弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告らは,原告Aに対し,連帯して,2567万5250円及び
これに対する平成22年5月14日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
2被告らは,原告Bに対し,連帯して,2519万2082円及び
これに対する平成22年5月14日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
3原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,これを5分し,その2を原告らの,その余を被告ら
の負担とする。
5この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができ
る。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,原告Aに対し,連帯して,4385万3118円及びこ
れに対する平成22年5月14日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払え。
2被告らは,原告Bに対し,連帯して,4200万2359円及びこ
れに対する平成22年5月14日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,被告延岡市が設立運営し,被告宮崎県が教諭の採用及び給
与の負担をしている延岡市立C小学校の4年生に在籍していたD(以
下「亡D」という。)が,同校の校外学習として行われた健康施設ヘル
ストピア延岡内の流水プールにおける遊泳に参加した際に,同プール
内で溺水(以下「本件事故」という。)し,その後死亡したため,亡D
の父母である原告らが,引率教諭らが遊泳中の生徒に対する安全確認
義務を怠ったなどとして,被告延岡市に対して国家賠償法1条1項に
基づき,被告宮崎県に対して国家賠償法3条1項に基づき,それぞれ
損害賠償金及びこれに対する本件事故の日から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2争いのない事実等(以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記
の証拠により,容易に認定することができる。)
当事者等
ア原告A及び原告B(以下原告Bと原告Aと併せて「原告ら」と
いう。)は,亡D(平成13年3月10日生まれ。平成25年10
月30日死亡。)の父母である。
イ亡Dは,本件事故当時,C小学校の4年1組の児童であった。
ウ被告延岡市は,C小学校及び延岡市教育委員会の設置者である。
エ被告宮崎県は,C小学校の教諭を採用し,その給与等を負担し
ている。
オ以下の4名は,本件事故当時,C小学校の教諭であった。
訴外E(以下「E教諭」という。)
同F(以下「F教諭」という。)
同G(以下「G教諭」という。)
同H(以下「H教諭」といい,上記4名を併せて,
以下「担当教諭ら」という。)
カE教諭はC小学校4年の学年主任兼4年2組の担任教師,F教
諭は同4年1組の担任教師(亡Dの担任教師),G教諭は同4年3
組の担任教師,H教諭は新規採用の指導教諭であった。
キ本件事故当時,C小学校の校長は,I(以下「I校長」という。)
であり,同人は,学校事務の実施に際し各教職員を指導監督する
立場にあった。
本件事故当時,延岡市教育委員会の教育長は,J(以下「J教育
長」という。)であり,同人は,教育委員会の学校事務に関する基
本方針を受けて,具体的な学校事務の管理執行に関して延岡市内の
各学校を指導監督する立場にあった。
本件事故等について
アC小学校は,平成22年5月14日,学校行事の一環として,
宮崎県延岡市(以下「延岡市」という。)内の長浜海岸や妙田緑地
公園へ遠足をした後,同市内に所在する健康施設ヘルストピア延
岡(以下「ヘルストピア」という。)において遊泳をする校外学習
(以下「本件校外学習」という。)を行うことを予定し,同年4月
頃,E教諭及びF教諭は,本件校外学習の計画を立て,E教諭が
事案協議書を作成した。
イ上記事案協議書は,教務主任,教頭,I校長の順序で決裁がさ
