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平成八年(ワ)第三三一二号 損害賠償請求事件
        判      決
      原       告    日本ブロアー株式会社
      右代表者代表取締役    【A】
      右訴訟代理人弁護士    高   橋   早 百 合
      右補佐人弁理士    【B】
                   【C】
      被       告    山洋電気株式会社
      右代表者代表取締役    【D】
      右訴訟代理人弁護士    尾   崎   英   男
        主      文
一 被告は、原告に対し、金五一七二万二五五〇円及びこれに対する平成八年三月
五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担と
する。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
        事実及び理由
第一 原告の請求
 被告は、原告に対し、二億〇三〇〇万円及びこれに対する平成八年三月五日から
支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、原告が被告に対し、被告による放熱器(CPUクーラー)の製造販売行
為が、原告が有していた実用新案権の侵害に該当すると主張して、損害賠償(実施
料相当額及び遅延損害金)を求めている事案である。
一 争いのない事実等
1 原告は次の実用新案権(以下、これを「本件実用新案権」といい、その考案を
「本件考案」という。)の権利者であった。
(一) 実用新案登録番号  第一九〇一一八三号
(二) 考案の名称  放熱器
(三) 出願年月日  昭和五六年二月二七日
(四) 出願公告年月日  平成三年四月五日
(五) 登録年月日  平成四年四月二〇日
(六) 存続期間満了日  平成八年二月二七日
2 本件実用新案権に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録
請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「吸熱板とフアン取付板との間に挟まれ前記吸熱板に板面が直角になるように取付
けられた複数の帯状フインと、前記フアン取付板に取付けられたフアンとから成
り、前記フアン取付板は、中央に空気吸入孔を有し、前記複数の帯状フインは、前
記吸熱板とフアン取付板との間で隣合うフインの間に放射方向の空気流れ通路を形
成するように放射状に配列され、且つ前記空気流れ通路の外端は前記吸熱板とフア
ン取付板との間の外縁付近で開口し、前記空気流れ通路の内端は前記フアン取付板
の空気吸入孔付近で開口していることを特徴とする放熱器」
3 本件で原告が損害賠償の対象とする、被告が製造販売した放熱器には、イ号物
件、ロ号物件及びハ号物件の三種類のものがあり(イ号物件、ロ号物件及びハ号物
件を、以下「被告製品」と総称する。)、それぞれの被告製品の構成は、別紙「第
一物件目録(イ号物件)」、同「第二物件目録(ロ号物件)」及び同「第三物件目
録(ハ号物件)」記載のとおりである。
 イ号物件、ロ号物件及びハ号物件は、別紙の各物件目録記載のとおり、その構成
が一部異なる部分があるが、本件考案の技術的範囲に属するか否かの判断に関して
は、これらを区別する必要はない。
4 平成六年一月一日から同八年二月二七日までの間、被告は、少なくとも次の数
量の被告製品を販売し、その販売金額は、次の金額を下らない。
  販売数量    販売金額
イ号物件  三八万二〇二〇台  三億八三二六万八〇〇〇円
ロ号物件   七万三〇〇〇台    七八六七万二〇〇〇円
ハ号物件 一二二万五〇〇〇台 一二億六二一四万五〇〇〇円
 合計 一六八万〇〇二〇台 一七億二四〇八万五〇〇〇円
二 争点及びこれに関する当事者の主張
1 被告製品が、本件考案の構成要件を充足し、その技術的範囲に属するか。
(原告の主張)
(一) 本件考案の構成要件は次のとおり分説できる(以下、それぞれの構成要件を
「構成要件(a)」などという。)。
(a) 吸熱板とファン取付板との間に挟まれた複数の帯状フィンと、ファン取付板に
取り付けられたファンとから成ること
(b) 複数の帯状フィンは、吸熱板に板面が直角になるように取り付けられているこ

(c) ファン取付板は、中央に空気吸入孔を有すること
(d) 複数の帯状フィンは、吸熱板とファン取付板との間で隣り合うフィンの間に放
射方向の空気流れ通路を形成するように放射状に配列されていること
(e) 空気流れ通路の外端は吸熱板とファン取付板との間の外縁付近で開口し、空気
流れ通路の内端はファン取付板の空気吸入孔付近で開口していること
(f) 以上を特徴とする放熱器であること
(二)(1) 被告製品の吸熱板16は構成要件(a)の「吸熱板」に、フランジ22は「ファ
ン取付板」に、ファン20(フランジ22を除いた部分)は「ファン」に、それぞれ相
当する。また、被告製品のフィン18は、ファン20のモータ回転子20Cがフランジ
22を越えて下方に突出されているので、このモータ回転子20Cを逃れるための切欠
きを有するが、上方から見るとほぼ帯状をしているから、構成要件(a)の「複数の帯
状フィン」に該当する。被告製品のフィン18は、吸熱板16とフランジ22との「間に
挟まれ」ている。被告製品のフランジ22はファン20に一体成型されており、ファン
