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平成22年8月19日判決言渡
平成20年(ネ)第10082号職務発明対価請求控訴事件
口頭弁論終結日平成22年5月13日
(原審東京地方裁判所平成19年(ワ)第10469号)
判決
控訴人甲
同訴訟代理人弁護士御器谷修
同島津守
同梅津有紀
同栗田祐太郎
被控訴人ソニー株式会社
同訴訟代理人弁護士熊倉禎男
同富岡英次
同水沼淳
同小和田敦子
主文
1原判決を次のとおり変更する。
(1)被控訴人は,控訴人に対し,512万5124円及びこれに対する平成1
8年12月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)控訴人のその余の請求を棄却する。
2訴訟費用は,第1,2審を通じ,訴えの提起及び控訴の提起の手数料に係る
部分は,これを100分し,その5を被控訴人の,その余を控訴人の,各負担
とし,その余の訴訟費用は各自の負担とする。
3この判決は,第1項(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,1億円及びこれに対する平成18年12月22
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1本件は,被控訴人(1審被告)の元従業員である控訴人(1審原告)が,被
控訴人に対し,被控訴人在職中にした「半導体レーザ装置」に関する発明等,合計
5件(当初,控訴人は,6件の職務発明についての対価を請求していたが,控訴審
の最終段階に至り,1件(後述の本件発明F)につき対価請求を撤回した)の職。
務発明について特許を受ける権利を被控訴人に承継させたとして,特許法(平成1
6年法律第79号による改正前のもの。以下「改正前特許法」という)35条3。
項に基づき,上記承継の相当の対価である7億3746万円のうち,一部請求とし
て,1億円及びこれに対する平成18年12月22日(控訴人が被控訴人に対し,
上記承継の相当の対価の未払額の支払いを請求した日の翌日)から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。
なお,この判決を通じて,原判決を引用する場合に,原判決で「原告」とあるの
は「控訴人」と「被告」とあるのは「被控訴人」と,それぞれ読み替えることと,
する。
2原審における控訴人の請求
被告(被控訴人)は,原告(控訴人)に対し,1億円及びこれに対する平成18
年12月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原判決の主文
原告(控訴人)の請求をいずれも棄却する。
4前提事実及び争点
以下のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案
の概要「1前提となる事実「2争点」記載のとおりであるから,これを引」」,
用する。
原判決14頁5行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。
「なお,第6条における特別表彰の規定は,1997年度に実施される特別表彰
から適用することとされた」。
原判決16頁3行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。
「ウ本件光学ピックアップが搭載されていたPS,PSone及びPS2の売
上台数及び上記本件光学ピックアップの売上価格(年度平均)は別紙「売上台数・
平均価格一覧表」のとおりである。ただし,PS及びPSone分については,本
件光学ピックアップを含むベースユニットとして販売されており,同表の『本件光
学ピックアップの年度平均価格』欄のPS及びPSone分については,ベースユ
ニットとしての価格が示されている(乙93,弁論の全趣旨」)。
第3争点に関する当事者の主張
以下のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案
の概要「3争点についての当事者の主張」記載のとおりであるから,これを引」
用する。
【本件各発明の実施の有無について】
原判決17頁6行目の「向上させること」の後に「及び『プリズムがビームス,
プリッタの機能と非点収差発生機能とを兼備しているので,非点収差を利用する機
,』」。器に適用するとこの機器の小型化と低コスト化が可能となることを挿入する
原判決17頁13行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。
「また,控訴人及び他の共同発明者は,本件発明AないしCを一体のものとする
レーザーカプラーを発明したところ,本件発明Cについては,特許公報上『発明の
詳細な説明』において『非点収差』を利用していることを示す『サジタル光線の,
焦線』の存在につき触れられており,本件発明Aの半導体レーザ装置におけるフォ
ーカス誤差の検出において『非点収差』が利用されていること,すなわち,本件発
明Aが差動スポットサイズ法又は他の検出方法を除外するものでないことは明らか
である」。
原判決17頁17行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。
「被控訴人は,準備書面において,本件光学ピックアップの図を示すところ,同
図の『スペーサー』と書いてある部分のみ他の箇所とは文字が明らかに異なってお
り,被控訴人がこの部分を後から追加したことが図面上明らかである。
そして,被控訴人が『スペーサー』と主張するシリコン基板部分は,レーザー素
子をジャンクションダウンに配置し,①発光部で生じる熱を基板に伝え,又は②下
向きに出射されて迷光になるレーザー光を遮断するためのものであり『スペーサ,
ー』ではない」。
原判決17頁18行目及び19行目を削除し,以下のとおり付加する。
「(ウ)被控訴人は,本件発明AないしEを用いて製造したレーザーカプラータイ
プの光学ピックアップを製造(本件発明を実施)し,別会社(SCE)に販売して
おり,これを理由として,控訴人に対し,平成9年,本件発明AないしCにつき,
特別表彰をし,報奨金を支払っている。この特別表彰については,発明の『実施』
『』,や実施許諾によって特に顕著な功績が認められた場合が対象となるものであり
本件発明AないしCの『実施』による功績が顕著であることは,被控訴人自身も認
めていたものである。
なお,本件発明Aにつき,平成9年に加えて,平成14年にも再び等級を上げた
上で表彰がされていることからすれば『実施』なき表彰が2度までも行われたと,
の被控訴人の主張はおよそ不合理である」。
原判決17頁21行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。
「,(『』。)(『』。)(オ)なお乙以下乙というらが行った発明以下乙発明という
は,所定のフォーカス引込み範囲を得るため,本件発明Aと比較して巨大かつ異な
る形状のプリズムを必要とし,かつレーザー発光点を必要以上に高くするためのス
ペーサーを必要とするため,既存の半導体製造設備では製造できないという致命的
な欠陥を有していた。現に,乙発明が光ピックアップにおいて実施されたことを示
す証拠は提示されていない。
そこで,乙からプロジェクトを引き継いだ控訴人は,上記欠陥を克服すべく,本
件発明Aの考案に至ったものであるから,乙発明と本件発明Aの基本的な構成に類
似する面があるのは当然であり,乙発明では,フォーカス検出方式として非点収差
,,法のみが記載されていたことから本件発明Aの新規性・進歩性を明確にするため
控訴人らは,本件発明Aの実施例において,同じフォーカス検出方式を例に挙げた
にすぎない。
なお,乙発明におけるプリズムが『三角プリズム』を念頭に置いていることから
すれば,本件発明Aと乙発明とは,着想を全く異にするものである」。
原判決18頁15行目及び16行目を削除する。
原判決19頁22行目の後に,改行して,以下のとおり付加する。
「(イ)なお,レーザーカプラーの基本構造については,本件各発明の特許出願前
である昭和60年4月22日に,被控訴人の社員である乙らが発明者である乙発明
につき,特許出願がされており(乙10,11及び32,乙発明には,レーザー)
カプラーの基本構造がすべて開示されている。
そして,本件発明Aと乙32とを比較すると,半導体基板上に半導体レーザーと
プリズムを固定させ,レーザーから射出される光をプリズムで反射させ,戻ってき
た光がプリズム内に入射し,それを検出器で検出するというレーザーカプラーの基
本的構造は同じである。
乙発明との違い,すなわち本件発明Aの特徴として挙げられる点は,光をプリズ
ム内で2回反射させることにより,光路長を長くして,非点隔差を大きくし,引込
み範囲を広くすることによってフォーカスサーボを安定的に行うようにするとい
う,非点収差法の点のみである。
したがって,本件特許Aを先願である乙発明と実質的に同一でなく,有効なもの
として解釈するためには,本件特許請求の範囲の記載を非点収差法を採用したもの
に限定して解釈するか,又は,訂正審判において特許請求の範囲をそのように限定
する訂正をせざるを得ない。
そして,以上のことは,当業者がレーザーカプラーを開発しようとする際に,本
件発明Aの技術的範囲を検討するときには当然に想到することである」。
原判決19頁23行目の「(イ)」を「(ウ)」と改める。
原判決20頁15行目の「(ウ)」を「(エ)」と改める
原判決20頁18行目の「(エ)」を「(オ)」と改める。
原判決21頁12行目の後に「また,同光学ピックアップにおける光学ヘッド,
では,例えば4分割された光検出部を有するもの等,3分割とは異なる数に分割さ
れた光検出部を有する光学ヘッドが用いられている」を付加する。。
原判決22頁2行目から5行目を削除し,以下のとおり挿入する。
「ウ被控訴人における実施褒賞は,発明者が,実施の有無を含めて自分で申請
したものを,知的財産部で審査し,表彰するものである。
実施褒賞は,多数の申請について,発明者に対するインセンティブの観点から審
査し付与しているものであるから,その審査に際しては,職務発明についての多額
の対価請求訴訟や第三者との間の権利侵害に関する紛争の場合におけるものと同レ
ベルの厳密さをもって,発明の技術的範囲を解釈し又は無効となる可能性等を慎重
に考慮して審査するものでないことは当然である。
よって,被控訴人その他の使用者企業が,その発明報奨規定により報奨を行った
からといって,客観的な独占の利益の有無が問題とされている特許法35条の対価
請求訴訟において使用者企業が改めて実施の有無や有効性を検討し,その評価につ
いて争うことを妨げられるものではない」。
【独占の利益の有無,相当の対価の計算について】
原判決22頁11行目の後に,改行して,以下のとおり付加する。
「本件各発明を利用したレーザーカプラータイプの光学ピックアップを,被控訴
人のみが製造し,他社が現にライセンスを受け製造していないという事実は,第三
者が被控訴人から実施許諾を受け,本件各発明を実施することができなかった事実
を端的に表すものである。
平成3年のPS発売以降,PSは,ゲーム機の分野において圧倒的なシェアを有
していたものであり,被控訴人が本件各発明をライセンスの対象にすることは,お
よそ考えられず,被控訴人が得た利益が『本件各発明の独占』の結果に基づくも,
のではないとの原判決の認定は,経験則に明白に反するものである」。
原判決24頁17行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。
「このように,レーザーカプラータイプは,顧客であるSCEが要望していたほ
か,価格的優位性,性能的優位性,差別的優位性が認められ,作用効果の点で,代
替技術(ディスクリートタイプ)との間に顕著な差異があったものである。
そして,乙28ないし30上の,●(省略)●との記載については,被控訴人が
承認し,それに基づき発明者らに特別褒賞がされているものであり,原判決は,本
件各発明の利用により著しい費用の節減効果があった事実を被控訴人が認めていた
ことを無視する不当なものである。
また,被控訴人が製造する2種類のベースユニット(KSM330,KSM44
0)は,ほぼ同一形状で同じ大きさをしており,これらのうちKSM330(ディ
スクリートタイプの製品)の方が安価であるにもかかわらず,PS等には,価格が
より高いレーザーカプラータイプの光ピックアップが採用されている。
このように,レーザーカプラータイプが採用された理由は,信頼性及び温度特性
が優れているからにほかならない。すなわち,家庭用ゲーム機(PS等)について
は,家庭用オーディオ機器に比べて高い信頼性を求められたため,ディスクリート
タイプが研究開発によって家庭用ゲーム機としての信頼性を満足させるまでの間
(PS等につき平成6年から平成16年までの間,レーザーカプラーの代替技術)
となり得なかったものである」。
原判決25頁13行目の後に,改行して,以下のとおり付加する。
「なお,本件各発明のライセンスを受けることができた潜在的ライセンシーは,
●(省略)●社にすぎなかったものであり,このような状態をもって,開放的ライ
センスポリシーが採用されていたと判断することはおよそ不可能である。そして,
これら●(省略)●社についても,ゲーム機用の光学ピックアップを販売する会社
が含まれることが一切明らかにされておらず,仮にそのような会社があったとして
も,同会社が代替技術を利用したという関係も認められない以上,乙24の契約の
存在のみをもって,被控訴人に生じた独占の利益を否定することはできない。
そもそも,本件各発明がライセンスの対象となるとの明示的な規定は一切存在し
ないところ,単に,抽象的に本件各発明をライセンスし得る可能性があったという
理由のみをもって『合理的な実施料率で許諾する方針が採用されていた』という,
結論を導いた原判決には,論理の飛躍がある。
また,独占の利益の存在を否定するのであれば『クロスライセンスの対象とな,
っているにもかかわらず,実施がされていない』ことが必要であるところ,原判決
は,本件各発明がクロスライセンスの対象となるか否かについての判断を欠いてい
る。
,,PSについては平成6年12月3日から大々的に発売が開始されているところ
その直後に締結されたクロスライセンス契約において,契約製品の範囲にゲーム機
が例示されていないのは,PS等のゲーム機をクロスライセンスの対象から除外す
る当事者の意思を明確に表すものである。
また,被控訴人は,本件各発明を実施する際の技術内容を非公開とすることによ
り,潜在的ライセンシーが許諾を受けようとすることを事実上妨げる方針を採って
いたものである。
なお,PS2については,DVDフォーマットが用いられているところ,被控訴
人主張のジョイントライセンスは,あくまで『本件許諾製品(CDオーディオプ』
レーヤー,CD−ROMプレーヤー等を指す)のみを対象とするものであり,本。
件ジョイントライセンス契約の存在に加えて,単にDVDフォーマットに関してラ
イセンスを受けさえすれば,PS2用の光学ピックアップの製造が可能になるもの
ではない。
オSCEが,平成16年にディスクリート方式を採用したことにより,被控訴
人と競合する他社メーカーの参入が可能となり,被控訴人はSCEに対する光学ピ
ックアップの独占的な納入ができなくなったことからしても,新型PS2が発売さ
れるまで(平成6年から平成16年まで)の間,レーザーカプラー方式に代わる技
術がなかったことは明らかである。
カ平成6年から平成16年の間に販売されたPS等については,被控訴人の認
識(家庭用ゲームという分野の存在)からしても,売上規模からしても,それ自体
が独自の市場を形成するものである。
そして,同市場においては,レーザーカプラータイプの光学ピックアップしか採
用しないという被控訴人の顧客SCEの意向が反映された結果,本件光学ピックア
ップが100%採用されることになったものであり,同市場における代替技術を観
念する余地はない。
したがって,本件各発明における超過利益を算定する際には,代替技術が存在す
る他の市場と本件市場(独占率100%)との比較によってこれを明らかにする方
法も考えられる。
なお,平成6年から平成16年までの間,被控訴人が販売したPS等以外の光学
ピックアップ全般の市場シェアについては,50%を超えるとの記載はない。
他方で,被控訴人のPS2用光学ピックアップ(ディスクリートタイプ)のシェ
アは0%と考えられ,仮にそうでなくとも,50%以上にならないことは明白であ
る」。
原判決25頁14行目の「オ」を「キ」と改める。
原判決25頁24行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。
「本件において,PS等に搭載する光学ピックアップは,レーザーカプラータイ
プのものである必要はなく,ディスクリートタイプのものでもよかったのであり,
