弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人天野憲治の上告趣意第一点について。
 公職選挙法一四八条の二第三項は、新聞雑誌の選挙に関する報道および評論の選
挙人に対する影響力に鑑み、それが、当該新聞雑誌に対する編集その他経営上の特
殊の地位を有する者によつて、特定候補者の選挙運動のため、あるいは当選妨害の
ために利用されるときは、選挙の自由公正を害し、その公明を保持し難い結果をき
たすおそれがあると認め、これを防止するために設けられた規定であり、従つてそ
の報道の真否、評論の当否、その動機の如何などを問わない趣旨と解すべきである。
そしてこの程度の規制は、公共の福祉のため憲法上許された必要かつ合理的の制限
と認むべきことは、判例の趣旨に照し明らかである(昭和二九年(あ)第七八七号
同三〇年二月一六日大法廷判決、集九巻二号三〇五頁・昭和二八年(あ)第四〇三
〇号同三〇年三月三〇日大法廷判決、集九巻三号六三五頁・昭和二八年(あ)第三
一四七号同三〇年四月六日大法廷判決、集九巻四号八一九頁)。しかも第一審判決
判示の事実ならびに挙示の証拠によれば、判示新聞記事は表現の自由の乱用と認む
べきものであること明らかである。されば被告人の判示所為につき、公職選挙法一
四八条の二第三項を適用処断した第一審判決を支持した原判決には、何ら所論の如
き違憲の点はない。
 同第二点について。
 被告人が一人で新聞を編集発行しているということは、被告人がその地位を利用
することを容易ならしめる事由でこそあれ、これと相容れないものではない。記録
によれば、被告人が判示の如くAをして当選を得しめない目的をもつて、その新聞
編集人たる地位を利用して、判示報道および評論を掲載したものであることを首肯
することができる。そして原判決が被告人の右所為をもつて公職選挙法一四八条の
二第三項に違反したものと認めたのは、被告人がその編集人たる地位を利用したこ
とによるのであつて、単に被告人の編集人たる身分の故ではない。従つて被告人が
その編集人たる身分の故に、選挙に関する報道および評論の自由を奪われたもので
あるとの前提に基ずく違憲の主張は、前提を欠き採用できない。
 第三点について。
 公職選挙法一四八条の二第三項の「編集その他経営上の特殊の地位を利用して」
ということは、文理上その意味は明らかであり、かつその冒頭に掲げられている目
的との関係において考察判断されるのであつて、自ら限界があり所論の如くあいま
いで、広大無辺の内容をもつものとはいえない。なお、原判決が被告人の所為をも
つて、、編集人たる特殊の地位を利用した場合に当るものとした解釈が、憲法二一
条一項に違反するものでないことは、第一点において引用した判例の趣旨に照し明
らかである。従つて所論憲法三一条違反の主張は前提を欠き採用できない。
 同第四点について。
 所論は単なる量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。ま
た記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三七年三月二七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    石   坂   修   一

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