平成21年8月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成17年(ワ)第11598号職務発明の対価請求事件
(平成21年2月16日口頭弁論終結)
判決
原告P1
上記訴訟代理人弁護士川中宏
同脇田喜智夫
被告新日本理化株式会社
上記代表者代表取締役藤本万太郎
上記訴訟代理人弁護士山上和則
同藤川義人
主文
1被告は,原告に対し,309万8764円及びこれに対する平成17年1
2月13日から支払済みに至るまで年5%の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを25分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の
負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告
(1)被告は,原告に対し1億円及びこれに対する平成17年12月13日か
ら支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
(3)第1項につき仮執行宣言
2被告
(1)原告の請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2事案の概要
1前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない)。
(1)当事者
ア原告(昭和18年生)は,名古屋大学工学部合成化学科を卒業後,昭
和41年4月,被告に入社し,技術部研究室に配属され,新製品の研究
開発に従事し,昭和42年4月1日から昭和44年4月1日まで,名古
屋大学大学院工学研究科に在籍して研究を行った。その後,原告は,研
究部主任研究員(昭和50年2月1日,研究第三部付部長(平成2年)
8月1日,新規開発部主席研究員兼研究開発推進室部長(平成4年1)
0月1日,研究部主席研究員(平成9年6月1日,研究部部長(平))
),()成10年6月26日研究技術本部長付部長平成14年6月27日
,,。,を歴任の上平成15年1月31日被告を定年退職した翌2月1日
嘱託に採用され,平成16年1月1日,非常勤嘱託となったが,同年6
月30日,契約期間満了により,非常勤嘱託が終了した(乙10。)
原告は,平成15年度には「自己組織型核剤の開発と半結晶性ポリ,
プロピレン樹脂の高度透明化」によりわが国の化学技術の発展に寄与し
たとして日本化学会化学技術賞を受賞した(ただし,被告の従業員であ
,,,〔,〕。)。るP2P3P4P5の4名との共同受賞である甲52乙1
原告は,平成16年,ゲルオールMDのゾル-ゲル相転移の研究によ
り,京都大学から工学博士号を授与された。
イ被告は,大正8年11月10日,設立された,オレオ製品,化成品,
()。機能製品の製造及び販売等を営業する会社中間素材メーカーである
設立当初の社名は大阪酸水素株式会社であったが,昭和23年には酸水
素油脂工業株式会社に,昭和42年には現在の新日本理化株式会社に改
称された。本社が京都市にある外,東京に支社を有し,京都市,大阪府
堺市などに工場を有しており,平成17年11月時点で資本金は56億
6000万円,従業員数は約360名である(乙8の1・2。)
(2)本件各特許権
ア本件発明1ないし7(以下「本件各発明」という)は,いずれも被。
告の業務範囲に属し,かつ,その発明をするに至った行為が従業者の職
務に属する職務発明であり,発明者は被告に対し,本件各発明に係る特
許を受ける権利を譲渡した。
イ被告は,いずれの発明についても特許出願し,別紙特許権目録記載の
特許権を取得した(以下,同目録の番号に従って「本件特許権1」など
という。また,本件各特許権に係る特許を同目録の番号に従って「本件
特許1,本件各特許権の出願の願書に添付された明細書を同目録の番」
号に従って「本件明細書1,本件各特許権の特許請求の範囲記載の発」
明を同目録の番号に従って「本件発明1」などという。。)
ウ本件特許権1は,平成7年4月2日,存続期間満了により消滅した。
エ本件特許権2ないし6は次のとおり特許料年金の不納付によっ,,()
て消滅した。
本件特許権2平成19年11月15日消滅
(満了日:平成19年12月7日)
本件特許権3平成20年3月1日消滅
(満了日:平成20年8月24日)
本件特許権4平成20年1月31日消滅
(満了日:平成20年9月16日)
本件特許権5平成19年10月4日消滅
(満了日:平成21年10月2日)
本件特許権6平成20年10月31日消滅
(満了日:平成21年3月3日)
(3)被告製品(発明の実施品)
被告は,昭和47年ころ,プラスチック容器などの材料となるポリプロ
ピレン,ポリエチレン樹脂等を製造するにあたり添加する核剤として,ゲ
ルオールDを製造,販売をしていたが,その改良品として,昭和57年こ
ろからゲルオールMDを,平成3年ころからゲルオールDHを,平成11
年ころからゲルオールMD-LM30をそれぞれ製造,販売している(な
お,ゲルオールDHについては,平成11年ころ製造を中止した。。)
(4)従業員の発明に関する被告の規程
ア被告は,昭和62年4月1日から施行された職務発明規程(以下「被
告規程」という。)(乙7)を定めており,その後,平成元年4月1日
(乙9,第2版,平成14年6月7日(乙4,第3版,平成17年))
10月1日(第4版)に改訂をしている。
なお,本件発明1ないし7と被告規程の施行,改訂の先後関係は以下
のとおりである。
昭和52年3月22日本件発明1の出願
昭和62年4月1日被告規程(乙7)の施行
昭和62年12月7日本件発明2の出願
昭和63年8月24日本件発明3の出願
昭和63年9月16日本件発明4の出願
平成元年4月1日被告規程の改訂(第2版(乙9))
平成元年3月3日本件発明6の出願
平成元年10月2日本件発明5の出願
平成10年7月7日本件発明7の国際出願
平成14年6月7日被告規程の改訂(第3版(乙4))
平成17年10月1日被告規程の改訂(第4版)
イ被告規程(乙7)
(権利の帰属)
3条
1従業員が職務発明に係る特許を受ける権利又は特許権を取得した
ときは,会社はこれに関する一切の権利を承継するものとする。
,2従業員が社外の個人,又は団体と共同して職務発明をなしたときは
その従業員の発明に関する持分の承継は前項の規定によるものとす
る。
3従業員が行った会社の業務に属する発明であって,職務発明に該
当しないものについては,会社は発明者の同意を得て,その権利を
承継する。
4権利の承継は,会社と当該発明者との間に譲渡証書を作成して行
い,これを相互に保管するものとする。
(特許を受ける権利の譲渡義務)
7条
職務発明をなした発明者は,会社が第5条1項の規定により,当該
発明者の発明について特許を受ける権利を会社が承継すると決定したと
きは,その権利を会社に譲渡しなければならない。
(補償金の支給)
10条
会社は,会社が次の各号に掲げる場合において特許を受ける権利又
は特許権を取得し,又は特許発明を実施することにより収益を上げるに
及んだときは,当該権利に係る発明をなした発明者に対し,別に定める
補償金を支給するものとする。
(1)会社が特許を受ける権利を承継し,これを特許出願したとき。
(2)会社が特許を受ける権利を承継し,これが登録になったとき。
(3)会社が特許権を譲り受けたとき。
(4)会社が特許権に係る発明を実施し,収益を上げるに及んだとき。
(出願補償金)
11条
1会社は,前条第1号に該当するときは,出願補償金として発明1
件につき,5000円を支給するものとする。
2出願変更,出願の分割の出願を行った場合は,前項の補償金は最
初の出願に対してのみ支給し,変更,分割の出願に対しては支給し
ない。
3国内優先制度による出願に対しては,原出願と比較して増加した
発明件数に対して支給する(第3版で改訂)。
(登録補償金)
12条
会社は,第10条第2号又は第3号に該当するときは,登録補償金
として発明1件につき10000円を支給するものとする(第3版で。
改訂)
(実施補償金)
13条
1会社は,第10条第4号に該当するときは,実施補償金を支給す
る。
2実施補償金は,現に実施されている発明を対象として,特許権が
存続する限り,登録日から満5年,10年及び15年を経過した時
点で評価し,夫々繰返して支給する。
3前項の利益額の評価は,第4章に定める職務発明審議会の議を経
て社長の決裁によるものとする。
4各支給毎の実施補償金の額は,その相当する期間内に発明を実施
,。したことにより得られた利益額の3%とし50万円を限度とする
(第3版で増額改定)
(共同発明者に対する補償)
14条
1出願補償金並びに登録補償金を受ける権利を有する発明者が2人
以上あるときは,均等に分割して各々に支給するものとする。
2実施補償金を受ける権利を有する発明者が2人以上あるときは,
その配分は職務発明審議会の審議を経て決定する。
(5)職務発明実施補償金等の支給
被告は,平成15年10月,被告規程に定める職務発明実施補償に該当
,()。するとして合計金65万5000円乙6の補償金を原告に支給した
また,被告は,原告に対し,上記65万5000円以外に次の金員(合
計5万8800円)を支給している(総計71万3800円。)
本件発明2出願補償金2500円
登録補償金5000円
本件発明3出願補償金2500円
登録補償金1万円
本件発明4出願補償金2500円
登録補償金1万円
本件発明5出願補償金5000円
登録補償金1万円
本件発明6出願補償金2500円
登録補償金5000円
本件発明7出願補償金1300円
登録補償金2500円
2原告の請求
被告の元従業員である原告は,本件各発明が,原告による職務発明であり
(共同発明を含む,原告は,発明者の1人として,被告に特許を受ける。)
権利又は共有持分を承継させたとして,被告に対し,特許法(平成16年法
律第79号による改正前のもの。以下「改正前特許法」という)35条3。
項に基づき,特許を受ける権利の譲渡に対する相当の対価として算定した6
億2280万円のうち1億円及びこれに対する,本訴状送達の日の翌日であ
る平成17年12月13日から支払済みに至るまで年6%の割合による遅延
損害金の支払を求めている。
3争点
(1)本件各発明の発明者
ア原告が本件発明1の発明者か否か(争点1-1)
イ原告が本件発明2の発明者か否か(争点1-2)
ウ原告が本件発明3の発明者か否か(争点1-3)
エ原告が本件発明4の発明者か否か(争点1-4)
オ原告が本件発明5の発明者か否か(争点1-5)
カ原告以外の本件発明6の発明者は誰か(争点1-6)
キ原告が本件発明7の発明者か否か(争点1-7)
(2)消滅時効等
ア本件発明1に係る対価請求権の消滅時効(争点2-1)
イ本件発明6に係る対価請求権の消滅時効(争点2-2)
ウ本件発明6に係る対価請求の権利濫用(争点2-3)
(3)本件発明3の実施(争点3)
(4)本件各発明の相当の対価(争点4)
ア被告が受けるべき利益の額(争点4-1)
イ被告の本件各発明に対する貢献の程度(争点4-2)
ウ共同発明者間における貢献の程度(争点4-3)
エ相当の対価の額(争点4-4)
第3争点についての当事者の主張
1本件各発明の発明者
(1)争点1-1(原告が本件発明1の発明者か否か)について
【原告の主張】
ア本件発明1の発明者
本件発明1の発明者は,P2ではなく,原告である。
イ先行DBS商品
イーシー化学工業株式会社(以下「イーシー化学」という)の代表。
者らは結晶性プラスチックの改質法に関する特許を有し,同社は,ジベ
ンジリデンソルビトール(DBS)を透明化核剤として「EC-1」と
いう商品名で供給していた。
ウ原告の仮説
原告は,前記EC-1(DBS)はゲル化作用及び核剤作用を有して
いることから,ゲル形成能を持ち,DBSよりも高い融点を持つ誘導体
がポリプロピレン樹脂のより優秀な透明化核剤となるという仮説を持っ
ていた。
エP2に対する指示(m-DTSに対する着目)
原告は,昭和50年ころ,誘導体に開発範囲を広げ,P2に対し,メ
タ-メチルベンズアルデヒド(m-トルアルデヒドと同じ)を用いて,ビ
ス(メタ-メチルベンジリデン)ソルビトール(m-DTS)の予備的な
合成をするように指示した。
オm-DTSの透明化核剤としての性能の確認
P2は,原告から指示された通りに,
によりm-トルアルデヒドとソルビトールを反応させる
実験を行い,m-DTSを合成することができた。
次いで原告は,P2に対し,m-DTSを含むいくつかの限定された
類似物を合成し,これを用いて,ポリプロピレン樹脂の透明化核剤効果
の評価によるスクリーニングを指示した。
上記スクリーニングの結果,m-DTSが優れた透明化核剤としての
性能を持っていることが判明した(本件発明1の完成。)
カ特許出願
P2はこれを乙18の研究報告にまとめた。そして,被告は,m-D
TSについて昭和52年3月22日に本件発明1の特許出願をした。そ
の際,P2が特許出願明細書を起案し,原告が校正した。
キm-トルアルデヒドのp-トルアルデヒドへの変更
,,m-トルアルデヒドはm-トルイル酸製造時に副成するものであるが
昭和54年ころ,原告は原料メーカーから,これを取り
出す工程がないため,工業化できないと告げられた。
ところが,p-トルアルデヒド(PTAL)なら製造し,被告に供給
できるという話がからなされ,もとも
,とp-DTSの方が優れた核剤になるのではないかと考えていた原告は
p-DTSを合成し透明化核剤として開発することにした。
クまとめ
以上のとおり,本件発明1を着想したのは原告であるから,原告が本
件発明1の主たる発明者である。
本件発明1は,ポリプロピレン樹脂の改質法であるが,実質的には,
核剤1,3:2,4-ジ(メチルベンジリデン)ソルビトール(m-DTS
のみならず,異性体であるo-DTS,及びp-DTSも同じ性能を持つ)
の物質特許である。その眼目は,メタ(m-)-メチルベンズアルデヒド
とソルビトールと反応させて得られるDTSを分子設計して,透明化核
剤として提案したことにある。
ケ被告の主張に対する反論
被告は,本件発明1に関し,原告は化合物の指示以外具体的な指導を
していない旨主張するが,誤りである。
【被告の主張】
ア本件発明1の発明者
原告は本件発明1の発明者ではない。本件発明1に特有の効果を見出
したのはP2である。
イ原告の指示内容
原告はP2に対して,DBSと同じ基本骨格を有する誘導体であるD
TSの合成法を検討するように指示していたが,その当時はゲル形成能
の検討(指示)に止まっていた。
その後,被告は,イーシー化学から,ゲルオールDがゲル化剤として
のみならず,これをプラスチック改質剤(透明性や寸法安定性の向上を
もたらす)としての効果を有するとの情報を得た。。
そこで,原告はP2に対し「DBSの誘導体についてポリオレフィ,
」,,ン樹脂の透明性改質効果を検討するようにとの指示をし具体的には
11種類(うち2種類は比較対象)の検討対象を指定した(乙18。)
ウP2の実験と発見
P2は実験をした結果,上記11種類の検討対象のうち,DTSにつ
,「,。」いて少量添加で樹脂物性の低下なしにすぐれた透明性向上を示す
という独自の効果を有することを見出した。
エまとめ
以上の経緯からすると,P2が本件1の発明の独自の効果を具体的に
想到した者として,発明者であるというべきである。
これに対し,原告は,DTSを含む11種類の物質についてポリオレ
フィン樹脂の透明性改質効果を検討するように指示した者であるが,原
告が指定した化合物は誘導体として容易に発想できるものであり,ゲル
オールD以外で取り敢えず,すぐに評価できるものについて指示したに
過ぎない。
本件発明1については,①11種類の検討対象の中でDTSのみが
特段の透明性向上効果を有するものであること,②結晶性プラスチッ
クの中でも結晶性ポリプロピレンについて上記効果をDTSが有するこ
と,③少量添加で樹脂物性の低下なしに上記効果を生じることについ
て具体的に想到した者ではない以上,発明者とはいえないというべきで
ある。
(2)争点1-2(原告が本件発明2の発明者か否か)について
【原告の主張】
ア本件発明2の発明者
本件発明2の発明者は,P6ではなく,原告である。
イ本件発明2の技術的背景
ゲルオール製造プロセスの効率化の課題
被告は,昭和47年からゲルオールDを製造していたが,従前の製造
法は低濃度のものであったため,利益を増やすためには,高濃度製造法
を発明し,製造過程を合理化,効率化し,収率を高める必要があった。
高濃度製造法として連続式製造法と回分式製造法が考えられたが,そ
れぞれ問題点があった。
ウP6による研究とその失敗
(ア)連続式高濃度法特許
原告は,P6とともに,高濃度製造法の
研究に取り組み,連続法を開発しようとし,P6に対し,ゲルオール
Dの連続式高濃度法の研究課題を指示した。
被告は,原告とP6を発明者として,前記連続式高濃度法の成果物
として,すべてのジアセタール類を対象とする
連続式高濃度法の製造法につき,昭和55年2月1日,特許出願
をした(甲27。以下,同出願に係る特許を「甲27特許,同特許」
に係る発明を「甲27発明」という。。)
この「連続式高濃度法特許」は,原告とP6が行った上記の連続式
高濃度法の成果物であったが,硬いゲル状物の生成を完全に抑制する
ことができず,また,鉄粉が発生して反応混合物中に混じってしまう
,,など連続式高濃度法特許ではゲルオールDの改良製造は困難であり
使いものにならなかった。
(イ)回分式高濃度法特許
原告は,回分式高濃度法の研究にも取り組み,スラリー濃度の上限
を明らかにする研究を進め,回分式高濃度
法を発明し,被告は,原告とP6を発明者として,昭和55年5月1
6日,その特許出願をした(甲28。以下,同出願に係る特許を「甲
28特許,同特許に係る発明を「甲28発明」という。」。))
この特許は,スラリー濃度の上限を明らかにし,また,回分式高濃
度法は,前駆体の連続滴下でも,一括仕込みでも可能であり,反応方
法としては,高濃度スラリー下で,高い選択率で収率よく目的とする
アセタール類の製造を可能とする道を開くものではあったが,回分式
,,高濃度法では大型装置で効率的且つ十分に強制攪拌する必要があり
その場合,攪拌翼に大きな負荷が生じてしまうため,大型装置化が困
難であり,そのため「反応缶」の選択が研究開発と不可分の関係に,
あった。
(ウ)P6の研究からの離脱
以上のように,本件発明2の完成の前には二つの改良発明が存在し
たが,この二つの発明は,回分式あるいは連続式にかかわらず,いっ
たんはいずれも失敗した。
P6は,昭和55年8月,この研究から離れた。
エ原告による研究の継続
原告は,P6が研究から離れた後も,新しい高濃度法の開発に取り組
み,昭和57年から昭和60年の間に,次のとおり,着想し創作した。
(ア)発想の原点1
原告は「予備反応物(前駆体:液体)の連続仕込み方法によりゲ,
ル粒子が形成され,ひいてはゲル形成能の劣る品質の製品とならざる
を得ない」とのP6の連続製造法の結論に再吟味を加え,予備反応物
(液体)の連続仕込みによるゲル粒子の形成は本質的な現象でなく,
低減され許容範囲に抑制できるものと推論した。
(イ)発想の原点2
原告は,反応速度を平均滞留時間pで表現できると思われる本件反
応の本質を吟味することにより,回分法における予備反応物(液体)
の仕込み速度を段階的に上げてゆく間欠的仕込みと内容物の増加をさ
せつつ反応する構想を着想した。
(ウ)以上の発想の原点1及び2の推論から,本件発明2の着想「反応基
質とメタノールの予備反応物を連続的または間欠的に添加して,少量
」。の反応から出発して膨大な量の生成物に増大させる方法が誕生した
(エ)回分式高濃度法の改良
原告は,連続式高濃度法はあきらめ,回分式高濃度法を推し進めた
ところ,
研究を継続し「一定の速度」で仕込,
むのではなく「反応の進行につれて仕込み速度を増大させながら加,
えて生成物を増加させ,反応缶を満たして,反応を完結させる」独創
的な方法を確立し,
を確立した。そして,
を作り上げた。
原告は,
こうして原告は画期的な第2世代製造技術を創作した。原告のこの
独創的な方法を示したものが,昭和60年3月19日付の甲21研-
2062「ゲルオールD誘導体の新製造法」であった。
オ特許出願
原告は,P6とともに新しい製造法の課題に取り組み,失敗続きの中
で苦労を分かち合ったという意味で,P6の名前も加えることにし,被
告は,昭和62年12月7日,本件特許2として出願した。
なお,については,被告の競合他社に対する優位性確保のた
め,ノウハウとして保持するものとし,本件特許2では開示していない
が,と本件発明2の実施は不可分のものである。
カまとめ
本件発明2は,原告の発明したを製造面で発展さ
せた回分式高濃度製造法である。それは,であ
り「5価以上の多価アルコールと芳香族アルデヒド類と低級アルコー,
ル及び要すれば酸触媒からなる均一溶液もしくは懸濁液を連続的に又は
間欠的に仕込み,反応缶内の内容物の容量を増加させつつ反応させる」
ところに特徴がある。すなわち,多量の前
駆体原料を「一定の速度」で仕込むのではなく,反応の進行につれて,
仕込み速度を増大させながら加えて生成物を増加させて反応をさせると
いう独創的なものである。そして,その製造法は,の
使用を不可欠としている。
したがって,を製造面で発展させ,
回分式高濃度製造法と,同時にこれを可能とする
を創作した原告が本件発明2の発明者である。
キ被告の主張に対する反論
(ア)本件発明2の特徴について
被告は,P6が反応前駆体を仕込む実験をしたことを根拠に,P6
のみが本件発明2の発明者である旨主張するが,反応前駆体を仕込む
ことは,甲27で公開済みで,本件発明2の出願時には公知であるか
ら,本件発明2の本質的要素ではない。
(イ)P6の着想について
a被告主張のP6の「連続仕込み法」なるものは,本件発明2の回
分法の着想ではなく,連続法の着想である。本件発明2は回分式高
濃度製造法であり,連続式高濃度製造法ではない。したがって,P
6は本件発明2を発明したことにはならない。
b被告は,乙31の週報ノートの記載を根拠にして,P6が「連続
仕込み方法」により内容物の容量を増加させつつ反応する回分法を
完成するための実験をした旨主張するが,実験の目的は,連続反応
における平均滞留時間p(反応速度の目安)を得ることにあり,内容
物の容量を増加させつつ反応する回分法を完成するための実験とは
関係がない。P6には回分法完成の意図も着想もなく,回分法完成
の意図も着想もノートに記載されていないから,上記実験は本件発
明2とは無関係である。
c被告は,P6が「反応後半のジベンジリデンソルビトールが多,
量に存在する時期にを連続仕込み,反
応選択率が向上することを期待した」旨主張するが,事実に反し誤
りである。
(ウ)P6の研究の失敗について
連続式高濃度製造法の研究途中における連続反応テストの中間報告
を記載した週報(乙33)のとおり,P6はゲルオールD連続製造を
目的とするを用
いた研究を行っているが,この研究でP6自身が昭和53年10月2
日付で下した結論は,
,」本反応に対しこのまま供するには不適当である
というものであった(甲20。たしかに,反応前駆体を仕込む実験)
はP6が初めて実行したものであるが,P6は本件発明2の製法を意
図して実験を行っていない。P6は,研究に失敗したまま,昭和56
年,異動で原告の部署を転出し,その後は,全くこの研究から離れて
いる。
(エ)本件発明2の完成時期について
被告は,昭和53年に本件発明2が完成していた旨主張するが,そ
うすると,どうして,昭和55年になって回分式高濃度法特許(甲2
8特許)を出願したのか,また,被告は,ゲルオールDの高生産性の
連続製造プロセスの必要性を昭和52年当時に認識していたのに,な
ぜ,高濃度製造法の製造設備の建設を10年近くも放置したのか,疑
問である。
【被告の主張】
ア本件発明2の発明者
本件発明2の発明者は,原告ではなく,被告の従業員であるP6であ
る。
イP6による研究の開始
P6は,昭和52年4月,被告に入社し,研究部に配属され,原告の
部下となり,原告から研究テーマ「ゲルオールDの高生産性連続製造プ
ロセスの開発」の研究担当に指名され,原告によって選定された1L卓
上ニーダー(強制混練り機)を用いて「反応基質濃度の高濃度化にお,
けるゲル化剤の製造方法の検討」及び「高濃度製造法における)分散(
媒の再検討」をするように指示を受けた。P6は,この指示以外に,本
件発明2に係る着想や具体化の助言などを原告から受けなかった。
ウ研究の進展
P6は,昭和52年4月,原告の指示通りに,分散媒の再検討を行っ
た。その結果,分散媒とするプロセスが良
好であると判断し,原告に報告した。それ以降,P6は,
分散媒系における高濃度製造法を検討した。
,,,,次にP6は昭和52年5月から6月まで前記ニーダーを用いて
被告の従来製造法の基本操作を回分式高濃度製造法に応用し検討した。
エ本件発明2の着想
P6は,昭和52年10月,高濃度製造法の連続法についての検討を
,,,,始めまず当時の製造方法の連続化を想定して予備検討しその結果
原料の「連続仕込み法」が有効であることを確認した。
そして,P6は,反応後半のDBSが多量に存在する時期に
連続的に仕込むことによって,反応選択率が向上
することを期待した。
P6は,上記発想を基に,原料の「連続仕込み法」を検討した。
オ本件発明2の完成
P6は,
を確認し,前記方法は高反応選択率で
DBSを得ることができる方法であると判断した。
P6はこの製造方法を自ら考案し,実験検討し検証して,昭和53年
10月,本件発明2を完成させた。そして,P6は,本件発明2が生産
レベルでの高濃度製造法を構成するプロセスの一つとして有効と考え,
「連続仕込み法」として原告に報告した。その後も,P6は,ゲル化剤
の合成・製造に関する研究に従事し昭和55年8月,研究部門の研究室
が統廃合されて,研究四部体制に編成され,第2研究室が研究第四部に
編成され,P6は,その研究第四部の部内異動で,研究室を移った。
カ特許出願
本件発明2の発明者は,P6であるが,P6の上司であった原告が,
発明者ではないにもかかわらず自らを発明者に加えて,昭和62年12
月7日,特許出願の手続をした。
原告は,昭和53年に本件発明2が完成していたにもかかわらず,昭
和55年に甲28特許を出願したことや,高濃度製造法の製造設備の建
設を10年近くも放置したことが疑問である旨主張するが,どの技術を
いつ特許出願するかは,当時の研究部の考え方や状況によるところがあ
り,昭和55年に甲28特許を出願したことに特段に不合理な点はない
し,また,高濃度製造法の製造設備の建設を10年近くも放置した事実
はない。
キ原告の主張に対する反論
(ア)本件発明2の特徴について
原告は,本件発明2の特徴は,仕込み速度は「一定の速度」ではな
く反応の進行につれて仕込み速度を「増大させる」ことであり,それ
を原告が創作した旨主張するが,反応の進行につれて仕込み速度を増
大させることは,本件明細書2には記載があるが,単に好ましい態様
の例示に過ぎず,当業者が適宜選択することができるものと記載され
ているのであって,特許請求の範囲の構成要件ではないから本件発明
2と関係がない。
(イ)原告のP6への指示について
原告は,原告がP6に連続式高濃度法の研究課題を提示した旨主張
するが,P6は,原告から「高濃度製造法の検討」及び「高濃度製(
造法における)分散媒の再検討」をするように指示を受けたのみで,
その他に本件発明2に係る指示を原告から受けたことはない。なお,
ゲルオールDの高生産性の連続製造プロセス開発の必要性に関し,課
題を設定・指示したのはP7社長(当時)であり,原告は,その研究
課題の研究担当者にP6を指名したに過ぎない。
(ウ)原告の本件発明2についての着想,関与について
原告は,本件発明2の課題設定を行い昭和52年ころから昭和62
年ころまでの10年間にこれに取り組んだ旨主張するが,否認する。
原告は本件発明2に関して,本件明細書2を作成し,その中間処理
を協力し,P6の発明を利用した工業化に向けて技術課と共同して試
作(甲21)したに過ぎない。これらの事実から,原告が発明者であ
ると言えないことは明らかである。
(エ)について
原告は,原告が,本件発明2の,回
分式高濃度製造法を創作し,その製造法には,使用が
不可欠であり,原告が創作した旨主張するが,原告が創
作したという具体的な証拠はない。本件明細書2には,回分式高濃度
法がであるという開示若しくは示唆される記載は
なく,本件発明2の構成要件でもないから,の創
作者と本件発明2の発明者とは関係がない。
(3)争点1-3(原告が本件発明3の発明者か否か)について
【原告の主張】
ア本件発明3の発明者
本件発明3の発明者は,P8ではなく,原告とP9(旧姓はP10)で
ある。
イ本件発明3の特徴
本件発明3は,位置異性体が0.2重量%以下のDBS類の精製物に
対して,アルカリ金属化合物及びアルカリ性有機アミン化合物を配合す
ることにより,安定した高品位ゲルオールMDを作ることを目的とする
ものである。
なお,被告は,本件発明3と高品位ゲルオールMDの開発とはまった
く異なる技術である旨主張するが,本件発明3は「高品位ゲルオール,
MD」の課題で開発した技術であり,このことは,本件発明3の開発経
緯を見れば明らかである。
ウ研究の開始(位置異性体の除去)
昭和57年9月,市場に出されたゲルオールMDは,ポリプロピレン
樹脂配合のため,僅かに柑橘臭を生じ,異臭と感じられた。
原告は,であると考え,
その考えを昭和58年9月9日付研究報告書(乙37添付資料1)にま
とめた。
原告は,次のとおり,作業仮説をたてて実施し,
DBS類の精製物の位置異性体の性質を利用して位置異性体を0.2重
,。,,量%以下にすることを試みこれを実現したその上で原告とP10は
昭和63年8月8日付研究報告書(乙96)を作成した。
(ア)ゲルオール類の製造フロー(乙36)において,
(イ)
(ウ)
エ発明の完成(アルカリ金属化合物及びアルカリ性有機アミン化合物の
配合によるゲルオールMDの安定化)
(ア)原告は,P10とともに,
を確かめ,昭和6
2年4月9日付研究報告書(甲22)にまとめた。
(イ)なお,仮に,エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)がアルカリ
性有機アミン化合物でないとしても,原告は,
について,その役割について,次の3点を着想・予測して実験を実施
した。
①作用しやすい中和剤の役割
アルカリ金属化合物は,反応溶媒のに溶解しない
ので,に分散しているゲルオール凝集粒子中の酸触
媒との接触が困難なため,中和しにくいが,
はに溶解するので,で中和されずに残った酸
触媒を確実に中和する。
②ゲルオールの熱安定化の役割
ゲルオール結晶が融解する時,熱分解
③成形時のゲルオールの安定化の役割
ポリプロピレン樹脂へゲルオール核剤を配合して加熱成形すると
きの加熱過程において,最初に,
次に,ポリプロピレン樹脂が170℃
で溶融し,液体となったが溶融樹脂に均一に
分子分散するが,この時,溶融樹脂中の重合触媒残渣から極微量の
強酸が発生するが,これらは,瞬時にに
トラップされて,酸強度を失う。さらに,240-270℃の成形
温度に到達して,ゲルオールが分子分散した時,ゲルオール分子を
加水分解する強酸の存在がない。
オ特許出願
原告とP10は,この成果をまとめ,被告において,昭和63年8月2
4日,原告とP10を発明者として,本件発明3を特許出願した。
なお,その後,原告とP10は,特定の3級アミンの安定化効果を再確
認し,昭和63年11月13日付研究報告書(甲23)にまとめた。
カ被告の主張に対する反論
,,。被告は本件発明3の発明者はP8である旨主張するが誤りである
その理由は次のとおりである。
(ア)P8の行った実験は,方法
の追試実験を行うとともに,
を追認するというトレース実験をしたに過ぎない。したがっ
て,P8が,本件発明3の発明者となることはない。
(イ)P8は,原告の作成した昭和58年9月9日付研究報告書(乙37
添付資料1)に記載されたPTAL発生のメカニズムを基礎にした上
で,
を実施し,研究報告書(乙34添付資料1∼3)にまとめ
ているが,を記載してい
る。P8は,ゲルオールMD-Hについての安定化技術の確立に失敗
したから,特許の出願手続を行わなかったものと思われる。
【被告の主張】
ア本件発明3の発明者
本件発明3の発明者は,被告従業員のP8である。
P8は,昭和53年4月,被告に入社し,研究部に配属され,昭和5
9年6月からファイン事業部でゲルオールM-MDの開発やゲルオール
Dの高濃度法試作に携わり,昭和61年4月から,商品開発部に異動に
なり,その際,原告も商品開発部に異動となったが,P8の直属の上司
は,原告からP11部長に変わった。以後,P8は,P11の指揮の下で,
昭和62年から,低臭気ゲルオールの開発に従事し,昭和63年4月か
らゲルオールDHの試作検討業務に携わり,現在は技術開発部で樹脂添
加剤1チームのチームリーダーを務めている。
イ本件発明3の課題
ゲルオールMDは,ポリプロピレン樹脂の優れた透明化核剤として使
用されていたが,原料に用いるp-トルアルデヒド(PTAL)は,臭
(),,気感度臭気閾値が高いため製品中のPTALの低減を目的として
多くの検討がされてきた。
ウP8による研究
(ア)P8の着想
P8は,前記2つの課題を次の2つを実現することで解決しようと
した。
①溶剤精製による製品中のアルデヒド量の低減
②安定剤の添加による熱安定性の向上
(イ)溶剤精製による製品中のアルデヒド量の低減について
P8は,
を見出したが,
との結論に達した。
以上の一連の研究開発について,P8がその上司であるP11及びP
12部長の指揮の下で行ったものであり,原告の関与は一切なかった。
(ウ)安定剤の添加による熱安定性の向上について
P8は,
を報告した(乙34添
付資料3:昭和63年7月30日付研究報告書。また,熱安定性試)
験を行い,安定化効果を確認し,昭和63年8月22日,その結果を
被告のゲル化剤会議で報告した。
エ本件発明3の完成
上記アミンを
であって,これは,本件発明3と同じである。
オ特許出願
原告は昭和63年8月22日開催の上記会議に出席し準備書面(9),(
26頁,P8から報告を受けるなどしていたから,P8の上記研究内)
容を容易に知ることのできる立場にあり,P8に無断で,原告及びP10
を発明者として,本件発明3についての特許出願手続を行い,被告にお
いて出願した。
カ原告の主張に対する反論
(ア)原告の実験内容について
a原告は,原告及びP10連名の昭和62年4月9日付研究報告書
(研-2185「高品位ゲルオールMDの製造法(甲22)を根」)
拠に,原告が本件発明3の発明者である旨主張するが,他方で,原
告は,上記研究報告書に記載されている研究に基づいて出願された