20がフランジ22に「取り付けられ」ているといえる。
(2) 被告は、後述のとおり、本件考案におけるファン取付板とファンとは別の部材
であり、被告製品のフランジ22はファン20の一部であってファン取付板に該当しな
いと主張する。しかし、すべてのファンが必然的に取付手段を有しているものでは
なく、フランジ等の取付手段が常にファンの一部であるとはいえない。被告製品の
フランジ22は、①ファン20からフランジ22を除いた部分を他の部材に取り付ける、
②フィン18及び吸熱板16とともに水平な放射方向の空気流れ通路24を形成するとい
う、構成要件(a)の「ファン取付板」と同一の機能を有するものであって、「ファ
ン」(被告製品においては、ファン20からフランジ22を除いた部分)とは別の概念
として把握されるべきものである。
 また、構成要件(a)にいう「ファン取付板に取り付けられたファン」とは、ファン
とファン取付板とが組み立てられた状態で一体となっていることを意味しており、
別々の部材として製造されたファン取付板とファンとがその後に組み付けられた場
合と、両者が当初から一体成型された場合とを区別するものではない。
 さらに、ファン20のブレード20Dがフィン18の方へ突出されている点は、フラン
ジ22、ブレード20D及びフィン18の位置関係の問題にすぎず、本件考案の技術思想
に含まれるものである。
 したがって、被告製品のフランジ22は、本件考案の「ファン取付板」に該当す
る。
(3) 被告は、さらに、被告製品のフィン18は「帯状」でないと主張するが、帯状と
は「ある幅をもって長くのびているさま」をいうのであり、幅が変化するものも含
まれるから、被告製品のフィン18は、本件考案の「帯状フィン」に該当する。
(4) したがって、被告製品は、本件考案の構成要件(a)を充足する。
(三) 被告製品のフィン18は吸熱板16と一体成型されており、フィン18の板面は、
吸熱板16に対して厳密には直角ではないが、これは一体成型の際の型抜きを容易に
する上で設計上必然的に付さざるを得ない傾斜であるにすぎず、この程度の傾斜は
ほぼ直角であるということができる。また、本件考案においてフィンを吸熱板に
「取り付ける」手段は、別体とされた右両部材を溶接等により取り付ける場合に限
定されず、両者を一体成型して結合することもこれに含まれる。
 したがって、被告製品は構成要件(b)を充足する。
(四) 被告製品のフランジ22は、フレーム20Aの中空部を閉じることがないように
フレーム20Aに一体に取り付けられており、フランジ22の内縁はフレーム20Aの中
空部に連通する開口25を形成している。この開口25は、空気流れ通路24に空気を吸
入させる機能を有するから、被告製品は構成要件(c)を充足する。
(五) 被告製品のフィン18は、吸熱板16とフランジ22との間で、隣り合うフィン
18相互の間に空気流れ通路24を形成しており、この空気流れ通路24は、吸熱板16の
中央から外側に向けて離れていく方向に延びている。構成要件(d)の「放射方向の空
気流れ通路」及び「放射状に配列されている」とは、本件考案に係る明細書に記載
されたように、あらゆる方向の反りに対する機械的強度を向上し、また、空気の流
れがファンのほぼ中央から四方に向けて整流されることによって放熱効果を向上さ
せるための構成であるから、幾何学的に厳密な意味での「放射方向」、「放射状」
ではなく、右の効果を達成できるものであれば、これに含まれる。そして、別紙の
各物件目録の図面に記載されたとおり、被告製品のフィン18及び空気流れ通路
24は、右の効果を達成するのに十分な程度に放射状に配列され、放射方向に延びて
いるといえるから、被告製品は構成要件(d)を充足する。
(六) 被告製品の空気流れ通路24の外端24aは吸熱板16とフランジ22との間の外縁
で開口し、また、被告製品の空気流れ通路24の内端24bは開口25付近で開口してい
るから、被告製品は構成要件(e)を充足する。
(七) 以上によれば、被告製品は構成要件(a)ないし(e)を充足する放熱器であるか
ら、構成要件(f)も充足する。
(八) 被告製品は、(1)複数のフィン18が吸熱板16の上にほぼ放射状に配列されてい
るので、あらゆる方向の反りに対して機械的強度が向上する、(2)ファン20からの冷
却空気が、フィン18によって形成されるほぼ放射方向の空気流れ通路24によって整
流され、放熱効果が向上する、(3)ファン20がフィン18の上面に直接相対するように
配置されるので、放熱器は全体的に小型化される、という効果を有している。
 これらの効果は、本件考案の効果と同一である。
 被告は、被告製品が優れた性能を有していると主張するが、これらは本件考案の
技術的範囲に含まれるとした上での付加的なものにすぎず、本件実用新案権を侵害
することに変わりはない。
(九) したがって、被告製品は、いずれも本件考案の技術的範囲に属する。
(被告の主張)
(一) 被告製品は、次のとおり本件考案の構成要件を充足しない。
(1) 被告製品には本件考案の「ファン取付板」が存在しない。
 本件考案の放熱器は、「ファン」と「吸熱板」と「ファン取付板」とから成るも
のであり、「ファン」と「ファン取付板」とが別体のものであることは、「ファン
取付板に取り付けられたファン」という本件考案の実用新案登録請求の範囲の文言
から明らかである。
 これに対し、被告製品では、ファン20と吸熱板16とが直接結合されており、しか
も、ファン20のブレード20Dをファン20の下端部より下方に突出させ、かつ、フィ
ン18を外周部と内側とで高さが異なるように配置し、フィン18のうち内側の低い部
