弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
一 被告サンエバー株式会社は、別紙目録(一)、(二)記載の各歯ブラシを製造
し、販売し、又は販売のために展示してはならない。
二 被告株式会社サンギ、同日本アパタイト株式会社及び同東京アパタイト株式会
社は、別紙目録(一)、(二)記載の各歯ブラシを販売し、又は販売のために展示
してはならない。
三 被告らは、その所有する別紙目録(一)、(二)記載の各歯ブラシを廃棄せ
よ。
四 訴訟費用は、被告らの負担とする。
五 この判決は、仮に執行することができる。
       事実及び理由
第一 請求
 主文同旨
第二 事案の概要
一 当事者の争いのない事実
1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発
明」という。)を有している。
 特許番号 第一四五四九〇三号
 発明の名称 イオン歯ブラシ
 出願日 昭和五九年八月一四日
 公告日 同六三年一月一四日
 登録日 同年八月二五日
2 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)
の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許公報(以下「本件公報」という。)
の特許請求の範囲の項に記載したとおりである。
3 被告サンエバーは、昭和六一年六月頃から別紙目録(一)、(二)記載の各歯
ブラシ(以下これらを総称して「被告製品」という。)を製造販売し、同サンギ
は、その頃から被告製品を同サンエバーから仕入れて販売し、同東京アパタイト及
び同日本アパタイトは、その頃から被告製品を同サンギから仕入れて販売してい
る。
4 本件発明の構成要件は、次のとおりである。
A ブラシ毛が植毛されたブラシヘッド部と、把持用柄部と、電源と、を備えるイ
オン歯ブラシにおいて、
B 把持用柄部に対してブラシヘッド部を脱着可能に構成し、
C 把持用柄部には、
ア 導電性材料からなる支軸を突設するとともに、
イ 該支軸を電源の一方の電極に接続し、
ウ かつ把持用柄部の少なくとも一部外表面に電源の他方の電極に接続された導電
性材料からなる端体を装着し、
D ブラシヘッド部には、
ア 該ブラシヘッド部の長手方向に延在し、前記柄部に突設された前記支軸を受領
する支軸挿入部と、
イ 前記ブラシ毛と支軸挿入部との間を連絡し、液体を媒体として前記ブラシ毛と
前記支軸を電気的に導通可能とする液路
を形成してある
E イオン歯ブラシ
5 本件発明の作用効果は、次のとおりである。
 従来から、弗素イオンの使用効果をあげるため、歯ブラシ柄の中に電池を入れ、
その先端植毛部の植毛間に導電材による端子を設置し、該端子を電池のマイナス極
に接続し、金属製の柄部を電池のプラス極に接続した構成を有するイオン歯ブラシ
は、知られていたが、その構造が複雑であったり、製造コストが高かったりする欠
点があったところ、本件発明は、前項記載の構成をとることにより、これらの欠点
を解決した。すなわち、本件発明においては導電性材料の支軸や端体等の比較的高
価な部材はすべて把持用柄部側に設けられており、把持用柄部に対して脱着可能な
ブラシヘッド部は、ブラシ毛を植毛するとともに支軸挿入部や液路を一体成形すれ
ば足り、例えば、合成樹脂等を使用すれば極めて安価に製造することができるか
ら、このような構成をとることにより、構造の簡素化を達成するとともに、ブラシ
ヘッド部を必要に応じて廃棄、交換してもそのコストは低く抑えられる。そして、
使用に当たっては、使用者が把持用柄部を把持して歯をブラシ毛でブラッシングす
ると、液体、例えば、唾液等がブラシ毛を濡らすとともに液路を浸し、これにより
電源→把持用柄部の端体→手→身体→歯→ブラシ毛→液路→支軸→電源という電気
回路が形成され、電子の流れが発生して歯垢等を歯面から除去し易くし、ブラシ毛
によるブラッシングの刷掃効果を更に向上させる。
6 被告製品は、本件発明の構成要件のうち、Dイ以外の要件を、次のとおり充足
する。
(一) 被告製品は、ブラシ毛10(番号は、別紙目録(一)、(二)記載のもの
を指す。被告製品につき以下同じ。)が植毛されたブラシヘッド部2と、使用者が
把持するための柄部1と、電源たる電池6を備えているから、本件発明の構成要件
Aを充足する。
(二) 柄部1とブラシヘッド部2とが着脱可能であるから、構成要件Bを充足す
る。
(三) 柄部1においては、
(1) 導電性の支軸7が、先端外方へ突設し、
(2) 支軸7が電池6のマイナス極に接続され、
(3) 柄部1の後部外表面には、導電性の端体3が装着され、端体3のリベット
状端部4が、バネ5を介して電池6のプラス極に接続されている
から、構成要件Cア、イ、ウを充足する。
(四) ブラシヘッド部2には、ブラシヘッド部2の長手方向に延在し、柄部1か
ら突出している支軸7が挿入されるための挿入孔13が設けられているから、構成
要件Dアを充足する。
(五) 被告製品はイオン歯ブラシであるから、構成要件Eを充足する。
二 争点についての当事者の主張
1 原告の主張
(一)(1) 被告製品は、本件発明の構成要件のうち、Dイについても、次のと
おりこれを充足する。
 ブラシヘッド部2には、ブラシ毛10と挿入孔13との間を連絡する連通溝17
が形成され、当該連通溝17によって、歯ブラシの使用時において、液体を媒介と
してブラシ毛10と支軸7を電気的に導通可能とする液路が形成されているから、
構成要件Dイを充足する。
(2) 被告製品の作用効果は、本件発明のそれと同一である。
(3) 右のとおり、被告製品は、本件発明の構成要件をすべて充足し、その作用
効果も本件発明のそれと同一であるから、本件発明の技術的範囲に属する。
(二) 被告らの主張(二)に対する反論