特許について,本件特許3とは全く異なる特許であると認めている
から,原告の主張は失当である。また,原告は,EDTAが本件発
明3に係るアルカリ性有機アミンである旨主張するが,他方で,
上記研究報告書(甲22)が,本件発明3と全く
別であることを認めているから,原告は本件発明3の発明者でない
ことを自認しているに等しい。
b原告は,本件発明3の着想に係る実験を行い,発明の有効性を実
証し,前記研究報告書(甲23)にまとめたと主張するが,同研究
報告書に記載されている実験は行わ
れていて,原告が着想したという行われ
てはいない。
(イ)位置異性体の除去について
a原告は,が本件発明3の基礎にあるノウ
ハウである旨主張するが,は本件明細書3に何ら記
載されていない。
bについて
原告は,作業仮説をたてて実施し
た旨主張するが,以下のとおり,原告の主張する作業仮説には間違
いがある。
(a)であり,この反応により得られたも
のは,反応粗物であり,精製物に当たらない(0.2重量%以下
の精製物といえない。また,。)
はあり得ない。
(b)中和は,
また,アセタール類は,本件明細書3が示すとおり
は
起こらない。
(c)水洗工程は,
本件発明3における溶剤精製には当たらない。
(d)なお,原告が発想したというは,原告が検討す
る以前から被告製造現場で既に行われているから,原告の着想で
はない。
(ウ)アルカリ金属化合物及びアルカリ性有機アミン化合物の配合による
ゲルオールMDの安定化について
aとの主張について
(a)がアルカリ性有機アミンであるか否かについて
原告は,
がアルカリ性物質であり,本件発明3に係るアルカリ性有機アミ
ン化合物であることを前提とした主張をするが,
は,酸性であり,本件明細書3においてもアルカリ性
有機アミン化合物として例示されていないから,それらはアルカ
リ性有機アミン化合物でないことは明らかである。
(b)予備的主張(の発明者について)
,,仮にがアルカリ性有機アミン化合物であるとしても
原告は,の発明者ではない。原告は,昭和
62年4月9日,検討結果を昭和62年
(),,4月9日付研究報告書甲22で報告しているがこれ以外に
を行っていない。ところが,被告品
質管理課は昭和57年にはを報告して
いる。さらに,遅くとも昭和61年6月ころには,に
おいて,をしており,
されている(乙164,165。したがっ)
て,上記研究報告書(甲22)は,
を除けば(これについては調査していないが,原告が検討を開)
始する以前に,被告において既に実施していたものを,原告らが
改めて実験し,その確認結果を報告書にしたものに過ぎない。
bを使用したという実験について(本件発明3の特
許出願時期と原告主張の矛盾)
原告は,本件特許3の出願日である昭和63年8月24日より以
前に本件発明3に係るアルカリ性有機アミン)に
ついて全く検討していない。昭和63年
11月13日付研究報告書(甲23,平成元年7月1日付研究報)
告書(甲24)はいずれも本件特許3の出願後の作成である。本件
特許3の出願前に,
P8だけであり,P8はこれを昭和63年8月
22日,原告も出席した会議で報告している(乙163。また,)
本件明細書3は,昭和62年2月23日出願のジベンジリデンソル
ビトール類の製造方法に関する特許(甲39)の明細書とほとんど
同一であり,相異点は,アルカリ性有機アミンに関する記載が異な
るのみで,P8の結果を聞いてから出願までに2日もあれば,十分
に記載できる内容であること等からすると,原告は,P8の実験を
元に,自らが発明したかのように装って特許出願を行い,出願後に
データを取ったと考えられる。
(4)争点1-4(原告が本件発明4の発明者か否か)について
【原告の主張】
ア本件発明4の発明者
本件発明4の発明者は,P10ではなく,原告である。
イ課題
被告のゲルオールMDの納入先で,ポリプロピレンペレッ
トを高速押し出し成形する際成型機の上限温度の制約のためゲルオー,,
ルMDの未溶解物が発生する(融点が低ければ解消される,ゲルオー。)
ルMD特有の臭気のため,多量のライン洗浄用の樹脂を必要とするとい
う問題があった。
なお,ポリプロピレン樹脂に核剤を配合して成形する際に発生する臭
気は,核剤の微量の加水分解により発生する反応原料のアルデヒドに基
づくことは解明されており,
()。を確認済みであった乙37添付資料1
①
②
③
ウ原告の着想
原告は,前記課題を解決するための具体的な着想を次の作業仮説に
よって立てた。
(ア)低融点化は,2種類のアルデヒド混合物を用いてソルビットと反応
させることにより達成される。即ち,1段階製造方法により4種類の
ジアセタールの均一混合物を得るので,融点降下が発生する。
(イ)無臭性は,
により達成される。
PTALの使用は避ける。
(ウ)高透明化の性能は,DBALを必須アルデヒドの一つに設定すると
達成される。なぜならば,溶融ポリプロピレン中で,冷却過程におい
て自己組織化により破断面の直径が10nmの4種類のジアセタール
体が一体化して網目構造を形成して,あたかも
核剤の網目構造体のごとく溶融ポリプロピレンに作用するからであ
る。
(エ)DBALの反応性の悪さは,混合アルデヒドを用いたアセタール化
反応によって解消される。
エ原告のP10に対する指示
原告は,上記仮説に基づき,新規非対称ゲル化剤の合成(DBALと
EBAL)と,核剤性能評価を部下のP10に指示した。
その後,原告は,P10と事前討議を経て,
①DBAL+EBAL
②EBAL+BAL
③DBAL+BAL
の
を決定し,これらの実験,評価を実施した。
原告は,P10の実験の結果,
原告の着想の前記(イ)a,b,cの妥当性を確認した。
オZの範囲の特定
そこで,原告は,P10に
詳細実験への移行を命
じた。
原告は研究報告書をまとめるに当たりP10が甲31に係る特許以,,(
下「甲31の特許」という)を知らないため,選択発明に必要な評価。
点の追加実験を具体的に指示し,選択発明に必要なデータをそろえた。
原告はP10を指導して乙37添付資料5の図4を作成させた。4元ジ
アセタールの組成と透明化性能の関係が3角座標により余すところなく
表示された結果,透明化性能は主に非対称ジアセタールの割合に依存し
ていて,他に特異的に透明化性能の優れる4元ジアセタールの組成は存
在しないことが明らかになった。その結果,本件発明4におけるZの範
囲を,0.3≦Z≦0.8と特定することができた。
カ原告の実験への関与
原告は,本件発明4に関する実験をしていないが,P10に対し,原告
が創出した合成方法,分析方法及び試料作成と機能評価のシステムの実
施方法を教えて,直接指導しているし,核剤の組成分析,核剤の融点測
定PPポリプロピレンシートの調整PPポリプロピレンシー,(),()
トの透明性の評価,結晶化温度の評価などの方法は,すべて,原告が確
立したものである。
キ特許出願
(ア)原告が,特許明細書を作成し,発明者を原告およびP10とする出願
依頼書を作成し,被告に国内および外国への出願を要請し,本件特許
4として結実させた。
(イ)選択発明
なお,本件発明4は,甲31の発明の選択発明である。甲31の発
明と本件発明4によって,初めてゲルオールDHの核剤としての実施
が保障されている。甲31の発明は,原告が1人で完成させ,P8と
2人を発明者として明細書を作成して出願したものであり,原告は,
甲31の発明を先行発明していても,本件特許4が成立するように,
左右非対称体DBSの存在割合の範囲と核剤の構成成分を請求範囲に
明記した明細書を作成した。
本件発明4は,その着想の経過及び技術的価値ならびに工業的意義
を熟知している原告が,明細書を書き上げて,被告が,昭和63年9
月16日,特許出願した。
ク被告主張に対する反論
被告は,
実験を行ったのはP10であるから,同人が本件発明4の発明者である
旨主張する。しかし,次のとおり被告主張は誤りである。
(ア)P10が行ったわずか3回の合成実験による3種類の生成物と核剤の
評価結果を本件発明に結びつけることができたのは,原告の着想・指
示が具体的で的確であったからである。
(イ)P10の認識
本件発明4は,原告の発明に係る甲31の発明の選択発明である。
しかし,P10は,甲31の発明の特徴や,本件発明4が甲31の発明
の選択発明であることすら知らない。
P10は原告の構想どおりの良好な核剤特性の結果に驚いている乙,(
37の2頁の「私の提案内容」の最後のパラグラフに,2つのアルデ
ヒドの組み合わせによって,優れた透明化核剤性能が得られるかは
まったく予測できなかったと記載している。)
このようなP10が,確信を持って,提案できるはずがなく,仮に提
案していたとしても,甲31の特許に記載されている非対称ジアセ
タールを復唱したに過ぎない。
なお,原告が前記エ①,②の組合せに固執することはなかった。
(ウ)P10作成の昭和63年3月1日付「ゲル化剤の誘導体の合成」と堕
(。「」。)する書面乙37添付資料3以下乙37添付資料3書面という
が提案書ではないこと
a乙37添付資料3書面には,①提案を示すタイトルがない,②
提案の趣旨説明や提案内容の記載がない,③性能評価,熱安定性
試験について,具体的な実験方法の記載がない,④最提案を支持
する文献の記載がまったくないなど,低限記載されなければならな
い事項が記載されていないから,前記資料3は原告を説得するため
の提案書であるとは認められない。
b乙37添付資料3書面は3/4∼3/31の一月間の実験予定表
の記載に過ぎず,また,原告とP10の事前の打ち合わせにより,双
方が確認した内容である。
c日程の再検討指示について
原告はP10と研究課題について細部まで十分打ち合わせを行い,
その上で,P10は実験計画表を原告に提出した。それが乙37添付
資料3書面である。同書面に記入されている「日程の再検討」の原
告指示は,P10の初めての合成への挑戦であり,物性の評価まで含
めると1か月は短すぎて,とても一人でできるはずがないと直感し
たため,記載したものである。
dP10は,その後の研究報告書に,乙37添付資料3書面を引用し
て,P10の貢献を明らかにすることができたはずであるが,P10が
作成に関与した研究報告書(乙37添付資料4,5)のどこにも乙
37添付資料3書面についての記載がない。
(エ)P10の役割
被告は,P10がDBALとBALの組み合わせにおいて特異な効果
があることを見出した旨主張するが,P10の着想なるものは公知の化
合物を復唱しているだけであり,すべて捏造であるか,あるいは,P
10の思い込みである。P10は,非対称ジアセタール化合物について何
が新規で,何が公知かの区別すらできていないのであるから,単なる
実験者に過ぎない。
【被告の主張】
ア本件発明4の発明者
本件発明4の発明者は,被告従業員のP10である。
イP10が本件発明4を発明した経緯
(ア)原告の指示内容
原告は,昭和62年12月,P10に対し,DBALとEBALとの
2種類のアルデヒド原料を組み合わせた新規非対称ゲル化剤の開発を
指示し,DBALとEBALとを組み合わせた非対称ジベンザールを
提案した(乙37添付資料2。)
(イ)P10の提案内容
aP10は,原告からの指示を受け,実験計画を立て,昭和63年3
月1日,その計画書を提出し,EBALとDBALの組み合わせだ
けに留まらず,種々のアルデヒドの組み合わせ及びその比率につい
て検討することを提案した(乙37添付資料3)が,原告はDBA
LとEBALの組み合わせを強く主張していた。原告は,P10の上
記計画書に対して,日程を再検討するように指示した以外に何の指
示もしなかった。
b原告は,P10が,初めての合成実験であり,非対称ジアセタール
の合成方法を知らないにも関わらず,合成の提案ができるはずがな
い旨主張するが,P10は,昭和62年5月から,
から,P10
の行った実験は初めての合成実験ではないし,2種類のアルデヒド
を,まして等モル混合物を用いることに,何ら格別の困難性を有す
るものではない。したがって,原告の上記主張には根拠がない。
c原告はP10の提案書は原告との事前の周到な打ち合わせによっ,,
て作成された「実験計画書」である旨主張するが,計画書として重
要なのは,計画の内容と実施時期である。P10の提案書を「周到な
打ち合わせを行って作成した」という原告の主張は,明らかに,矛
盾している「日程(原文は「日定)の再検討」を指示する必要。」
が生じたのは,P10が,原告と打ち合わせすることなく,作成した
ことを明確にしているのである。以上のとおり,P10は,自らの発
,。案で提案を行い原告はそれを日程の再検討を指示したに過ぎない
したがって,本件発明4につながる発案を行った者は,原告ではな
く,P10である。
(ウ)研究の実施
a各種誘導体の合成と評価
,,,P10は前記計画書に沿って新規非対称形透明化核剤の合成と
樹脂評価の全てを自らで行なった。この間,原告は本実験には一切
従事していない。
実験の結果,次の内容が明らかになった(乙37添付資料4。)
①
②
③こ
と
bアルデヒドの割合検討
P10は,前記結果が得られた昭和63年5月∼10月から,BA
LとDBALの組み合わせの割合を変えたものを合成し,樹脂評価
を行なった。その結果,
ことを見出した(乙37添付資料5。)
(エ)甲31の発明と相違する点こそ,本件発明4の本質的特徴となりう
る部分であり,この部分をP10は発明した。
a本件発明4は,特定のアルデヒドを組み合わせることで,甲31
の発明からは予期されない格別な効果を奏することを見出したこと
により,発明に至ったことは明らかである。したがって,単に2種
類のアルデヒドを組み合わせることのみを提案しただけでは本件発
明4の発明者になり得ない。単なる組み合わせであれば,甲31の
発明により公知の技術にしか過ぎない。P10は,特定のアルデヒド
の組み合わせを提案し,その効果を見出した。
bP10は,特定の2種類のアルデヒドの組み合わせに加え,その2
種類のアルデビトの比率の変更を提案している。具体的には,実験
計画書(乙37添付資料3)に
と記載されており,P10がBAL及びDBA
L及びその比率を提案したことは明白である。そして,P10がこれ
ら一連の実験を行い,本件発明4の効果を見出した。
ウ本件発明4の特許出願
原告が本件発明4の特許出願の願書の作成を行った。P10は,特許に
関する十分な知識,認識がなく,上司が明細書の作成等を行ない,発明
者名に上司の名前が入るのが慣習であると思っていたため,内容,発明
者等について特に異存はなかった。
エ原告の主張に対する反論
(ア)原告の着想について
原告は,分子設計の具体的な着想として,①1段階製造による均
一混合物による融点効果,②低臭性アルデヒドの選択,③混合物が
一体化して,核剤として作用する,④併用アルデヒドによる反応性
の向上の4点を挙げるが,以下aないしdの諸点に照らし,原告主張
は失当である。
a甲31の発明には非対称ジアセタール化合物を1段で製造する方
法が開示されており,本件発明4の特許出願時には,既に公知情報
である。
b低臭性アルデヒドを選択することは,DBS類の開発担当者であ
れば誰もが思い付くものであり,特許性を有するものではない。ア
ルデヒドの定性的な臭気評価は昭和58年には既に行われており,
被告内では既に共有情報であった。原告らの実験は,これを定量評
価したに過ぎない。
c混合物が一体化して核剤として作用するというだけであれば,特
定の構造や,特定の比率に限定されることはない。本件では特定の
アルデヒドの組み合わせにおいて,特異的な効果を奏することが特
徴である。
d反応性は,本件発明4を構成する要件ではなく,その向上効果も
特筆すべきものではない。
(イ)原告にはDBAL/BALの着想がなかったこと
a原告は,遅くとも昭和63年3月には,原料アルデヒドにEBA
Lを含むと三井東圧の特許に抵触し,実施できないことを認識し,
P10にもその旨説明した旨主張するが,次の①ないし③の諸点に照
らすと,原告がEBALに固執していたことは明らかである。
①昭和63年4月6日付研究計画書(乙166)には,食品用グ
レードの品質及び性能として,
が記載されていること
②原告は,が終わってから(昭和63年1
月,実際にDHの検討を開始するまで(昭和63年5月)の間)
に,ゲルオールEDの開発を再度命じていること
③甲31の出願時の明細書(乙169)には,EBALとBAL
の非対称ジアセタールの実施例及びDBALとBALの実施例が
記載されているが,DBALとEBALの実施例は記載されてお
らず,昭和63年9月に,乙169(特開昭59-12951)
に係る出願手続の過程で,DBAL/EBALの実施例を追加す
る補正が行われていること
b原告の提案書について
原告は,三井化学(当時は,三井東圧ファイン)が,エチル置換
DBSをNC-4として上市されており,特許で保護されていたか
ら,EBALを用いた核剤の検討に固執する気はなかった旨主張す
るが,三井東圧ファインの特許(特開昭56-30449号,乙1
34)の公開は,昭和56年3月7日であり,原告の提案書は,昭
,,,和62年であるから公開からすでに7年も経過してから原告は
EBALとDBALとを提案している。EBALが使用できないこ
とがわかっていながら,それを対象から外すことなく提案した事実
,。が原告がEBALに固執していたことを示す何よりの証拠である
自らの提案とP10の提案の間の3か月間に対象化合物を発展したと
の原告主張は,公開から7年の年月を無視した,辻褄合わせの主張
にしか過ぎない。
(ウ)P8がほとんどP10を指導していたこと
原告は,一切の実験を行っておらず,受託研究員として京都大学に
出張していたため,P10は,原告に相談できる状況にはなく,P8に
相談し,合成や成型・評価等についての助言をもらっていた。また,
甲31の発明の基礎となる研究は,P8が担当していた。原告の陳述
書(甲52)には,乙37添付資料4(研-2274)の3頁図1を
記載し,P10を指導した旨の記載があるが,昭和58年10月11日
付研究報告書(乙168)は,P8と原告の連名ではあるが,P8が
作成した研究報告書であり,同報告書3頁の図-1は,P8が被告の
研究報告書に初めて掲載した射出成形機の図であり,原告が陳述書で
述べたような事実はなく,P8がP10に射出成形機の図を渡したので
あり,原告が主張する指導はなかった。
(エ)Zの範囲の特定について
原告は,P10に,三角相関図(乙37添付資料5の図4)を作成さ
せ,本件発明4のA成分の含有率Zの範囲を特定した旨主張する。し
,,,かしその三角相関図を見てもA成分の最高純度は70%弱であり
これは,P10がアルデヒドを1:1の比率で仕込んだことによるもの
であり,新たに高純度のものを原告が合成したり,合成させてはいな
い。昭和63年11月13日付研究報告書(乙37添付資料5)の表
により,Zの値に下限のあることが十分に理解されるが,この段階で
実質的に本件発明4は完成されていたに等しい。Zに特定の範囲があ
ることを見出したことが発明の本質であり,その数値が多少増減した
ところで,本件発明4の発明性には全く影響はしない。原告が書かせ
たという三角相関図からは,本件発明4の特許性に影響を与える新た
な事実を見出すことができない。したがって,原告は本件発明4につ
いて何の寄与もしていない。
(5)争点1-5(原告が本件発明5の発明者か否か)について
【原告の主張】
ア本件発明5の発明者
本件発明5の発明者は,P8ではなく,原告である。
イ本件発明5の特徴
本件発明5によるDBS類の安定化組成物の製造方法の利点は,
によって,結
晶内部の酸を効率よく捕捉することにある。
ウ原告の着想
,,原告は特定の3級アミン添加により安定化効果があることを着想し
それが妥当であることを実験データに基づき確認した(甲24。)
特定の3級アミンを製品そのものの中に残存させ,中性から弱塩基性
の特定の3級アミンを用いる本件発明5の方法は前例がない。また,
原告は,独自の着想によって克服し,本件発明
5を特許化することができた。
エ実施例の実験
原告は,
の可否について検討して,本
件明細書5の実施例の実験をした。
オ特許出願
原告は,本件発明5の特許出願にあたり,明細書を作成している。
カまとめ
以上によると,原告が本件発明5を発明したことは明らかである。
なお,被告は,一方では,特許法上の法的利益を得る場面では,本件
発明5の特許出願を行って本件発明5が特許法上の特許発明に値する旨
の言動を行っているにもかかわらず,他方では,自己に不利益となる可
能性のある場面では,これを否定する主張をしているが,このような被
告の主張は,信義則(矛盾挙動禁止原則,禁反言法理)に反し許されな
い。
キ被告の主張に対する反論
,,。(ア)P8は既に公知のアデカ特許(乙38核剤・アミン組成物特許
以下「乙38特許」という。)の追試実験およびアデカ製品の分析を
実施したに過ぎない。P8は乙38に先行して,DBS類への特定の
アミン配合の効果を発見していないし,核剤組成物を発明していない
し,いわんや核剤組成物の製造方法について実験していないし,発明
もしていない。
(イ)P8/P11グループは,昭和62年から
と
の結論に達し,その開発に失敗した。
,,()またP8は昭和63年8月22日付報告書乙34添付資料4
を作成しているが,それは,
報告書に過ぎない。したがって,
仮にP8が「ジアセタールの着色を防止し,ジアセタールの加水分解
によって生じるアルデヒドに起因する異臭が大幅に抑制されたジアセ
タールを収率よく製造する工業的に優れた方法の提供」に関し,その
着想,知見をまとめたところで,乙38特許の「トレース」の域を出
ず,新たな特許としての保護を受けるに値しないことは明白である。
【被告の主張】
ア本件発明5の発明者
本件発明5の発明者は原告ではなく,P8である。
イ本件発明5に関するP8の役割
(ア)P8による良好な安定剤(脂肪族3級アミン)の発見
無臭化ゲルオールの開発課題が透明化核剤の研究担当者の共通認識
であった状況下において,P8は,ジアセタールの安定化を検討して
いる過程で,
を見出した。
具体的には,
を確認
した。
(イ)脂肪族3級アミンの添加の時期と実験について
本件発明5では,脂肪族3級アミン(安定剤)を,中和以降,乾燥
前のいずれかの工程において添加することとされているところ,P8
は,この点について具体的な実験をしていない。
しかし,P8は,乾燥工程前に添加することについては着想を得て
,,いたし被告においてジアセタールの開発に携わっている者であれば
誰でもが思いつくことであった。
また,中和工程より前の段階(すなわち,縮合反応中)に,脂肪族
3級アミンを添加することは,触媒の活性を低下させ,反応を完結さ
せないおそれがあるので,必然的にアミン化合物の添加時期は中和以
降に限定される。
したがって,P8が,上記添加の時期についての実験を行っていな
いことが,本件発明5の発明者をP8であると認定することの妨げに
はならない。
ウ特許出願について
原告は,P8から報告を受けるなどして,P8の発明内容を容易に知
ることができる立場にあったため,P8に無断で自らを発明者として特
許出願する手続を被告内で行なった。当時,原告からP8に対して何ら
,。の説明もなく出願段階ではP8はこの特許出願のことを知らなかった
,,,後日P8がこの特許の明細書を見た際特許請求の範囲に記載された
ゲルオール類の精製物に対して,アルカリ性化合物とアミン性化合物を
,,用いることはP8の関与した報告書の内容に基づくものと分かったが
当時,P8は特許出願手続については熟知しておらず,また,発明者と
しての権利意識も低く,被告の会社として権利取得できれば,社内で事
を荒立てでまで,自分自身に権利帰属させなおす必要もないと考えて,
抗議しなかった。
,,,被告は特許出願や特許補償金の支給の際発明者を確認しておらず
補償金の支給は錯誤に基づくものである。
エ原告の主張に対する反論
(ア)本件発明5の特徴部分は「中和以降,乾燥工程までに,アミン,」
化合物を配合することであるが,原告が指摘する平成元年7月1日付
研究報告書(甲24)は,であり,
原告は脂肪族3級アミンについて何ら検討していないし,P8の実験
後にも,中和以降,乾燥までの間に,脂肪族3級アミンを添加する実
験を行っていないのであって,原告が本件発明5の効果を確認してい
ないことは明らかである。
原告は,P8が会議で発表した内容を利用して本件発明5を特許出
願したに過ぎない。原告は発明者として特許明細書案を作成したので
はなく,知的財産部署が行う業務を代わりに行ったに過ぎない。
(イ)原告は,本件発明5に係る実験をし,その結果が本件明細書5の実
施例であり,実験を行った証拠として,前記研究報告書(甲24)に
おいて,
本件発明5に関する実験ではない。ま
た,本件明細書5の実施例1には,内容量200ℓの反応器で行った
ことが記載されているが,被告研究所内には,200ℓの反応装置は
ない。したがって,現場あるいは機器メーカーでしか,このような実
験はできないが,社外の機械を借りるにしても,現場で実験を行うに
しても,試作扱いであるから,試作報告書等,あるいは生産記録が残
る筈であるが,原告は,このような書類があるとは一言も主張してい
ない。また,そもそも,そのような実験が行われているのであれば,
上記研究報告書(甲24)に記載があってしかるべきである。
(6)争点1-6(原告以外の本件発明6の発明者は誰か)について
【原告の主張】
ア本件発明6の発明者
本件発明6の発明者は原告だけである。
被告は,原告以外に,P13,P14,P5,P15,P16,P17,P18及
びP19も本件発明6の発明者である旨主張するが,原告以外の者は発明
者ではない。
イの確立と本件発明6の特許出願の経緯
原告は,昭和47年1月,有機性ゲル化剤の合成製造法として
を確立した。
本件発明6は,である
のエッセンスともいうべき発明であり,ゲルオールD製
造を可能としたものである。また,同法を着想,研究し,完成させたの
は原告であり,原告は,誰からも具体的な指導を受けていなかった。
原告は,を開発しながら,その一部(本件発
明6に相当)を特許や論文等では開示せず,未公開のノウハウとして保
持させていた。
しかし,ゲルオールD製造のための基本特許(乙13(満了日:平)
成元年10月6日)や本件特許1(満了日:平成7年4月2日,ゲル)
オールMDの樹脂組成物特許(満了日:平成15年1月14日)の特許
権存続期間の満了が近づいており,そのような状況下で,もし,競合他
社が,本件発明6と同じ技術内容を特許として出願して権利化すれば,
ゲルオールD,ゲルオールMD,ゲルオールDH,ゲルオールMD-L
Mの製造は大きな制約を受けることとなることが予想された。
そこで,原告は,被告に対し,本件発明6について,特許出願するこ
とを提案し,P20を共同発明者とする出願がされた。
ウ被告の主張に対する反論
被告は,原告以外に,P13らが本件発明6の発明者であると主張する
が,次のとおり,理由がない。
(ア)P13について
P13は,当時,技術部長であり,
の具体的な提案をしておらず,また,その立場にもな
いから,本件発明6の発明者ではない。
(イ)P14について
a被告は,P14が,エステル系可塑剤合成とゲルオールDの合成は
同じ縮合反応であり,
を着想した旨主
張するが,
については,文献上の根拠はなく,また,可塑剤合成は,液体
の均一系反応で,しかも異性体の副生がない反応であるのに対し,
ゲルオールDは結晶であり,
反応における役割は基本的に異な
るから,P14の着想なるものは両反応の反応機構の差異をまったく
無視した論外のものである。
b当時の一連の研究報告書の内容は,次の①ないし③のとおりであ
り,各研究報告書の内容は,被告主張のP14の着想とは無縁のもの
であり,P14はを着想していないし,P14は研
究に関与せず,原告らを指導していなかったことが明らかである。
①研究報告書(乙49の2)
同研究報告書は,
の
合成条件の変化により,
をまとめたものである。それには,2研の原告,P
15,P21,P22及びP14の名前が記載されているが,P15は原告
を補助して分析を担当し,P21,P22は界面活性剤の応用技術者
であり合成はできなかったので,補助員として応援にまわったに
過ぎない。2研の研究は原告に一任されていて,合成実験はすべ
て原告が実施している。P14は全く関与していない。
②研究報告書(乙47の2)
同研究報告書は,
報告書である。それには,原告,P15
及びP14の名前が記載されているが,P14は,ゲル化剤の新しい
実験について具体的な指導やアドバイスをせず,別室で上記研究
には全く関係がない可塑剤(エステル)の指導をしていた。
③研究報告書(乙40の2:)
同研究報告書は,
報告書である。原告,P15及びP14の名前が記載され
,,。ているがP14は無関係でありP15は分析の補助者に過ぎない
(ウ)P5について
「2研」では,当時,P5が発案した実験に「AT」の記号を付し
ており,原告は,原告の発案になる実験には「BC」の記号を付して
いた。原告,P15,P14連名の研究報告書(乙40の2)に纏められ
ている実験は「BC-32」を記載したものであると被告は主張し,
ているから,被告は,本件発明6の完成となった上記研究報告書の実
験がP5の発案ではないことを認めている。
原告は,の改良を基礎的な解明に基づいて完成
させているが(研究報告書〔甲19〕表2の実験№のKIシリーズは
原告の実験である,上記研究報告書(甲19)の概要および結論。)
は,
ノート(乙51)に記載された合成実験とは異な
る。したがって,被告主張の如く,上記ノートの実験によって,
の改良ができたのではない。
(エ)P15について
P15は,そもそもゲルオールDの合成実験をしておらず,原告のも
とで,分析および応用物性の評価を担当したに過ぎないから,本件発
明6の発明者ではない。
(オ)P16について
P16は,ゲルオールDの合成実験をしていないから,本件発明6の
発明者ではない。
(カ)P19について
P19は,原告がBC-22の合成実験でほぼ確立し,BC-25の合
成実験で本件発明6を完成した後において,P14が招集した会議(昭
和47年1月6日)があり,その会議以降に原告の研究に協力した者
に過ぎず(6研所属,研究報告書(乙46)を見ても)
をしておらず,本件発明6の発明者ではない。
(キ)P17及びP18について
P17及びP18は,いずれも,上記のP14召集の会議(昭和47年1
月6日)以降の協力者に過ぎず(7研所属,また,研究報告書もな)
いから,本件発明6の発明者ではない。
【被告の主張】
ア本件発明6の発明者
,,,,,,,,本件発明6の発明者はP13P14P5P15P16P17P18
P19及び原告である。
本件発明6の発明は,P14による指揮の下,大半の研究室,技術部,
,。分析研究室が協力し各々が役割を担うことにより完成したものである
イP13の関与
P13は,本件発明6の構成要件の一つである「疎水性有機溶媒及び低
級アルコールの存在下に」に相当する課題を設定したから,本件発明6
の発明者の一人である。
ウP14の関与
(ア)P14は,
こと
を発想した。
(イ)P14は,各研究室へ実験を割り振り,P14の部下であった原告,P
5,P15及びP16に対し,検討内容を指示している。
(ウ)以上によれば,P14は本件発明6の発明者である。
エP5の関与
P5は,
()を見出している乙51のAT-62
が,これは,である。
以上によれば,P5は本件発明6の発明者である。
オP15及びP16の関与
P15及びP16は,生成物を分析し反応物組成(DBS,副生成物Sの
割合)等を考察しており,それによって初めて一つの実験が完了するこ
とになるから,本件発明6の発明者である。
原告は,P15及びP16が,合成実験をしておらず分析していただけで
あるから,本件発明6の発明者ではない旨主張するが,分析の結果を考
察することによって検討が進んでいくのであり,合成するだけが着想の
具体化とはいえない。
カP17,P18及びP19の関与
(ア)昭和47年1月6日の会議では,2研,6研,7研において,
,,,を確認することになりそれに従い7研のP17
P18,6研のP19は着想を具体化する実験を行っている。
(イ)P19は,が
適することを定量的に立証した。P19は,本件発明6における脂肪族
アルコールについて実験
を行っているし,
ことを結論として導き出している。
(ウ)以上によれば,P17,P18及びP19は本件発明6の発明者である。
キ原告の主張に対する反論
原告はBCの記号の付された実験は原告の発案に係るものであっ,「」
た旨主張するが,実験記号と発案者(担当者)を結び付ける明確な根拠
はない。
(7)争点1-7(原告が本件発明7の発明者か否か)について
【原告の主張】
ア本件発明7の発明者
本件発明7の発明者は,原告,P3及びP4である。P23は発明者で
はない。
イ樹脂添加剤プロジェクトチームの編成
,,(ア)ゲルオールの欧州市場の状況はゲルオールDHは安全審査基準上
PLリストへの登録は困難であり,ミリケン社との合意を成立させる
か,ゲルオールMDの改良品を開発する必要があった。このため,被
告では,平成9年3月,P24社長を統括責任者とする「樹脂添加剤プ
ロジェクトチーム」が編成された。当該プロジェクトチームの研究開
発部門の責任者は原告であり,P3,P4らP1チームの研究員とと
もに参加した(乙114)。
(イ)溶融ポリプロピレン樹脂へのゲルオールMDの溶解性を向上させる
ためには,次の4つの方法が考えられた。
aゲルオールMDの粉体粒子径を小さくして溶解速度をあげる方法
bゲルオールMDの粉体の嵩密度を小さくして分散速度をあげる方
法
cゲルオールMDの融点を大きく下げて,成形加工の溶融樹脂と添
加剤との混合温度において,固体(ゲルオールMD)/液体(溶融
ポリプロピレン樹脂)混合系を液体(低融点ゲルオールMD)/液体
(溶融ポリプロピレン樹脂)混合系にして分散(溶解)速度をあげ
る方法
dゲルオールMDの結晶形(多形)をかえる方法
(ウ)被告において,上記cの方法を選択して研究を重ねた。
ウの試み
(ア)の指示
P24社長の強い指示で,平成9年6月,原告,P25及びP26が渡米
し,ミリケン社に欧州市場の共有化を申し入れたが,ミリケン社の合
意を得ることが出来ず,交渉は決裂した。そのため,原告は,出張先
の米国からP3に電話し,他の実験をすぐに止めて,ゲルオールMD
へのによる融点降下の確認実験に入るように指示し
た。
(イ)による融点低下成功
P3は,により,融点低下を得ることに成
功した(乙56添付資料9)。そして,均一配合による仮称ゲルオール
を試作した。
(ウ)なお,被告は,平成9年6月30日提出の6月度研究月報(乙56
添付資料3)にが記載されていないから,米
国からによる融点降下の確認実験の指示はでていな
い旨主張するが,原告の指示に従って,実験担当者は,