代替技術が存在しないとの主張は,客観的な事実に反するものである」。
原判決26頁12行目の「すぎない」を「すぎず」と改めた上で,以下のとお,
り挿入する。
「代替技術に比較して,本件各発明はもとよりレーザーカプラータイプの光学ピ
ックアップは,性能及び価格面において優位性を有しない」。
原判決26頁24行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。
「そして,新型PS2において,ディスクリートタイプの光学ピックアップが搭
載されたのは,当時,被控訴人以外の各社が,ディスクリートタイプの光学ピック
アップを量産しており,その価格がかなり下がっていたため,コストダウンのため
に採用されたにすぎない。
実際,PS2の最近の機種では,被控訴人もディスクリートタイプの光学ピック
アップを他社から購入して使用している。
(エ)被控訴人は,当初,家庭用ゲーム機の大手である任天堂に対して,ゲーム用
の音源である電子回路を供給していたが,やがて,CD−ROMを媒体とする家庭
用ゲーム機の開発を検討するようになり,任天堂と袂を分かち,被控訴人が単独で
開発することになった。
そして,被控訴人は,平成5年11月16日,新しいゲーム機事業のために,グ
ループ会社のソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)と共同出資で,
SCEを設立した。
ゲーム機本体では,短期間での開発の目的等のため,被控訴人が従来から開発し
てきた音響・映像技術ができる限り応用された。CD−ROMの読み取り装置であ
る光学ピックアップもその一つである。ホログラムタイプについては,被控訴人は
,,。,製造しておらず秘密裏に行われていたために外注は望ましくなかった他方で
被控訴人が商業的に使用しており,製造設備も保有していた二つのタイプ(ディス
クリートタイプ及びレーザーカプラータイプ)のうち,レーザーカプラータイプに
ついては,ポータブルCDプレーヤーの薄型化のために開発されたが,同機の販売
高は大きくなく,レーザーカプラータイプの開発製造の初期投資を回収できない状
態にあった。このため,被控訴人の全社的な損益を考慮して,SCEがレーザーカ
プラータイプの光学ピックアップを採用したものであり,レーザーカプラータイプ
の光学ピックアップが本件各発明で保護されることが,採用の判断基準とされたも
のではない。
以上のとおり,最終製品の構成部品の採用や仕様決定は,当該最終製品の開発の
経緯に左右されるものであり,PS等用の光学ピックアップをレーザーカプラータ
イプのものとした際に,本件各発明の他社による実施を排除することが意識された
ものではない」。
原判決26頁25行目の「(エ)」を「(オ)」と改める。
原判決28頁24行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。
「また,実際に乙24の契約書のひな型に従って契約を締結した企業(ライセン
シー)が●(省略)●社であったとしても,それ以外の企業も希望すれば誰でも乙
24のライセンス契約を締結し,その結果として周辺特許である本件各特許につい
ても許諾を受けることができたから,潜在的なライセンシーは●(省略)●社に限
られない。
このほか『潜在的ライセンシー』は,被控訴人においてライセンス供与の意思,
はあるものの,まだライセンスの供与を受けていない者をいうところ,そのような
者に対し,特許公報等に開示されている情報以上に,被控訴人が詳細設計や製造に
関するノウハウ等の技術情報までを事前に供与することは一般的にあり得ない。特
許権者が,上記ノウハウ等の技術情報まで公開しているかどうかは,特許発明につ
いてのライセンスポリシーが開放的かどうかとは無関係である。
なお,合理的な実施料率は,一義的に決定されるものではなく,当該相手方にお
ける特許発明の実施の状況,当該相手方が他に受けているライセンスの内容等を考
慮して,ケースバイケースで決せられるものであり,個別に実施許諾をすることを
希望する者がいなかった本件各特許については,被控訴人は『合理的な実施料率で
これを許諾する方針を有していた』というほかない」。
原判決29頁5行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。
「(エ)光学ピックアップは,本来汎用性を有するものであるが,PS,PSOn
e,PS2(PS等)は,被控訴人の子会社であるSCEの特定の仕様のゲーム機
である。一方,乙24のライセンス契約に基づくライセンシーが,レーザーカプラ
ータイプの光学ピックアップが搭載されたCD再生機器を製造した場合,当該ライ
センシーは,当該CD再生機器をゲーム機に組み込むことが特に禁止されていなか
ったことは,乙24から明らかである。
,,.)また乙25の包括クロスライセンス契約においてはその添付書類Aの12
に『CDプレーヤ,同4)には『光ヘッド,同5)には『コンピュータ,コンピ』』
ュータ周辺装置(プリンタ/FDD/CD/MD応用装置を含む』が記載されて)
おり(これらは例示であるから,DVDも当然に含まれる,本件各発明に関する。)
光学ピックアップを使用したCD/DVD装置が『契約製品』に含まれることは明
らかである」。
原判決29頁6行目の「(エ)そして」を削除し「このように」を加える。,
原判決29頁18行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。
「ウ『独占の利益』が肯定されるには,発明を使用者のみが実施していたこと
にとどまらず,当該特許権の保有と競業他社の排除との間に因果関係が認められる
。,,ことが必要であるしたがって単にPS等に搭載されていた光学ピックアップが
他社製ではなく被控訴人製のものに限定されていたからといって,独占の利益が存
在することにはならない。
また,平成6年から16年にかけて,コンピューターゲームにおいても,任天堂
や松下電器産業及びセガエンタープライズなどがコンピューターゲームを製造販売
しており,これら各社は,レーザーカプラータイプの光学ピックアップを使用して
いなかった。
このほか,被控訴人が,レーザーカプラータイプの光学ピックアップの製造を下
,,,,請けに出すか否かは自己の製造能力下請けの品質価格などを考慮して定める
自己実施の範囲内におけるビジネス判断の問題であり,ライセンスとは関係のない
問題である。
仮に,光学ピックアップの外販を行っても,それは被控訴人自身の製造販売であ
り,ライセンスの問題ではなく,また,新たなピックアップの購入者は,これを使
用する装置の他の部分の設計変更を余儀なくされ,その導入に慎重になるはずであ
り,外販できなかったこととライセンスの不存在とは関係がない。
エ改正前特許法35条3項の『相当の対価』の算定に際して同条4項で考慮さ
れる『発明により使用者等が受けるべき利益』は,使用者が同条1項に基づき法律
上有する無償の通常実施権に従って特許発明を実施することによる利益,すなわち
特許実施品を自ら製造販売することによる利益自体は対象とされず,控訴人が主張
するような使用者たる被控訴人の自己実施の売上高自体からの利益を直接的に発,『
明により使用者等が受けるべき利益』であるとしたものではない。要するに,被控
訴人の販売先であるSCE向けのPS等用の製造・販売は,全体として特許法35
条1項の無償の通常実施権に基づく自社実施そのものと考えられるべきであり,そ
のいかなる一部であれ,通常実施権を超える独占権の享受としてみることはできな
い。
控訴人は,通常実施権を超える独占権を付与したことによる利益,すなわち『独
占の利益』と,同一顧客に対する一社納入という当該顧客に関する限りの事実上の
独占的取引とを混同するものである。
使用者の自己実施さえ存在すれば必ずその部分に通常実施権の実施を超える独占
の利益が存在するというのでは,同法35条1項が無償の通常実施権を法定した意
義がなくなり,又はその範囲が極めて不明確になるので,到底認められない。
一般的にも,最終製品のメーカーがどのような仕様の構成部品をどの部品メーカ
ーから調達するかは,最終製品の設計段階での開発協力の有無から始まり,最終的
には安定供給の可能性,コストのバランス,品質の維持,自社製品との整合性等を
含めて判断する問題である。この点は,当該部品について代替技術,代替製品が存
在する場合にはとりわけ該当するが,反対に,それぞれの競合製品がその部品メー
カーの保有する特許によって保護されているか否かという点が最終製品のメーカー
の決定を左右することはない。
かかる意味でも,SCEのPS等用向けの販売を本件各特許の製品の独立した市
場とする控訴人の主張は合理性を有しない。
オ裁判例について
東京地裁平成18年6月8日判決(三菱電機事件判決)が『独占の利益』につい
て示した判断基準によれば,自己実施と実施許諾が並存する場合においても,事案
ごとに諸事情を検討し,自己実施からの独占の利益が生じる場合もある。しかし,
実際には,自己実施と実施許諾が並存する具体的事件においては,自己実施分に独
占の利益を認めることは極めて慎重に抑制されてきたものである。
なお,三菱電機事件判決が示した判断要素のうち『特許権者が当該特許につい,
て有償許諾を求める者にはすべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針(開放的
ライセンスポリシー)を採用しているか,あるいは,特定の企業にのみ実施許諾を
する方針限定的ライセンスポリシーを採用しているかについては前段の開()』,『
放的ライセンスポリシー』を採用している場合には,他の判断要素に該当する事実
の有無に関係なく,自己実施からは独占の利益が生じないというべきである。
他方で,判断要素のうち『代替技術と当該特許発明との間に作用効果等の面で,
』,。技術的に顕著な差異がないかは詳細な技術面からのみ比較されるべきではない
特許発明の明細書には,公知技術との効果の差異が記載されていることが通常であ
るが,競業他社又は特許権者自らが公知の技術を実施しているからといって,公知
技術は『代替技術』を構成しないと解されるべきではない。競業他社等が代替技術
を実施するかどうかは,当該製品の使用目的・市場の需要・市場の要請する品質の
レベル・製造コスト・価格競争力・当該競業他社の従前の蓄積技術,新規生産設備
の安否等の総合的な判断を含め,企業の経営判断により決定されるものである。ま
た,代替技術が,当該特許発明の明細書の作用効果を具備しないからといって,直
ちに市場の競争力が失われるものでもない。このように『代替技術』と当該特許,
との比較において『技術的に顕著な差異』の有無はもともと強調される要素とす,
べきではない。
なお,平成21年2月26日知財高裁判決(キャノン控訴審判決)及び同年6月
25日知財高裁判決(ブラザー控訴審判決)は,特異な判断手法を採用した。上記
2判決は,使用者が,当該発明を自ら実施しつつ,他社に実施許諾をしている場合
について,特許法35条1項の無償の法定通常実施権に基づく実施を超える実施部
分からの『超過売上げ』を算定するために,自己実施の売上げから『通常は50∼
60%程度の減額をすべき』としている。
,,しかし自己実施と他社への実施権の許諾が並存する場合においての自己実施は
法定通常実施権の範囲内の実施と考えるべきである。上記2判決は,いかなる理由
により独占の利益ないし超過売上げを認めたり,独占の利益を自己実施の売上げか
ら『通常は50∼60%程度の減額をすべきである』のか全く述べていない。しか
も,上記2判決は『通常は50∼60%の減額』という判示を,対象職務発明の,
独占の利益ないし超過売上げの具体的な算定のすべての出発点ないし前提としてい
るところ,かかる重要な法律的判断について何ら理由を付さないことは,真に恣意
的な解釈であり,かつ,50∼60%以上の減額をする事実は,被告たる使用者・
特許権者が主張立証する必要が生じ,法律上の根拠がないまま,主張立証責任を転
換するものであって,不当な判断手法である。また『通常』とはいかなる場合を,
意味するのか,裁判所が『通常』ではなくそれ以上又はそれ以下の減額をするため
の判断基準は全く示されていない。このため,上記2判決の判示は,恣意的な判断
を許容する幅が著しく大きく,改正前特許法35条4項の合理的な解釈・適用のた
めには不適切であることが明らかである」。
原判決29頁19行目の「ウ」を「カ」と改める。
原判決29頁20行目から22行目を削除し,以下のとおり挿入する。
「既に製造技術や品質技術を確立し,ユーザーを確保しているディスクリートタ
イプやホログラムタイプの光学ピックアップのメーカーが,新たにレーザーカプラ
ータイプの光学ピックアップを開発,製造,商品化し,顧客に最終製品の仕様を変
更して新たな光学ピックアップを採用させるには,光学ピックアップのメーカーも
それを採用する最終製品のメーカーも,その採用による追加の開発・投資が必要で
あるから,よほどの特別な利点がなければならない。しかし,これら3つのタイプ
の光学ピックアップの間に,こうした初期投資と開発費の負担と成就しないかもし
れないリスクを超えて,あえて光学ピックアップのメーカー又はその顧客に採用を
望ませるような商業的・技術的に顕著な効果や経済的な相違は見出せない。
以上のような状況において,被控訴人から本件各発明のみならず光学ピックアッ
プに関する実施権の許諾を受けて,実施料を支払い,新たな設計・製造の開発を行
い,製造のための投資をし,顧客を開発するリスクを負う企業が存在すると認定す
る合理的な根拠はない。
したがって,本件においては,レーザーカプラータイプの光学ピックアップの製
造のために本件各発明の実施権を受ける仮想的実施権者とそのシェアは50%どこ
ろか,いささかも想定することはできず,超過売上高の割合は0%である。
控訴人は,超過利益が50%であると主張し,市場のシェアに関する主張を追加
するのみで,その具体的根拠につき何ら主張立証しておらず,被控訴人が主張立証
し,原判決が認定したところの,超過売上げの不存在という事実を覆すに足りるも
のではない」。
原判決29頁23行目の「エ」を「キ」と改める。
原判決30頁4行目の「かんがみれば」の後に「利益率ないし」を挿入する。,
原判決30頁7行目から12行目までを削除し,以下のとおり挿入する。
「改正前特許法35条4項の『相当の対価』は,雇用者と発明者たる従業員等と
の間で,当該発明の使用から得た利益を配分することを目的とするものではなく,
従業員等が職務において発明を行うためのインセンティブの性質を有するものであ
る。したがって『利益』の配分を前提にして,利益率を乗ずる控訴人の主張は誤,
りである。
,,このような場合には仮に第三者が本件各特許の実施権の許諾を受けるとすれば
どのような実施料率を支払うであろうかという仮想的実施料率を検討すべきであ
り,本件では,仮想的な実施権者は,少なくとも被控訴人の有する光学ピックアッ
プのすべての特許の包括的な実施権の許諾を要請するのが通常であり,その場合,
全特許に対する包括的な実施料率が5%の高率になるとは想定できない。
また,社団法人特許協会が行ったアンケート調査の結果からすれば,電子・通信
用部品の分野における一般的な包括ライセンスの実施料率は,いかに高くとも2%
ないし1.5%が上限とされるべきである。
なお,被控訴人は,光学ピックアップやレーザー技術について極めて多数の特許
を保有している。特許庁が調査し,公表した『平成17年度特許出願技術動向調
査報告書光ピックアップ技術(要約版(乙34)には,1990∼2003)』
年の光ピックアップ関連発明の特許出願件数は,被控訴人が『5402件』で第1
位であり,同期間中の被控訴人の特許取得件数は『1094件』で第2位とされて
いる。このほか,レーザー技術の特許を併せると,被控訴人が保有する関連特許及
び実用新案は合計●(省略)●件にも達する。
かかる場合に,仮想的な実施料率を適用するときにも,上述の多数の保有特許を
対象とする包括ライセンスが想定されるべきであり,その場合,特に本件各特許を
重視して実施権の許諾を求められたこともない本件においては全保有特許数●省,(
略)●件と本件各特許(3件ないし5件)の数との按分比例とすべきである」。
原判決31頁8行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。
「なお,本訴で控訴人が請求するのは,あくまで被控訴人が平成6年から平成1
6年までの間,SCEに販売した『レーザーカプラータイプの光ピックアップ』に
つき,被控訴人が独占販売することにより得られた利益に対する相当対価である。
したがって,被控訴人ではなく,SCEの宣伝広告等による売上拡大や,SCE
による投資は,本訴請求とは直接の関係を有しない。
『被控訴人が独占販売することにより得られた利益』に関し,本件各発明におけ
