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令和2年6月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成31年(ワ)第8945号発信者情報開示等請求事件
口頭弁論終結日令和2年3月4日
判決
主文5
1被告は,原告に対し,別紙侵害情報目録記載の情報を投稿した者に関するシ
ョートメッセージサービスが用いられる通信方式による電子メールに係る電子
メールアドレスを開示せよ。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は被告の負担とする。10
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
第2事案の概要
本件は,氏名不詳者が,ツイッター(インターネットを利用してツイートと15
呼ばれる140字以内のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワー
ク)上で,原告になりすまして,俗悪なユーザー名でアカウントの登録をした
上,これを使用して,原告の顔写真を添付して上記アカウント開設に係る投稿
をしたことにより,原告の肖像権や名誉感情が侵害されたとして,原告が,上
記氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)に対する損害賠償請求権の行使20
のために,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開
示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項にいう開
示関係役務提供者に当たる被告に対し,同法同条同項に基づき,本件発信者の
氏名,シンプルメールトランスファープロトコルが用いられる通信方式(以下
「SMTP方式」という。)による電子メールに係る電子メールアドレス及び25
ショートメッセージサービスが用いられる通信方式(以下「SMS方式」とい
う。)による電子メールに係る電子メールアドレスの開示を求める事案であ
る。
1前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠等により認められる。)
(1)原告は,本件口頭弁論終結時において,a高等学校に通い,ヴァイオリン
を専攻している高校3年生であった者である(甲2)。5
(2)被告は,ツイッターを管理・運営する法人であり,法4条1項にいう「開
示関係役務提供者」に当たる。
(3)氏名不詳者(本件発信者)は,ツイッター上で,原告と同姓同名の「A」
をアカウント名とし,「@✖▲■」をユーザー名(アカウントの使用者を特定
するためのもの)とするアカウント(以下「本件アカウント」という。)を10
登録し,これを使用して,原告の顔写真を添付の上,「b小→c中→d64
期ヴァイオリン専攻Aの裏垢」などと記載して,本件アカウント開設に係
る別紙侵害情報目録記載の情報を投稿した(以下「本件投稿」という。)(甲
1,2)。
(4)被告は,別紙発信者情報目録記載の各情報のうち,同別紙記載3の情報の15
み保有しており,同目録記載1及び2の各情報は保有していない(弁論の全
趣旨)。
2争点
(1)原告の権利が侵害されたことが明らかであるといえるかどうか(争点1)
ア原告の主張20
(ア)肖像権侵害
本件アカウントは,本件発信者が,ツイッター上で,原告と同姓同名
のアカウント名を用いることにより,原告になりすまして登録し,「A
の裏垢」(非公式アカウントという趣旨)などと記載してこれを使用し
ているものであるが,原告は,本件発信者に対し,原告自身の顔写真を25
使用することを許諾していない。
特に,本件アカウントのユーザー名は,「@✖▲■」であるところ,こ
れは「✖」「▲」「■」と読むことができ,女タラシで,自慰行為をし
て,「■」と叫んでいる状況を表現しているものと読み取ることができ
る。
上記ユーザー名と共に,原告の顔写真が用いられるなどしたことで,5
原告は,そのクラスメイトから,「✖」と中傷されるなどした。
原告が高校3年生であり,多感な年ごろであることを踏まえると,こ
のような原告の顔写真の使用は,原告の肖像権を侵害するものであり,
社会生活上受忍すべき限度をはるかに超えている。
(イ)名誉感情侵害10
本件アカウントを読む一般の読者は,本件アカウントを上記(ア)のと
