弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破毀する。
     本件を福岡高等裁判所へ差戻す。
         理    由
 弁護人林利男の上告趣意は末尾添付の書面記載のとおりである。
 同第一点について。
 原判決は検察事務官の上告人並に第一審相被告人A等に対する各聴取書を挙げて、
これを他の証拠と綜合して本件犯罪事実を認定していることは所論のとおりである。
 そして、原審第二回公判調書を見るに、証拠として裁判長は第一審公判調書、検
察事務官の聴取書等の各要旨を告げ「その都度被告人に対し意見弁解の有無を問い
且右証拠書類の作成者並に供述者に対する反対訊問の請求が出来る旨並に他に利益
の証拠があれば提出することができる旨を告げたところ」、被告人は「自供に反す
る部分を否認し証拠書類に関する反対訊問の請求は為さない、利益の証拠提出に付
ては弁護人に一任して居る旨述べた。」弁護人は「被告人の弁解の事実を明かなら
しむるため証人Aを喚問ありたい旨述べた。」之に対し裁判長は合議の上右弁護人
申請の証人は必要なきものと認め却下する決定を言渡した旨が記載されている。
 按ずるに、刑訴応急措置法第一二条第一項に「被告人の請求があるときは」とあ
るのは、もとより弁護人が請求する場合をも含んでいることは言うまでもないから、
本件に於ては正に本条による請求があつたものと解すべきである。被告人が原審公
判に於て犯罪事実について、窃盗の意思と右A等との共謀のあつたこととを否認し
ているに拘らず、右Aに関する第一審公判調書及び検察事務官の聴取書には之に反
する供述記載があること、又法律及び訴訟技術にうとい被告人が自己の利益のため
弁護権の行使を包括的に弁護人に任せてあること、被告人が右弁護人の証人申請に
ついて何等反対の意思を表示しなかつたことを綜合して、前記原審公判調書の記載
を勘案すれば、被告人の右陳述は、被告人本人としては別段証拠書類に関する反対
訊問の請求はしないけれども、なおこの点をも併せてすべて利益の証拠提出は弁護
人に一任してあるという趣旨に解するのが相当である。然るに本件においては弁護
人が検察事務官の右Aに対する聴取書について供述者である右Aを証人とし申請し
たにもかかわらず原審裁判所は右聴取書について被告人又は弁護人に供述者に対し
審問する機会を与えることなくして之を証拠にとつたものであるから、正に刑訴応
急措置法第一二条第一項の規定に違反したものであつて、(右Aは、第一審公判に
おいて、共同被告人として、被告人と共に、審理を受けたことは、記録上明である
けれども、右聴取書については、同公判において、証拠調を施行された形迹はない
のであるから、右第一審の公判においても、被告人に対して、Aを右聴取書の供述
者として訊問する機会を与えられたものと認めることはできない)論旨は理由があ
るといわなければならぬ。そして右の違法は事実の確定に影響を及ぼすものと認め
るから、再余の論旨に関する判断を省略し刑訴施行法第二条及び旧刑訴法第四四八
条ノ二に則り主文のとおり判決する。
 右は裁判官齊藤悠輔、同沢田竹治郎の反対意見を除く他の裁判官全員の一致した
意見である。
 裁判官齊藤悠輔、同沢田竹治郎の反対意見は、次のとおりである。
 刑訴応急措置法第一二条第一項に「被告人の請求があるとき」とあるのは、被告
人自身の請求を指すこというまでもない。そして旧刑訴第四六条(新刑訴第四一条
参照)には「弁護人ハ別段ノ規定アル場合ニ限リ独立シテ訴訟行為ヲ為スコトヲ得」
と規定しているから右刑訴応急措置法第一二条第一項の請求は、弁護人において被
告人の意思に基かないで独立してこれを為し得ないものであることも明白である。
 然るに本件において、原裁判所は検察事務官のAに対する聴取書について被告人
に対しその要旨を告げ意見弁解の有無を問い且つその書類の供述者に対する反対訊
問の請求ができる旨並びに他に利益の証拠があれば提出することができる旨を告げ
たところ被告人は自供に反する部分を否認し証拠書類に関する反対訊問の請求は為
さない、利益の証拠提出については、弁護人に一任する旨述べ、弁護人は、被告人
の弁解事実を明らかならしめるため証人Aを喚問ありたい旨述べ、裁判長は合議の
上右弁護人申請の証人は必要なきものと認め却下する決定を言渡したものであるこ
と原審第二回公判調書の記載によつて明らかである。すなわち、右公判調書の記載
によれば、被告人は、右Aに対する聴取書については特に刑訴応急措置法第一二条
第一項の請求をしない趣旨の意思表示をし、弁護人に対してこれが請求を委任しな
かつたこと一点の疑をも容れない。
 そして旧刑訴第六四条は「公判期日ニ於ケル訴訟手続ハ公判調書ノミニ依リ之ヲ
証明スルコトヲ得」と規定し新刑訴第五二条は「公判期日における訴訟手続で公判
調書に記載されたものは、公判調書のみによつてこれを証明することができる」と
規定して、新旧刑訴とも反証を許さない旨明定しているのである。しかるに多数説
は、右新旧刑訴法の明文に違反して「法律及び訴訟技術にうとい被告人云々」と説
明して濫りに公判調書の記載と反対の解釈を試み自己の法律及び訴訟技術にうとい
ことを表明しているのである。果たして然らば、原審が弁護人の証人申請を却下し
て前記Aに対する聴取書を証拠としたのは、まことに適法妥当であつて、論旨は全
然理由がない。
 検察官 十蔵寺宗雄関与
  昭和二四年四月六日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介

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