れたものであるところ,同書面には,ヘルストピアでの遊泳に関
し,具体的な監視体制についての記載はなく,児童の泳力調査や
事前の現場調査も予定されていなかった。しかし,I校長を含む
上記3名は,上記事項に関する指摘や指導をせず,本件校外学習
までの間に,上記泳力調査や事前の現場調査が実施されることは
なかった。
ウ本件校外学習は,平成22年5月14日,予定通り実施された。
児童らは,同日,昼食後にヘルストピアへ移動し,午後零時50
分頃から児童97名が一斉に同所に設置された流水プールで泳ぎ
始めた。この際,E教諭はプールサイドから,F教諭及びG教諭
はプール内に入って,H教諭はプール外のガラスを隔てた場所か
ら,それぞれ児童を監視した。その約10分後,新たに,延岡市
立K小学校の児童139名がプールに入ってきた。E教諭らは,
同日午後1時30分過ぎ,C小学校の児童に対してプールから上
がるよう指示し(この際,点呼は取らなかった。),その後に,亡
Dは浮輪が外れてE教諭らの前を流されていったが,E教諭らは
気付かなかった。亡Dが浮輪が外れて流され始めてから約5分後
に,ヘルストピアの監視員は,溺水してプールで流されている亡
Dを発見してプールサイドに引き上げたが,既に心肺停止状態で
あった。F教諭が亡Dに対して蘇生措置を採ったが,意識は戻ら
ず,亡Dは,病院に搬送されたものの,低酸素脳症後の植物状態
となり,一度も意識が戻ることなく,平成25年10月30日,
死亡した。
延岡市立小中学校管理運営規則(以下「本件規則」という。)第5
条は,校外における教育活動について下記のとおり規定している。

校長は,校外における教育活動のうち,宿泊を要するものについて
は,宿泊を伴う教育活動の実施について(様式第2号)により,あら
かじめ教育委員会に届け出なければならない。ただし,登山その他特
に危険を伴うもの(宿泊を要しないものを含む。)については,特別
な教育活動の実施について(様式第3号)により,あらかじめ教育委
員会の承認を得なければならない。
被告らの責任
被告らは,担当教諭らがヘルストピアのプールにおける監視体制
を万全にし,児童の安全を図るべく十分に注視する義務を怠った過
失があること,I校長が本件校外学習について事前対策を十分に検
討し,校長として指導監督すべき義務を怠った過失があること,及び
被告らに賠償責任があることをいずれも自認するところである。
そうすると,被告らは,本件事故により亡Dに生じた後記損害及び
原告らの後記損害について,被告延岡市につき国家賠償法1条1項
に基づき,被告宮崎県につき同法3条1項に基づき,責任を負うこと
となる。
なお,原告らは,担当教諭ら及びI校長の過失の程度は重過失であ
ると主張するが,慰謝料増額事由としての主張であるから,後記慰謝
料の考慮要素の中で検討する。
損害
損害のうち,次の項目については,当事者間に争いがない。
ア治療関係費33万8725円
イ入院雑費189万9000円
ウ葬儀関係費用238万2966円
(各原告119万1483円)
エ既払金(損害の填補)3849万2414円
3争点及び争点についての当事者の主張
J教育長の過失の有無について
(原告らの主張)
延岡市教育長は,教育委員会の学校事務に関する基本方針を受け
て,教育課程を管理執行する者であるところ,本件のようなプールに
おける遊泳を含む校外学習が予定された場合には,水難事故を防止
する指導監督のため,各学校に対し,教育委員会の事前承認を得るよ
うに指示しこれを徹底させるべき義務がある(本件規則第5条)。し
かしながら,J教育長には,上記事前承認を得るよう指示徹底せず,
本件校外学習について事前に監視体制を徹底するよう指導監督すべ
き上記義務を怠った過失がある。
(被告らの主張)
本件校外学習での遊泳は,本件規則第5条の事前承認を得るべき
案件ではない。同条により事前承認が必要な案件は,同条にいう「登
山その他特に危険を伴うもの(宿泊を要しないものを含む。)」などの
比較的危険性が高いものをいうのであって,本件校外学習において
予定されていたヘルストピアの流水プールにおける遊泳は,監視員
が配置され安全設備が整っている屋内プール施設であるから,上記
にいう比較的危険性が高いものとはいえず,結局のところ,前記事前
承認の対象とはならないといえる。本件事故当時においても,ヘルス
