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平成一〇年(ワ)第一五五七五号 著作権侵害差止等請求事件
(口頭弁論終結日 平成一一年六月九日)
         判         決
          原       告    コナミ株式会社
          右代表者代表取締役    【A】
          右訴訟代理人弁護士    柳原敏夫
          被       告    【B】
          右訴訟代理人弁護士    吉川知宏
         主         文
一 被告は、別紙物件目録記載のビデオカセットを製造、販売又は頒布してはなら
ない。
二 被告は、別紙物件目録記載のビデオカセットの在庫品及びマスターテープを廃
棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金二二七万五〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年七月
一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の 負担
とする。
六 この判決は主文第三項につき、仮に執行することができる。
         事 実 及 び 理 由
第一 請求
一 主文一、二項に同じ
二 被告は原告に対し、金一〇八四万円及びこれに対する平成一〇年七月一九日か
ら支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は朝日新聞(全国版)、讀賣新聞(全国版)、毎日新聞(全国版)及び日
本経済新聞(全国版)にそれぞれ一回ずつ別紙謝罪広告目録一記載の謝罪文を同目
録二記載の要領で掲載せよ。
第二 事案の概要
 本件は、コンピュータ用ゲームソフトについて著作権を有している原告が、被告
に対し、その主要登場人物の図柄を用いてアニメーションビデオを制作した被告の
行為が、著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害する
として、右ビデオの製造、販売及び頒布の禁止、右ビデオの廃棄、損害賠償並びに
謝罪広告を請求した事案である。
一 前提となる事実(証拠を示した事実を除き、当事者間に争いはない。)
1 当事者
原告は、コンピュータ用ゲームソフト及びその他のアミューズメント機器の製
作、販売等を業とする会社である。
 被告は、「シェーン」の名で、アニメーション、実写、パロディ関係の作品を企
画、制作、販売している者である。
2原告の著作物及び著作権
原告は、その発意に基づき、従業員をして、コンピュータ用ゲームソフト「と
きめきメモリアル」(以下「本件ゲームソフト」という。)を職務上作成させ、平
成六年五月二七日、自己名義の下にこれを発表し、本件ゲームソフトについて著作
権及び著作者人格権を取得した。
 本件ゲームソフトは、ゲームプレイヤーが架空の高校「きらめき高校」の男子生
徒の立場で操作して、高校三年間の学園生活及び日常生活において様々な行動を
し、一定の条件を満たした場合に、男子生徒が、主要登場人物である藤崎詩織ほか
の女生徒から、高校卒業の日、伝説の樹の下で愛の告白を受けるという内容の恋愛
シミュレーションゲームである(検甲一)。本件ゲームソフトは、家庭用ゲームハ
ード機器であるプレーステーション用のソフトとして販売された(PCエンジン及
びスーパーファミコン用のソフトとして販売されたものもあるが、プレーステイシ
ョン用のソフト著作権を保護の対象とする。)。
3被告の行為等
被告は、原告に無断で、訴外赤紙堂に委託して、本件ゲームソフトの主要登場人
物である藤崎詩織の図柄(以下「本件藤崎の図柄」という。)を用いた別紙物件目
録記載のアニメーションビデオ(題名「どぎまぎイマジネーション」、以下「本件
ビデオ」という。)を制作し、平成九年一月ころ、東京都秋葉原所在の株式会社メ
ッセサンオー本店にて一般客向けに店頭販売した(甲一三及び一四、検甲二)。な
お、被告が本件ビデオを発売した後、本件ビデオの複製品も連鎖的に制作、販売さ
れている(甲一七、一八、検甲五)。
二 争点
1 本件ゲームソフトは、著作権、著作者人格権を侵害するか。
(原告の主張)
被告は、本件ゲームソフトの登場人物である藤崎詩織が清純派として人気を博し
たことに着目して、本件藤崎の図柄を無断で用いて本件ビデオを制作したものであ
り、本件藤崎の図柄に係る原告の複製権及び翻案権を侵害する。
 本件ビデオは、本件藤崎の図柄を用いて性行為の場面を描写した成人向けのアニ
メーションビデオであって、本件藤崎の図柄における清純なイメージを損なうもの
であり、本件ゲームソフトの改変をもたらすものであるから、同一性保持権を侵害
する。
(被告の主張)
本件藤崎の図柄は、ありふれたもので創作性はない。また、抽象的なキャラクタ
ーについては、具体的な図柄を離れて別個の創作性を有する外部的表現形式となら