おり読むのが自然であるから,原告の写真と共にそのようなアカウント
名が付けられることは,多感な年ごろの原告にとって,社会通念上許さ
れる限度を超えた侮辱行為に当たる。
イ被告の主張15
本件アカウントのユーザー名である「@✖▲■」は,一見して意味不明
なものであり,原告が主張するような意味内容を読み取ることはできな
い。
よって,本件アカウントにおける原告の顔写真の使用は,社会通念上受
忍限度を超えるものではないし,上記ユーザー名が原告の名誉感情を侵害20
するものともいえない。
(2)別紙発信者情報目録記載3の情報が特定電気通信役務提供者の損害賠償責
任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定
める省令(以下「本省令」という。)3号にいう「電子メールアドレス」に
該当するかどうか(争点2)25
ア原告の主張
(ア)プロバイダ責任制限法の「電子メール」については,SMTP方式に
よる電子メールとSMS方式による電子メールが含まれる。
このことは,同法3条の2第2号が引用する公職選挙法142条の3
第3項が,「電子メールアドレス」や「電子メール」について,さらに
特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(以下「特定電子メール5
法」という。)2条の定義を引用しているところ,その下位規範たる特
定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を
定める省令によって,上記電子メールの通信方式がSMTP方式とSM
S方式とされていることから明らかである。
(イ)それゆえ,SMS方式による電子メールに係る電子メールアドレス10
も,本省令3号にいう「電子メールアドレス」に該当するから,別紙発
信者情報目録記載3の情報も,上記電子メールアドレスに該当する。
イ被告の主張
(ア)本省令の立法者である総務省が,いわゆるパブリックコメントの回答
において,公式見解として電話番号を発信者情報開示請求の対象としな15
いことを明確に述べていること,本省令は,発信者情報として開示請求
の対象となり得る情報のうち必要最小限の情報のみを限定列挙したもの
であること,本省令が制定された平成14年当時,プロバイダ責任制限
法3条の2及び公職選挙法142条の3は存在せず,特定電子メール法
2条3号の「電子メールアドレス」に,携帯電話番号は含まれていなか20
ったこと,及び,一般的な語法として,必ずしも「電子メール」及び
「電子メールアドレス」にSMS方式による電子メール及び携帯電話番
号が含まれるものではないことからすると,本省令の制定当時の解釈論
として,SMS方式による電子メール及び携帯電話番号は,本省令3号
の「電子メール」及び「電子メールアドレス」に該当しないものと解さ25
れていたというべきである。
(イ)また,その後,平成21年に特定電子メール法が改正され,その規制
対象である「電子メール」にSMS方式による電子メールが追加された
際も,本省令3号は改正されていない。
さらに,平成27年に本省令が改正された際のパブリックコメントに
対する回答や,平成30年の国会答弁においても,総務省は,携帯電話5
番号を含む電話番号が発信者情報開示請求の対象とならないことを明ら
かにしている。
(ウ)以上の各事情によると,SMS方式による電子メール及び携帯電話番
号は,本省令3号の「電子メール」及び「電子メールアドレス」に該当
しないものと解さざるを得ない。10
(3)原告が発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるかどうか(争点
3)
ア原告の主張
原告は,本件発信者に対して不法行為に基づく損害賠償請求を行うため
に,別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を受ける必要がある。15
イ被告の主張
不知ないし争う。
第3争点に対する判断
1争点1(原告の権利が侵害されたことが明らかであるといえるかどうか)
(1)人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,個人の人格の20
象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだり
に利用されない権利を有すると解される(最高裁判所平成24年2月2日第
一小法廷判決・民集66巻2号89頁等)。