る被控訴人の貢献度を判断するに当たっての判断材料は『被控訴人が負担した研,
究開発費,研究設備費,資材,発明者の給与等』に求められるべきである。
また,ROI(投資利益率)の極大化は,企業にとっては自明の目的であり,そ
のために被控訴人が研究開発費を支出したとしても,それは通常の企業活動の一環
として負担しただけにすぎず(すべて固定費として償却済み,本件での『独占の)
利益』に関して被控訴人が格別の貢献をしたとの事情は見当たらない。
,,『』このほか被控訴人が自身の貢献度を示す事実として挙げるRプロジェクト
は,他社が自由に生産可能な『2波長レーザー』の開発・量産に貢献したことを示
すにすぎない。被控訴人は,このプロジェクトが他社に対して独占的排他権を有す
る『2波長レーザーカプラー』の開発・量産に何ら貢献していない事実を認めたこ
とになる。
控訴人は,あくまで,控訴人が『2波長レーザー』ではなく『2波長レーザーカ
プラー』の開発に寄与したことをもって控訴人の貢献があると主張するものであ
る」。
原判決31頁12行目を削除する。
原判決31頁13行目の「イ」を「ア(ア)」と改める。
原判決31頁18行目の「また」から,32頁9行目までを削除し,改行した,
上で,以下のとおり挿入する。
「そして,PSの売上増加の最大の要因は,ファイナルファンタジー,ドラゴン
クエスト等のキラーソフトの発売を含めたソフトウェア戦略にある。なお,PSo
neは,単にPSを小型化したものであり,その機能や利用できるゲームソフトに
変わりはないため,その売上要因は,上記のPSの売上要因と同様である。被控訴
人ないしSCEは,多様かつ魅力的なゲームソフトをそろえることに成功し,その
結果,多くのユーザーがPSでそれらのゲームをしたいと考え,PSの売上げが伸
びたのである。
被控訴人ないしSCEのソフトウェア戦略における工夫及び努力については,様
々なものがあるが,いずれも,光学ピックアップの種類がどのタイプかという点に
関わるものではない。
また,ソフトウェア戦略以外にも,効果的な宣伝広告,コントローラ(立体的で
グリップ形状に特徴があり,使いやすいもの)その他のハードウェアの斬新なデザ
イン設計の開発努力,機器全体の高度な性能等,複数のPSの成功要因が挙げられ
るが,いずれも,光学ピックアップの種類とは関係がない。
したがって,PS及びPSoneの売上要因と本件各発明とは無関係である。
なお,PSでは,それまでの16ビットゲームではなく,32ビットゲーム機を
,,,導入したことで処理能力が格段に高く扱えるメモリの容量も圧倒的に多いため
CG技術や3D映像においても極めて高度なゲームの製作が可能になったものであ
る。
(イ)さらに,PS2については,前述のPSの売上要因に加え,①PSのソフト
がそのままPS2でも使用できたこと,②PS2用のゲームソフトの充実したライ
ンアップにも成功したこと,③DVD再生機能を兼ね備えていたこと,④美しい3
次元CG画像を描写できる高性能のゲーム機であったこと,⑤高性能であるにもか
かわらず安価であったこと,⑥半導体の調達に成功し需要に応じた供給を実現でき
たこと,⑦いち早くコンテンツ配信サービスを開始したこと等の諸理由により,P
S2機本体の売上げを伸ばすことができたものである。そして,これらの成功要因
,。はレーザーカプラータイプの光学ピックアップを採用したこととは無関係である
(ウ)本件各発明は,PS等のゲーム機の一部分であるディスクドライブのさらに
一部分である,光学ピックアップのさらに一部分であるレーザーカプラーに関する
発明にすぎないことからすれば,本件各発明の貢献が50%であることはあり得な
い。
イCD等に用いられていた光学ピックアップは,当初は多数の部品から構成さ
れていたが,個々の部品の価格も比較的高額であり,部品数が多くなるとコストも
増大するほか,各部品の位置調整も困難となるため,光学ピックアップの部品数を
減らす方向での研究開発が行われていた。レーザーカプラー技術及びそれ以前から
被控訴人において研究開発が進められていたLOP(LaserOnPhotodiode)技術
は,いずれもこのような部品点数を減らすという基本的発想の下で研究開発が進め
られていたものである。
乙らの発明等に開示されているレーザーカプラーの基本構造には,プリズムを用
いる方式と,プリズムを用いない方式とが考えられていたが,昭和60年初めころ
から,既に,乙,丙,丁等の研究開発関係者の間では,プリズムを用いない方式で
は,技術的に製造が難しい点があるため,プリズムを用いる方式の方が実現性が高
いという認識があった。なお,乙32(乙)発明と,本件発明Aの特許請求の範囲
の記載は,ほとんど違いがない。
以上のとおり,レーザーカプラーの基本構造は,控訴人ではなく,乙が発案した
ものであり,レーザーカプラーについての初期の研究開発は,控訴人が光デバイス
部に異動する前から,乙らにより進められていた。
また,レーザーカプラーの構想の前提として,被控訴人の半導体事業本部等にお
けるLOP(LaserOnPhotodiode)技術等の長年にわたる技術の蓄積があった。
これらの事情は,本件において被控訴人の貢献として考慮されるべきである。
さらに,レーザーカプラータイプの光学ピックアップの開発は,複数の事業本部
により共同して行われ,多数の従業員が関与し,製造ライン立上げに至るまで約6
,,。,,年もの間試作を繰り返し様々な問題点について検討が行われたまた製品化
量産化については,初期の段階で少なくとも●(省略)●円程度を支出することが
予定されていた。したがって,被控訴人は,レーザーカプラータイプの光学ピック
アップの研究開発についても多大な貢献を果たした。
前述のとおり,レーザーカプラーの開発は,LOPの開発の延長線上で行われた
ものであり,LOPの開発にも多数の従業員により研究開発や費用の支出が行われ
たことをも考慮すると,レーザーカプラータイプの光学ピックアップについて被控
訴人の貢献は極めて大きいものである。
ウPS等における技術的特徴は,より美しくリアルで高度な3次元CG画像の
処理技術にあり,これらの画期的な3次元CG画像処理技術は,被控訴人において
長年にわたり研究開発が行われてきた画像処理技術を基礎に,さらに,非常に高性
能のコプロセッサGTE(GeometryTransferEngine,GPU(描画演算処理装)
置,EE(エモーション・エンジン,GS(グラフィック・シンセサイザ)等の))
演算処理技術の開発・搭載により達成されたものである。
これらの極めて高度な技術が,PS等の売上拡大の技術的要因となったものであ
り,これらの技術は,光学ピックアップとは無関係である。
そして,SCEは,高性能の画像処理用の半導体を重視した製品設計を行い,P
S等の研究開発のために合計●(省略)●円,半導体生産設備だけでも,少なくと
も合計約2450億円を投じている。これらだけを見ても,PS等の売上に多大な
貢献をしている。
このように,PS等用光学ピックアップの売上げは,被控訴人及びSCEの多く
の技術者により,PS等の極めて顕著に優れた画像処理技術とそれを可能にした演
算処理機能を有する半導体装置,半導体装置製造の工場設備に対する巨額の投資に
よるものである。
エなお,2波長レーザー技術は,CD用とDVD用の2つの異なる波長のレー
ザーを,1つのチップから出射し,1つの光学ピックアップで処理するという技術
であり,同技術は,PS2により最初に商業化されたものではあるが,レーザーカ
プラーやPS2に特有な技術ではない。また,甲21の1∼5のとおり,PS等に
搭載された2波長レーザー技術は,控訴人が属していないPS2用の光学ピックア
ップの開発プロジェクトである『Rプロジェクト』のメンバーによる多大な努力の
結果,開発に成功したものである。そして,SCEは,2波長レーザー技術を搭載
したPS2用光学ピックアップの開発のために,少なくとも●(省略)●円を支出
した。
このように,2波長レーザー技術は,本件各発明とは関係がなく,むしろ被控訴
人の貢献を示す事情として考慮されるべきものである。
なお,SCE及び被控訴人の技術者が招集され遂行されたPS2用の光学ピック
アップ開発プロジェクトである『Rプロジェクト』に関する被控訴人の貢献が斟酌
されない理由はない。また,同プロジェクトに控訴人が招集されなかったことは,
控訴人のPS2用の光学ピックアップの開発に対する貢献がなかったことを示すに
十分である。
オ以上からすれば,PS等用光学ピックアップの売上げに対する貢献度は,被
控訴人によるものが圧倒的に大きく,一方,本件各発明の発明者の貢献割合は極め
てわずかであって,例えば0.5%にもはるかに及ばないものである」。
原判決32頁13行目の「完成した後」の後に「,本件各発明を用いた光ピッ,
クアップが商品化される前」を付加する。
原判決32頁16行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。
「実用化されたレーザーカプラーの開発リーダーは,昭和60年10月以降,一
時期を除き,一貫して控訴人であり,この点に関し,共同発明者であった戊や己か
ら異論は出ていない」。
原判決32頁20行目の後に「このほか,PS2用2波長レーザーカプラーの開
発についても,控訴人が定例会議を主催した(甲40,41」を付加する。)。
原判決32頁25行目を,以下のとおり改める。
「本件各発明についての共同発明者間の控訴人の寄与割合は,多くとも各発明の
共同発明者の人数に応じて頭割りした割合(本件発明AないしD:3分の1,本件
発明E:4分の1ないし5分の1)にすぎない。
なお,本件訴訟は,控訴人により提起された職務発明対価請求訴訟であり,対象
となる発明を選択したのは控訴人自身であるから,控訴人が本件各発明のすべてに
関与しているのは当然である。また,PS等に採用されている光学ピックアップに
関しては,控訴人を発明者としない様々な被控訴人保有の特許発明が,本件各発明
以外に存在する。
したがって,本件各発明すべてに控訴人のみが関与しているからといって,控訴
人が主導的な役割を果たしたことの根拠にはなり得ない。
また,控訴人は,自身が本件各発明のされた時期に開発リーダーとして主導的な
役割を果たしたことを示す具体的な事実を,何ら主張立証していない。
控訴人からは,発明から製品化の全工程に関与したことを示す具体的な事実の主
張や立証はない上,仮にこれが真実であるとしても,単に発明から製品化までの工
程に関与しただけで,控訴人の寄与割合が増大するものでもない。加えて,そもそ
も製品の実用化は,本件各発明の完成とは無関係である。
このほか『重要な周辺技術(甲8ないし13)の開発への貢献や製品実用化の,』
ための技術についての貢献は,仮にこれがあったとしても,本件各発明の完成とは
関係がない。また,控訴人は,ここでも抽象的な主張をするにとどまり,具体的な
事実の主張や立証はない。
なお,前述のとおり,プリズムを用いた構造を含むレーザーカプラーの基本構造
の発案は,乙により行われ,控訴人が精密機器部(後の光デバイス事業部)に異動
してくる前の初期の研究開発は,乙,丙及び丁により既に行われており,これらに
つき特許出願及び実用新案登録出願もされている。
また,レーザーカプラーの商業化に向けた開発は,精密機器部だけでなく,丁等
が所属する半導体事業本部やオーディオ事業本部を含む多数のメンバーにより開発
が進められたものである。
,。以上のとおりレーザーカプラーの基本構造の発案を行ったのは控訴人ではない
なお,乙の記憶によれば,本件発明B及びCのようなD3DF方式(3分割され
た2つの光検出器を焦点前後に配置し,これらの出力の比較からフォーカス誤差を
検出する方式)の考案は,主に戊が行ったとのことである」。
原判決33頁8行目の「1億0249万台」を「1億0103万台」と改める。
原判決33頁9行目の「7389万台」を「7172万台」と改める。
「」「」。原判決33頁24行目の3億8433万円を3億7886万円と改める
「」「」。原判決33頁25行目の1億0249万個を1億0103万個と改める
原判決34頁3行目の「3億6945万円」を「3億5860万円」と改める。
原判決34頁4行目の「7389万個」を「7172万個」と改める。
原判決34頁7行目の「7億5378万円」を「7億3746万円」と改める。
原判決34頁8行目から11行目までを削除する。
原判決34頁12行目の「カ」を「オ」と改め「7億5378万円」を「7億,
3746万円」と改める。
原判決34頁15行目を,以下のとおり改める。
「アPS等に搭載された本件光学ピックアップの価格については,別紙『売上
台数・平均価格一覧表』のとおりである。
なお,PS及びPSone用の光学ピックアップ製品(KSM・440)は,光
学ピックアップ自体だけでなく,スピンドルモーター,ラック及びピニオンを含む
移送機構,並びに,フレーム等の他の部品を組み合わせた,いわゆる『ベースユニ
ット』といわれる形態の製品であり,そのような形態で販売されていた。
上記の光学ピックアップの年度平均価格として記載されている価格も,このベー
スユニットとしての価格であるところ,同価格のうち,光学ピックアップ以外の部
品の価格の占める割合は,年度や部品の種類にもよるが,少なくとも●(省略)●
割を下ることはない。
したがって,別紙『売上台数・平均価格一覧表』にPS及びPSone用の光学
ピックアップの年度平均価格として記載されている価格のうち,光学ピックアップ
自体の価格は●(省略)●割以下である。
イ本件光学ピックアップを搭載したPS等の販売数量は,別紙『売上台数・平
均価格一覧表』のとおりであるが,日本において製造も販売も使用もされていない
光学ピックアップの数量については,判明していない。
ウ以上からすれば,本件光学ピックアップの売上高の合計は,●(省略)●円
となる。
仮定に仮定を重ねて,控訴人に最大限有利に計算しても,被控訴人が控訴人に支
払った褒賞金の額は,相当対価額を超えており,結局,対価は支払済みということ
になる」。
【消滅時効について】
,。原判決34頁18行目から35頁10行目までを削除し以下のとおり挿入する
「ア本件発明考案規定の第5条1項は,特許登録された発明が,実施又は実施
許諾された場合を前提として実施報奨金を支給すると定めている。したがって,発
明が実施又は実施許諾された場合には,実績補償としての実施褒賞金の請求権の行
使が可能となるというものであり,その支払時期は,特許権の設定登録時,当該発
明の実施又は実施許諾時のうち,いずれか遅い時点である。
本件発明D及びEは,米国において,平成元年10月10日及び平成2年1月9
日に,それぞれ設定登録された。
他方で,被控訴人は,本件発明D及びEの実施を前提として,控訴人に対し,本
件発明Dの実施褒賞金として,平成4年6月8日以前に●(省略)●円を,本件発
明Eの実施褒賞金として平成4年6月8日以前に●(省略)●円を,それぞれ支払
った。
本件発明考案規定に基づく本件発明D及びEの実施褒賞金の支払時期は,各支払
日以前であり,本件発明D及びEの実施褒賞金についての消滅時効は,上記各支払
によりそれぞれ中断し,上記各支払の時点から,再び進行を開始した。
イ本件発明考案規定4条,5条及び6条(3)の規定は,出願表彰については4
条に基づき『国内』と『外国』とを区別して外国出願については単位ごとに褒賞,
金を支給するが,実施褒賞については『国内』と『外国』を区別せず,6条(3)に
基づき複数の国を一つの単位とみなして1個の表彰を行うことを規定したものと解
するのが合理的な解釈である。
また,実際,被控訴人においては,一つの発明について,日本を含む複数国に出
願した場合,その複数の出願をあくまで一つの単位として扱い,一単位につき1個
の表彰を行うという運用がされてきた(乙22。)
したがって,原判決の判断に誤りはない。
また,本件発明考案規定4条においては『表彰』という題名の下で出願表彰に,
ついてのみ規定されていることからすれば,本件発明考案規定における『表彰』の
文言が,控訴人が主張するような統一的な用いられ方をしていないことは明らかで
ある。
このほか,実施褒賞の申請がされた場合,過去に対応する外国特許の褒賞があっ
たか否かにかかわらず,一旦受理した上で,調査の結果,過去に対応する外国特許
の褒賞があった場合には選外とするのが,被控訴人の運用である。
したがって,実施褒賞の申請が受理されたことと,対応する外国特許について実
施褒賞がされた後は国内特許について実施褒賞は行われないとの被控訴人の主張と
は,何ら矛盾するものではない。
なお,本件発明考案規定5(1)の『1年毎に審査』とは,登録を受けた発明につ
いて,毎年1回,特別表彰の審査を行うという意味であり,同審査は,毎年1回,
前回の審査の対象期間以降の特許発明について審査を行うものであり,一度特別表
彰の審査を行った発明については,次回以降は審査の対象とはならない(乙22参
照。)
また,平成9年5月の改正によって,一度特別表彰の審査を受けて表彰された発
