところ,バスの運行自体は,申立人らの権利義務
を形成し又はその範囲を具体的に確定する公権力の行使には当たらない事
実行為にすぎない。
したがって,申立人らが差止めを求める対象は,行政事件訴訟法3条7
項にいう「処分」に該当せず,本件申立ての本案の訴えは不適法であるか
ら,本件申立ても適法な本案訴訟の係属を欠く不適法な申立てというべき
である。
(申立人らの主張の要旨)
,「,,ア地方自治法2条4項は市町村はその事務を処理するに当たつては
議会の議決を経てその地域における総合的かつ計画的な行政の運営を図る
ための基本構想を定め,これに即して行なうようにしなければならない」
と定めており,相手方においては,平成12年9月,同項の基本構想とし
て「杉並区21世紀ビジョン(甲1。以下「区21世紀ビジョン」とい」
う)が区議会で議決されており,相手方の行政の決定及び処分は,すべ。
て区21世紀ビジョンに即して行われる。
イ相手方は,本件新路線におけるコミュニティバスの運行につき,区21
世紀ビジョンの第Ⅱ部第2章「施策の基本方針「1.くらしと環境が」,
調和するまち「①良好な住環境と都市機能が調和したまちをつくる」,
ために「4.だれもが利用しやすい公共交通システムを整備し,南北」,
方向の交通など交通不便地域の解消をはかり,区民が社会参加しやすい環
境を整える」との規定に基づき,その運行を計画した。。
したがって,本件道路部分におけるコミュニティバスの運行開始処分の
法的根拠は,区21世紀ビジョンにある。
ウ区21世紀ビジョンは,第Ⅱ部第3章「21世紀ビジョンの実現に向け
て」において「区民と行政の協働」を謳い「区の政策形成から実施,評,
価にいたるさまざまな過程に区民が参画する仕組み(中略)を整えてい
く「区政やまちづくりに関する情報を公開,提供し,区民の参画,協」,
働によるまちづくりに役立てる」と規定している。そして,これらを実現
するために区民等が意見を提出する手続につき区手続規則を定めていると
,,ころ本件道路部分をコミュニティバスの路線と決定した相手方の手続は
相手方主催の住民説明会を行わず,沿線住民の意見・要望を直接聴く方法
を採らずに,合理性・必要性を欠く路線の変更を一方的に公表して決定し
,,,たもので区21世紀ビジョン及び区手続規則に違反し違法であるから
本件道路部分においてコミュニティバスの運行を開始することは,申立人
らの住宅環境権及び幸福追求権(憲法13条)並びに健康で文化的な最低
限度の生活を営む権利(憲法25条)を侵害するなど,その沿線住民の重
大な権利侵害を招く違法な処分である。
()争点()(償うことのできない損害を避けるための緊急の必要の有無)に22
ついて
(申立人らの主張の要旨)
本件道路部分をコミュニティバスが通行することになれば,①多くの車両
を呼び込むことになり,バス停留所で乗降のためバスが停車することにより
,,,更なる渋滞を招き排気ガスや騒音が増えて良好な住環境が破壊されまた
②コミュニティバスや流入する車両による交通事故が発生し,申立人らの生
命・身体に危害が及ぶ危険性が飛躍的に増大する。
(相手方の主張の要旨)
ア申立人らにいかなる被害が生ずるのか定かではなく,損害の内容が抽象
的であり,損害発生の蓋然性を裏付ける具体的な疎明がない。
イ本件道路部分は,既にダンプカーを含めた大量の車両が通行し,朝夕は
交通渋滞を引き起こしており(甲2,本件のような低公害仕様の小型バ)
スが1時間に3回(朝8時台は2回。乙2裏面参照)の割合で本件道路部
分を通行しても,申立人らが主張するような新たな損害が発生するとは考
えられない。
ウ本件新路線は,警察の実地指導において,道路幅員・環境自体は小型バ
(,スが通行することに特に大きな問題はないとの判断がされている甲11
乙9。)
エζ通り(別紙図面記載のア,イ,ウ,エの各点を順次結んだ道路部分を
含む北西から南東に延びる道路)は既存の民間バスの路線となっており,
コミュニティバスよりも大型のバスが通行しているにもかかわらず,交通
事故の発生件数は少ない状況にある(乙5。)
オ別紙図面記載のエ,オの各点を結んだ道路部分(ζ通りからη交差点に
至る道路部分)及び同オ,カ,キの各点を順次結んだ道路部分(η交差点
からθ交差点に至る道路部分)の各幅員は,ζ通りより広く,歩道も整備
されており,交通事故が発生する危険性は少ない。
()争点()(公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれの有無)について33
(相手方の主張の要旨)
本件新路線を新設する目的は,δ駅とE線の駅を結ぶ既存のバス路線がな