 特許侵害訴訟において、特許が無効である旨の抗弁が許されないことは、あえて
いうまでもないことであるが、被告らが公知文献として挙げるものには本件発明と
同一の技術は開示されておらず、いずれも、本件発明の構成とは全く異なり、本件
明細書において従来技術として掲記してあるものに過ぎない。本件発明がかかる先
行の公知技術の存在を前提として付与されたものであることに照らせば、被告らの
この点に関する主張に理由がないことは、明らかである。
(三) 被告らの主張(三)に対する反論
 被告らの主張(三)は、講学上いわゆる「自由技術の抗弁」と呼称されるもので
ある。
かかる理論自体の当否は別として、仮にかかる理論を肯定する立場に立ったとして
も、被告らが公知技術として挙げるもの(乙第五号証)は本件発明又は被告製品の
いずれとも異なるものであるから、いずれにしても、被告らの右主張が理由のない
ことは明らかである。
2 被告らの主張
(一) 原告の主張(一)に対する反論
被告製品は、本件発明の構成要件のうち、Dイを充足しない。
 本件明細書の詳細な説明の項には、「連通溝10に隣接する数ケのブラシ毛7」
(本件公報三頁5欄三四行ないし三五行)、「支軸2に隣接するブラシ毛7……7
以外のブラシ毛9……9にも」(本件公報三頁6欄二六行ないし二七行)の各記載
があり、右各記載及び明細書中の図面の記載を斟酌すれば、本件発明の構成要件D
イにおける「ブラシ毛」は「支軸を支軸挿入部に挿入した場合に、支軸と直接に連
絡又は少なくとも隣接する構造のもの」を意味するものと解される。
 これに対して、被告製品においては、挿入口の先端とブラシ毛との間には孔状の
連通溝が形成され、支軸を支軸挿入孔に挿入した場合にも、右孔状連通溝を貫通す
ることなく、依然として右孔状連通溝が存在し、ブラシ毛は、支軸挿入口又は支軸
と直接連絡していないことはもちろん隣接もしていないから、被告製品の構造は、
本件発明の構成要件Dイを充足しない。
 さらに、本件明細書の詳細な説明の項には、「前記溝6からブリッジ18を介し
て連通溝10まで至る有底孔の形態をとる」(本件公報三頁5欄一八行ないし一九
行)との記載があり、右記載に照らせば、本件発明の構成要件Dイにおける「支軸
挿入部」は「上部が開口し下部が閉口されている細長い有底孔」を意味するものと
解すべきであるところ、被告製品の支軸挿入孔は筒状の形態を有し、その先端のみ
が開口しているに過ぎないから、本件発明の構成要件Dイを充足しない。
 後記(二)記載のとおり、先行公知技術の存在に照らせば、本件発明は無効であ
り、本件発明の権利範囲を確定するに当たっては、厳格に本件明細書の特許請求の
範囲の項に記載された文言に制限されることになるから、右のような相違点を有す
る被告製品は、本件発明の技術的範囲に属さないというべきである。
(二) 本件発明は発明性を有さないから、本件特許は無効であり、原告の本件特
許権に基づく差止請求権の行使は、特許能力を有さない特許権に基づく権利行使に
該当し、権利濫用として許されない。
(1) 本件発明の特許出願前の公知技術としては、本件明細書中に従来技術とし
て記載されているもの(本件公報一頁2欄七行ないし一一行、同欄二二行ないし二
四行、二頁3欄三行ないし六行、同欄九行ないし一〇行、同欄一四行ないし一六
行)のほか、次のものがあった。
ア 昭和五四年発行の「松本歯学」一九一頁ないし一九九頁(乙第一号証)には、
イオン歯ブラシの技術的原理に関する説明がその電気回路図と共に掲載されてい
る。
イ 昭和七年一一月一五日特許付与に係る特許登録番号第一八八七九一三号米国特
許明細書(乙第二号証)には、ブラシヘッド部と把持用柄部との二部品からなり、
簡単に組立分解を可能とする歯ブラシの構造に関する記載がある。
ウ 昭和五三年六月二三日出願公告に係る実用新案公報(実用新案出願公告昭五三
ー二四四二六)(乙第三号証)には、歯ブラシ柄と把握体とをそれぞれ別体に形成
して両者を着脱自在に取付け得る電気歯ブラシが開示されている。
エ 昭和五八年六月一日発行の「DRUG・magazine」誌の広告欄(乙第
四号証の一)に「サニー・パワー」なる商標を付した特殊半導体を利用した光エネ
ルギー転換歯ブラシの構造が掲載されており、また、右製品(検乙第一号証)は、
右時点において既に製造販売されていた。
オ 昭和四一年五月一四日出願公告に係る実用新案公報(実用新案出願公告昭和四
一ー一〇〇九七)(乙第五号証)には、ブラシヘッド部に該当する合成樹脂製柄と
把持用柄部に該当する筒状電池ケースを別体として構成する電極付歯ブラシが開示
されている。
 本件発明は、いわゆる結合発明であって、その構成要件は、すべて、本件明細書
に記載された右従来技術及び右アないしオの各公知技術に含まれているものである
から、本件発明は公知技術の結合から成り立っており、しかも、右公知技術の結合
により特段の効果も生じないものであって、当該技術分野における通常の知識を有
する者は、発明的所与を要さずに直ちに右公知技術の結合を想到し得るから、本件
発明は、発明性を有さず無効である。
(2) 本件明細書の詳細な説明の項の、「ブラシヘッド部自体は、必ずしも導電
性材料を含む必要はないが、その材質は使用態様、用途に応じて適宜選択すれば良
い。」(本件公報三項5欄二三行ないし二五行)、「導電性材料の支軸や端体等の
比較的高価な部材は全て把持用柄部側に設けられており」(本件公報二頁4欄一〇
行ないし一二行)の各記載を斟酌すれば、本件発明における「ブラシヘッド部」に
は、通常の態様として導電性材料を含むことを前提とするも、使用態様、用途に応
じ導電性材料を含まない場合もあり得ると解され、また、本件発明の構成要件Dイ
の「液路」は口中の液体が電気的導通の媒体となることを表現したものに過ぎな
い。したがって、本件発明の各構成要件は、前記の昭和五三年六月二三日出願公告
に係る実用新案公報(実用新案出願公告昭五三ー二四四二六)(乙第三号証)にお