トピアの屋内プールを校外学習で利用する小学校は多数存在したが,
いずれも前記事前承認の対象とはされていなかった。
損害額について
(原告らの主張)
ア亡Dに生じた損害について
付添人の交通費189万9782円
aガソリン代60万3937円
(宮崎大学病院入院中につき5万5387円,延岡病院入院
中につき54万8550円。なお,エンジンオイル代945円
も含む。)
bタクシー代128万6045円
c高速道路料金2800円
d有料道路料金7000円
入院付添費2532万円
亡Dは,小学4年生の児童で,病状の急変も考えられる状況
にあり,また,意識障害によって緊急時に医師や看護師を呼ぶ
ことが不可能だったことなどから,原告らの付添いが必要であ
った。
原告らは,亡Dの入院中,毎日,病院に寝泊まりをしながら亡
Dの付添いを行った。
原告Aの本件事故前2か月半分の給与は合計74万3954
円であるから,原告Aの一日当たりの入院付添費は1万円とみる
べきである(74万3954円÷75日)。
また,原告Bは付添いのため家事労働ができない状態にあった
ところ,賃金センサス平成24年女性学歴計50~54歳385
万7200円をもとに,その一日当たりの入院付添費は1万円と
みるべきである。
そうすると,原告らにつき,1日当たり,各1万円の入院付添
費が認められるべきところ,原告らはそれぞれ毎日付添いを行っ
たのであるから,入院付添費は,1266日(亡Dの入院日数)
×2万円=2532万円となる。
亡Dの慰謝料2800万0000円
逸失利益4485万6659円
(計算式)
13.5578(ライプニッツ係数。亡Dは死亡時12歳。)
×472万6500円(賃金センサス平成24年男女計学歴計全
年齢平均)×(1-0.3)
亡Dの損害額合計1億0231万4166円
イ原告らの固有の損害
原告ら固有の慰謝料各500万0000円
原告らは,担当教諭らの重過失によって本件事故が発生し,
その後,亡Dが重度の障害を有する状態を経て死亡したこと,こ
れに加えて,被告らが,以下a~hのとおり,本件事故後に反省
や誠意の全くみられない対応をしたこと等により,多大な精神的
損害を被った。これらの事情は慰謝料増額事由である。
a上記2ウ記載の本件事故態様に照らせば,監視体制は極
めてずさんであり,的確な監視体制さえとられていれば,亡
Dは溺水しても早期に発見され,重篤な障害を負うに至らなか
った可能性が高い。また,I校長は,過去にも児童のプールに
おける事故の対応に当たった経験がある人物であり,より一層
重い過失がある。
b亡Dは,本件事故直後,ドクターヘリで病院に搬送されたの
に,その際,現場にいた担当教諭らは一人として亡Dに付き添
わなかった。このため,搬送先の病院の医師は,事故状況を正
確に把握できなかった。
cC小学校は,本件事故から4日後,本件事故の保護者説明会
を開催したが,学校側は,本件事故の際,実際には点呼を行っ
ていないにもかかわらず,事故発生の時間帯は各児童に声掛け
をしており空白の7分間の時間帯があったなどと事実と異な
る説明をした。
さらに,同説明会におけるC小学校側の発言内容が新聞に掲
載されたことから,これを読んだ原告らが,学校に対し,事実
とは異なった発言がある旨指摘すると,同学校側は,新聞記事
の内容が誤っているかのような説明をした。
d原告らが再三要求しても,学校側は詳細な報告をしなかった。
また,原告らに対し,本件事故状況に基づいた謝罪をしなかっ
た。
e原告Aは,平成26年1月,行政文書の開示請求を行い,本件
事故に関する延岡市教育委員会宛の報告書を入手した。同報告書
には,担当教諭らが点呼したところ亡Dがいないことに気づいた
旨事実と異なる記載がされていた。
f学校側は,児童及び保護者に対し,原告らが亡Dの見舞いを辞
退していると虚偽の説明をし,見舞いに行くことを妨げた。
g担任であったF教諭は,亡Dを見舞った際も黙ったままであり,
やがて見舞いに来なくなった。また,他の教諭らも,平成23年
1月以降は,弁護士が交渉の窓口になったとして,亡Dの見舞い
を中断し,本件訴訟提起後も,直接の謝罪の言葉が一切なかった。
h平成27年10月30日の亡Dの3回忌の際,J教育長は,本
件事故の責任は専らヘルストピアにあると発言し,原告らの心情
を深く傷つけた。
