弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被上告人B1合資会社に対する部分を破棄し、右部分につき本
件を東京高等裁判所に差し戻す。
     その余の部分に関する上告人の上告を棄却する。
     前項に関する上告費用は、上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人吉永多賀誠の上告理由第一点について。
 本件土地が不法に占有されたため、同土地に対する上告人の賃借権が侵害され、
これによつて上告人が被る通常の損害は賃料相当額であり、上告人主張の営業によ
りうべかりし利益の喪失金一八〇万円およびアパートを賃借するために支出した権
利金賃料合計金三一万円は、特別事情による損害と解すべきところ、上告人が本件
土地に家屋を建築し、そこで皮革製造業を営む計画を有していたこと、および上告
人が本件土地に家屋を建築することができないため他にアパートを賃借しなければ
ならない事情にあつたことを被上告人B2において予見し、または予見することを
うべきであつたことを認めるに足りる証拠がない旨の原審の認定判断は、原判決挙
示の証拠関係に照らして首肯できる。引用の判例はいずれも事案を異にし、本件に
適切でない。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
 同第二点(上告理由の補充を含む。)について。
 被上告人B2は本件土地を使用しうるなんらの権原がないことを知りながら、本
件土地上に被上告人B3名義をもつて本件家屋を建築し、本件土地を占有するに至
つたものであり、上告人は、被上告人B2および同B3を相手に東京地方裁判所に
占有回収の訴を提起し(同庁昭和二八年(ワ)第七五五号)、本件土地の占有権に
基づき、被上告人B3に対しては本件家屋を収去して本件土地を明け渡すこと、お
よび被上告人B2に対しては本件家屋から退去して本件土地を明け渡すことを請求
し、上告人の請求どおり上告人勝訴の判決があり、この判決に対しては控訴、上告
がされたが、右上告人勝訴判決が確定したことは、原審が適法に確定した事実であ
る。ところで、家屋の所有者がその敷地を占有する権原のない場合に、右所有者を
代表者とする会社がその家屋の全部を借り受けて占有しているときは、実質的には
家の占有者と所有者とが一体となつて敷地を不法占有し敷地所有者の使用収益を妨
害しているものというべきであるから、会社は、敷地の所有者に対し、敷地の不法
占有による損害賠償責任を負うというのが当裁判所の判例である(最高裁判所昭和
三二年(オ)第三六六号同三四年六月二五日第一小法廷判決、民集一三巻六号七七
九頁)ところ、本件においては、本件建物の真実の所有者は被上告人B2であり、
被上告人B1合資会社は被上告人B2を無限責任社員とする会社であることは、原
審の適法に確定したところであるから、同被上告会社が前記東京地方裁判所昭和二
八年(ワ)第七五五号判決を債務名義とする強制執行につき第三者異議の訴を提起
することは、本件家屋が実質的には被上告人B2のものであり、同被上告人が右家
屋を被上告人B3名義で建築所有し、被上告人B2において上告人に対し、同家屋
を収去して本件土地を明け渡すべき義務がある以上、被上告会社のした右第三者異
議の訴の提起およびこれに伴う強制執行停止の申請と上告人主張の賃借権の侵害に
よる損害との間には因果関係があるものというべきである。そうとすれば、これと
見解を異にする原判決は法律の解釈を誤つたか、審理不尽、理由不備の違法をおか
したものというべく、原判決はこの点において破棄を免れないといわなければなら
ない。論旨は理由がある。
 同第三点および第四点について。
 被上告人B4および同B3が本件家屋を所有したことはなく、したがつて、右被
上告人両名が右家屋を所有することにより本件土地を占有したことはない旨、被上
告人B4が建築主としての被上告人B3名義の使用を許したのは、弁護士Dの助言
に基づくものであり、これをもつて被上告人B2の本件土地の不法占拠に対する幇
助と認めることができない旨、および被上告人B4、同B3は被上告人B2から本
件土地を賃借したものの、その賃貸借契約の解除後は、本件土地家屋についてなん
ら利害関係を有せず、したがつてまた、東京地方裁判所昭和二七年(ワ)第七一一
五号、同昭和二八年(ワ)第七五五号事件についてはもちろん、その他上告人主張
の諸事件の帰趨に対する関心もなく、これらの諸事件は被上告人B2が被上告人B
3の名を用いて自ら遂行したものであり、かつ、被上告人B4、同B3は本件家屋
の明渡の強制執行にも関係なかつた旨、また上告人主張の売買予約登記、売買登記
等は被上告人B2が被上告人B3の名を擅に用いてしたもので、被上告人B3の関
知しないものである旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯
できる。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
 よつて、上告人が被上告会社に対して請求する損害の額等について更に審理を尽
くさせるため、原判決中被上告会社に対する部分を破棄し、右部分につき本件を東
京高等裁判所に差し戻し、その余の部分につき本件上告を棄却することとし、民訴
法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致
で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美

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