いて開示されている電気歯ブラシ(イオン歯ブラシ)の構成と、用語上の差異は存
するも実質上の構成が完全に一致するものであって、本件発明は、発明の新規性を
有さず無効である。
(3) 昭和五五年九月二九日公開に係る公開特許公報(特許出願公開昭五五ー一
二五八〇八)(乙第七号証)には「電子歯ブラシ柄部の製造方法」が開示されてい
るところ、本件発明の各構成要件は、右公開特許公報に開示されている構成と、用
語上の差異は存するも実質上の構成が完全に一致するものであって、本件発明は、
発明の新規性を有さず無効である。
(三) 被告製品は、乙第四号証の一、第五号証に開示されている先行公知技術を
実施するものであり、先行公知技術の実施は、万人が自由に実施し得る万人共有の
財産であるから、本件特許権に基づく差止請求権の行使によりその実施を妨げられ
ることはない。
 これは、講学上いわゆる「自由技術の抗弁」として承認されているところであ
り、被告製品と公知技術との対比を問題とし、被告製品が公知技術の技術水準又は
潜在的技術水準に属するときには、特許発明の技術的範囲と被告製品との対比を待
つまでもなく(被告製品が特許発明の技術的範囲に属する場合であったとして
も)、特許権に基づく差止請求は認められないことになる。
 すなわち、前記のとおり、昭和四一年五月一四日出願公告に係る実用新案公報
(実用新案出願公告昭四一ー一〇〇九七)(乙第五号証)には、ブラシヘッド部に
該当する合成樹脂製柄と把持用柄部に該当する筒状電池ケースを別体として構成す
る電極付歯ブラシが開示されているが、被告製品の構成と右開示に係る電極付歯ブ
ラシとの構成とを対比すれば、被告製品を構成する各構成要素と右先行公知技術を
構成する構成要素は、右先行公知技術が「ブラシ植設面に配した極板を金属棒にリ
ベット止めにしている」点を除き一致し、かような構成を採用しなくても、必要最
小限の電気回路が形成され得ることは、前記の昭和五八年六月一日発行の「DRU
G・magazine」誌の広告欄(乙第四号証の一)に「サニー・パワー」なる
商標を付した特殊半導体を利用した光エネルギー転換歯ブラシの構造が掲載されて
いることに照らせば、当該技術分野における通常の知識を有する者の知見であると
いうことができる。
第三 争点に対する判断
一 原告の主張(一)(被告製品が本件発明の構成要件Dイを充足するか等)につ
いて
1 甲第二号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、実施例の説明
として、「符号3はブラシヘッド部で、主としてブラシ毛7が植毛されたヘッド2
0とヘッド20より柄部1寄りのシャンク25とからなる。シャンク25は溝6お
よびブリッジ18を有する。ブリッジ18から溝6をはさんでアーム19、19が
伸び、その先端部には凹状端部4が形成される。ブリッジ18とヘッド20の間に
は溝6の同軸的に連通する連通溝10が形成される。すなわち、ブラシヘッド部3
のシャンク25には、柄部1への装着時の支軸2を受領するための受け構造が形成
され、この受け構造が、この実施例では、ブラシヘッド部3の長手方向に、前記溝
6からブリッジ18内を介して連通溝10まで至る有底孔の形態をとる支軸挿入部
であり、連通溝10は唾液等の液体で浸されて装着時の支軸2とブラシ毛7、9と
を電気的に接続させる液路の一部として機能する。従って、ブラシヘッド部3自体
は必ずしも導電性材料を含む必要はないが、その材質は使用態様、用途に応じて適
宜選択すれば良い。好ましくは、ブラシヘッド部3は合成樹脂で一体成形、コスト
を極力低減させるのが良い。なお、第2、4図では連通溝10がブラシヘッド部3
の表裏を貫通するように示されているが、必ずしもそうする必要はなく、実質的に
溝6と連通して支軸挿入部を形成するとともにブラシヘッド部3の表面に開口する
ように形成すればよい。また、この実施例では、第3図に示すように、連通溝10
のブラシ側端部に数ケの小溝8が連通溝10に隣接する数ケのブラシ毛7の根元部
に向って存在する。この小溝8は、唾液などを介して支軸2とブラシ毛7、9を電
気的に接続させるという連通溝10の機能をさらに促進させるものである。」(本
件公報三頁5欄七行ないし三九行)、「柄部1を持ち、口中にブラシヘッド部3を
入れて、ブラッシングすると、ブラシ毛は唾液水分で濡れ、ブラシ毛7、7間にも
水分が入りこむ。連通溝10にも水分が入りこむ。従って、この水分はブラシ毛
7、7の根元部からブラシヘッド部3の表面を経て直接、あるいは前記小溝8があ
る場合にはこの小溝8を介して支軸2に繋がり、支軸2に接する連通溝10の水
と、ブラシ毛7、7間の水とが連結される。支軸2に隣接するブラシ毛7……7以
外のブラシ毛9……9にも、ブラシ毛7から9へと水分が連結して存在する。従っ
て、振らしブラシ毛7……7、9……9の毛先が歯に接触すれば、支軸2と該歯と
は充分な水分によって効率よく連結されることとなる。」(本件公報三頁6欄一八
行ないし三一行)との記載がある。
 本件明細書の詳細な説明の項における右各記載に照らせば、本件発明の構成要件
Dイの「前記ブラシ毛と支軸挿入部との間を連絡し、液体を媒体として前記ブラシ
毛と前記支軸を電気的に導通可能とする液路」とは、唾液等の液体で侵されて装着
時の支軸とブラシ毛とを右液体を媒介として電気的に接続させる機能を有するもの
であり、その構成としては、支軸挿入部の一部を形成するとともにブラシヘッド部
の表面(ブラシ毛植毛面)のブラシ毛に隣接した位置に開口する孔ないし溝を意味
するものと解するのが相当である。
 そこで、被告製品が本件発明の構成要件Dイを充足するかどうかを検討するに、
別紙目録(一)、(二)の記載(被告製品の構成が右各目録記載のとおりであるこ
とは、当事者間に争いがない)によれば、被告製品におけるブラシヘッド部2の構
成については、「(一)ブラシヘッド部2は、ブラシ毛10が植毛されたヘッド部