明についても,5年後に再度特別表彰の審査を行うという再表彰制度が設けられた
が,これは平成9年改正前には行われていなかった制度であり,制度導入前に表彰
された発明については,適用されない。平成9年5月の改正発明考案規定(乙4)
の6条4項に『1997年度以降,特別表彰を受けた従業員は,5年後に同じ発明
での特別表彰の審査を再度受けることが出来る』と記載されているとおりである。
被控訴人においては,従前より,特許が登録された時点で,発明者に対し,特許
が登録され実施褒賞の推薦書の提出が可能である旨の通知書を出し,発明者に実施
,,褒賞の請求が可能であることを知らせており本件でも同様の通知を出したところ
それに応じて,控訴人を含む発明者から実施褒賞の推薦書が提出され,それに基づ
き,本件発明D及びEにつき褒賞金が支払われたものである。
ウなお,知財高裁平成20年10月29日判決(三菱化学事件判決)は,職務
発明の承継からこれを実施した製品の販売を開始するまでに極めて長期間を要する
医薬品にかかる特許発明に関する特殊な事案であり,しかも,同判決は,その後定
められた特許報奨取扱い規則において『営業利益基準』に基づき一定の報償金が,
支払われること,及び,同『営業利益基準』が報奨申請時の前会計年度から起算し
て連続する過去5会計年度における対象事業の営業利益を基準とするものであるこ
とが規定されていることをもって,相当対価支払債権の消滅時効の起算点は各職務
発明の実施から5年を経過した時点であると判断されたという特別の事情のある事
案である。
これに対し,本件発明考案規定においては『工業所有権の登録を受けた発明の,
実施あるいは実施許諾によって特に顕著な功績が挙がった場合には,これを1年毎
に審査の上当該発明者を特別に表彰することがある』と規定されており,三菱化。
学事件判決のように,報奨金の計算について過去数年分の営業利益を基準とする旨
の記載はない。
また,本件で問題となっている光ディスク等のオーディオ・ビデオ機器の分野で
は,発明がされてから,当該製品が発売されて会社に利益が発生するまでに長期間
を要するようなことはほとんどなく,発明がされてすぐに実施されるのが通常であ
。,,。るしたがって医薬品のように効果の顕著性の判断に時間を要することはない
このように,本件と三菱化学事件とは,事案が異なるため,三菱化学事件判決に
おいて,消滅時効の起算点が各職務発明の実施から5年を経過した時点であると判
断されたからといって,本件でも起算点を同様に判断することは許されない。
裁判例の検討によれば,社内規程において,①一定の期間ごとに特許発明の実施
の実績に応じた額を使用者から従業者に支払う旨の定めがある場合,②評価対象期
間が5年との定めがある場合等の特別の場合以外,すなわち,単に『特に顕著な功
績が上がった場合』という定めしかない場合には,消滅時効の起算点は,特許登録
時又は特許発明の実施時のいずれか遅い時点であるというのが,近時の裁判例の流
れであり,妥当である。
そして,本件発明考案規定には,その他褒賞金の支払時期について定めた規定は
ない。したがって,近時の裁判例に照らしても明らかなとおり,本件の消滅時効の
,。」起算点は特許登録時又は特許発明の実施時のいずれか遅い時点とすべきである
原判決35頁11行目の「ウ」を「エ」と改める。
原判決35頁18行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。
「(ア)本件発明考案規定(乙1)第4条ないし第6条が矛盾なく説明できる解釈
を採るべきである」。
原判決35頁19行目の「(ア)」を削除し「すなわち」を付加する。,
原判決36頁4行目の「について」の後に「被控訴人から指定された期間に登,
録された日本国特許に基づき推薦書を出すことができる旨の通知を受け,それに応
じて」を挿入する。,
原判決36頁7行目の「ある」を「あり」と改め「少なくとも,選外の決定。,,
がされる以前に,当該発明に係る請求が時効消滅するとの被控訴人の主張は,信義
則又は禁反言の原則にも反するものである」を挿入する。。
原判決36頁8行目の「項」を「条」と改める。
,。原判決36頁23行目から37頁11行目までを削除し以下のとおり挿入する
「イ知財高裁平成20年10月29日判決もまた,職務発明の対価請求事件に
つき『会社が発明を実施し,その効果を判定するためには一定の期間経過を必要,
とすることは道理』であり,当該事案における『実績補償の支払時期を決する前提
となる発明の客観的価値を認定するために必要とされる期間は5年ということにな
る』旨判示している」。
原判決37頁14行目の「本件発明DないしF」を「本件発明D及びE」と改め
る。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,本件において,被控訴人は本件発明AないしCをその実質において
(。),実施しているということができ本件発明D及びEの実施については争いがない
被控訴人には「独占の利益」ないし「超過売上げ」があったもので,また,控訴人
の本訴請求は消滅時効にかかるものでもないから,控訴人の相当対価の請求は認め
られるべきであって,相当対価の金額は570万7974円が相当であるから,控
訴人の請求は,既払金を控除した後の512万5124円(及び遅延損害金)の支
払いを求める限度で理由があり,その余は理由がないものと判断する。
1本件発明AないしCの実施の有無について
,,,(1)まず控訴人は被控訴人が本件発明AないしCにつき控訴人を特別表彰し
褒賞金を支払っているのであるから,被控訴人がこれらの発明を実施していたこと
は明らかである旨主張する。しかし,被控訴人が採用する表彰の制度に,従業員へ
のインセンティブを付与するとの意味合いがあることは明らかであって,被控訴人
が表彰を行ったからといって,直ちに,上記各発明が実施されていたと認定するこ
とはできず,この点に関する控訴人の主張は採用できない。その理由は以下のとお
りである。
(2)本件発明Aについて
ア本件発明Aの構成
本件発明Aの構成は,請求項1の記載によれば,以下のとおりである。
「半導体基板に形成されている光検出器と,この光検出器上に固定されており半
透過反射面と少なくとも1つの反射面とを有しているプリズムと,
前記半導体基板に固定されている半導体レーザとを夫々具備し,
この半導体レーザから射出されて前記半透過反射面で反射されるビームを照射ビ
ームとして用いると共に,
前記半透過反射面へ入射してこの半透過反射面を透過し更に前記反射面で反射さ
れるビームを前記光検出器で検出する様にした半導体レーザ装置」。
イ被控訴人の製品である本件光学ピックアップ
本件光学ピックアップは,その構成が文言で特定されていないが,以下のような
デバイス構造を備えた光ピックアップであるものと解される被控訴人準備書面(7)(
19頁の図8参照。)
ウ本件発明Aが「非点収差法」によるものに限定されるか否か
(ア)被控訴人は,本件発明Aにおける「半導体レーザ装置」は,発明の詳細な説
明の記載等に照らせば「非点収差法を利用した半導体レーザ装置」等と限定的に,
解釈されるべきであり,他方,本件光学ピックアップでは,非点収差法ではなく,
差動スポットサイズ法が用いられているから,本件光学ピックアップは「非点収差
法を利用した半導体レーザ装置」には該当せず,本件発明Aを実施していないと主
張する。
(イ)本件発明Aの明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
a「発明の概要〕〔
本発明は,上記の様な半導体レーザ装置において,半導体レーザと光検出器とビームスプリ
ッタとを一体とし,しかもビームスプリッタ中でビームを1回以上反射させてから検出するこ
とによって,装置が小型且つ低コストである様にしたものである」。
b「従来の技術〕〔
光学式記録再生装置等で用いられている光学ヘッドは,光学記録媒体をビームで照射してこ
の光学記録媒体からの変調されたビームを検出することによって,情報の記録や再生を行う。
また光学ヘッドは,光学記録媒体に対して非接触で用いられるために,フォーカスサーボが
必要である。フォーカス誤差検出法としては,各種の方法があるが,非点収差法が多用されて
いる。
そして,光学ヘッドには通常は半導体レーザ装置が用いられており,この半導体レーザ装置
は半導体レーザ,ビームスプリッタ,非点収差発生素子,及び光検出器等の光学部品を有して
いる。
しかし従来の半導体レーザ装置では,上記の光学部品が互いに別個の部品であるために,光
路の調整に多くの工数を要し,低コスト化が困難であった。
また半導体レーザ装置は,上述の様に多くの光学部品を必要とするので,光学ヘッドの小型
化,低コスト化にも限界がある。
そこで第2図に示す様な半導体レーザ装置10が考えられているこの半導体レーザ装置10,。
は,半導体レーザ11をSi基板等の半導体基板12に対して固定すると共にこの半導体基板12
に光検出器13を形成し,この光検出器13上にプリズム14を接着剤によって固定し,光学記
録媒体15からの収束状態のビーム16をプリズム14内へ斜めに入射させることによってビー
ムスプリッタの機能と非点収差発生の機能とをプリズム14に兼備させる様にしたものであ
る」。
c「発明が解決しようとする問題点〕〔
ところがこの様な半導体レーザ装置10でも,半導体レーザ11と半導体基板12との間にス
ペーサ17を介挿させる必要がある。
もしこのスペーサ17がなければ,光学記録媒体15からのビーム16が半導体基板12に近い
位置でプリズム14へ入射し,プリズム14内でのつまり非点収差発生後のビーム16の光路長
が短くなる。この結果,ビーム16の非点隔差が小さくなると共に,合焦時の光検出器13上で
のビーム16のスポットサイズも小さくなる。
非点隔差が小さくなると,フォーカスサーボの引込み範囲が狭くなって,フォーカスサーボ
を安定的に行うことができなくなる。
またスポットサイズが小さくなると,光検出器13を四分割している巾5μm程度の不感帯
にスポットの多くの部分が入り込み光検出器から得られる信号のレベルが低くなつて再生信号
やフオーカス誤差信号を高感度で得ることができなくなると共に,スポットと光検出器13と
を高精度で位置合わせする必要があり高精度の組立工程が要求されて低コスト化が困難とな
る。
従ってスペーサ17が必要であるが,スペーサ17を用いると,今度は,半導体基板12に対
してスペーサ17を位置合わせすると共に更にこのスペーサ17に対して半導体レーザ11を位
置合わせする必要がある。このために,半導体レーザ装置10の小型化が困難であるのみなら
ず,この場合にも高精度の組立工程が要求されてやはり低コスト化が困難である。
またスペーサ17を用いることによって,光学記録媒体15からのビーム16を半導体基板12
から遠い位置でプリズム14へ入射させるためには,寸法の大きなプリズム14を用いる必要が
ある。従って,このことによっても半導体レーザ装置10の小型化が困難である」。
d「作用〕〔
本発明による半導体レーザ装置20では,ビーム16による照射と入射ビーム16の検出とが
一体の光学部品で行われる。
また,プリズム21の半透過反射面21aへ斜めに入射するビーム16が収束状態であると,こ
のビーム16には半透過反射面21aを透過することによって非点収差が発生するので,プリズ
ム21はビームスプリッタの機能と非点収差発生機能とを兼備している。
しかも,プリズム21内へ入射したビーム16は1つ以上の反射面21b,21cで反射されてか
ら光検出器13で検出されるので,ビーム16が半導体基板12に近い位置でプリズム21へ入射
しても,プリズム21内でのビーム16の光路長を長くすることが可能である。従って,非点収
差法によってフォーカスサーボを行う機器に適用すれば,非点隔差を大きくして引込み範囲を
広くすることによってフォーカスサーボを安定的に行うことができ,また合焦時の光検出器上
でのスポットサイズを大きくすることによって再生信号やフオーカス誤差信号を高感度で得る
ことができると共に装置の位置精度を緩和させることができる」。
e「発明の効果〕〔
,,,本発明による半導体レーザー装置は一体の光学部品であるので光路の調整が容易であり
低コストである。
また,プリズムがビームスプリッタの機能と非点収差発生機能とを兼備しているので,非点
収差を利用する機器に適用すると,この機器の小型化と低コスト化とが可能である。
しかも,非点収差法によってフォーカスサーボを行う機器に適用した場合に半導体基板に近
い位置で入射ビームがプリズム内へ入射しても,フォーカスサーボを安定的且つ高感度で行う
ことができると共に装置の位置精度を緩和させることができるので,半導体レーザと半導体基
板との間にスペーサを介挿させる必要がなく,装置は小型且つ低コストである」。
(ウ)上記記載からすれば,本件発明Aについて,非点収差法によるフォーカス誤
差検出法を採用した半導体レーザ装置を従来技術として「発明が解決しようとす,
る問題点」及び「作用」が説明されており,非点収差法によるフォーカス誤差検出
法の採用を念頭においた発明であることは明らかであるが,特許請求の範囲には,
非点収差法に関する事項は構成要件として記載されておらず,発明の詳細な説明の
「発明の概要」の項にも,非点収差法に限定される旨の記載も示唆もない。
また「従来の技術」の項においては「フォーカス誤差検出法としては,各種の,,
方法があるが,非点収差法が多用されている」と,各種のフォーカス誤差検出法。
の存在を前提とした上で,多用される非点収差法を例として説明していると解され
る記載があり「発明の効果」の項では,まず「本発明による半導体レーザー装置,
は,一体の光学部品であるので,光路の調整が容易であり,低コストである」と。
フォーカス誤差検出法の種類に依存しない効果を記載した上で,次いで「非点収,
差を利用する機器」に適用した場合に,機器の小型化かつ低コスト化が可能である
とのさらなる効果を記載している。
さらに「作用」の項の「プリズム21内へ入射したビーム16は1つ以上の反射,
面21b,21cで反射されてから光検出器13で検出されるので,ビーム16が半導体
基板12に近い位置でプリズム21へ入射しても,プリズム21内でのビーム16の光
路長を長くすることが可能である」との記載は,本件発明Aの作用として本質的。
な部分であって,フォーカス誤差検出法の種類に依存せず,プリズム内の光路を利
用するどのような方式の半導体レーザ装置に適用しても生じる作用であり,その上
で「非点収差法によってフォーカスサーボを行う機器に適用すれば」との仮定を,
おいて,本件発明Aのさらなる作用・効果を説明するものであるといえる。
以上のとおり,本件発明Aでは,非点収差法に関する事項が構成要件とされてお
らず,その明細書の発明の詳細な説明には,非点収差法に限定されない作用・効果
の記載があり,非点収差法以外のフォーカス誤差検出法を除外する旨の記載もない
から,本件発明Aが非点収差法に限定されているとの被控訴人の主張は採用するこ
とができない。
(エ)被控訴人は,本件特許Aを先願である乙発明(乙10,11,32)と実質
的に同一でなく有効なものとして解釈するためには,本件特許請求の範囲の記載を
非点収差法を採用したものに限定して解釈するか,又は,訂正審判において特許請
求の範囲をそのように限定する訂正をせざるを得ないとも主張する。
しかし,乙発明についての公報である乙32(特許第2571037号公報)に
は,次の記載がある。
「請求項1】半導体基板に形成されている光検出部と,【
前記半導体基板に対して固定されている半導体レーザと,
前記半導体基板の前記光検出部上の位置に固定され,前記半導体レーザに対向す
ると共にこの半導体レーザから射出されるビームの光軸に対して傾斜している斜面
を有する少なくとも1個のプリズムとを備え,
前記半導体レーザから射出されたビームの光軸を前記斜面で偏向させてこのビー
ムを反射すると共に,前記斜面を介して前記プリズムへ入射したビームを前記光検
出部で検出する様にした光学ヘッド」。
以上からすれば,本件発明Aは,乙発明と比較して「半透過反射面と少なくと,
も1つの反射面とを有しているプリズム」を具備するとともに「前記半透過反射,
面へ入射してこの半透過反射面を透過し更に前記反射面で反射されるビームを前記
光検出器で検出する様にした」点で明確に相違し,限定解釈や特許請求の範囲を限
定する訂正を必要とすることなく有効なものということができるから,被控訴人の
上記主張は採用できない。
(オ)以上のとおり,本件発明Aは,フォーカス誤差検出法の種類を限定するもの
ではないから「非点収差法を利用した半導体レーザ装置」と限定的に解釈するこ,
,,とはできず本件光学ピックアップが差動スポットサイズ法を用いているとしても
本件発明Aの「半導体レーザ装置」に該当しないということはできない。
エ本件光学ピックアップにおける「スペーサー」様のものの存在
