弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
       事   実
 控訴人ら代理人(以下控訴代理人という。)は、「原判決を取り消す。被控訴人
は、控訴人aに対し二、三四一円、同bに対し一、七一五円、同cに対し九九九
円、同dに対し一、二八九円、同eに対し一、二五七円、同fに対し一、二九〇円
及び右各金員に対する昭和四三年七月一日以降支払いずみに至るまで年五分の割合
による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の
判決を求め、「控訴人らに対する本件請求から出勤停止処分無効確認を求める部分
の請求を減縮し、控訴人fを除くその余の控訴人らに関する各請求金額をそれぞれ
控訴の趣旨中各支払いを求める金額に減縮する。」と述べ、被控訴人代理人(以
下、被控訴人代理人という。)は、控訴棄却の判決を求め前記各請求の減縮に同意
した。
 当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、次に附加するほ
か、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決四枚目―
記録二六丁―表九行目に「省」とあるのを「顧」と改め、原判決六枚目―記録二八
丁―表二行目に「休憩時間外」とあるのを「休憩時間中」と改める。)。
一 控訴代理人は、「賃金控除額は各控訴人の出勤停止の日数に応じた日給額であ
る。」と述べた。
二 被控訴代理人は、次のように述べた。
 本件無許可ビラ配布に対する懲戒処分は、たまたまなされた無許可ビラ配付をと
り上げてなしたものでなく、全金大磯支部が企業施設内におけるビラ配布の自由を
有するとし、従来の確立された慣行と被控訴人(以下被控訴会社という)の意思を
排除してその施設管理権を侵害し、被控訴会社との協議による解決にも応じないで
一方的に本件ビラ配布を強行し続けていることに鑑み、これを指導した各控訴人
を、情状を勘案し企業秩序維持の必要上最少限度の出勤停止処分に付したものであ
り、各控訴人の行為は正当な組合活動ではないから、本件懲戒処分が不当労働行為
として無効とされるいわれはない。
 さらに、被控訴会社は、各控訴人が指導した本件ビラの発行、配布を前提とし
て、別の配付方法(時間、場所、人員、態様をも含む。)を採るよう全金大磯支部
に対し積極的に協議を申し入れているのであるから、本件懲戒処分によつて本件ビ
ラ発行、配布を封殺する意図は全くなかつた。また、本件ビラ配布は被控訴会社大
磯工場建物通用口における通行に支障を与えるので、被控訴会社はこれに代る一つ
の方法として全金大磯支部に対し同場所におけるビラボツクスによる配布を提案し
た。右配布方法は、被控訴会社従業員によつて結成されたもう一つの労働組合であ
る日本NCR労働組合が被控訴会社と協議のうえ従来からこれを実施して来たもの
であつて、そのような配布方法を採つてもなんら右組合の教宣活動に支障がなかつ
たので、被控訴会社は、全金大磯支部に対しても同様の提案をしたに過ぎない。も
し、全金大磯支部が被控訴会社提案のビラ配布方法も不都合であるとするならば、
合理的理由を説明し、被控訴会社に対し代案を提示するなどして協議を進めるべき
筋合である。ところが、右大磯支部はこの挙に出ず、ビラ配布の自由を主張してそ
の主張する配布方法を一方的に強行し続けたので、被控訴会社はやむを得ず右に提
案したビラボツクスを設置したうえ、これを使用するよう大磯支部に指示しなけれ
ばならなかつた。もつとも、被控訴会社の指示は、全金大磯支部が協議を無視しそ
の主張するビラ配付方法を一方的に強行し続けるのに対するやむを得ない措置とし
てなしたものであつて、ビラボツクスによる配付は例示であり、これに限定する趣
旨に出たものではない。被控訴会社が全金大磯支部に対してなした右提案、指示
は、同支部のビラ配布と日本NCR労働組合のビラ配布との競合、衝突を調整し、
両組合の平等公平な取り扱いを期するためのものであつて、もとより全金大磯支部