6月に得ていたが,上記研究月報には記載しないで
(膨大な六方晶キセロゲル核剤の研究データを記載),7月の研究月報
(乙56添付資料9)に記載したに過ぎない。こうしたデータの翌月
へのスライドは,まとまりの良い報告とするため実験担当者がよくと
る方法である。
エの使用の試み
(ア)京都大学における研究成果の説明と提案
原告は,京都大学における研究において,とD
BSとの強い物理的な相互作用があることを知っていた。このため,
を低融点化剤とする発想を提唱できた。
すなわち,原告は,平成10年4月後半ころ,P3,P4及び原告
のグループ会議において,京都大学における研究で解明した次の事項
の説明と新しい提案をした。
aしていくこと
b使う配合剤は,でなければ欧州開発に間
に合わないこと
cゲルを形成するゲルオールMDの繊維状構造の形成には,ゲル
オールMD分子間の水素結合が大きく関与していること
dこの分子間の水素結合を弱めることを考えること
eゲルオールD分子はと強い相互作用を示
し,水系であたかもポリマーのような曳糸性の構造を形成すること
f樹脂の成形の高温ではは使えないので,
がおもしろい。ゲルオールMDの融点を劇的に下げ
るヒントにしてほしいこと
(イ)P4の研究
原告の上記説明と提案に基づき,P4は,を低
融点化剤として使用し,劇的な融点低下作用を発見した。
オ特許出願
(ア)P3は,本件発明7につき,発明者を原告,P3,P4及びP23と
して,出願依頼書(乙56添付資料18)を作成し,被告は,平成1
0年7月7日,国際出願した。
なお,原告は本件発明7の特許出願依頼書に押印する際,発明者に
P23の名前があるのに気づいたが,特許明細書の内容が原告の予測以
上に長文となっていたため,P23の寄与があったのかと思い,押印し
た。
(イ)原告,P3及びP4は,大阪工研協会の化学技術賞「低融点化した
透明化核剤」を受賞している。
カまとめ
以上の経緯によれば,本件発明7の発明者は原告,P3及びP4であ
る。
キ被告の主張に対する反論
(ア)P4の発想
被告は,P4がを低融点化剤として使用するこ
とを発想した旨主張する。低融
点化剤とする発想はコペルニクス的転回であるが,低融点
化剤への展開の理由や根拠となる文献および必然性がまったく週報に
記載されてないし,平成10年4月度の研究月報(乙144の1)の
3(計画の進捗状況)の「問題点と対策」欄には,ほぼ計画通りとの
み記載され「今後の計画」欄には配合研究の継続の意思が記載され,
ているだけであるが,それは,原告が,会議でその発想を説明し,実
験に取り掛かるように指示したため,わざわざ来月本格的に実験する
ことを伝える必要も文献を記載する必要もなかったからである。
(イ)P23の関与
被告は,P23が本件発明7の発明者であると主張し,その根拠とし
て,①P23はP4への融点降下作用のデータを
,,紹介したこと②P3はP23から核剤の粉体流動性の改善について
技術的なアドバイスを受け,本件明細書7にも書き込んだことを挙げ
るが,①については,科学的な事実ではなく,②は単なるアドバイス
をしただけであり,発明の着想者とはいえない。また,選択発明(甲
33)の内容は本件発明7に含まれているにもかかわらず,P23は選
択発明の発明者になっていないが,このことは,被告がP23を本件発
明7の発明者として認めていないことを示している。したがって,P
23は,本件発明7の発明者ではない。
【被告の主張】
ア本件発明7の発明者
本件発明7の発明者はP4,P23及びP3である。原告は発明者では
ない。
イ研究課題
従前,被告の顧客であるポリオレフィン樹脂の製造会社から,核剤を
ポリオレフィン樹脂に溶解させる際に,溶解していない核剤がポリオレ
フィン樹脂中に残存することや造粒機に装着されている濾過用金網の網
目を目詰まりさせることなどの不具合が指摘されていた。これは,核剤
の融点が非常に高いことが要因の一つであると被告では考えていた。
また,ポリオレフィン樹脂の製造会社において核剤を移送する際に,
移送用パイプやホッパーなどでの詰まりなどが生じる不具合や粉塵が飛
散しやすく作業環境に影響が生じる不具合が顧客から報告されていた。
これは,核剤の商品形態が粉末形態であることが要因の一つであると被
告では考えていた。
核剤に関する研究開発に従事している従業員は,①ポリオレフィン
樹脂への核剤の溶解性を改善すること,②核剤の粉体特性(粉体流動
性,粉塵の飛散抑制等)を改善すること,が解決すべき技術的課題であ
。,。ると認識していたこれらの事実は被告において周知の事実であった
ウP4の研究活動
P4は,平成8年3月,
の検討中,
グループリーダーのP6に報告した。P4は,
P6から,上記技術的課題①を解決
できる手段の一つであるから,次回の研究テーマとするように指示を受
けた。
P4は,後記カのとおり,平成9年6月,
の検討中,
を見出した。
エP23の研究活動
P23は,平成8年9月,原告から,研究テーマ「六方晶あるいはキセ
ロゲル型ゲル化剤・核剤の製造と評価(乙56の添付資料4)の担当」
者に指名され,研究を行ない,その結果,原告の指示のキセロゲル型核
剤は顕著な低融点化挙動を示さないと結論づけた。その後,P23は,
に成功した。
P23は,後記カのとおり,P3に対し,ゲル化剤(核剤)の粉体流動
性に係る技術的課題について,改善技術に係る技術的な助言をし,P3
は,その粉体流動性の改善技術(粒状化技術)を本件明細書7に盛り込
んで特許出願を依頼した。
オP3の研究活動
P3は,平成9年4月から,原告の判断で前記研究テーマ(乙56の
添付資料4)を引き継ぎ,P3とP4は4か月間研究検討を続けたが,
キセロゲル型核剤は顕著な低融点化挙動を示さないと結論づけ,その研
究検討は中止となった。
P3は,後記カのとおり,平成9年6月,P4から
を教授され,P3が追試をし
たところ同現象を確認した。
カ本件発明7の着想・発想
(ア)低融点化技術
aP4とP3は,上述したように
核剤に作用しているものと予測して詳細に検討を続けた。
P4とP3は,この低融点化技術が実現できれば,粉末形態の核
剤を造粒して粒子径を大きくしてもポリオレフィン樹脂への溶解性
(分散性)は損なわれないと考えた。粉末形態の核剤を造粒して粒
子径を大きくすることで,その核剤の粉体流動性が改善できると考
えた。
P4とP3は,この低融点化技術は,前記技術的課題を同時に解
決できる基本技術であると考えた。
このようにして,P3とP4は,
など種々の
研究検討を行ない,を完成
させたこの低融点化技術は本件特許7の優先権主張の基礎となっ。,
た特願平9-287924(出願日:平成9年10月3日)として
出願した。次いで,
に関する技術などを盛り込み,本件特許7
の優先権主張の基礎となった特願平10-71362(出願日:平
成10年3月4日)及び特願平10-90173(出願日:平成1
0年4月2日)を出願した。これらの低融点化技術は,
の基本技術となるも
のである。
bP23は,
という現象に気づき,P4に伝え,後日,P4が
その核剤組成物の融点を測定したところ,融点が低下していること
を確認した。
P4は,①
,②
傾向を示
すとのP23の助言に着目し,
を予見し,その新たな作用効果を見出した。
このようにして,P4は,
を完成させた。この改良技術は,国際出願時に盛
り込まれた。この改良技術は,の基
本技術となるものである。
(イ)粒状化技術(粉体特性の改良)
P23は,ポリオレフィン樹脂に対する核剤性能及びポリオレフィン
樹脂への溶解性(分散性)を最重点項目とし,
などを行ない,その結果,①
,②
,③
,④
,⑤
などの知見を得た。
またP23は工業検討計画書を作成し平成9年8月にグラニュー,,,「
ルMD(仮称」の試験生産を,生産部門の協力の下でP8と共に研)
究担当者として行ない,その結果,①
,②
,③
,④
,など
の知見を得た。上記の知見を基にした粒状化技術は,本件特許7の優
先権主張の基礎となった特願平9-287924として盛り込まれ出
願された。
キ特許出願
P4,P23及びP3は本件発明7の発明者であり,当該特許の明細書
の作成に関与した。特許出願依頼書はP3が作成し,原告の承認を経て
。,知的財産部に提出したP3が発明者の欄に原告の名前を記載したのは
発明者だからではなく当時のP3の上司であったからである。
また,発明者であるP4及びP23は当該出願の明細書の作成には関与
,。,していたが特許出願依頼書の作成には関与していなかったそのため
P4及びP23が発明者に原告の名前があることを当初は知らなかった。
P4及びP23は,原告が発明者となり本件発明7が特許出願された経
緯を知らない。
ク原告の主張に対する反論
(ア)原告の役割
P4,P23及びP3は,本件発明7に係る低融点化技術及び粒状化
,。,技術の着想や具体化の助言などを原告から受けていないすなわち
原告は,本件発明7の完成に何ら関与していない。また,原告は,原
告グループのグループリーダーとして,あるいは樹脂添加剤プロジェ
クトの当該部長として,研究テーマの担当者の決定やP4,P23及び
P3の本件発明7に関する着想や実験結果に対して単なる良否判断を
行っていたに過ぎない。
(イ)の指示
原告は,米国から,現在の研究を止めて,別の課題である添加剤の
低融点化を実施せよとP3に緊急指示
した旨主張するが,その6月度研究月報には,
を報告してお
り,原告から指示された実験結果は一切報告されていない。また,平
成9年7月10日の樹脂添プロジェクト会議議事録(乙142の3頁
目)には,六方晶に係る議事はあるが,原告が緊急指示したとする
に関する記
載がない。また,仮に,原告の米国からの緊急指示があったとした場
合,原告が他の課題を中止させてまで緊急に
低融点MDの指示をしたと繰り返し主張しているにも拘わら
ず,原告自らが作成した乙118添付資料にの文字
が全く記載されておらず「別に,核剤融点を低下させる添加剤をい,
くつか発見している」と,具体的な計画の記載もなく簡単な記載に。
終わることは不自然である。そして,6月にP3に六方晶低融点化核
剤の研究を止めさせてを提案したと原告
が主張しているにも拘わらず「次の段階として,ゲル化剤反応缶で,
六方晶を製造する方法を検討する」という六方晶低融点化核剤の研。
究の具体的な計画をその資料に記載していることも,極めて不自然で
ある。したがって,原告主張の指示はなかったというべきである。
2争点2(消滅時効等)について
(1)争点2-1(本件発明1に係る対価請求権の消滅時効)について
【被告の主張】
ア本件発明1が特許出願された時点では被告規程がなく,その後,作成
された被告規程(乙4)には,その規程を過去に遡らせて適用する旨の
定めはない。
職務発明規程が存在しない場合,消滅時効は特許を受ける権利の承継
の時から進行するから,本件においても,遅くとも本件発明1が特許出
願された昭和52年3月22日の10年後である昭和62年3月22日
をもって消滅時効が完成しているから,これを援用する。
イ仮に,消滅時効が特許権の設定登録時から進行するとしても,本件特
許権1が設定登録された昭和55年11月28日から10年後である平
成2年11月28日に消滅時効が完成しているから,これを援用する。
ウ被告規程(乙4)の16条2項では「実施補償金は毎年3月末日を,
もって締め切り,当該年の7月の給与支払い日に一括して支給する」。
と規定されているところ,本件特許権1は平成7年4月2日で特許権存
続期間満了により消滅している(甲10。仮に満了日まで実施したと)
仮定すると,平成7年3月末日までの実施に対する支払日は同年7月で
あり,同年4月1日及び2日の実施に対する支払日は平成8年7月であ
,,り原告が本件訴訟を提起したのは平成17年11月22日であるから
少なくとも平成7年3月末日までの実施相当分については,訴訟提起前
である平成17年7月末日の経過をもって消滅時効が完成している。し
たがって,仮に前記消滅時効の抗弁が認められず,乙4の被告規程が適
用されたとしても,平成7年4月1日及び2日の2日分の実施相当額に
ついてのみ,本件発明1についての実施補償金の支払を求めることがで
きる。
【原告の主張】
ア被告規程(乙4)では,昭和62年4月1日より前に出願された発明
については適用されないと定められているが,そうすると,同日を境と
してその前後で発明者たる従業員の権利保護に隔絶たる差が生じてしま
う。もっとも,職務発明規程がなくても発明者たる従業員は特許法35
条に基づいて相当対価を請求できるが,現実には従業員たる身分を保持
したまま会社に対し相当対価を訴訟上請求することは事実上不可能であ
り,そのうちに出願の直前の譲渡時期から起算して10年が経ってしま
う。一方,わずか1日違いの4月1日に出願された特許については,設
定登録のときから5年,10年,15年を経過した時点で実施補償金を
請求することができ,その額に不足があれば訴訟上相当対価を請求でき
,,るがその権利の消滅時効の起算日は実施補償金の支払時期であるから
登録日から最長で15年経ってから消滅時効は進行し,それからさらに
10年経って完成する。しかし,この差を正当化できる合理的な理由は
ない。たしかに,特許を受ける権利の承継方法,届出と出願などに関す
る規定を過去に遡って適用することは事実上不可能であるから,その限
りで職務発明規程を施行日以降に出願されたものに適用することに一定
の合理性があるが,補償に関する規定,とりわけ実施補償金に関する規
定については決してそのようにいうことはできない。したがって,乙4
あるいは乙7の第3章「補償」に関する規定は昭和62年4月1日より
も前の特許についても準用されるべきである。
イそこで,本件発明1に被告規程(乙4)を適用すると,本件発明1に
係る実施補償金は,設定登録から満15年経った平成7年4月2日を過
ぎた時点で評価の対象となり,翌平成8年3月に締め切られ,7月に支
給されたことになるから,消滅時効は平成8年7月25日から10年を
経過した平成18年7月25日に完成し,本訴提起時(平成17年11
月22日)に本件発明1の相当対価請求権は未だ時効消滅していない。
なお,被告において初めて施行されたという乙7によれば,実施補償
金の支払時期は,登録日から満15年を経過した年の11月締め切り,
翌年3月に支給であるが(13条,16条,これによっても時効消滅)
が未だ完成していない。
ウよって,本件発明1の相当対価請求権は本訴提起時には消滅時効にか
かっていない。
(2)争点2-2(本件発明6に係る対価請求権の消滅時効)について
【被告の主張】
本件発明6は,1970年代から引き継がれた被告のノウハウが平成元
。,(),年に至って出願されたものであるそして被告規程乙4付則2にも
「本規程は,昭和62年4月1日時点で既に実施されている技術のノウハ
ウを保護するためになす出願に関しては,適用しないものとする」とさ。
れている。したがって,被告規程(乙4)は本件発明6には適用されず,
同特許に関する職務発明規程は存しない。したがって,本件発明6の補償
金請求権は,当該ノウハウが創作され被告に承継された1970年代(遅
く考えても昭和54年)から10年経過後には時効消滅しているか,遅く
とも特許出願がなされた平成元年3月3日の10年後である平成11年3
月3日には時効消滅している。
被告は,原告に対して,本件発明6についての出願補償金,登録補償金
及び実施補償金を支給しているが,これは,被告担当者の錯誤により支給
したものである。このような明らかな錯誤による支給をもって,時効中断
事由たる承認又は時効利益の放棄と解すべきではない。
被告は,原告に対し,平成18年3月20日の第1回弁論準備手続期日
において,上記時効を援用するとの意思表示をした。
【原告の主張】
本件発明6は,平成元年3月3日特許出願,平成9年10月31日設定
登録されたものである(甲6)から,昭和62年4月1日実施の被告規程
(乙7,9)の適用を受ける。
本件発明6の実施補償金請求権の最初の支払期日は,設定登録の翌日か
ら満5年の経過した平成14年11月1日の翌年平成15年3月末日に締
,(),め切られ同年7月の給与支払日に支給されるから乙4の16条2項
その消滅時効はこの時から進行すべきこととなる。そうすると,本件発明
6の実施補償金請求権はその全部について時効が完成していない。
また,被告は,本件発明6につき,平成15年10月24日,65万5
000円の一部を「職務発明実施補償金として」原告に対し支給したもの
である(乙6。これは被告が同特許に係る相当の対価請求権(特許法3)
5条1項)の一部弁済を行ったものであって,被告の同行為は時効中断事
()。。由民法147条3号となるこの点においても被告主張は失当である
(3)争点2-3(本件発明6に係る対価請求の権利濫用)について
【被告の主張】
仮に,消滅時効が認められない場合でも,10年以上も前になされた発
明につき防衛目的で特許出願がなされた本件発明6について,その出願後
15年以上経過した現段階で補償金請求権を主張することは,権利濫用に
当たる。
【原告の主張】
被告は,原告の請求が権利濫用である旨主張し,その理由として,出願
が防衛目的で行われたものであること,発明後10年以上も経過した後に
出願がされたこと,補償金請求権の主張が出願後15年以上経過してから
なされたことを挙げている。
しかし,発明者である従業員が使用者に対して相当の対価の支払を求め
る権利(改正前特許法35条3項)は,使用者がその承継をさせて出願す
る目的が防衛目的であるか否か,発明後出願まで相当期間が経過している
か否か,出願後15年が経過しているか否かによって,変わるものではな
い。被告は,平成15年10月24日,原告に対し,本件発明6の補償金
の一部を支給しているにもかかわらず,原告の権利行使を権利濫用である
と主張していることに照らすと,被告の真意は,原告の権利行使を阻止す
ることにあると考えられる。
3争点3(本件発明3の実施)について
【被告の主張】
次のとおり,被告は,被告製品の製造にあたり,本件発明3を実施してい
ない。
(1)ゲルオールMD,ゲルオールMD-LM30について
被告は,ゲルオールMD,ゲルオールMD-LM30の製造にあたり,
被告は,ゲルオールMD,ゲルオールMD-LM30の製造にあたり,本
件発明3を実施していない。
(2)ゲルオールDHについて
ア本件明細書3の実施例1の工程は次のとおりである。
①中和工程:酸触媒に対して,過剰のアルカリ金属化合物を添加し,
反応終了後の粗物中に残存する酸触媒との中和
である。
②濾過(精製:異性体は有機溶剤に溶解している。従って,異性体)
を溶解している溶剤とDBS類とを,濾過することにより,精製物を
得ている。この工程により,異性体の含有率が0.2重量%以下の精
製物を得ることができる。
③アミン添加:アルカリ性有機アミン化合物を配合する工程である。
④乾燥工程:溶剤を加熱留去することにより,DBS組成物として完
成する。
イ一方,被告は,ゲルオールDHの製造にあたり,
本件発明3の構成要件を充足していない。
(3)異性体の含有量
本件明細書3には,異性体量の「測定方法」の開示がなく,本件発明3
の追試を行う方法がないので,被告は異性体含有量が0.2%以下である
ことを確認できない。
このことからも,被告が本件発明3を実施しているということはできな
い。
【原告の主張】
次のとおり,被告は本件発明3を実施している。
(1)異性体の量
ゲルオールMD,ゲルオールDH,ゲルオールMD-LM30の製造に
おいて,アセタール化反応終了時にDBS類の異性体量が0.5%以上1-
3%副生しており,製品ゲルオールMD,ゲルオールDH,ゲルオールM
D-LM30中に含有するDBS類の異性体量は0.2%以下である。
被告は,溶剤に水を使用した巧みな精製工程を経由し,上記の結果を達
成している。
(2)アルカリ性有機アミン化合物の配合
ゲルオールD,ゲルオールMD,ゲルオールDH,ゲルオールMD-L
M30のすべての製品の製造において,
している
そして,してい
る。
(3)実施補償金の支払
,,被告は本件発明3を対象として実施補償金を原告に対し支給しており
これは,本件発明3を実施していることを被告が認めたものでもある。
(4)まとめ
以上によれば,ゲルオールD,ゲルオールMD,ゲルオールDH,ゲル
オールMD-LM30のすべての製品において,被告が本件発明3を実施
していることは明らかである。
(5)被告の主張に対する反論
ア本件発明3の工程
被告の示す本件発明3の工程に誤りがある。
被告は,本件発明3の工程として「中和工程」⇒「濾過(精製」,)
⇒「アミン添加」⇒「乾燥工程」を示すが「精製処理物」を得る「精,
製」は溶剤精製なのであって「濾過(精製」などという工程は本件,)
発明3の工程にはない。メタノール添加により加水分解し,水溶性の異
性体を水洗除去するのであって精製物か否かは異性体が0.2重量%,,
以下のものかどうかが基準である「中和工程」の後に水洗工程が行わ。
れている。そして,本件明細書3には,被告引用部分に続いて「この,
場合,洗浄効果を損なわない範囲で系内に水が存在することは何ら差し
支えなく,より現実的である」としている。。
イ
被告は,
本件発明3の実施に
は該当しない旨主張するが,は,金属の種類と
塩形成物であることに着目すれば,アルカリ金属塩またはアルカリ金属
化合物に分類されるし,に着目すれば,アルカリ性
有機アミンに分類される。一連のは,ア
ルカリ金属塩型アルカリ性有機アミンに分類しても良いから,アルカリ
金属化合物であるからアルカリ性有機アミンでないと言う被告主張は失
当である。
,,(「」。)また被告は乙162に係る発明以下乙162の発明という
と本件発明3が同一発明となる理由で,が有機
性アミンでない旨主張するが,乙162は本件特許3の公知文献には当
らないから,公知であることは本件特許3の無効理由にはならない。
ウ溶剤精製の実施
被告は,ゲルオールMD,DH,MD-LMの全ての製品について,
本件発明3における精製品には該当しない
旨主張するが,本件発明3は,組成物特許であり,製法特許でも精製法
特許でもなく,精製物を得る「精製法」は本件発明3の構成要件ではな
い。したがって「位置異性体が0.2%重量以下に低減された当該ジ,
」,,ベンジリデンソルビトール類の精製物であれば水で精製していても
本件特許3に抵触するから,被告の上記主張は誤りである。
被告は,
精製物か否
かは,異性体が0.2重量%以下のものかどうかが基準であり,本件発
明3の実施により精製物を得ている。
エ異性体の含有量
,,,被告は本件明細書3には異性体量の測定方法が開示されておらず
追試を行う方法がないから,異性体含有量が0.2%以下であることを
確認することができない旨主張するが,異性体量の測定は当業者であれ
ば容易である。
4本件各発明の相当の対価
(1)争点4-1(被告が受けるべき利益の額)について
【原告の主張】
ア売上高
(ア)ゲルオールMDの売上高合計128.8億円
昭和56年12月から平成17年3月
平成17年4月から平成21年3月(推定)
(イ)ゲルオールDHの売上高合計45.3億円
平成元年4月から平成17年3月
平成17年4月から平成21年3月(推定)
(ウ)ゲルオールMD-LM30の売上高合計35.3億円
平成11年4月から平成17年3月
平成17年4月から平成21年3月(推定)
イ超過売上高割合
(ア)ゲルオールMDは画期的な高透明化核剤として「高透明化PP(ポ
リプロピレン」分野の市場を世界で初めて創出した。)
(イ)被告は,原告から本件各特許権を権利承継することによって高透明
化核剤市場で先行者利益を享受し独占的地位を得た。
(ウ)被告製品の競争力について
aゲルオールMDについて
ゲルオールMDは,本件特許1の物質特許および製法特許により
権利化された世界初のPPの高透明化核剤であり,被告はゲルオー
ルMDにより,日本の市場を独占した。
bゲルオールDHについて
ゲルオールDHは,ゲルオールMD-LM30ができるまでは,
類似技術が無かったため,超高利益製品(ゲルオールMDを上回る
利益率)として被告は大きな利益をあげることができた。
cゲルオールMD-LM30について
ゲルオールMDからゲルオールMD-LM30に置き換わること
により,被告の独占性をさらに延長することができた。
(エ)上記の各点を総合すると,被告製品の売上金額のうち,本件各特許
,。権を有することにより得た超過売上高の割合は次のとおりとなる
aゲルオールMDについて
新規分野を創出し,本件特許1の特許権存続期間満了後の本件発
明2,3及び6の独占的な売上に対する寄与はきわめて大きく,ゲ
ルオールMDの超過売上高の割合は40%を下ることはない。
bゲルオールHDについて
本件発明4の組成物特許による独占的な売上に対する寄与はきわ
めて大きく,上記製法特許との組みあわせで権利化された独占的製
品であるゲルオールDHの超過売上高の割合は50%を下らない。
cゲルオールMD-LM30について
国内および輸出における特許権によるゲルオールMD-LM30
の超過売上高の割合もまた,ゲルオールDHの場合と同じく50%
というべきである。
ウ仮想実施料率について
ゲルオールMD,ゲルオールDH及びゲルオールMD-LM30は,
典型的な高付加価値製品(スペシャリティーケミカル)である。また,
本件の高透明化核剤は,新規分野の市場を創出した製品であり,かかる
分野の市場では独占的地位を得ている。高透明化核剤の国内のマーケッ
トの規模は,高々1000トン/年程度であるので,競合他社に通常実
施権を与えて,価格低下競争をすることにより,汎用製品にするような
ことは考えにくく,他に通常実施権を与えないで,1社独占で利益を確
保しようとすることになる。こうして市場独占の利益が加わる。特許権
実施の対価も同様に考えることが許される。
ゲルオールMD,ゲルオールDH,ゲルオールMD-LM30の製造
法特許は,本質的な技術創出に関する特許である。
仮想的実施料率はゲルオールMDゲルオールDHゲルオールMD-,,
LM30のいずれの場合も25%とするべきであり少なくとも15%,,
以上である。
エ本件各発明の寄与度について
ゲルオールMD,ゲルオールDH,ゲルオールMD-LM30は,い
ずれも複数の特許により排他的独占性が確保されているから,本件特許
2から本件特許7の特許網の寄与度は100%である。
ゲルオールMDは,本件特許1の特許権存続期間満了後,製法特許で
ある本件発明2,3及び6により独占性が確保されている。そして,こ
の3つの特許の寄与度は等価である。
ゲルオールDHについては,実質的な物質特許である本件発明4が5
0%の寄与度であり,他の本件発明2,3,5,6の寄与度は等価であ
り,残りの50%である。
ゲルオールMD-LM30については,実質的な物質特許である本件
発明7が50%の寄与度であり,他の本件発明2,3及び6の寄与度は
等価であり,残りの50%である。
【被告の主張】
ア被告製品の国内市場占有率等について
(ア)直近のシェア
被告の国内シェアは,本件特許1の特許権存続期間の満了(平成7
年4月2日)以前においては非常に高いものではあったが,本件特許
1の特許権存続期間の満了後に大きく低下し,平成11年ないし平成
14年には50%台後半から50%以下に低下しつつあると見られて
いる。それ以降,透明化ポリプロピレン樹脂の動向等では大きな変動
はなく,また被告の売上傾向は数年前と大差は認められないから,国
内シェアは50%乃至50%を下回る程度と推測される。
なお,当該国内シェアの50%弱を被告が確保ないし維持できてい
る顕著な理由は,以下に述べるとおり,被告が本件発明1により他社
,,に先駆けて市場を開拓したことが功を奏したためであり本件発明2
3,6の効果では全くない。
ちなみに,全世界においては,
を有しているに過ぎない。
(イ)ゲルオールMDにおける本件各特許の排他的効力について
ゲルオールMDについては,本件特許1の特許権存続期間が満了し
た平成7年4月2日ころ以前には売上げが増加の一途をたどり,
になっている。
このことは,本件特許1の排他的効力が強かったことを示すもので
ある。
一方,上記売上げが増加している間,本件特許2は平成元年6月,
本件特許6は平成2年9月,いずれも公開され,本件特許1と本件特
許2,6の公開特許が並存しているが,本件特許1の特許権存続期間
満了後
すなわち,本件
特許2及び6の公開後に生じた売上げの伸びは,本件特許権1の消滅
を境として完全に消し去られ,むしろこれらの公開時よりも売上げが
下がっており,更に,本件特許権2及び6の設定登録後も同様の傾向
である。このことは,本件特許2及び本件特許6の排他的効力が事実
上発生しておらず,ゲルオールMDの売上に何ら寄与していないこと
を示すものである。
(ウ)ゲルオールDHにおける本件各特許の排他的効力について
ゲルオールDHは,本件発明4の構成からなり,その製造にあたっ
ては,本件発明2,6のほか,本件発明5に係る方法を使用している
(本件発明3について使用していない。。)
これらのうち,本件特許2,6について排他的効力が認められない
ことについては,ゲルオールMDについて述べた理由と同じである。
また,本件発明4,5が,ゲルオールDHの販売にあたってほとん
ど寄与しておらず,その実効性が認められないことは,後記イ(エ),
(オ)のとおりである。
なお,ゲルオールMDが特許1の消滅に伴い大幅に売上げを下落さ
せている一方で,ゲルオールDHもまた売上げを下落させているが,
その理由は,特許1の消滅に伴いゲルオールMDを値下げせざるを得
なかったところ,ゲルオールMDのみを値下げしてゲルオールDHの
価格を据え置くことが事実上困難であったために,ゲルオールDHも
値下げせざるを得なくなったためである。
(エ)ゲルオールMD-LM30における本件各特許の排他的効力につい
て
ゲルオールMD-LM30は,本件発明7の構成からなり(なお,
本件発明7については,原告は発明者に含まれない,その製造に。)
あたっては,本件発明2,6に係る方法を使用している(本件発明3
については使用していない。)
これらのうち,本件特許2,6について排他的効力が認められない
ことについては,ゲルオールMDについて述べた理由と同じである。
イ本件各発明の寄与度について
(ア)本件発明1について
ゲルオールMDの売上高は本件特許1の特許権存続期間満了日平,(
成7年4月2日)とほぼ一致する平成7年3月決算までは右肩上がり
であったが,それ以降では激減している。これは,本件特許1の特許
,,()権存続期間満了に伴い競合他社の三井化学東宝化学韓国メーカ
などの参入による販売量の低下と,その対抗策として被告が販売価格
を引き下げたことが主原因である(乙183。したがって,本件特)
許1は,独占・排他力が強いと評価できるから,被告の事業への貢献
が高いと評価できる。
(イ)本件発明2について
a本件発明2は,ゲル化剤全般に係る製造法の発明であり,その出
願公開日は平成元年6月12日である。本件特許1の特許権存続期
間の満了後,競合他社が日本市場に参入しだした状況からすると,
競合他社は代替製造技術を有し,本件発明2を実施することなく競
合品を製造販売している。以上によれば,競合他社にとって本件特
許2は事業障害・参入障壁ではなく,特許の価値である独占排他性
は著しく低いと言わざるを得ない。また,
から推測する
,。と競合他社にとって本件特許2の価値が著しく低いと判断できる
b本件発明2の生産性への貢献は,決して高いとはいえない。すな
わち,被告は本件発明2を自己実施しているが,生産技術課は,本
件発明2を含めて全製造プロセスを検討・見直し,独自に処方変
更・工程改善・設備改良などを経て初めて実用的な高濃度製造法を
完成させて,生産性の向上・製造コストの低減へ多大に貢献してい
るから(乙155,乙160,ゲル化剤事業への貢献は本件発明)
2よりも非常に大きい。以上によれば,本件特許2は,その特許の
独占・排他性が著しく低く,他方で生産部門の貢献が多大であるか
ら,被告事業への貢献は低いといわざるを得ない。
(ウ)本件発明3について
被告は本件発明3を実施していない。
仮に,被告が本件発明3を実施しているとしても,本件発明の構成
「」,要件である異性体含量が0.2%以下の精製物であることのうち
異性体含量0.2%以下であることには臨界的意義はないから,本件
発明3の被告事業への貢献はほとんどないに等しい。
(エ)本件発明4について
本件発明4の実施品であるゲルオールDHの売上は,特許以外の法
的規制等による影響が大きく,特許の寄与はない。
a法的規制との関係
本件発明4は,低臭気且つ透明性に優れた透明化核剤に関する発
明であるが,本件発明4の実施品(ゲルオールDH)の対抗製品と
,,,してはミリケン社のミラード3988が存在し透明性改善効果
臭気の面において,ゲルオールDHより優れていた。
しかし,ミラード3988は,ビス(3,4-ジメチルベンジリ
デン)ソルビトールという化合物から組成されているところ,当該
化合物が,化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律における
指定化学物質に該当するものと告示されたため,ミラード3988
やその競合品であるゲルオールDXを使用する企業は,毎年経済産
業省にその購入実績,使用実績等を厳格に報告する義務が課せられ
ることとなり,ミラード3988の国内輸入がなく,ゲルオールD
Hの販売につながる環境となったものである。
b生産性の問題
ゲルオールDHは,低臭気を特徴とする透明化核剤であるが,
製品であった。
さらに,被告では,
このような状況下で,経営判断として利益性の低いゲルオールD
Hを廃止する決断がなされた(乙130。ゲルオールDHを廃止)
し,ゲルオールMD系統に統合することにより切り替えロスが減少
し,また生産効率が高まることにより,利益性を高めることにつな
がった。
cまとめ
以上の点から,ゲルオールDHには,競合品であるミラード39
88が存在していたが,国内においては,法的規制の問題等により
ミラード3988の販売がなされなかったことから,少ないながら
も売上をあげることができた。
他方で,ゲルオールDHは,結果として利益性の高いゲルオール
MDに統合することになった。
このような点から,ゲルオールDHの被告への貢献は決して大き
いものではなかった。いわんや,本件発明4の寄与度は認められな
いというべきである。
(オ)本件発明5について
本件発明5には,アデカの乙38に係る特許発明による代替法が存
,。,在するから本件発明5には市場排他性はないに等しいしたがって
被告事業への貢献も皆無である。
(カ)本件発明6について
a本件特許1の特許権存続期間満了後,競合他社は本件発明6を実
施することなく同程度の品質の競合品を製造販売しているといえ
る。
競合他社は代替製造技術を有し,競合他社にとって本件特許6は
