弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原判決を取り消す。
被控訴人の主位的訴および当審における予備的訴をいずれも却下する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
       事   実
 控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第
一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控
訴を棄却する(ただし原判決主文第一項のとおりの懲戒免職処分の取消請求を「控
訴人が被控訴人に対し昭和四七年四月八日に同月七日付でなした懲戒停職一年の処
分を取り消す。」と減縮する。)。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を
求める。なお予備的に当審であらためて「前同停職処分を取り消す。当審での訴訟
費用は控訴人の負担とする。」との判決を求める。
 当事者双方の主張および証拠関係は次のとおり補正するほか、原判決事実摘示と
同一であるからこれを引用する。
(被控訴人主張の補正)
一 原判決請求原因の二の末尾に次のとおり加える。
 「被控訴人は本件懲戒免職処分について昭和四七年五月二五日国家公務員法九〇
条一項の規定に基づき人事院に審査請求をしたところ、人事院は昭和五一年五月二
五日付で懲戒免職処分を懲戒停職一年の処分に修正する旨の裁決をした。したがつ
て現在では、控訴人がなした懲戒処分は懲戒停職一年の処分の限度で残存すること
になつた。」
二 同請求原因の三中「本件懲戒免職処分」とあるのをいずれも「本件懲戒停職処
分」と改める。
三 同請求原因の四を次のとおり改める。
 「本件事件が発生した当時における労使の実態、具体的には、いわゆる郵政マル
生という郵政当局の不当労働行為の実態、被控訴人と同じころ懲戒処分を受けた南
郵便局職員Aほか二一名に対する処分との均衡、本件処分事由の性質等からする
と、本件懲戒停職処分は重きに失し裁量権の濫用にあたる。」
四 主張追加
1 本件懲戒免職処分は人事院の修正裁決により一部取り消されて本件懲戒停職処
分として残存しているものである。したがつて、請求の趣旨を本件懲戒免職処分の
取消しから本件懲戒停職処分の取消しに変更することは、請求の減縮にすぎない。
2 仮に右のとおりの請求の減縮が許されないとすれば、予備的に本件懲戒免職処
分取消請求の訴を本件懲戒停職処分取消請求の訴に変更する。
(控訴人主張の補正)
 原判決請求の原因に対する認否の一「認める。」の次に「(ただし本件懲戒免職
処分が本件懲戒停職処分の限度で残存するとの点を除く。)」を加え、同三を削
る。
 なお本件懲戒免職処分は、人事院の裁決により本件懲戒停職処分に修正され、当
初から本件懲戒停職処分がなされたこととなり、本件懲戒免職処分はその効力を失
うこととなつた。
(証拠関係)省略
       理   由
一 被控訴人は昭和四七年四月八日当時名古屋南郵便局集配課勤務の郵政事務官で
あつたこと、控訴人は同日被控訴人を国家公務員法八二条により同月七日付で懲戒
免職処分に付したこと、その処分の理由は、控訴人から被控訴人に交付された処分
説明書の記載によると、「昭和四七年二月五日名古屋南郵便局集配課事務室におい
て、同局庶務会計課B主事の所持する公用手帳を奪取し、また、同局局舎階段にお
いて、同主事の両腕をつかんで同主事の肩をコンクリート壁に強く打ちあてたばか
りでなく、同局職員通用口付近において、同主事の右腕をつかんで同通用口窓枠に
激しく打ちつけ、同主事に要加療約二週間の傷害を負わせ、さらに、同局郵便課事
務室において、同局集配課C副課長の両腕をつかんで同副課長を振り回し、昭和四
六年一〇月二九日ころから同四七年二月七日ころまでの間において同局管理者の就
労命令もしくは解散命令を無視し、勤務を欠き、あるいは、同局管理者に対し集団
で抗議したばかりでなく、同局管理者の身体を押し、突き、引つ張るなどして、著
しく職場の秩序をびん乱した。」というものであつたこと、そこで被控訴人が昭和
四七年五月二五日右処分を不服として、人事院に対し同法九〇条一項の規定に基づ
き審査請求をなしたところ、人事院が昭和五一年五月二五日付で本件懲戒免職処分
を懲戒停職一年の処分に修正する旨の裁決をなしたことは当事者間に争いがない。
二 ところで国家公務員法九二条一項の規定により人事院がなす修正裁決は、懲戒
処分に限定してみると、同法八二条の規定する懲戒処分につき原処分が処分の種
類、内容についての裁量をあやまつたとしてその是正のためになされるものではあ
るが、原処分は、その性質上、不可分不離のものであるから、その一部分の取消し
の概念をいれる余地はなく、修正裁決により一体的に取り消されて消滅することに
なり、これに代つて、修正処分があらためて懲戒処分の内容を定めることになるも
のと解するのが相当である。
三 これを本件についてみると、控訴人がなした本件懲戒免職処分は、人事院の修
正裁決により全部消滅し、その処分の一部分が残存しているということはできず、
本件懲戒停職処分が控訴人の処分としてではなく、人事院の処分として存在してい
るにすぎないものというべきである。
 したがつて、被控訴人の主位的訴および予備的訴はいずれも取消しの対象である
処分がすでに消滅しているので、訴の利益を欠く不適法のものといわざるをえな
い。
 そうすると、右と異なる原判決は失当であるからこれを取り消し、被控訴人の各
訴を却下することとし、民訴法三八六条、九六条、八九条を適用して主文のとおり
判決する。
(裁判官 三和田大士 鹿山春男 新田誠志)

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