分の上方にできた空間部分に右の突出させたブレード20Dを収容するようにしてい
る。被告製品は、マイクロプロセッサの上に直接搭載されてこれを冷却するCPU
クーラーであるところ、右の構成を採用することによって高さ方向の大きさが小型
化されるので、高性能マイクロプロセッサをパソコン内部の狭い空間で効率よく冷
却することを可能にしている。本件考案のようにファンをファン取付板に取り付け
る構成を採用した場合には、ファンのブレードは必ずフィンの付いた吸熱板より上
方に位置することになるので、被告製品のように小型化されたCPUクーラーを実
現することはできない。右のように、被告製品は、ファン20のブレード20Dの先端
がフィン18の間に入り込み、ヒートシンク(フィンの設けられた構造体)と冷却フ
ァンとが一体になった構造を有するのであり、ファンとフィンの位置がファン取付
板によってはっきりと区別されているという本件考案とは異なる、新しいコンセプ
トに基づく製品である。
 原告は、被告製品のフランジ22が本件考案の「ファン取付板」に相当すると主張
するが、①「ファン取付板」とはファンが取り付けられる対象となる板であって、
ファンとは別の部材であることは本件考案の実用新案登録請求の範囲の文言から明
らかであること、②「ファン」とはブレードの回転によって空気の流れを作り出す
装置であり、この装置にはブレード、モータ及びこれらを支えるフレームが含ま
れ、これを他の部材に取り付けるために必要なフランジ及びネジ穴のような取付手
段を有していることからすれば、被告製品のフランジ22はファン20の一部であっ
て、「ファン取付板」に当たるものではない。なお、フランジのないファンも存在
することは争わないが、フランジの付いているファンにつき、フランジとそれ以外
の部分とに分けて、フランジ以外の部分をフランジのないファンであるということ
はできない。
 さらに、冷却フィンを放射状に配置した冷却装置は本件考案の出願前に公知であ
り(乙二二)、これと本件考案と比較した場合、本件考案の新規な構成は、「中央
に空気吸入孔を有するファン取付板」が存在し、フィンが吸熱板とこのような「フ
ァン取付板」との間に挟まれていることだけであるから、フランジ付きファンのフ
ランジがファン取付板に該当するという解釈は、本件考案の実用新案登録請求の範
囲の文言に反するだけでなく、右公知技術に対する本件考案の実質的新規性を失わ
しめるものであって、採用され得ないものである。
(2) 被告製品のフィン18は、本件考案の「帯状フィン」に該当しない。
 すなわち、右の「帯状」とは、本件明細書の記載から明らかなとおり、フィンの
表と裏の板面が平行な形状であることを意味している。ところが、被告製品におい
ては、フィン18のそれぞれは、内側ほど幅が狭く外側ほど幅の広いくさび型の形状
になっている。被告製品では、フィン18が右のような形状であることによって、こ
れが「帯状」である場合と異なり、その間の空気流れ通路24の幅が内側から外側に
向かうに従ってわずかずつ広がることになるので、通路を通る空気の流速をできる
だけ落とすことなく、空気が当たるフィン18の全表面積から効率よく熱を奪うこと
ができるのである。
(3) 被告製品のフィン18は、吸熱板16に板面が「直角」になるように「取り付けら
れ」ているものではない。
 すなわち、被告製品においては、フィン18と吸熱板16とがアルミダイキャストに
よって一体成型されているので、フィン18の板面は吸熱板16の垂直線に対し約二度
傾斜している。この傾斜は、鋳型から成型品を抜くために必要なものである。ま
た、本件考案は、フィンが吸熱板に「取り付けられている」こと要件としており、
両者が一体成型された構造を含んでいないのに対し、被告製品ではフィン18と吸熱
板16とが一体成型されているのであって、本件考案と構成が異なっている。
(4) 右(1)のとおり、被告製品にはファン取付板が存在しないから、ファン取付板
の中央の「空気吸入孔」も存在しない。
 被告製品の開口25は、ファン20が空気を外部に排出するために設けられたファン
20の一部分であるにすぎず、また、ファン20よりも下方に突出しているブレード
20Dが回転するための空間でもあって、空気を吸入する孔ではない。本件考案にお
いては、「中央に空気吸入孔を有するファン取付板」を備えることによって、ファ
ンから吐き出された空気の流れを空気吸入孔で中央部に集めてからフィン側に空気
を流すのに対し、被告製品ではヒートシンクの中に入り込んだブレード20Dとフィ
ン18が直接対向しており、フィン18の中央部にあるモータ部分の直下には空気が吐
出されないため、空気がドーナツ状にヒートシンクに対して吐き出されるのであっ
て、両者は空気の流れが異なるのである。
(5) 被告製品のフィン18は、「放射方向」の空気流れ通路を形成するように「放射
状に」配列されているものではない。
 本件考案にいう「放射状」とは、「中央の一点から四方に放出した形のもの」と
いう意味であり、複数の帯状フィンが吸熱板の中心の一点から四方に放出して配置
され、それによって空気流れ通路が「放射方向」に形成されることが、本件考案の
構成要件であるといえる。これに対し、被告製品のフィン18は、ブレード20Dの回
転方向に角度を付けて配置されており、フィン18を内側に延長しても一点には集ま
らない。そして、右のとおり角度が付けられていることによって、ブレード20Dの
回転によって回転方向のエネルギーが加えられた空気が流速を落とさずに空気流れ
通路24に流れ込むことができ、また、放射状の場合に比べると、角度が付いた分だ