事業障害・参入障壁ではなく,特許の価値である独占排他性は著し
く低い。なお,
b被告では本件発明6を自己実施しているが,この発明だけでは実
用的なゲル化剤の製造方法を完成することはできず,その完成には
生産技術課の多大な貢献があった。以上のように,本件特許6の独
占・排他性は著しく低く,生産技術課の多大な貢献などを勘案する
,。と本件発明6の被告事業への貢献は低いものと言わざるを得ない
(キ)本件発明7について
本件特許7は競合他社の事業障害となっていない。
ゲルオール全体の売上高は,本件特許1の特許権存続期間満了後急
激に売上高が減少し,
回復の要因は,
外的な要因や営業努力と考えられる。すなわち,本件発明7の実施品
であるゲルオールMD-LMが,ゲルオールMDの問題であったPP
樹脂への分散性不良や粉体流動性の不具合を解消した点で国内PP樹
脂メーカに評価され,ゲルオールMDからの置換による寄与によるも
のであり,本件特許7は,その特許の独占・排他性は比較的低い。
(ク)本件訴外特許について
a乙14に係る特許(以下「本件訴外特許」という)は,もとも。
と,旧特許法(昭和62年改正法)の39条に規定されていた先願
の地位を得るために,出願,放棄された特許であり,その後,平成
10年の特許法の改正により先願の地位が見直されることになった
際に,その経過措置期間中に改めて出願されたものである。本件訴
外特許は,平成18年12月15日,設定登録がなされた(乙14
8の2。)
本件訴外特許の発明者はP5とP27であり,原出願当時はそれぞ
れ技術部技術一課課長,技術部長であり,ゲルオールD,MDの製
造における責任者であった。
本件訴外特許は,ジアセタール類の高濃度反応時における粒状物
中に残存する触媒を中和する方法を提供することにより,製品の高
純度化と収率の向上を図ることを技術的特徴とする発明である。
bゲルオールMDに対する寄与について
ゲルオールMDの販売開始当時,臭気と白点(ゲルオールMDの
一部がポリプロピレンに溶解せず,ダマ状のまま成形品中に残存す
る現象)の問題があったが,本件発明2と本件発明6はこれらの問
題を解決する発明ではなく,単にジアセタール化合物を製造する方
法であった。
一方,本件訴外特許の発明は,ポリプロピレン用の透明化核剤に
適したジアセタール化合物の製造を可能とする発明であり,この発
明により透明化核剤用のゲルオールMDの高効率生産が可能とな
り,ゲルオールMDの販売に大きく寄与した。
cゲルオールDHに対する寄与について
,,ゲルオールDHはゲルオールMDの臭気を改善するものであり
臭気改善は,①
,②製品中の残存
アルデヒドを低減すること,③加熱時の加水分解を抑制すること
の3つの条件が必要であるが,本件訴外特許は,マメ状物の生成を
抑制することにより,製品中のアルデヒドを低減し,加熱時の加水
分解を抑制する効果をもたらしている。すなわち,ゲルオールDH
は,本件訴外特許がなければ,製品としては成立し得ないものであ
り,DHの売上に対する貢献は極めて大きい。
dゲルオールMD-LM30に対する寄与について
ゲルオールMD-LM30は組成物であるところ,その成分にゲ
ルオールMDを使用している。したがって,ゲルオールMD-LM
30の売上にあたっても,本件訴外特許の貢献は極めて大きい。
eしたがって,上記被告製品の販売に対する本件各特許の貢献は相
対的に低い。
ウ仮想実施料率等について
前記ア,イのとおり,本件特許2ないし6は,価値が低く,超過売上
割合も極めて低く,このことは仮想実施料率の評価にも反映すべきであ
る。
仮に,上記事情を考慮しないとしても,従来の他の関連特許の実施許
諾実績を見ても,本件特許2ないし6の仮想実施料率合計はせいぜい
2%程度である。
被告が乙13の特許その他6件の特許
について,
であった。
(2)争点4-2(被告の本件各発明に対する貢献の程度)について
【原告の主張】
アゲルオールMD事業は,原告の創造性に基づいて開発されたものであ
り,被告は組織として製品開発態勢をほとんどとっていないから,上記
事業に関する各発明に対する被告の貢献の程度は,70%を超えないも
のというべきである。
イゲルオールDH事業についても,ゲルオールMD事業と同様のことが
いえるのであって,上記事業に関する各発明に対する被告の貢献の程度
は,やはり70%を超えないというべきである。
ウゲルオールMD-LM30事業は,ゲルオールMD事業の延長線上に
あったものであり被告は通常の製品開発と同様の研究開発態勢をとっ,,
ているから,上記事業に関する各発明に対する被告の貢献の程度を9
0%とみることができる。
【被告の主張】
ア被告は,昭和42年ころから有機ゲル化剤事業を計画して,透明化核
剤事業を展開し,多くの技術開発・技術改良を経た上,事業として採算
を取ることができるようになるまで,製造設備・研究設備等の物的資源
や研究部門・生産部門・営業部門などの従業員の人的資源に資金を投入
し,そして事業化の失敗のリスクを被告のみが負担して成功に繋げた。
被告の設備投資は以下のとおりである。
(ア)ゲル化剤製造設備の投資
被告の調査の結果,判明しているだけで,ゲル化剤製造設備
であ
る。
(イ)研究所設備の投資
被告の調査の結果,判明しているだけで,ゲル化剤(核剤)の開発
に
である。
イ以上のとおり,ゲル化剤(核剤)の製品開発の成功に対する被告の貢
献は著しく高い。その投資の大きさからすれば,被告の貢献の程度は,
限りなく100%に近いものである。
(3)争点4-3(共同発明者間における貢献の程度)について
【原告の主張】
アゲルオールMDにおける原告の貢献
(ア)ゲルオールMDの独占性は,本件発明2,3及び6により保持され
ている。
(イ)本件発明2について
仮に,本件発明2の発明者が原告及びP6であるとしても,P6は
ゲルオールMDについて,平均滞留時間の測定,本件発明2によるゲ
ルオールMDの検討,ゲルオールMDの新合成法等を検討していない
し,ゲ
ルオールMDには何の関与も有していない。したがって,本件発明2
のゲルオールMDの独占性に対する貢献度は,P6は小さく,たかだ
か,P61,原告9である。
(ウ)本件発明3について
本件発明3の発明者は,原告とP10であるが,P10は,
を行っておらず,
実験担当者であるにもかかわらず,技術を完成していない。したがっ
て,本件発明3のゲルオールMDの独占性に対する貢献度は,P10は
小さく,P101,原告9である。
(エ)本件発明6について
,,,,仮に本件発明6の発明者が原告P14及びP5であるとしても
P14及びP5はゲルオールD(DBS)の検討をしていたことにより
発明に対する貢献が認められただけであって両名にとってゲルオー,,
ルMDは構想外の物質であり,ゲルオールMDの検討を全くしていな
いし,DBSを誘導体のDTSや非対称DBSに拡張した本件発明6
の特許出願もしていない。したがって,ゲルオールDの独占性に限定
して,P14,P5の貢献が勘案されるが,ゲルオールMDの独占性に
関して,P14,P5の貢献は認められず,貢献が認められるのは,原
告のみである。
(オ)以上によれば,原告の貢献度は93.3%である。
〔計算式〕1÷3×0.9+1÷3×0.9+1÷3×1.0=0.933
イゲルオールDHにおける原告の貢献
(ア)ゲルオールDHは,本件発明2,3,4,5及び6で権利化されて
いる。
高透明化核剤ゲルオールDHの物質特許である本件発明4が5
0%,製造法に関するその余の本件発明2,3,5及び6が50%の
貢献である。
(イ)本件発明2について
本件発明2の発明者のP6にとって,ゲルオールDHは構想外の物
質であり,ゲルオールDHの検討をしていない。その上,P6は被告
が実施しているゲルオールDHの合成法を検討していないから,本件
発明2のゲルオールDHの独占性に対する貢献度は,前記ア(イ)と同
様,P6にはほとんど無く,たかだか,P61,原告9である。
(ウ)本件発明3について
本件発明3のゲルオールDHの独占性に対する貢献度は,P10は小
さく,P101,原告9である。
(エ)本件発明4について
。,。本件発明4の発明者は原告であるP10は実験担当者に過ぎない
仮にP10を発明者に加えるとしても,本件発明4のゲルオールDHの
独占性に対する貢献度は,P10は小さく,P101,原告9である。
(オ)本件発明5について
本件発明5の発明者は原告であるから,本件発明5のゲルオールD
Hの独占性に対する貢献度は原告10である。
(カ)本件発明6について
P14,P5両名にとって,ゲルオールDHは構想外の物質であり,
両名は,本件発明6を全く検討していないし,本件発明6の発明者と
して登録されてもいない。したがって,本件発明6のゲルオールDH
の独占性に対する貢献度は原告10である。
(キ)以上によれば,原告の貢献度は92.5%である。
〔計算式〕0.125×0.9+0.125×0.9+0.50×0.9+0.125×1.0+0.125
×1.0=0.925
ウゲルオールMD-LM30における原告の貢献
(ア)ゲルオールMD-LM30はゲルオールMDの改良品(全組成中,
95%はゲルオールMDが占める)であり,製法の基本特許(本件特
許2,3,6)に抵触することなく製造することができない。
,,上記の関係よりゲルオールMD-LM30の超過利潤の50%は
組成物特許7による寄与であり,50%は製法特許2,3,6による
寄与である。
(イ)本件発明2,3及び6の発明者の貢献度は,ゲルオールMDの場合
と同じである。
(ウ)以上によれば,仮に,原告が本件発明7の発明者ではないとしても
原告の貢献度は46.7%となる。
〔計算式〕0.167×0.9+0.167×0.9+0.167×1.0=0.467
【被告の主張】
ア主張の概要
万が一,一部の特許について原告が発明者に該当すると認定されるこ
とがあったとしても,原告が果たした貢献及び寄与は,被告との関係で
も,あるいは真の発明者であると被告が主張する従業員等との関係にお
いても,著しく低い。
イ本件発明2について
原告は,P6の発明をそのままゲルオールMD,ゲルオールDHに適
用したに過ぎず,何ら発明的創作を何ら付け加えてないから,本件発明
2における原告の貢献はない。
ウ本件発明3について
本件発明3の発明者は,P8のみであるから,原告の貢献はない。
エ本件発明4について
本件発明4の発明者は,P10のみであるから,原告の貢献はない。
オ本件発明5について
本件発明5の発明者は,P8のみであるから,原告の貢献はない。
カ本件発明6について
原告は,特許出願にあたりごく当たり前に特許請求の範囲にゲルオー
ルMDを含めたに過ぎないから,原告の貢献は低い。
キ本件発明7について
原告は単に研究管理者としての役割を果たしたに過ぎず,発明の創作
,,,行為に一切加担していないから原告は発明者ではなく発明者はP3
P4,P23である。したがって,原告の貢献はない。
(4)争点4-4(相当の対価の額)について
【原告の主張】
ア「相当の対価」の算出式
相当の対価=売上高×超過売上高割合×本件発明の寄与度×仮想的実
施料率×(1−被告貢献度)×共同発明者間における原告の貢献度
イ「相当の対価」の算出
仮想的実施料率は15%,本件発明の寄与度は100%,被告の貢献
,。度は70%ただしゲルオールMD-LM30については90%である
そうすると,製品別の相当の対価は,次のように算出される。
(ア)ゲルオールMDについて2億1630万円
〔計算式〕128.8×0.4×0.15×(1−0.7)×0.933=2.163(単位億円)
(イ)ゲルオールDHについて9430万円
〔計算式〕45.3×0.5×0.15×(1−0.7)×0.925=0.943(単位億円)
(ウ)ゲルオールMD-LM30について(ゲルオールMD-LM30の超
過売上係数は海外0.4と国内0.5の平均値0.45を用いた)
1110万円
〔計算式〕35.3×0.45×0.15×(1−0.9)×0.467=0.111(単位億円)
(エ)合計3億2170万円
ウ結論
原告が,本件において有する相当対価請求権は,少なくとも3億21
70万円であり,これを下回るものではない。
【被告の主張】
争う。
第4当裁判所の判断
1発明者の認定について
「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」
をいい(特許法2条1項,特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記)
載に基づいて定めなければならない(同法70条1項。したがって,真の)
発明者(共同発明者)といえるためには,当該特許請求の範囲の記載に基づ
いて定められた技術的思想の創作行為に現実に加担したことが必要であり,
具体的着想を示さずに,当該創作行為について,単なるアイデアや研究テー
マを与えたり,補助,助言,資金の提供,命令を下すなどの行為をしたのみ
では,創作行為に加担したとはいえず,真の発明者ということはできない。
2争点2-1(本件発明1に係る対価請求権の消滅時効)について
(1)従業者等は,勤務規則等により,職務発明について特許を受ける権利等
を使用者等に承継させたときに,相当の対価の支払を受ける権利を取得す
るが,職務発明の相当対価請求権は,改正前特許法35条により従業者に
認められた法定の権利であるから,消滅時効期間は10年と解すべきであ
る。
前提事実(4)によれば,本件では,本件特許権1が設定登録された昭和
55年11月28日の時点では,勤務規則等に,使用者等が従業者等に対
して支払うべき対価の支払時期に関する条項がないが,遅くとも,同日ま
でには,原告は,被告に対し,本件発明1について,特許を受ける権利を
承継させたと認められる。したがって,その時から,原告は被告に対し本
件発明1について,特許を受ける権利の対価の支払を求めることができ,
上記時点が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解
すべきである。そうすると,本件発明1については,その登録日である昭
和55年11月28日から10年が経過し,被告は消滅時効を援用してい
るから,職務発明の相当対価請求権は消滅時効の完成により消滅している
と認められる。
したがって,その余について検討するまでもなく,本件発明1について
特許を受ける権利の原告の対価請求は理由がない。
(2)原告の主張について
原告は,被告規程(乙4)では,昭和62年4月1日より前に出願され
た発明については適用されないと定められているところ,同日の前後で発
明者たる従業員の権利保護に隔絶たる差が生じてしまうのは不合理である
として,乙4あるいは乙7の第3章「補償」に関する規定は昭和62年4
月1日よりも前の特許についても準用されるべきである(その結果,登録
のときから15年を経過した平成7年11月28日の時点でも実施補償料
を請求することができ〔被告規程13条2項,本訴提起までの間に,消〕
滅時効は完成していない)旨主張するが,勤務規則等に対価の支払時期。
が定められているときは,勤務規則等の定めによる支払時期が到来するま
での間は,相当の対価の支払を受ける権利の行使につき法律上の障害があ
るものとして,その支払を求めることができないというべきであるが(被
告規程13条2項によると,登録後5年ごとに実施補償料を算定して支給
することが規程されているので,登録後15年経過した後に支払われる補
償料は,登録後10年間分は支払済みであることを前提として,その後の
5年間の補償料として支給されるものであり,その請求は登録後15年が
経過しないと請求できない趣旨と解される,勤務規則等の定めがない。)
場合は,権利の行使につき法律上の障害があるとは認められないから,勤
務規則等の適用がある場合とない場合で,取り扱いに差が生じるからと
いって,不合理であるということはできない。
したがって,職務発明規程の規定が遡及しないからといって,発明者た
る従業員の権利保護が十分でないということはできないから,原告の上記
主張は採用することができない。
3争点1-2(原告が本件発明2の発明者か否か)について
(1)本件発明2の特徴
ア本件明細書2には,次のとおり記載されている(甲2。)
【特許請求の範囲】
別紙特許権目録2の「特許請求の範囲」に記載のとおり
【発明の詳細な説明】
[従来の技術並びにその問題点]
アセタール類の1種であるベンジリデンソルビトール類は,特異な性
能を有する物質として,現在までにポリプロピレン樹脂等の透明性改良
剤,塗料,インキ,接着剤等の流動性改良剤,接着剤,香粧品,医薬品
等の固形化剤等幅広い用途が開発されている。
当該物質は,芳香族ベンズアルデヒド類と多価アルコールとを酸触媒
の存在下,縮合させることにより調製される。
本発明者らは,斯かる物質の回分式製造方法について先に幾つか提案
,,,したところであるが工業的製造方法として総合的に勘案した場合尚
種々の問題を含んでいるのが現状である。
例えば,通常のプロペラ式撹拌機を備えた反応缶を用いてシクロヘキ
(),サンスラリー系で反応せしめる方法特公昭48-43748号では
5価以上の多価アルコールと芳香族アルデヒド類(以下「反応基質」と
称するの濃度が15重量%程度を越えると反応中に負荷が過大となっ。)
て撹拌が困難となり,均質な生成物を得ることができないため,1ロッ
トごとの生産量を増大せしめることが困難である。
又,斯かる欠点を改善するために提案された方法,即ち,反応基質の
濃度を高め,これを酸触媒,シクロヘキサン等の疎水性有機溶媒及び低
級アルコール等の水溶性極性有機溶媒の存在下に強制撹拌しつつ反応す
(「」。),る方法以下高濃度法と称する特公昭58-22157号では
スラリーを撹拌している際に固化したゲル状物質が生じ易く,充分な撹
,。拌を行なわなければ製品の歩留りや品質が低下する傾向が認められる
このことは,当該反応物が反応の進行に伴って流動性のあるスラリー状
態から実質的に流動性を失ってペースト状態,ゲル状態へと種々形態が
変化することに起因しているものと考えられる。
本発明者らは,従来の高濃度法の問題点を改善し,ベンジリデンソル
ビトール類の工業的な製造方法を確立すべく鋭意検討の結果,従来の如
く原料を一度に仕込まずに,反応中も連続的に又は間欠的に仕込むこと
により,反応系内における反応物の急激な形態の変化を回避できること
を見い出し,この知見に基づいて本発明を完成した。
即ち,本発明は,工業的に優れたアセタール類の製造方法を提供する
ことを目的とする。
[問題点を解決するための手段]
本発明に係るアセタール類の製造方法は,回分式を基本とする高濃度
法の一種であって,反応基質と低級アルコール及び要すれば酸触媒から
なる均一溶液若しくは懸濁液を連続的に又は間欠的に仕込み,反応缶内
の内容物の容量を増加させつつ反応することを特徴とする。
(中略)
当該流動化物は,反応媒体と共に反応中において連続的又は間欠的に
仕込まれ,酸触媒の存在下で縮合反応に供される。
このことによって,系内は不均一なゲル状態とならず,従来の高濃度
法の如き反応の進行に伴って生ずる反応物の急激な形態の変化がない。
そのため撹拌翼に対する負荷が急激に増大することもなく,一定した稼
働状態を得ることができ,反応缶の壁面への内容物の固着も大幅に抑制
され,製品収率の向上を図ることができる。更に,反応中において多価
アルコール/芳香族アルデヒドのモル比が一定の範囲内で維持される結
果,過反応が抑制され,良好な選択率で目的物を得ることができる。
(中略)
[発明の効果]
反応原料を一度に仕込まずに反応の進行とともに連続的に又は間欠的
に仕込むことによって,反応系内での反応物の急激な形態の変化を避け
ることができ,高い選択率で収率よく目的とするアセタール類を製造す
ることができる。
イ特徴部分
前記アによれば,本件発明2の特徴部分は「反応原料を一度に仕込ま
ずに反応の進行とともに連続的又は間欠的に仕込み,反応缶内の内容物
の容量を増加させつつ反応することによって,反応系内での反応物の急
激な形態の変化を避けることができ,高い選択率で収率よく目的とする
。」。アセタール類を製造することができるという点にあると認められる
なお,本件発明2の請求項には「回分法」という直接的な記載はない
が「連続法(回分法の反対概念である)では反応缶内の内容物の容,」。
量は反応中一定であるが(乙89添付資料2の215頁4∼6行,前)
記「問題点を解決するための手段」に「反応缶内の内容物の容量を増加
させつつ反応する」と記載されていることから「回分法」であることが
表現されていると認められる。したがって,本件発明2は,その特徴部
分のうち「反応原料を連続的又は間欠的に仕込む」という手法を「回分
法」に適用することを前提としていると認めるのが相当である。
(2)本件発明2の特許出願に至る経緯について
前提事実,証拠(甲2,52,乙31,乙31の2,乙32,33,1
56,177,証人P6,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次
の事実を認めることができる。
ア研究への従事
P6は,静岡大学工学部工業化学科を卒業後(乙156,昭和52)
,,。,年4月被告に入社し研究部に配属され原告の部下となったP6は
昭和52年4月から昭和55年8月まで,ゲル化剤の合成・製造に関す
る研究に従事した(乙31。)
,,,,P6は研究に当たり週報ノートに研究の経過を記載し毎週1回
週報ノートを原告に提出し,原告は週報ノートを確認した上,サインを
していた。また,P6は,随時,週報ノートの記載に基づき研究報告書
を作成した。なお,P6が研究に従事している間,原告自らが実験をす
ることはなかった。
イP6の週報ノート(乙31添付資料2)について
P6の昭和52年4月から同年12月までの週報ノート(乙31添付
資料2)には,回分法を使用した反応実験の記載があり,P6は,反応
物を反応終了まで抜き出さない条件下で「連続仕込み法」の実験を行っ
ており,P6は「連続仕込み法」の検討を回分法により進めていた。
ウ研究報告書について
(ア)研究報告書(乙31の2)について
原告及びP6連名の昭和53年7月17日付研究報告書(研-14
46
が記載されている。
(イ)研究報告書(甲20)について
P6,原告外2名連名の昭和53年10月2日付研究報告書(研-
1472
が記載されている。
,()「」なお本件発明2の特許出願依頼書乙31添付資料5の備考
欄に引用されている「研-1472('78.10/2」は上記研究)
報告書(甲20)を指す。
(ウ)研究報告書(乙177)について
原告P10及びP8連名の昭和62年3月24日付研究報告書研-,(
2180
研究報告書である。同報告書において,前記(ア)の研究報告書に記,
載されているP6の実験データが引用されている。
(3)本件発明2の特許出願
原告は,P6が昭和55年8月,ゲル化剤の合成・製造に関する研究か
ら離れた後,1人で上記研究を続け,被告は,昭和62年12月7日,本
件発明2の特許出願をした(甲2。原告は,本件発明2の特許出願依頼)
書(乙31添付資料5)の「発明者」欄に,原告とP6の氏名を記載し,
「備考」欄には「研-1472('78.10/2)までで本製造法の骨格
完成」と記載している。
(4)補償金の支給
被告は,原告に対し,本件特許2の出願補償金2500円及び登録補償
金1万円を支給している。さらに,被告は,平成15年10月,本件発明
2,3,4及び6につき,被告規程に定める職務発明実施補償に該当する
,()。として合計金65万5000円乙6の実施補償金を原告に支給した
(5)検討
以上を総合すれば「連続仕込み法」は,通常,回分法のための着想で,
はなく連続法のための着想であるが,P6は「連続法」に適用できる手,
法を見い出すことを目的として,実験しやすい「回分法」により実験を行
,「」。,い連続仕込み法という手法を見い出したものと認められるそして
この研究成果は,本件発明2の特徴部分のひとつであり,この成果に基づ
き,前記(2)ウ(ア),(イ)の研究報告書がまとめられ,本件発明2につい
て特許出願手続がされているから,P6は,本件発明2の特徴的部分の完
成に創作的に貢献したものと認められる。
しかし,上記研究報告書の記載からすると「反応原料を連続的又は間,
欠的に仕込むという手法」を回分法に適用することにより,反応系内での
反応物の急激な形態の変化を避けることができ,高い選択率,収率で,目
的とするアセタール類を製造できるという効果(本件発明2の効果)が奏
されるという認識が,研究報告書作成の当時,P6にあったと認めること
はできず,P6が本件発明2を完成させたということはできない。一方,
前記(3)の特許出願経過によれば,被告に対し本件発明2の出願依頼をし
たのは原告であり,その依頼書には,発明者をP6と原告と記載している
こと,原告は,P6が本件研究から離れた後,1人で研究を続けていたこ
とが認められ,他に,同研究を続行した人物は見あたらない。
以上によると,連続法のモデルとして行われた知見を回分法に適用する
ことによって,本件発明2を完成させたのは原告であると認められる。
したがって,本件発明2はP6と原告の共同発明であると認められる。
(6)原告の主張について
ア甲27,甲28特許の出願との関係
原告は,連続式高濃度法特許によってゲルオールDを改良製造するこ
,,,とは失敗に終わっており甲27甲28特許が出願されていることは
その証左であり,本件発明2に対するP6の貢献はない旨主張するが,
。。原告の主張は採用することができないその理由は以下のとおりである
(ア)甲27発明について
甲27発明の明細書には,連続製造法において,ソルビット,ベン
ズアルデヒド類及び低級アルコールを触媒の存在下に予備的に反応さ
せて得られた均一液状物(いわゆる「前駆体)を,炭化水素反応媒」
体とともに連続的に反応器に仕込み,炭化水素反応媒体中で反応させ
る方法であり,これにより,目的とするベンジリデンソルビトール類
を高選択率をもってかつほぼ定量的に得ることができるという趣旨の
記載がある。
(イ)甲28発明について
甲28発明の明細書には,反応媒体として水溶性極性有機溶剤とと
もに使用する疎水性有機溶剤の量が,生成する目的物が結晶として析
出するに足る量であって,かつ,反応系をゲル状ないし固相状に保ち
得る量であり,さらに反応を強制攪拌下に行う方法であり,これによ
り,高収率かつ高純度で,しかも短時間で目的物を製造することがで
きるという趣旨の記載がある。
なお,甲28発明の特許請求の範囲には「回分法」であることが明
示的に記載されているわけではないが,反応系をゲル状ないし固相状
に保ちながら反応を行うもので「連続法」に適用することは困難な,
技術であり「回分法」の技術であると認められる。,
(ウ)以上によると,甲27発明は,連続法において前駆体を使用する点
に特徴があり,甲28発明は,回分法において特定の溶剤使用量と攪
拌方法を採用する点に特徴があるといえる。これに対し,本件発明2
の発明は,回分法において,前駆体を連続的に又は間欠的に仕込む点
に特徴があるものであり,発明の特徴点においては,本件発明2は,
甲27発明とは前駆体を使用する点でのみ共通し,また,甲28発明
とは回分法である点でのみ共通していると認められるが,本件発明2
の発明と甲27及び甲28発明とは,上記点が共通するだけであって
別異の発明であるといえる。
したがって,甲27発明及び甲28発明が特許出願されたからと
いって,本件発明2に対するP6の貢献を否定することはできない。
イについて
原告は,多量の前駆体原料を,反応の進
行につれて仕込み速度を増大させながら加えて生成物を増加させて反応
をさせるという方法を創作し,これを可能とするするこ
とによって,製造実験をし,回分式高濃度製
造法を完成したものであり,本件発明2の実施は不可分のも
のである旨主張するが,本件発明2の特許請求の範囲の記載からは,
がどのようなものであるのかは不明であり,に
関する記載及びそれを推測できる記載はない。すなわち,
については,特許請求の範囲に記載されていないから,そもそも本件
発明2の構成要件ではなく,また,原告が主張するにつ
いては,発明の詳細な説明にすら開示がなされていない。
以上によれば,は,本件発明2とは直接の関係がないも
のであり,原告の上記主張は採用することができない。
(7)被告の主張について
被告は,本件発明2の発明者がP6のみであり,原告は発明者ではない
と主張するが,前記(2)のとおり,P6が行った実験は,スラリー上に,
一度に前駆体を加えて,反応進行の時間経過を解析するものであり,その
目的は,連続反応における平均滞留時間pを得る(反応速度の目安)ことに
あり回分法完成の意図や着想があったとは窺えないP6の前記週報ノー,。
ト(乙31添付資料2,3,乙32,33)によっても,P6が当該研究
を離れるまでに,本件発明2の発明を完成させたことを認めることはでき
ない。
4争点1-3(原告が本件発明3の発明者か否か)について
(1)本件特許3の特徴
ア本件明細書3には,次のとおり記載されている(甲3。)
【特許請求の範囲】
別紙特許権目録3の「特許請求の範囲」に記載のとおり
【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は,安定化されたジベンジリデンソルビトール類組成物に関す
る。
[従来の技術]
(「」。),ジベンジリデンソルビトール類以下DBS類と略称するは
結晶性ポリオレフィン系樹脂の改質剤として賞用され,剛性の改良や成
形サイクルの短縮に有効で,かつ成形物の透明性を向上せしめる等,画
期的な特性を有するものである(高分子加工,第35巻,第1号,30
∼35頁(1986。))
しかしながら,従来のDBS類は,熱安定性に欠ける傾向があった。
そのため,通常の加工方法により,例えばポリオレフィン系樹脂にDB
S類を核剤として配合してなる樹脂組成物を加熱成形した場合には,加
熱成形時にDBS類が分解して臭気が発生し,更には成形物が着色する
等の問題点が指摘されていた。又,斯かる問題点は,成形加工時の作業
環境上や食品包装剤等の無臭品が要望される用途面において大きな障害
となっていた。
その対策として,例えば樹脂中に脂肪族カルボン酸金属塩等の熱安定
剤を予め若しくは同時に配合したり(特開昭58-104933号,特
開昭62-53360号,当該熱安定剤でその表面を層状に被覆する)
方法(特開昭62-50355号,特開昭62-138545号,非芳)
香族有機アミンを添加する方法(特開昭62-4289号)等が提案さ
れている。本発明者らによる検討の結果,これらの方法によって一定の
改善は認められるものの,単に熱安定剤を樹脂に適用するのみではDB
S類の分解を充分抑制することは困難であった。
又,食品包装材のごとき衛生面で充分留意しなければならない用途分
野においては,安全な添加剤であってもその添加量はできるだけ少量で
あることが望ましい。
一方,ジベンジリデンソルビトールにモノ置換体やトリ置換体が混在
すると,ポリオレフィン樹脂の改質効果が減少するとの知見により,斯
かる問題点を解決する方法として上記の置換体を脂肪族低級アルコール
により洗浄除去してジベンジリデンソルビトールを精製する方法が提案
されている(特開昭53-5165号。しかしながら,斯かる精製物)
にあっても尚,熱安定性が不十分であった。
,。引続く詳細な検討の中で以下の2つの重要な事実が明らかとなった
即ち,
(1)DBS類を製造するに際して触媒として適用した硫酸,リン酸,
p-トルエンスルホン酸等の強酸性化合物は,通常の製造工程ではほぼ
中和除去されているものの,製品が粉体であるため通常では問題とされ
ない程度の痕跡量は残存しており,しかも単なる溶剤精製ではこのもの
を完全に除去することができない。この強酸性化合物は,製品中に残存
する量が微量であっても高温加熱条件下でDBS類の加水分解を局所的
に促進,ppmオーダーの芳香族アルデヒドを発生する結果,斯かる酸
性物質の存在は臭気の発生の原因となるものである。
(2)DBS類自体の融点は高く,非常に安定なものである。例えば,
1,3:2,4-ジベンジリデンソルビトールでは220℃,1,3:
2,4-ビス(メチルベンジリデンソルビトール)では260℃,又,
原料であるベンズアルデヒド類がベンズアルデヒドとクミルアルデヒド
との混合物からなる非対象のDBS類では138℃である。一(ママ)
,,,,,方従来の製品には12:34-ジベンザール化物又は12:3
4:5,6-トリベンザール化物のような5員環アセタール化物等の位
置異性体が微量混在しており,このものは通常,非晶質である場合が多
く,その融点は80℃以下と低いものであって,このものが製品として
のDBS類の熱安定性を低下させている。
[発明が解決しようとする課題]
本発明者らは,樹脂の加熱成形時に生ずるDBS類の熱分解を,比較
的少量の安定剤を適用することにより抑制し,作業環境を改善するとと
もに,衛生面においても問題のない成形物を調製しうる熱安定性の良好
なDBS類を開発すべく鋭意検討の結果,DBS類を特定の溶剤により
位置異性体等の不純物を洗浄除去して得た精製物中に混在する強酸性物
質を完全に中和して中性塩化することにより消滅せしめるとともに,そ
の上で更に特定の物質を熱安定剤として配合することにより所期の目的
を達成し得ることを見い出し,この知見に基づいて本発明を完成するに
至った。
即ち,本発明は,熱安定性に優れたDBS類組成物を提供することを
目的とする。
[発明の効果]
本発明に係るDBS類組成物は,加熱しても着色が少なく,かつ分解
によるアルデヒドの発生が抑制され,非常に安定なものである。そのた
め,例えば,このものを結晶性樹脂の核剤として適用した場合,樹脂を
成形するに際して臭気の発生は大幅に抑制されるため作業環境が改善さ
れ,かつ色ムラのない食器容器にも使用できる成形品を得ることができ
る。
イ特徴部分
前記アによれば,本件発明3の特徴部分は,前記一般式(Ⅰ)で表され
るDBS類において,その位置異性体が0.2重量%以下に低減された
当該DBS類の精製物に対し「精製物中に混在する強酸性物質を完,(
全に中和して中性塩化することにより消滅せしめるために適用される)
アルカリ金属化合物及び(熱安定剤として適用される)アルカリ性有機
アミン化合物を配合」することによって,熱安定性に優れたDBS類組
成物を提供することにあるといえる。
(2)本件発明3の特許出願に至る経緯について
,(,,,,,,,前提事実証拠甲3222352乙3435乙96の2
乙163,証人P8,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事
実を認めることができる。
ア本件発明3の経緯
ゲルオールMDは,昭和57年9月,販売が開始され,ポリプロピレ
,,ン樹脂の優れた透明化核剤として使用されていたが異臭があったため