ないので、著作権の保護の対象とならない。複製権の侵害はない。
 次に、同一性保持権侵害の有無は、本件ゲームソフトと本件ビデオにおける具体
的な図柄を対比することにより決せられるべきであり、イメージを損なったか否か
により決すべきではない。仮に、イメージを損なったか否かが判断要素になるとし
ても、本件藤崎の図柄における藤崎詩織のイメージは、優等生的ではあるが、清純
さはないし、本件ゲームソフトにおいても恋愛がテーマとされている関係上、性的
関係についての連想をさせるから、清純なイメージはない。
 さらに、仮に、複製権侵害、同一性保持権侵害が存在するとしても、被告が本件
ビデオを制作した行為は、同人文化の一環としての創作活動であるから、著作権法
に違反するとの評価はされるべきでない。
2損害額はいくらか。
(原告の主張)
被告は本件ビデオ制作販売により、以下のとおり八四万円の利益を得た。原告に
生じた財産的損害は、右利益と同額と推定されるべきである。
〔本件ビデオ一本の卸価格(一四〇〇円)ービデオ一本の制作に要した複製費(三
〇〇円)〕×販売数(九〇〇本)ーアニメーション制作費(一五万円)=八四万円
同一性保持権侵害行為によって生じた原告の損害は、原告が苦心して作り上げた
登場人物である藤崎詩織の清純なイメージが、被告の行為によって大きく損なわれ
た点を考慮すると一〇〇〇万円が相当である。
よって、原告の損害は合計一〇八四万円である。
(被告の反論)
原告の主張は争う。
財産的損害については、制作費を考慮すると、被告には利益は生じていない。
また、被告が本件ビデオを制作した行為は、同人文化の一環としての個人的趣
味、嗜好によるものであり、本件損害賠償請求は不当である。
3謝罪広告は認められるか。
(原告の主張)
被告は原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害しているから、原告は、著作
者としての名誉を回復するために、謝罪広告掲載を請求する権利を有する。
(被告の主張)
原告の主張は争う。
第三 争点に対する判断
一 争点1(著作権及び著作者人格権侵害の成否)について
1著作権侵害について
 前記第二、一の事実、証拠(甲一、検甲二)及び弁論の全趣旨によれば、以下の
事実が認められる。
 本件ゲームソフトは、ゲームプレイヤーが架空の高校「きらめき高校」の男子生
徒の立場で操作して、高校三年間の学園生活等において体験をし、一定の条件を満
たした場合に、男子生徒が、登場人物である藤崎詩織ほかの女生徒から、高校卒業
の日に、伝説の樹の下で愛の告白を受けるという恋愛シミュレーションゲームであ
る。本件ゲームソフトにおいては、女子高校生である藤崎詩織が主要な登場人物と
して設定されている。本件藤崎の図柄は、僅かに尖った顎及び大きな黒い瞳(瞳の
下方部分に赤色のアクセントを施している。)を持ち、前髪が短く、後髪が背中に
かかるほど長く、赤い髪を黄色いヘアバンドで留め、衿と胸当てに白い線が入り、
黄色のリボンを結び、水色の制服を着た女子高校生として、共通して描かれてい
る。本件藤崎の図柄には、その顔、髪型の描き方において、独自の個性を発揮した
共通の特徴が認められ、創作性を肯定することができる。
 他方、本件ビデオには、女子高校生が登場し、そのパッケージには、右女子高校
生の図柄が大きく描かれている。右図柄は、僅かに尖った顎及び大きな黒い瞳(瞳
の下方部分に赤色のアクセントを施している。)を持ち、前髪が短く、後髪が背中
にかかるほど長く、赤い髪を黄色いヘアバンドで留め、衿と胸当てに白い線が入
り、黄色いリボンを結び、水色の制服を着た女子高校生として描かれている。
 本件ビデオに登場する女子高校生の図柄は、本件藤崎の図柄を対比すると、その
容貌、髪型、制服等において、その特徴は共通しているので、本件藤崎の図柄と実
質的に同一のものであり、本件藤崎の図柄を複製ないし翻案したものと認められ
る。
 したがって、被告が本件ビデオを制作した行為は、本件ゲームソフトにおける本
件藤崎の図柄に係る原告の著作権を侵害する。
2同一性保持権侵害について
 前記第二、一2の事実、証拠(検甲一)及び弁論の全趣旨によれば、本件ゲーム
ソフトは、前記のとおり、架空の高校「きらめき高校」における恋愛シミュレーシ
ョンゲームであるが、登場人物である藤崎詩織は、優等生的で、清純な、さわやか
な印象を与える性格付けがされている。本件ゲームソフトにおいては、ゲームプレ
イヤーの操作する男子生徒は、学園生活や日常生活を通して、登場人物である藤崎
詩織などと恋愛関係を形成する設定がされているが、藤崎詩織が性的行為を行うよ
うな場面は存在しない。
 他方、証拠(検甲二)及び弁論の全趣旨によれば、本件ビデオは、本件ゲームソ
フトにおいて、男子生徒が藤崎詩織から愛の告白を受けた最終場面の続編として設
定され、清純な女子高校生と性格付けられていた登場人物の藤崎詩織が、伝説の樹
の下で、男子生徒との性行為を繰り返し行うという、露骨な性描写を内容とする、
一〇分程度の成人向けのアニメーションビデオとして制作されている。