く,また,本件新路線の沿線には医療施設,高齢者施設が多く点在し,沿線
,,地域の高齢化率も高いことからδ駅とε駅を結ぶ本件新路線の開設により
南北間の交通不便の改善を図り,高齢者等の移動手段を提供することが可能
となる。
仮に公共交通である本件バスの運行開始が差し止められることになれば,
δからε地域の南北間の交通不便の状態が長期にわたり継続するばかりでな
く,地域住民の移動手段の確保という効果及びこれに付随する沿線地域の防
犯上・交通安全上の効果も得られないこととなり,公共の福祉に重大な影響
を及ぼすおそれがある。
(申立人らの主張の要旨)
本件新路線は,いまだ運行されておらず,本件申立ては,今まで存在し
た公共性のある事柄の差止めを求めるものではない。その運行の差止めが
されても,住民らはこれまでの生活を続けていくだけで,本件申立てによっ
て,住民らの生活に何ら影響が生ずることはない。
第3当裁判所の判断
1争点()ア(適法な本案訴訟の提起の有無)について1
()本件申立ての本案の訴えは,抗告訴訟の一類型である処分の差止めの訴1
え(行政事件訴訟法3条7項)として提起されており,申立人らは,同訴え
において,被告(相手方)が本件道路部分においてコミュニティバスの運行
を平成20年11月29日に開始することが,区21世紀ビジョンを法的根
拠とする「処分」に当たるとして,その差止めを求めている。
処分の差止めの訴えの対象は,同条2項に規定する「行政庁の処分その他
公権力の行使に当たる行為(同条3項に規定する裁決,決定その他の行為」
を除く。以下「処分」という。)であることを要するところ,ここにいう「処
分」とは,公権力の主体である国又は公共団体(法令に基づきその権限の委
託を受けた機関を含む)が行う行為のうち,その行為により直接に国民の。
権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法令上認められているもの
をいうと解される(最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29
日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照。)
()そこで,以下,申立人らの主張に係る相手方の行為が上記()の「処分」21
に該当するか否かについて検討する。
本件新路線におけるコミュニティバスの運行は,道路運送法3条1号の一
般旅客自動車運送事業のうち,同号イの一般乗合旅客自動車運送事業(乗合
旅客を運送する一般旅客自動車運送事業)に該当するものであり,前提事実
()及び()記載のとおり,Aは,同事業の事業者として,既存の事業計画に27
ついて同法による一般乗合旅客自動車運送事業の経営の許可を受けていると
ころ,平成20年8月25日付けで,国土交通大臣から権限の委任を受けた
関東運輸局長に対し,本件新路線につき,同年11月29日を実施予定日と
して,一般乗合旅客自動車運送事業(路線定期運行)の事業計画の変更の認
,。(,可申請をし同月17日に関東運輸局長からその認可を受けている乙4
10)
()本来,一般乗合旅客自動車運送事業の経営は憲法22条1項にいう営業3
の自由に属する事柄であり,事業の開始,変更,休廃止,運賃の決定等も基
本的には事業者の意思に従いその責任において決められる事柄であるが,現
,,代の市民生活における交通機関の公益性・重要性にかんがみ道路運送法は
(ア)道路運送事業の運営を適正かつ合理的なものとし,道路運送の分野にお
ける利用者の需要の多様化及び高度化に的確に対応したサービスの円滑かつ
確実な提供を促進することにより,輸送の安全を確保し,道路運送の利用者
の利益の保護及びその利便の増進を図るとともに,道路運送の総合的な発達
を図り,もって公共の福祉を増進することを目的とし(1条,(イ)事業者)
の営業の自由に対する法規制として,①一般旅客自動車運送事業の経営には
国土交通大臣等の許可を要する(4条,88条2項)と定めて同事業の経営
を許可制とし,その事業計画の変更には国土交通大臣等の認可を要する(1
5条1項,88条2項)と定めて事業計画の変更を認可制とするほか,②路
線定期運行を行う一般乗合旅客自動車運送事業の運行計画の定め又は変更及
び事業の休止又は廃止には国土交通大臣等への事前の届出を要する(15条
の3,38条,88条2項)と定め,一般乗合旅客自動車運送事業の運賃及
び料金の上限の定め又は変更には国土交通大臣等の認可を,その上限の範囲
内での運賃及び料金の定め又は変更には国土交通大臣等への事前の届出を要
する(9条1項,2項,88条2項)と定め,③これらの許認可及び事前届