のビラ配布を不当に制限しようとするものではないのである。
三 証拠(省略)
       理   由
一 各控訴人と被控訴会社との労働契約の締結
 被控訴会社が肩書地に本社を、東京都大田区<以下略>に蒲田工場を、神奈川県
中郡<以下略>に大磯工場を有するほか、全国主要都市に営業所を設置して、金銭
登録機、計算機、加算機等の製造、販売、修理等を営む会社であること、各控訴人
が被控訴会社に原判決添付入社一覧表記載日(昭和三六年六月二一日ないし昭和三
九年四月一六日)に期限の定めなく雇傭された被控訴会社の従業員であることはい
ずれも当事者間に争いがないから、各控訴人と被控訴会社とは当時被控訴会社を使
用者として控訴人を労働者とする期間の定めのない労働契約を締結したものである
ことが認められる。
二 昭和四三年五月当時各控訴人の賃金額、稼働状態及び本件懲戒処分の存在
 昭和四三年五月当時各控訴人は被控訴会社大磯工場において働いており、当時控
訴人a、同bの各二日分の賃金額は、控訴人aにつき二、三四一円、同bにつき
一、七一五円であり、その余の控訴人らの各一日分の賃金額は、控訴人cにつき九
九九円、同dにつき一、二八九円、同eにつき一、二五七円、同fにつき一、二九
〇円であつたところ、被控訴会社が昭和四三年五月二七日付で各控訴人に対し原判
決添付懲戒処分一覧表記載のとおりの本件出勤停止処分及び賃金カツト処分(以
下、本件懲戒処分という。)をなし、右処分に基づき同年七月二〇日各控訴人に対
し一か月分の賃金を支給するにあたり、控訴人a、同bにつき同年五月二九日、三
〇日の各二日分、その余の各控訴人につき同月二九日の各一日分の賃金を控除した
ことは、当事者間に争いがない。
三 本件懲戒処分の効力
 各控訴人は、本件懲戒処分の無効原因として、本件懲戒処分は、各控訴人が労働
組合の正当な行為をしたことの故をもつてなされた不利益取扱又は懲戒事由該当行
為不存在の懲戒であると主張し、被控訴人は本件懲戒処分は、各控訴人が就業規則
に定められた懲戒事由に該当する行為をしたので、同規則の定める手続によつてな
したものであると抗争するから検討する。
 本件懲戒処分が被控訴会社の懲戒処分通知書の記載によるとさきに引用した原判
決事実摘示第二(請求原因)四(一)ないし(五)の各控訴人らの所為を理由とす
るものであつたこと、被控訴会社の就業規則一一二条に「社員の行為が次の各号の
一に該当する場合は情状に応じて譴責、減給、出勤停止、昇給停止、又は降格に処
する。」、同条第七号に「業務上の指示、命令に従わず会社の秩序を乱したが、そ
の情の軽いとき」と規定されていること、及び本件懲戒処分は各控訴人の前叙所為
が被控訴会社就業規則の右条号に該当するとしてなされたことは当事者間に争いが
なく、成立に争いのない乙第一号証によれば前記就業規則一一二条九号には「その
他前各号に準ずる行為があつたとき」と規定されていることが認められ、前項乙第
一号証、成立に争いのない甲第一ないし第一三号証、同乙第二ないし第二五号証、
同乙第四九ないし第五三号証、原審証人gの供述により成立を認める乙第二六、第
二七号証、原審証人hの供述により成立を認める乙第四五ないし第四七号証、同第
四八号証の一、二、成立に争いのない乙第五七号証、同第五八号証の一ないし六、
同第五九号証、いずれも被控訴会社ロツカールーム内の写真であることに争いがな
く、原審証人hの供述によつて控訴人らの主張当時のビラ散乱状態の写真であるこ
とを認める乙第二九ないし第三二号証、各撮影年月日を除き被控訴人ら主張どおり
の写真であることに争いのない乙第三三、第三四号証(その撮影年月日が被控訴人
主張のとおりであることは原審証人hの供述によつて認める。)、乙第三五号証の
一、二、乙第三六号証の一ないし三、(その撮影年月日が被控訴人主張のとおりで
あることは原審証人gの供述によつて認める。)乙第三七ないし第三九号証、乙第
四〇、第四一号証の各一、二(その撮影年月日が被控訴人ら主張のとおりであるこ
とは当審証人iの供述によつて認める。)、乙第四三号証(撮影年月日が被控訴人