11と後部のシャンク12から成る。(二)シャンク12には、これを軸方向に貫
通して挿入孔13が設けられ、ブラシ毛10近傍で終端し、またシャンク12の後
端は、溝14をはさんでアーム15が伸び、アーム15の内側中央には小窪み16
が穿設されている。(三)挿入孔13の先端とブラシ毛10との間には液路を構成
するための連通溝17が形成されている。」(別紙目録(一)、(二)の各構成の
説明の項3)というものであって、連通溝17は、ブラシヘッド部2において支軸
7を受領するための支軸挿入部の一部を形成する(柄部1がブラシヘッド部2と一
体化した場合には、支軸7はブラシヘッド部2のシャンク12に形成された挿入孔
13内を延びて、その先端は連通溝17に達する)とともに、ブラシヘッド部2の
表面に植毛されたブラシ毛10の後部(シャンク12に近い側)に隣接した位置に
開口部を有するものであり、歯ブラシ使用時においては、ブラシ毛10は唾液水分
で濡れ、ブラシ毛10間及び連通溝17にも水分が入りこんで、装着時の支軸7と
ブラシ毛10とは右液体を媒介として電気的に接続させることが認められる(別紙
目録(一)、(二)の各構成の説明の項4及び各第1ないし第3図)。したがっ
て、被告製品は本件発明の構成要件Dイを充足するものと認められる。
 被告らは、この点につき、本件発明の構成要件Dイにおける「ブラシ毛」は、支
軸を支軸挿入部に挿入した場合に、支軸と直接に連絡又は少なくとも隣接する構造
のものに限定される旨を主張し、被告製品におけるブラシ毛は、支軸挿入口又は支
軸と直接連絡していないことはもちろん隣接もしていないから、被告製品の構造
は、本件発明の構成要件Dイを充足しないと主張する。しかし、構成要件Dイの意
味するところは、前記のとおりであって、ブラシ毛と支軸との位置関係についてこ
れを一定のものに限定して解すべき理由はないから、被告らの右主張は失当であ
る。すなわち、本件明細書の特許請求の範囲の項には、ブラシ毛と支軸の位置関係
については何ら言及されていないものであり、発明の詳細な説明の項には、なるほ
ど、被告らの指摘するような記載(「連通溝10に隣接する数ケのブラシ毛7」
(本件公報三頁5欄三四行ないし三五行)、「支軸2に隣接するブラシ毛7……7
以外のブラシ毛9……9にも」(本件公報三頁6欄二六行ないし二七行))は存在
するものの、これらの記載はいずれも特定の実施例についてその具体的な構成を説
明するものに過ぎず、特許請求の範囲の項の記載及び本件発明の作用効果に照らせ
ば、右各記載を根拠として本件発明におけるブラシ毛と支軸の位置関係について被
告ら主張のように限定的に解することはできないし、これ以外に被告らの右主張を
根拠付けるような記載も存在しない。
 また、被告らは、本件発明の構成要件Dイにおける「支軸挿入部」は上部が開口
し下部が開口されている細長い有底孔の構造のものに限定される旨を主張し、被告
製品における支軸挿入部は筒状の形状を有し、その先端のみが開口しているに過ぎ
ないから、本件発明の構成要件Dイを充足しないと主張する。しかし、構成要件D
イの意味するところは、前記のとおりであって、支軸挿入部の形態についてこれを
一定のものに限定して解すべき理由はない。本件明細書の特許請求の項には、支軸
挿入部の形態については何ら言及されていないものであり、発明の詳細な説明の項
には、なるほど、被告らの指摘するような記載(「前記溝6からブリッジ18を介
して連通溝10まで至る有底孔の形態をとる」(本件公報三頁五欄一八行ないし一
九行))は存在するものの、
右記載は、特定の実施例についてその具体的な構成を説明するものに過ぎず、特許
請求の範囲の項の記載及び本件発明の作用効果に照らせば、右記載を根拠として本
件発明における支軸挿入部の形態について被告ら主張のように限定的に解すること
はできないし、これ以外に被告らの右主張を根拠付けるような記載も存在しないか
ら、被告らの右主張もまた失当である。
 なお、被告らは、先行公知技術の存在に照らし、本件発明は無効であり、本件発
明の権利範囲を確定するに当たって厳格に本件明細書の特許請求の範囲の項に記載
された文言に制限されることになるから、右制限的に解釈された本件発明の特許請
求の範囲と相違点を有する被告製品は、本件発明の技術的範囲に属さないと主張す
る。しかし、後記判示のとおり、本件発明に無効事由がある旨の被告らの主張は到
底認められないから、被告らの主張は、その前提を欠き失当である。
2 甲第四、五号証及び弁論の全趣旨によれば、被告製品の作用効果は、本件発明
のそれと同一であると認められる。
3 右のとおり、被告製品は、本件発明の構成要件をすべて充足し、その作用効果
も本件発明のそれと同一であるから、本件発明の技術的範囲に属する。
二 被告らの主張(二)(本件特許の無効と原告の権利濫用)について
1 被告らが権利濫用事由として主張するところは、要するに、本件発明は新規性
ないし進歩性に欠けるから、本件特許は無効とされる蓋然性が極めて高いというに
ある。
 しかし、特許権の効力は、特許庁における無効審判手続によって争うべきもので
あって、仮に発明が新規性ないし進歩性に欠け、当該特許が無効とされるべきもの
であったとしても、当該特許につき無効審判請求がなされて、当該特許を無効とす
べき旨の審決がなされ、右審決が確定しない限り、裁判所は当該特許権を有効なも
のとして取り扱わなければならず、単に、その必要がある場合に審決が確定するま
で訴訟手続を中止することができる(特許法一六八条二項)に過ぎない。右のとお
り、特許権に基づく差止請求訴訟の審理においては、特許の有効無効については、
これを考慮すべきものではなく、本件特許の無効をいう被告らの主張は、既にこの
点において抗弁として理由がないというべきである。
 なお、付言するに、仮にこの点をさておくとしても、本件においては、次のとお