もっとも,人の肖像等を無断で使用する行為が不法行為法上違法となるか
どうかは,対象者の社会的地位や,当該使用の目的,態様及び必要性等を総25
合考慮し,対象者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える
ものといえるかどうかを判断して決すべきである。
(2)前記第2の1(3)のとおり,本件発信者は,原告と同姓同名の「A」とい
うアカウント名及び「@✖▲■」というユーザー名で本件アカウントの登録
をし,原告の顔写真を添付の上,「b小→c中→d64期ヴァイオリン専攻
Aの裏垢」などと記載して,本件投稿をしたものである。5
原告は,ヴァイオリンのコンクールにおいて入賞歴があるとはいえ,飽く
まで私人である高校3年生であって(甲2),もとよりその肖像等を無断で
使用されることを受忍しなければならないような社会的地位にはない。
そして,上記のとおり,本件投稿が,原告以外の第三者である本件発信者
が,原告と同姓同名のアカウント名を登録し,原告の経歴を紹介した上で,10
「Aの裏垢」などと記載してされたものであることからすると,本件発信者
は,あたかも本件アカウントが原告自身の非公式のアカウントであるかのよ
うに装い,原告になりすまして本件投稿をしたものであると認められ,原告
の顔写真も,上記「なりすまし」の一環として使用されたものというべきで
ある。15
その上,そのユーザー名は,「@✖▲■」と登録されているところ,このう
ち「✖」の部分は,ローマ字読みで「✖」と読むことができ,かつ,他に適
当な単語もないことから,そのように読むのが自然であるところ,これは,
「女誑し」という,女性を騙してもてあそぶことや,それを常習とする男性
を意味する言葉を容易に想起させる文言である。また,このうち「▲」との20
部分は,上記「✖」との文言と続けて読むことで,「▲」という自慰行為を
想起させる読み方をする文言と受け取られかねないものであり,少なくとも
本件発信者は,上記の読み方及び趣旨で上記ユーザー名を登録したものと合
理的に考えられる。なお,残り「■」との部分の読み方及び趣旨は必ずしも
判然としないものの,この点を除いた上記部分のみでも,本件アカウントの25
ユーザー名は俗悪な印象を与えるものであるということができる。
そして,原告が,通学している高校において,他の生徒から「✖」と呼ば
れ,揶揄され,その保護者の間でも原告について不当な噂が流布されている
ことがうかがわれる状況にある(甲2)。
以上によると,本件発信者は,原告を不当に貶める目的で,原告になりす
まして本件アカウントを登録・使用し,その一環として原告の顔写真を原告5
に無断で使用したものと認められるから,上記顔写真の使用の目的は不当な
ものであり,およそ必要性は認められず,使用の態様も悪質であるといわざ
るを得ない。
以上の各事情を総合考慮すると,本件投稿による原告の肖像権侵害は,社
会生活上受忍の限度を優に超えるものというべきであり,本件投稿は不法行10
為法上違法となることが明らかである。
したがって,本件投稿により原告の権利が侵害されたことは明らかであ
る。
2争点2(別紙発信者情報目録記載3の情報が本省令3号にいう「電子メール
アドレス」に該当するかどうか)15
(1)発信者情報開示制度の趣旨及び沿革
アプロバイダ責任制限法(平成13年11月30日制定,平成14年5月
27日施行。)2条1号にいう特定電気通信による情報発信は,他の情報
流通手段と比較して,他人の権利利益を侵害する情報の発信が容易であ
り,被害が際限なく拡大していくという特質を有している上,匿名あるい20
は仮名による情報発信を容易に行うことができるため,他人の権利利益を
侵害するような情報発信が匿名あるいは仮名で行われた場合には,加害者
(発信者)を特定して責任追及することができず,被害回復が極めて困難
となるという特徴を有する。しかも,他の不法行為類型の場合と比較し
て,発信者の範囲の絞り込みが極めて困難な場合が通常であるところ,特25
定電気通信においては,発信者と被害者との間に立って情報等の媒介を行
っている同法同条3号にいう特定電気通信役務提供者が存在しており,こ
の者が発信者の特定に資する情報を保有している可能性が高いため,特定
電気通信役務提供者を通じて発信者に関する情報を取得できる場合がある
反面,この者から情報を取得することができなければ,発信者の絞り込み
すらできないことになる。そのため,被害者が権利行使のために特定電気5