ら主張のとおりであることは当審証人jの供述によつて認める。)、原審証人g、
同h、同k、当審証人j、同i、原審及び当審証人l(各一部)、原審における控
訴人c(一部)同d(一部)、当審における控訴人a(一部)の各供述及び弁論の
全趣旨を総合すると次の事実を認めることができる。
1 被控訴会社大磯工場は、昭和三二年一〇月一五日創設されたものであるとこ
ろ、これよりさきの同年二月一六日被控訴会社には蒲田工場の従業員及び東京その
他の営業所の技術員を中核とする全国金属労働組合日本ナシヨナル金銭登録機支部
という労働組合が結成され、大磯工場設立に伴い同工場に蒲田工場から転勤して来
た従業員を中心に全国金属労働組合日本ナシヨナル金銭登録機大磯支部(以下、支
部組合という。)が結成された。その後昭和三九年一〇月二〇日被控訴会社従業員
の一部により日本NCR労働組合(以下、NCR労組という。)があたらしく結成
されると、支部組合から脱退してNCR労組に加入する者が相継ぎ、昭和四四年七
月には大磯工場従業員一、二四五名中支部組合所属者約五〇名に対しNCR労組所
属者は約六三〇名に達し、同工場の管理職を除く従業員の過半数はNCR労組によ
つて組織化されるに至つた。
 控訴人aは昭和三六年九月、控訴人dは昭和三七年六月、控訴人cは昭和三九年
八月支部組合に加入したものであり、昭和四三年四、五月当時控訴人aは支部組合
執行委員長、同bは同副執行委員長、同cは同副書記長、同fは同会計、同d、同
eはいずれも同執行委員であつた。
2 支部組合は、当初その本部、支部の発行する機関紙等を支部組合事務所に設け
られた各職場別の状差しの中に支部書記局員が投函して置き、各職場委員がこれを
始業前又は昼の休憩時間中に各職場組合員に配付するという配付方法を採つてい
た。しかし、前叙したように同一経営内に二組合が併存するに至つたのち支部組合
は、いわゆる教宣(教育宣伝)活動を活発に行うために支部の日刊機関紙として支
部組合の活動方針、報道、要求等を掲載した「おはようみなさん」(大きさはわら
半紙の約半切ないし四分の一切で一枚のもの)を発刊し、被控訴会社従業員に対し
その出勤時(就業時間前)に手渡しの方法で配付することを決定し、昭和四〇年四
月一二日以後毎朝大磯工場一号館入口において(後記のとおり従業員は工場構内に
乗り入れる通勤バスで通勤する者が多いため工場敷地外では効果が乏しい)支部組
合員が出勤して来る従業員に対し、その従業員が支部組合員であると否とに拘ら
ず、手渡しの方法で配布を続けた。ところでかねて被控訴会社は、大磯工場におい
て会社施設は業務の目的のために使用するものであり、就業時間外の業務目的以外
の会社施設の利用は原則として認めない方針で管理すべく昭和三三年五月二八日工
場長から各従業員あてに工場内通達第八五号を発して「従業員は社用(会社業務)
及び既に定められている在寮者の食事又は入浴の目的の他は工場建物の内に一切入
らないこと」を周知させていた。そこで被控訴会社は、大磯工場一号館入口におい
て支部組合員が「おはようみなさん」(以下ビラともいう。)を出勤して来る被控
訴会社従業員に配付し始めた当時m労務課長をして現場で支部組合副執行委員長l
に対しこのような場所でビラを配付する慣行のないことを指摘し、「事前に許可を
得ていないビラは就業時間外であつても被控訴会社敷地内で配布してはならない。
即刻中止するように。」と制止、警告させたが、支部組合はこれに応ぜず当日午前
八時頃まで、その後も同様の方法によりビラ配布を継続した。その方法は、晴天の
日には大磯工場一号館A及びCブロツク各通用口前の巾約一・八メートルの通路上
の両側に各数名宛並び、雨天の日には同通用口(巾約一・二メートル)内のタイム
レコーダーの設けられている通路上の両側又は片側に数名宛並んで毎朝始業時刻
(大磯工場では通常午前八時〇五分)前出勤して来る従業員の前に「おはようみな
さん」を各人が一枚宛差し出すというものであり、大磯工場では従業員のうち相当
多数が国鉄平塚駅前から被控訴会社大磯工場構内まで乗り入れる通勤バス三台に一
台約七〇名宛分乗して午前七時三五分頃から午前七時五五分頃まの間に三回に分れ