り、本件特許について被告ら主張の無効事由は到底認められないから、いずれにし
ても、被告らのこの点に関する主張に理由がないことは明らかである。
2 被告らが公知技術として挙げるものについては、次の各事実が認められる。
(一) 甲第二号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、「従来か
ら、弗素イオンの使用効果をあげるため、歯ブラシ柄の中に一・五V位の電池を入
れ、その先端植毛部の植毛間に導電材による端子を設置し、該端子を電池の(ー)
電極に接続し、柄部を金属性とし、この部を(+)電極としたイオン歯ブラシ(電
気歯ブラシ、通電歯ブラシ或は電子歯ブラシ)が数多く提案されている(例えば特
公昭四八ー二七三九〇号、実公昭四三ー五〇九二号参照)。」(本件公報一頁2欄
六行ないし一三行)、「従来、発表されてきたイオン歯ブラシは構造が複雑、従っ
てコスト高、取扱い不便等で一般の普及に難があった。即ち、ブラシ植毛間に
(ー)端子が設置され、この端子はブラシ台の内部から柄の内部を通って電池に接
続される構造で高価なものになっている。」(本件公報一頁2欄二〇行ないし二五
行)、「従来のイオン歯ブラシは、柄とブラシ部が一体のもの、或は柄とブラシ部
が分離されているがブラシ部にも比較的高価な導電材が設けられているもの等であ
り、いづれも頻繁に廃棄して新品にとり替え使用するには余りにも高価であり、普
及上大変な障害となっている。」(本件公報二頁3欄三行ないし八行)、「また、
従来のブラシ柄は金属性筒状体で、内部全体が電池を収容するため複雑な構造とな
っているものが多く、柄の太さも大きめとなり、とり扱いも不便、コストも高いも
のとなっている。」(本件公報二頁3欄九行ないし一二行)、「そこで構造が複雑
でコスト高となるのであれば、柄部を長期間使用できるように、ブラシ部と柄部を
分離し、電池もとり替え使用することが考えられ、そのような構成ものも従来多
い。
」(本件公報二頁3欄一二行ないし一六行)の各記載があるが、これらは、いずれ
も、従来技術の内容を説明したものである。なるほど、これらの技術の中に、本件
発明の構成要件の一部を充足するものがあることは、被告ら主張のとおりである
が、本件明細書の記載内容自体からも、本件発明は、これらの従来技術の存在を前
提として、これらの有する難点を解消する目的でなされたものであるから、これら
の従来技術の存在が本件特許の無効事由となり得ないことは明らかである。
(二) 乙第一号証によれば、昭和五四年発行の「松本歯学」一九一頁ないし一九
九頁に、イオン歯ブラシの技術的原理に関する説明がその電気回路図と共に掲載さ
れているが、その内容は、単にイオン歯ブラシの技術的原理を説明したものである
に過ぎず、右原理が従来から公知であったことは、本件明細書自体にも記載されて
おり(本件公報一頁2欄六行ないし一八行)、本件発明はこれを前提としてなされ
たものである。
(三) 乙第二号証によれば、昭和七年一一月一五日特許付与に係る特許登録番号
第一八八七九一三号米国特許明細書に、ブラシヘッド部と把持用柄部との二部品か
らなり、簡単に組立分解を可能とする歯ブラシの構造に関する記載があるが、これ
は、イオン歯ブラシではなく、通常の歯ブラシのブラシ部と把持部とを着脱自在に
構成したものに過ぎない。
(四) 乙第三号証によれば、昭和五三年六月二三日出願公告に係る実用新案公報
(実用新案出願公告昭五三ー二四四二六)に、歯ブラシ柄と把持体とをそれぞれ別
体に形成して両者を着脱自在に取付け得る電気歯ブラシが開示されているが、その
構成は、歯ブラシ柄1(本件発明におけるブラシヘッド部に対応する。)(番号
は、乙第三号証記載のものを指す。この項において以下同じ。)が把握体2(本件
発明における把持用柄部に対応する。)と着脱自在となっているが、歯ブラシ柄1
の先端部正面に植設された刷毛部4上面に表面を露出してモールド成形した電子伝
導体の表面を有する電極3や、ブラシ柄1の内部において電極3の後端部と接続す
る細状栓7といった導電材が歯ブラシ柄1に設けられており、刷毛が摩耗したとき
には、歯ブラシ柄1をその内部に備えられた電極3や細状栓7と共に廃棄するもの
である。すなわち、乙第三号証に開示された電気歯ブラシには、本件発明の構成要
件Dイにおける液路に対応する構成が存在しないほか、前記のとおり、本件明細書
の発明の詳細な説明の項に、「しかし、従来のイオン歯ブラシは、柄とブラシ部が
一体のもの、或は柄とブラシ部が分離されているがブラシ部にも比較的高価な導電
材が設けられているもの等であり、いづれも頻繁に廃棄して新品にとり替え使用す
るには余りにも高価であり、普及上大変な障害となっている。」(本件公報二頁3
欄二行ないし八行)との記載があることに照らせば、まさに、このうちの「柄とブ
ラシ部が分離されているがブラシ部にも比較的効果な導電材が設けられているも
の」に該当する。
(五) 乙第四号証の一によれば、昭和五八年六月一日発行の「DRUG・mag
azine」誌の広告欄に「サニー・パワー」なる商標を付した特殊半導体を利用
した光エネルギー転換歯ブラシの写真入りの広告が掲載されているが、右写真から
わかるのは当該歯ブラシの外観のみであって、内部構造は一切明らかでなく、右広
告には、そのほかにも本件発明における把持用柄部の導電性材料よりなる端体及び
支軸やブラシヘッド部の支軸挿入部、液路に対応する構成を示唆する記載は存在し
ない。そして、検乙第一号証(乙第四号証の一に記載された「サニー・パワー」な
る光エネルギー転換歯ブラシであることにつき、争いがない。)によれば、右歯ブ
ラシは、中央のビスを外すことによって、ブラシヘッド部が把持用柄部から脱着可
能に構成されているが、比較的高価な導電材というべき「特殊半導体」はブラシヘ
ッド部分の側に設けられており、また、把持用柄部の外表面に導電性材料よりなる
