弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○ 主文
本件控訴は、いずれもこれを棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実
控訴代理人は「原判決を取り消す。」旨の判決を求めたほか、被控訴人法務大臣に
対する主位的請求として「被控訴人法務大臣が昭和四二年一〇月一九日付仙台入国
管理事務所名義の不許可通知と題する書面で控訴人に通知した控訴人の在留期間更
新不許可の決定は無効であることを確認する。」旨の判決を、予備的請求として
「被控訴人法務大臣が昭和四二年一〇月一九日付仙台入国管理事務所名義の不許可
通知と題する書面で控訴人に通知した控訴人の在留期間更新不許可の決定はこれを
取り消す」旨の判決を求め、被控訴人仙台入国管理事務所主任審査官(以下被控訴
人主任審査官という。)に対し「被控訴人主任審査官が昭和四三年九月二四日控訴
人についてした仙第九号の退去強制令書の発付処分はこれを取り消す」旨の判決を
求め、なお「訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする」旨の判決を求
めた。被控訴人ら代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の関係は左記に補足するほか、原判決の事
実適示のとおりであるから、これをここに引用する。
(控訴代理人の主張)
一、控訴人は、「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基づく外務省
関係諸法令の措置に関する法律」(昭和二七年法律第一二六号、以下単に法律第一
二六号という。)第二条六項の「日本国との平和条約の規定に基づき、同条約の最
初の効力発生の日において日本の国籍を離脱するもので昭和二〇年九月二日以前か
らこの法律施行の日まで引続き本邦に在留するもの」という規定に該当する者であ
り、同法が右条項該当者に対し、出入国管理令第二二条の二第一項の規定にかかわ
らず、別に法律で定めるところによりその者の在留資格および在留期間が決定され
るまでの間、引き続き在留資格を有することなく日本国に在留できるものと定めた
ことにより、別に法律で在留資格および在留期間が決定されるまでは引き続き在留
許可なしに日本国に在留できる法的地位を有するものである。このような法律第一
二六号第二条六項該当者の特別な法的地位にてらすと、同条項該当者には、外国人
の退去強制を定めた出入国管理令第二四条は適用される余地がない。すなわち、同
条一号から三号までは在留資格を有しない外国人の退去強制に関する規定であり、
同条四号は、在留資格と在留期間の定めのある外国人の退去強制に関する規定であ
る。したがつて前述のように、在留資格や在留期間の定めはないがしかし、別に法
律で在留資格や在留期間が定められるまではそれらの定めを有しないまま日本国に
在留することができるという特殊な地位である法律第一二六号第二条六項該当者に
は、規制の対象を異にする右出入国管理令第二四条は適用される余地がない。この
点からいうと、被控訴人法務大臣が、昭和三五年七月二五日付で控訴人に対し同令
第五〇条の規定による在留特別許可を与えたことはそもそも誤まりであつた。すな
わち右許可は、控訴人が出入国管理令第二四条四号リに該当する旨の仙台入国管理
事務所入国審査官の認定に誤まりがないということを前提としているが、前述のよ
うに控訴人には右規定が適用される余地がないから、右の在留特別許可はその前提
を誤まつているのである。そして、在留特別許可は、一切の在留資格も在留期間も
有しない者に対してなされるものであるが、控訴人は前述のように法律第一二六号
第二条六項該当者として別に法律が制定されるまでの間日本国に在留できるという
特殊な地位を有するものであるから、法務大臣が、右の法的地位を剥奪する裁判や
裁決を経ずに、在留期間を一八〇日に制限する在留特別許可をすることが許されな
いことも明らかである。したがつて、昭和四二年一〇月一九日付の被控訴人法務大
臣の在留期間更新許可申請に対する不許可決定の処分(以下本件不許可決定とい
う。)その前提である在留特別許可処分が無効のものであるから何らの効力を生ず
る余地がない。
二、本件不許可決定は、昭和四二年一〇月二〇日控訴人に通知されたのにもかかわ
らず、控訴人が本訴を提起したのが昭和四三年九月二七日であることは認めるが、
控訴人は、仙台入国管理事務所において不許可決定の告知を受けた際、不服な者に