(ア)被控訴人は,本件光学ピックアップにおいては,差動スポットサイズ法に適
切なビームをプリズムに射出できるようにするため,半導体レーザーと半導体基板
との間にスペーサーを設置しているので「半導体レーザーと半導体基板との間に,
スペーサーを介挿させる必要がなく装置が小型且つ低コストにできる」との本件発
明Aの作用効果を奏しないものであり,本件発明Aの「半導体レーザ装置」に該当
しないと主張する。
(イ)まず,本件発明Aは「前記半導体基板に固定されている半導体レーザとを,
夫々具備し」との構成要件を有するので,上記「半導体基板に固定されている半導
体レーザ」の技術的意義について検討する。
本件発明Aの明細書の発明の詳細な説明(上記ウ(イ)bの〔従来の技術〕部分)
には,従来技術を示す第2図の半導体レーザ装置10に関して「半導体レーザ1,
1をSi基板等の半導体基板12に対して固定すると共にこの半導体基板12に光
検出器13を形成し」と記載されているから,本件発明Aの明細書において「固,
定」とは,他の部材(第2図ではスペーサ17)を介挿する場合も含めて,半導体
基板と半導体レーザとの位置関係を動かない状態にすることを意味する用語として
用いられているものと解される。
,,「」また被控訴人の挙げた乙発明を参照すると乙10記載の半導体レーザ装置
では,その実施例として説明される装置は,基板24とレーザダイオードチップ2
6との間にシリコン基板25が介在するものであるが,特許請求の範囲には「基板
に固定されている半導体レーザと・・・前記基板に固定されている光検出器と・,,
・・」と記載されており,同様に,乙32記載の「光学ヘッド」においても,実施
例はシリコン基板24とレーザダイオードチップ31との間に別のシリコン基板2
8が存在するものであるが,その請求項1として「半導体基板に形成されている光
検出部と,前記半導体基板に対して固定されている半導体レーザと・・・」と記,
載されている。
したがって,本件発明Aを含め,当該技術分野の発明においては「半導体基板,
に固定されている半導体レーザ」とは,半導体基板と半導体レーザとの間に他の部
材が介挿される場合を含めて,半導体基板との位置関係が固定された状態にある半
導体レーザを意味するものであるということができる。
(ウ)また,本件発明Aでは,特許請求の範囲上,スぺーサーの有無については一
切記載されておらず,発明の詳細な説明の記載(半導体レーザと半導体基板との「
間にスペーサを介挿させる必要がなく」との部分)からみれば,本件発明Aの好ま
しい構成として「スぺーサーのないもの」が想定されているとしても「スぺーサ,
ーが不要であること」が本件発明Aの必須の構成とされているわけではない。
(エ)なお,仮に,本件発明Aがスペーサーの介挿を不要とすることを目的・効果
としていると解釈しても,本件光学ピックアップにおいて半導体レーザーと半導体
基板との間に介挿された部材は「レーザ出力モニタ用光検出器」を形成するため,
の基板であって(被控訴人準備書面(7)19頁の図8参照,このような基板と半導)
,((),体レーザーはLOPLaserOnPhotodiode:乙162の第1図Dのように
半導体基板(シリコンサブマウント)上に,レーザー出力モニタ用の検出器を作り
こみ,さらに,チップ状のレーザーダイオードを同基板上にはんだ付けした素子構
造)を構成しているということができるから(被控訴人準備書面(12)3∼5頁,乙
199添付図1参照,半導体レーザと上記基板(介挿された部材)は一体の部品)
として取り扱われるものと解され「レーザ出力モニタ用光検出器」を形成した上,
記基板を,高さ調整を目的として介挿されたスペーサーであると認定することは相
当ではない。
(オ)以上のとおり,そもそも本件発明Aは,半導体レーザーと半導体基板との間
に他の部材を介在したものも,その構成に含むものというべきであり,本件光学ピ
,(),ックアップにおいて別の部材スペーサー様のものが介挿されているとしても
,。それにより同ピックアップが本件発明Aの技術的範囲に含まれないとはいえない
オまとめ
本件発明Aにつき,被控訴人が主張するような限定解釈等をすべき理由はなく,
本件光学ピックアップは,本件発明Aの請求項1の構成を充足するものである(前
,,。),記ウエの点以外に関しては本件発明Aの各要件充足につき争いがないから
被控訴人は本件発明Aを実施しているものである。
(3)本件発明Bについて
ア本件発明Bの構成
本件発明Bの構成は,請求項1の記載によれば,以下のとおりである。
「半導体基板に固定されている半導体レーザと,
前記半導体基板に固定されているプリズムと,
このプリズムのうちで前記半導体レーザに対向している第1の面に形成されてい
る第1の半透過反斜面と,
前記プリズムのうちで前記半導体基板に対接している第2の面であって且つ前記
第1の半透反射面を透過した後のビームが入射する位置に形成されている第2の半
透過反斜面と,
前記プリズムのうちで前記第2の面に対向している第3の面であって且つ前記第
2の半透過反射面で反射された後の前記ビームが入射する位置に形成されている反
射面と,
前記半導体基板のうちで前記第2の半透過反斜面に対接している位置に形成され
ており一定の方向に並んでいる3個の光検出部を有している第1の光検出器と,
前記半導体基板のうちで前記反射面で反射された後の前記ビームが入射する位置
に形成されており前記一定の方向に並んでいる3個の光検出部を有している第2の
光検出器とを夫々具備し,
前記半導体レーザから射出されて前記第1の半透過反射面で反射されたビームに
よって光学記録媒体を照射し,
前記第1の半透過反斜面を透過した前記光学記録媒体からのビームを前記第2の
半透過反射面で反射した後であって且つ前記第2の光検出器へ入射する前に収束さ
せ,
前記第1の光検出器における両側の前記光検出部及び前記第2の光検出器におけ
る中央の前記光検出部の夫々による検出信号の和と前記第1の光検出器における中
央の前記光検出部及び前記第2の光検出器における両側の前記光検出部の夫々によ
る検出信号の和とを比較することによって前記光学記録媒体のフォーカス誤差信号
を得る様にしたフォーカス検出装置」。
イ被控訴人の製品である本件光学ピックアップ
被控訴人は,本件光学ピックアップにおける光検出器が4個又は8個の光検出部
を有するものであると主張するが,その具体的な構造及び信号処理手段を提示して
いない。
しかし,被控訴人が公開する技術情報であるCX−PalVol.42(甲2
0)は,被控訴人の「次世代ゲーム機用『2波長レーザカプラ」等について記載』
されたものであるところ「次世代ゲーム機」とはPS2を指すので,甲20上に,
記載された内容が,PS等に搭載された本件光学ピックアップについてのものであ
ることは明らかである。また,より具体的には,甲20の図5,図6が,本件発明
Bの受光面に関するものというべきである。
ウ本件光学ピックアップにおける光検出部の個数
(ア)被控訴人は,本件光学ピックアップに使用される光検出器では,4個又は8
個の光検出部を有するものであり,光検出部の数は3個ではないから,本件光学ピ
ックアップにおいて使用されるフォーカス検出装置は,本件発明Bの構成を充足し
ておらず,本件発明Bは実施されていないと主張する。
(イ)本件発明Bの明細書(甲3)の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「産業上の利用分野〕a〔
本発明は,光学記録媒体のフォーカシング状態を検出するためのフォーカス検出装置に関す
るものである。
〔発明の概要〕
本発明は,上記の様なフォーカス検出装置において,光学記録媒体からのビームの収束点の
前後における2個の光検出器を用いるフォーカス検出を単一のプリズムによって可能とし,し
かも複数の光学部品を一体とし,更にこれらの光学部品を半導体基板の同一平面へ配置可能と
することによって,装置が小型且つ低コストである様にしたものである(第3欄5行∼15。」
行)
b「従来の技術〕〔
光学記録媒体のフォーカシング状態を示すフォーカス誤差信号には,ゼロクロス点に関する
対称性,ゼロクロス点近傍における直線性,及び再生信号の漏れ込みの排除等が要求されてい
る。
特開昭60−217535号公報には,上述の要求を満たすフォーカス検出装置として,第
8図Aに示す様なフォーカス検出装置10が開示されている(第3欄16行∼23行)。」
c「問題点を解決するための手段〕〔
本発明によるフォーカス検出装置・・・は・・・前記第1の光検出器33における両側の前,
記光検出部33a,33c及び前記第2の光検出器34における中央の前記光検出部34bの夫々によ
る検出信号の和と前記第1の光検出器33における中央の前記光検出部33b及び前記第2の光
検出器34における両側の前記光検出部34a,34cの夫々による検出信号の和とを比較すること
によって前記光学記録媒体16のフォーカス誤差信号を得る様にしたものである(第3欄4。」
7行∼第4欄29行)
光検出器3334は第2図に示す様に一定の方向に並んでいる3個の光検出部33ad「,,,
∼33c,34a∼34cを有している。またこれらの光検出部33a∼33c,34a∼34cは,演算増巾
器41∼43に接続されている(第5欄6行∼9行)。」
「・・・第2図に示す様に,光検出器33,34上におけるビーム45のスポット47は,e
光学記録媒体16がビーム45の収束点に位置している場合は互いに等しい大きさを有してお
り,光学記録媒体16がビーム45の収束点からずれることによって一方が大きくなると他方が
小さくなる。
この結果,演算増巾器41,42,43からは,曲線51,52,53で示される信号が得られる。従
って,演算増幅器43から得られる信号をフォーカス誤差信号とすれば,このフォーカス誤差
信号はゼロクロス点に関する対称性,ゼロクロス点近傍における直線性,及び再生信号の漏れ
込みの排除等において良好である(第5欄35行∼45行)。」
(ウ)上記記載によれば,本件発明Bの「フォーカス検出装置」は,演算増幅器4
3からフォーカス誤差信号を得るものであって,その信号は,各光検出部の符号を
用いて表すと(33b+34a+34c)−(33a+33c+34b)であり,
これを,本件発明Bが「前記第1の光検出器における両側の前記光検出部及び前記
第2の光検出器における中央の前記光検出部の夫々による検出信号の和と前記第1
の光検出器における中央の前記光検出部及び前記第2の光検出器における両側の前
記光検出部の夫々による検出信号の和とを比較する」と記載していることは明らか
である。
(エ)他方,被控訴人が公開する技術情報であるCX−PalVol.42(甲
20)には,以下の記載がある。
「レーザカプラは,最初に,ジャケットサイズディスクマン用の超小型・超薄型
光ピックアップ用として開発されました。その後,光ピックアップの小型化だけで
なく,低コスト化・高信頼性化を目的に,現行プレイステーションに搭載されたの
をきっかけに,ポータブルCDプレーヤ,車載CDプレーヤ,CD−ROMドライ
ブ等を中心に広く搭載されるようになりました。そして,最近では,CDファミリ
のみならず,MD用,DVD用等の開発も精力的に進めています。
今回は現在最も注目されている新規開発品である次世代ゲーム機用『2波長レー
ザカプラ』の技術を中心に紹介します。同時に,ソニーの『レーザカプラ』の様々
なバリエーションについても簡単に紹介します(1頁)。」
「■DVD/CD,それぞれに適した信号演算/出力
再生信号等は,DVD/CDのモード切換スイッチによって,切り換えて出力し
ます。フォーカスエラー信号検出方法としては,DVD/CD共に差動スポットサ
イズ法を採用し,トラッキングエラー信号検出方法としては,DVDでは位相差法
を,CDではプッシュプル法を採用しています(図-4,図-5,図-6(4頁))。」
(オ)上記図5の回路ブロック図の<PDIC部:DVDの場合>を参照すると,
8個に分割された左側の光検出器と4個に分割された右側の光検出器が設けられ,
左側の光検出器の8分割された各光検出部には符号aないしhが付与され,右側の
光検出器の4分割された各光検出部には符号iないしlが付与されている。
そして,同図の回路からは,光検出部a,d,e,h,j,kの出力の和から信
号PD1を生成し,光検出部b,c,f,g,i,lの出力の和から信号PD2を
生成するとされており,さらに,上記図6の信号演算方法の<DVDの場合>を参
照すると,PD1とPD2の差からフォーカスエラー信号を得ること(差動スポッ
トサイズ法)が記載されている。
したがって,DVDの場合にあっては,フォーカスエラー信号FEは,PD1−
PD2=(a+d+e+h+j+k)−(b+c+f+g+i+l)により表され
る。
(カ)また,同様に,上記図5の回路ブロック図の<PDIC部:CDの場合>を
参照すると,ともに4個に分割された2つの光検出器が設けられ,左側の光検出器
の4分割された各光検出部には符号a2ないしd2が付与され,右側の光検出器の
4分割された各光検出部には符号i2ないしl2が付与されている。
そして,同図の回路からは,光検出部a2,d2,j2,k2の出力の和から信
号PD1を生成し,光検出部b2,c2,i2,l2の出力の和から信号PD2を
生成するとされており,さらに,上記図6の信号演算方法の<CDの場合>を参照
すると,PD1とPD2の差からフォーカスエラー信号を得ること(差動スポット
サイズ法)が記載されている。
したがって,CDの場合には,フォーカスエラー信号FEは,PD1−PD2=
(a2+d2+j2+k2)−(b2+c2+i2+l2)により表される。
,()(キ)ここで上記DVD用のフォーカスエラー信号のa+d+e+h+j+k
−(b+c+f+g+i+l)は[a+e)+(d+h)+(j+k]−[b,()(
+c+f+g)+i+l]と書き直すことができ,また,上記CD用のフォーカス
エラー信号の(a2+d2+j2+k2)−(b2+c2+i2+l2)は[a,
2+d2+(j2+k2]−[b2+c2)+i2+l2]と書き直すことがで)(
きるから,光検出部が4個以上であっても,信号処理の上で,実質的には,内側の
光検出部と,外側(上側と下側のそれぞれ)の光検出部は,それぞれ一体のものと
して扱われており,DVD用の内側光検出部(b+c+f+g(j+k,DV),)
(),(),(),D用の各外側光検出部a+ed+hCD用の内側光検出部b2+c2
(),。j2+k2につきそれぞれ一体の光検出部とみなし得ることが明らかである
(ク)してみると,甲20に示される本件光学ピックアップにおいて,光検出器が
4個又は8個の光検出部を有するとしても「内側光検出部」及び「各外側光検出,
部」はそれぞれ一体のものとして扱われており,本件発明Bの「中央の(前記)光
検出部「両側の(前記)光検出部」に相当するから,実質的に3個の光検出部を」
有するのと同じであり,各光検出器は,本件発明Bの「一定の方向に並んでいる3
個の光検出部を有している第1の光検出器」及び「一定の方向に並んでいる3個の
光検出部を有している第2の光検出器」を実質的に充足するものである。
また,上記(オ),(カ)に記載の信号処理も,上記光検出部の対応関係に照らして,
本件発明Bの「前記第1の光検出器における両側の前記光検出部及び前記第2の光
検出器における中央の前記光検出部の夫々による検出信号の和と前記第1の光検出
器における中央の前記光検出部及び前記第2の光検出器における両側の前記光検出
部の夫々による検出信号の和とを比較する」との構成を実質的に充足するものであ
る。
エまとめ
以上のとおり,本件光学ピックアップの光検出器が,3個とは異なる数の光検出
部を有するとしても,更に分割された光検出部は,信号処理の際に合算され実質的
に一体として扱われているから,信号処理上,本件光学ピックアップは,本件発明
Bの構成を実質的に充足しているもの(光検出部の個数以外に関しては,本件発明
Bの各要件充足につき争いがない)というべきである。。
(4)本件発明Cについて
ア本件発明Cの構成
本件発明Cの構成は,請求項1の記載によれば,以下のとおりである。
「光源から射出されたビームの光軸に対して傾斜しており前記ビームを反射させ
て光学記録媒体へ導くと共にこの光学記録媒体から戻ってきた前記ビームを透過さ
せる第1の面を有するビームスプリッタを具備する光学ヘッドにおいて,
前記第1の面を透過した前記ビームのサジタル光線の焦線と前記第1の面との間
に配されており前記第1の面を透過した前記ビームの所定部を透過させると共に残
部を反射させる第2の面を前記ビームスプリッタが有しており,
前記第2の面とは反対側に配されておりこの第2の面で反射された前記ビームの
全部を反射させる第3の面を前記ビームスプリッタが有しており,
前記ビームの光軸と前記焦線とに対して垂直な方向へ3分割されている光検出部
を有する第1の光検出器が前記第2の面を透過した前記ビームの光路中に配されて