端体が設けられておらず、ブラシヘッド部に支軸挿入部、液路に対応する構造も存
在しない。
(六) 乙第五号証によれば、昭和四一年五月一四日出願広告に係る実用新案公報
(実用新案出願公告昭四一ー一〇〇九七)に、電極付歯ブラシが開示されている
が、その構成については、合成樹脂製柄7(番号は、乙第五号証記載のものを指
す。この項において以下同じ。)はブラシヘッド部と柄部とが一体に構成されてい
てブラシヘッド部のみの交換はできず、また、ブラシヘッド部に液路を設けるので
はなくて、ブラシ植設面1に極板9を設け、この極板9をリベット13を介して金
属棒12の先端と連結することにより、ブラシ毛と金属棒とを電気的に導通可能と
している。前記のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、「従来、発表
されてきたイオン歯ブラシは構造が複雑、従ってコスト高、取扱い不便等で一般の
普及に難があった。即ち、ブラシ植毛間に(ー)端子が設置され、この端子はブラ
シ台の内部から柄の内部を通って電池に接続される構造で高価なものになってい
る。」(本件公報一頁2欄二〇行ないし二五行)、「従来のイオン歯ブラシは、柄
とブラシ部が一体のもの」(本件公報二頁3欄三行ないし四行)との記載があり、
乙第五号証に開示された電極付歯ブラシは、まさに、これに該当する。
(七) 乙第七号証によれば、昭和五五年九月二九日公開に係る公開特許公報(特
許出願公開昭五五ー一二五八〇八)には「電子歯ブラシ柄部の製造方法」が開示さ
れているが、その構成は、ブラシ柄3(本件発明におけるブラシヘッド部に対応す
る。)(番号は、乙第七号証記載のものを指す。この項において以下同じ。)が把
持柄14(本件発明における把持用柄部に対応する。)と着脱自在となっている
が、電子歯ブラシの植毛部1に密接して配置された植毛部電極2や、植毛部電極2
よりブラシ柄端部4に至る導電体9といった導電材がブラシ柄3に設けられてお
り、刷毛が摩耗したときには、ブラシ柄3をそこに備えられた植毛部電極2や導電
体9と共に廃棄するものである。すなわち、乙第7号証に開示された電気歯ブラシ
には、本件発明の構成要件Dイにおける液路に対応する構成が存在しないほか、前
記のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の項に、「しかし、従来のイオン歯ブ
ラシは、柄とブラシ部が一体のもの、或は柄とブラシ部が分離されているがブラシ
部にも比較的高価な導電材が設けられているもの等であり、いづれも頻繁に廃棄し
て新品にとり替え使用するには余りにも高価であり、普及上大変な障害となってい
る。」(本件公報二頁3欄二行ないし八行)との記載があることに照らせば、まさ
に、このうちの「柄とブラシ部が分離されているがブラシ部にも比較的高価な導電
材が設けられているもの」に該当する。
3 右各認定事実を前提として検討するに、前記2(一)ないし(七)に記載の各
先行技術は、いずれも本件発明の構成要件の一部を充足するものに過ぎず、また、
本件明細書の発明の詳細な説明の項において、従来技術として記載されているもの
に該当する。
 被告らの主張(二)(1)において、被告らは、本件発明の構成要件はすべて先
行の公知技術に含まれているもので、本件発明は公知技術の結合から成り立ってお
り、しかも、右公知技術の結合により特段の効果も生じないものであることを理由
に、本件特許の無効を主張する。
 しかし、本件発明は、物品の構造に係る技術的思想であって、複数の構成要件か
ら成り立っているものであるところ、これは各構成要件の単なる集合ではなく、各
構成要件を一定の技術的思想の下に不可分有機的に結び付けたもので、一体性ある
技術的思想として、各構成要件の結合関係もまた無視することのできないところで
ある。このような点を考慮すると、特許請求の範囲に記載された発明の技術的思想
がその出願前にそのまま公知であった、いわゆる全部公知のような例外的な場合は
ともかく、発明を構成する個々の構成要件について出願前にそれぞれ公知技術が存
在していたとしても、これをもって特許の無効事由とはなし得ないものと解するの
が相当である。
 そして、右認定のとおり、被告らの挙げる先行の公知技術の内容は、いずれも本
件発明の構成要件の一部を充足するものに過ぎず、また、本件明細書に従来技術と
して記載されているものに該当するものであって、本件発明は、まさにこれら先行
技術の存在を前提として新たな作用効果を生ずるものとして特許を付与されたもの
というべきであるから、被告らの主張する理由による本件特許の無効は到底認めら
れない(なお、前記認定の各先行技術には、本件発明の構成要件Dを備えるものは
存在しないから、この点においても、被告らの主張は理由がない。)。
4 被告らは、また、本件発明の各構成要件は、前記の昭和五三年六月二三日出願
公告に係る実用新案公報(実用新案出願公告昭五三ー二四四二六)(乙第三号証)
において開示されている電気歯ブラシ(イオン歯ブラシ)の構成、又は昭和五五年
九月二九日公開に係る公開特許公報(特許出願公開昭五五ー一二五八〇八)(乙第
七号証)に「電子歯ブラシ柄部の製造方法」として開示されている構成と、用語上
の差異は存するも実質上の構成が完全に一致するから、本件発明は発明の新規性を
有さず無効である旨主張する。
 しかしながら、前認定のとおり、乙第三号証において開示されている電気歯ブラ
シにおいては、電極3や細状栓7といった導電材が歯ブラシ柄1に設けられており
(番号は、乙第三号証記載のものを指す。)、乙第七号証において開示されている
電子歯ブラシにおいては、植毛部電極2や導電体9といった導電材がブラシ柄3に
設けられている(番号は、乙第七号証記載のものを指す。)もので、いずれも、本
件発明の構成要件Dイにおける液路に対応する構成が存在しないほか、前記のとお