順次到着出勤するので従業員が前叙のように通路巾の狭い各通用口を長い一列縦隊
となつて通過することが多く、ビラを受け取らない出勤者には次ぎから次ぎにと胸
元前方にビラが差し出され通行に渋滞を来しかねないこともあつて、出勤者のうち
職制でない従業員の多数は一応ビラを受け取つていた。しかし、前叙のとおりNC
R労組が結成されていたこともあり、従業員に手渡された「おはようみなさん」が
其の場に捨てられ、散乱することも多かつた。そこで、被控訴会社は、その後も支
部組合に対し無許可で「おはようみなさん」を配布しないように警告する一方、右
につき協議を申し入れ、円満解決を図ろうとしたが、支部組合は、機関紙の発行の
みでなく配付も組合活動として使用者から自由であり、被控訴会社と協議して機関
紙の配付方法を決めるべきではないとの態度を固執しつづけ協議ができなかつた。
NCR労組は、昭和三九年一〇月結成直後被控訴会社と協定のうえ、機関紙を職場
代表委員を通じて職場ごとに配付していたが、昭和四〇年五月労使慣行を破る支部
組合のビラ配付につき被控訴会社に善処を促し、同年五月一五日被控訴会社n労務
部長は支部組合三役と会見し被控訴会社m労務課長と協議して善処するよう要請
し、同年同月二六日支部組合執行委員長とm労務課長とが協議し被控訴会社側から
ビラボツクス設置等の提案もされたが支部組合側は「おはようみなさん」の配付を
許可制とする前提では協議に応じられないとして、これを拒否し、同年七月一〇日
被控訴会社がさきに同年四月一二日支部組合の大磯工場入口でなしたビラ配布につ
き許可のない配布を認めない旨支部組合に対し警告した等の行為を組合活動に対す
る支配介入であるとして被控訴会社を被申立人とし神奈川地方労働委員会に対し不
当労働行為救済を申し立て、以後支部組合と被控訴会社とのビラ配布問題に関する
協議は中断され、「おはようみなさん」の配布は従前どおりの方法で行われたが、
それは被控訴会社がそのような配付を容認したからでなく、労働委員会において解
決しようと考えていたからであつた。その後、被控訴会社の女子従業員数名が出勤
の際支部組合員らからビラを差し出される大磯工場Aブロツク通用口を通るのを避
けて非常口から同工場に入つたり、また同会社の一従業員が大磯工場に出勤の際目
の前にビラを差し出した支部組合員の手を振り払つたためいさかいを生じたりした
こともあり、被控訴会社はビラ配付問題を何時までも未解決のまま放置しておくこ
とができないとして、労委の判断を待つて解決することを断念し、昭和四三年二月
九日、一四日、二八日三回に亘り、ビラ配付に関する協議を申し入れ支部組合と同
年三月一三日及び四月三日協議したが、被控訴会社は支部組合が「おはようみなさ
ん」の配付につき許可制を認めるなら、その配付方法につき十分協議しようという
のに対し支部組合はビラ配付は組合活動の一手段であるから被控訴会社の許可を求
める必要はないとし、協議は全く進展しなかつた。
3 このような経緯を経て被控訴会社は、昭和四三年四月一〇日文書を以て支部組
合に対し支部組合が従来続けているビラ配布方法を中止するように警告するととも
に、同日大磯工場建物内に二か所設置したビラボツクスを以後利用されたいと申し
入れ、同工場各通用口の組合掲示板の下に状差しのような形をしたビラボツクスを
設置したが、支部組合は右の指示に従うことなく依然として従前の方法により「お
はようみなさん」の配布を継続した。そこで、被控訴会社は、i労務課主任、o労
務課員、p警備課長らをしてビラ配付を中止し、ビラボツクスを使用するよう警告
させたが、控訴人a、同b、同c、同e、同fは、交々現場において支部組合員ら
を指導し、警告を無視して、休日以外連日午前七時三〇分頃から(但し、同年四月
一二日には午前六時四五分頃から)午前八時頃まで従来どおりの方法で「おはよう
みなさん」の配付を続行した。同年四月一二日に早朝からビラの配付が開始された
理由は、被控訴会社大磯工場の始業時間は、前叙のとおり通常勤務者について午前
八時〇五分であつたが、ダイキヤスト作業場の交替制第一勤務者については午前七