出の諸規制の違反に対しては刑事罰の制裁を設けている(96条1号,98
条1号,7号,9号,10号,15号。)
()上記()の道路運送法の法規制に照らせば,本件新路線におけるコミュニ43
ティバスの運行の主体となるAが,一般乗合旅客自動車運送事業者として,
本件道路部分におけるコミュニティバスの運行を開始し得る法的地位を付与
されるのは,上記()の認可申請の名宛人である関東運輸局長を処分行政庁2
とする同法15条1項に基づく事業計画の変更の認可処分によるものであ
り,関係法令上,専らこの認可処分が上記()の「処分」に該当することと1
なる。
このように,道路運送法及び関係法令上,一般乗合旅客自動車運送事業と
してのバスの運行の許認可の権限は,専ら国土交通大臣又はその権限の委任
を受けた地方運輸局長に帰属し,相手方を含む市区町村に帰属するものでは
ない以上,相手方によるコミュニティバスの路線の計画案の立案及びAへの
運行の委託という行為は,これにより,運行の主体たる事業者であるAが当
該コミュニティバスの運行を開始し得る法的地位を付与されるものではな
く,法的には,処分権者である関東運輸局長に対するAの認可申請のための
準備行為にとどまり,直接に国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定す
,「」ることが法令上認められている行為には当たらないから上記()の処分1
に該当せず他に当該コミュニティバスの運行の開始に関し上記()の処,,「1
分」に該当し得る相手方の行為を観念する余地はないといわざるを得ない。
()なお,①地方自治法2条4項にいう基本構想としての区21世紀ビジョ5
ンは,相手方の行政の運営に係る基本構想を抽象的に宣明したものにすぎず
(甲1,それ自体が法令の性質を有するものではないし,②区基本条例及)
び区手続規則の規定も,上記()のとおり事業者の処分権者に対する認可申4
請の準備行為としての路線の計画案の立案に係る意見聴取等の手続の根拠と
,「」されるものにとどまるのでいずれも申立人らの主張に係る相手方の処分
の存在を基礎付ける根拠となり得るものではなく,上記①及び②の基本構想
の定め及び条例・規則の規定を勘案しても,上記()の判断が左右されるも4
のとは解されない。
()以上によれば,本件申立ての本案の訴えは,処分でないものを差止めの6
対象として提起された不適法な訴えであり,かつ,その不備を補正すること
ができないから,本件申立ては,適法な本案訴訟の係属を欠く不適法な申立
てであるといわざるを得ない。
2争点()(償うことのできない損害を避けるための緊急の必要の有無)につい2

仮に上記1の点を措くとしても,以下のとおり,本件申立ては,争点()に2
係る仮の差止めの要件を欠くものといわざるを得ない。
()行政事件訴訟法は,本案判決前における仮の救済に関し,行政庁の処分1
その他公権力の行使に当たる行為については,民事保全法による仮処分を排
除し(同法44条,取消訴訟及び無効等確認の訴えが本案となる場合につ)
いて,執行停止(処分の効力,処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の
停止をいう。以下同じ)の制度を定め(同法25条ないし29条,38条。
3項,義務付けの訴え及び差止めの訴えが本案となる場合について,それ)
ぞれ仮の義務付け及び仮の差止めの制度を定めている(同法37条の5。)
そして,執行停止においては,積極要件として「重大な損害を避けるため緊
急の必要があるとき(同法25条2項)との要件を,消極要件(執行停止」
が否定される要件)として「本案について理由がないとみえるとき(同条」
4項)との要件を定めているのに対し,仮の義務付け及び仮の差止めにおい
ては,積極要件につき「重大な損害」に代えて「償うことのできない損害」
を掲げるとともに「本案について理由があるとみえるとき」をも積極要件,
とし(同法37条の5第1項,第2項,執行停止よりも厳格な要件を定め)
ている。このように,仮の救済の制度の中でも,仮の義務付け又は仮の差止
めにつき,より厳格な要件が定められているのは,これらが,本案の厳格な
要件の審査を経て行政庁が具体的な処分をすべきこと又はすべきでないこと
を命ずる本案判決の前に,裁判所が仮にこれを命ずる裁判であり,実質的に
は本案訴訟の裁判と同様の内容を仮の裁判で実現するものであることによる
ものと解される。
そうすると,仮の差止めは,処分がされた後の執行停止又は損害賠償等に
よるのでは救済の実を挙げることができない場合に,その処分がされること
により生ずる損害をあらかじめ避けるために認められるものであって,処分
