弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士谷口義弘の上告理由第一点第二点について。
 原判決は、代理権の消滅後、従前の代理人がなお代理人と称して、従前の代理権
の範囲に属しない行為をした場合でも、右代理権の消滅につき善意無過失の相手方
が代理人にその権限ありと信ずべき正当の事由あるときは、本人は代理人の行為に
つき相手方に対しその責に任すべきであるという判例法上の原則(昭和一八年(オ)
第七五九号同一九年一二月二二日大審院民事聯合部判決、昭和三〇年(オ)第一〇
〇三号同三二年三月二八日第一小法廷判決、昭和三〇年(オ)第二九九号同三二年
一一月二九日第二小法廷判決、各参照)を是認した上で、本件当事者間に展開した
事実関係として次のとおりの事実を確定している。すなわち、そもそも本件土地及
び家屋は上告人の所有に属していたが、上告人の実母Dの夫で上告人の亡父の弟に
当るE(同人は右Dと婚姻後Dとともに上告人を幼少の頃から養育し、上告人は昭
和二七年二月四日Fと婚姻するまで本件家屋にED夫婦と同居していた)は、上告
人と右Fとが婚姻するに際し婚姻費用の一部に充てるため、昭和二六年五月一六日
G産業無尽株式会社から一一万五五〇〇円を判示約定で借入れ、その際上告人の承
諾の下にその代理人として右会社に対し右借入金債務について連帯保証を約すると
ともに本件土地家屋について上告人の代理人として抵当権設定契約を締結したこと、
そして右上告人のためにした代理権限は右契約の締結により消滅したものと解すべ
きであるが、その後昭和二八年二月五日Eはかねて織物販売業者である被上告人に
対し負担していた取引上の債務七八万七二五〇円の債務のため上告人名義の印鑑を
買受け、これを使用して上告人名義の印鑑証明書の交付を受け、上告人の代理人と
称して売買名義の下に本件土地家屋の所有権を被上告人に移転する旨約定し、更に
これが履行のために右印鑑と印鑑証明書とを被上告人に交付し、被上告人は右印鑑
及び印鑑証明書を司法書士Hに交付して登記申請手続方を依頼し、同年二月九日右
契約に基づく本件土地建物の所有権移転登記手続を経由したこと、そして叙上によ
つて見れば、Eは上告人を代理して前示連帯保証契約を締結し且つ前示抵当権設定
契約をなすについての正当な権限を有していたが、その権限の消滅後すでに何らの
代理権なきに拘らず、上告人の代理人と自称し被上告人に対し本件土地建物の所有
権を移転する旨契約し且つその旨の所有権移転登記手続を経由したものであると認
むべきである。然るに一方被上告人は、上告人とEとの前示身分上の関係を知り、
且つEよりは自己が本件土地家屋についての実権を有するものである旨聞かされて
おり、本件土地建物の所有権移転登記手続に必要な印鑑及び印鑑証明書は上告人の
承諾を得て被上告人に交付するものであることを告げられていた外に、上告人の結
婚費用に充つべく借入れた金銭債務を担保するための前示抵当権設定契約を締結す
るについては上告人はEに一切の代理権限を与えてこれを処理させたものであるこ
とも知らされていたこと、しかも、Eは右抵当債務の弁済期において抵当債権者で
ある前示G産業無尽株式会社から抵当権の実行に及ぶ旨告知されたので、被上告人
に依頼し、右会社に対する前示債務の残額一〇万円を弁済して貰い、前示抵当権設
定登記の抹消を受けたこと、Eは本件土地家屋の所有権を被上告人に移転する旨約
定した当時は本件家屋に居住していたが、昭和二八年二月二八日限りこれを被上告
人に明渡す旨約定するとともに、Iをして本件家屋の店の部分を明渡さす旨約定し、
Iの右明渡に必要な費用として明渡料一〇万円を支出されたい旨被上告人に依頼し、
被上告人から一〇万円の交付を受けたこと、以上の事実関係に照して被上告人とし
ては、本件土地家屋の所有権移転を受け且つその旨の登記手続をなすに際し、これ
らの行為を上告人の代理人としてなしたEに代理権がなかつたものとは思いも及ば
ないばかりでなく、全くこれあるものと信じ、しかも、しかく信ずるについて何ら
の過失もなかつたというのである。以上の事実関係は、原判決挙示の証拠資料に照
し首肯できないことはない。所論縷述の要旨は、叙上の事実認定と相容れない事実
を主張しつつ原審がその裁量の範囲内で適法になした事実認定を非難するか、或は
原判示に副わない事実関係を想定して原判決を攻撃するか、或は原判文の意味を諒
解しないか更に或は本事案に関する独自の所見に過ぎないものであつて、原判決に
はその判断の過程に経験則違反、審理不尽等違法のかどあるを見出し得ない。然ら
ば上告人は冒頭掲記の判例の趣旨に従い、Eの前示無権代理行為につきその責を免
れない筋合であつて、Eの印鑑偽造、ないしは偽造印鑑を使用しての委任状偽造等
の所為に関する刑事上の罪責は如何様にもあれ上告人はもはや本件宅地建物の所有
権が被上告人に移転したことに対し異論を差し挾むの余地は全くないものというべ
く、従つて被上告人に対しこれが所有権移転登記の抹消手続を求める何らの権利も
ないものと言わなければならない。されば、これと同趣旨に出た原判決の判断は正
当であつて、そこに所論法律の解釈適用を誤つた欠点ありというを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとお
り判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    高   木   常   七

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