けフィンの表面積が増すので、放熱面積が広がり、冷却性能を上げることができる
のである。
(二) 被告製品は、放熱器にファンを取り付けるという本件考案とは全く異なっ
た、ヒートシンク付きファンという新規な概念のCPUクーラーであるから、本件
考案に関する作用効果の議論は被告製品には適用されない。被告製品は、本件考案
とは異なる構成を採用することによって、次のとおり、CPUクーラーに要求され
る必要な効果を実現しているのであるのであって、本件考案とは作用効果を異にし
ている。
(1) 被告製品の放熱作用(冷却性能)は、吸熱板16とフィン18とが一体のアルミダ
イキャストであるため吸熱板16からフィン18への熱伝達がよいこと、下方に突出し
たブレード20Dの下部と外周が直接フィンに相対する配置になっているためファン
20から出た空気が直ちにフィン18に入射されること、フィン18が空気の回転方向を
考慮して角度を付けて配置されているためファン20から送出された空気が速度を落
とさず空気流れ通路24に入ること、フィン18が角度を付けて配置されているためフ
ィン18の放熱面積が増していること、空気流れ通路24が内側から外側にわずかずつ
広くなるように設計されているため空気が速度を落とさずにフィン18と接触できる
ことによって実現されている。
(2) 被告製品の機械的強度は、吸熱板16とフィン18とがアルミダイキャストで一体
成型されているため全体の剛性が向上していること、フィン18の付け根の幅が広く
フィン18自体の強度が強いこと、フィンを放射状ではなく角度を付けて配列してい
るためあらゆる方向の反り及びねじりに強いことによって実現されている。
(3) 被告製品においては、本件考案にいう「ファン取付板」を設けず、ブレード
20Dの下部をファン20のフレーム20Aから突出させ、ブレード20Dの一部がフィン
18と直接相対するという構成を採用しているため、本件考案よりも一層の小型化が
実現されている。
(三) したがって、被告製品は本件考案の技術的範囲に属さない。
2 原告が被告に請求し得る損害賠償の額
(原告の主張)
(一) 平成六年一月一日から同八年二月二七日までの間の被告製品の販売金額は、
イ号ないしハ号物件の合計で、四〇億六〇〇〇万円である。
(二) 本件考案の実施に対し受けるべき実施料の額(実用新案法二九条三項)は、
世間相場や同種技術分野における実績を考慮すると、被告製品の販売額の五パーセ
ントとするのが相当である。
 なお、相当な実施料率につき、被告は第三者との実施許諾契約と比較しての主張
をしているが、ドイツの会社との契約は、被告が被告製品の製造販売を開始する以
前の期間の実施料の支払を含んでおり、被告製品と同社の特許との関連は明らかで
ないこと、モータに関するものであって、ファンとヒートシンクとの組合せに関す
る技術である本件考案とは産業分野を異にしていること、被告製品の販売開始時点
で存続期間が満了している特許権を含んでいること等に照らせば、本件考案の被告
製品に対する相当実施料率の認定に当たっての参考とはならない。また、アメリカ
合衆国の特許については、契約上の実施料率を開示できないとしながら、原告への
実施料率はこれよりはるかに低いと主張するのは、それ自体意味のない主張であ
る。
 さらに、被告は、被告製品の販売高が多額となったのは被告自身の技術開発努力
に負うところが大きいと主張するが、そもそもファンをヒートシンクに一体化する
という本件考案の技術なくしては被告製品は成立し得ないのであるから、右の点は
実施料を減額する理由とならない。
(三) よって、原告は、被告に対し、本件実用新案権の侵害による損害賠償とし
て、右(一)の金額に右(二)の割合を乗じた二億〇三〇〇万円及びこれに対する平成
八年三月五日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損
害金の支払を求める。
(被告の主張)
(一) 被告製品の販売金額は、前記一4のとおりである。
(二)(1) 被告製品は、他社が追随できない、際だって優れた性能を有するマイクロ
プロセッサ専用のCPUクーラーである。被告はその卓越した技術によって、被告
製品の供給を通して社会に大きく貢献しており、本件実用新案権の侵害を理由に被
告が原告に多額の金銭を支払わなければならないとすると、それはむしろ技術の開
発を促進しようとする特許・実用新案制度の存在意義に反することとなり、社会的
不公正の結果を招来する。本件考案と被告製品とは技術分野が全く異なるものであ
って、本件考案は被告製品に対して何ら技術的に寄与するものではない。被告製品
の販売実績は、被告自身の開発した技術によって実現されているのであるから、被
告製品の販売による利益は、被告の研究開発投資に充てられるべきであり、この利
益を原告と分け合うことが社会正義に合致するとは考えられない。原告が主張する
五パーセントの実施料を支払っていたのでは被告の業務が成り立たないのであり、
そのような料率は本件において実施料相当額とはいえない。
(2) 被告は、被告製品の製造販売のために、権利者との間で二件の実施許諾契約を
締結している。
 一件は、ドイツの会社との契約で、ブラシレス直流モータ及びファンに関して同
社が日米欧各国に保有する多数の特許すべてにつき世界的に非独占的実施権を被告
に与えるというものであり、被告は、被告製品の販売価格の一・七パーセントを実
施料として支払っている。
 もう一件は、被告製品と類似した、ファンとヒートシンクを一体としたCPUク