被告ではその無臭化が課題になっていた。異臭の原因は製品中のp-ト
ルアルデヒド(PTAL)であると考えられ,PTALの低減を目的と
して,多くの検討がされていた。
イ原告及びP10による研究
原告は,昭和61年4月から,商品開発部に異動になり,以後,同時
期に商品開発部に異動になった部下のP10とともに,ゲルオールMD等
の研究に従事し,次の(ア),(イ)の研究報告書を作成した。なお,P10
は,平成元年4月,被告を退職した。
(ア)昭和62年4月9日付研究報告書(甲22)
P10及び原告連名の昭和62年4月9日付研究報告書(研-218
5
について何ら検討されていな
い。
(イ)昭和63年11月13日付研究報告書(甲23)
P10及び原告連名の昭和63年11月13日付研究報告書(研-2
289
実験内容は,
というものである。
ウP8等による研究
P8は,昭和53年4月,被告に入社し,研究部に配属され,原告の
下で各種アセタール類の合成と核剤としての評価に従事し,昭和59年
6月,ファイン事業部に異動し,原告の下でゲルオールM-MDの開発
やゲルオールDの高濃度法試作に携わり,昭和61年4月,商品開発部
に異動になり,P11の下で,ゲルオールMDの安定化を検討し,共同研
究者とともに次の(ア),(イ)の研究報告書を作成した。
P8は,昭和63年4月,研究第三部に異動となり,P12の下で,ゲ
ルオールMDの安定化及びゲルオールDHの試作を検討し,共同研究者
,,,とともに次の(ウ)(エ)の研究報告書を作成し昭和63年8月22日
ゲル化剤会議で報告した(後記(オ)。P8は,現在は技術開発部で樹)
脂添加剤1チームのチームリーダーを務めている。
(ア)P8,P11連名の昭和62年10月15日付研究報告書(研-22
17
(イ)P8,P11,P22,P28,P29連名の昭和63年3月9日付研究報
告書(研-2245
(ウ)P8P30及びP12連名の昭和63年7月30日付研究報告書研-,(
2275
なお,上記研究報告書に,
と記載されている。
(エ)P10及び原告連名の昭和63年8月8日付研究報告書(研-227
3
上記研究報告書において,がされている。
(オ)昭和63年8月22日付ゲル化剤会議資料(乙163添付資料3)
上記会議資料には,
であると記載され
ている。
(3)本件発明3の特許出願
被告は,昭和63年8月24日,本件発明3につき,発明者を原告及び
P10として特許出願した(甲3。P8及びその上司であったP11及びP)
12は,上記特許出願につき異議を唱えていない。
(4)補償金の支給
被告は,原告に対し,本件特許3の出願補償金2500円及び登録補償
金1万円を支給している。さらに,被告は,平成15年10月,本件発明
2,3,4及び6につき,被告規程に定める職務発明実施補償に該当する
,()。として合計金65万5000円乙6の実施補償金を原告に支給した
(5)検討
本件発明3の特徴部分は,前記(1)イのとおり,①位置異性体が0.2
重量%以下に低減された当該DBS類の精製物を使用すること,②アル
カリ金属化合物及びアルカリ性有機アミン化合物を配合することにあると
認められるところ,原告は,上記①の精製物について,前記(2)ウ(エ)の
研究報告書(乙96の2)によって確認していることが認められる。上記
②については,原告自らが本件発明3の特許出願前に実験していることを
直接認めるに足りる証拠はないが,本件発明3の特許出願手続は原告がし
ていること,原告とP10は,特許出願後であるが,実験を実施しているこ
と(前記(2)イ(イ)の研究報告書(甲23)に照らすと,本件発明3が)
特許出願された昭和63年8月24日までに,原告及びP10は,上記②を
着想していたものと認められる。
他方,前記(2)ウ(ウ)の研究報告書(乙34添付資料3)には,
と
記載されていること,前記(2)ウ(オ)のゲル化剤会議資料(乙163添付
資料3)には,
と記載されていることに
照らし,P8は,アルカリ金属化合物とアミンの併用により安定性が格段
に優れるという認識を持っていなかったと認められる。
以上を総合すると,P10と原告が本件発明3の前記特徴部分を着想した
と認めるのが相当である。したがって,本件発明3はP10と原告の共同発
明であると認められる。
(6)原告の主張について
ア位置異性体の低減について
原告は,を実施することにより,位置異性
体を0.2重量%以下にすることに成功し,これが本件発明3の完成に
寄与した旨主張する。
たしかに,位置異性体が0.2重量%以下に低減された当該DBS類
の精製物を作ることについては,前記(2)ウ(エ)の研究報告書(乙96
の2)によって確認していることが認められ,また,これが本件発明3
の特徴の1つでもある(前記(1)イ。しかし,本件明細書3には,精)
製法に関する記載や,はな
く,本件発明3に不可欠の要件とはいえな
い。
そうすると,原告の実施したについて,作
業仮説が誤っていたか否かについて争いがあるものの,その結論は,本
件発明3の発明者の認定に影響はないというべきである。
イEDTAがアルカリ性有機アミン化合物に該当するか否かについて
原告は,EDTAが本件発明3に係るアルカリ性有機アミンであり,
旨主張するが,本
件明細書3では,EDTAはアルカリ金属化合物に位置づけられている
こと,
に照らし,上記研究報告書(甲22)によって
本件発明3が完成したとは認められない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(7)被告の主張について
ア原告の実験内容について
(ア)被告は,原告及びP10の作成した前記(2)イ(ア)の研究報告書(甲
22)が本件発明3と関係ない旨主張するが,前記(5)のとおり,原
告が本件発明3の発明者であると認められる根拠は,研究報告書(甲
22)ではないから,被告の上記主張は採用することができない。
(イ)被告は,原告が,EDTAが本件発明3に係るアルカリ性有機アミ
ン化合物である旨主張する一方で,EDTAを検討した前記研究報告
書(甲22)が,本件発明3と全く別であることを認めているから,
原告は本件発明3の発明者でないことを自認しているに等しい旨主張
する。しかし,前記(5)のとおり,原告が本件発明3の発明者である
と認められる根拠は,上記研究報告書(甲22)ではなく,EDTA
がアルカリ性有機アミン化合物であると認められるか否かとは関係な
いから,被告の上記主張は採用することができない。
(ウ)被告は,前記(2)イ(イ)の研究報告書(甲23)の実験は,
によって行われていて,原告が着想したという
行われてはいないから,原告の主張と上記研究報告
書の内容とは矛盾する旨主張する。しかし,前記(6)アで述べたとお
り,本件発明3の特許請求の範囲には,精製法に関する記載はないか
ら,本件発明3の発
明者を認定するに当たって本質的な事項であるとはいえない。した
がって,被告の上記主張は採用することができない。
イについて
被告は,によって実現されること
はなく,原告の実施した作業は,作業仮説において誤っていると主張す
るが,前記アで述べたとおり,によっ
て実現できるか否かについては,本件発明3の発明者の認定には関係が
ないというべきである。
ウアルカリ金属化合物及びアルカリ性有機アミン化合物の配合によるゲ
ルオールMDの安定化について
,,被告はEDTAが本件発明3に係るアルカリ性有機アミンではなく
前記(2)イ(ア)の研究報告書(甲22)では,
原告は,
ゲル化剤会議資料2(乙34添付資料4)で報告されたP8の実験を元
に,自らが発明したかのように装って特許出願を行った旨主張するとこ
ろ,たしかに,前記研究報告書(甲22)では
るが,前記(3),(5)のとおり,原告が本件発明3の特許出願手続をし
ているところ,本件明細書3には長鎖脂肪族3級アミン及びアルカリ性
有機アミンについての記載があること等を根拠に,原告が本件発明3の
発明者であると認められるのであって,EDTAがアルカリ性有機アミ
ンではないからといって,前記認定を左右するものとは認められない。
また,P8は,アルカリ金属化合物とアミンの併用により安定性が格段
に優れているという認識を持っていなかったと認められるから,P8の
,,報告自体本件発明3の特許出願にどれだけ有益であるか疑問であるし
本件明細書3の内容に照らすと,昭和63年8月24日付の上記ゲル化
剤会議資料を見て,本件発明3の特許出願日(同月24日)までのわず
か2日間に,明細書の内容を具体化するのは著しく困難であると認めら
れる。また,原告は,甲23の基礎となった実験を上記特許出願前にし
ていたと推測することができるから,長鎖3級アミン(アルカリ性有機
アミン)について全く検討していなかったとは認められない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
5争点1-4(原告が本件発明4の発明者か否か)について
(1)本件発明4の特徴
ア本件明細書4には,次のとおり記載されている(甲4。)
【特許請求の範囲】
別紙特許権目録4の「特許請求の範囲」に記載のとおり
[従来の技術と課題]
芳香族アルデヒドとソルビトールとを酸触媒の存在下,アセタール縮
合させて調製されるDBS類は,結晶性樹脂組成物の核剤として賞用さ
れているものであって,本発明者らは,これまでにもより優れた特性を
有する核剤を提供すべく鋭意決検討の下,種々のDBS類を提案してき
たところである。
しかしながら,核剤に対する要望は多岐に亘っているため,広範囲の
用途に適用するためには,尚,改善の余地が認められる。
具体的には,1,3:2,4-ジベンジリデンソルビトール(以下「D
BS」と略称する)は,結晶性樹脂成形物の光学的特性,特にその透。
明性を大幅に改善し得るものではあるが,より高い透明性を必要とする
分野に対しては充分その要望を満足するものではなく,斯かる問題点を
解消するものとして,ベンズアルデヒドの代りにトルイルアルデヒドを
適用して調製される1,3:2,4-ジメチルベンジリデンソルビトー()
ル(以下「Me-DBS」と略称する)を提案した(特開昭53-117。
044号,特開昭54-28348号。)
このものを適用することにより,格段に優れた透明性を有する樹脂組
成物を得ることができるが,トルイルアルデヒドは,香料としても用い
られる化合物であって香気が極めて大きいため,樹脂組成物を加熱して
成形加工するに際し,臭気を発生し易いという欠点が認められる。
13:24-ビスポリアルキルベンジリデンソルビトール特,,()(
開昭56-45934号)や,各芳香環に夫々異なる種類や数の置換基
を有する,いわゆる非対称型のDBS類(特開昭59-12951号)
は,Me-DBSと同様に優れた透明性を改良する効果を有しているとと
もに,Me-DBSの欠点である加熱成形時における臭気が大幅に抑制さ
れたものである。
一方,DBS類は,従来の核剤である金属塩やシカリ等の「分散型」
とは異なり,その融点又はそれ以上の温度で均一に溶解することがポイ
ントとなる「溶解型」の核剤であるため,結晶性樹脂の成形加工時にお
いては核剤を高速度で融解混合することが大切である。したがって,低
い融点を有するDBS類程,加工性に優れた核剤であるといえる。
しかしながら,これまでの一連の研究において,高い融点を有するD
BS類程,核剤としての透明性の改質効果は大きい傾向が認められてお
り,低融点と高機能とを同時に満足させることは二律背反の困難な課題
である。
即ち,上記の各置換体は,いずれもその融点が260℃程度と高く,
それ以下の加熱加工条件しか採用できない一般成形加工分野においてD
BS類の優れた核剤効果を得るためには,適用する核剤の融点以上の温
度で高濃度マスターバッチを調製する工程を余分に必要とする等,一定
の困難性を伴っていた。
[発明を解決しようとする課題]
本発明者らは,結晶性樹脂の核剤としてのDBS類の特性について深
く検討を進める中で,特定の構造を有する非対称型誘導体を特定比率で
含有してなるDBS類の融点がこれまでに知られていた同種の化合物に
比して格段に低く,その結果,加工性が大幅に改善され,しかもこのも
のを核剤として配合した結晶性樹脂組成物が下記の特性をも併せ持ち,
同時に加熱成形に際しての臭気の発生も抑制されることを見い出し,こ
の知見に基づいて本発明を完成した。
(1)成形物の透明性の大幅な向上,
(2)弾性率の向上,
(3)耐衝撃性の向上,
(4)熱変形温度の向上,
(5)ひけの防止,
(6)延伸フィルムの寸法安定性の向上,
(7)結晶化温度の向上による成形サイクル時間の短縮,
(8)顔料分散系における体積収縮の防止,等。
即ち,本発明は,低融点で加工性が大幅に改善された樹脂改質用ジア
セタール組成物及び加工性の改良と同時に透明性,熱的,力学的性質等
の改質された結晶性樹脂組成物を提供することを目的とする。
[発明の効果]
本発明に係るDBS類を配合してなる結晶性樹脂組成物は,最高度の
透明性及び光沢を有するばかりでなく,成形加工時における熱分解によ
る臭気の発生も認められない。しかも,当核DBS類の融点は229℃
以下と,従来のDBS類の融点と比較して著るしく低いため,成形温度
を低減することができ,ポリエチレン等の比較的低温で成形する樹脂に
適用する場合においても,核剤としてのDBS類が完全に融解しないこ
とに起因するフィッシュアイの生成を抑制することが容易である。
イ特徴部分
前記アによれば本件発明4の特徴部分は①樹脂改質用ジアセター,,
ル組成物が,(a)前記一般式(1)で表される少なくとも1種の化合物,
(b)前記一般式(2)で表される少なくとも1種の化合物及び(c)前記一
般式(3)で表される少なくとも1種の化合物との混合物からなること,
②かかる組成物が0.3≦Z≦0.8の組成からなることZ=A/(A,(
+B+C)。ここで,Aは(a)成分の,Bは(b)成分の,Cは(c)成分
夫々の該ジアセタール組成物中の重量割合を表す)の2点が,その特。
徴部分であるといえる。
(2)本件発明4の特許出願に至る経緯について
前提事実,証拠(甲4,52,59,乙37,182,証人P10,原告
本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実を認めることができる。
アP10の研究の状況
P10は,昭和60年3月,立命館大学理工学部化学科を卒業し,同年
4月,被告に入社し,ファイン事業部に配属され,昭和61年4月,商
品開発部に異動し,昭和63年4月,研究第3部に異動した。商品開発
部と研究第3部時代,P10の上司は原告であった。P10は,平成元年4
月,被告を退職した。なお,結婚に伴い,姓がP10からP9に変わって
いる。
イ原告の指示
原告は,昭和62年12月,P10に対し,新規非対称ゲル化剤の開発
を指示した。原告は,昭和60年から,京都大学の受託研究生として,
P31助教授の下でゲルオールMDのゲル形成のメカニズム等の研究を始
め,1週間の約半分は同大学に行っており,昭和62年12月ころも同
様であったため,原告自らが実験することはなかった。
なお,原告作成の昭和62年12月7日付「第116期テーマ(乙」
37添付資料2)と題する書面には「原料アルデヒドにDMEーBA,
L/EーBAL混合物を用いることを基本とする」とのみ記載されてい
た。
ウ研究報告
P10は,昭和62年12月以降,
を行い,を評価し,
その結果,
を明らかにし,原告及びP10連名の昭和63年7
月30日付研究報告書(研-2274
にまとめた。
なお,P10作成の昭和63年3月1日付「ゲル化剤の誘導体の合成」
と題する書面(乙37添付資料3書面)には,以下の記載がある。
「,。以上の条件で下記の3通りのアルデヒドを用いてD体の合成を行う
①
②
③
それぞれ,反応粗物を後処理,乾燥し,GC組成分析を行う。
(s63.3.4∼10」)
「透明性が最もすぐれている組み合わせについて,今度はアルデヒドの
割合を変えて,合成を行う。(3.16∼27」)
(3)本件発明4の特許出願
原告は本件発明4の特許出願依頼書を作成し,被告は,昭和63年9月
16日,原告及びP10を発明者として特許出願した(甲4。)
(4)補償金の支給
被告は,原告に対し,本件特許4の出願補償金2500円及び登録補償
金1万円を支給している。さらに,被告は,平成15年10月,本件発明
2,3,4及び6につき,被告規程に定める職務発明実施補償に該当する
,()。として合計金65万5000円乙6の実施補償金を原告に支給した
(5)検討
前記(1)イ,(2)によると,本件発明4の特徴は,前記(2)の乙37添
付資料3書面に記載された提案に基づいていることが認められる。
したがって,上記書面に記載された提案の主体が本件発明4の発明者と
解するべきであるが,この作成者はP10であるため,そこに記載された提
案がP10だけによるものか,原告の関与がどの程度あるのかを明らかに必
要がある。
①P10は,証人尋問において,前記研究報告書(乙37添付資料4)
を作成するに際し,P10が原案を作成し,原告によって何度も,修正され
た旨を証言していること(P107頁,②原告は乙37添付資料3書面)
に「日程の再検討」と書き加えていること,③P10は,証人尋問におい
,,て原告からDBALとEBALの組合せで実験をしてくれと言われた際
駄目だと思ったわけではなく,
どうなるか
なと思って付け加えたに過ぎない旨証言しており,この証言によれば,P
10は,前記乙37添付資料3書面によって,原告作成の昭和62年12月
7日付「第116期テーマ」と題する書面(乙37添付資料2)に記載さ
れた,原料アルデヒドにDME-BAL/E-BAL混合物を用いることを
基本とする旨の原告の提案を排斥した上で,DBAL,EBAL,BAL
の各組み合わせを提案したものではなく,また,P10の提案も積極的な根
拠に基づくものではないと認められること,④P10の陳述書(乙37)
には「私自身は,どの2つのアルデヒドの組み合わせによって,透明化,
剤として優れた性能が得られるかは全く予想できるものではないと考えて
いました」との記載がある。
以上を総合すると,前記乙37添付資料3書面記載の内容は実験計画で
あり,その内容は原告とP10が協議して決められたものと認めるのが相当
である。そして,前記認定の経緯に照らすと,上記書面は,原告の提案を
排斥あるいは修正する新しい提案をしたものとは認め難いこと,両名が協
議した実験を実施した結果,本件発明4の特徴部分の発見を得ることがで
きたと認められるから,P10と原告が本件発明4の特徴部分を着想したと
認めるのが相当である。
したがって,本件発明4の発明者はP10と原告であると認められる。
(6)被告の主張について
ア被告は,原告がEBALに固執していた旨主張し,その根拠として,
①昭和63年4月6日付研究計画書
②原告は,
が終わってから(昭和63年1月,実際にゲルオールDHの検討を開)
始するまで(昭和63年5月)の間に,ゲルオールEDの開発を再度命
じていること,③甲31の出願時の明細書(乙169:特開昭59-1
2951)には,EBALとBALの非対称ジアセタールの実施例及び
DBALとBALの実施例が記載されているが,DBALとEBALの
実施例は記載されておらず昭和63年9月に乙169特開昭59-,,(
12951)に係る出願手続の過程で,DBAL/EBALの実施例を
追加する補正が行われていることを挙げるが,上記①ないし③の事実が
認められるにしても,それは,過去の一定時点における原告の見解を推
認するに過ぎない。また,原告がEBALに固執していたのであれば,
P10と意見が対立し,その後,P10の意見が採用されて,本件発明4の
完成に至ったということになるが,前記のとおり,P10の証言によって
も,P10は,原告の提案を排斥したのではないこと,P10の提案も積極
的な根拠に基づくものではないこと,P10は実験結果を予想していたわ
けではないこと等に照らすと,P10がEBALに固執していた原告を説
得したものとは到底認め難い。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
イ被告はP10の指導のほとんどはP8が行っていた旨主張するが①,,
P10は,証人尋問において,乙37添付資料4の研究報告書を作成する
に際し,P10が原案を作成し,原告によって何度も,修正された旨を証
言していること(証人P10尋問調書7頁)②原告は前記乙37添付資
料3書面に「日程の再検討」と書き加えていること等に照らすと,原告
は,P10が実施していた実験内容をP10に放任していたのではなく,原
告はP10に研究の指導を行い,実験等の研究内容についてP10と協議し
ていたものと認められるから,被告の上記主張は採用することができな
い。
ウ被告は,原告がP10に三角相関図(乙37添付資料5の図4)を作成
させたことは発明には寄与しておらず,原告は本件発明4の発明者では
ない旨主張する本件発明4におけるZの範囲は0.3≦Z≦0.8。「」
で,Zの最大値は0.8であるが,原告及びP10連名の昭和63年11
月13日付研究報告書(研-2287
同4に基づいて本件発明4の
Zの範囲が直接定められたものでないことは明らかである。そのため,
。,上記図4が本件発明4の完成に直接寄与しているとはいえないしかし
それにしても,前記(5)のとおり,原告はP10の研究を指導し,両名が
協議した実験を実施した結果,本件発明4の特徴部分のひとつであるZ
に着目し,その好ましい範囲を特定するという発見を得ることができた
と認められるから(少なくとも,本件発明4におけるZの範囲をP10の
みが発見したと認めるに足りる証拠もないというべきである,本件。)
発明4はP10と原告の共同発明であると認めるのが相当である。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
6争点1-5(原告が本件発明5の発明者か否か)について
(1)本件発明5の特徴
ア本件明細書5には,次のとおり記載されている(甲5。)
【特許請求の範囲】
別紙特許権目録5の「特許請求の範囲」に記載のとおり
[従来の技術]
一般式(1)で表わされるジアセタールは,特異な性能を有する物質で
あって,これまでにポリプロピレン等の透明性改良剤,塗料,インキ,
接着剤等の流動性改良剤,接着剤,香粧品,医薬品等の固形化剤等,幅
広い用途が開発されている。
斯かるジアセタールは,特定の構造を有する芳香族アルデヒドと多価
アルコールとを酸触媒の存在下,疎水性有機溶媒中で縮合し,次いで中
和し,溶媒を回収し,乾燥することにより製造される(特公昭48-4
3748号,特公昭58-22156号,特公昭58-22157号,特
開平1-149789号等。)
これらの方法により,収率よく目的物であるジアセタールを得ること
はできるものの,当該製造工程中において,ジアセタールの凝集物であ
る固形物やゲル状ブロック物が一部に生ずる傾向が認められる。これら
の凝集物の中には中和工程を経ても,尚,未中和の酸触媒が局所的に残
存しており,この残留した酸触媒が中和工程に続く溶媒回収,乾燥等の
加熱工程においてジアセタール(縮合生成物)の加水分解を惹起する。
この局所的なジアセタールの加水分解は,目的物の収率の低下のみなら
ず,製品の着色を招いたり,未反応アルデヒドともに原料に由来するア
ルデヒド臭を発生させる原因と考えられるものである。
この着色や臭気を抑制する技術の開発は,特に,ジアセタールを核剤
として適用した樹脂成形品を食品用の包装材料や容器等に使用する分野
において要望されており,斯かる問題点を解消し得る技術として,これ
までにジアセタールを亜臨界又は超臨界状態の流体で処理して精製する
方法(特開昭60-199891号)が知られている。
[発明が解決しようとする課題]
本発明者らは,特定の流体により特別の精製処理を施すことなく,よ
り簡便に上記目的を達成し得る新規な製造方法を確立すべく鋭意検討す
る中で,従来の製造方法に係る中和以降,乾燥前のいずれかの工程にお
いて,特定の構造を有する脂肪族3級アミンを所定量配合することによ
り,従来回避することが困難であった局所的なジアセタールの加水分解
が抑制され,所定の目的が達成されることを見い出し,斯かる知見に基
づいて本発明を完成するに至った。
即ち,本発明は,ジアセタールの着色を防止し,ジアセタールの加水
分解によって生ずるアルデヒドに起因する異臭が大幅に抑制されたジア
セタールを収率よく製造する工業的に優れた方法を提供することを目的
とする。
[発明の効果]
本発明に係る特定の脂肪族3級アミンを適用することにより得られた
ジアセタールは,大幅に臭気及び色相が抑制されたものであって,工業
的に極めて有用なものである。
イ特徴部分
前記アによれば,本件発明5は「中和以降,乾燥前のいずれかの工,
程においてジアセタール100重量部当り一般式(2)又は一般式(3),,
で表わされる脂肪族3級アミンを0.1∼20重量部配合する」ことに
よって,着色や臭気を抑制するという特有の効果が導かれるものである
から,この部分が本件発明5の特徴部分というべきである。
(2)本件発明5の特許出願に至る経緯について
前提事実,証拠(甲5,52,乙10,11,39,証人P8,原告本
人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実を認めることができる。
アP8は,昭和61年4月,商品開発部に異動になり,P11の下で,ゲ
ルオールMDの安定化を検討し,共同研究者とともに前記4(2)ウ(ア)
及び(イ)の研究報告書(乙34添付資料1,2)を作成した。P8は,
昭和63年4月,研究第三部に異動となり,P12の下で,ゲルオールM
Dの安定化及びゲルオールDHの試作を検討し,共同研究者とともに前
(,)記4(2)ウ(ウ)及び(エ)の研究報告書乙34添付資料3乙96の2
を作成し昭和63年8月22日ゲル化剤会議で報告した前記4(2),,(
ウ(オ)。)
イ原告は,昭和61年4月,商品開発部に異動の上,同部の主任研究員
になり,昭和63年4月,研究第三部に異動の上,同部の主任研究員に
なり,平成元年7月,同部の副部長に就任した。この間,ゲルオールD
H等の研究に従事し,原告及びP32連名の平成元年7月19日付研究報
告書(研-2322
を作成した。
ウ原告及びP8はいずれも本件発明5の特許請求の範囲のうち中,,,「
和以降,乾燥前のいずれかの工程において」脂肪族3級アミンを添加す
る実験を行っていない。
(3)本件発明5の特許出願
原告は本件発明5の特許出願依頼書を作成し,被告は,平成元年10月
2日,本件発明5につき,発明者を原告として特許出願した(甲5。P)
8及びその上司であったP11及びP12は,上記特許出願につき異議を唱え
ていない。
(4)補償金の支給
被告は,原告に対し,本件特許5の出願補償金5000円及び登録補償
金1万円を支給した。
(5)検討
本件発明5の特徴部分は,前記(1)イのとおり「中和以降,乾燥前の,
いずれかの工程において,ジアセタール100重量部当り,一般式(2)又
は一般式(3)で表わされる脂肪族3級アミンを0.1∼20重量部配合す
る」ことによって,着色や臭気を抑制するという特有の効果が導かれるこ
とにあると認められるところ,
原告とP8の両名とも,その実験を行っていないから,上記各研究報告書
を理由に本件発明5の発明者を特定することは困難というべきである。
しかし,原告は本件発明5の特許出願依頼書を作成していること,被告
は,平成元年10月2日,本件発明5につき,発明者を原告として特許出
願しているが,P8及びその上司であったP11及びP12は,上記特許出願
につき異議を唱えてないこと,被告は,原告に対し,本件特許5の出願補
償金5000円及び登録補償金1万円を支給していることを総合すると,
原告が本件発明5の特徴部分を着想したと認めるのが相当である。
したがって,本件発明5の発明者は原告であると認められる。
(6)被告の主張について
ア被告は,P8が中和から乾燥までの工程に脂肪族3級アミンを添加す
ることを着想していた旨主張し,P8は,証人尋問において,上記主張
に沿う証言をし,P8の陳述書にも同趣旨の記載があるが,P8が作成
(,),した研究報告書など乙34添付資料1∼3乙96の2によっても
上記証言を裏付けるに足りず,他に,P8が前記内容の着想をしていた
ことを認めるに足りる的確な証拠はない。
イ被告は,P8は,添加剤の同定を行い,DBSの安定化効果を自ら確
認し,昭和63年8月22日の会議で報告している旨主張するが(被告
の準備書面(7)69頁,ゲル化剤会議資料(乙163の2)には,本)
件発明5の特徴部分についての記載はないから,被告の上記主張は採用
することができない。
ウ被告は,原告が脂肪族3級アミンについて何ら検討していないし,P
8の実験後にも,中和以降,乾燥までの間に,脂肪族3級アミンを添加
,,する実験をしておらず原告が本件発明5の効果を確認していないから
原告は本件発明5の発明者ではない旨主張する。たしかに,前記(2)イ
の研究報告書
原告が中和以降,乾燥までの間に,脂肪族3級ア
ミンを添加する実験をしたことを認めるに足りる証拠はない。しかし,
前記(4),(5)のとおり,本件発明5の特許出願に至っている以上,本
件発明5の特徴部分は原告が着想したしたと認めるのが相当であって,
前記実験をしていないことが前記認定を左右するとは認められない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
7争点1-6(原告以外の本件発明6の発明者は誰か)について
(1)本件発明6の特徴
ア本件明細書6には,次のとおり記載されている(甲6。)
【特許請求の範囲】
別紙特許権目録6の「特許請求の範囲」に記載のとおり
[従来の技術と課題]
「アセタール類の一種であるベンジリデンソルビトール類は,特異な
性能を有する物質として,現在までにポリプロピレン樹脂等の透明性改
良剤,塗料,インキ,接着剤等の流動性改良剤,揺変剤,接着剤,香粧
品,医薬品等の固形化剤等,幅広い用途が開発されている。
この化合物は,例えば,所定のベンズアルデヒド類とソルビトール,
キシリトール等の多価アルコールとを酸触媒の存在下又は無触媒下に縮
合させることにより製造されるが,その改良方法として,シクロヘキサ
ン等の疎水性有機溶媒と低級アルコール等の極性有機溶媒とを反応媒体
として用いる方法が提案され(例えば,特公昭48-43748号,)
既に工業的にも用いられている。
当該アセタール化反応における低級アルコールの作用は極めて複雑で
,,,,あるが結果としてアルデヒド類とのエーテル化反応アルデヒド類
多価アルコール類との混合アセタール化反応に関与し,生成水の除去促
進,反応の選択性の向上等に寄与するものと考えられる。
しかしながら,この方法では,低級アルコールを多量に必要とし,反
応完結までに長時間を要し,しかも反応率が頭打ちとなって定量的な反
応率に至らない等,工業的な製造方法としては,尚,改善の余地が認め
られる」。
[発明が解決しようとする課題]
「本発明者らは,斯かる欠点を改善し,短時間で効率良く目的とする
アセタール類を製造するための工業的に優れた製造方法を確立すべく,
鋭意検討の結果,
(1)系中の低級アルコールの量が少なすぎた場合には反応率が低くな
り,反応の選択率も低下する,
(2)系中の低級アルコールの量が多すぎた場合は有効に作用する低級ア
ルコールの割合が低下し,反応完結までに長時間を要し,反応率が頭打
ちとなり,定量的に反応することができない,
等の事実を認めた。
引き続く検討の中で,斯かる問題点は,低級アルコールの仕込み方法
を制御することによって解消され,所定の目的が達成されることを見い
出し,斯かる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
即ち,本発明は,定量的に当該アセタール化反応をすすめるために改
良された工業的に優れたアセタール類の製造方法を提供することを目的
とする」。
[課題を解決するための手段]
「本発明に係るアセタール類の製造方法は,疎水性有機溶媒及び低級
アルコールの存在下にアルデヒド類と多価アルコールとを脱水縮合して
一般式(Ⅰ)で表されるアセタール類を製造するに際し,当該反応中にお
いて,追加の低級アルコールを分割又は連続して仕込み,低級アルコー
ルと水との混合物を連続的に抜き出すことを特徴とする」。
[式中,A,Bは同一又は異なって,(X)n若しくは(X')mの置換基
を有していてもよい,芳香環,ナフタレン環又はテトラヒドロナフタレ
ン環を表す。X,X'は同一又は異なって,水素原子,炭素数1∼4の
アルキル基,炭素数1∼4のアルコキシ基,ハロゲン原子,カルボキシ
ル基又はフェニル基を表す。m及びnは夫々1∼5の整数,pは0又は
1を表す]。
[発明の効果]
「本発明方法を適用することにより,短時間に効率良く目的とするア
セタール類を製造することができる」。
イ特徴部分
前記アによれば,本件発明6の特徴部分は,前記一般式(Ⅰ)で表され
るアセタール類を製造するに際し,当該反応中において「追加の低級,
アルコールを分割又は連続して仕込み,低級アルコールと水との混合物
を連続的に抜き出すこと」にある。
(2)本件発明6の特許出願に至る経緯について
前提事実,証拠(甲6,19,52,59,乙11,40,45ないし
51,55〔枝番号を含む,証人P14,証人P5,原告本人)及び弁。〕
論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア関係者の経歴
,,,,,(ア)P14は昭和33年4月被告に入社し技術部に配属され以後
昭和40年8月,技術部研究室の研究員(係長代理待遇,昭和42)
年2月,技術部の研究員(係長待遇,同年4月,研究部の研究員,)
昭和44年3月,研究部の主任研究員(課長待遇)研究部の第2研究
室長を歴任し,可塑剤及びゲル化剤の仕事に従事していたが,そのこ
ろ,原告が部下になった。また,P14は,昭和50年2月,研究部の
主席研究員,昭和53年4月,開発事業部長を兼務し,昭和54年8
月,研究第二部長兼開発事業部長となり,原告の上司ではなくなり,
その後,被告を退職した。
(イ)P5は,昭和35年4月,被告に入社し,生産部油脂第二課に配属
され,その後,昭和39年7月,技術部研究室員,昭和40年3月,
,,,立命館大学理工学部化学科卒業昭和43年4月研究部に配属され
昭和48年7月,調査開発部に移るとともに,ゲル化剤の開発から離
れ,昭和49年8月,研究部,昭和53年11月技術部に移転し,そ
の後,被告を退職した。
イイーシー化学との共同研究
(ア)有機性ゲル化剤であるジベンジリデンソルビトール(DBS)の基
礎研究は,イーシー化学において行われていたが,昭和41年ころ,
イーシー化学から被告に対し,共同研究の申し入れがあり,被告にお
いて,本格的な検討が始まった。