時一〇分であつたのでビラ配付を交替制一直の早番勤務者にも行つたからである。
 たまたま昭和四三年四月一九日、同月二三日、同年五月八日はいずれも雨天であ
つたため、支部組合は、大磯工場一号館A及びCブロツクの各通用口内のタイムレ
コーダーを設置してある通路上で「おはようみなさん」の配布を、配布担当組合員
の人数を増加し被控訴会社職員の警告を無視して行つた。すなわち、四月一九日午
前六時五〇分頃から午前八時頃まで、控訴人c、同fらは支部組合員らとともに、
四月二三日右同時刻頃の間控訴人a、同dらは支部組合員らとともに、五月八日午
前六時四五分頃から午前八時頃まで控訴人a、同cらは支部組合員らとともに、い
ずれも出勤してくる従業員を巾約一・六メートルの工場内通路の片側ないし両側に
ならんで迎え、出勤者一名に対し通路手前にならんだ者から順次一名が出勤者の前
に「おはようみなさん」を差し出し、出勤者が受け取らなければ、次にならんだ者
が続いてその出勤者の前にビラを差し出し、雨天のため従業員が雨具等を所持して
いたこともあつて、混乱がないではなかつた。しかも、右控訴人らはいずれも配付
現場において被控訴会社のm労務課長をはじめ係員らの制止、警告を受けたにもか
かわらず、右配付行為を実行した。
 また、昭和四三年四月三〇日午前六時三〇分頃控訴人dは支部組合員一名ととも
に大磯工場一号館Bブロツク男子ロツカールーム内外で折柄一直勤務のため出勤し
て来た被控訴会社従業員らに対し「おはようみなさん」の配付を行つた。
 以上3記載のビラ配付当時も各控訴人らは前叙支部組合の役職にあり、積極的に
右ビラ配付を支持推進していたものである。
4 これより先、控訴人aは、(一)大磯工場ロビー前において無許可職場集会を
強行したことにより昭和四〇年一二月二九日に出勤停止一日の懲戒処分、(二)被
控訴会社誹謗のステツカーを貼つたこと、大磯町政を中傷し会社の名誉信用を毀損
した文書の配付、会社役員を誹謗した文書の配付、違法ピケツテングの実行等によ
り昭和四一年一〇月三一日以降出勤停止三日の懲戒処分を受け、控訴人bは、
(一)控訴人aの右(一)と同じ懲戒処分(二)無許可ビラを就業時間中に工場内
で配付したことにより昭和四一年二月二日以降出勤停止三日の懲戒処分、(三)控
訴人aの(二)の処分と同じ理由により昭和四一年一〇月三一日以降出勤停止五日
の懲戒処分を受けた。
 原審及び当審証人l、原審証人g、同h、同k、原審における控訴人c、同d、
当審における控訴人aの各供述中右認定に反する部分は採用せず、ほかにこれを動
かすだけの証拠はない。
 懲戒事由不該当の主張について
 控訴人らは、本件懲戒処分の理由として掲げる各控訴人の行為は被控訴会社の就
業規則一一二条七号に定める懲戒事由に該当しないから、右条号に基づいてなされ
た本件懲戒処分は無効であると主張する。しかし、大磯工場が労働者である各控訴
人の使用者である被控訴会社によつて工場建物及び敷地を所有ないし占有されてそ
の管理に属している事業場であることは当事者間に争いがなく、各控訴人が所属す
る労働組合である支部組合の機関紙である「おはようみなさん」が大磯工場の敷地
ないし建物内において被控訴会社の警告制止を無視して各控訴人により被控訴会社
従業員に配布されたことは前記3のとおりである。一般に事業場は、当然に使用者
の管理に属し、労働者は、自己の労働力を使用者に委ねるために事業場の出入りを
許され、就業時間中は使用者の指揮命令に従い労務に服する義務を負うものであ
り、労働組合は労働者が団結によりその経済的地位の向上を図ることを目的として
自主的に結成加入した団体であつて、使用者から独立した別個の存在である。従つ
て、労働者の労働組合活動は、原則として就業時間外にしかも事業場外においてな
すべきであつて、労働者が事業場内で労働組合活動をすることは使用者の承認がな
い限り当然には許されず、この理は労働組合活動が就業時間中の休憩時間に行われ
ても、就業時間外に行われても変りがないと解すべきである。これを本件について
みるのに、前顕乙第一号証によれば、被控訴会社の就業規則には事業場内において