ーラーに係るアメリカ合衆国特許に関するもので、被告は、実施料を一括払して、
非独占的実施許諾を受けている。その詳細は秘密保持義務の対象となっているので
開示できないが、被告製品一個当たりの実施料は極めてわずかである。
 右のとおり、被告は、本件考案に比べて被告製品に対し技術的にはるかに重要な
関係を持つ特許について、原告が主張するよりも相当低い料率で実施許諾を受けて
いる。本件考案は、被告製品からみると技術的完成度の極めて低い考案であるか
ら、本件実用新案権に対し支払われるべき実施料は、右の各契約に比べてはるかに
低額となるべきである。
(3) 以上によれば、被告製品に対する本件考案の実施料相当額は、被告製品の販売
額の〇・五パーセント以下とするのが相当である。
第三 争点に対する判断
一 争点1(被告製品が本件考案の技術的範囲に属するか)について
1 本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は前記(第二、一2)のとおりで
あるところ、これによれば、本件考案の構成要件は、原告主張(第二、二1(一))
のとおり分説することができる。被告は、被告製品が本件考案の技術的範囲に属さ
ない理由として、(1)被告製品には「ファン取付板」がないこと(構成要
件(a))、(2)フィンが「帯状」でないこと(構成要件(a))、(3)フィンが吸熱板に
「直角」に取り付けられていないこと(構成要件(b))、(4)「空気吸入孔」がない
こと(構成要件(c))、及び、(5)フィンの配置が「放射状」でないこと(構成要
件(d))の各点で、本件考案と構成を異にすること、(6)本件考案と作用効果が異な
っていること、を主張するので、順次検討することとする。
2 本件明細書には、本件考案の目的、効果等につき、以下の記載がある(欄及び
行数は、実用新案公報(甲一)のものを指す。)。
(一) 本件考案の技術分野(1欄15行ないし19行)
 本考案は、軸流ファンを取り付けて用いられて放熱作用を有効に行うことができ
る放熱器に関し、特にペルチエ効果素子から成るマイクロクーラー等に組み合わせ
て用いられるのに適したフィン型放熱器に関するものである。
(二) 従来技術及びその欠点(1欄20行ないし2欄7行)
 この種のフィン型放熱器は、一般に、吸熱板と、この吸熱板にフィン面が直角に
なるように取り付けられた多数のフィンとから成っている。従来技術では、これら
のフィンは、平行に並べて配列されているので、フィン面と直角の方向の列に対し
ては強いがフィン面と平行な方向の列には弱く、また空気の流れはフィンが延びる
方向に平行な一方向に限られているので、冷却空気の流れは方向性が悪く、放熱効
果が低く、したがってファンはフィンが延びる方向に冷却空気が供給されるように
取り付けることが要求されるため、放熱器が大型となって設置場所が限定される欠
点があった。
(三) 本件考案の目的(2欄8行ないし11行)
 上記の欠点を回避し、機械的強度が大きい上に放熱効果が高く、また設置場所が
限定されることがない放熱器を提供する。
(四) 本件考案の効果(4欄10行ないし20行)
 本考案によれば、上記のように、複数のフィンは平行でなく放射状に配列されて
いるのであらゆる方向の反りに対して強く機械的強度が向上し、またファンからの
軸線方向の冷却空気の流れは、放射状に配列されたフィンによって一方向ではな
く、放射方向に整流されて放熱効果が向上し、かつファンはこのファンからの冷却
空気からの流れがフィンの長さ方向に沿うように配置する必要がなくフィンの上面
に直接相対するように配置されるので放熱器は全体的に小型化され、放熱器の取付
けが制約されることがない。
3 「ファン取付板」の有無(構成要件(a))について
(一) 本件考案は、フィンが取り付けられた放熱器に関するものであり、「ファン
取付板」とは、実用新案登録請求の範囲に記載されたとおり、本件考案に係る放熱
器において、ファンと吸熱板とを取り付けている部材であり、かつ、吸熱板及びフ
ィンとともに空気流れ通路を形成する部材であると認められる。
 他方、被告製品も、別紙の各物件目録に示されたとおり、フィン18が取り付けら
れた吸熱板16とファン20とが一体になった放熱器である。そして、被告製品のフラ
ンジ22は、右各目録に「ファン20のフランジ22と吸熱板16とを二ヶ所でねじ結合し
て組み立てられている」(ただし、ハ号物件は、「ファン20のフランジ22と吸熱板
16とをフックによる嵌込み方式で結合して組み立てられている」)、「フランジ
22は、フレーム20Aに一体形成されている」、「隣り合うフィン18は、それらの間
に空気流れ通路24を形成し、この空気流れ通路24の上面は、一部がファン20のフラ
ンジ22によって閉じられている」と記載されているとおり、ファン20と吸熱板16と
を取り付けている部材であり、かつ、吸熱板16及びフィン18とともに空気流れ通路
24を形成する部材である。
 右のとおり、本件考案のファン取付板及び被告製品のフランジ22は、いずれも、
吸熱板とファンとが一体になった放熱器において、ファンと吸熱板とを一体化する
とともに空気流れ通路を形成する部材であるということができる。
(二) 被告は、フランジはファンの一部であって、ファンと別部材であるべきファ
ン取付板とは異なること、被告製品のフランジ22はファン20のフレーム20Aと一体
成型されていること、ブレード20Dの下端部がフィン18に入り込むような構成にな
っていること、本件考案の出願前に公知となっていた冷却装置があることを理由
に、被告製品のフランジ22は本件考案の「ファン取付板」に該当しないし、これに