通信役務提供者からその保有する発信者の特定に資する情報(発信者情
報)の開示を受けることの必要性は高い。
他方,発信者情報は,発信者のプライバシー及び匿名表現の自由,場合
によっては通信の秘密として保護されるべき情報である上,その性質上,
いったん開示されてしまうと原状回復は不可能であるから,これがみだり10
に開示されることは回避されなければならない。
このような問題状況を踏まえ,プロバイダ責任制限法4条1項は,一定
の厳格な要件が満たされる場合に限って,権利が侵害されたとする者の請
求により,特定電気通信役務提供者にその保有する発信者情報の開示に応
ずべき義務を負わせたものである。15
イまた,被害者の権利行使の観点からは,なるべく開示される発信者情報
の幅は広くすることが望ましいが,一方で,前記のとおり,上記情報が個
人のプライバシーに深くかかわる情報であって,表現の自由や通信の秘密
として保護され得る事項であることに鑑みると,被害者の権利行使にとっ
て有益であるが,必ずしも不可欠とはいえないような情報や,高度のプラ20
イバシー性があり,開示をすることが相当とはいえない情報まで開示の対
象とすることは許されない。加えて,将来予想される急速な技術の進歩や
サービスの多様化により,開示関係役務提供者が保有している情報であっ
て開示請求をする者の損害賠償請求等に有用と認められるものの範囲も変
動することが予想され,それにより開示の対象とすることが相当であるも25
のとそうでないものが生じ得ることが考えられるが,それら全てを立法段
階で規律することは不可能である。そこで,プロバイダ責任制限法は,総
務省令によって発信者情報の範囲を画することとしたものである。
上記法の委任を受け,平成14年5月22日に制定された本省令(平成
14年総務省令第57号〔平成23年総務省令第128号による改正前の
もの〕。平成14年5月27日施行。)において,次のとおり発信者情報が5
定められた。
(ア)発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称(1号)
(イ)発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所(2号)
(ウ)発信者の電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するため
の文字,番号,記号その他の符号をいう。)(3号)10
(エ)侵害情報に係るIPアドレス(略)(4号)
(オ)前号のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から開示関係役務
提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時
刻(5号)
これらは,発信者情報が,通信の秘密や表現の自由という重大な権利利15
益に関する問題である上,いったん開示されてしまうと原状回復が不可能
であるという性質を有していることから,訴訟による権利回復を可能にす
るという発信者情報開示制度の趣旨に照らして必要最小限の範囲に予め限
定して定められたものである。
本省令制定に際しての意見募集においては,電子メールアドレスは発信20
者情報として不要ではないかとの意見も提出されたが,特定電気通信役務
提供者の中には,無料の電子掲示板の設置者等,氏名や住所を通常は保有
していないものも存在するところ,このような場合でも電子メールアドレ
スやIPアドレスは記録されていることがあるものと考えられたため,こ
れらの情報も権利回復を可能にするための必要最小限の範囲に含まれるも25
のとして,上記のとおり発信者情報として定められた(乙3)。
他方,本省令制定に際しては,電話番号やファックス番号等についても
発信者情報に含めるべきではないかとの意見も存在したが,これらの情報
を保有している特定電気通信役務提供者は,通常,氏名及び住所も保有し
ているものと想定され,請求の相手方を特定し,法的な権利回復措置を可
能とするためには,上記氏名及び住所が開示されれば足り,敢えて電話番5
号やファックス番号まで開示させる必要は低いとして,これらの情報は発
信者情報には含まれなかった(乙3)。
ウその後,本省令は,平成23年及び平成27年にそれぞれその一部が改
正され(平成23年総務省令第128号及び平成27年総務省令第102
号),インターネット接続サービス利用者識別符号及びSIMカード識別10