おり,
前記ビームの光軸と前記焦線とに対して垂直な方向へ3分割されている光検出部
を有する第2の光検出器が前記第3の面で反射された前記ビームの光路中で且つ前
記焦線から前記第1の光検出器とは反対の方向へ前記焦線と前記第1の光検出器と
の間の光学的距離だけ離間して配されており,
前記第1及び第2の光検出器の一方の光検出器の両側の前記光検出部からの検出
出力及び他方の光検出器の中央の前記光検出部からの検出出力の和と前記一方の光
検出器の中央の前記光検出部からの検出出力及び前記他方の光検出器の両側の前記
光検出部からの検出出力の和との差分を出力する演算器が設けられており,
前記差分をフォーカス誤差信号とする様にした光学ヘッド」。
イ被控訴人の製品である本件光学ピックアップ
被控訴人は,本件光学ピックアップにおける光学ヘッドは,4分割等された光検
,。出部を有する旨主張するがその具体的な構造及び信号処理手段を提示していない
しかし,本件発明Bと同様,被控訴人が公開する技術情報であるCX−Pal
.(),「『』」Vol42甲20は被控訴人の次世代ゲーム機用2波長レーザカプラ
,「」,について記載されたものであるところ次世代ゲーム機とはPS2を指すので
甲20上に記載された内容が,PS等に搭載された本件光学ピックアップについて
。,,,,のものであることは明らかであるまたより具体的には甲20の図5図6が
本件発明Cの受光面に関するものというべきである。
ウ本件光学ピックアップにおける光検出部の分割
(ア)被控訴人は,本件光学ピックアップにおける光学ヘッドでは,例えば4分割
等,3とは異なる数に分割された光検出部を有する光学ヘッドが用いられているか
ら,本件発明Cの構成要件の「3分割されている光検出部」を有しておらず,本件
発明Cは実施されていないと主張する。
(イ)本件発明Cの明細書(甲4)の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「産業上の利用分野〕a〔
本発明は,光学記録媒体から戻ってきて光検出器へ入射するビームに非点収差を発生させる
光学素子を含んでいる光学ヘッドに関するものである。
〔発明の概要〕
本発明は,上記の様な光学ヘッドにおいて,ビームの光軸とサジタル光線の焦線とに対して
垂直な方向へ3分割されている第1及び第2の光検出器を上記焦線から互いに反対方向へ等距
離の位置に配し,一方の光検出器の中央の光検出部及び他方の光検出器の両側の光検出部同士
の検出出力同士の差分をフォーカス誤差信号とすることによって,小型であるにも拘らず正確
なフォーカス調節を行うことができる様にしたものである(第3欄4行∼16行)。」
「従来の技術〕b〔
光学ヘッドは,光学記録媒体に対して非接触の状態で動作するので,フォーカス誤差を検出
してフォーカス調節を行う必要がある。
フォーカス誤差の検出方法には種々の方法があるが,そのうちの1つとして,特開昭60−
171643号公報には,2個の3分割光検出器を検出用ビームの焦光点の前後に位置する様
に単一のビームスプリッタの外面に一体に装着し,合計で6個の光検出部の検出出力の差分を
求める様にした方法が開示されている(第3欄17行∼26行)。」
「この様な第1実施例では,光学記録媒体が合焦位置にある場合は,光検出器12,13c
及び面15c上には,第4図に示す様にビーム17のスポット21,22及び23形成される。そし
てスポット21,22は,サジタル光線17aの焦線つまりスポット23から互いに等距離にあるの
で,光検出器12,13の3分割の方向において互いに等しい巾を有しており,しかもフォーカ
ス誤差に伴なって光検出器12,13の3分割の方向へ伸縮する。
このために,第5図に示す様に,光検出部12a及び13b,13cの和出力として信号Aが得ら
れ,光検出部12b,12c及び13aの和出力として信号Bが得られ,更に信号Aと信号Bとの差
分として信号Cが得られる。
従ってこの第1実施例では,非点収差に対して何ら補正を講じなくとも,信号Cがフォーカ
ス誤差信号として特性のよいS字型を成している(第6欄6行∼20行)。」
(ウ)上記記載によれば,本件発明Cの「光学ヘッド」は,信号Cからなるフォー
カス誤差信号を得るものであって,その信号Cは,各光検出部の符号を用いて表す
と(12a+13b+13c)−(12b+12c+13a)であり,これを,本
件発明Cは「前記第1及び第2の光検出器の一方の光検出器の両側の前記光検出部
からの検出出力及び他方の光検出器の中央の前記光検出部からの検出出力の和と前
記一方の光検出器の中央の前記光検出部からの検出出力及び前記他方の光検出器の
両側の前記光検出部からの検出出力の和との差分を出力する」と記載していること
は明らかである。そして,第1及び第2の光検出器から,それぞれ「中央の(前,
記)光検出部」からの検出出力と「両側の(前記)光検出部」からの検出出力を得
るために,光検出部を3つに分割したものであり,本件発明Cにおいて,第1及び
第2の光検出器は,それぞれ「前記ビームの光軸と前記焦線とに対して垂直な方向
へ3分割されている光検出部を有する第1の光検出器「前記ビームの光軸と前記」,
焦線とに対して垂直な方向へ3分割されている光検出部を有する第2の光検出器」
と記載されている。
(エ)これに対して,前記(3)で検討したとおり,甲20に示される本件光学ピッ
クアップは,光検出部が形式的に4分割又は8分割されているとしても「内側光,
検出部」及び「各外側光検出部」はそれぞれ一体のものとして扱われており,本件
「()」「()」,発明Cの中央の前記光検出部両側の前記光検出部に相当するから
実質的に3分割と同じであり,その分割方向も,ビームの光軸とサジタル光線の焦
線とに対して垂直な方向となっているものと認められる(なお,甲20の図5にお
いて,ビームスポットがそれぞれ縦長と横長の楕円形であるとともに,光検出器の
3分割の方向において互いにほぼ等しい幅を有しているから,非点収差を有する光
束が用いられていることは明らかであり,2つのビームスポットは,サジタル光線
の焦線から互いに等距離であると認められる。。)
そして,本件光学ピックアップにおいて「内側光検出部」及び「各外側光検出,
部」が本件発明Cの「中央の(前記)光検出部」及び「両側の(前記)光検出部」
に相当するので,本件発明Cの「前記第1及び第2の光検出器の一方の光検出器の
両側の前記光検出部からの検出出力及び他方の光検出器の中央の前記光検出部から
の検出出力の和と前記一方の光検出器の中央の前記光検出部からの検出出力及び前
記他方の光検出器の両側の前記光検出部からの検出出力の和との差分を出力する」
との構成を実質的に充足するものである。
エまとめ
以上のとおり,本件光学ピックアップにおいて,光学ヘッドの光検出部が3分割
とは異なる数に分割されているとしても,更に分割された光検出部は,信号処理の
際に合算され実質的に一体として扱われているから,信号処理上,本件光学ピック
アップは,本件発明Cの構成を実質的に充足しているもの(光検出部の分割方法以
外に関しては,本件発明Cの各要件充足につき争いがない)というべきである。。
2独占の利益の有無について
(1)ア勤務規則等により,職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承
継させた従業者等は,当該勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき
対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が改正前特許法35
条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基
づき,その不足する額に相当する対価の支払いを求めることができると解するのが
相当である(最高裁平成15年4月22日第3小法廷判決・民集57巻4号477
頁参照。)
そして,使用者等が,職務発明について特許を受ける権利等を承継しなくとも,
当該特許権について無償の通常実施権を取得する(同条1項)ことからすると,同
条4項に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,使用者
等が当該発明を実施することによって得られる利益の全体をいうのではなく,その
全体の額から,通常実施権の実施によって得られる利益の額を控除した残額(本判
決も便宜上これを「独占の利益「超過利益」などということとする)と解すべ」,。
きである。
また,改正前特許法35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の
額」は,特許を受ける権利が将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利
であり,その発明により使用者等が将来得ることができる独占的実施による利益の
額をその承継時に算定することが極めて困難であることからすると,当該発明の独
占的実施による利益を得た後の時点において,これらの独占的実施による利益をみ
てその法的独占権に由来する利益の額を認定することも,同条項の文言解釈として
当然に想定されているものと解される。
イ本件では,被控訴人は,少なくとも競業他社の一部に対し,本件各特許の実
施を許諾しているものと認められるところ,控訴人は,被控訴人が本件各特許を自
ら実施しているとして,それによって得た利益を相当対価算定の根拠として主張し
ている。このような場合,使用者等が,当該特許権を有していることに基づき,実
施許諾を受けている者以外の競業他社が実施品を製造,販売等することを禁止する
ことによって得ることができたと認められる収益分をもって「その発明により使,
用者等が受けるべき利益の額」というべきである。
ウ使用者が被用者から譲り受けた特許発明の実施につき,実施許諾を得ていな
い競業他社に対する禁止権に基づく独占の利益が生じているといえるためには,当
該特許権の保有と競業他社の排除との間に因果関係が認められる必要があるとこ
ろ,その存否については,①特許権者が当該特許につき有償実施許諾を求める者に
は,すべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針(開放的ライセンスポリシー)
を採用しているか,又は特定の企業にのみ実施許諾をする方針(限定的ライセンス
ポリシー)を採用しているか,②当該特許の実施許諾を得ていない競業他社が一定
割合で存在する場合でも,当該競業他社が当該特許発明に代替する技術を使用して
同種の製品を製造販売しているか,代替技術と当該特許発明との間に作用効果等の
面で技術的に顕著な差異がないか,また,③包括ライセンス契約又は包括クロスラ
イセンス契約等を締結している相手方が,当該特許発明を実施しているか又はこれ
を実施せず代替技術を実施しているか,さらに,④特許権者自身が当該特許発明を
実施しているのみならず,同時に又は別の時期に,他の代替技術も実施しているか
等の一切の事情を考慮して判断すべきである。
ところで,当該特許発明の価値が非常に低く,これを使用する者が全く想定し得
ない場合や,代替技術が非常に多数あるため,市場全体からみて当該特許の存在が
無視できるような特段の事情がある場合を除き,単に開放的ライセンスポリシーが
採られており,当該特許発明と同等の代替技術が存在するというだけでは,程度の
差はともかく,依然として当該特許発明を譲り受けた使用者に「超過利益」はある
というべきである。
また,ある市場において,当該特許発明のほか,代替技術となり得る複数の技術
が存在する場合,技術の優劣等の格別の事情が認められなければ,原則として同市
場に占める当該特許発明の割合に応じた「超過利益」が認められるというべきであ
る。ちなみに,当該要証事実の性質等によっては,当該特許発明と代替技術との優
,,劣を的確に判断することは技術内容や市場原理等に対する理解の難しさもあって
困難を極める認定問題であり,安易に立証責任の所在を定めて,悉無律によって決
することは,不公正な結果を招来しやすくし,妥当ではない。
なお,企業は,経済的に自己の利益を最大化することを目指して行動するもので
あって,各企業が,当該特許発明を自社実施するか,一部又は全部を他社に実施許
,,。諾するかは利益最大化のための手段として最良の選択か否かの問題にすぎない
そうであれば,自社実施の場合であっても,それによる利益の一定部分は「超過利
益」に該当するものと解すべきである。
(2)前提となる事実,証拠(甲2ないし4,16ないし22(枝番を含む,2。)
4の1,25,30の1及び2,32の2,乙8,9,15,19ないし21,2
4,25)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の各事実が認められる。
ア本件各発明について
(ア)本件各発明は,光ディスク用光学ピックアップに用いられるものであるが,
当該光学ピックアップは,音楽用CDプレーヤーを初めとする音響機器,PC,ゲ
ーム機等において,CD,MD,DVD等の様々な記録媒体の読取り,記録等のた
め,幅広く利用されている(甲16ないし22,24の1,30の1,30の2,
乙19,20。)
被控訴人及び競業他社等における光ディスク用光学ピックアップの製造,販売数
,,量を正確に算定するに足りる的確な証拠はないがゲームソフトの記録媒体として
CD−ROM等を利用するPS等に限っても,全世界で2億台以上が生産,出荷さ
れている(甲25。)
,,,(イ)従来光ディスク用光学ピックアップは多数の光学部品で構成されており
このことが光学ピックアップの小型化,軽量化,耐環境性能の向上の障害となって
いた(乙8,9。)
レーザーカプラー方式の光学ピックアップの最大の特徴は,光学ピックアップ自
体,ひいては,当該光学ピックアップを搭載した製品を,薄型化,小型化できるこ
とにあり,本件各発明は,それに寄与するものである(甲2ないし4,32の2,
乙21。)
,,,被控訴人は平成3年ころレーザーカプラー方式の光学ピックアップを用いて
当時,最も薄型であった松下電器産業製のCDプレーヤーに比べ3.1mm薄いポータ
ブルCDプレーヤー「D−J50(厚さ14.8mm)を製造,販売した。それ以前に」
被控訴人が製造,販売していたポータブルCDプレーヤーに用いられていた光学ピ
ックアップの厚さは11.8mmであったところ,D−J50に搭載された光学ピック
アップの厚さは7mm,半導体レーザ素子の厚さは1.7mmであった(甲16ないし1
8,22,30の2,乙21,弁論の全趣旨。)
PS2に搭載されていたレーザーカプラー方式の半導体レーザ素子は,1チップ
でCD用及びDVD用の2波長に対応するものでありながら,外形寸法は7.5mm×
6.5mm×2.0mmという小型のものであった(甲19,20,21の4,32の2,
弁論の全趣旨。)
イ本件各発明の代替技術
(ア)光ディスク用光学ピックアップの光学系の方式として,レーザーカプラータ
イプのほか,ディスクリートタイプ及びホログラムタイプが実用化されている。
(イ)被控訴人は,昭和59年に,ポータブルCDプレーヤー「D−50」を発売
したが,ここでは,ディスクリートタイプの光学ピックアップを採用していた(乙
21。)
被控訴人以外の各メーカーも,薄型化,軽量化を図ったポータブルCDプレーヤ
ーを商品化していたが,その光学ピックアップには,引き続きディスクリートタイ
プが用いられていた(乙21。例えば,三洋電機は,ディスクリートタイプを採)
用した薄型小型のCD用光学ピックアップの開発に取り組んでおり,昭和63年こ
ろには,幅31.3mm,長さ42.3mm,高さ13.0mmの光学ピックアップの開発に成功し
た(乙15。)
さらに,新型PS2には,ディスクリートタイプの光学ピックアップが採用され
ているが新型PS2の外形寸法は23cm×15cm×2.8cmと従来のPS230cm,,,(
×17cm×7.8cm)に比べ,より薄型化されている(乙21。)
(ウ)また,松下電器産業,シャープ等は,光学ピックアップの薄型化,小型化,
軽量化のため,ホログラムタイプの研究,開発を進めていた(弁論の全趣旨。)
シャープは,遅くとも平成元年には,ホログラムタイプを採用し,耐環境性能に
優れた小型軽量のCD用光学ピックアップ(幅25mm,長さ48mm,高さ40mm)を,
平成3年には,レーザーディスク用光学ピックアップ(幅48mm,長さ60mm,高さ
29mm)などを開発した(乙8,9。)
松下電器産業は,平成9年ころ,厚さ10mmのホログラムタイプのDVD用光学
ピックアップを開発した(乙20。)
ウPSにおいてレーザーカプラータイプの光学ピックアップが採用された経緯
被控訴人では,もともとディスクリートタイプの光学ピックアップを用いていた
が,昭和59年ころ以降,被控訴人社員であった乙が,レーザーカプラータイプの
光学ピックアップの原型となる発明を行い,その後,被控訴人では,レーザーカプ
