弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対し昭和四七年二月二九日付でなした原告の昭和四五年一月から
昭和四六年一〇月までの各課税期間の料理飲食等消費税更正処分及びこれにともな
う過少申告加算金賦課決定処分は、いずれもこれを取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、飲食店業を営む会社であつて新潟市<地名略>にカフエー「バー由
美」を経営し、その料理飲食等消費税につき特別徴収義務者に指定されている者で
あるが、昭和四五年一月分から昭和四六年一〇月分までの各課税期間の右カフエー
利用客の料理飲食等消費税につき、その課税標準額及び税額を別表(一)の各申告
欄記載のとおり申告納入したところ、被告は昭和四七年二月二九日付で同表の各更
正処分等欄記載のとおりこれを更正し併せて附帯税として過少申告加算金の賦課決
定処分(以下併せて「本件更正処分」という)をした。
2 しかしながら、本件更正処分は、根拠のない見込みにより厖大な課税標準額を
恣意的に認定してなされた違法な処分である。
3 原告は、訴外新潟県知事に対し、本件更正処分につき昭和四七年四月二七日審
査請求をしたが、同知事は昭和四八年三月六日これを棄却した。
4 原告は本件更正処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実を認め、2の事実を否認する。
2 同3の事実を認め、4の主張を争う。
三 被告の主張
1 被告が、原告の申告にかかる別表(一)記載の料理飲食等消費税の課税標準額
の調査を行つたところ、次のとおりであつた。
(一) 右課税期間の原告経営のカフエー「バー由美」の料理飲食等消費税の申告
内容を調査したところ、原告が公給領収証正本とその写(二枚のカーボン複写)と
を別々に記入して不正使用していた事実が判明した。すなわち、昭和四六年九月二
三日、被告職員二名は、原告の経営するカフエー店舗「バー由美」において飲食
し、その代金五七二〇円を支払い同日付の金額五七二〇円の公給領収証正本(番号
K五六五一九四)を受領し、同時に同店に居合わせた一名の客の飲食代金が六〇〇
〇円台であることを確認していたが、同年一二月一五日、原告の保存していた公給
領収証写で右被告職員や前記の客の飲食代金等支払いに該当するものを調査したと
ころ、日付、金額で符合するものはなく、原告保管の売上伝票の上でもこれに符合
するものが見当らなかつた。ところが、被告職員の受領した公給領収証番号K五六
五一九四に対応する同領収証写には、日付欄に昭和四五年九月二一日、人数欄には
一名と、金額欄には一八七〇円と記入されていて、この公給領収証写は被告職員に
渡された公給領収証正本とは全く別個に記入されていたことが明らかとなつた。ま
た、昭和四六年九月二三日の日付のある公給領収証写は番号L〇三一一六〇ないし
〇三一一六三の四枚で、いずれも売上伝票に符合していたけれども、被告職員及び
約六〇〇〇円の料金と確認していた他の一名の客の料金額に該当するものはなかつ
た。
公給領収証用紙は、特別徴収義務者において保管する公給領収証写と利用客に交付
する公給領収証の正本とが二枚綴りになつていて、一枚目の公給領収証写に記入す
れば、その裏側に塗布されたカーボンの働きにより、二枚目の公給領収証正本にそ
のまま複写できるようになつているのであるから、不正使用しようとしなければ、
公給領収証写と公給領収証正本とで異る記載となることは本来起りえないことにな
つている。
(二) 被告は、右調査時以降原告に対し、備付けの総勘定元帳、売掛帳、入出金
伝票、振替伝票、売上伝票、酒類納品書及び公給領収証の諸帳簿の提出を求めた
が、最重要の総勘定元帳については、被告の再三にわたる要請にもかかわらず昭和
四七年二月二一日に至るまで提示されなかつた。