番号並びにポート番号が発信者情報として追加されたが,電子メールアド
レスに係る規定は改正されていない。
また,上記平成27年改正に際しての意見募集においては,発信者情報
に電話番号が追加されていないことは問題であるとの意見も提出された
が,電話番号は発信者情報に追加されなかった(乙6)。15
なお,本省令は,平成28年にもその一部が改正されているが,発信者
情報の内容に実質的な変更はない(平成28年総務省令第30号)。
エまた,公職選挙法の一部を改正する法律(平成25年法律第10号)に
よる改正により,プロバイダ責任制限法に公職の候補者等に係る特例(同
法3条の2)が新設され,同法同条において,「電子メールアドレス等」20
は,上記改正法により同時に新設された公職選挙法142条の3第3項に
規定する電子メールアドレス等をいうものとされた。
そして,同法同条同項は,「電子メールアドレスその他のインターネッ
ト等を利用する方法によりその者に連絡する際に必要となる情報」をもっ
て「電子メールアドレス等」としているところ,ここにいう「電子メール25
アドレス」は,特定電子メール法2条3号に規定する電子メールアドレス
をいうものとされ,さらに,公職選挙法142条の3第1項は,同法にお
ける「電子メール」は,特定電子メール法2条1号の電子メールをいうも
のとした。
(2)その他の関連法令の定め
ア平成14年4月17日に制定された特定電子メール法(同年7月1日施5
行。)は,電子メールを,「特定の者に対し通信文その他の情報をその使用
する通信端末機器(入出力装置を含む。〔略〕)の映像面に表示されるよう
にすることにより伝達するための電気通信(略)であって,総務省令で定
める通信方式を用いるものをいう。」とし(同法2条1号),電子メールア
ドレスを,「電子メールの利用者を識別するための文字,番号,記号その10
他の符号をいう。」とした(同法同条3号)。
イ特定電子メール法の委任を受けて,特定電子メールの送信の適正化等に
関する法律施行規則(平成14年総務省令第66号。同年7月1日施
行。)1条は,同法2条1号の総務省令で定める通信方式を「シンプルメ
ールトランスファープロトコル」(SMTP方式)とする旨定めた。15
その後,特定電子メールの送信の適正化等に関する法律施行規則の一部
を改正する省令(平成17年総務省令第148号。同年11月1日施
行。)による改正により,同法2条1号の総務省令で定める通信方式に,
「携帯して使用する通信端末機器に,電話番号を送受信のために用いて通
信文その他の情報を伝達する通信方式」(SMS方式)が加えられた。20
なお,その後,特定電子メールの送信の適正化等に関する法律施行規則
の一部を改正する省令(平成20年総務省令第121号。同年12月1日
施行。)による改正により,上記SMTP方式に係る規定について,「その
全部又は一部においてシンプルメールトランスファープロトコルが用いら
れる通信方式」とその表現が改められ,平成21年8月28日には,特定25
電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定め
る省令(平成21年総務省令第85号。同年9月1日施行。)が制定さ
れ,同省令において,従前と同一の方式が同条同号にいう総務省令で定め
る通信方式として定められた。
(3)判断
ア上記(1)で説示したとおり,本省令は,特定電気通信を用いた情報発信5
による権利侵害が,際限なく拡大する恐れがある反面,発信者を特定する
ことが困難であるという特徴を有することから,その権利回復を可能とす
るため,一定の厳格な要件の下,特定電気通信役務提供者に対し,発信者
の特定に資する情報の開示に応ずべき義務を負わせることとしたという発
信者情報開示制度の趣旨を前提とし,他方において,発信者情報の開示10
が,通信の秘密や表現の自由という重大な権利利益に関する問題である
上,いったん開示されてしまうと原状回復が不可能であるという性質を有
していることから,その対象を必要最小限の範囲に予め限定することとし
て,発信者情報を限定列挙している。
そして,その制定当初から,特定電気通信役務提供者の中には,氏名や15
住所を通常は保有しておらず,電子メールアドレスやIPアドレスしか記
録していない者も存在すると考えられたことから,「発信者の電子メール
アドレス(電子メールの利用者を識別するための文字,番号,記号その他
の符号をいう。)」も発信者情報の一つとして定められている。