,,,,(イ)当時P13が技術部長P33が研究部長P14が研究部主任研究員
第2研究室長,原告,P15及びP16が第2研究室の研究員,P19が第
6研究室の研究員,P17及びP18が第7研究室の研究員であった(乙
11。有機性ゲル化剤DBSの合成を検討するに当たっては,P33)
が管理責任者となり,第2研究室長であったP14が,その部下である
原告の指導に当たった。
(ウ)当初,被告では,イーシー化学から開示を受けたPseudo-バルク法
で検討されたが,生成物が固化した状態になるため,工業生産には向
かないと判断された。
ウの開発
(ア)その後,検討が重ねられ,DBSによってゲル化されない溶媒とし
て
が見い
出され「ジベンジリデンソルビトールの製造法」の発明として,昭,
和44年10月6日,発明者をP7,P33,P14,原告及びP5とし
て特許出願された(乙40添付資料6-A。)
(イ)その後,研究が進み,が確立され,設備が設計され
た。
(ウ)昭和46年5月,による生産が開始されたが,問題
が発生し,同年11月ころ,ロット間の品質のばらつきが認められる
旨の報告がされた。
エの開発
(ア)そのころから,研究部全体で,
が検討され,P14は,第2研究室,第6
研究室及び第7研究室に対し,異なる合成条件を指定した上で,実験
を指示した(乙40添付資料6-D。この間,原告は,議論及び検討)
を総括する役割を果たした。
(イ)その上で,原告,P15及びP14連名の研究報告書(研-841「ゲ
ルオールDの品質改良に関する研究第3報
がま
とめられたが,そこには,
との記載がある外,
ことが記
載されている。
(ウ)昭和47年2月ころ,被告において,による生
産が開始された。
(3)本件発明6の特許出願
原告は本件発明6の特許出願依頼書(乙55)を作成し,被告は,平成
元年3月3日,本件発明6につき,発明者を原告及びP20として特許出願
した(甲6。なお,上記特許出願依頼書(乙55)の備考欄には)
「1第1世代の製造法の有効期限失効が近いので,know-howの重要部分
を特許化して有効性を保ち,権利を確保する。
2対抗馬の進出を阻止する」。
と記載されている。
本件明細書6に記載されている原告とP20のうち,原告は発明者である
が,P20は発明者ではない(争いがない。)
(4)補償金の支給
被告は,原告に対し,本件特許6の出願補償金2500円及び登録補償
金1万円を支給している。さらに,被告は,平成15年10月,本件発明
2,3,4及び6につき,被告規程に定める職務発明実施補償に該当する
,()。として合計金65万5000円乙6の実施補償金を原告に支給した
(5)検討
ア研究報告書(研-841)による発明の完成
本件発明6の特徴部分は,前記(1)イのとおり,前記一般式(Ⅰ)で表
されるアセタール類を製造するに際し,当該反応中において「追加の,
低級アルコールを分割又は連続して仕込み,低級アルコールと水との混
合物を連続的に抜き出すこと」にあると認められるところ,前記(2)エ
(イ)の研究報告書
が認められるから,上記研究報告書には本件発明
6の特徴点が記載されているといえる。また,効果については,上記研
究報告書の表には,
が記載されてい
るから,発明の効果である「効率よく」アセタール類を製造する点につ
いても十分に達成されていると考えられる。以上によれば,上記研究報
告書の記載内容から,本件発明6が完成されていることが確認できるか
ら,上記研究報告書(乙40の2)によって,本件発明6は完成したも
のと認められる。
イ研究報告書(乙40の2)に関する研究への原告の関与
前記(3)のとおり,原告が本件発明6の発明者であることに争いはな
い。
ウ上記研究へのP14の関与
(ア)研究報告書(乙40の2)に関する研究へのP14の関与
P14は,の検討を再開するにあたり,第2研究
室,第6研究室及び第7研究室の各研究室毎に合成条件を指定し,そ
の後,P14等2研メンバーが中心となって各研究室から集まってくる
,,,,データを整理し考察し昭和47年1月6日の会議でBC-25
28ないし32の実験の条件を決定していること乙40添付資料6-(
D,原告も,P14において,BC-25,28,29,30,31)
及び32の実験の条件を決定したことをほぼ認めていること(原告本
人尋問調書97頁,本件発明6の完成が認められる前記研究報告書)
(乙40の2)の表には,
が記載されてい
ること,前記研究報告書(乙40の2)の執筆者にP14の名前が挙げ
られていること,P14ノートには
あと1押である。‥‥(略)‥‥
との記載があ
り(乙45の6枚目右頁,乙40添付資料6-Dの4枚目右頁,こ)
の記載によれば,研究報告書の緒言にある
は,会議で目標が設定されたものであること等
を総合すると,P14は本件発明6の特徴部分を着想していたと認める
のが相当である。
したがって,P14は本件発明6の発明者であると認められる。
(イ)原告の主張について
原告は,P14が研究を指導していなかった旨主張するが,前記(ア)
のとおり,P14が各研究室に実験を割り振ったこと,P14のノートに
は(乙103,P14の部下であった原告,P5,P15,P16の各検)
討内容)が記載されていること(証人P14の尋問調書6頁)等に照ら
すと,P14が部下の原告等を実質的に指導していたことは優に認定す
ることができる。
エ上記研究へのP5の関与
(ア)ノート(乙51)から窺えるP5の着想
P5作成の「AT-62」と題するノート(乙51)には,
旨が記
載されている。この記載によれば,P5は,BCシリーズ(BatchCo
unt)の実験を行い,
を見出していた
ものと認められる。そして,本件発明6の特徴部分は,前記(1)イの
とおり,前記一般式(Ⅰ)で表されるアセタール類を製造するに際し,
当該反応中において「追加の低級アルコールを分割又は連続して仕,
込み,低級アルコールと水との混合物を連続的に抜き出すこと」にあ
るから,P5は本件発明6の特徴部分の一部(低級アルコールと水と
の混合物を連続的に抜き出すこと)を着想していたと推認することが
できる。
,。したがってP5は本件発明6の発明者の一人であると認められる
(イ)原告はP5が本件発明6の発明者ではない旨主張するが前記(ア),,
のとおり,P5は
を見出しているから,P5が
本件発明6の発明者であると認めるのが相当である。したがって,原
告の上記主張は採用することができない。
原告は「BC」の記号の付された実験は原告の発案である旨主張,
するが,証拠(乙40添付資料6-Dの3∼4頁)によれば「BC-,
25「BC-31「BC-32「BC-34」は第2研究室(P14,」」」
原告,P5,P15,P16「BC-28「BC-29」は第6研究室),」
(),「(,,,)」(,P19BC-30No.1234は第7研究室P17
P18)が各々行った実験結果であると認められるから「BC」の記,
号の付された実験を原告の発案であると断定することはできない。
オ上記研究へのP13の関与について
被告は,P13が本件発明6の構成要件の一つである「疎水性有機溶媒
及び低級アルコールの存在下に」に相当する課題を設定したから,P13
は本件発明6の発明者の一人である旨主張するが,単に,課題を設定し
ただけの者は,発明者であるとは認められない。
カ上記研究へのP15及びP16の関与について
被告は,P15及びP16が,生成物を分析し反応物組成(DBS,副生
成物Sの割合)等を考察しているから,本件発明6の発明者である旨主
張するが,単に,上記考察をしただけの者は,発明者であるとは認めら
れない。
キ上記研究へのP17,P18及びP19の関与について
被告は,P17,P18及びP19は着想を具体化する実験を行っているか
ら,本件発明6の発明者である旨主張するが,単に,実験をしただけの
者は,発明者であるとは認められない。
また,被告は,P19が,
を根拠にP19が発明者である旨主張するが,被告主張の前記
事情だけでは,P19が,本件発明6の特徴部分を着想していたと認める
ことはできない。
ク以上によれば,本件発明6の発明者は原告,P14及びP5であると認
められる。
8争点1-7(原告が本件発明7の発明者か否か)について
(1)本件発明7の特徴
ア本件明細書7には,次のとおり記載されている(甲7。)
【特許請求の範囲】
別紙特許権目録7の「特許請求の範囲」に記載のとおり
背景技術
ジベンジリデンソルビトール及びその核置換体に代表されるジアセ
タールは,ポリオレフィン樹脂用の核剤や各種流動体のゲル化剤等と
して広く使用されている。これらの特性を発現させるためには,該ジ
アセタールを,溶融ポリオレフィン樹脂や流動体に一度溶解又は分子
分散させる必要がある。
,,ところがこれらジアセタールの粉末粒子は強い自己凝集性を持ち
又,融点が高いために,均一に溶解又は分散させることは工業的に容
易ではない。このため,上記溶解性や分散性を改善するための対策が
必要であった。
ジアセタールの溶解性や分散性を改善する方法としては,ジアセ
タールをその融点以上あるいは溶融温度以上の高温下で処理する方法
が知られている。しかしながら,ジアセタールを高温で長時間処理す
ると,ジアセタールの熱分解や着色などの問題を引き起こすため十分
な性能が発揮できず,機能的に問題であり,又,省エネルギー面から
も問題である。
また,特開平6-145431号では,ジアセタールを微粒子化し
てその分散性を向上させて溶解し易くする方法が提案されている。し
かしながら,ジアセタール固体を微粒子化する方法は,粉塵爆発,粉
塵の吸い込みによる人体への影響などの作業環境の悪化,貯蔵時の再
凝集,流動性の低下・移送性(配管を通じてジアセタール粉末を移送
する際の容易さ)の低下等の作業性の低下を招き,工業的に重要な問
題を引き起こす。又,該技術は,粒度分布を単一分散に近くするもの
であり,高価な特別な粉砕装置を必要とする。
また,ジアセタールに有機カルボン酸を併用することにより,ジア
セタールとポリオレフィン樹脂との相溶性を高める方法が知られてい
(,,る日本国特開昭51-122150号日本国特公昭64-413号
日本国特開昭60-101131号。)
上記日本国特開昭51-122150号に記載の方法によると,ジ
ベンジリデンソルビトールと有機カルボン酸を直接ポリオレフィン樹
脂に別々に添加することにより,樹脂への相溶性を高めている。しか
し,この方法では,ジベンジリデンソルビトール固有の融点が高いま
ま低下しないので,樹脂中に未溶解のジベンジリデンソルビトールが
白色のブツとして残るという問題を解決するには不十分である。
上記日本国特公昭64-413号又は日本国特開昭60-10113
1号に記載の方法によると,いずれもジベンジリデンソルビトールの
粉末表面を予め高級脂肪酸又はテレフタル酸で被覆し,被覆物をポリ
オレフィン樹脂に添加している。この方法は,被覆されていないDB
S類を直接ポリオレフィン樹脂に配合する方法に比較して,溶融樹脂
との相溶性が高められる。しかし,これらの技術によっても,未溶解
の白色のブツが残り,満足できるものではない。したがって,透明性
の改質効果が不十分であり,製品の外観から見た商品価値を損なう。
この現象は,単に有機溶媒を用いてジアセタール粒子表面に高級脂肪
酸を表面コーティングする場合も同様である。
更に,従来の成形温度よりも低い温度での成形(以下「低温成形」
という)を可能にする成形性の改良されたポリオレフィン樹脂用の透
明化核剤として,脂肪族カルボン酸アミド及び/又は芳香族カルボン
酸アミドをDBS類に混和し,又はDBS類の粉末の粒子表面を被覆
してなる核剤が提案されている(日本国特開平8-245843号。)
しかしながら,当該混和する方法では,溶媒の除去の際に固いゲルを
形成するため工業化は極めて困難であり,製法が明示されておらず,
実用性に乏しい。また,上記被覆する方法では,脂肪族カルボン酸ア
ミド及び/又は芳香族カルボン酸アミドという被覆剤の量が多い割に
は,ジアセタールの十分な融点降下が得られず,また,当該アミド化
合物はポリオレフィン成形体からブリードする性質があるので,該被
覆剤が多いと,該被覆剤で被覆されたジアセタールとポリオレフィン
樹脂から得られるポリオレフィン樹脂成型物のヒートシール強度が低
下する等の問題があり,実用性において,尚,不十分であり,改善の
余地が認められる。
発明の開示
本発明は,ジアセタールの各種溶融樹脂や各種の液体への溶解性・
分散性を飛躍的に改善しながら,その流動性,移送性(ジアセタール
を配管を通して移送する場合に粉体粒子間の摩擦が少なく,移送が容
易であること)を改善させると共に,粉塵の発切及び配管,ホッパー
等の器壁への付着性を抑制する方法を提供することを目的の一つとす
る。
更に,本発明の他の目的は,ポリオレフィン樹脂の核剤機能を低温
成形で容易に発揮させることにある。
本発明者らは,かかる目的を達成するために鋭意検討した結果,溶
媒で膨潤させた又は極性有機溶媒に溶解させたジアセタールに特定の
化合物を,均一分散させた後に,乾燥及び粒状化又は粉末化すること
により,下記のような使用上の利点が得られることを見出した。
(1)ジアセタールの融点が効果的に大幅に降下する。
(2)ジアセタール粉末粒子中に該特定の化合物を均一分散させてな
るジアセタール組成物は,その形状の如何を問わず,溶融樹脂や各種
液体への溶解性・分散性及び溶解速度が飛躍的に改善される。
(3)該特定の化合物のバインダー効果(即ち,粒子の集合や凝集を
促進する効果)により,ジアセタール組成物の嵩密度を0.2g/㎤以
上で任意に調整でき,そのため,ジアセタール粉末の流動性・移送性
を向上し,粉塵の発生を抑制し,機器配管,ホッパー等の器壁への付
着性を抑制することができる。
(4)ポリオレフィン樹脂のペレット成形時に核剤の昇華による押し
出すダイスの汚れ及び成形体の汚れを生ずることなく,当該ジアセ
タール核剤が極めて容易にその本来有する核剤特性を発揮する。
一般に,ジアセタール組成物の見かけ密度を上昇させると粉体流動
性は向上するが,溶解速度が低下する。反対に,見かけ密度を低下さ
,。,せると溶解速度は向上するが粉体流動性が低下する本発明者らは
ジアセタール組成物の融点を劇的に低下させることに成功し,これに
より,見かけ密度を大きくして粉体流動性の向上と溶解速度の向上と
を同時に解決したのである。
本発明は,かかる知見に基づいて完成されたものである。
産業上の利用可能性
,,,本発明によりジアセタール類の融点を大幅に降下できその結果
溶融樹脂や各種液体への溶解速度を上昇させたり,低温溶解や溶解時
間の短縮が可能となり,更に未溶解物が激減するなどの品質や生産性
を大幅に向上させることできる。
また,バインダー効果による嵩密度の上昇によって,粉塵の発生を
抑制して作業環境を大幅に改善し,更に粉体の流動性向上,付着性抑
,,。制などにより粉体特性を改善して移送を容易にすることができる
更に,低温成形の可能なポリオレフィン樹脂核剤として,成形性が
向上し,ジアセタール化物の昇華,分解及び着色を抑制する。
イ特徴部分
前記アによれば,本件発明7の特徴部分は,有機酸又は有機酸塩から
なるバインダーをジアセタール粒子中に均一に分散させることによっ
て,ジアセタール組成物の融点を低下させ,その結果,溶解性を向上さ
せることにある。
(2)本件発明7の特許出願に至る経緯について
,(,,,,,,,前提事実証拠甲752乙1156114116172
173,証人P3,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実
を認めることができる。
ア関係者の経歴(乙56)
(ア)P4
P4は,平成6年4月,被告に入社し,研究開発本部商品開発部に
配属され,平成7年6月,機能材事業部開発研究部に異動し,P6グ
ループの研究員として研究に従事し平成8年9月からは原告グルー,,
プの研究員として研究に従事し,平成11年7月,研究開発部(高分
子加工2グループ)に異動となった。
なお,P4は,平成8年4月,核剤に関する研究テーマ「ゲルオー
ルMDの耐熱性グレードの開発」の担当者に指名されてから(乙56
添付資料1,研究開発本部技術部開発部の副主任研究員(電材・樹)
脂添加剤グループ)となり,平成18年3月8日(乙56の作成日)
に至るまで核剤に関する研究開発に従事している。
(イ)P23
P23は,平成元年4月,被告に入社し,研究第一部に配属され,平
成7年6月,機能材事業部開発研究部に異動し,P6グループの研究
員として研究に従事し,平成8年9月からは,原告グループの研究員
として研究に従事し,平成11年3月,機能材販売部に異動し,同年
12月,開発部に異動し,平成15年8月,知的財産部に異動し,係
長になった。
なお,P23は,平成8年4月,核剤に関する研究テーマ「ゲルオー
ルMDの耐熱性グレードの開発」の担当者に指名されてから(乙56
添付資料1,平成11年2月までの約3年間,核剤に関する研究開)
発に従事した。
(ウ)P3
P3は,昭和63年4月,被告に入社し,研究第四部に配属され,
平成5年10月,研究開発本部新規開発部に異動し,原告グループの
研究員として研究に従事し,平成11年7月,研究開発部に異動し,
高分子加工2グループの副主任研究員として研究に従事し,平成15
年6月,知的財産部に異動し,係長になった。
なお,P3は,原告グループに研究部内異動してから,平成15年
5月まで核剤に関する研究開発に9年以上従事した。
イ樹脂添加剤プロジェクトチームの編成
(ア)被告では,平成9年ころ,ゲル化剤の売上高が激減したため,顧客
ニーズに適合した製品を開発することを目的として,平成9年3月,
P24社長を統括責任者とする「樹脂添加剤プロジェクトチーム」が編
成された。
(イ)原告は,上記プロジェクトチームの研究開発部門の責任者になり,
P3,P4らが原告のチームに参加した(乙114)。原告グループは
,,,,,,(),原告P8P34P3P23P35P4の7名であり乙11
当初,六方晶あるいはキセロゲル型ゲル化剤の検討が行われていた。
ウミリケン社との交渉
原告は,平成9年6月16日から同月26日まで,被告と競合関係に
あるミリケン社との関係を修復し「ゲル化剤における欧州地域やアジ,
ア地域等のワールドワイドにおけるテリトリー」に関し(乙172,)
交渉すること等を目的として(乙116,アメリカに出張し,ミリケ)
ン社を訪問したが,合意に至らなかった。
エ低融点化技術の完成(乙56)
P3とP4は,種々の研究,検討を行ない,
低融点化技術を完成させた(乙56添付資料9。)
P3作成の平成9年7月度の研究月報(平成9年7月30日提出)(乙
56添付資料9)には,
と記載されている。
被告は,この低融点化技術を本件特許7の優先権主張の基礎となった
特願平9-287924(出願日:平成9年10月3日,特願平10-)
71362(出願日:平成10年3月4日)及び特願平10-9017
3(出願日:平成10年4月2日)を出願した。また,P4は,
改良低融点化技術を完成させ,この改
良技術は,国際出願時に盛り込まれた(国際特許公報WO99/181
08,出願日:平成10年7月7日。)
オ粉体流動性の改善
P23は,
などを行なった(乙56添付資料6,10。)
さらに,P23は,工業検討計画書を作成し,平成9年8月,
生産部門の協力の下でP8と共に研究
担当者として行なった(乙56添付資料11。)
その結果,①
②
③
④
()。などの知見を得た乙56添付資料12
上記の知見を基にした粒状化技術は,本件特許7の優先権主張の基礎
となった特願平9-287924として盛り込まれ出願された。
(3)本件発明7の特許出願
,,,,,,P3は平成9年9月30日発明者を原告P4P3P23として
本件発明7の特許出願依頼書(乙56添付資料18)を作成し,原告によ
る承認を得て,その押印の上,知的財産部に提出した。P4及びP23は当
該出願の明細書の作成には関与していたが,特許出願依頼書の作成には関
与しなかった。
,,,,,被告は平成10年7月7日本件発明7につき発明者を原告P4
P3,P23として,特許出願した(甲7。)
(4)検討
ア本件発明7の特徴部分は,前記(1)イのとおり,有機酸又は有機酸塩
からなるバインダーをジアセタール粒子中に均一に分散させることに
よって,ジアセタール組成物の融点を低下させ,融点を低下させること
,,,によって溶解性を向上させることにあると認められるところ原告は
平成9年6月19日ころ,アメリカから,P3に対し,
を指示した旨主張し,原告は本人尋問において,上記主張に沿
う供述をし,原告の陳述書にも,P3に対し「他の実験をいったん止,
めて,直ちに,ゲルオールMDへの融点降下の
確認実験に入るように」指示した旨の記載がある。しかし,次の(ア)な
,(。)いし(キ)等の諸点に照らし原告の上記供述部分陳述書の記載を含む
はたやすく採用することができない。
なお,原告としては,ミリケン社との交渉が不調に終わった結果(前
記(2)ウ,ゲルオールMDの改良品の開発を急ぐ必要があり,当時,)
進行中であった樹脂添加剤プロジェクトの研究員に対し,当時の目標で
あった低融点化の実現を急ぐよう努力することを指示したことは,十分
推認することはできるが(したがって,国際電話をかけたという原告の
供述を否定することは困難というべきである,それ以上に,具体的。)
な指示をしたことを裏付ける資料は見あたらず,これを認めることはで
きない。
(ア)平成9年6月30日提出の平成9年6月度研究月報(乙56添付資
料10,P23作成)には,原告の上記指示に関する記載がないこと
(イ)P3は平成9年7月,
に
ついても実験していること(乙56添付資料9の平成9年7月度研究
月報の表1)
(ウ)前記研究月報(乙56添付資料9)には,
と記載されていて,
本件発明7の特徴部分が見出されたことが窺われること
(エ)P3作成の平成9年8月度研究月報(平成9年8月27日提出)に
は「六方晶あるいはキセロゲル型ゲル化剤・核剤の製造と評価」と,
記載されており,平成9年8月までに,六方晶キセロゲル核剤の研究
が行われていること
(オ)米国出張報告書(乙116の2)には「今後の課題」の欄に「六,,
方晶での低融点のDX核剤,六方晶で粒状のDX核剤あるいは低融点
,」,MDを開発してミリケン3988に対応と記載されているものの
原告主張の指示は記載されていないこと
(カ)原告作成の「状況の変化に対応した核剤開発のポイント」と題する
書面(乙118)には,
「5.六方晶低融点核剤
有機溶媒ゲルからの製法検討は完了。次の段階として,ゲル化
剤反応缶で六方晶結晶を製造する方法を検討する。蒸留設備は必
要。別に,核剤融点を低下する添加剤をいくつか発見している」。
と記載されていて,原告主張の指示が記載されていないこと
(キ)原告は,
緊急指示ができた旨主張する
が,その時点で,指示を出す根拠となる実験
等は全くなく,前記(イ)のとおり,P3においても,を
検討していること
イなお,前記認定事実によれば,本件発明7の特許出願依頼書(乙56
添付資料18)には,発明者の1人として,原告の氏名が記載されてい
て,原告が発明者の1人として登録されているが,前記アで認定した事
実に照らすと,上記記載があるからといって,それのみで原告が本件発
明7の発明者であると推認することはできない。
ウ以上によれば,原告が本件発明7の特徴部分を着想したということが
できず,原告を本件発明7の発明者と認めることはできない。
9争点2-2(本件発明6に係る対価請求権の消滅時効,争点2-3(本件)
発明6に係る対価請求の権利濫用)について
(1)消滅時効の主張について
,,被告は本件発明6に係る対価請求権が時効消滅している旨主張するが
本件発明6は平成元年3月3日特許出願されているところ(甲6,昭和)
62年4月1日に実施された被告規程(乙7)の経過規定には経過措置と
して「1本規程は,昭和62年4月1日以降に出願された発明に適用,
する」と規定しているから,本件発明6は被告規程(乙7)の適用を受。
ける。
もっとも,経過措置2には「本規程は,昭和62年4月1日時点で既,
に実施されている技術のノウハウを保護するためになす出願に関しては,
適用しないものとする」と規定されているが,前記認定事実によれば,。
本件発明6が昭和62年4月1日時点で既に実施されている技術のノウハ
ウを保護するために特許出願されたとは認め難く,また,前記認定のとお
り,被告は,平成15年10月,本件特許6を含む複数の特許につき,被
告規程に定める職務発明実施補償に該当するとして,合計金65万500
0円(乙6)の実施補償金を原告に支給していることに照らすと,本件発
明6は被告規程(乙7)の適用を受けると認めるのが相当である。
そして,被告規程によれば,本件発明6の実施補償金請求権の最初の支
払期日は登録の翌日から満5年の経過した平成14年11月1日の翌年平
成15年3月末日に締め切られ,平成15年7月の給与支払日に支給され
るから(乙4の16条2項,その消滅時効はこの時から進行すべきこと)
となる。そうすると,原告が本件訴訟を提起した平成17年11月22日
までに,原告の権利につき消滅時効期間が経過していないことは明らかで
ある。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(2)権利濫用の主張について
被告は,10年以上も前になされた発明につき防衛目的で特許出願がな
され,その出願後15年以上経過した現段階で補償金請求権を主張するこ
とは,権利濫用に当たる旨主張するが,補償金請求権は発明者に認められ
た権利であるから,被告主張の事情が認められるからといって,補償金請
求権の行使が権利濫用に当たるとは認められないし,他に原告の請求が権
利濫用になることを基礎づける事情は本件全証拠によっても認めることが
できない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
10争点3(本件発明3の実施)について
(1)原告は,本件発明3を実施して,被告製品が製造されていると主張し,
被告はこれを争っている。
本件発明3の特許請求の範囲【請求項1】は以下のとおり分説すること
ができ,これを前提に各構成要件について検討することとする。
ア一般式(Ⅰ)で表されるDBS類において,
イその位置異性体が0.2重量%以下に低減された当該DBS類の精製
物に対し,
ウアルカリ金属化合物及び
エアルカリ性有機アミン化合物を配合してなることを特徴とする
オ安定化されたDBS類組成物。
(2)被告製品
被告製品に(争いがない)。
ゲルオールMD
ゲルオールMD-LM30
ゲルオールDH
(3)構成要件イの異性体重量について
ア原告は,研究経過報告(2000年3月版(甲62)に収載された)
P1グループ作成の
であろうことを考えると,この表の結果のみから
直ちに異性体量が0.2%以下であると断定することはできず,他に,
被告製品の位置異性体量が0.2重量%以下であることを認めるに足り
る証拠はない。
イまた,P4及びP3連名の平成12年3月31日付研究報告書(研-
2931
て,同様の記載があるが,前記アと同様のことがいえる。
ウさらに,前記アの研究経過報告(甲62)に収載されたP1グループ
作成の
これ
らの合計は99.9%となり,その残りは計算上0.1%となる。しか
し,上記結果についても,前記アと同様のことがいえるし,これと異な
るロットについては,そもそも,位置異性体を含む「その他」は,計算
上も0.2重量%以下にはならない。
(4)構成要件イの精製物について
被告は,被告製品にはDBS類の「精製物」が使用されていないと主張
するが,その理由は,異性体を溶解している有機溶剤とDBS類とを濾過
することにより精製されるべきであるところ,
精製物とはいえないというものである。
しかし,本件発明の特許請求の範囲には「精製物」としか記載されてお
らず「精製物」とは「精製された物」であり,を除くもの,
でないことは明らかであるから,被告製品はDBSの「精製物」を使用し
ていると認められる。
(5)構成要件エについて
原告は,被告製品に使
用されている
は「アルカリ性有機アミン化合物」に当たらると主
張する。
これら
,,「」はアルカリ性物質であるから一般的なアルカリ性有機アミン化合物
の一種であるとはいえる。
しかし,は,本件明細書3に
おいて「アルカリ性有機アミン化合物」としては例示されておらず,逆,
に「アルカリ金属化合物」として例示されている上,実施例3において,
を使用したことが記載されている。
以上によれば,は「アルカリ性の有機アミン」,
,「」の一種ではあるものの本件発明3でいうアルカリ性有機アミン化合物
とはいうことはできず,は,
「アルカリ性有機アミン化合物」を添加されていない。
なお,
(前記(2)。)
(6)結論
アゲルオールMD及びゲルオールMD-LM30について
位置異性体の量が「0.2重量%以下」であるとはいえず,
本件発明3を実施し
ているということはできない。
イゲルオールDHについて
位置異性体の量が「0.2重量%以下」であるとはいえないから,本
件発明3を実施しているということはできない。
11相当の対価額の算定方法
(1)本件発明1に係る対価請求権は,前記2のとおり,時効消滅していると
認められ,本件発明7については,前記8のとおり,原告は発明者である
とは認められないから,以下においては,本件発明2ないし6についての
相当対価額の算定方法を検討する。
(2)本件発明2ないし6は,原告が発明者の1人である職務発明であるとこ
ろ,被告が,これらの発明につき,特許を受ける権利の譲渡を受け,その
特許出願をし,特許権の設定登録を受けたこと,被告は,平成15年10
月,本件発明2ないし4及び6につき,被告規程に定める出願補償金,登
録補償金,実施補償金として,合計金71万3800円(上記補償金には
本件発明7に係る補償金を含む)を原告に支給したことは,前提事実。
(2),(5)のとおりである。
(3)原告は,特許を受ける権利について,譲渡による承継時点で被告に対す
る相当の対価の請求権を取得したものであり,相当の対価の額を定めるに
当たっては,改正前特許法35条4項が適用されるところ(平成16年法
律第79号附則2条1項,勤務規則等により職務発明について特許を受)
ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に,使用
者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合において
も,これによる対価の額が改正前特許法35条4項の規定に従って定めら
れる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する
額に相当する対価の支払を求めることができると解するのが相当である
(最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁
参照。)
そして,改正前特許法35条4項に規定する「その発明により使用者等
が受けるべき利益の額」とは,使用者等が当該職務発明に係る特許権につ
いて無償の通常実施権を取得する(同条1項)ことから,使用者等が当該
発明を実施することによって得られる利益の額ではなく,当該発明を実施
する権利を独占することによって得られる利益(独占の利益)の額と解す
。,べきである本件のように自らが当該発明を実施している場合においては
これにより実際に得た売上高から通常実施権を行使することにより得られ
るであろう売上高を控除したもの(超過売上高)に基づく収益をもって,
「その発明により使用者等が受けるべき利益」というべきである。
この超過売上高に基づく収益の具体的な算出方法としては,本件におい
ては,当事者双方の主張,立証の内容にかんがみ,当該発明を他人に実施
許諾したと仮想し,その場合に得られるであろう実施料収入を算定すると
いう方法によるのが相当であると認められる。
また,特許を受ける権利自体が将来特許登録されるか否か不確実な権利
である上,当該発明により使用者等が将来得ることができる利益を,その
承継時において算定することが極めて困難であることにかんがみれば,そ
の発明により使用者等が実際に受けた利益の額に基づいて「その発明に,
より使用者等が受けるべき利益の額」を算定することが許されるべきであ
る。
(4)対象となる時期について
ア使用者等がいわゆる独占の利益を受けることができる期間
職務発明について,特許を受ける権利を使用者等が承継し,特許出願
をした場合,これにより使用者等がいわゆる独占の利益を受けることが
できる期間は,特許の出願公開時から,特許権存続期間満了時までであ
ると解すべきである。
イ特許権消滅の影響
本件では,前提事実(2)のとおり,本件特許権2につき,平成19年
11月15日,本件特許権3につき,平成20年3月1日,本件特許権
4につき,平成20年1月31日,本件特許権5につき,平成19年1
0月4日,本件特許権6につき,平成20年10月31日,それぞれ,
特許権を消滅させている。
使用者等が,特許を受ける権利を承継した後に実際に受けた利益の額
に基づいて「使用者が受けるべき利益の額」を算定する場合には,承継
後の一切の事情,例えば,当該発明を実施した製品の実際の売上額の推
移のみならず,使用者等が特許権の登録を受けたことや当該特許権を放
棄したことなどの事情をすべて考慮すべきものといえる。そして,使用
者等が,当該権利を放棄するなどして消滅させた場合,以後,当該発明
の実施を独占することができなくなる一方,権利の消滅が競合他者に予
測できなかったような場合には,競合他者が当該発明を実施するに至る
までの相応の期間内,事実上,引き続き当該発明による独占の利益を受
けることが可能であること等を考慮すべきである。
本件では,前記各特許権の消滅当時,その残存期間は本件特許権2に
つき1か月未満,本件特許権3につき5か月余,本件特許権4につき7
か月余,本件特許権5につき約2年,本件特許権6につき4月余である
ことなどにかんがみれば,使用者等がいわゆる独占の利益を受けること
ができる期間は,本件特許権2,本件特許権3,本件特許権4及び本件
特許権6については,各権利存続期間満了日までとし,本件特許権5に
ついては,約6か月間と認めるのが相当である。そうすると,本件にお
いては,本件発明2ないし6について,以下の各期間において被告が特
許を受ける権利の承継を受けたことによる利益の額を算定すべきもので
ある。
また,本件特許1については,平成7年4月2日に特許権存続期間が
満了しており,特許を受ける権利の承継を受けたことによる利益を算定
するにあたっては,上記時期までの売上をもって算定することとする。
なお,その算定開始時期は,本件発明1についての対価請求権が時効消
,。滅していることから本件発明2と同じ時期から算定することとする
(ア)本件発明1
本件発明2の特許出願公開日である平成元年6月12日から,特許