2 原告の申告にかかる課税標準額は、原告の手元に保存されている売上伝票、公
給領収証写に基いている訳であるが、この売上伝票、公給領収証写自体が、右調査
結果に見られるとおり、故意に実際の料金と異る虚偽の料金を記入したものという
べき疑いがあるから、これを信用できる数額ということは到底できない。また、原
告の保管する諸帳簿についても、右のような経緯で作成された売上伝票を基礎とす
るものであるから、そのまま措信することのできないものである。そこで、被告に
おいて課税標準額を推計により算出するに及んだ。
3 課税標準額推計の方法は次のとおりである。
原告の店舗の属する業種にあつては、売上と仕入が密接な関係にあるので、原告の
昭和四四年一月分から五月分までの記帳にかかる総仕入額から一月当り平均仕入額
を出して、それに伸び率(昭和四四年中の一年間の自主申告による一人当り平均売
上額と、昭和四五年一月から昭和四六年一〇月までの自主申告による一人当り平均
売上額との間の伸び率)を乗じて、本件更正処分のなされた課税期間の仕入額を算
出し、これに原告の帳簿に記録されている当該期間の仕入額と売上額から算出され
る利益率を乗じて総売上額を算出し、これを基に各月毎の課税期間に申告額に応じ
て按分するという推計方法を用いた。計算は以下のとおりである。
(一) 原告の昭和四四年一月分から五月分までの記帳にかかる仕入額は別表
(二)記載のとおりで、総額五九万六一九七円で、一か月当り平均一一万九二三九
円となる。
(二) 昭和四四年一年間の別表(三)記載のとおりの申告売上額五三三万九二五
〇円を客の延べ人数三八九五人で割ると、一人当り売上額は一三七〇円となり、こ
れを切上げて一四〇〇円とした。昭和四五年一月分から昭和四六年一〇月分まで別
表(三)記載り申告売上額一〇七〇万七三二〇円を客の延べ人数六〇六一人で割る
と一七六七円となり、一〇〇円未満を切捨てて一人当り平均売上額を一七〇〇円と
した。従つて、この期間の伸び率は約一・二一五倍となる。
(三) 前記一ヵ月平均仕入額一一万九二三九円に、右のとおり算出された伸び率
一・二一五を乗ずると、一四万四八七五円となり、一〇〇〇円未満を切捨てて本件
各課税期間の一ヵ月仕入推定額を一四万四〇〇〇円とし、これに本件課税期間月数
二二を乗ずると、当該各期間の総仕入推定額は三一六万八〇〇〇円となる。
(四) 原告記帳にかかる昭和四五年一月分から昭和四六年八月分までの仕入総額
は一八八万九三一〇円、売上総額は九六二万一三四〇円であるから、利益率は約一
九・六パーセントとなり、切上げて二〇パーセントとして、これで前記推定仕入総
額を割ると総売上推定額は一五八四万円となる。
4 右の計算によると、右期間における推計売上額は合計一五八四万円と算出され
るが、原告の課税標準申告額は合計一〇七〇万七三二〇円であつたので、被告は昭
和四七年二月二五日、原告の意見を採り入れ、最終的に売上総脱漏額を金三四九万
一三〇円と算出し、それを右各月毎の各申告に対応させて按分したものを各申告額
に加えて課税標準額として、その一〇パーセントを税額と更正し、右脱漏額分につ
いて法定の過少申告加算金を付する旨の各更正及び賦課決定をしたものである。
四 被告の主張に対する認否
1 (一)被告主張1(一)中、被告職員の受領した公給領収証正本の番号及び記
載金額に符合する公給領収証写が存しなかつたことを認め、その余は不知。
(二) 同1(二)については、総勘定元帳の提示が若干遅れたことは認めるが、
遅延の原因は、たまたま時期が昭和四六年末にあたり、関与税理士の業務が多忙で
帳簿整理に時間を要したためで、整理を終えた後の昭和四七年二月には提示したも
のであり、被告の調査に対し故意にその妨害をしたものではない。
2 被告は、公給領収証正本とその写との不一致例一箇があるのを挙げて本件に関
する資料収集調査を尽したとしている。被告は、原告の関係帳簿が完備されてお