対しては、後日不法在留ということで調査が行なわれ入国審査官の審理を経たう
え、異議申立の機会に法務大臣の審査の機会があると伝えられただけでそれ以上の
不服申立の方法についてはなんら教示されることがなかつた。そして控訴人は、そ
のような教示を受けたとおり、入国審査官の審理を経たのち、法務大臣に対する異
議申出を行ない、昭和四三年八月六日、右異議申出が棄却されたので本訴の提起に
及んだものであるから、本訴の提起は行政事件訴訟法第一四条四項の適用を受け、
出訴期間の要件を満した適法な訴訟提起とみられるべきである。
三、被控訴人法務大臣の本件不許可決定は、裁量権の濫用にあたり違法であり取り
消されるべきである。すなわち法律第一二六号第二条六項に定める「別の法律」に
該当する一つの法律として、昭和四一年一月二七日「日本国に居住する大韓民国国
民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定」(昭和四〇年一二
月一八日条約第二八号)が発効した。これによると、従来法律第一二六号第二条六
項該当者であつた大韓民国に国籍を有する在日朝鮮人は、永住許可の申請をするこ
とが認められ、永住許可を得られた者については、七年以上の懲役または禁錮に処
せられない限り刑事裁判で有罪判決を受けても退去強制の対象とはされないことに
なつた。右の協定は、大韓民国に国籍を有しない控訴人のような在日朝鮮人には適
用がないけれども、その趣旨は類推せられるべきであり、被控訴人、法務大臣は、
控訴人ら法律第一二六号第二条六項該当者について大韓民国に国籍を有し永住許可
を得られた者と同じ条件でなければ退去強制ができないようにその権限を覊束され
たものというべきであり、この制限をこえてなされた退去強制すなわち本件不許可
決定は裁量権の濫用にあたるというべきである。
四、被控訴人主任審査官が控訴人に対して昭和四三年九月二四日、仙第九号の本件
退去強制令書を発付した本件退去強制処分は違法である。すなわち、右退去強制令
書は控訴人に出入国管理令第二四条四号ロに該当する事実があるとして発布されて
いる。しかし右の規定は、旅券を所持し、かつ旅券に記載された期限をこえて在留
している者の退去強制に関するものであり、前述のように法律第一二六号第二条六
項の定めるところにより、別に法律で定めるまで旅券がなくとも日本国に在留でき
る地位を有する控訴人には適用される余地がない。したがつて本件退去強制処分は
法律の根拠を欠くもので違法であり取り消されるべきである。
(被控訴人ら代理人の主張)
一、(一)控訴人がかつて法律第一二六号第二条六項該当者であつた事実は認める
が、法律第一二六号第二条六項該当者に対しても出入国管理令第二四条は適用され
る。法律第一二六号第二条六項は、その文言からしても出入国管理令第二二条の二
第一項の適用を除外する趣旨に過ぎないものであり、右規定のほか出入国管理令全
体の適用を除外する趣旨ではない。
このことは、「日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国
と大韓民国との間の協定」(昭和四〇年条約第二八条)第三条ならびに「同協定の
実施に伴う出入国管理特別法」(昭和四〇年法律第一四六号)第六条が、法律第一
二六号第二条六項該当者に出入国管理令第二四条が適用されることを当然の前提と
して退去強制の基準の緩和を定めていることからも明らかである。
(二) しかも、控訴人は、昭和三五年七月二七日法務大臣の在留特別許可(出入
国管理令第四条一項一六号、「特定の在留資格及び在留期間を定める省令」(昭和
二七年五月一二日外務省令第一四号)一項三号に規定する在留資格、在留期間一八
〇日)の裁決により、法律第一二六号第二条六項該当者としての法的地位を失な
い、以後は、一般の在留外国人と同様、出入国管理令にもとづいて付与された在留
資格、在留期間の範囲内において本邦に在留することになつていたのである。その
ような控訴人に対して昭和四〇年六月九日再び法務大臣の在留特別許可が与えら
れ、その後本件不許可決定および本件退去強制処分がなされているのであるから、
控訴人がなお法律第一二六号第二条六項該当者としての法的地位を有することを前
提とする主張は失当である。
二、本件不許可決定のように、外国人の出入国に関する処分については、行政不服
審査法にもとづく異議申立ならびに審査請求が許されないことは、行政不服審査法
第四条一〇号の規定により明らかであり、また出入国管理令等において、在留期間
更新不許可処分に対し不服申立を許す旨の明文の規定は存しないから、右の処分に