原告Aの退職による逸失利益185万0759円
原告Aは,以下のとおり,本件事故により欠勤した末に退職せざ
るを得なくなり,合計185万0759円の損害を被った。
すなわち,原告Aは,平成22年5月以降,亡Dへの付添いのた
め,その勤務先に出勤できず,同年の冬季ボーナスは,48万31
68円減額された。
また,原告Aは,平成23年6月,亡Dへの付添いのため,退職
せざるを得なくなった。この際の退職は自己都合とされたため,会
社都合の退職に比べて,退職金は136万7591円減額となった。
ウ既払額3849万2414円
エ亡Dの損害額1億0231万4166円(上記ア)-既払額38
49万2414円(同ウ)=6382万1752円
原告らは亡Dの損害残額6382万1752円の2分の1である
3191万0876円をそれぞれ相続した。
オ弁護士費用780万0000円(各原告につき390万円)
カまとめ
原告Aの損害
4385万3118円
原告Bの損害
4200万2359円
(被告らの主張)
ア亡Dに生じた損害について
付添人の交通費
ガソリン代のうち,宮崎大学病院入院中につき5万4442円
(エンジンオイル代945円は相当因果関係のある損害とはいえ
ない。),延岡病院入院中につき10万9710円の限度で認める。
タクシー代は否認する。
入院付添費は,1106万1042円の限度で認める。
入院付添い自体の必要性は認めるが,完全看護の医療体制の下で
の入院であったため,2人分の入院付添費用を認めることは困難で
あるし,原告Bが家事を100%できない状態であったとも考え難
い。
原告Aについては,以下の計算式のとおり日額を8737円とし
て,入院日数1266日に乗じた1106万1042円とするのが
相当である。
(計算式)
52万4240円(本件事故前の2か月分の給与総額)÷60
日=8737円
原告Bについては,家事労働がある程度制限されたことは考
えられるが,原告Aの休業損害の中で評価済みであると考えるのが
相当である。
逸失利益は,3524万4517円の限度で認める。
女子年少者の逸失利益について全労働者(男女計)の全年齢平
均賃金で算定する場合については,男性とのバランスも考慮し,生
活費控除率を30%ではなく,45%とするのが妥当である。
(計算式)
13.5578(ライプニッツ係数・亡Dは死亡時12歳)×
472万6500円(平成24年賃金センサス全労働者全年齢平
均)×(1-0.45)
イ原告らの固有の損害
原告ら固有の慰謝料は,各200万円の限度で認める。
亡Dの父母である原告らの精神的苦痛は重いものであると察す
るが,原告らの固有の慰謝料としては,裁判例上,各200万円と
するのが妥当であり,固有の慰謝料を増額するまでの事由はない。
すなわち,被告らは,事故後の学校側の対応として,見舞いに伺
うなどしており,可能な限り誠意を尽くして対応した。学校として
は故意に事実と異なる報告や説明をしたことはなく,可能な限り,
誠意をもって対応してきた。また,被告代理人は,原告Aに対し,
交渉の窓口を一本化するため被告側が原告側に連絡等するのを控
えさせていただく旨を直接説明しており,それを前提とした学校関
係者の対応が慰謝料増額事由になるものではない。なお,J教育長
は,3回忌の際,学校の教師らに責任があるのは当然だがヘルスト
ピアにも責任の一端がある旨述べたのであり,専らヘルストピアに
責任があるとは述べていない。
原告Aの退職による逸失利益
平成22年の冬季ボーナス減額分48万3168円については
損害として認めるが,退職金減額分については,被害者とはいえ損
害拡大防止義務があるので,否認する。
ウ弁護士費用及び損害額の合計は争う。
第3当裁判所の判断
1争点1(J教育長の過失の有無)について
原告らは,J教育長には,本件校外学習に類する行事について,本
件規則第5条に定められた市の教育委員会の事前承認を得るように,
延岡市内の小学校に対して指示徹底すべき義務があったにもかかわら
ず,これを怠った過失がある旨主張する。
そこで検討するに,本件規則第5条は,前記争いのない事実等記載
のとおり,そのただし書において,「登山その他特に危険を伴うもの」
につき事前承認を要する旨定めているところ,その文言及び例示とし
て登山が挙げられていることからすれば,上記事前承認を要する活動