り、補助簿の記載にも誤りがないのにもかかわらず、この事実を無視し、更に一切
の事情聴取を行なわなかつた。実額把握に必要且つ充分な調査を尽したとは到底い
えない。
3 被告主張の推計方法については、次に述べるとおりの不合理がある。
(一) 被告は本件課税期間について総仕入額を推計するにあたり、昭和四四年一
月から五月までの「バー由美」の総仕入額を基礎としているが、当時は原告代表者
の姉Aの個人経営であり、その経営は同人を中心になされたごく個人的色彩の強い
ものであつた。原告は、昭和四四年六月設立されたが、これと共に前記Aは経営か
ら一切退き、原告代表者Bが中心となり、料理を主眼にする店として再発足したも
ので、法的にも経営実態においても同一性を欠くもので比較の基準となりえないも
のである。
(二) 被告は、原告店舗における客一人当りの消費額の伸び率を、対照期間とし
て昭和四四年の一年間と、昭和四五年一月から昭和四六年一〇月までを挙げ、その
間の客数と売上額とをもとに算出しているが、バーなどのかき入れ時である一一
月、一二月が除外されており、期間比較の方法として不適当である。また、料理を
主体とする営業に経営方針が変更されれば、一人当りの消費額に変更が生じるのは
当然であつて、物価変動等の事情を勘案しても、一人当りの消費額の伸びがただち
に総仕入額の伸びに正比例する根拠は全くない。
(三) 原告の関係帳簿は完備しており、仕入先等は伝票等により全て把握できる
筈であるのに、かかる調査をせず、勝手に総仕入額を推計しており、この点でも合
理性を欠く。
(四) しかも、総仕入額から総売上額を推計するについて、被告が信憑性を欠く
としている昭和四五年一月から昭和四六年八月までの被告の帳簿の数字から算出し
た利益率をそのまま信用できるとして用いるといつた自己矛盾を犯している。
(五) 被告は、その主張する推計方法により算出した税額を、原告が一度不満を
述べた段階でたちまち三二パーセント減額した。この事実自体、被告の計算の根拠
がないことを明瞭に物語つている。また、売上脱漏があつたとして、他の事業所得
税等の更正がなされていない事実もある。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1及び同3の事実は当事者間に争いがない。
二 推計課税について
1 地方税法における推計課税の許否
所得税法及び法人税法は、それぞれ明文(所得税法第一五六条、法人税法第一三一
条)をもつて推計により更正又は決定の処分ができることを規定しているが、これ
に対して地方税法は、かかる種類の明文の規定を置いていない。しかし、更正手続
について検討するのに、納税義務者の申告にかかる課税標準額ないし税額について
信頼を措き難く、他方において課税のための十分な直接資料もない場合、課税標準
又は税額の更正による税法所定の正当なる課税をなすことなく、これをなし得ない
ものとして更正の手段を否定してしまうことは、適正なる課税権の行使を怠り、ひ
いては課税負担の不公平を来すこととなり、およそ法律に従つた徴税の確保は期し
難い結果となる。かような基本の性格から考えると、地方税法においても更正によ
る課税を禁じているものとは到底解されないところ、当該更正処分をなし得べき直
接資料を把握できない場合、これに代えるに適切妥当な認定資料が収集され、やむ
を得ない補完として十分使用できるときには、間接事実、標準値、基準率等を用い
ることになるが、これらの資料の収集自体に、又はその結果からする推論に、推定
の介在することは避けられないというべく、むしろその正しさを期するためには、
その選択の方法が、行政庁の恣意に流れず、その推論もまた合理的になされれば、
足りるとすることが必要というべきである。課税の目的及び必要に照らせば、右の
ような方法を用いて得た判断は、たとい基礎となる客観的事実には完全に符合しな
いとしても、必要不可欠の処置として是認されるべきであり、地方税法においても