ファンが「取り付けられ」ているものではないと主張している。
 しかしながら、フランジを含めた送風装置の全体がファンと呼ばれることがある
と認められる(乙六、一八、一九)ものの、「ファン」とは、「冷却空気の流れを
作るために機械的に作動されるブレードを備えた装置」(オックスフォード現代英
英辞典(第五版)。甲三)、「羽根車の回転運動によって気体を圧送し、その圧力
比が約一・一又は吐出し圧力約10kPa{1mAq}未満の送風機」(JISハンドブック 
ポンプ。甲二二)のことをいうものであり、フランジが存在しなくとも冷却空気の
流れを作るというファンの機能自体が妨げられるものではないのであるから、フラ
ンジが当然にファンの一部分であるということはできない。したがって、被告製品
のフランジ22は、ファン20のうちフランジ22を除いた部分(モータ固定子20B、モ
ータ回転子20C及びブレード20D並びにフレーム20A)を、フィン18が取り付けら
れた吸熱板16と一体化するために、ファン20の一部として設けられた部材であると
いうことができる。
 また、本件考案においては、ファンがファン取付板に「取り付けられ」ているこ
とが要件とされているところ、右の「取り付けられ」に関しては、本件考案は完成
された放熱器という物品に関するものであり、本件明細書の記載からみてもその組
立方法に特徴があるとはいえないこと、一般に物品を構成する場合、別々に作った
複数の部品をネジ、溶接等の方法により結合するか、初めから一体のものとして成
型するかは、いずれも慣用手段であることに照らすと、ファンとファン取付板とを
別部材として作成してその後に両者を結合する場合だけでなく、両者を当初から一
体成型する場合も、「取り付けられ」に含まれると解するのが相当である。
 さらに、被告製品は、フィン18がその外周部に比べ内周部の高さが低い段状に形
成されていて、ブレード20Dの下端部がフランジ22よりも下方に突出し、フィン
18に入り込んでいるという構成をとっているが、本件考案においては、ファン、フ
ァン取付板及びフィンの形状や相互の位置関係につき、放熱器としての作用を妨げ
ない限り、格別の制限は付されていないこと、ファンと別体であるファン取付板を
用いても、被告製品と同様の構造をした放熱器を作ることは可能であることからす
れば、被告製品が右のような構成をとっていることを理由に、被告製品のフランジ
22が本件考案のファン取付板と異なるということはできない。
 なお、被告が指摘する公知技術(乙二二)は、ファン取付板と吸熱板及びフィン
とで空気流れ通路を形成するという構成を示唆するものでないから、被告製品のフ
ランジ22が本件考案のファン取付板に該当するとの判断を妨げるものではない。
(三) したがって、被告装置のフランジ22は、本件考案の「ファン取付板」に該当
し、被告製品は「ファン取付板に取り付けられたファンとから成り」との要件を充
足していると認められる。
4 フィンが「帯状」であるかどうか(構成要件(a))について
(一) フィンの形状に関して、本件明細書には「帯状」であること以上にこれを定
義ないし限定する記載がなく、その言葉の通常の意味に従ってこれを解すべきこ
と、本件考案において、フィンは、ファン取付板及び吸熱板とともに放射方向の空
気流れ通路を形成するものであることに照らすと、「帯状」とは、厚みの少ないフ
ィンが、ある程度の幅(高さ)をもって、長く伸びていることを意味するものであ
ると認められる。
(二) 他方、被告製品のフィン18は、別紙の各物件目録に示されたとおり、上から
見ると、中央部に比べて外側の方が厚くなっていて、全体としてくさび形をしてお
り、横から見ると、外周部に比べ内周部の方が低いという段状に形成されている
が、全体的な形状としては、厚みの少なく、ある程度の幅(高さ)をもち、長く伸
びているものであるということができる。
 被告は、被告製品のフィン18が右のようにくさび形をしていることによって格別
の冷却効果を達成しており、本件考案の「帯状」フィンと構成を異にすると主張し
ている。しかしながら、右の効果は、冷却空気の流れが整流されて放熱効果が向上
するという本件考案の効果を奏した上で、さらに被告製品のフィン18が右のような
具体的形状をとることによって達成される効果であって、被告製品のフィン18が
「帯状」でないとする根拠となるものではない。
(三) したがって、被告装置のフィン18は、本件考案の「帯状フィン」に該当する
と認められる。
5 フィンが「直角になるように取り付けられ」ているかどうか(構成要件(b))に
ついて
(一) 被告は、被告製品はフィン18と吸熱板16とが一体成型されている点で本件考
案と構成が異なっており、フィン18の断面の両側面は、一体成型を行う上での必要
から、吸熱板16に垂直な線に対して約二度傾斜しているので、被告製品のフィン
18は吸熱板16に「板面が直角になるように取り付けられ」ていないと主張してい
る。
(二) そこで検討すると、まず、本件考案にいう「取り付けられ」の意味について
は、ファン取付板とファンとの関係について判示したところ(前記3(二))と同様
に解すべきであって、吸熱板とフィンとが一体成型された構成が本件考案の技術的
範囲から除かれているということはできない。
 また、被告製品におけるフィン18の板面の傾斜角度は約二度にすぎないものであ
り、フィン18の板面と吸熱板16の表面との角度は幾何学的意味における「直角」に
極めて近いといえる。そして、実用新案登録請求の範囲の「直角」という文言につ