り、本件明細書の発明の詳細な説明の項に、「しかし、従来のイオン歯ブラシは、
柄とブラシ部が一体のもの、或は柄とブラシ部が分離されているがブラシ部にも比
較的高価な導電材が設けられているもの等であり、いづれも頻繁に廃棄して新品に
とり替え使用するには余りにも高価であり、普及上大変な障害となっている。」
(本件公報二頁3欄二行ないし八行)との記載があることに照らせば、まさに、こ
のうちの「柄とブラシ部が分離されているがブラシ部にも比較的高価な導電材が設
けられているもの」に該当し、本件明細書の発明の詳細な説明の項に記載された
「ブラシ毛の部分を必要に応じて廃棄交換可能とし、かつこのブラシ毛の部分の廃
棄交換に伴うコストの増大を極力抑制してイオン歯ブラシの普及を可能ならしめ
る」(本件公報二頁3欄二三行ないし二八行)という作用効果を有さないから、本
件発明の各構成要件がこれらの先行技術の構成と完全に一致するとは、到底認めら
れず、被告らの主張には理由がない。
 なお、被告らは、右主張の前提として、本件発明の構成要件Dイの「液路」は口
中の液体が電気的導通の媒体となることを表現したものに過ぎないと主張するが、
本件明細書の特許請求の範囲の項における「ブラシヘッド部には……前記ブラシ毛
と支軸挿入部との間を連絡し、液体を媒介として前記ブラシ毛と前記支軸を電気的
に導通可能とする液路」(本件公報一頁1欄九行ないし一五行)なる記載は、日本
語の文章としての通常の意味からすれば、「液路」の構成を説明した表現というほ
かはなく、また、このことは、発明の詳細な説明の項において「連通溝10は唾液
等の液体で浸されて装着時の支軸2とブラシ毛7、9とを電気的に接続させる液路
の一部として機能する。」(本件公報三頁5欄二〇行ないし二三行)なる記載に照
らしても明らかというべきであって、被告らの主張は失当である。
 被告らは、また、本件明細書の詳細な説明の項の「ブラシヘッド部自体は、必ず
しも導電性材料を含む必要はないが、その材質は使用態様、用途に応じて適宜選択
すれば良い。」(本件公報三頁5欄二三行ないし二五行)、「導電性材料の支軸や
端体等の比較的高価な部材は全て把持用柄部側に設けられており」(本件公報二頁
4欄一〇行ないし一二行)の各記載を根拠として、本件発明における「ブラシヘッ
ド部」には、通常の態様として導電性材料を含むことを前提とするも、使用態様、
用途に応じ導電性材料を含まない場合もあり得ると主張するが、前記のとおり、本
件明細書の発明の詳細な説明の項に、「しかし、従来のイオン歯ブラシは、柄とブ
ラシ部が一体のもの、或は柄とブラシ部が分離されているがブラシ部にも比較的高
価な導電材が設けられているもの等であり、いづれも頻繁に廃棄して新品にとり替
え使用するには余りにも高価であり、普及上大変な障害となっている。」(本件公
報二頁3欄二行ないし八行)、「この発明は、……ブラシ毛の部分を必要に応じて
廃棄交換可能とし、かつこのブラシ毛の部分の廃棄交換に伴うコストの増大を極力
抑制してイオン歯ブラシの普及を可能ならしめることにある。」(本件公報二頁3
欄二三行ないし二八行)なる記載があることに照らせば、むしろ、ブラシヘッド部
には原則として導電性材料を含まないというべきであり、すくなくとも、乙第三号
証、第七号証に開示された構成におけるような比較的高価な導電材に該当するよう
なものを備えることは除外しているというべきであるから、被告らのこの点に関す
る主張も失当である。
三 被告らの主張(三)(自由技術の抗弁)について
 被告らの主張(三)において、被告らは、被告製品は、乙第四号証の一、第五号
証に開示されている先行公知技術を実施するものであり、先行公知技術の実施は、
万人が自由に実施し得る万人共有の財産であるから、本件特許権に基づく差止請求
権の行使によりその実施を妨げられることはないと主張する。
 被告らが右抗弁として主張するところは、講学上いわゆる「自由技術の抗弁」と
呼称されるものであるが、仮に、被告製品が本件発明の特許の出願前における公知
技術と同一であるとしても、そのことから直ちに本件特許権に基づく差止請求権の
対象とならないという結論を導くことができるものではなく、被告らの右主張は、
既にこの点において抗弁として理由がないというべきである。すなわち、被告ら主
張のようないわゆる「自由技術の抗弁」を肯定するときは、仮に被告製品が本件発
明の技術的範囲に属するとしても、被告製品が本件特許の出願前の公知技術の実施
である限り、その自由な実施を拒むことはできず、本件特許権に基づく差止請求も
認められないことになるが、このような結果を容認することは、本件特許権につい
てその本質的内容である差止請求権の行使を認めないこととなり、結局、特許庁に
おける無効審判手続を経ずして特許権を無効なものとして取り扱うことに帰着する
が、このような取扱いについては何らの実定法上の根拠もなく、かえって、特許法
の予定する制度の趣旨に反するものであって、到底認められないものといわなけれ
ばならない。
 なお、付言するに、仮にこの点をさておくとしても、本件においては、次のとお
り、被告らの右主張は、その前提を欠き、到底認められないから、いずれにして
も、被告らのこの点に関する主張に理由がないことは明らかである。
 すなわち、被告らは、被告製品の構成と前記の昭和四一年五月一四日出願公告に
係る実用新案公報(実用新案出願公告昭四一ー一〇〇九七)(乙第五号証)に開示
されている電極付歯ブラシの構成とを対比すれば、被告製品を構成する各構成要素
と右先行公知技術を構成する構成要素は、右先行公知技術が「ブラシ植設面に配し
た極板を金属棒にリベット止めにしている」点を除き一致し、かような構成を採用
しなくても、必要最小限の電気回路が形成され得ることは、前記の昭和五八年六月
一日発行の「DRUG・magazine」誌の広告欄(乙第四号証の一)の「サ
ニー・パワー」なる商標の光エネルギー転換歯ブラシの構造の記載に照らせば、当