とは,当該活動自体が一般的に生命・身体への危険を伴うと認識される
ものを指すと解するのが相当であり,例えば登山や海水浴等が該当す
るといえる。
ヘルストピアは,流水プールを備える屋内施設であり,かつ,監視
員も配置されているのであって,同所における遊泳が一般的に生命・身
体への危険を伴う活動とまではいえない。そうすると,ヘルストピアに
おける遊泳を含む本件校外学習が規則第5条の対象たる活動に該当す
るとは解せられない。
延岡市立小中学校の実際の運用においても,ヘルストピアでの遊泳
を含む校外学習が実施される場合,上記事前承認の対象とはされてい
なかったことが認められる(弁論の全趣旨)。
そうすると,本件事故当時,市の教育委員会の教育長であったJ教
育長に原告ら主張の義務があったとするのは困難といわざるを得ず,
この点に関する原告らの主張には理由がない。
2争点2(損害額)について
亡Dの損害について
ア治療関係費(争いがない)33万8725円
イ入院雑費(争いがない)189万9000円
ウ通院費(付添人の交通費)68万8370円
ガソリン代16万4152円
宮崎大学医学部附属病院入院中,ガソリン代5万4442円
が生じたことは当事者間に争いがない。エンジンオイル代945
円については,本件事故と相当因果関係を有する損害と認めるこ
とは困難である。また,県立延岡病院入院中のガソリン代につい
ては,1往復分を本件事故と相当因果関係を有する損害と認める
のが相当であり,その額は以下のとおり10万9710円となる。
(計算式)
15円/キロ×片道3キロ×2回×1219日=10万97
10円
タクシー代51万4418円
亡Dの症状の重篤性,原告らの居住地域の交通事情等を考慮
すると,原告Bによるタクシー利用も一定程度やむを得なかっ
たものと認められる。そうすると片道1055円として,県立
延岡病院入院期間1219日分のうち,4割に相当する額を相
当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(計算式)
1055円×1219日×0.4=51万4418円
高速道路料金(争いがない)2800円
有料道路料金(争いがない)7000円
エ入院付添費(付添人看護費)1172万3000円
近親者による入院付添いの必要性は当事者間に争いがないところ,
亡Dの年齢及び症状の重篤性に照らせば,宮崎大学医学部附属病院
入院中(平成22年5月14日~同年6月29日までの47日間)に
ついては原告ら2人分を,県立延岡病院入院中(同年6月30日から
平成25年10月30日までの1219日間)については原告らの
うち1人分を本件事故と相当因果関係のある損害として認めるのが
相当である。この点,原告らは,県立延岡病院入院期間中における夜
間の入院付添いが必要であった旨主張するが,重篤な容態の亡Dに
一日中付き添いたいという心情は理解できるものの,その必要性に
ついてはこれを認めるに足りない。
日額については,亡Dが児童であったことのほか,証拠(甲16)
から認められる原告Aの収入を考慮し,原告Aについて9000円,
原告Bについて7000円と認めるのが相当であり,県立延岡病院
入院中の付添費は,原告Aの日額で計算するのが相当である。
(計算式)
(9000円+7000円)×47日=75万2000円
9000円×1219日=1097万1000円
75万2000円+1097万1000円=1172万3000円
オ逸失利益3524万4517円
亡Dは,死亡当時12歳であり,本件事故がなければ,18歳
から67歳までの49年間就労が可能であったと認められる。基
礎収入を賃金センサス平成24年第1巻第1表男女計の平均収入
である472万6500円とし,生活費の控除割合については基
礎収入額を男女計の平均収入とすることに鑑みて45%とし,ラ
イプニッツ方式により年5パーセントの割合による中間利息を控
除して算定すると,逸失利益は,以下のとおり3524万451
7円になる。
(計算式)
472万6500円×(1-0.45)×13.5578(12
歳のライプニッツ係数)=3524万4517円
カ亡Dの慰謝料2800万0000円
キ小計7789万3612円
原告ら固有の損害
ア原告Aの逸失利益48万3168円
原告Aが本件事故後出勤できなかったことによって同人の賞与
