弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人Aの本件上告を棄却する。
     原判決中被告人Bに関する部分を破棄する。
     被告人Bを懲役一年六月に処する。
     但し被告人Bに対し、本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
     訴訟費用中、原審が証人C、同D、同E、同F、同G、同H、同I、同
J、同K、同L、同M、同N、同O、同P、同Qに支給した分は、いずれも被告人
B及被告人Aの連帯負担とする。
     被告人Bに対する本訴公訴事実中生糸等の数量報告等に関する件違反の
事実及び臨時物資需給調整法違反の事実については同被告人を免訴する。
         理    由
 弁護人佐藤彦一同早稲田逸郎の各上告趣旨はいずれも末尾添附別紙記載のとおり
である。
 本件犯罪事実中横領罪以外のものは後記の如く総て大赦により免訴となるべきも
のであるから横領罪に関する論旨についてのみ左に判断を記し他の犯罪に関する部
分については判断しない。
 原判決挙示の証拠によれば原判決摘示の事実はすべて認めることができる。そし
て原審の認定した処によると軍は本件生糸五千七百貫を原判示六名によつて組織さ
れた組合類似のR社に払下げる意思でその旨の意思表示をしたのであり、被告人A
もそれに応じてR社の名を以て払下を受けたのである。それ故たとえ所論の様にA
が被告人Bの委任を受け内心Bの為めに払下げを受ける意思であつたとしても、そ
のためBの所有に帰するわけはない。法律行為の効力は意思表示の内容に従つて生
ずるのであり、Aの表示きれない内部の意思及AとBとの内部関係によつて生ずる
ものではないからである。従つてBの所有であることを前提とする論旨は総て理由
がない。そして原審の認定した処によるとAは右払下については前記六名を代理す
る権限はなかつたのであるから特別の事情(例えば追認、又は民法第一一二条の事
由等)が無ければ直ちに右六人の共有に帰することはない。しかし右特別の事情が
あれば六人の有に帰するのであり、又右事情が無ければ前記払下行為は(無権代理
であるから)所有権移転の効力を生ずることなく、目的物は依然軍の所有たるもの
である。以上いずれの場合であるとしても被告人等より見れば他人の所有物であり、
他人の為めに占有保管するものといわなければならない。従つて被告人等がこれを
勝手に処分すれば軍叉は六人に損害を生ずること勿論である。そして原審はAはR
社の構成員の為めに払下を受けたと認定したのであつて初めからA自身又はBの為
めに払下を受ける意思であつたとは認定して居ない。それ故かかる原審認定しない
事実を前提として横領罪の不成立を主張する論旨は総て上告の理由とならない。な
お原審は軍は六人に払下げ六人に引渡させるつもりでAに委託したのであり、Aは
それを受諾して物件を受取り占有を初めたのであるから、その間信頼関係あること
勿論である。右の理由で横領罪は成立するものというべく、横領罪を以て所断した
原判決は結局相当であり、その成立しないことを主張する論旨は総て理由なきに帰
する。なほ所論被告人Aに対する検事の第五回聴取書、及び被告人Bに対する検事
の聴取書が被告人等を不当に拘束している間に作成されたと認むべき証跡はないの
みならず仮りに右各聴取書が違法勾留中のものであるとしても、これがため直ちに
無効となるものではない(昭和二五年(れ)第一〇八五号同年九月二一日第一小法
廷判決)から原判決がこれを証拠に供したことは何等違法はなく弁護人早稲田逸郎
上告趣意第一〇点も理由がない。
 又、原審第一〇回公判調書には所論のとおりの記載があり、右記載は旧刑訴六〇
条六号にいう「弁論の要旨」の記載があつたものといえるし、所論は、犯罪の成立
を阻却すべき原由又は刑の加重減免の原由たる事実上の主張があつたと主張するも
のでもないから同趣意書第一一点も採用できない。
 よつて被告人Aの本件上告は理由なきものに帰するから旧刑訴四四六条によりこ
れを棄却し、
 被告人Bに対しては原判決が横領罪と併合罪をなすものとして確定した原判決第
二ノ(一)及(二)の事実はそれぞれ昭和二七年政令第一一七号大赦令第一条、五
五号並びに八八号により原判決後大赦があつた場合に当るので旧刑訴四一五条、四
四七条により原判決中同被告人に関する部分を破棄し、同四四八条により更に判決
すべきである。よつて原判決の確定した事実中右大赦にかからない原判決第一の事
案を法律に照らすと同被告人の所為は刑法二五二条一項五五条六〇条昭和二二年法
律一二四号附則四項にあたるから所定の刑期範囲内で同被告人を懲役一年六月に処
し、情状刑の執行を猶予するのを相当と認め本裁判確定の日から二年間右刑の執行
を猶予すべきものとする。次に原判決判示第二の(一)並(二)の事実については
前記の如く大赦があつた場合であるから、旧刑訴四五五条三六三条三号により同被
告人に対し免訴の言渡をし、訴訟費用中主文五項掲記の分は旧刑訴二三七条一項二
三八条により同被告人及び被告人Aをして連帯してこれを負担させることとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 この裁判は裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 熊沢孝平関与
  昭和二八年二月二四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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