推計課税は一般論として許されているといわなければならない。このことは、所得
税法の適用に関し推計課税の明文の規定が存しなかつた頃においても、それを是認
した最高裁判所昭和三九年一一月一三日判決が同様の判旨を示していることからも
うかがい得るものである。
2 そこで、本件が推計課税によりうる場合であるか否かについて判断する。
(一) 被告職員が資料収集調査において原告から受領した公給領収証正本の番号
及び記載金額に符合する公給領収証写が存しなかつたことは当事者間に争いがな
く、原本の存在及び成立について争いのない乙第一号証、第二号証の一、二、第三
号証、第四、五号証の各一ないし四、領収証原本の存在及び成立その余の記載部分
の成立とも争いのない同第六ないし第一九号証、成立に争いのない同第二〇、二一
号証、第二二号証の一ないし一一、第二三号証の一ないし四、第二四号証の一ない
し五、第二五号証、二枚複写で一枚目(写)の裏に青カーボンが付いており上に書
いた文字はそのまま下の領収証(正本)に複写するようになつている公給領収証用
紙であることに争いのない検乙第一号証、証人C、同D、同E(第一、二回)の各
証言、原告会社代表者B尋問の結果(但し、後記認定に反する部分を除く。)並び
に弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、その余に左記認定を覆すに足りる
証拠はない。
(1) 原告代表者であるBとその姉Aは、昭和四三年二月一五日から新潟市<地
名略>において「バー由美」を経営していたが、昭和四四年六月二日法人成りして
右店舗の営業を引き継いだ。しかし、その前後を通じて、その店舗内部のテーブ
ル、椅子の配置や室内装飾の構造にはほとんど何らの変化がなく、取扱い品目も酒
類を中心とするもので、従業員数は接客係とバーテンが各一名ずつふえて、家族従
業員を含めた従前の従業員五名に対し、課税期間当時は六名となつているだけで、
営業形態には外見的に特段の変化はない。
(2) 原告の昭和四三年六月から昭和四四年五月までの一年間の売上総額は被告
の更正をうけて金六九一万九七二〇円と認定されたところ、昭和四五年一月から昭
和四六年一〇月までの二二か月間の申告売上総額は金一〇七〇万七三二〇円であ
り、そのうち昭和四五年一月から同年一二月までの売上総額は金五七一万四一六〇
円となつており、右金一〇七〇万七三二〇円の二二分の一二、すなわち当該期間の
年平均売上高を試算すると金五八四万〇三五六円となり、昭和四五年一年間の売上
総額及び昭和四五年一月から昭和四六年一〇月までの売上総額を基に算出した年平
均売上総額のいずれとも、昭和四三年六月から昭和四四年五月までの一年間の売上
総額を下回つている。
(3) 被告は昭和四六年九月二三日の資料収集調査において、原告から公給領収
証正本(番号K五六五一九四)の交付を受けていたが、同年一二月一五日課税標準
額調査の際に、原告提出の同領収証写の同一番号のものと対照してみたところ、金
額、人数及び日附の全ての点において符合せず、日附は約一年前に遡り且つ金額は
過少に記入されており、右調査に際し居合わせた客一名の六〇〇〇円台と確認され
た飲食代に相当する右日附のある写も存しなかつた。
(4) 被告において「バー由美」の利用客に交付する領収証について調査したと
ころ、私製領収証や通常の記入方法による限り当然に青色カーボンで複写されるべ
き公給領収証正本の金額欄に黒色ないし青色ボールペンで直接書き込まれている十
数枚の公給領収証正本が発見された。
(5) 原告は、従前昭和四四年五月分から昭和四五年六月分までの酒類売上本数
を過少に申告して、売上額を脱漏したとの理由で更正処分を受けたことがある。
(二) 以上の事実によると、原告の保管、提示にかかる証憑、諸帳簿上の売上高
には圧縮記入又は売上除外があるといわざるを得ない。原告は、利用客に交付され
