弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人Aを除く他の被告人に関する部分を破棄し、本件を大阪
高等裁判所に差戻す。
     被告人Aの上告はこれを棄却する。
         理    由
 被告人Bの上告趣意、弁護人能勢克男の上告趣意、弁護人小林為太郎の上告趣意、
弁護人井藤誉志雄の上告趣意、弁護人竹内信一の上告趣意、及び弁護人青柳盛雄、
同大蔵敏彦、同平林正三の上告趣意について。
 原判決は判示第一一として被告人Aを除く各被告人が共謀の上昭和二三年八月四
日頃から同年一一月二五日頃までの間別表(一)乃至(六)の会社所有にして工場
内倉庫在中の物件を売却その他の処分をするため無断で出庫しいずれもこれを窃取
したものである事実を判示し、なお判決理由の後段において右所為が窃盗罪を構成
する理由を詳細に説明しているのであるが、その説明中同年七月二六日の団体交渉
に基き会社代表取締役であるCは翌二七日組合に対し会社が七月分の未払給料を同
月三〇日午後四時までに支払わない場合は製品倉庫内にある製品乃至会社の什器類
をもつてこれに充当する旨言明し、同日附右趣旨の覚書を交付した事実はあるが、
右の覚書は組合側の執拗なる強迫的言動によつてCが書かさしめられたものであつ
て、Cはその後直ちに右覚書を取消す旨を組合側に通告しているのであるから、本
件製品什器等が右代物弁済契約によりその所有権乃至占有権が直ちに会社から組合
に移つたものと認めることはできないと判示しているのである。よつて右覚書の内
容をみると「昭和二三年七月度賃金ガ所定ノ最終支払期日タル同月三〇日午後四時
迄ニ完全ニ支払ハレナカツタ場合ハ其ノ支払分ヲ補償スル為メ同日同時現在製品倉
庫ノ棚卸表ニヨル完成品ノ内右ノ未払金ニ充当スル迄ノ製品ヲ組合ニ引渡シ従業員
ニ支払フ但シ其ノ処分ニ就キテハ左記ノ通りノ条件トスルコト」と記載してあつて、
その条件を具体的に列記し不可抗力的な事情で未払金額を超過した場合の処置にま
で及んでいるのである。そしてこの覚書の内容が原判決のいうが如く代物弁済契約
であるかどうかは一個の問題であるがいずれにしてもそれは会社が未払賃金の支払
に充当するために製品等の処分を組合に許した趣旨の契約であることは疑を容れな
いところである。原判決は右覚書は組合側の執拗なる強迫的言動によつて、Cが書
かさしめられたものであつて、Cはその後直ちに右覚書を取消す旨を組合側に通告
していると説明しているが、その取消の書面をみると「去る六月二八日附団体交渉
方に関する会社から組合宛申入以降に於ける組合の称する団体交渉に於て会社側の
発言及書面(去る七月廿五、六、七日を含む)は会社側の自由意思に基くものでは
ないから其の効力を争ひ又無効を主張する権利を留保する。右申入れする」と記載
されているのであつて、右申入は単に効力を争い又無効を主張する権利を留保する
旨の意思通告とみるの外なく、これを取消の意思表示と認めることはできない。こ
れを取消の意思表示と認定するについては合理的な理由が示されなければならない。
而して前示覚書の内容が組合に会社の製品等の処分を許した趣旨である以上組合は
契約の趣旨に従いその処分をする権限を有するのであつて、組合員たる被告人等(
被告人Aを除く)がこれを処分するため工場外に搬出しても窃盗罪を構成するいわ
れはないのである。然らば原判決が何等合理的な理由を示すことなく前示覚書の取
消を認定し被告人等を窃盗罪として問擬したことは判決に影響を及ぼすべき理由不
備の違法があり、この点において論旨は理由がある。そして原判決を破棄しなけれ
ば著しく正義に反すると認められるから、原判決は破棄を免れない。
 次に被告人Aに関する各論旨につき審究するに昭和二〇年法律第五一号労働組合
法一条二項の規定は同条一項の目的達成のためにした正当な行為についてのみ刑法
三五条の適用を認めたに過きず勤労者の団体交渉においても刑法所定の暴行罪又は
脅迫罪にあたる行為が行われた場合にまでその適用があることを定めたものでない
ことは当裁判所大法廷の判例(昭和二二年(れ)第三一九号同二四年五月一八日大
法廷判決参照)の示すところである。被告人Aが本件の争議にあたり原判示第三の
住居侵入の事実、原判示第四の多衆脅迫の事実及び原判示第五及び第七の住居侵入、
多衆脅迫の事実はいずれも原判決挙示の証拠によつて優に認定できるのであり、そ
れは争議手段の正当性を超えるものであり、又被告人の右所為に対し正当防衛乃至
緊急避難の観念を容るる余地のないことは原判決の説示するとおりであるから、原
判決が前示旧労働組合法一条二項の規定を適用することなく、右被告人を有罪とし
て処断したことは正当であつて、この点に関する論旨はすべて採用できない。
 よつて刑訴施行法三条の二、刑訴四一一条、刑訴施行法二条、旧刑訴四四七条、
四四八条ノ二、四四六条により主文のとおり判決する。
 右は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 草鹿浅之介立会
  昭和二八年二月二七日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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