権存続期間満了日である平成7年4月2日まで
(イ)本件発明2
特許出願公開日である平成元年6月12日から特許権存続期間満了
日である平成19年12月7日まで
(ウ)本件発明3
特許出願公開日である平成2年2月28日から特許権存続期間満了
日である平成20年8月24日まで
(エ)本件発明4
特許出願公開日である平成2年8月16日から特許権存続期間満了
日である平成20年9月16日まで
(オ)本件発明5
特許出願公開日である平成3年5月22日から平成20年3月31
日まで
(カ)本件発明6
特許出願公開日である平成2年9月13日から特許権存続期間満了
日である平成21年3月3日まで
(キ)本件発明7
特許出願公開日である平成11年4月15日から特許権存続期間満
了日である平成30年7月7日まで
(5)以上のようにして,使用者等が受けるべき利益(独占の利益)の額を認
定した上で,次に,当該発明がされるに至った経緯等において当該発明者
が果たした役割を使用者及び他の発明者との関係における貢献度として数
値化,割合化して認定し,これを上記利益の額に乗じて,職務発明の相当
対価の額を算定することとなる。
なお,後記12のとおり,被告商品毎に超過売上高が異なり,また,商
品毎に実施されている発明の組合せも異なる。そこで,相当の対価を算定
,,,するにあたっては便宜上被告が受けるべき利益を商品毎に算定した上
発明毎にその貢献度に応じた対価を計算し,これを再び合算して,相当の
対価とみなすこととする。
12争点4-1(被告が受けるべき利益の額)について
(1)本件発明1,2,4ないし7の実施品について
本件各発明のうち本件発明3を実施していないことについては,前記1
0のとおりであり,その余の本件各発明の実施については,次のとおりで
ある(弁論の全趣旨。)
アゲルオールMD
ゲルオールMDは,本件発明1の使用を前提として販売されており,
その製造に当たって,本件発明2及び6に係る方法が使用されている。
イゲルオールDH
ゲルオールDHは,本件発明4の構成からなり,その製造にあたって
は,本件発明2,6のほか,本件発明5に係る方法が使用されている。
ウゲルオールMD-LM30
ゲルオールMD-LM30は,本件発明7の構成からなり,その製造
にあたっては,本件発明2,6に係る方法が使用されている。
(2)ゲルオールMD,ゲルオールDH及びゲルオールMD-LM30につい
ての各特許の独占の利益の対象期間について
本件特許1,2,4ないし7の独占の利益の対象期間は,前記11(4)
のとおりであり,また,各実施品と本件各発明との関係は,前記(1)のと
おりであるから,各実施品の独占の利益の対象期間及び特許の内訳は,次
のとおりとなる。
アゲルオールMDの独占の利益の対象期間
平成元年6月12日から平成21年3月3日まで
内訳
(ア)平成元年6月12日∼平成2年9月12日本件特許1,2
(イ)平成2年9月13日∼平成7年4月2日本件特許1,2,6
(ウ)平成7年4月3日∼平成19年12月7日本件特許2,6
(エ)平成19年12月8日∼平成21年3月3日本件特許6
イゲルオールDHの独占の利益の対象期間
平成元年6月12日から平成21年3月3日まで
内訳
(ア)平成元年6月12日∼平成2年8月15日本件特許2
(イ)平成2年8月16日∼平成2年9月12日本件特許2,4
(ウ)平成2年9月13日∼平成3年5月21日本件特許2,4,6
(エ)平成3年5月22日∼平成19年12月7日本件特許2,4,5,6
(オ)平成19年12月8日∼平成20年3月31日本件特許4,5,6
(カ)平成20年4月1日∼平成20年9月16日本件特許4,6
(キ)平成20年9月17日∼平成21年3月3日本件特許6
ウゲルオールMD-LM30の独占の利益の対象期間
平成11年4月15日∼平成30年7月7日まで
内訳
(ア)平成11年4月15日∼平成19年12月7日本件特許2,6,7
(イ)平成19年12月8日∼平成21年3月3日本件特許6,7
(ウ)平成21年3月4日∼平成30年7月7日本件特許7
(3)本件発明1,2,4ないし7の実施品の売上高について
アゲルオールMDの売上高
証拠(乙15,193)及び弁論の全趣旨によれば,ゲルオールMD
の昭和56年12月から平成20年9月までの売上高は別表1のとおり
であり,累計では131億2057万2098円(116期を除く)。
である。
,,,ゲルオールMDの本件特許126による独占の利益の対象期間は
前記(2)アのとおり,平成元年6月12日から平成21年3月3日まで
であるところ(本件特許1については,原告の対価請求権は時効消滅し
ているので,ここでは,本件特許2の公開日である平成元年6月12日
から起算することとする,この期間を含む営業年度の売上高は別表。)
2のとおりであり,累計では121億7246万3940円となる(な
お,137期については,上半期の売上高から全期の売上高を推定し
た。。)
イゲルオールDHの売上高
証拠(乙15,193)及び弁論の全趣旨によれば,ゲルオールDH
の平成元年4月から平成20年9月までの売上高は別表1のとおりであ
り,累計では42億5767万1382円である。
ゲルオールDHの本件特許2,4,5,6による独占の利益の対象期
間は,前記(2)イのとおり,平成元年6月12日から平成21年3月3
日までであるから,この期間を含む営業年度の売上高は別表3のとおり
であり,累計では42億6266万3382円となる(なお,137期
については,上半期の売上高から全期の売上高を推定した。。)
ウゲルオールMD-LM30の売上高
証拠乙15193及び弁論の全趣旨によればゲルオールMD-(,),
LM30の平成11年4月から平成20年9月までの売上高は別表1の
とおりであり,累計では32億6074万4428円である。
ゲルオールMD-LM30の独占の利益の対象期間は,前記(2)ウの
とおり,平成11年4月15日から平成30年7月7日までであるが,
前記8のとおり,原告は本件発明7の発明者とは認められないので,前
記(2)ウのとおり,本件特許権6の存続期間満了日である平成21年3
月3日までの売上高を基礎にすれば足りる。この期間を含む営業年度の
売上高は別表4のとおりであり,累計では33億8278万8128円
となる(なお,137期については,上半期の売上高から全期の売上高
を推定した。。)
(4)超過売上高の割合について
ア超過売上高の割合の認定方法
本件においては,前記11(3)のとおり,使用者等の独占の利益を算
定するため,使用者等が競合他者に特許権の実施を許諾したと仮想する
方法によるところ,そのような方法において超過売上高の割合を認定す
るには,使用者等が,当該発明を用いた製品を製造,販売し得る競合他
者すべてに実施許諾して(以下,この実施許諾を受けたと仮想される競
合他者を「仮想ライセンシー」という,現実に享受している独占の。)
利益をすべて捨象したものとし,自らには,通常実施権に基づいて当該
発明の実施製品を製造,販売することによって得られる利益のみが残存
する状態を仮想する必要がある。そのような仮想の下,使用者等が獲得
し得る当該発明の実施製品の売上高が同実施製品の市場全体における売
上高(使用者等による当該発明の実施製品による現実の売上高を用い
る)に占める割合がどの程度になるのかを,仮想ライセンシーのそれ。
との比較による使用者等の技術力及び営業力の程度,市場全体の規模,
性質及び動向,当該発明の実施品の性質及び内容等の諸要素に基づいて
認定することにより,使用者等が仮想ライセンシーから取得すると仮想
される実施料を算定する基礎となる超過売上高の割合を求めることが相
当であるといえる。
イ本件において超過売上高の割合を認定するための要素に関し,以下の
事実が認められる。
(ア)国内におけるプラスチック添加剤市場の状況について
証拠乙70の1・2乙183及び弁論の全趣旨によれば①(,),
プラスチック添加剤市場は縮小基調で推移していること②近年平,(
成11年ころ,下げ止まりの感があり,平成11年は横ばいの推移)
,,,が見込まれていること③原告がトップシェアを維持しているが
原告の本件特許1の特許権存続期間が満了した平成7年4月2日ころ
以降,各メーカーが大挙して参入し,原告のシェアは平成6年をピー
クに,年々縮小する傾向にあること,④透明化核剤は,以前は1㎏
当たり6000円台の時期もあったが,不況による需要減少や,参入
メーカーの増加による価格競争の結果,3000円台と半値近くまで
低下していることの各事実が認められる。
(イ)国内における原告の市場占有率について
証拠(乙70の1・2,乙183)及び弁論の全趣旨によれば,被
告の透明核剤(造核剤)における被告のシェア(国内)は,本件特許
1の特許権存続期間(満了日:平成7年4月2日)の満了前は,ほぼ
独占状態であったが,上記期間満了後,競合他社が透明核剤の製造に
参入し,平成11年は55.7%,平成12年は57.1%,平成13
年は54.7%,平成14年は50.0%であることの各事実が認めら
れる。
ちなみに,証拠(乙181)及び弁論の全趣旨によれば,世界にお
ける核剤メーカーの市場占有率は,平成9年において,
が認められる。
(ウ)ゲルオールDHの販売中止
被告は,平成15年7月14日,その顧客である
経営合理化に伴う製品構成の統廃合実施により,同年
10月末日で,ゲルオールDHの製造販売を中止する旨伝達した(乙
130。もっとも,その後もゲルオールDHの在庫を他社に販売す)
ることはあった(乙193。)
ウ上記イに,前記(3)の売上高の推移を総合すると,被告各製品の超過
売上高は,次のとおり認定するのが相当である。
(ア)ゲルオールMD
ゲルオールMDについては,前記(3)アのとおり,
本件特許1の特許権存続期間が満
了した平成7年4月2日ころまでは売上げが増加の一途をたどってい
たにもかかわらず,同日ころ以降は,
(別表1
参照。)
以上の事情を総合すると,ゲルオールMDについては,本件特許1
の特許権存続期間の満了の前後により売上高が大きく変動しており,
本件特許1のゲルオールMDの売上に対する排他的効力の大きいこと
を示すものであり後記(5)参照その存続期間中の超過売上高本(),(
件特許1,2,6によるゲルオールMDの超過売上高)は40%,そ
の存続期間満了後の超過売上高(本件特許2,6によるゲルオールM
Dの超過売上高)は20%と認めるのが相当である(いずれの期間に
おいても,特許の公開日や特許権消滅時期が異なる特許が混在してい
るが,別表2のとおり,対価の算定をするにあたり,便宜上,それぞ
れの特許毎に計算する。その結果,超過売上高の割合も特許毎に割り
振られることになるので,その合計割合は,前記(2)アの期間に応じ
て変化することになる。例えば,上記40%は,本件特許1,2,6
がいずれも排他的効力を有している前記(2)ア(イ)の期間における数
値である。このことは,むしろ,各特許の排他的効力に対応した数値
と考える。。)
(イ)ゲルオールDHについて
ゲルオールDHについては,前記(3)イのとおり,
前記イ(ウ)のとお
り,製造を中止するに至っている。
123期をピークに減少傾向に転じた理由については,前記(ア)の
とおり,本件特許1の特許権存続期間が満了した結果,競合他社の参
入があり,その結果,ゲルオールMDの姉妹品であるゲルオールDH
のシェアも減少したことによると考える。
このように,ゲルオールDHの売上は,ゲルオールMDと同様の経
緯をたどっているが,ゲルオールDHは,本件発明1を実施していな
いので,上記の売上高の変動はゲルオールDHにおいて実施している
本件発明2,4,5及び6に係る特許の排他的効力とは関係なく,本
件特許1の特許権存続期間の満了日前後の売上高の変動にかかわら
ず,ゲルオールDHの超過売上高を算定すべきであると考える。
そして,ゲルオールMD-LM30の開発,製造開始に伴い,ゲル
オールDHの製造を中止していることを併せ考えると(前記イ(ウ)参
照,その超過売上高は全期間を通じ20%と認めるのが相当である)
(なお,前記(2)イの期間に応じて,20%を下回る時期のあること
については,前記(ア)のところで述べたのと同様である。。)
(ウ)ゲルオールMD-LM30について
ゲルオールMD-LM30については,前記(3)ウのとおり,
一方,ゲルオールMD-LM3
0は,ゲルオールMDに比べ,本件発明7を実施している改良型であ
ることなどを考慮すると,本件発明2,6,7を実施したことによる
超過売上高は,本件特許1の特許権存続期間満了後のゲルオールMD
,(,の超過売上高に比べやや高い25%と認めるのが相当であるなお
前記(2)ウの期間に応じて,25%を下回る時期のあることについて
は,前記(ア)のところで述べたのと同様である。。)
(5)本件各発明の貢献度について
ア本件では,前記(1)のとおり,複数の特許が使用されて複数の実施品
が販売されているから,前記11(5)で述べたとおり,本件各発明の貢
献率を実施品毎に検討する。
(ア)ゲルオールMDについて
ゲルオールMDを製造するにあたり使用している発明は,本件発明
1,2,6であるところ,前記(4)イ,ウのとおり,本件発明1の貢
献度が高く,各発明間の貢献度は少なくとも50%を下らないと認め
られる。
一方,本件発明2の特徴は,前記3(1)のとおりであり,その効果
は,アセタール類の製造において選択率,収率を高めることにある。
他方,本件発明6の特徴は,前記7(1)のとおりであり,その効果
,,は短時間に効率よく目的のアセタール類の製造ができることにあり
本件発明2との間で,貢献度の違いがどの程度あるかは不明であり,
同等の貢献度であると推認される。
,,以上の事情を総合すれば各発明間の貢献度は本件発明1は50%
本件発明2及び6は各25%であると認めるのが相当である。
(イ)ゲルオールDHについて
ゲルオールDHを製造するにあたり使用している本件発明2,4,
5,6の内容を比較すると,次のとおりである。
本件発明2,6の特徴と効果は前記(ア)のとおりである。
本件発明4の特徴は前記5(1)のとおりであり,その効果は,結晶
樹脂組成物の加工性を改良し,同時に透明性,熱的・力学的性質を改
良することにある。
,,,また本件発明5の特徴は前記6(1)のとおりでありその効果は
,。着色を防止し臭気を抑えたジアセタールの収率を高めることにある
以上によると,ゲルオールDHの物的性質に関する本件特許4の貢
,。献度がもっとも高く少なくとも40%を下らないものと認められる
一方,その余の特許については,いずれもジアセタールの収率をよ
くするというもので,その貢献度の違いは具体的には明らかとはいえ
ない。
これらの事情を総合すれば,各発明間の貢献度は,本件発明4は4
0%であり,他の本件発明2,5及び6は各20%であると認めるの
が相当である。
(ウ)ゲルオールMD-LM30について
ゲルオールMD-LM30を製造するにあたり使用している本件発
明2,6及び7の内容を比較すると次のとおりである。
本件発明2,6の特徴と効果は前記(ア)のとおりである。
本件発明7の特徴は前記8(1)のとおりであり,その効果は,ジア
セタール組成物の融点を低下させ,溶解性や粉体流動性を向上させる
ことにある。
以上によると,ゲルオールMD-LM30の物的性質に関する本件
,。特許7の貢献度がもっとも高く50%を下らないものと認められる
一方,その余の特許については,前記(ア)のとおり,貢献度の違い
がどの程度あるかは不明であり,同等の貢献度であると推認される。
,,以上の事情を総合すれば各発明間の貢献度は本件発明7は50%
本件発明2及び6は各25%であると認めるのが相当である。
イ本件訴外特許について
被告は本件訴外特許がゲルオールMDゲルオールDH及びゲルオー,,
ルMD-LM30の売上げに貢献している旨主張する。
前記11(3)のとおり,改正前特許法35条4項に規定する「その発
明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,当該発明を実施する権
利を独占することによって得られる利益(独占の利益)の額と解すべき
であるところ,本件訴外特許は,平成11年1月5日に出願され,平成
12年7月18日に出願公開されているが(乙14,前記(3)のゲル)
オールMD,ゲルオールDH及びゲルオールMD-LM30の各売上げ
の変遷に照らし,本件訴外特許の貢献は必ずしも明らかとはいえない。
もっとも,本件訴外特許に係る乙14によると,その出願の願書に添
付された明細書には,次の記載があることが認められる。
「特許請求の範囲】【
【請求項1】芳香族アルデヒドと5価以上の多価アルコールとを酸触媒
の存在下に縮合させ,次いで水酸化アルカリ等により中和し,水洗及び
乾燥の各工程を得て一般式(1)式の内容は省略で表されるジアセター()
ル類を製造するに際し,縮合反応中において発生する粒状物を中和工程
前/又は中和工程中に粉砕することを特徴とするジアセタール類の製造
方法。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,この方法により当該ジ
アセタール類を製造した場合,その縮合反応中において粒状物が多数発
生する結果,製品中の収率が十分ではなく,さらには,この粒状物を含
んだまま反応生成物を中和,水洗後,乾燥した場合,その乾燥工程中に
目的とするジアセタールの純度が低下し,結果として約95∼97%程
度のものしか得られない傾向が認められた。
【0005】本発明者らは,係るジアセタール類の高濃度法による製造
方法において,上記問題点を解消し,より工業的に優れた製造方法を確
立すべく鋭意検討の結果,当該粒状物中には未反応原料並びに酸触媒が
残存し,これらのものは通常の中和,水洗工程では充分に除去されず,
特に酸触媒は,後に続く乾燥工程において目的とするジアセタール類の
分解を惹起し,製品の純度や収率の低下を来していること,従って,係
る粒状物を低減せしめることにより所定の目的が達せられることを見出
し,この知見に基づいて本発明を完成するに至った」。
これによると,本件訴外特許発明の貢献度を無視することはできず,
130期(平成13年度)以降,一定程度の貢献があり,その結果,他
の発明の貢献度が相対的に一定程度低くなったとして扱うのが相当であ
る。そして,その割合は,本件訴外特許発明の実施の前後で顕著な売上
高の違いがあるとは思えないことから,2割程度相対的に低くすること
で足りると考える。
(6)実施料率について
前記(1)のとおり,複数の特許が使用されて複数の実施品が販売されて
おり,また,実施品毎に特許の組み合わせも異なるので,前記11(5)で
述べたとおり,便宜上,実施料率の算定についても,実施品毎に,それぞ
れの特許の組み合わせによる実施料率を算定していくこととする。
証拠(乙53,193)及び弁論の全趣旨によれば,被告が
被告が乙13の特許その他6
件の特許について,
が認められ,このことに
加え,前記(2)及び(3)で認定した諸事情,特に,本件各発明の貢献度の
程度を考慮すると,本件特許1,2,4ないし7の実施料率は,被告各製
品毎に算定すると,次のとおり認めるのが相当である。
なお,いずれの特許についても,訴外特許が実施されており,これも含
めて仮想実施料率を算定すべきであるが,訴外特許の公開日である平成1
2年7月18日までの間に本件特許2,4,5,6は相当程度の期間が経
過しているので,特に仮想実施料率を訴外特許が加わることにより調整す
る必要はないと考える。
アゲルオールMD(本件特許1,2,6)
本件特許1の特許権存続期間満了日まで3%
同満了日の経過後2%
(なお,本件特許1,2,6の特許権存続期間に応じ,前記(5)ア(ア)
で認定したそれぞれの貢献度による低減がある)。
イゲルオールDH(本件特許2,4,5,6)
2.5%
(なお,本件特許2,4,5,6の特許権存続期間に応じ,前記(5)ア
(イ)で認定したそれぞれの貢献度による低減がある)。
ウゲルオールMD-LM30(本件特許2,6,7)
3%
(なお,本件特許2,6,7の特許権存続期間に応じ,前記(5)ア(ウ)
で認定したそれぞれの貢献度による低減がある)。
13争点4-2(被告の本件各発明に対する貢献の程度)について
(1)改正前特許法35条4項は,従業者等が支払を受ける対価の額は「そ,
の発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮して定めるもの
と規定するが,当該対価の額を使用者等が実際に受けた利益に基づいて算
定する場合には,この使用者等が貢献した程度に,使用者等がその発明が
されるについて貢献した事情のほか,使用者等がその発明により利益を受
けるについて貢献した事情等も含まれるものと解するのが相当である。
(2)事実認定
証拠(乙12の1・2,乙80の1・2,乙124,155,160,
172)及び弁論の全趣旨によれば,本件発明の承継に係る相当の対価の
額を算定する際に考慮すべき被告等の貢献度に関し,次の事実を認めるこ
とができる。
ア被告は,昭和42年ころから有機ゲル化剤事業を計画し,技術開発を
,,経て事業として採算が取れるようにするまでに多額の資金を投入して
研究者を育成し研究設備や製造設備等を整備して研究環境等をサポー,,
トして,多数の発明を特許化した。さらに,発明を実用化し,被告製品
の売り上げを向上させた。また,被告は,
を投資している(乙124。)
イ被告は,昭和42年4月1日から2年間,原告を,被告の制度(乙1
2)に基づき,名古屋大学大学院工学研究科に在籍,修学させており,
この間,被告は,受験料,入学金,授業料,交通費その他修学に必要な
一切の費用を負担したほか,修学中は出向扱いとし,一般従業員と同様
の賃金等を支給したこと,原告は,京都大学から博士号を取得している
が,博士号取得にあたり被告から研究の支援を得ており(乙80の1,
2,博士号の取得は,本件各発明に係る特許出願後の事情であるが,)
特許発明の研究に対する支援が博士号に結実したものと推認することが
できること等が認められる。
(3)検討
以上の諸事情によれば,本件各発明を具現化するために開発及びノウハ
ウの蓄積,営業活動,サポート体制等に関し,資金,設備及び人材の点に
おいて,被告に多大な貢献があったことは明らかであり,また,本件各発
明間に,被告の貢献の度合に特段の違いを認めることはできず,本件各発
明における使用者等の貢献度は,いずれの発明についても92%と認める
のが相当である。
14争点4-3(共同発明者間における貢献の程度)について
(1)本件発明2について
前記3のとおり,P6は,本件発明2の特徴的部分の完成に創作的に寄
与し,P6が本件研究から離れた後,原告が,1人で研究を続け,連続法
のモデルとして行われた知見を回分法に適用し,本件発明2を完成させて
いるから,本件発明2については,原告とP6の貢献の程度につき優劣を
付けることはできないというべきである。そうすると,本件発明2につい
て,共同発明者である原告及びP6の貢献度割合は,原告が50%,P6
が50%であると認めるのが相当であり,この認定を覆すに足りる証拠は
ない。
(2)本件発明4について
前記5のとおり,原告とP10は,実験内容を協議して決め,その決定に
従い,本件発明4を完成させていること,原告はP10の上司として指導に
当たっていたこと等に照らすと,本件発明4について,共同発明者である
原告及びP10の貢献度割合は,原告が70%,P10が30%であると認め
るのが相当であり,この認定を覆すに足りる証拠はない。
(3)本件発明5について
前記6のとおり,本件発明5の発明者は原告だけであるから,その貢献
度割合は,原告100%である。
(4)本件発明6について
前記7のとおり,本件発明6の発明者のうち,P14が上司としての指導
的役割を果たしていたことが窺える。しかし,その一方で,原告は,議論
及び検討を総括する役割を果たしていたことが認められ,原告の経歴(前
),,,提事実(1)ア参照や他の発明における貢献内容をも総合すると当時
原告は,本件発明6に関する研究において,中心的な役割を占めていたこ
とが推認される。
本件発明6のもう1人の発明者であるP5の貢献内容(前記7(5)エ)
を併せ考慮すると,本件発明6については,共同発明者である原告,P14
及びP5の貢献度割合は,原告が50%,P14及びP5が合わせて50%
であると認めるのが相当であり,この認定を覆すに足りる証拠はない。
(5)本件発明1,3,7について
本件発明1については,前記2のとおり,原告の対価請求権が時効消滅
していること,本件発明3については,前記10のとおり,被告における
実施が認められないことから,原告の貢献割合を判断する必要はなく,ま
た,本件発明7については,前記8のとおり,原告は発明者と認めること
ができず,その貢献割合は0となる。
15争点4-4(相当の対価の額)について
原告が受けるべき相当対価の額は,前記11ないし14において検討した
とおり,独占の利益の対象期間の売上高に,超過売上高の割合を乗じ,さら
に,本件発明の実施料率を乗じて,独占の利益を算定し,これに,共同発明
者間の原告の貢献割合と,使用者の貢献割合に対応する原告の貢献割合とを
乗じて算定することとなる。
(1)ゲルオールMDについて
前記12(5)のとおり,ゲルオールMDの独占性に対する貢献度は,本
件特許1が50%,本件特許2及び6が各25%であると認められるとこ
ろ,前記12(2)のとおり,本件特許1の貢献は,平成元年6月12日か
ら平成7年4月2日までであるので,この期間とその余の期間に分けて,
算出し,さらに,平成13年4月1日以降は,本件訴外特許発明の実施に
よる調整をする。
そうすると,計算式は,次のとおりとなり,その計算結果は,別表2の
とおり,合計213万6213円となる。
ア平成元年6月12日∼平成7年4月2日
〔計算式〕本件特許1:本件特許2:本件特許6
各期の売上高×0.4(超過売上高)×0.03(仮想実施料率)×特許毎
の貢献度(0.5:0.25:0.25)×共同発明者間における原告の貢献(0:
0.5:0.5)×被告の貢献に対応する原告の貢献(0.08)
イ平成7年4月3日∼平成13年3月31日
〔計算式〕本件特許2:本件特許6
各期の売上高×0.2(超過売上高)×0.02(仮想実施料率)×特許毎
の貢献度(0.5:0.5)×共同発明者間における原告の貢献(0.5:0.5)
×被告との関係での原告の貢献(0.08)
ウ平成13年4月1日∼平成21年3月3日
〔計算式〕本件特許2:本件特許6
各期の売上高×0.2(超過売上高)×0.02(仮想実施料率)×特許毎
の貢献度(0.5:0.5)×共同発明者間における原告の貢献(0.5:0.5)
×被告との関係での原告の貢献(0.08)×0.8(訴外特許による調整)
(2)ゲルオールDHについて
前記12(5)のとおり,ゲルオールDHの独占性に対する貢献度は,本
,,。件特許4が40%本件特許25及び6が各20%であると認められる
これに,前記(1)と同様,本件訴外特許発明の実施による調整をし,本
,,,,件各発明毎に算定すると計算式は次のとおりとなりその計算結果は
別表3のとおり,合計111万2195円となる。
ア平成元年6月12日∼平成13年3月31日
〔計算式〕本件特許2:本件特許4:本件特許5:本件特許6
各期の売上高×0.3(超過売上高)×0.25(仮想実施料率)×特許毎
の貢献度0.2:0.4:0.2:0.2×共同発明者間における原告の貢献0.()(
5:0.7:1.0:0.5)×被告の貢献に対応する原告の貢献(0.08)
イ平成13年4月1日∼平成21年3月3日
〔計算式〕本件特許2:本件特許4:本件特許5:本件特許6
各期の売上高×0.3(超過売上高)×0.25(仮想実施料率)×特許毎
の貢献度0.2:0.4:0.2:0.2×共同発明者間における原告の貢献0.()(
5:0.7:1.0:0.5)×被告の貢献に対応する原告の貢献(0.08)×0.8
(訴外特許による調整)
(3)ゲルオールMD-LM30について
前記12(5)のとおり,ゲルオールMD-LM30の独占性に対する貢
献度は,本件特許7が50%であり,他の本件特許2及び6が各25%で
あると認められる。
これに,前記(1)と同様,本件訴外特許発明の実施による調整をし,本
,,,,件各発明毎に算定すると計算式は次のとおりとなりその計算結果は
別表4のとおり,合計40万1656円となる。
ア平成元年6月12日∼平成13年3月31日
〔計算式〕本件特許2:本件特許4:本件特許5:本件特許6
各期の売上高×0.3(超過売上高)×0.25(仮想実施料率)×特許毎
の貢献度0.2:0.4:0.2:0.2×共同発明者間における原告の貢献0.()(
5:0.7:1.0:0.5)×被告の貢献に対応する原告の貢献(0.08)
イ平成13年4月1日∼平成21年3月3日
〔計算式〕本件特許2:本件特許4:本件特許5:本件特許6
各期の売上高×0.3(超過売上高)×0.25(仮想実施料率)×特許毎
の貢献度0.2:0.4:0.2:0.2×共同発明者間における原告の貢献0.()(
5:0.7:1.0:0.5)×被告の貢献に対応する原告の貢献(0.08)×0.8
(訴外特許による調整)
(4)合計
,,,以上によると原告の職務発明である本件発明24ないし6について
特許を受ける権利の譲渡に対する相当の対価は,365万0064円とな
る。
〔計算式〕2,136,213+1,112,195+401,656=3,650,064
(5)結論
前記(4)の金額から,既払金を控除すべきところ,前提事実(5)のとお
り,原告は,被告から,出願補償金,登録補償金,職務発明実施補償金と
して合計71万3800円の支給を受けている。
一方,前記10のとおり,被告は本件発明3を実施していると認めるこ
とができないので,控除すべき既払額は,譲渡の対象となる本件発明2,
4ないし6に関して支給された補償金に限られるべきである。
ところで,被告は,上記実施補償金(65万5000円)の内訳につい
て,錯誤により,本件発明3の職務発明実施補償金として15万円を計上
したと主張するところ(被告第2準備書面2頁以下,原告に有利な主張)
として,これに従うこととする。また,前提事実(5)のとおり,本件発明
3の出願補償金として2500円,登録補償金として1万円が支給されて
いるので,上記相当の対価から控除されるべき支給額は55万1300円
であり,その結果,被告から原告に対し支払われるべき相当の対価の未払
額は,309万8764円となる。
〔計算式〕3,650,064−(713,800−150,000−2,500−10,000)=3,098,764
第5結論
以上の次第で,原告の請求は,309万8764円及びこれに対する訴状
送達の日の翌日である平成17年12月13日から支払済みに至るまで民法
所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから
(,,なお改正前特許法35条3項に基づく相当対価請求権は法定債権であり
商行為によって生じたものではないので,これに対する遅延損害金は,民法
所定の年5%の割合による,これを認容し,その余は理由がないから棄。)
却することとして,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条を,仮
執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判
決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官山田陽三
裁判官島村雅之
裁判官北岡裕章
別紙
特許権目録
1特許権
発明の名称ポリプロピレンの改質法
特許番号第1023186号
出願日昭和52年3月22日
公開日昭和53年10月13日
登録日昭和55年11月28日
発明者(特許公報に記載された者)原告,P2
特許請求の範囲
結晶性ポリプロピレン又はその共重合体に1・3,2・4-ジ(メチル
ベンジリデン)ソルビトールを配合し,加熱成形することを特徴とするポ
リプロピレンの改質法
2特許権
発明の名称アセタール類の製造方法
特許番号第2121967号
出願日昭和62年12月7日
公開日平成元年6月12日
登録日平成8年12月20日
発明者(特許公報に記載された者)原告,P6
特許請求の範囲
下記一般式(Ⅰ)で表されるアセタール類を製造するに際し,5価以上の
多価アルコールと芳香族アルデヒド類と低級アルコール及び要すれば酸触
媒からなる均一溶液若しくは懸濁液を連続的に又は間欠的に仕込み,反応
缶内の内容物の容量を増加させつつ反応することを特徴とするアセタール
類の製造方法。
[式中,X,X'は同一又は異なって,水素原子,炭素数1∼4のアルキ
ル基,炭素数1∼4のアルコキシ基又はハロゲン原子を表す。m,nは夫
々1∼5の整数を表す。pは0又は1を表す]。
3特許権
発明の名称安定化されたジベンジリデンソルビトール類組成物
特許番号第2007100号
出願日昭和63年8月24日
公開日平成年2年2月28日
登録日平成8年1月11日
発明者(特許公報に記載された者)原告,P10
特許請求の範囲
一般式(Ⅰ)で表されるジベンジリデンソルビトール類において,その位
置異性体が0.2重量%以下に低減された当該ジベンジリデンソルビトー
ル類の精製物に対し,アルカリ金属化合物及びアルカリ性有機アミン化合
物を配合してなることを特徴とする安定化されたジベンジリデンソルビ
トール類組成物。
[式中,X,X'は同一又は異なって,水素原子,炭素数1∼3のアルキ
ル基,炭素数1∼3のアルコキシ基又はハロゲン原子を表す。m,nは同
一又は異なって1∼5の整数を表す。pは0又は1を表す]。
4特許権
発明の名称樹脂改質用ジアセタール組成物及び結晶性樹脂組成物
特許番号第2111253号
出願日昭和63年9月16日
公開日平成2年8月16日
登録日平成8年11月21日
発明者(特許公報に記載された者)原告,P10
特許請求の範囲
【請求項1】
(a)一般式(1)で表される少なくとも1種の化合物,(b)一般式(2)で表
される少なくとも1種の化合物及び(c)一般式(3)で表される少なくとも
1種の化合物との混合物であって,0.3≦Z≦0.8の組成からなること
を特徴とする樹脂改質用ジアセタール組成物。上記のZは次式で算出され
る値である。
Z=A/(A+B+C)
ここで,Aは(a)成分の,Bは(b)成分の,Cは(c)成分夫々の該ジア
セタール組成物中の重量割合を表す。
[,,。式中Rがメチル基のときRは水素原子を表しmは2又は3を表す12
又,Rが水素原子のときRはメチル基を表し,nは2又は3を表す。p12
は0又は1を表す]。
[式中,pは0又は1を表す]。
[式中,rは2又は3を表す。pは0又は1を表す]。
【請求項2】請求項1に記載の樹脂改質用ジアセタール組成物を含有するこ
とを特徴とする結晶性樹脂組成物。