業務外の集会を行う場合の許可手続を定め、政治活動を禁止した規定(一二条)、
就業時間中に業務外の印刷物を会社の許可なく配布することを禁止した規定(一三
条)等のあることは認められるが、一二条はいうまでもなく、一三条も前記原則に
照らせば厳格に解すべきであつて、就業時間外に事業場内で業務外の印刷物を会社
の許可なく配布することを承認した趣旨に解することはできず、前記3の事実から
控訴人らのビラ配付が巾狭い通路を集団的に通過する出勤者の多数にビラの受け取
りを事実上強制する結果となつたこと、すくなくとも一部の従業員が迷惑したこと
はいずれもこれを推認することができ、使用者の有する事業所の管理権は本来施設
を経営目的達成のために管理するものであるから、これに基づく指示命令を施設の
物的利用の仕方に関するものに限られると解するのは相当でなく、前記3の控訴人
らのビラ配付のように一過的にもせよ被控訴会社従業員の事業場における就労準備
を遅らせあるいは事業場の物的施設を汚損する場合にはこれをその目的に副つて物
的に機能させるため右配付を禁止し得る権能の基礎となると解すべきであり、始業
時間を控えての就労準備遅延は就労を遅延させ、そうでなくても受け取つたビラが
大磯工場の建物又は敷地内に放置され、その効用を害するから、事業場施設の物的
管理の妨害とならないということはできず、控訴人らの所為は懲戒事由に該当する
ものであつて、これに該当しないとの控訴人らの主張は採用の限りではない。
 不当な不利益取扱であるとの主張について
 控訴人らは、控訴人らがなした「おはようみなさん」の配布は、正当な組合活動
であるから、これに対する本件懲戒処分は不利益取扱であり、不当労働行為として
無効であると主張する。
 各控訴人が昭和四三年四、五月当時支部組合の役職にあり、その組合活動として
支部組合の活動方針、報道、要求等を記載した支部組合の日刊機関紙として「おは
ようみなさん」を配付したことは前叙のとおりである。しかし、控訴人らが「おは
ようみなさん」を被控訴会社が管理している大磯工場の建物又は敷地内で右会社の
警告、制止を無視してその従業員に配布したことは前叙のとおりであり、前記2の
とおり大磯工場において昭和四〇年四月一二日前には同工場入口で労働組合のビラ
を手渡す配付方法はとられていなかつたこと、前記2、3のとおり支部組合の採つ
た配付方法に対し被控訴会社は配付につき被控訴会社の許可をとるように再三申し
入れ、協議し警告していること、前叙のように配付場所の通路が狭いこともあつ
て、配付により従業員の出勤に混乱を生じ、特に雨天の際には混乱と迷惑とを惹起
することがあつたこと、前叙のとおり、併存するNCR組合から善処の要望もあり
被控訴会社は、「おはようみなさん」の配付につき被控訴会社の許可を原則として
認めるならば、配付方法としてビラボツクスの設置を提案するが右提案に固執しな
い態度であつたのに対して、あくまで組合ビラ配布は自由であるという独自の立場
に固執し、被控訴会社の協議に応ぜず、指示に従わず、前叙のとおり一過的にもせ
よ、繰りかえし大磯工場の敷地建物の機能を害した各控訴人の所為は相当でなく、
これを正当な組合活動であると認むべき特段の事由は認められない。そして、前叙
控訴人両名の就業規則違反歴等をも参酌し同規則一一二条七号を適用した本件懲戒
処分は被控訴会社の適法な懲戒権の範囲内にあり、他意はないと認められるから、
控訴人らの不当労働行為の主張もまた採用し難い。
四 以上の理由により各控訴人の本件請求は失当として棄却すべきであり、これと
同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は、理由がないから、民訴法三八四条に従
いこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき同法八九条、九三条を適用して、主文
のとおり判決する。
(裁判官 吉岡進 園部秀信 兼子徹夫)

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