ラータイプの光学ピックアップの開発が本格化し,前述のとおり,平成3年には,
このレーザーカプラータイプの光学ピックアップを使用して薄型化したCDプレー
ヤー「D−J50」を発売した(乙21。)
平成4年にPSの商品化が本格的に計画されることになったところ,被控訴人と
して現実に商品化できるまでに技術が蓄積していたのは,ディスクリートタイプと
レーザーカプラータイプであり,これらを採用すれば,外部調達により製品の仕様
を定める段階における設計の機密情報が他社に流出することを防止できるとのメリ
ットもあった。
また,当時,被控訴人が,ポータブルCDプレーヤー「DJ−50」用に資本,
人材を投入して独自開発し,商品化を達成したレーザーカプラータイプを選択する
のは,ごく自然であった。ソニーグループとしては,レーザーカプラータイプの光
学ピックアップに係る開発コストを回収することは重要な課題であり,新規製品で
あるPSは,このレーザーカプラータイプの光学ピックアップを搭載する製品とし
て格好の材料であった。
以上のような事情により,役員等の決裁を経た後,被控訴人製のレーザーカプラ
ータイプの本件光学ピックアップが,PSに搭載されることとなった(乙21。)
エPS2においてもレーザーカプラータイプが採用された経緯
PS2においても,レーザーカプラータイプの光学ピックアップが採用された。
これは,単に,PSにおける光学ピックアップを踏襲したことに加え,被控訴人に
とって自社調達が可能であり,また,レーザーカプラータイプにおいて,CDとD
(,VD用の2波長レーザーの開発に成功したとの事情もあった甲21の1ないし5
乙21。)
オ新型PS2においてレーザーカプラータイプが採用されなかった経緯
PS2は,平成16年度以降,本体がかなり薄型化され「新型PS2」として,
販売された。このとき,コストの点から,従来のレーザーカプラータイプの光学ピ
ックアップに代えて,ディスクリートタイプの光学ピックアップが採用された。
当時は,既に被控訴人以外の各社がディスクリートタイプの2波長光学ピックア
ップを量産しており,市場競争によってディスクリートタイプの2波長光学ピック
アップの価格は相当下がっていたのに対し,被控訴人のみが製造していたレーザー
カプラータイプの光学ピックアップは,発売当初と比べて価格はそれほど下がって
いなかった(乙21。)
カレーザーカプラータイプとコピー防止について
PS等において採用されていたコピー防止方式は,真正ソフトに認証可能な信号
を記録し,当該信号を照会することによって実施されているもので,レーザーカプ
ラータイプの光学ピックアップを搭載しなければ当該コピー防止方式を採用できな
いということはなかった(乙21。)
キ本件各発明に関するジョイントライセンス契約(乙24)
被控訴人及びフィリップス社が策定した音楽用CDに関する規格に従った記録媒
体及びその記録,再生機器の製造,販売に関し,被控訴人及びフィリップス社が保
有する特許につき,フィリップス社を窓口として他社との間で締結された契約(以
下「本件ジョイントライセンス契約」という)において,以下の内容が定められ。
ている。
(ア)許諾特許について
aCDオーディオプレーヤーに関しては,フィリップス社が,ライセンシー及
びその子会社に対し,フィリップス社が保有し又は今後取得する限度で,使用許諾
を与える無償の権利を有し又は今後取得するCDオーディオプレーヤーに関する特
許権であって,最先の出願日又は最先の出願日と認められる日が昭和58年1月1
日より前であるもので,別紙Ⅰ(省略)記載の特許権を含む(これらに限定されな
い(1条1.21(ⅰ)項。))
bCD−ROMプレーヤーに関しては,上記1.21(ⅰ)項の特許権に加え,
専らCD−ROMプレーヤーに係る発明をカバーする範囲内においてのみ,かつそ
の限りにおいて,最先の出願日又は最先の出願日と認められる日が昭和60年1月
1日より前である,別紙Ⅱ(省略)記載の特許権(1条1.21(ⅱ)項。)
(イ)この点につき,フィリップス社は,別紙ⅠないしⅣ(省略)記載の
N.V.Philips'Gloeilampenfabrieken及びその関連会社,又は被控訴人及びその子
会社により保有される特許権を実施許諾する権利を取得していることを表明する
(2条2.02項)。
(ウ)フィリップス社は,さらに,ライセンシー及びその子会社に対し,本契約時
においてまだ実施許諾されていない,本件許諾製品(CDオーディオプレーヤー,
CD−ROMプレーヤー等を指す。1条1.19項参照)に付随する発明をカバ。
ーする特許権であって,フィリップス社が保有し又は今後取得する限度で,フィリ
ップス社がライセンシー及びその子会社に対し,使用許諾を与える無償の権利を保
有し又は今後取得する,世界のいかなる国においてであれ最先の出願が昭和57年
12月31日より後にされた特許権に基づき,本件地域において本件許諾製品を製
造し,製造された本件許諾製品を世界のすべての国において使用,販売,又はその
他処分する,非独占的かつ移転不可の実施権を許諾することに同意する。2条2.
03項により実施許諾される特許権については(中略)2条2.01項による許,
諾特許の使用に基づいて当然支払うべきロイヤリティに加えて,支払うべきロイヤ
リティの支払がされる必要があることが明示的に了解される(2条2.03項。)
ク本件各発明に関するクロスライセンス契約(乙25)
被控訴人は,平成7年3月31日,国内電機・電子機器メーカーA社との間で,
(「」。)次の条項を含むクロスライセンス契約以下本件クロスライセンス契約という
を締結した。
(ア)「契約製品」とは,本契約発効時点において,被控訴人及びA社に共通する
事業範囲に属する製品をいい,例示として,CDプレーヤー,コンピューター周辺
装置(CD,MD応用装置を含む)が含まれる(1条1項及び添付書類A。。)
(イ)「甲特許」とは,被控訴人が本契約有効期間前及び平成11年12月31日
までに第一国出願を行い,単独で所有若しくは将来所有する全世界における特許及
び実用新案であって,第三者に対する実施料その他の代償の支払をすることなしに
処分権を有するものをいう(1条2項。)
(ウ)被控訴人は,A社及びその子会社に対し,本契約の有効期間前及び有効期間
中に,A社又はその子会社が甲特許を実施した契約製品を製造,販売,使用,賃貸
その他の処分(A社又はその子会社のために下請けさせる場合を含む)をするため
の通常実施権を許諾する(2条1項。)
(エ)本契約の有効期間は,平成7年1月1日から平成11年12月31日までと
する。ただし,被控訴人又はA社から相手方に対し,有効期間満了の日の6か月前
の該当日の翌日から有効期間満了の日の3か月前の該当日までの期間に,書面によ
る特段の申出がない限り,本契約の有効期間を更に5年間延長する。以後も同様と
する(7条1項。)
第1項の規定にかかわらず,満了日までに出願済み(中略)の甲特許(中略)に
係る第2条規定の通常実施権は,当該甲特許(中略)の権利存続期間満了日まで有
効とする(7条3項。)
,,(3)ア以上の事実を前提とした場合まずそもそも被控訴人が本件各特許につき
いわゆる「開放的ライセンスポリシー」を採用していたとは認められない。
この点に関し,被控訴人は,フィリップス社を窓口として他社との間で本件ジョ
イントライセンス契約を締結しており,本件各特許についても,付随的に同契約の
対象に含まれる旨,被控訴人は競業他社のA社との間で本件クロスライセンス契約
,,。を締結しており本件各特許は同契約の対象にもなっている旨それぞれ主張する
しかし,A社との間の本件クロスライセンス契約は,あくまでA社とだけの間の
ものにすぎず,被控訴人において,本件各特許に関し,誰が実施許諾を求めてもこ
れに応じる方針であったとは認められない。
また,本件ジョイントライセンス契約についても,同契約書に添付された別紙に
は膨大な数の特許が記載されている上,同別紙に記載されていなくてもライセンス
の対象となる特許が多数存在するなど,その対象となる特許の範囲が極めて理解し
にくい。そして,本件各特許は付随特許であって,同別紙には記載されておらず,
ライセンスを受けた者において本件各特許につきライセンスを受けた旨の認識があ
るかは疑わしい。
イ本件各特許は,光学ピックアップ自体及びこれを搭載した製品を小型化,薄
型化することに貢献したものであり,平成3年ころ,当時最も薄型であったCDプ
レーヤーよりも3.1mm薄いCDプレーヤーの発売に寄与するなど,相当程度価
値のある特許であったといえる。
他方で,本件各特許におけるレーザーカプラータイプの光学ピックアップの代替
技術としては,ディスクリートタイプ及びホログラムタイプの光学ピックアップの
2種類があったことが認められるが,それ以外に代替技術があったとは認められな
い。
もっとも,控訴人は,価格面や信頼性の点で,レーザーカプラータイプの光学ピ
,。ックアップは優位であったと主張するがこれを認めるに足りる適切な証拠はない
すなわち,乙28ないし30上の,価格に関する手書きの記載部分をもって,この
ような優位性を認めるには足りない上,控訴人自身が,レーザーカプラータイプの
ものがディスクリートタイプのものよりも高額である旨主張している。
また,被控訴人やSCEがレーザーカプラータイプの光学ピックアップをPS等
に搭載したのは,主として,それまでに支出した開発コスト等を回収するためであ
り,現に,松下電器産業やシャープがホログラムタイプのものを製造し,被控訴人
自身もディスクリートタイプのものも採用していることからすれば,レーザーカプ
ラータイプのものが特に優れていたためとは認められない。
結局のところ,上記の3つの技術はほぼ同等のものといわざるを得ず,前述のと
おり,単に同等の代替技術が存在するというだけでは「超過利益」の存在を否定,
し得るものではない。
ウ以上のとおり,被控訴人がいわゆる「開放的ライセンスポリシー」を採用し
ていたとは認められず,本件各特許にかかるレーザーカプラータイプの光学ピック
アップの代替技術としては,ディスクリートタイプ及びホログラムタイプの2つが
存在することが認められるのみであって,市場全体からみて本件各特許の存在が無
視できるような特段の事情はないことからすれば,被控訴人において,従来からデ
ィスクリートタイプの光学ピックアップを製造・販売してきたことや,本件クロス
ライセンス契約の相手方であるA社が,本件各発明を実施しているか否かが不明で
あることを考慮してもなお,本件において,被控訴人は,本件光学ピックアップを
,「」,製造・販売することにより一定程度の超過利益を得ていたというべきであり
本件での諸事情をすべて考慮すると「超過売上げ」の割合は3分の1であったも,
のと認めるのが相当である。
エなお,被控訴人は,基本的に職務発明にかかる特許を自社実施している場合
には,特許法35条1項の法定通常実施権の範囲内というべきであって「独占の,
利益」はない旨主張する。
しかし,前述のとおり,企業は,経済的に自己の利益を最大化することを目指し
て行動するものであって,当該特許を他社に実施許諾するか,自社で実施するかに
よって,企業が受けるべき利益に差はないというべきであり,被控訴人の上記主張
は採用できない。
このほか,被控訴人は,知財高裁平成21年2月26日判決(キャノン控訴審判
決,同年6月25日判決(ブラザー控訴審判決)が,独占の利益につき,自己実)
「」,施の売上げから通常は50∼60%程度の減額をすべきとした点を批判するが
独占の利益,超過売上げを求める場合に,自己実施による売上げ等については,関
係証拠によって認定し得たとしても,これから控除すべき通常実施権による売上げ
,,の部分については証拠によって直接的に認定することは通常困難であることから
公平の原則に基づきこれを折半するとの考え(50パーセント対50パーセント)
に由来して発展してきたものと想像されるところ,上記判決は,それが「通常は5
」,0∼60%程度の減額をすべきという実務上の目安として顕出したものであって
一概に根拠のない不当な見解であるということはできない。もっとも,いずれにし
ても,本判決は,超過売上げの割合につき一般論として一定の数値を採用して,そ
れを出発点として推論するという手法をとったものではなく,前記判示のとおり,
本件の事案の事実関係を認定して,これに即して具体的にその割合を認定したもの
である。
3相当対価の算定について
(1)本件各発明についての特許を受ける権利の承継に係る相当対価は,
「対象商品の売上合計額×超過売上げの割合×仮想実施料率×(1−被控訴人の
貢献度)×共同発明者間における控訴人の貢献度」によって算定するのが相当であ
る。
そして,証拠(乙93)及び弁論の全趣旨によれば,PS,PSone用の光学
ピックアップ製品(KSM・440)は,光学ピックアップだけでなく,スピンド
ルモーター,ラック及びピニオンを含む移送機構,並びにフレーム等の他の部品を
組み合わせた「ベースユニット」として販売されていたこと,これらのベースユニ
ットとしての価格のうち,光学ピックアップ自体の価格の占める部分が多くとも●
(省略)●割以下であることが認められるところ,被控訴人も,これが●(省略)
●割であるとして計算することに必ずしも異議を唱えていないので,これを前提と
して計算することとする。
以上を前提とすると,PS等に搭載された本件光学ピックアップの売上高につい
ては,別紙「売上台数・平均価格一覧表」記載のとおり,●(省略)●円である。
また,前述のとおり,本件光学ピックアップの製造・販売による被控訴人の「超
過売上げ」の割合は3分の1とするのが相当である。
(2)前提となる事実,証拠(甲21の1ないし5,乙10,11,17,21,
,,,,,,,,,,9495104111112114120129130133
,,,,,,,,140159164ないし166168169203227230
233ないし239,241,246)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実
が認められる。
ア被控訴人とソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)は,平成5
年11月ころ,家庭用ゲーム機及びソフトウェアの開発・販売,並びにソフトメー
カーとのライセンス業務を行うSCEを,共同出資で設立した(乙241。。)
イPSが発売されるまで,家庭用コンピューターゲーム機市場を独占していた
のは,任天堂の「ファミリーコンピューター(以下「ファミコン」という)であ」。
り,任天堂は,ファミコンの記憶媒体として,専用カートリッジであるマスクRO
Mを使用していた。
被控訴人は,任天堂に対し,ファミコン本体のCPUの重要な電子部品である音
源チップを提供していたが,その後,紆余曲折を経て,被控訴人単独で家庭用ゲー
ム機を作ることになった(乙17,21,104。)
ウSCEは,PSのハードの発売日(平成6年12月3日)を”1,2,3,
”の語呂合わせにしたり,個性的なキャッチコピーのテレビCMを積極的に展開す
るなど,斬新な広告戦略を打ち出すことで,幅広いユーザーを獲得していった(乙
140。)
なお,SCEは,同社が設立された平成5年から平成16年までの間に,同社の
海外関連会社も併せ,PS等の広告宣伝費として,合計●(省略)●円を支出した
(乙159。)
エ任天堂のソフトは「マスクROM」といわれるカセット方式であるが,被,
控訴人は,CD−ROMを採用した。マスクROMは,スイッチを入れるとゲーム
がすぐ開始できるが,CD−ROMに比べて容量が少なく,迫力のあるサウンドや
豊かな映像表現には不利である(乙104。)
なお,PSにおいて,記憶媒体をCD−ROMにしたことで,大手のゲームソフ
トメーカーだけでなく,小さなソフト開発会社でもゲーム市場に参入できるように
なった(乙17。)
このほか,任天堂は,流通面でも,問屋を通してソフトを販売するのに対し,被
,,,()。控訴人は小売店に直売しこれにより迅速な在庫管理を可能にした乙104
オ平成6年5月10日ころまでに,164社のソフトウェアメーカーがSCE
とライセンス契約を締結し(乙120,同年10月ころには,約240社のソフ)
トウェアメーカーがSCEとのライセンス契約を締結するに至った(乙133。)
被控訴人ないしSCEによるソフトウェアを重視した戦略は成功し「ドラゴン,
クエスト「ファイナルファンタジー」等の人気ソフトの新作を次々にPSから発」,
売したこともあって,PSは,同時期に発売されたゲーム機(任天堂のNINTE
NDO64を含む)の中で最も売上げを伸ばした(乙104,129,130。。)
カ被控訴人ないしSCEは,PSにおいて,それまでのゲーム機のコントロー
ラー(押しボタン式の平らな形)とは異なり,両手で握るグリップ型で,両手の指
が使えるようなコントローラーを採用した(乙17。)
キSCEは,PSにおいて,高性能グラフィックスワークステーション並みの