が48万3168円減額になったこと及びそれが本件事故と相当
因果関係を有する損害となることは当事者間に争いがない。他方,
原告Aは,本件事故後退職しており,会社都合の退職に比べると退
職金が136万7591円減額した事実は認められるが(甲18の
1,2),原告Aの退職を予見するのは困難であるといわざるを得
ず,本件事故との相当因果関係は認められない。
イ原告ら固有の慰謝料各200万0000円
争いのない事実,証拠(甲7~10,24,25,原告A本人)
及び弁論の全趣旨によれば,①担当教諭らは,引率児童らをプール
から上がらせるため声掛けを始めたのであるが,その際,点呼を取
るなどしなかったことから,亡Dは,約5分もの間,担当教諭らに
気づかれることなく,同人らの付近を溺れたまま流されていたこと,
②本件事故は,担当教諭らの監督体制が非常に不十分であったこと
(事前協議の杜撰さも含む。)によって発生したことが認められ,
これら①及び②の点について,担当教諭ら及びI校長の過失の程度
は重い。また,原告らが学校側に事故状況についての報告書を提出
するよう再三求めたにもかかわらず,その際の学校側の対応が不適
切であったこと,被告らの事故後の対応について,原告らは非常に
誠意がないと感じていることが認められる。これらの事情に加えて,
最愛の娘を12歳という若さで失った原告らの甚大な精神的苦痛,
本件事故発生から亡Dの死亡まで約3年5か月間にわたる原告ら
による付添い及び看護の状況,その他本件に表れた一切の事情を考
慮すると,上記のとおり,亡Dの慰謝料を2800万円としたうえ
で,原告らに対する慰謝料としては各200万円を認めるのが相当
である。
ウ葬儀関係費用各原告につき119万1483円
原告らが亡Dの葬儀費用として238万2966円を支出し,そ
れが本件事故と因果関係を有する損害となることは当事者間に争
いがない。
エ小計
原告A367万4651円
原告B319万1483円
原告らは,亡Dの損害賠償請求権を各2分の1ずつ相続しており
(各原告3894万6806円),これに,原告ら固有の損害を加え
ると,原告Aの損害額は4262万1457円,原告Bの損害額は4
213万8289円となる。
既払額3849万2414円
被告らからの既払額は3849万2414円であり(当事者間に
争いがない。),原告らの損害額から各1924万6207円を控除
すると,原告Aの損害額は2337万5250円,原告Bの損害額は
2289万2082円となる。
弁護士費用
本件訴訟の内容,経過等に照らすと,本件事故と相当因果関係を
有すると認められる弁護士費用は,460万円(各原告につき230
万円)とするのが相当である。
小括
以上からすると,原告Aの損害額は2567万5250円,原告B
の損害額は2519万2082円となる。
3結論
よって,原告Aの請求は,2567万5250円及びこれに対する平
成22年5月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を,
原告Bの請求は,2519万2082円及びこれに対する平成22年5
月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を,そ
れぞれ求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は棄却
することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文,6
5条1項ただし書を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ
適用して,主文のとおり判決する。
宮崎地方裁判所延岡支部
裁判長裁判官塚原聡
裁判官吉野俊太郎
裁判官早川伶奈

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採用情報


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答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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