いて、本件明細書中にこれをより詳細に説明する記載がないこと、本件考案におい
て、フィンは、吸熱板及びファン取付板とともに空気流れ通路を形成できるように
(ファンから送出される空気の流れを妨げないように)吸熱板に取り付けられてい
ればよいのであって、幾何学的に厳格な意味での「直角」でなければならないと解
すべき特段の技術的意義が認められないことに照らすと、右程度の軽度の傾斜があ
る場合も、「直角」の範囲に含まれるものと解するのが相当である。
(三) したがって、被告装置のフィン18は、吸熱板16に「板面が直角になるように
取り付けられ」ていると認められる。
6 「空気吸入孔」の存在(構成要件(c))について
(一) 本件考案の空気吸入孔は、ファンから送出された冷却空気を吸熱板とファン
取付板との間の空間に吸入するために、ファン取付板に設けられた孔である(本件
考案の実用新案公報(甲一)の3欄4行ないし8行参照)。
 他方、被告製品においては、別紙の各物件目録記載のとおり、被告製品の開口
25は、フランジ22の下面と同一面上に存在し、ファン20の軸線方向に空気が通過す
るものであって、空気流れ通路24の内端24bは開口25に開口しており、ブレード
20Dの回転によってファン20の上方開口から軸線方向に吸い込まれた空気は、開口
25を通過した後、吸熱板16に突き当たって水平方向に方向転換し、フランジ22及び
吸熱板16とフィン18とによって形成される空気流れ通路24の中に流れ込むという構
成がとられている。
 そうすると、被告製品の開口25は、ファン20から送出された冷却空気を吸熱板
16とフランジ22との間の空間に吸入するために設けられた、フランジ22を外周とす
る孔であるということができる。そして、被告製品のフランジ22が本件考案のファ
ン取付板に該当することは前記3のとおりであるから、被告製品の開口25は、本件
考案の空気吸入孔に該当すると認められる。
(二) これに対し、被告は、前述のとおり主張するが、被告製品にファン取付板が
存在しないとの主張を採用できないことは前記3(二)のとおりであるし、被告製品
の開口25は、ブレード20Dが回転するための空間であるとともに、ファン20が送出
する空気を通過させるための空間でもあること、本件考案の放熱器と被告製品とで
空気の流れが異なると認めることはできないこと(本件明細書の記載からは、本件
考案が、ファンから吐き出された空気の流れを空気吸入孔で中央部に集めるという
構成に限定されているとは認められないし、ファンのモータ部分の直下に空気が吐
出されない点は本件考案の放熱器も被告製品も同様であると解される。)に照ら
し、被告の主張は失当というべきである。
7 フィンが「放射状に配列され」ている(構成要件(d))との点について
(一) 本件明細書によれば、本件考案においてフィンの配列が「放射状」であるこ
とが要件とされているのは、これが平行に並べられていた従来技術とは異なるもの
であることを示すものであり、あらゆる方向の反りに対して機械的強度を向上させ
るとともに、ファンから送出される空気を整流して放熱効果を高めるために採用さ
れた構成であるといえる。また、本件明細書には、フィンの配列方向について「放
射状」であること以上に詳細な説明や限定等はされていないし、実施例として示さ
れた図面も本件考案に係る放熱器におけるフィンの配置を模式的に表したものにす
ぎず、図面に示された配列に限定するものでないことも明らかである。そうする
と、本件考案における「放射状」とは、ファンから送出されて空気吸入孔を通って
吸熱板の中央付近に吹き付けられた空気が吸熱板の外周部に向かって円滑に流出す
ることができるように、フィンが中央部から四方に広がって延びていることを示す
ものであって、必ずしも厳密に中心の一点から四方に放出する形状で配列されてい
る必要はないというべきである。そして、被告製品のフィン18は、別紙の各物件目
録の図面に示されたとおり、フィン18のそれぞれを延長した線が吸熱板の中心点で
交わるものではなく、中心の小円に外接して四方に延びる直線上に存するもので、
渦巻の外縁部に近い形状に配列されているものであるが、ファン20から吸熱板16の
中央付近に吹き付けられた空気を空気流れ通路24を通して外部に流出できるよう、
吸熱板16の中央の側から外部に向かって延びているものであるから、「放射状」に
配列されているものということができ、また、フィン18のそれぞれの間に「放射方
向」の空気流れ通路24を形成するものであると認められる。
(二) この点につき、被告は、前述のとおり、被告製品のフィン18は、中央の一点
から四方に放出されているものではないから本件考案とは構成を異にしており、そ
れにより本件考案にない効果を奏していると主張している。しかしながら、被告製
品のフィン18の配列が本件考案の「放射状」に該当することは右に判示したとおり
であって、被告の主張する冷却性能の向上という被告製品の効果は、放射方向にフ
ィンを配列することによって放熱効果が向上するという本件考案の効果を奏した上
で、さらに被告製品における具体的なフィンの配列方法により奏している効果とい
うべきであるから、これを理由に被告製品のフィンの配列が本件考案の「放射状」
に該当しないということはできない。
(三) したがって、被告製品は、本件考案の「複数の帯状フィンは、前記吸熱板と
ファン取付板との間で隣り合うフィンの間に放射方向の空気流れ通路を形成するよ
うに放射状に配列され」の要件を充足すると認められる。
8 本件考案と被告製品の作用効果について
 被告は、前述のとおり、被告製品は本件考案とは全く異なった新規な概念のCP