る公給領収証正本と原告において保管する公給領収証写との不一致の生じる理由に
ついて種々述べるけれどもいずれも首肯し難いというほかはなく、地方税法第一二
九条の料理飲食等消費税に係る領収証の交付義務等の規定の趣旨に徴すると、上記
認定の原告の店舗における公給領収証正本及び写の分離使用による不正利用行為は
制度の本旨に真向から反し、およそ原告がそのほかに備えている補助簿、伝票等が
そのままでは相互に符合一致した数値に満ちているとしても、これらをすべて信用
できないという税務官署の認定には、原告が場合によつては提出し得る特段の事由
にかかる反証のない以上は、むしろ正当なものがあるという以外に致し方がない。
そうすると、存在する証憑、帳簿によつては売上高の実額は把握し難いし、利用客
の全てを追跡調査して売上高を把握する手段もないのであるから、本件は推計課税
により売上高すなわち課税標準額を算出することのできる場合であるというべきで
ある。
なお、原告代表者Bの尋問結果によれば、原告は地方税としての料理飲食等消費税
の上記の本件関係年月日の申告及び納税につき更正処分を受けたが、法人税法の適
用上は同法第二編第四章に定める青色申告の承認を受けている法人であることが認
められるところ、青色申告の承認を受けたものについては、その記帳にかかる帳簿
上の明白な誤りのある場合を除いて、推計による更正処分は許されないとする同法
適用上の問題があるから、付言するに、青色申告の承認を受けている事業者であつ
て料理飲食等消費税の特別徴収義務者に該当する者が、その売上額については国税
と取扱いを別にしてひとり地方税関係で更正処分を受けると、たしかに国税と地方
税とでは異なる認定上の取扱いを受け、納税義務者の安定を欠く惧れかないとはい
えない。しかし、両税は課税権の主体、課税の態様を別にしていること、本件でた
またま国税関係のいわゆる青色申告承認の取消しなる処分がなかつたという納税義
務者に利益な状態での不作為があるにすぎない事情であるので、これらの関係事実
を考慮すると、特にこの点で本件更正処分に違法事由を生じたとかいうことは認め
られず、むしろその検討すら必要でないといい得る。
3 推計方法の合理性について検討する。
(一) 被告がその推計に採用した基本方法は比率法であり、比率を得る資料とし
ては納税義務者の本人の過去一定期間の営業に関連する各種資料、徴憑を選出し、
これを比較検討するもので、方法自体としては種々考え得る推計方法中でも、比較
的に個別性、近似性の高いものに属するということができる。そして前記認定のと
おり、その対照する昭和四三年当時と本件課税期間との間では、実質上営業形態に
著しい変化はないと認められるから、右の限度では、比率法を本件に採用した点で
相当性が強いといつて差支えない。また、証人Eの証言(第一、二回)によれば、
被告は原告の納税申告、帳簿をもとに売上額を推計するに際し、その過程で算出さ
れた利用客一人当りの平均消費額の伸び率、仕入額と売上額との間の利益率等の各
種比率の数値については、近隣の同種、同規模、同様内容の飲食店業者の当該数値
との比較による相当性の検討を加味したうえで採用をしていたもので、このこと
は、推計過程を示すといえる調査結果報告書(乙第二二号証の二)には明示的には
記載されていないものの暗黙の前提とされており、単に原告帳簿の枠内における数
値の操作にとどまつていたものでないことが認められ、他に右認定を覆すに足りる
証拠はない。
(二) 本件推計の具体的方法は、被告の前回調査した時点において実額と認めた
昭和四四年一月から同年五月までの期間の仕入額を基礎とし、これに利用者一人当
りの平均消費額を前回の関係の調査対象期間における平均消費額と比較した伸び率
を乗じて本件調査対象期間の仕入額を算出し、これに本件調査期間の利益率を適用
して、この期間の売上額を算出し、更に原告代表者の意見を容れて約三二パーセン
