弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、上告人の敗訴部分を破棄する。
     右部分について被上告人らの控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人河田英正の上告理由第二の四について
 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 上告人は、昭和六一年一月七日午後七時一二分ころ、普通貨物自動車(以下
「上告人車」という。)を運転し、岡山県玉野市ab丁目c番d号先道路を西方か
ら東方に向かって直進し、本件交差点手前に差し掛かったが、対面信号が青色であ
ること及び本件交差点を一台の自動車が東方から北方へ右折したものの、後続の郵
便車が右折のため本件交差点内で停止し、上告人車の通過を待機する態勢にあるこ
とを確認し、本件交差点を安全に通過できるものと考えてそのまま進行した。
 2 被上告人らの子である亡Dは、右の日時ころ、原動機付自転車を運転して、
右道路を東方から西方に向かって進行し、右折するため青色信号に従って本件交差
点内に進入し、上告人車の通過を待つために停止中の郵便車の左横を通過し、直進
車の有無、状況の確認を怠り右折進行を続けたところ、折からの降雨によりぬれて
いた路面を横滑りするような状態で上告人車の右側ドア外側下部付近及び後部車輪
を支えるバネ付近に接触、転倒し、脳挫傷等の傷害を負い、同日午後一一時五分に
死亡した。
 二 原審は、右の事実関係の下において、郵便車が右折するため直進車の通過を
待ち一時停止の態勢にあったとしても、郵便車の物陰になって見通しのできないと
ころかち郵便車を追い越して右折する車両があることも十分に予測されるところで
あるから、上告人には、郵便車ばかりでなくその後続車の動静に注意し、前方の安
全を確認して本件交差点内を通行すべき注意義務があるのに、これを怠った過失が
あると判断して、被上告人らからの上告人に対する本件各損害賠償請求を一部認容
した。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 道路交通法三七条は、交差点で右折する車両等は、当該交差点において直進しよ
うとする車両等の進行妨害をしてはならない旨を規定しており、車両の運転者は、
他の車両の運転者も右規定の趣旨に従って行動するものと想定して自車を運転する
のが通常であるから、右折しようとする車両が交差点内で停止している場合に、当
該右折車の後続車の運転者が右停止車両の側方から前方に出て右折進行を続けると
いう違法かつ危険な運転行為をすることなど、車両の運転者にとって通常予想する
ことができないところである。前記事実関係によれば、上告人は、青色信号に従っ
て交差点を直進しようとしたのであり、右折車である郵便車が交差点内に停止して
上告人車の通過を待っていたというのであるから、上告人には、他に特別の事情の
ない限り、郵便車の後続車がその側方を通過して自車の進路前方に進入して来るこ
とまでも予想して、そのような後続車の有無、動静に注意して交差点を進行すべき
注意義務はなかったものといわなければならない。そして、前記確定事実によれば、
本件においては、何ら右特別の事情の存在することをうかがわせるものはないので
あるから、上告人には本件事故について過失はないものというべきである。
 そうすると、上告人に過失があるとした原審の判断は、運転者の注意義務につい
ての法令の解釈を誤ったものであり、この違法が原判決に影響を及ぼすことは明ら
かである。論旨は理由があり、他の上告理由について判断するまでもなく原判決中
上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そして、右に説示したところによれば、被上
告人らの請求は理由がないことに帰し、これと結論を同じくする第一審判決は正当
であるから、右部分に対する被上告人らの控訴は理由がなくこれを棄却すべきもの
である。
 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九三条に従い、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    佐   藤   庄 市 郎
            裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    貞   家   克   己
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄

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