がされることにより生ずる「償うことのできない損害を避けるため緊急の必
要」があると認められるためには,当該処分により生ずる損害の回復の困難
の程度を考慮し,当該損害の性質及び程度並びに当該処分の内容及び性質を
も勘案して(同法37条の4第2項参照,当該処分がされることによる行)
政目的の達成を一時的に犠牲にしてもなおこれを事前に差し止めて申立人ら
を救済しなければならない緊急の必要性があるか否かの観点から検討した上
で,処分後の執行停止又は損害賠償など事後の救済手段によるのでは著しく
救済が困難であることが一応認められる必要があると解すべきである。
()そこで,上記()の観点から,申立人らにおいて,行政事件訴訟法37条21
の5第2項所定の仮の差止めの要件として,本件道路部分におけるコミュニ
ティバスの運行の開始がされることによる行政目的(区民の交通の利便等)
の達成の必要性を勘案しても,なお,これにより生ずる「償うことのできな
い損害を避けるため緊急の必要」があると認められるか否かについて検討す
る。
申立人らは,①多くの車両を呼び込むことになり,バス停で乗降のためバ
スが停車することにより更なる渋滞を招き,排気ガスや騒音が増えて良好な
住環境が破壊され,また,②コミュニティバスや流入する車両による交通事
故が発生し,申立人らの生命身体に危害が及ぶ危険性が飛躍的に増大する旨
主張する。
しかしながら,(ア)本件道路部分のうち,(a)別紙図面記載のイ,ウ,エ
の各点を結んだ道路部分(ζ通りの一部)は既存の民間バスの路線となって
おり,より大型のバスが通行していること(甲2の<>,<>,<>の各写465462
真甲1819(b)別紙図面記載のエオの各点を結んだ道路部分ζ,,),,(
通りからη交差点に至る道路部分)及び同オ,カ,キの各点を順次結んだ道
路(η交差点からθ交差点に至る道路部分)の各幅員は,民間バスの路線と
なっている上記ζ通りの幅員より広く歩道も整備されており乙6(c),(),
警視庁による相手方の都市整備部交通対策課等に対する実地指導でも,3回
(平成19年11月及び平成20年7月,8月)の詳細な実地調査の結果,
本件道路部分の幅員・環境自体は小型バスが通行することに特に大きな問題
はないとの判断が示されており,道路交通上の安全対策等については警視庁
(,の指導により運行の開始前に所要の措置が執られる予定であること甲11
乙9,(イ)本件道路部分には,既に,ダンプカーを含めた相当量の車両の)
通行があり,朝夕は交通渋滞が発生していること(甲2,(ウ)本件新路線)
に使用される予定のコミュニティバスは,小型のマイクロバスで,所定の安
全規制に適合し,かつ,排出ガス規制,騒音規制,環境負荷物質規制等に適
合した低公害仕様車であって(乙1,3,本件道路部分の通行は午前8時)
,()から1時間に2回午前9時から午後7時まで1時間に3回乙2裏面参照
にとどまること,(エ)ζ通りは既存の民間バスの路線としてより大型のバス
が頻繁に通行しているが,本件道路部分中のζ通り(上記(ア)(a))におけ
る交通事故の発生件数は,平成19年中に軽傷の人身事故が3件程と少ない
状況にあること(乙5)を総合して勘案すれば,本件道路部分においてコミ
ュニティバスの運行が開始されると,本件道路部分の交通量が上記時間帯に
1時間2,3回の当該バスの通行の分だけ従前より増加することになるが,
本件の全疎明資料によっても,そのことのみによって,①沿線住民である申
立人らの健康に具体的な被害を及ぼす排気ガス・騒音の著しい増加が直ちに
生ずるものと認めるには足りず,また,②沿線住民である申立人らの生命・
身体に具体的な被害を及ぼす交通事故の不可避的な発生の危険性が直ちに増
大すると認めるには足りないといわざるを得ず,したがって,本件道路部分
におけるコミュニティバスの運行の開始がされることに関し,申立人らにつ
き,これにより生ずる「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」
があると認めることはできない。
3結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,本件申立ては,いずれも
仮の差止めの要件を欠くから,これらを却下することとし,申立費用の負担に
,,,,ついて行政事件訴訟法7条民事訴訟法61条65条1項本文を適用して
主文のとおり決定する。
平成20年11月25日
東京地方裁判所民事2部
岩井伸晃裁判長裁判官
本間健裕裁判官
倉澤守春裁判官

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