ト減額して、これを対象月度に按分したものであるが、まず昭和四四年一月から同
年五月までの仕入額は実額であるから、これを基礎とすることには何らの問題がな
い。次に、利用客一人当りの平均消費額の伸び率については、原告の申告にかかる
利用客延べ人員と売上高を基礎とするものであつて、その申告売上額の絶対数は不
正確であるとしても、その伸び率は被告の把握する附近の同種、同規模、同様内容
の店舗における伸び率との比較においても適当なものと認められるというのである
から、他にこれを資料とすることにつき不合理と認めるべき事由の立証のない本件
では合理性がないといえない。また申告した売上高と仕入高とを基とする利益率の
適用についても、右の利益率は附近の同種、同規模、同様内容の店舗における利益
率と比較しても一致する範囲内にあるというのであり、更に売上額として算出した
数額を、原告の意見を採つて約三二パーセント減額して控えめに見積つているので
あるから、これが不合理であるとする特段の理由はない。もつとも、原告の帳簿上
の数値をもとに利用客一人当りの平均売上額の伸び率を算出する過程で、被告が一
年(一二ヵ月)と二二ヵ月との各一人当り平均売上額を対照している点は、原告が
主張するようにカフエー営業の年収に影響があると推測される一一、一二月を除外
しているので、期間対照の方法としては必ずしも十分に妥当でないものが混入され
ていないとはいえず、現に昭和四五年一月から一二月までを別表(三)により算出
すると、客数三六五九人売上総額五七一万四一六〇円となり、これをもとに右一年
間の一人当り平均売上額を考えると一五六一円となるから、二二ヵ月を通じての平
均売上額(申告額による場合の一七六七円)を前提とした場合よりも伸び率は一・
一三九四と少くなる訳である。しかし、対象期間は消費額が増騰傾向にある最近時
期(昭和四六年分)を取込めば当然に変動するし、対象期間を相互に一年ないし同
一月に対応させないことが合理性を欠き、ひいてはその結果である税額の算定にい
かに影響するかについては、右基準の数値を用いた推計の結果、内容によつてむし
ろ当否が定まるべきもので、本件では、後記のとおり、被告は更正前に原告に試算
した数額を連絡したうえ、その減額を実施しており、右昭和四五年一年間と対照し
た場合に出る伸び率により当裁判所が被告主張のとおりに試算した課税標準額一四
八五万円による税額よりもなお少い数額を採用したことになつていることが明らか
である。そこで、本件課税期間の仕入総額を推計し、記帳数値より算出した利益率
により総売上額を推計して行つたことは相当というべきである。
4 被告は、課税標準額調査により、課税標準額合計を金一五八四万円と一旦試算
し、原告申告額につき金五一三万二六八〇円を不足としたが、最終的には金三四九
万一三〇円を申告脱漏額として本件更正処分をしたことは当事者間に争いがない。
右の関係事実は、以上の諸認定事実をもとに考えると、課税権の主体である被告
が、納税者である原告の申出た課税標準とすべきカフエー・バー由美の営業の実態
にでき得る限り即応した税額を更正処分の結論として採用しようとした意思の表れ
と認めることができ、この点を把えて原告が被告の恣意性を論ずるのは理由がな
い。単に便宜的に結論が出された以上の意味が認められるといつて差支ない。
5 以上のとおり、被告の本件更正処分は、その推計方法において相当であり、原
告において本件更正処分を推計による過大な見込み課税であるとして、その違法を
主張する理由のないものというべきである。
よつて、原告の本訴請求は理由がないから、これを失当として棄却し、訴訟費用の
負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡山 宏 池田真一 小原春夫)

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