5特許権
発明の名称ジアセタールの製造方法
特許番号第2069261号
出願日平成元年10月2日
公開日平成3年5月22日
登録日平成8年7月10日
発明者(特許公報に記載された者)原告
特許請求の範囲
芳香族アルデヒドと多価アルコールとを酸触媒の存在下,疎水性有機溶
媒中で縮合し,次いで中和し,溶媒を回収し,乾燥して一般式(1)で表わ
されるジアセタールを製造するに際し,中和以降,乾燥前のいずれかの工
程において,ジアセタール100重量部当り,一般式(2)又は一般式(3)
で表わされる脂肪族第3級アミンを0.1∼20重量部配合することを特
徴とするジアセタールの製造方法。
[式中,X,X'は,同一又は異なって,水素原子,炭素数1∼4のアル
キル基,炭素数1∼4のチオアルキル基,炭素数1∼4のアルコキシ基,
ハロゲン原子を表わす。m,nは,同一又は異なって,1∼5の整数を表
わし,pは0又は1を示す]。
[式中,R,Rは,同一又は異なって,炭素数10∼26のアルキル基12
又はアルケニル基を表わす。Rは,炭素数1∼4のアルキル基又は(C3
HO)nHを表わす。nは1∼4の整数である]。4
[式中,Rは炭素数14∼22のアルキル基を表わす。R,Rは,同456
一又は異なって,水素原子(CHO)nHを表わす。nは1∼4の整,24
数である。但し,R,Rのいずれもが水素原子であることはない]。56
6特許権
発明の名称アセタール類の製造方法
特許番号第2711884号
出願日平成元年3月3日
公開日平成2年9月13日
登録日平成9年10月31日
発明者(特許公報に記載された者)原告,P20
特許請求の範囲
疎水性有機溶媒及び低級アルコールの存在下にアルデヒド類と多価アル
コールとを脱水縮合して一般式(Ⅰ)
[式中,A,Bは同一又は異なって,(X)n若しくは(X')mの置換基を
有していてもよい,芳香環,ナフタレン環又はテトラヒドロナフタレン環
を表す。X,X'は同一又は異なって,水素原子,炭素数1∼4のアルキ
ル基,炭素数1∼4のアルコキシ基,ハロゲン原子,カルボキシル基又は
。,。]フェニル基を表すm及びnは夫々1∼5の整数pは0又は1を表す
で表されるアセタール類を製造するに際し,当該反応中において,追加の
低級アルコールを分割又は連続して仕込み,低級アルコールと水との混合
物を連続的に抜き出すことを特徴とするアセタール類の製造方法。
7特許権
発明の名称ジアセタール組成物,その製法,該組成物を含むポリオレフィ
ン用核剤,ポリオレフィン樹脂組成物及び成形体
特許番号第3458190号
出願番号特願平11-518799
出願日平成10年7月7日
国際公開日平成11年4月15日
優先日平成9年10月3日(日本)
優先日平成10年3月4日(日本)
優先日平成10年4月2日(日本)
登録日平成15年8月8日
発明者(特許公報に記載された者)原告,P4,P3,P23
特許請求の範囲
【請求項1】
(a)一般式(1)
[式中,R及びRは,同一又は異なって,水素原子,炭素数1∼4のア12
ルキル基,炭素数1∼4のアルコキシ基,炭素数1∼4のアルコキシカル
。,。ボニル基又はハロゲン原子を表すa及びbは夫々1∼5の整数を示す
cは0又は1を示す。aが2である場合,2つのR1は互いに結合してそ
,,れらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していても良く又
bが2である場合,2つのRは互いに結合してそれらが結合するベンゼ2
ン環と共にテトラリン環を形成していても良い]。
で表される少なくとも1種のジアセタール及び,
(b)中性ないし弱酸性の一価有機酸,中性ないし弱酸性の多価有機酸,中
性ないし弱酸性の多価有機酸の部分塩,硫酸エステル塩,スルホン酸塩,
リン酸エステル塩,リン酸エステル,亜リン酸エステル及び中性ないし弱
酸性の一価有機酸のアルミニウム塩からなる群から選ばれた少なくとも1
種のバインダーを含む粒状ないし粉末状ジアセタール組成物であって,該
バインダーが,ジアセタール粒子の表面のみならず,ジアセタール粒子の
内部にも均一に分布していることにより,該粒状ないし粉末状のジアセ
タール組成物の粒子中に均一に分散している組成物。
【請求項2】バインダーが,粒状ないし粉末状のジアセタール組成物を構成
するジアセタール繊維状結晶間に均一に分布している請求の範囲第1項に
記載の粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
請求項3バインダーが分子内にエーテル結合エステル結合チオエー【】,,,
テル結合,アミド結合,ハロゲン原子,アミノ基,水酸基,複素環基及び
カルボニル基からなる群から選ばれた結合又は官能基の少なくとも1種を
有していても良い,モノカルボン酸,ポリカルボン酸,ポリカルボン酸の
部分塩,炭素数1∼30の一価脂肪族アルコール及び炭素数2∼30の多
価脂肪族アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種とリン酸との
エステル,炭素数1∼30の一価脂肪族アルコール及び炭素数2∼30の
多価脂肪族アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種と亜リン酸
とのエステル,炭素数6∼30の一価芳香族アルコール及び炭素数6∼3
0の多価芳香族アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種とリン
酸とのエステル,炭素数6∼30の一価芳香族アルコール及び炭素数6∼
30の多価芳香族アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種と亜
リン酸とのエステル,タウリン,硫酸エステル塩,スルホン酸塩,リン酸
エステル塩及びモノ,ジ及びトリ(C6-C30脂肪酸)アルミニウム塩
からなる群から選ばれた少なくとも1種である請求の範囲第1項に記載の
粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項4】(Ⅰ)溶媒で膨潤された一般式(1)で表されるジアセタールを含
むスラリーを調製し(Ⅱ)上記スラリーとバインダーとを均一混合し(Ⅲ),,
(a)得られる均一混合物から溶媒を除去して乾燥物を得るか,又は,(b)
得られる均一混合物から溶媒を除去しながら造粒するか,又は,(c)上記
工程(a)で得られる乾燥物又は上記工程(b)で得られる造粒物を,分級若
しくは粉砕するか,又は,(d)上記工程(c)で得られる粉砕物を造粒若し
くは分級することにより得ることができる請求の範囲第1項に記載の粒状
ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項5】バインダーが,粒状ないし粉末状ジアセタールが該バインダー
10重量部を上記一般式(1)で表されるジアセタール90重量部に均一分
散した状態で含有する場合に,該ジアセタール自体の融点に比し,融点を
7℃以上降下させ且つ分子内にエーテル結合エステル結合チオエー,,,,
テル結合,アミド結合,ハロゲン原子,アミノ基,水酸基,複素環基及び
カルボニル基からなる群から選ばれた結合又は官能基の少なくとも1種を
有していても良い,モノカルボン酸,ポリカルボン酸,ポリカルボン酸の
部分塩,炭素数1∼30の一価脂肪族アルコール及び炭素数2∼30の多
価脂肪族アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種とリン酸との
エステル,炭素数1∼30の一価脂肪族アルコール及び炭素数2∼30の
多価脂肪族アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種と亜リン酸
とのエステル,炭素数6∼30の一価芳香族アルコール及び炭素数6∼3
0の多価芳香族アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種とリン
酸とのエステル,炭素数6∼30の一価芳香族アルコール及び炭素数6∼
30の多価芳香族アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種と亜
リン酸とのエステル,タウリン,硫酸エステル塩,スルホン酸塩,リン酸
エステル塩及びモノ,ジ及びトリ(C6-C30脂肪酸)アルミニウム塩か
らなる群から選ばれる少なくとも1種である請求の範囲第1項に記載の粒
状ないし粉末状ジアセタール組成物。
請求項6バインダーが分子内にエーテル結合エステル結合チオエー【】,,,
テル結合,アミド結合,ハロゲン原子,アミノ基,水酸基,複素環基及び
カルボニル基からなる群から選ばれた結合又は官能基の少なくとも1種を
有していても良い,モノカルボン酸,ポリカルボン酸,ポリカルボン酸の
部分塩,スルホン酸塩,硫酸エステル塩,リン酸エステル塩及びモノ,ジ
及びトリ(C6-C30脂肪酸)アルミニウム塩から選ばれる少なくとも
1種である請求の範囲第1項に記載の粒状ないし粉末状ジアセタール組成
物。
【請求項7】バインダーが,60∼1200mgKOH/gの酸価を有し,分
子内にエーテル結合,エステル結合,チオエーテル結合,アミド結合,ハ
ロゲン原子,アミノ基,水酸基,複素環基及びカルボニル基からなる群か
ら選ばれた結合又は官能基の少なくとも1種を有していても良い,モノカ
ルボン酸又はポリカルボン酸である請求の範囲第1項に記載の粒状ないし
粉末状ジアセタール組成物。
【請求項8】バインダーが,炭素数80以下の脂肪族モノカルボン酸,炭素
数80以下の脂肪族ポリカルボン酸及びそのアルキル(炭素数1∼22)
部分エステル,炭素数80以下の芳香族モノカルボン酸,炭素数80以下
の芳香族ポリカルボン酸及びそのアルキル(炭素数1∼22)部分エステ
ル,炭素数80以下のハロゲン原子含有カルボン酸,炭素数80以下のア
ミノ基含有カルボン酸,炭素数80以下のアミド結合含有カルボン酸,炭
素数80以下の水酸基含有カルボン酸,樹脂酸,炭素数80以下のカルボ
ニル基含有カルボン酸,炭素数80以下のエーテル結合含有カルボン酸,
炭素数80以下のエステル結合含有カルボン酸,炭素数80以下のアミド
結合及びアミノ基含有カルボン酸,炭素数80以下のアミド結合及び水酸
基含有カルボン酸,炭素数80以下の複素環含有カルボン酸及び炭素数8
0以下のチオエーテル結合含有カルボン酸からなる群から選ばれる少なく
とも1種である請求の範囲第1項に記載の粒状ないし粉末状ジアセタール
組成物。
【請求項9】バインダーが,炭素数3∼35の脂肪族モノカルボン酸,炭素
数4∼30の脂肪族ポリカルボン酸及びそのアルキル(炭素数1∼22)
部分エステル,炭素数7∼35の芳香族モノカルボン酸,炭素数8∼30
の芳香族ポリカルボン酸及びそのアルキル(炭素数1∼22)部分エステ
ル,炭素数4∼35のハロゲン原子含有カルボン酸,炭素数4∼35のア
,,,ミノ基含有カルボン酸炭素数4∼35の水酸基含有カルボン酸樹脂酸
炭素数4∼35のカルボニル基含有カルボン酸,炭素数4∼35のエーテ
ル結合含有カルボン酸,炭素数4∼35のエステル結合含有カルボン酸,
炭素数4∼35のアミド結合及びアミノ基含有カルボン酸,炭素数4∼3
5のアミド結合及び水酸基含有カルボン酸,炭素数4∼35の複素環含有
カルボン酸及び炭素数4∼35のチオエーテル結合含有カルボン酸からな
る群から選ばれる少なくとも1種である請求の範囲第1項に記載の粒状な
いし粉末状ジアセタール組成物。
【】,,請求項10バインダーが(a)炭素数8∼30の脂肪族モノカルボン酸
(b)炭素数3∼18の脂肪族ジカルボン酸,炭素数6∼30の脂肪族トリ
カルボン酸,及び炭素数8∼30の脂肪族テトラカルボン酸,(c)炭素数
,,,7∼15の芳香族モノカルボン酸(d)炭素数8∼20の芳香族ジトリ
及びテトラカルボン酸,(e)ハロゲン原子を1∼3個含有する炭素数3∼
20のカルボン酸(f)アミノ基を1∼3個含有する炭素数5∼12のモノ
及びジカルボン酸,(g)モノ,ジ及びトリ(C6-C30脂肪酸)アルミニ
ウム塩(h)水酸基を1∼5個有する炭素数4∼24のモノ,ジ,トリ及び
テトラカルボン酸(i)樹脂酸(j)カルボニル基を1∼3個含有する炭素数
4∼18のモノ及びジカルボン酸,(k)エーテル結合を1∼2個含有する
炭素数8∼15のモノ及びジカルボン酸,(l)エステル結合を1∼2個有
する炭素数5∼26のモノ及びジカルボン酸,及び(m)(m-1)炭素数
6∼30のアルカンスルホン酸,炭素数6∼30のアルケンスルホン酸,
()()C1-C22アルキルベンゼンスルホン酸及びC1-C14アルキル
ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩,アンモニウム塩及びアルカリ土
類金属塩,並びに(m-2)炭素数6∼30の飽和又は不飽和脂肪族ア,
ルコールの硫酸エステル塩,エチレンオキシドが1∼10モル付加した炭
素数6∼30の飽和又は不飽和脂肪族アルコールの硫酸エステル塩,スル
ホコハク酸ジエステル塩,α-スルホ脂肪酸塩及びα-スルホ脂肪酸エステ
ル塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求の範囲第1項に記
載の粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項11(a')ラウリン酸,トリデカン酸,ミリスチン酸,ペンタデ】
カン酸,パルミチン酸,ヘプタデカン酸,ステアリン酸,イソステアリン
酸,エイコサン酸,ベヘン酸,ドコサヘキサン酸,モンタン酸,ベンジル
酸,ソルビン酸,オレイン酸,リノール酸,リノレイン酸(b')コハク,
酸,グルタル酸,マロン酸,アジピン酸,スベリン酸,アゼライン酸,セ
バシン酸,ドデカン二酸,イタコン酸,トリカルバリル酸,1,2,3,4-
ブタンテトラカルボン酸,シトラジン酸,1,2,3,4-シクロペンタンテ
トラカルボン酸,1,4-シクロヘキサンジカルボン酸,1,2-シクロヘキ
サンジカルボン酸,4,4'-ジシクロヘキシルジカルボン酸,シクロヘキ
サンテトラカルボン酸(c')安息香酸,p-メチル安息香酸,p-エチル,
,,,,安息香酸p-n-プロピル安息香酸クミン酸p-tert-ブチル安息香酸
,,,p-イソブチル安息香酸p-フェニル安息香酸3,5-ジメチル安息香酸
1-ナフトエ酸,2-ナフトエ酸,テトラリンモノカルボン酸(d')o-,
フタル酸,m-フタル酸,p-フタル酸,トリメリット酸,トリメシン酸,
ピロメリット酸,ジフェン酸,ビフェニルジカルボン酸,ビフェニルテト
ラカルボン酸,ナフタレンジカルボン酸,ジフェニルスルホンテトラカル
ボン酸,ジフェニルエーテルテトラカルボン酸,ジフェニルメタンテトラ
カルボン酸ジフェニルプロパンテトラカルボン酸エチレングリコール-,,
4,4'-ビストリメリット酸ジトリメリテート(e')クロロプロピオン,
酸,ブロモプロピオン酸,o-クロロ安息香酸,m-クロロ安息香酸,p-
クロロ安息香酸,4-クロロ-3-ニトロ安息香酸(f')L-グルタミン,,
(g')モノ及びジ(ペラルゴン酸)アルミニウム,モノ及びジ(ラウリン
酸)アルミニウム,モノ及びジ(ミリスチン酸)アルミニウム,モノ及び
ジ(ステアリン酸)アルミニウム,及び,モノ及びジ(オレイン酸)アル
ミニウム(h')酒石酸,乳酸,リンゴ酸,クエン酸,グルコン酸,パン,
トテン酸,12-ヒドロキシステアリン酸,マンデル酸,コール酸,β-オ
キシナフトエ酸リシノール酸キナ酸シキミ酸サリチル酸αβ-,,,,,,
ジヒドロキシヘキサヒドロフタル酸(i')デヒドロアビエチン酸,アビ,
エチン酸,ジヒドロアビエチン酸,ネオアビエチン酸,テトラヒドロアビ
,(),,,()エチン酸j'レブリン酸ピリビル酸o-ベンゾイル安息香酸k'
4-メトキシシクロヘキサンカルボン酸,4-エトキシシクロヘキサンカル
ボン酸,p-メトキシ安息香酸,p-エトキシ安息香酸,p-フェノキシ安
息香酸(l')アセチルクエン酸,ステアロイルクエン酸,アセチルリシ,
ノール酸,ステアロイル乳酸,クエン酸モノステアリルエステル,アジピ
,,ン酸モノ-2-エチルヘキシルエステルアジピン酸モノオクチルエステル
及び(m')C18アルカン又はアルケンスルホン酸のカリウム及びナトリ
ウム塩,ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム,ナトリウムドデシルサ
ルフェート,ナトリウムドデシルエーテルサルフェート(即ち,エチレン
オキサイドが1モル付加したドデシルアルコールの硫酸エステルのナトリ
ウム塩,ナトリウムジオクチルスルホサクシネート及びナトリウムメチ)
ルα-スルホステアレートからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合
物である請求の範囲第1項に記載の粒状ないし粉末状ジアセタール組成
物。
【請求項12】バインダーが,(h)水酸基を1∼5個有する炭素数4∼24
のモノ,ジ,トリ及びテトラカルボン酸の少なくとも1種である請求の範
囲第1項に記載の粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項13】バインダーが,酒石酸,乳酸,リンゴ酸,クエン酸,グルコ
ン酸,パントテン酸,12-ヒドロキシステアリン酸,マンデル酸,コー
ル酸,β-オキシナフトエ酸,リシノール酸,キナ酸,シキミ酸,サリチ
ル酸及びα,β-ジヒドロキシヘキサヒドロフタル酸からなる群から選ば
れる少なくとも1種である請求の範囲第1項に記載の粒状ないし粉末状ジ
アセタール組成物。
【請求項14】バインダーが(h-a)酒石酸,乳酸,リンゴ酸,クエン,
酸及びα,β-ジヒドロキシヘキサヒドロフタル酸,並びに(m)(m-1)
炭素数6∼30のアルカンスルホン酸,炭素数6∼30のアルケンスルホ
ン酸(C1-C22アルキル)ベンゼンスルホン酸及び(C1-C14ア,
ルキル)ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩,アンモニウム塩及びア
ルカリ土類金属塩,並びに(m-2)炭素数6∼30の飽和及び不飽和,
脂肪族アルコールの硫酸エステル塩,エチレンオキシドが1∼10モル付
加した炭素数6∼30の飽和及び不飽和脂肪族アルコールの硫酸エステル
塩,スルホコハク酸ジエステル塩,α-スルホ脂肪酸塩及びα-スルホ脂肪
酸エステル塩からなる群から選ばれた少なくとも1種である請求の範囲第
1項に記載の粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項15】バインダーとして(h-a)酒石酸,リンゴ酸,クエン酸,,
コハク酸及びα,β-ジヒドロキシヘキサヒドロフタル酸,(m)(m-1)
炭素数6∼30のアルカンスルホン酸,炭素数6∼30のアルケンスルホ
ン酸(C1-C22アルキル)ベンゼンスルホン酸及び(C1-C14ア,
ルキル)ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩,アンモニウム塩及びア
ルカリ土類金属塩,並びに(m-2)炭素数6∼30の飽和及び不飽和,
脂肪族アルコールの硫酸エステル塩,エチレンオキシドが1∼10モル付
加した炭素数6∼30の飽和及び不飽和脂肪族アルコールの硫酸エステル
塩,スルホコハク酸ジエステル塩,α-スルホ脂肪酸塩及びα-スルホ脂肪
酸エステル塩,(a)炭素数8∼30の脂肪族モノカルボン酸,並びに(g)
モノ,ジ及びトリ(C6-C30脂肪酸)アルミニウム塩からなる群から
選ばれた少なくとも1種を含み,更に滑剤として硬化油を含む請求の範囲
第1項に記載の粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項16】バインダーとして(h-a)酒石酸,リンゴ酸,クエン酸,,
コハク酸及びα,β-ジヒドロキシヘキサヒドロフタル酸,(m)(m-1)
炭素数6∼30のアルカンスルホン酸,炭素数6∼30のアルケンスルホ
ン酸(C1-C22アルキル)ベンゼンスルホン酸及び(C1-C14ア,
ルキル)ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩,アンモニウム塩及びア
ルカリ土類金属塩,並びに(m-2)炭素数6∼30の飽和及び不飽和,
脂肪族アルコールの硫酸エステル塩,エチレンオキシドが1∼10モル付
加した炭素数6∼30の飽和及び不飽和脂肪族アルコールの硫酸エステル
塩,スルホコハク酸ジエステル塩,α-スルホ脂肪酸塩及びα-スルホ脂肪
酸エステル塩,並びに(a)炭素数8∼30の脂肪族モノカルボン酸からな
る群から選ばれる少なくとも1種を含み,更に滑剤として硬化油を含む請
求の範囲第1項に記載の粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項17】バインダーとして,(m)(m-1)炭素数6∼30のアルカ
ンスルホン酸,炭素数6∼30のアルケンスルホン酸(C1-C22ア,
ルキル)ベンゼンスルホン酸及び(C1-C14アルキル)ナフタレンス
ルホン酸のアルカリ金属塩,アンモニウム塩及びアルカリ土類金属塩,並
びに(m-2)炭素数6∼30の飽和及び不飽和脂肪族アルコールの硫,
酸エステル塩,エチレンオキシドが1∼10モル付加した炭素数6∼30
の飽和及び不飽和脂肪族アルコールの硫酸エステル塩,スルホコハク酸ジ
エステル塩,α-スルホ脂肪酸塩及びα-スルホ脂肪酸エステル塩,並びに
(a)炭素数8∼30の脂肪族モノカルボン酸からなる群から選ばれる少な
くとも1種を含み,更に滑剤として硬化油を含む請求の範囲第1項に記載
の粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項18】バインダーとして,(g)モノ,ジ及びトリ(C6-C30脂
肪酸)アルミニウム塩,(a)炭素数8∼30の脂肪族モノカルボン酸,及
び(m)(m-1)炭素数6∼30のアルカンスルホン酸,炭素数6∼30
のアルケンスルホン酸(C1-C22アルキル)ベンゼンスルホン酸及,
び(C1-C14アルキル)ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩,ア
ンモニウム塩及びアルカリ土類金属塩,並びに(m-2)炭素数6∼3,
0の飽和及び不飽和脂肪族アルコールの硫酸エステル塩,エチレンオキシ
ドが1∼10モル付加した炭素数6∼30の飽和及び不飽和脂肪族アル
コールの硫酸エステル塩,スルホコハク酸ジエステル塩,α-スルホ脂肪
酸塩及びα-スルホ脂肪酸エステル塩からなる群から選ばれる少なくとも
1種を含み,更に滑剤として硬化油を含む請求の範囲第1項に記載の粒状
ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項19】バインダーが,一般式(1)で表されるジアセタール100重
量部に対して,0.01∼100重量部存在する請求の範囲第1項に記載
の粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項20】バインダーが,一般式(1)で表されるジアセタール100重
量部に対して,0.01∼8重量部の量で使用される請求の範囲第10項
に記載の粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項21】平均粒子径が,3∼2000μmである請求の範囲第1項に
記載の粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項22】断面直径が0.2∼5mmで,長さが0.2∼15mmの円柱の形
態,或いは直径0.2∼5mmの顆粒又はフレークの形態にある請求の範囲
第1項に記載の粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項23】0.2∼1.1g/cm3の嵩密度を有する請求の範囲第1項に
記載の粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項24】ジアセタール組成物中に含有される一般式(1)で表されるジ
アセタールに比し,融点が20℃以上降下していることを特徴とする請求
の範囲第1項に記載の粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項25】ジアセタール組成物中に含有される一般式(1)で表されるジ
アセタールに比し,融点が40℃以上降下していることを特徴とする請求
の範囲第1項に記載の粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項26】更に,帯電防止剤,中和剤ないし安定剤及び滑剤からなる群
から選ばれる少なくとも1種を含む請求の範囲第1項に記載の粒状ないし
粉末状ジアセタール組成物。
【請求項27】帯電防止剤が,グリセリン脂肪酸(C8-C22)モノ,ジ
及びトリエステル,N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アルキル(C8-
C22)アミン,ポリオキシエチレン(4-50モル)アルキル(C12-
C22)エーテル,ポリオキシエチレン(4-50モル)アルキル(C7-
C22)フェニルエーテル及びペンタエリスリトール脂肪酸(C8-C2
2)エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求の範囲第
26項に記載の粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項28】中和剤ないし安定剤が,ステアリン酸カルシウム,ステアリ
ン酸リチウム,ステアリン酸カリウム,ステアリン酸ナトリウム,テトラ
キス[メチレン-3-(3',5'-ジ-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)
プロピオネート]メタン,トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニルフォスフ
ァイト及び3,3'-チオジプロピオン酸ジステアリルからなる群から選ば
れる少なくとも1種である請求の範囲第26項に記載の粒状ないし粉末状
ジアセタール組成物。
【請求項29】滑剤が,硬化油の少なくとも1種である請求の範囲第26項
に記載の粒状ないし粉末状ジアセタール組成物。
【請求項30】粒状ないし粉末状ジアセタール組成物が,一般式(1)で表さ
れる1,3:2,4-ジアセタール以外に,5価又は6価の多価アルコー
ルと置換基を有していても良いベンズアルデヒドとの縮合反応により副生
物として生成するアセタールであるモノアセタール,トリアセタール及び
ジアセタール異性体の少なくとも1種を含んでおり,該モノアセタール,
トリアセタール及びジアセタール異性体の合計量が,アセタール総量(一
般式(1)で表される1,3:2,4-ジアセタール,モノアセタール,ト
リアセタール及びジアセタール異性体の合計量)に対して,0.05∼1
0重量%である請求の範囲第1項∼第29項のいずれかに記載の組成物。
【請求項31(I)一般式(1)】
[式中,R及びRは,同一又は異なって,水素原子,炭素数1∼4のア12
ルキル基,炭素数1∼4のアルコキシ基,炭素数1∼4のアルコキシカル
。,。ボニル基又はハロゲン原子を表すa及びbは夫々1∼5の整数を示す
cは0又は1を示す。aが2である場合,2つのRは互いに結合してそ1
,,れらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していても良く又
bが2である場合,2つのRは互いに結合してそれらが結合するベンゼ2
ン環と共にテトラリン環を形成していても良い]。
で表される少なくとも1種のジアセタール,及び(II)中性ないし弱酸性
の一価有機酸,中性ないし弱酸性の多価有機酸,中性ないし弱酸性の多価
有機酸の部分塩,硫酸エステル塩,スルホン酸塩,リン酸エステル塩,リ
ン酸エステル,亜リン酸エステル及び中性ないし弱酸性の一価有機酸のア
ルミニウム塩からなる群から選ばれた少なくとも1種のバインダーを含む
粒状ないし粉状ジアセタール組成物であって該バインダーがジアセター,,
ル粒子の表面のみならず,ジアセタール粒子の内部にも均一に分布してい
ることにより,該粒状ないし粉末状ジアセタール組成物の粒子中に均一に
分散している組成物の製造法であって,(i)一般式(1)で表されるジアセ
タールを溶媒中に含むスラリーであって,上記ジアセタールが該溶媒で膨
潤された状態で含有されているスラリーを調製し(ii)上記スラリーと,
バインダーとを均一混合し(iii)(a)上記工程(ii)で得られた均一,
混合物から,溶媒を除去して乾燥物を得るか,又は(b)該均一混合物から
溶媒を除去しながら造粒するか,又は(c)上記工程(a)で得られた乾燥物
又は上記工程(b)で得られた造粒物を,分級若しくは粉砕するか,又は,
(d)上記工程(c)で得られる粉砕物を分級するか造粒する工程を包含する
製造法。
【請求項32】膨潤したジアセタールを含むスラリーが,ジアセタール粉末
を,ジアセタール粉末を膨潤させ得る有機溶媒中で膨潤させてなるもので
ある請求の範囲第31項に記載の製造法。
【請求項33】有機溶媒が,極性有機溶媒であるか,又は,芳香族炭化水素
溶媒であるか,又は,(a)極性有機溶媒及び芳香族炭化水素からなる群か
ら選ばれる少なくとも1種と(b)脂肪族炭化水素及び脂環式炭化水素から
なる群から選ばれる少なくとも1種との混合物であって,該極性有機溶媒
が,炭素数1∼18の脂肪族アルコール;炭素数6∼18の脂環式アル
コール;フルフリルアルコール;環状エーテル;ケトン;炭素数3∼6の
脂肪族アミン;アセトニトリル;グリコールエーテル;ジメチルホルムア
ミド,ジメチルアセトアミド,ジメチルスルホキシド,N-メチルピロリ
ドンからなる群から選ばれた少なくとも1種である請求の範囲第31項に
記載の製造法。
【請求項34】膨潤した上記一般式(1)で表されるジアセタールを含むスラ
リーが,対応するソルビトール又はキシリトールと置換されていてもよい
ベンズアルデヒドとを,有機溶媒中で縮合反応を行って得られた反応混合
物であるか,或いは,該反応混合物を中和又は水洗して得られた混合物で
ある請求の範囲第31項に記載の製造法。
【請求項35】膨潤した上記一般式(1)で表されるジアセタールを含むスラ
リーが,対応するソルビトール又はキシリトールと置換されていてもよい
ベンズアルデヒドとを,水中で,酸触媒の存在下に縮合反応させて得られ
る反応混合物であるか,或いは,該反応混合物を中和又は水洗して得られ
る湿結スラリーである請求の範囲第31項に記載の製造方法。
【請求項36】請求の範囲第1項に記載の粒状ないし粉末状ジアセタール組
成物を含有する,ポリオレフィン樹脂用の核剤。
【請求項37】ジアセタール組成物が,更に,帯電防止剤,中和剤ないし安
定剤及び滑剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求の範
囲第36項に記載のポリオレフィン樹脂用核剤。
【請求項38】(i)ポリオレフィン樹脂粉末又はフレーク及び請求の範囲第
36項又は第37項に記載の核剤の粉末又は粒状物を,或いは(ii)ポ,
リオレフィン樹脂粉末またはフレーク,請求の範囲第36項又は37項に
記載の核剤の粉末又は粒状物及び少なくとも1種のポリオレフィン樹脂用
添加剤を,ブレンドして得ることができる粉末状のポリオレフィン樹脂組
成物。
【請求項39】(i)ポリオレフィン樹脂粉末又はフレーク及び請求の範囲第
36項又は第37項に記載の核剤を,或いは(ii)ポリオレフィン樹脂,
粉末又はフレーク,請求の範囲第36項又は第37項に記載の核剤,及び
少なくとも1種のポリオレフィン樹脂用添加剤を,ブレンドし,得られる
粉末状組成物を,加熱下で溶融混練し,押し出し,押し出されたストラン
ドを,冷却し,得られたストランドをカッティングしてペレットとするこ
とにより得ることができるポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項40】(i)ポリオレフィン樹脂粉末又はフレーク及び請求の範囲第
36項又は第37項に記載の核剤を,或いは(ii)ポリオレフィン樹脂,
粉末又はフレーク,請求の範囲第36項又は第37項に記載の核剤の粉末
及び少なくとも1種のポリオレフィン樹脂用添加剤を,ブレンドし,得ら
れる粉末状組成物を,ジアセタール組成物の融点以上又は未満の温度に加
熱して溶融混練し,押し出し,押し出されたストランドを,冷却し,得ら
れたストランドをカッティングすることからなるポリオレフィン樹脂組成
物の製造法。
【請求項41】請求の範囲第38項又は第39項に記載のポリオレフィン樹
脂組成物を,射出成形法,射出-ブロー成形法,ブロー成形法又は押出成
形法により成形するか,又は該押出成形法により得られるシートを圧空成
形する工程を包含する,ポリオレフィン樹脂組成物中の核剤未分散物を最
小限の量で含むポリオレフィン樹脂成形体の製造法。
【請求項42】請求の範囲第38項又は第39項に記載のポリオレフィン樹
脂組成物を,射出成形法,射出-ブロー成形法,ブロー成形法,押出成形
法により成形するか,又は該押出成形法により得られるシートを圧空成形
する工程を包含する方法により得ることができるポリオレフィン樹脂成形
体。
【請求項43】(a)R及びRが同一又は異なって,それぞれ水素原子,炭12
素数1∼4のアルキル基,炭素数1∼4のアルコキシ基,炭素数1∼4の
アルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を表し,a及びbがそれぞれ1
∼5の整数を示し,cが0又は1を示す請求の範囲第1項に記載の一般式
(1)で表される少なくとも1種のジアセタールと,(b)少なくとも1種の
有機酸を必須成分とするバインダーとからなり,上記バインダーがジアセ
タール粒子の表面のみならず,ジアセタール粒子の内部にも均一に分布し
,,ていることによりジアセタール中に均一に分散している組成物であって
その粒子直径の平均値が3∼500μmであることを特徴とする粉末状ジ
アセタール組成物。
【請求項44】バインダーが,酒石酸,乳酸,リンゴ酸,クエン酸,グルコ
ン酸,パントテン酸,12-ヒドロキシステアリン酸,マンデル酸,コー
ル酸,β-オキシナフトエ酸,リシノール酸,キナ酸,シキミ酸,サリチ
ル酸,プロトカテク酸,クマル酸及び没食子酸からなる群から選ばれる少
なくとも1種である請求の範囲第43項に記載の組成物。
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