Uクーラーであり、本件考案と異なる構成を採用することによって、冷却性能、機
械的強度及び小型化の点における効果を実現しているのであるから、本件考案とは
作用効果を異にすると主張している。
 しかしながら、被告製品が本件考案の構成要件をすべて充足していることは、右
3ないし7に判示したとおりであり、また、右に判示したところによれば、被告製
品は右2記載の本件考案の作用効果をすべて奏するものというべきである。本件考
案は、本件明細書に「ペルチエ効果素子から成るマイクロクーラー等に組み合わせ
て用いられるのに適したフィン型放熱器に関するものである」、「放熱器は全体的
に小型化され、放熱器の取付けが制約されることがない」と記載されているとお
り、電子部品の冷却等に使用されることが示唆されているものであって、被告製品
が、本件考案と全く異なった新規の概念の製品であるということはできない。そし
て、被告の主張する被告製品の作用効果は、機械的強度の向上、放熱効果の向上及
び小型化という、本件明細書に示された本件考案の効果を奏した上で、被告製品に
おける具体的な構成に基づき本件考案の効果をより向上させたものであって、これ
をもって、本件考案と異なる独自の構成により得られる作用効果ということはでき
ない。
 したがって、この点に関する被告の主張も採用できない。
9 以上によれば、被告製品は、本件考案の構成要件をすべて充足し、かつ、本件
考案と同様の効果を奏するので、本件考案の技術的範囲に属すると認められる。し
たがって、被告がこれを製造販売した行為は、本件実用新案権の侵害に当たる。
二 争点2(損害の額)について
1 被告製品の製造販売数量及び販売金額
(一) 平成六年一月一日から同八年二月二七日までの間の被告製品の製造販売数量
及び販売金額については、一六八万〇〇二〇台、一七億二四〇八万五〇〇〇円の限
度で当事者間に争いがないことは、前記第二、一4のとおりである。
(二) 原告は、被告製品の販売金額について、右の額にとどまらず四〇億六〇〇〇
万円であると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(三) したがって、被告が右(一)の期間中に販売した被告製品の販売金額は、被告
の自認する一七億二四〇八万五〇〇〇円の限度で認められる。
2 相当実施料率
(一) 証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告製品は、インテル社製のマイクロプロセッサであるペンティアムの冷却用
ファンとして用いられており、高性能かつ小型のCPUクーラーとして高い評価を
得ている(乙一ないし四、一一ないし一五)。
(2) 被告は、被告製品の製造販売のために、ドイツのパプスト社から、同社が有す
る全世界の特許のうちブラシレスDCファンを対象とするものについて、販売価格
の一・七パーセントを実施料として支払うとの約定で、実施許諾を受けている(乙
二三の1、2)(なお、被告は、熱転移特性を有する低プロファイルのファン体に
関するアメリカ合衆国特許(乙一六)についても実施許諾を受けていると主張する
が、実施料の額など、許諾契約の具体的内容は証拠上明らかでない。)。
(3) 冷却対象物に対し空気を垂直に吹き付けて噴流冷却を行う冷却装置としては、
本件考案の出願前に、噴流の壁噴流領域に少なくとも壁噴流領域の高さを有する多
数の冷却フィンを流体の流れに沿って設けるという構成のものが公知となってお
り、冷却フィンを放射状に配置した実施例も開示されていたが(乙二二)、フィン
を取り付けた吸熱板とファンとを一体化させ、ファン取付板及び吸熱板とフィンと
によって空気流れ通路を形成するという構成をとった先行技術は、本件における証
拠上見当たらない。
(二) 右に認定した事実に、右一3ないし8において被告製品の構成やその効果に
つき判示したところを総合すると、被告製品は、ファン20のブレード20Dの下部を
フィン18に入り込むようにしたこと、フィン18をくさび形にしたり角度を付けて配
列したりすることなどによって、機械的強度及び放熱効果の向上並びに小型化を一
段と進め、これにより販売量が増加したということができるとしても、基本的に
は、ファンとフィンの取り付けられた吸熱板とを組み合わせ、放射方向の空気流れ
通路を形成した本件考案と技術思想を共通にするものであるから、原告が本件考案
の実施に対して被告から受けるべき相当な実施料は、被告製品の販売金額の三パー
セントと認めるのが相当である。
3 したがって、原告は被告に対し、実用新案権侵害による損害賠償として、実用
新案法二九条三項に基づき、右1の販売金額に右2の割合を乗じた五一七二万二五
五〇円を請求できるものと認められるから、原告の請求は、右金額及びこれに対す
る不法行為の後である平成八年三月五日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで
民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
三 よって、主文のとおり判決する。
(口頭弁論の終結の日 平成一一年六月二八日)
    東京地方裁判所民事第四六部
          裁判長裁判官    三   村   量   一
             裁判官    長 谷 川   浩   二
             裁判官    中   吉   徹   郎

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