超高速3次元CG表示能力を備えた次世代のゲーム機を家庭用として提供すること
を目指していた(乙241。)
平成5年当時,家庭用ゲーム機のグラフィックス表現は,背景の画面をスクロー
ルさせながらキャラクター等の2次元画像を動かす手法が用いられていたが,PS
では,高画質の背景と多数のキャラクターを同時に高速で動かすこと,3次元CG
で表現される,よりリアルで迫力のある画像表現を併せて実現することを予定して
いた(乙241。)
PSでは,ソフトの媒体としてCD−ROMを用いており,同機は必要最小限の
圧縮データを用いて画像や音声を合成する機能を備えているため,膨大な量の画像
や音声データを本体に読み出す必要がなかった(乙241。また,画像と音声合)
成に関する処理を専用のハードウェアとOSで行うため,ソフト開発者のプログラ
ミングの負担を軽減し,開発効率を大幅に向上させるものであった(乙241。)
ク平成12年3月4日ころ,PS2の販売が開始されたが,PS2では,ゲー
ム機として初めて,過去のソフトウェア資産(既存のPSのゲームソフト)を継承
することを実現した上,価格を3万9800円に抑えながら,DVDプレーヤーと
しての機能が付いているほか,LSIの開発から取り組み,スーパーコンピュータ
並みの高い演算能力を持つ「EmotionEngine(SCEと東芝が共同で開発したマ」
イクロプロセッサ「GraphicsSynthesizer(最大6600万ポリゴン/秒の描),」
画性能を持つグラフィックスLSIといった高性能のLSIを搭載していた乙),(
111,112,114。)
ケPSにおけるGTEGeometryTransferEngineやPS2のEEEmotion()(
Engine)の性能を上げることにより,扱えるポリゴン数が増え,これにより,物体
を細かいパーツで構成できるようになり,曲面の表現が自然に近付き,物体の表面
が平滑になり,より美しい画像を出力することができるようになった。
またPSにおけるGPU描画演算処理装置PS2におけるGSGraphics,(),(
Synthesizer)の性能を上げることにより,ラスタライズ処理で扱えるポリゴン数
が増え,陰影処理で扱えるピクセル数が増え,テクスチャ適用において複雑な表現
が可能となり,これらにより,物体の表面をよりリアルに表現できるという効果が
得られた(乙233。)
PSにおける画像処理の特徴として複数の点があるが,それらのうち「陰面消,
去「固定小数点の演算による3次元グラフィックスの実現」の技術は,被控訴人」,
における「システムG」というコンピュータグラフィックスシステムからの流用技
術であった。なお「システムG」は,三次元処理のための座標エンジンで,被控,
訴人において1980年代から開発が行われていた(乙233。)
このほか,PS2で用いられた「EmotionEngine」は,3次元CG画像を生成す
る際に不可欠な浮動小数点演算の能力をみると,平成11年当時発表されたインテ
ル社製のMPU「ペンティアムIII」を凌駕しており,同じくPS2に用いられた
「GraphicsSynthesizer」も,当時の最先端の機器に比べても非常に高性能であっ
た(乙230。)
コSCEでは,PS等にかかる研究開発費として,平成5年から平成16年ま
でに,合計●(省略)●円を支出した(乙239。)
,,,,「」またSCEは平成11年ころ東芝と合弁で新会社を設立しEmotionEngine
,(,)。の製造設備のために約500億円を投資することになった乙234235
このほか,SCEは,平成11年ころ「GraphicsSynthesizer」生産のため,,
新会社を設立し,約700億円を出資することになった(乙236,237。)
さらに,SCEは,平成12年6月ころ,PS2の増産のため,半導体生産ライ
ンに約1250億円を投じることになった(乙238。)
,,,SCEは平成11年7月ころレーザーピックアップユニットの開発に関して
●(省略)●円の出資をすることになった(乙246。)
サSCEや被控訴人の技術者が参加した「Rプロジェクト(控訴人は参加し」
ていない)では,CD用(780nm)とDVD用(650nm)とで異なる波。
長を,1つの光学ピックアップで処理することができるように研究開発を進め,こ
こで開発に成功した2波長レーザーカプラーは,PS2に利用された(甲21の1
ないし5。)
シ「LaserOnPhotodiode(LOP)は,被控訴人の固有の光技術の一つであ」
り「LaserCoupler(LC)は,その発展型の素子である(乙164。,」)
被控訴人の精密機器部(後の光デバイス事業部)に属していた乙は,昭和59年
ころから,次世代の光学ピックアップについての検討を開始し,やがて,半導体上
にレーザーダイオードとプリズムを載せて一体とする光学ピックアップ用光学素子
のアイデアを提案した。
乙は,同アイデアを基にして,同年10月26日「レーザカプラ」という仮の,
,。,,,名称をつけて図面を作成したなお当時被控訴人の半導体事業本部において
半導体基板(シリコンサブマウント)上にレーザー出力モニタ用の検出器を作り込
むLOPチップが開発されており,レーザーカプラーの基本構造では,このLOP
チップをうまく利用するという考えがあった。
その後,乙は,精密機器部の丙,半導体事業本部の丁らと,レーザーカプラーの
,,,,,実用化に向けた検討を続け昭和60年4月22日付けで乙1011166
168及び169に記載された特許ないし実用新案登録の出願を行った。
また,昭和60年初めころ,乙や丙,丁らの間では,レーザーカプラーにつき,
プリズムを用いる方式の方がこれを用いない方式よりも実現性が高いという認識が
あった(乙165。)
,,,,なお被控訴人ではレーザーカプラーのビジネス化に当たり昭和63年当時
●(省略)●円程度の投資が予定されていた(乙203。)
また,被控訴人では,平成2年8月ころ,レーザーカプラーの製造ラインの立上
げが決定された(乙227。)
ス被控訴人は本件光学ピックアップに関し●省略●件の特許及び●省,,()(
略)●件の実用新案を保有しており,本件光学ピックアップにおいて実施している
代表的なものだけでも●(省略)●件(本件各特許以外のもの)ある(乙94。)
セ社団法人発明協会が行ったアンケートの結果によれば,平成4年度から平成
10年度における電子・通信用部品の実施料率別契約件数(合計84件。イニシャ
ル・ペイメント条件のないもの)は,実施料率1%のものが21件,2%のもの。
が15件,3%のものが19件,4%のものが9件,5%のものが11件などとな
っている(乙95。)
(3)ア以上のとおり,被控訴人及びSCEが,PS等の製造・販売のためにソフ
トウェア戦略に重点を置き,魅力的なソフトウェアを取りそろえ,宣伝広告にも力
を注ぎ,3次元CGなど高画質なものを導入してきたほか,それまでに被控訴人に
(,),,おいて多くの先行技術LOP乙発明等を蓄積しておりこれらの先行技術が
その内容からみて本件各発明の重要な前提となっているものと解されることや,被
控訴人が莫大な費用を投じてきたことといった諸事情を考慮すれば,被控訴人の貢
献度は97%とみるべきである。
この点につき,控訴人は,自らは被控訴人に対して対価を請求しているものであ
り,SCEによる貢献は,本訴には関係がないと主張する。
しかし,控訴人は,あくまでPS等に搭載された本件光学ピックアップの売上げ
を問題としているところ,PS等の売上げ増加には色々な要因があるが,中でもS
CEによる宣伝広告やソフトウェア重視の戦略に基づく各種活動が,PS等の売上
げに大きく貢献したことは否定できず,控訴人の上記主張は理由がない。
また,確かにSCEは被控訴人とは別会社であるものの,SCEは被控訴人とそ
のグループ会社であるソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)が共同
出資して設立した会社であって,平成16年4月には,被控訴人の完全子会社とな
ったものであり,少なくとも控訴人との関係でみれば,SCEは被控訴人と一体と
いうべきである。
イ本件での一切の諸事情,とりわけ,レーザーカプラータイプの光学ピックア
ップには,ほぼ同等の代替技術が2つ存在し,被控訴人との間で本件クロスライセ
ンス契約を締結したA社等以外に,被控訴人に対してライセンスを申し込んできた
事例が多かったとは認められないこと,被控訴人が本件光学ピックアップに関し,
合計●(省略)●件もの特許や実用新案を有していること,本件各発明は,PS等
のゲーム機の一部分であるディスクドライブの一部分である光学ピックアップの,
さらに一部分であるレーザーカプラーに関する発明にすぎないこと,社団法人発明
協会が行った実施料率についてのアンケート結果等を考慮し,本件での仮想実施料
率を●(省略)●%と認定するものである。
ウなお,控訴人がその対価を請求している本件発明AないしE内における,各
発明の占める割合についても,これを認めるべき適切な証拠はないところ,控訴人
,,,,,,,,は当初本件発明AないしFにつき25%25%10%25%10%
(,),,5%と主張しておりただし本件発明Fについては請求撤回済み被控訴人も
同割合について特段争っていないため,弁論の全趣旨により,本件発明AないしE
全体に占める本件発明AないしEの各割合につき,95分の25,95分の25,
95分の10,95分の25,95分の10であるものと認める。
エまた,本件各発明における共同発明者間の寄与割合については,両当事者と
も色々と主張するが,その具体的な寄与割合を認めるに足る証拠はない。したがっ
て,原則に戻って,共同発明者の数に応じて分けるほかなく,具体的には,本件特
許AないしDについては3分の1,本件特許Eについては6分の1となる。
(4)以上を前提とすると,対象商品(本件光学ピックアップ)の売上高の合計は
●(省略)●円,超過売上げの割合は3分の1,仮想実施料率は●(省略)●%,
被控訴人の貢献度は97%,共同発明者間における控訴人の貢献度は,本件発明A
ないしDにつき3分の1,本件発明Eにつき6分の1,本件各発明全体(本件発明
Fは除く)における本件発明AないしEの各割合は,それぞれ95分の25,9。
5分の25,95分の10,95分の25,95分の10であるから,以上を前提
とすると,本件各発明についての(控訴人分の)特許を受ける権利の承継に係る相
当対価の額は,
●(省略)●円÷3×●(省略)●×(1−0.97)×(25/95×1/3
+25/95×1/3+10/95×1/3+25/95×1/3+10/95×
1/6)=570万7974円となる。
もっとも,控訴人は,被控訴人から,既に合計58万2850円(本件発明Aな
いしEに関する分)の支払いを受けているので,その分を控除すると,控訴人が請
求し得る金額は512万5124円及び遅延損害金ということになる。
4消滅時効について
(1)消滅時効の起算点
ア控訴人は,本件発明D及びEについて特許を受ける権利を被控訴人に承継し
た時点で,被控訴人に対する相当の対価の請求権を取得したものであるから,相当
の対価の請求権に関しては,改正前特許法35条3項及び4項が適用される(平成
16年法律第79号附則2条1項。)
そして,職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させる旨を定め
た勤務規則等がある場合においては,従業者等は,当該勤務規則等により,特許を
受ける権利等を使用者等に承継させたときに,相当の対価の支払いを受ける権利を
取得する(改正前特許法35条3項。対価の額については,勤務規則等により定)
められる対価の額が同条4項の規定により算定される額に満たない場合は,同条3
項に基づき,その不足する対価の額に相当する対価の支払いを求めることができる
のであるが,勤務規則等に対価の支払時期が定められているときは,その定めによ
る支払時期が到来するまでの間は,相当の対価の支払いを受ける権利の行使につき
法律上の障害があるものとして,その支払いを求めることができないというべきで
ある。そうすると,勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の
支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が相当の対価の支払いを受け
る権利の消滅時効の起算点となると解するのが相当である(前掲最高裁平成15年
4月22日第3小法廷判決参照。)
イ被控訴人は,自らが控訴人に対し,平成4年6月8日以前に,本件発明Dの
実施褒賞金として●(省略)●円を,本件発明Eの実施褒賞金として●(省略)●
円を,それぞれ支払ったところ,本件発明考案規定に基づく本件発明D及びEの実
施褒賞金の支払時期は,各支払日以前であり,本件発明D及びEの実施褒賞金につ
いての消滅時効は,上記各支払いによりそれぞれ中断し,上記各支払の時点から,
。,,,再び進行を開始した旨主張するなお被控訴人は本件発明考案規定においては
特別表彰(実績表彰)につき国内と外国とを区別しない旨主張するものである。
これに対し,控訴人は,本件発明考案規定によれば,消滅時効の起算点は,本件
,,「」特許D及びEの我が国における登録日以降でかつ実施による特に顕著な功績
が認められ「1年毎の審査」を経た後である,平成9年9月26日である旨主張,
し,その前提として,本件発明考案規定では,外国特許の褒賞金と日本国特許の褒
賞金の支払いは別個にされると主張している。
そこで検討するに,本件発明考案規定の定めは,出願表彰については日本国内と
外国とを区別しながら(4条,6条参照,特別表彰(実績表彰)に関しては,文)
言上,日本国内と外国とを区別していない(5条参照(ただし,日本国内と海外)
とを区別しない旨明示されているわけではない)ところ,被控訴人の現実の運用。
は別として,上記文言につき,特別表彰(実績表彰)についても日本国内と外国と
を区別するか否かにつき,いずれに解釈することも不可能ではない。
このように,被控訴人が,いずれにも解し得るあいまいな規定を設けたことに加
え,実質的にみて,法律の専門家ではない職務発明者が,特別表彰(実績表彰)に
関しては出願表彰と異なり,日本で登録される前に外国登録等に基づいて褒賞を受
けると,事後的に日本で登録を受けても,将来一切特別表彰を受ける余地がなくな
ると理解できるものとはみられない。
少なくとも,日本国内において当該発明が特許として登録されるか否かが未定で
あるうちに,特別表彰にかかる請求権についての権利行使を期待することはできな
いというべきであり,日本国内での特許登録前に同請求権について消滅時効期間が
進行すると解するのは妥当ではなく,この点に関し,対象となる発明の属する分野
による違いはない。
なお,被控訴人は,実施褒賞(特別表彰)については「国内」と「外国」を区別
していない旨主張するが,他方で,特別表彰の申請があった場合,過去に,対応す
る外国特許の実績表彰があったか否かにかかわらず,被控訴人がいったんこれを受
理していることは当事者間に争いがないところ,同事実は,特別表彰においても日
本国内と外国とを区別する旨の解釈に合致するものである。
以上からすれば,被控訴人が,国内及び外国の出願・登録がある発明につき,現
実に特別表彰を1回しか行わないか否かにかかわらず,少なくとも消滅時効との関
係では,日本国内において当該発明が特許として登録されるか否かが未定である時
点では,なお,特別表彰にかかる請求権についての権利行使につき法律上の障害が
あるというべきである(民法166条1項参照。)
ウ以上のように解した場合,被控訴人が,本件発明D及びEにつき日本国内で
特許出願して,特許登録を得た(本件発明Dにつき平成8年4月,本件発明Eにつ
き同年12月)後「1年ごとの審査」のための特別表彰の推薦が行われた平成9,
年3月ころ(乙28ないし30参照)にはじめて,日本国内での特許登録に基づく
特別褒賞の請求が可能となったというべきであり,この時点から起算した場合,控
訴人が被控訴人に対し,相当対価の請求をした平成18年12月21日時点では,
まだ消滅時効は完成していなかったことになる。
(2)以上のとおり,消滅時効に関する被控訴人の主張は理由がない。
第5結論
以上のとおり,控訴人の請求は,被控訴人に対し,512万5124円及びこれ
に対する平成18年12月22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金
の支払いを求める限度で理由があり,その余は理由がないから,これと異なる原判
決を変更し,上記の限度で控訴人の請求を認容し,その余の請求は棄却することと
し,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
東海林保
裁判官
矢口俊哉

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