ところで,電子メールには,種々の通信方式によるものが存在するが,20
ここでいう「電子メール」がいかなる通信方式によるものかについては,
本省令は少なくともその文言上,何ら限定は加えられていない。
また,プライバシー権,表現の自由及び通信の秘密の観点から,電子メ
ールの通信方法によりその侵害の危険性や程度が類型的に異なるものとは
考えられない。25
さらに,本省令が電子メールアドレスを発信者情報の一つとして定めた
のは,上記のとおり,氏名や住所を通常は保有しておらず,電子メールア
ドレスやIPアドレスしか記録していない特定電気通信役務提供者もいる
ため,そのような特定電気通信役務提供者が保有する発信者の情報を得ら
れるようにするためであると解される。
そうすると,少なくとも本省令3号の文言やその趣旨に照らすと,同号5
にいう「電子メール」には,SMS方式による電子メールアドレスも含ま
れ,特定電気通信役務提供者が電子メールの利用者を識別するための情報
として,携帯電話番号と同様の情報を保有する場合において,当該携帯電
話番号は,本省令3号が定める「発信者の電子メールアドレス(電子メー
ルの利用者を識別するための文字,番号,記号その他の符号をいう。)」に10
該当するものと解するのが相当である。
イそして,前記(1)イ及び同(2)のとおり,平成14年4月17日に制定さ
れた特定電子メール法2条3号は,電子メールアドレスについて,「電子
メールの利用者を識別するための文字,番号,記号その他の符号をい
う。」と定義し,同年5月22日に制定された本省令においても同一の定15
義が採用されている上,他の法令(公職選挙法142条の3第3項,特定
興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関
する法律2条3項3号イ等)においても「電子メールアドレス」の定義と
して特定電子メール法2条3号が引用されている。また,同法同条1号
が,「電子メール」を「総務省令で定める通信方式を用いるもの」とし,20
これを受けて,特定電子メールの送信の適正化等に関する法律施行規則
(ただし,平成21年9月1日以降は,特定電子メールの送信の適正化等
に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令)がその通信方式を定
めているところ,他の法令(公職選挙法142条の3第1項,暴力団員に
よる不当な行為の防止等に関する法律30条の9第2号,不正アクセス行25
為の禁止等に関する法律7条2号等)においても「電子メール」の定義と
して特定電子メール法2条1号が引用されているほか,平成25年の法改
正により追加されたプロバイダ責任制限法に公職の候補者等に係る特例
(同法3条の2)において「電子メールアドレス等」の定義として公職選
挙法142条の3が引用されている。
このように,「電子メールアドレス」及び「電子メール」という法令用5
語については,特定電子メール法及び同法により委任された総務省令(以
下,併せて「特定電子メール法等」という。)による定義規定を中心とし
て,本省令を含む他の法令がこれと同一の定義を採用し,又はこれを引用
するという体系的な構造が構築されているということができることからす
ると,本省令における「電子メール」についても,特定電子メール法にお10
けると同様,同法の委任する総務省令によって定められたSMS方式によ
るものを含むと解することには十分な合理性がある。
また,本省令を上記のとおり解釈したとしても,特定電気通信役務提供
者がSMS方式の電子メールアドレスとして携帯電話番号の情報を保有し
ている場合と異なり,専ら電話番号としての携帯電話番号の情報を保有し15
ている場合には,その電話番号としての携帯電話番号の情報が本省令3号
にいう「電子メールアドレス」に該当しないことは当然であり,同号の適
用において明確さを欠くということもない。
したがって,本省令3号にいう「電子メール」には,特定電子メール法
等と同様,SMTP方式による電子メールのみならず,SMS方式による20
電子メールも含まれるものと解すべきである。
ウ以上によると,SMS方式による電子メールは本省令3号にいう「電子
メール」に当たるというべきであるから,特定電気通信役務提供者が,そ
の利用者を識別するための番号としてSMS方式による電子メールアドレ
スの情報として携帯電話番号と同様の情報を保有する場合,当該携帯電話25
番号は同号にいう「電子メールアドレス」に該当する。