 確かに、本件ビデオにおいては、藤崎詩織の名前が用いられていないが、①本件
ビデオのパッケージにおける女子高校生の図柄と、本件ゲームソフトのパッケージ
における藤崎詩織の図柄とを対比すると、前記認定した共通の類似点がある他、さ
らに、後髪を向かって左側になびかせている点、首をやや左側に傾けている点、頭
頂部に極く短い髪を描いている点、髪の毛に白色のハイライトを付けている点など
細部に至るまで酷似していること、②本件ビデオのパッケージにおける「どぎまぎ
イマジネーション」というタイトルの選択、各文字のデザイン及び色彩、青い波形
の背景デザインなど、本件ゲームソフトのパッケージにおける各部分と類似してい
ること、③本件ビデオにおいて、「本当の気持ち、告白します。」と表記され、本
件ゲームソフトとの関連性を連想させる説明がされていること等の事実から、本件
ビデオの購入者は、右ビデオにおける女子高校生を藤崎詩織であると認識するもの
と解するのが相当である(甲一)。
 以上によると、被告は、本件ビデオにおいて、本件藤崎の図柄を、性行為を行う
姿に改変しているというべきであり、原告の有する、本件藤崎の図柄に係る同一性
保持権を侵害している。
 なお、被告は、同人文化の一環としての創作活動であり、著作権法違反は成立し
ないと主張するが、採用の限りでない。
3 よって、別紙物件目録記載のビデオカセットの製造等の差止め及び同ビデオカ
セットの廃棄を求める原告の請求の趣旨一及び二項は理由がある。
二 争点2(損害額)について
1 著作権侵害による損害
証拠(甲一三、一四、乙一七ないし二二)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、
本件ビデオを販売用に五〇〇本制作し、一本当たり一四〇〇円の卸価格で小売店に
販売したので、販売総額は七〇万円となること、被告は、動画、原画、彩色の各担
当者、声優及び監督へ人件費として二〇万円、複製費用として一七万五〇〇〇円
(一本当たり三五〇円)、包装等の諸雑費として五万円の合計四二万五〇〇〇円を
支出したことが認められ、したがって被告が本件ビデオを販売することにより得た
利益額は二七万五〇〇〇円になる。被告は、本件ビデオを制作するために、パソコ
ンを増設したり、アニメーション制作用のソフトを購入する必要があった旨主張す
るが、右費用は、本件ビデオ制作のためだけの費用と解することはできないので、
控除するのは相当でない。
 以上のとおり、原告に生じた損害額は、被告が本件ビデオ販売により得た利益額
二七万五〇〇〇円と同額と推定できる。
2 同一性保持権侵害による損害
 証拠(甲三、四、六ないし一三、枝番号の記載は省略する。)及び弁論の全趣旨
によれば、本件ゲームソフトは平成一〇年三月に一二〇万本の販売実績を上げ、ヒ
ット商品として好評を博したこと、原告は、平成七年に、本件ゲームソフトによ
り、日本ソフトウェア大賞のエンターテイメントソフト部門優秀賞やその他の賞を
多数獲得したこと、登場人物である藤崎詩織に対する人気も高まり、平成七年ころ
のコンピュータゲーム誌上におけるゲームキャラクター人気投票で、藤崎詩織が一
位に選ばれたこと、二次的著作物として、藤崎詩織を仮想アイドル歌手としたCD
が発売されたり、登場人物のイラスト集やその他の関連商品が販売されたり、実写
映画が上映されたり、小説が刊行されたりしたことが認められ、右経緯に照らす
と、本件ゲームソフトにおいては、登場人物である藤崎詩織の優等生的で、清純
な、さわやかな印象を与える性格付けが、本件ゲームソフト及び関連商品の売上げ
及び人気の向上に大きく寄与していると解するのが相当である。
 ところで、被告の同一性保持権侵害行為の態様は、前記のとおり、清純な女子高
校生と性格付けられていた登場人物の藤崎詩織と分かる女子高校生が男子生徒との
性行為を繰り返し行うという、露骨な性描写を内容とする、成人向けのアニメーシ
ョンビデオに改変、制作したというものであり、被告の行為は、原告が本件ゲーム
ソフトを著作し、その登場人物である藤崎詩織の性格付けに対する創作意図ないし
目的を著しくゆがめる、極めて悪質な行為であるということができる。
 そうすると、本件ゲームソフトの内容及び被告の行為の態様が前記認定のとおり
であること、被告の行為によって受けた原告の信用毀損は少なくないと解されるこ
と等一切の事情を総合考慮すると、被告の改変行為により生じた原告の無形損害を
金銭に評価した額は、二〇〇万円と解するのが相当である。
3 以上によれば、原告に生じた損害は、合計二二七万五〇〇〇円となる。
三結論
 よって、主文のとおり判決する。なお、前記認定の一切の事情を総合すると、本
件において謝罪広告の必要性はない。
   東京地方裁判所民事第二九部
       裁 判 長 裁 判 官   飯村敏明
             裁 判 官   八木貴美子
 裁 判 官石村智

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