該技術分野における通常の知識を有する者の知見であるということができると主張
するが、前記認定のとおり、乙第五号証において開示されている電極付歯ブラシの
構成は、合成樹脂製柄7(番号は、乙第五号証記載のものを指す。この頃において
以下同じ。)はブラシヘッド部と柄部とが一体に構成されていてブラシヘッド部の
みの交換はできず、また、ブラシヘッド部に液路を設けるのではなくて、ブラシ植
設面1に極板9を設け、この極板9をリべット13を介して金属棒12の先端と連
結することにより、ブラシ毛と金属棒とを電気的に導通可能としているもので、こ
れらの点で、被告製品の構成とは異なる。また、前記認定のとおり、乙第四号証の
一の「サニー・パワー」なる商標の光エネルギー転換歯ブラシの写真からわかるの
は、当該歯ブラシの外観のみであって、内部構造は一切明らかでなく、右広告に
は、そのほかにも本件発明における把持用柄部の導電性材料よりなる端体及び支軸
やブラシヘッド部の支軸挿入部、液路に対応する構成を示唆する記載は存在しな
い。そして、検乙第一号証(乙第四号証の一に記載された「サニー・パワー」なる
光エネルギー転換歯ブラシであることにつき、争いがない。
)によれば、右歯ブラシは、中央のビスを外すことによって、ブラシヘッド部が把
持用柄部から脱着可能に構成されているが、比較的高価な導電材というべき「特殊
半導体」はブラシヘッド部分の側に設けられており、また、把持用柄部の外表面に
導電性材料よりなる端体が設けられておらず、ブラシヘッド部に支軸挿入部、液路
に対応する構造も存在しない。右のとおり、これらの公知技術は、いずれも被告製
品とは技術的内容を異にするものであるから、被告らの右主張は、その前提を欠
き、失当である。
(裁判官 房村精一 三村量一 若林辰繁)
 物件目録(一)
左の図面ならびに構成の説明に記載されるイオン歯ブラシ
一、図面の説明
第1図は、柄部とブラシヘッド部を切離して示した斜視図
第2図は、柄部とブラシヘッド部を合体させた状態の正面図
第3図は、柄部とブラシヘッド部を合体させた状態の側面断面図
二、構成の説明
1、全体の構成
全体が柄部1とブラシヘッド部2から成り、両者は着脱可能である。
2、柄部1の構成
(一) 柄部1の後部外表面には導電性の端体3が装着され、柄部1の後端より杆
入されるリベット状端部4は、その頭部において端体3に接触するとともに、柄部
1の内部でバネ5を介して電池6のプラス極に連結されている。
(二) 電池6は、柄部1の後部の内部に設けられ、そのマイナス極と連結した導
電性の支軸7が、柄部1を貫通して柄部1の先端外方へ突出している。
(三) 柄部1の先端には、凸状端部8が形成され、その側部の略中央には、小突
起9が設けられている。
3、ブラシヘッド部2の構成
(一) ブラシヘッド部2は、ブラシ毛10が植毛されたヘッド部11と後部のシ
ャンク12から成る。
(二) シャンク12には、これを軸方向に貫通して挿入孔13が設けられ、ブラ
シ毛10近傍で終端し、またシャンク12の後端は、溝14をはさんでアーム15
が伸び、アーム15の内側中央には小窪み16が穿設されている。
(三) 挿入孔13の先端とブラシ毛10との間には液路を構成するための連通溝
17が形成されている。
4、柄部1とブラシヘッド部2が一体化した状態の構成
柄部1の先端外方へ突出した支軸7がブラシヘッド部2のシャンク12に形成され
た挿入孔13内を延びて連通溝17に臨み、また柄部1の凸状端部8がブラシヘッ
ド部2の溝14に、柄部1の小突起9がブラシヘッド部2の小窪み16にそれぞれ
嵌合することによって両者は一体に構成される。
第1図・第2図・第3図 <09825-001>
 物件目録(二)
左の図面ならびに構成の説明に記載されるイオン歯ブラシ
一、図面の説明
第1図は、柄部とブラシヘッド部を切離して示した斜視図
第2図は、柄部とブラシヘッド部を合体させた状態の正面図
第3図は、柄部とブラシヘッド部を合体させた状態の側面断面図
二、構成の説明
1、全体の構成
全体が柄部1とブラシヘッド部2から成り、両者は着脱可能である。
2、柄部1の構成
(一) 柄部1の後部外表面には導電性の端体3が装着され、柄部1の後端より杆
入されるリベット状端部4は、その頭部において端体3に接触するとともに、柄部
1の内部でバネ5を介して電池6のプラス極に連結されている。
(二) 電池6は、柄部1の後部の内部に設けられ、そのマイナス極と連結した導
電性の支軸7が、柄部1を貫通して柄部1の先端外方へ突出している。
(三) 柄部1の先端には、凸状端部8が形成され、その側部の略中央には、小突
起9が設けられている。
3、ブラシヘッド部2の構成
(一) ブラシヘッド部2は、ブラシ毛10が植毛されたヘッド部11と後部のシ
ャンク12から成る。
(二) シャンク12には、これを軸方向に貫通して挿入孔13が設けられ、ブラ
シ毛10近傍で終端し、またシャンク12の後端は、溝14をはさんでアーム15
が伸び、アーム15の内側中央には小窪み16が穿設されている。
(三) 挿入孔13の先端とブラシ毛10との間には液路を構成するための連通溝
17が形成されている。
4、柄部1とブラシヘッド部2が一体化した状態の構成
柄部1の先端外方へ突出した支軸7がブラシヘッド部2のシャンク12に形成され
た挿入孔13内を延びて連通溝17に臨み、
また柄部1の凸状端部8がブラシヘッド部2の溝14に、柄部1の小突起9がブラ
シヘッド部2の小窪み16にそれぞれ嵌合することよって両者は一体に構成され
る。
<09825-002>
<09825-003>
<09825-004>
<09825-005>
<09825-006>
<09825-007>
<09825-008>
<09825-009>
<09825-010>

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