そして,本件において,被告は,本件発信者に係る氏名及びSMTP方
式による電子メールに係る電子メールアドレスを保有しておらず,その携
帯電話番号の情報のみ保有しているのであり,本件アカウントの登録に当
たっては,当該携帯電話番号を用いてSMS方式により電子メールを送信
し,その認証を行ったものと合理的に推認されるから,被告は,SMS方5
式による電子メールの利用者を識別するための番号として上記携帯電話番
号の情報を保有しているものと認められる。
したがって,被告の保有する上記携帯電話番号の情報は,本省令3号に
いう「電子メールアドレス」に該当する。
(4)被告の主張10
ア被告は,本省令の立法者である総務省が,いわゆるパブリックコメント
の回答において,公式見解として電話番号を発信者情報開示請求の対象と
しないことを明確に述べており,本省令は,発信者情報として開示請求の
対象となり得る情報のうち必要最小限の情報のみを限定列挙したものであ
るから,SMS方式による電子メール及び携帯電話番号は本省令3号の15
「電子メール」及び「電子メールアドレス」に該当しないと主張する。
しかしながら,総務省のいわゆるパブリックコメントに対する「氏名及
び住所を開示させれば足り,あえて電話番号やファックス番号まで開示さ
せる必要は低い」(乙3)との回答における「電話番号」とは,氏名や住
所,ファックス番号と並列的に用いられる当該発信者の身元を確認するた20
めの個人情報としての電話番号を指すものと理解されるべきものであり,
SMS方式による電子メールに係る電子メールアドレスとしての携帯電話
番号のことをいうものではない。
他方で,上記回答においては,「他方,特定電気通信役務提供者の中に
は,無料の電子掲示板の設置者等,氏名や住所を通常は保有していない者25
も存在する。このような場合であっても,電子メールアドレスは記録され
ていることがあるものと考えられ,これらの情報も発信者を特定するため
の手掛かりになり得るものであるので,電子メールアドレスも開示請求の
対象に含めるのが適当である。」ともされており,このような考え方によ
ると,本件のように,特定電気通信役務提供者が,氏名や住所を保有して
おらず,専らSMS方式による電子メールの利用者を特定するための番号5
として携帯電話番号のみ保有している場合は,正に本省令が想定したとこ
ろであって,このような事態に対処するために発信者情報として定められ
た「電子メールアドレス」に,上記携帯電話番号が含まれないと解するこ
とは相当ではないし,被害回復のために発信者を特定する手掛かりになる
電子メールアドレスがSMS方式による電子メールについてのものであっ10
た場合に,これを開示請求の対象から除外する理由はないというべきであ
る。
イ被告は,平成14年当時,プロバイダ責任制限法3条の2及び公職選挙
法142条の3は存在せず,特定電子メール法2条3号の「電子メールア
ドレス」に,携帯電話番号は含まれていなかったことから,本省令3号に15
おける「電子メールアドレス」には携帯電話番号は含まれないと主張する
ほか,その後,平成21年に特定電子メール法が改正され,その規制対象
である「電子メール」にSMS方式による電子メールが追加された際も,
本省令3号は改正されておらず,平成27年に本省令が改正された際のパ
ブリックコメントに対する回答や,平成30年の国会答弁においても,総20
務省は,携帯電話番号を含む電話番号が発信者情報開示請求の対象となら
ないことを明らかにしているのであるから,SMS方式による電子メール
及び携帯電話番号は,本省令3号の「電子メール」及び「電子メールアド
レス」に該当しないものと解さざるを得ない旨主張する。
発信者情報開示制度や電子メール法等の沿革については前記(1)及び同25
(2)のとおりであることからすると,本省令制定当時,同省令の「電子メ
ール」の内容として,具体的にSMS方式による電子メールは想定されて
いなかったということができる。
しかしながら,特定電子メール法等が制定されて以降,「電子メール」
や「電子メールアドレス」という法令用語については,その定義規定を中
心とした体系的な構造が構築されており,本省令も特定電子メール法等と5
整合的に解釈すべきであることは,前記(3)イのとおりであり,同アのと
おり,本省令中の「電子メール」については,その通信方式について何ら
限定が加えられていないことからすると,同省令の制定当初において具体
的にSMS方式による電子メールが想定されていなかったとしても,その
