弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人岸達也上告趣意第一点について。
 所論昭和二〇年勅令第五四三号「ポツダム」宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関ス
ル件ノ施行ニ関スル件第二項には「前項ノ閣令及省令ニ規定スルコトヲ得ル罰ハ三
年以下ノ懲役又ハ禁錮、五千円以下ノ罰金、科料、拘留及五千円以下ノ過料トス」
とあつて、この法文を明治二三年法律八四号命令ノ条項違犯ニ関スル罰則ノ件中の
「命令ノ条項ニ違犯スル者ハ各其ノ命令ニ規定スル所ニ従ヒ二百円以内ノ罰金若ハ
一年以内ノ禁錮(刑法施行法一九条第一項但書により懲役又は禁錮に変更)ニ処ス」
とある法文と対比し且つ刑法二五六条第二項中の「十年以下ノ懲役及ヒ千円以下ノ
罰金ニ処ス」との法文をも参酌すれば、右勅令における制裁のごとく「及」で一括
してある場合には「若ハ」または「又ハ」で一括してある場合と異り制裁の併科を
妨げない趣旨であると解するを相当とする。そして、従来の立法用語の使用例もそ
のようになつている。しかのみならず、原審における所論弁護人の陳述は、旧刑訴
三四九条にいわゆる法律の適用についての弁護人の独自の意見に過ぎないもので、
同三六〇条二項所定の事実上の主張に当るものでないから、原判決が判決の理由に
おいて該弁護人の意見に対し何等説示するところがなかつたからといつて、判決に
判断を示さない違法があるとはいえない。論旨はそれ故に採ることができない。
 同第二点について。
 原判決は、その第一の(二)の事実摘示において、被告人が昭和二二年一月末か
二月頃から同年八月下旬頃に至る迄の間約九回に亘り判示診療所においてアトロピ
ン、モルヒネ、一㏄入六百本を売渡した行為を連続一罪と認定したことは所論のと
おりである。しかし、右売渡行為は、第一審判決において被告人が同年七月頃同所
でAに対し同剤一㏄入約三十本を無償で授与した行為と共に所論のように包括一罪
として認定された事実は認めることができない。却つて、本件起訴状によれば右A
に対する授与行為は右売渡行為と区別して起訴され且つ第一審判決においても右販
売行為と授与行為とを明確に区別して認定擬律し併合罪の処断をしていることが明
らかである。そして、原審において検察官は、公訴事実の陳述として所論のごとく
第一審判決記載の通り陳述したのであるから、原審が、右Aに対する授与行為につ
き証明が充分でないとして主文において無罪の言渡をしたのは正当であつて、原判
決には何等所論の違法は存しない。
 同第三点、四点について。
 しかし、旧麻薬取締規則第四二条は、麻薬を所有又は所持する静的な行為を取締
るものであり、同第二四条は、麻薬を製剤、小分、販売、授与又は使用する動的な
行為を取締るものである。そして後者に当然伴う麻薬の握持行為は後者に吸収され
特に所持として罰すべきものではないが、かゝる場合でない前の違反行為と後の違
反行為とは必ずしも通常手段結果の関係があるものといえないばかりでなく、その
取締の目的と法益とを異にするから、各独立した別罪を構成するものと解するを相
当とする。されば、麻薬の所持を罰した場合には爾後の処分行為は別罪を構成しな
いとの論旨第三点はその理由がなく、また、原判決が判示第一の(一)の所持と同
(二)の売渡とを併合罪と認めて刑法四五条、四七条を適用処断したのは正当であ
つて、論旨四点も採ることができない。
 同第五点について。
 しかし、原判決が麻薬一瓦より注射液百本を作り得る薬学上の実験則を無視した
と認むべき資料は何等存しない。その他所論は結局原判決の量刑を非難するに帰着
するから、上告適法の理由として認め難い。
 よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 竹原精太郎関与
  昭和二五年三月三〇日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎

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