弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人は熊本地方法務局伊倉出張所昭和二十九年四月十五日受付第八
〇七号債権者A、債務者B間の債権金二十五万円、弁済期昭和二十九年五月十二
日、利息元金百円につき日歩金三十銭、利息支払期貸金と同時に期限内前払、期限
後は百円につき日歩金四十銭なる債権担保の為の抵当権設定登記の共同担保目録
中、別紙目録記載の不動産に対する部分の抹消登記手続をなせ。
     訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め
た。
 当事者双方の、事実上及び法律上の陳述、証拠の提出、援用、書証の認否は、事
実関係につき被控訴代理人において、本件不動産について、被控訴人は、控訴人主
張の如き抵当権設定登記を受けているに反し、控訴人は、所有権移転登記を受けて
いない結果、その所有権取得を以て、被控訴人の抵当権に対抗し得ないものである
から、控訴人は被控訴人に対し抵当権設定登記の抹消を請求し得べき権利を有しな
い、と述べた外は、原判決の当該摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
         理    由
 別紙目録記載の農地は、もと訴外Bの所有であつたところ、被控訴人は、Bに対
し、昭和二十九年四月十二日金二十五万円を、弁済期昭和二十九年五月十二日利息
百円につき日歩三十銭、利息支払期貸金と同時に期限内に前払、期限後は百円につ
き日歩四十銭の損害金を支払う旨の約定で貸付、その貸金債権の担保として、右農
地に抵当権設定を受け、同年四月十五日熊本地方法務局伊倉出張所第八〇七号によ
り抵当権設定登記をなしたことは、当事者間に争がない。
 而して成立に争のない甲第三号証によれば、Bは、これより先き、準禁治産の宣
告を受け、昭和二十八年四月十一日その審判確定し、同月十五日妻Cが保佐人とな
つた事実を認めることができるが、昭和二十九年八月二十六日Cが保佐人として被
控訴人に対し右抵当権設定契約を取消す旨の意思表示をした事実は当事者間に争が
ないから、右事実に口頭弁論の全趣旨を綜合すれば、前記抵当権設定契約は、保佐
人の同意を得ずしてなされたものであることを認めることができる。
 然るところ、成立に争のない甲第一号証に、本件口頭弁論の全趣旨を綜合すれ
ば、控訴人は右抵当権設定契約前の昭和二十八年八月中Bとの間において、右農地
を同人より買受ける契約をなし、同年九月十八日その所有権移転につき熊本県知事
より農地法第三条第一項による適法なる許可を受けたが、未だその所有権移転登記
を完了しない間に、前記抵当権設定契約及びその登記がなされた事実を認めること
ができる。
 而して控訴人は本訴において準禁治産者たるBの有する、前記抵当権設定行為の
取消権及びこれに基く抵当権設定登記の抹消登記手続請求権を代位行使し、被控訴
人に対し右登記の抹消登記手続を求めるに対し、被控訴人は、右取消権は一身専属
権であつて代位権行使の対象にはなり得ないと抗争するから、この点に<要旨>つい
て審究するに、民法が保佐人の同意を得ずしてなされた準禁治産者の法律行為を取
消し得るものとしたのは、専ら準禁治産者の財産上の利益を保護することを
目的としたものであつて、右取消権は準禁治産者なるが故に特に認められた権利で
はあるけれども、親族相続等の身分関係その他一身専属的な関係に由来するもので
はなく、準禁治産の宣告を受けた精神上の弱者、不具者の純然たる財産上の利益を
保護する目的を以て、準禁治産者に与えられた権利に外ならない。ただ、民法は保
佐人の同意を得ずしてなされた準禁治産者の法律行為につき、準禁治産本人にのみ
取消権を与え、保佐人にこれを与えていないけれども、その理由は、準禁治産者
は、禁治産者、未成年者に比較すれば、不完全ながらも、相当程度に自己の行為の
効果を判断する能力を有するから、本人に取消権を与えるだけで、本人保護の目的
を達し得べく、保佐人にまで取消権を与える必要を認めずとしたに過ぎないもので
あつて、特にその取消権の行使を準禁治産者本人にのみ限るべく、他の者にこれを
行使せしむべからざる本質的な事由があるからではない。従つて、準禁治産者本人
が債権者に対して負担する債務を履行する為には、本人が第三者との間において保
佐人の同意を得ずしてなした法律行為の取消を必要とする如き場合においては、債
権者をして、その取消権を代位行使せしめても、準禁治産の制度の趣旨に背馳する
ことなく、却つて、その代位行使を許さずとする合理的な根拠はこれを認め難いか
ら、右取消権は、債権者代位権行使の対象となり得るものと、解しなければならな
い。本件において、控訴人は、前認定のとおり、本件抵当権設定及びその登記前に
適法に知事の許可を得てBとの売買契約により、本件農地を買受けたものであるか
ら、Bは、控訴人に対し、制限物権の附着せざる完全なる所有権を移転し且その登
記手続をなすべき債務、並びに、その反面完全なる所有権移転の効力を制限する結
果を生ずる如き抵当権設定登記等をなすべからざる債務を負担し、若し右物件に対
しかかる登記をなした場合には、速かにこれを抹消すべき債務をも負担するものと
いうべく、債権者たる控訴人は、かかる債務の履行を請求し得べき債権を取得して
いるものであるから、Bにおいて被控訴人に対する前記抵当権設定行為を取消し得
るにも拘らず、その取消をしない以上、控訴人において、右取消権及び取消の結果
生ずべき抵当権設定登記の抹消登記手続請求権を代位行使し、被控訴人に対し前記
抵当権設定登記の抹消を請求し得べきものと、いわねばならない。
 被控訴代理人は、控訴人は、本件不動産について所有権移転登記を受けていない
からその所有権取得を以て既に右不動産について、抵当権設定登記を経ている被控
訴人に対抗できない、と抗争するけれども、前述のとおり、被控訴人の有する抵当
権は保佐人の同意なくしてなされた準禁治産者の意思表示によつて設定されたもの
である関係上、その意思表示は本来、準禁治産者自身において、これを取消し得る
ものであるところ、控訴人は、この準禁治産者自身の取消権を―単に同人に代位し
て―行使するものに過ぎないからその取消権を行使し得べき権能は、準禁治産者に
対してこれを有すれば足り、その権能が、取消権の行使を受くべき第三者に対抗し
得るものなることを要しない。すなわち、右取消権の行使は控訴人が、控訴人自身
の権利を、被控訴人に対して行使するものではないから、控訴人の権利を以て被控
訴人に対抗し得るか否かに関係なく、許さるべきこと理論上当然といわなければな
らない。
 然るに、控訴人は昭和三十二年三月八日の本件口頭弁論期日において、債権者代
位権に基き、Bの有する、前記抵当権設定行為の取消権及び取消の結果生ずべき抵
当権設定登記の、抹消登記手続請求権を代位行使したのであるからこれによつて前
記抵当権設定行為は当初より無効となり、被控訴人はBに対し右登記の抹消登記手
続をなすべき債務を負うに至つたものということができる。従つて、Bに代位して
右抹消登記手続を求める控訴人の本訴請求はこれを認容すべきに拘らず、原判決が
これを棄却したのは失当であるから、原判決は、これを取消すべく、民事訴訟法第
三百八十六条、第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 中園原一 裁判官 中村平四郎 裁判官 亀川清)

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