ことによって「電子メール」がSMS方式による電子メールを排除してい10
るとまで解することはできないし,特定電子メール法等の上記改正に伴っ
て本省令3号が改正されなかったことは,上記のとおりの同法等を中心と
する体系的な構造を前提とすると,本省令の解釈に何らの影響を与えるも
のでもない。
逆に,特定電子メール法等の改正に伴って,「電子メール」にSMS方15
式による電子メールが含まれることとなり,同法を引用する他の法規にお
いても同様に解されるようになったにも関わらず,本省令3号にいう「電
子メール」についてのみSMS方式による電子メールを含まないと解する
とすれば,法解釈の混乱を招く結果となり,法的安定性を害するおそれが
あるというべきである。20
そうすると,本省令3号にいう「電子メール」や「電子メールアドレ
ス」は,特定電子メール法等の改正に伴ってその内容が整合的に改められ
るものと解するのが相当であり,平成17年総務省令第148号が施行さ
れた同年11月1日以降は,SMTP方式による電子メールに加え,SM
S方式による電子メールも本省令3号にいう「電子メール」に含まれるこ25
ととなったというべきである。
以上のほか,電話番号が開示の対象とならないとの回答や答弁の趣旨は
上記アのとおりであると認められるから(乙3,4,6),上記被告の主
張はいずれも採用することができない。
ウ被告は,一般的な語法として,必ずしも「電子メール」及び「電子メー
ルアドレス」にSMS方式による電子メールや携帯電話番号が含まれるも5
のではないとも主張するが,独自の見解であり,特定電子メール法にいう
「電子メール」にはSMS方式による電子メールが含まれ,そこでいう
「電子メールアドレス」にSMS方式による電子メールの利用者を特定す
るための番号である携帯電話番号が含まれるものと解されることから,被
告の主張を採用することはできない。10
エ被告は,平成23年の法改正により,インターネット接続サービス利用
者識別符号を開示の対象に追加するために本省令5号が新設されたが,上
記符号は,「利用者をインターネットにおいて識別するために」割り当て
られたものとされ,携帯電話又はPHSに係る端末系伝送路設備を識別す
るための電気通信番号である携帯電話番号やPHS番号はこれに含まれな15
いこととされた点についても指摘するが,これは,上記インターネット接
続サービス利用者識別符号に何を含めるかの問題にすぎず,本省令3号の
法解釈に影響を与えるものではないから,失当である。
3争点3(原告が発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるかどうか)
原告は,本件発信者に対し,不法行為に基づく損害賠償請求を行うことを予20
定しており,そのためには,本件契約者に係る別紙発信者情報目録記載の各情
報のうち,唯一被告が保有するという本件発信者に関するSMS方式による電
子メールに係る電子メールアドレスの開示を受けることが必要であると認めら
れ,その開示を受けることについて正当な理由がある。
4小括25
以上によると,原告の請求のうち,別紙侵害情報目録記載の情報を投稿した
者(本件発信者)に関するSMS方式による電子メールに係る電子メールアドレ
スの開示を求める点については理由があるが,他方で,別紙発信者情報記載の
各情報のうち,その余の情報については,被告がこれらを保有するものとは認
められないから,これらの情報の開示を求める点については理由がない。
第4結論5
以上の次第で,原告の請求は前記第3の4の限度で理由があるから,その範
囲でこれを認容することとし,その余は理由がないから棄却することとし,訴
訟費用については,民訴法64条ただし書の規定を適用し,その全部を被告に
負担させることとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第6部10
裁判長裁判官杜下弘記
裁判官古賀大督15
裁判官磯﨑優
(別紙)
発信者情報目録
別紙侵害情報目録記載の情報を投稿した者に関する情報であって,次に掲げるも
の5
1氏名
2SMTP方式による電子メールに係る電子メールアドレス
3SMS方式による電子メールに係る電子メールアドレス
以上
(別紙)
侵害情報目録
アカウント名A
ユーザー名@✖▲■5
閲覧用URLhttps://twitter.com/✖▲■
以上

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