対しては行政上の不服申立は許されておらず、右の処分を受けた者が救済を求める
ためには行政事件訴訟手続によつて抗告訴訟を提起する以外に途はない。そして、
行政庁が審査庁等の教示をしなければならないのは、行政庁が審査請求もしくは異
議申立または他の法令にもとづく不服申立をすることができる処分を書面でする場
合に限られていることは、行政不服審査法第五七条一項の規定するところであるか
ら、このような処分にあたらない在留期間更新不許可処分については不服申立の教
示の義務もないのである。したがつて被控訴人法務大臣が本件不許可決定をするに
あたり、控訴人に対して不服申立について特段の教示をしなかつたとしても違法で
はないし、行政事件訴訟法第一四条四項が問題とされる余地は全くない。
三、「日本国に居住する大韓民国国民の法的地位および待遇に関する日本国と大韓
民国との間の協定」は、大韓民国国民に対し、同国国民であるが故に適用されるべ
きものとして両国間の国家的合意にもとづいて締結されたものであるから、大韓民
国国民でない外国人にこれを適用し、あるいはその趣旨を推し及ぼすことがなかつ
たとしても、そのことによつて本件不許可処分が違法となることはない。
これを控訴人についてみると、控訴人は、昭和三四年三月一四日、秋田地方裁判所
において窃盗、傷害、銃砲刀剣類等所持取締法違反、脅迫および賍物寄蔵罪により
懲役二年、罰金二万円の判決言渡を受け、同月二九日右判決が確定し、出入国管理
令第二四条四号リに該当することになつたが、被控訴人法務大臣は、控訴人が法律
第一二六号第二条六項該当者であることをも考慮し、同令第五〇条の規定により、
在留特別許可をした。控訴人はその後五回にわたり在留期間更新の許可を得たが、
在留期間の満了日である昭和三八年四月二三日までに在留期間更新許可申請を行わ
ず同日をこえて本邦に在留しかつ、昭和三八年七月一一日秋田地方裁判所において
傷害、暴行、恐喝の罪により懲役一年二月の判決言渡を受けて同月一八日右判決が
確定したので、同令第二四条四号ロ、リに該当するにいたつたが、当時在日朝鮮人
の韓国への強制送還が困難であつた特殊事情があつたため、被控訴人法務大臣は、
やむを得ず再度在留特別許可を行ない、控訴人のその後の更正の余地を見定めるこ
ととしてその後三回の在留期間更新の許可をした。しかし、控訴人は、更生するど
ころか昭和四二年六月二八日秋田簡易裁判所において賭博罪および銃砲刀剣類所持
等取締法違反により罰金五万円の判決言渡を受け同年七月一五日右判決が確定した
ため、被控訴人法務大臣は、控訴人の同月二〇日付在留期間更新許可申請に対し、
控訴人が更正の見込のない悪質犯罪者であり、在留期間更新を相当と認めるに足り
る理由がないと判断して不許可処分をしたものである。右の判断に誤りがなかつた
ことは、控訴人が、本件提起後、強姦、傷害の罪により昭和四五年一一月二四日秋
田地方裁判所において懲役二年六月の有罪判決を受け、同年一二月二二日右判決は
控訴人の控訴取下げによつて確定し、控訴人が服役したという事実によつても明ら
かである。
四、被控訴人主任審査官が控訴人に対して出入国管理令第二四条四号ロを適用して
退去強制令書を発付したことは適法である。すなわち同条四号ロの「族券に記載さ
れた在留期間を経過して」という文言は、同令第二条五号、第九条一項および三項
にいう「旅券」を所持する場合で、右旅券に記載される在留期間、すなわち本人に
付与された在留期間を経過したことを意味するものであり、いわゆる狭義の旅券を
所持する場合に限られるものではない。このことは、出入国管理令が、外国人は、
同令上において付与された在留資格をもつて在留し、その在留期間の限度内で在留
できることとし(同令弟一九条一項)、同令第二二条の二第一項の場合を除いて
は、在留資格を有することなく在留できないとしていること、および法務大臣が同
令第五〇条一項にもとづいて在留を特別に許可するときには、法務省令で定めると
ころにより、在留期間その他必要と認める条件を付することかできるとのみ定め
(同令第五〇条二項)、同令施行規則第三七条九号但書が、当該外国人が旅券また
はこれにかわる証明書を所持していない場合には、同令施行規則別記第四二号様式
による在留特別許可書を交付するものと定めていること、にてらして明らかであ
る。出入国管理令第二四条四号ロは、旅券の所持の有無にかかわらず、在留期間を
経過した者について退去を強制し得る旨を規定したものというべきである。このこ
とは、外国人の在留資格は本来権利として有するものではなく、恩恵的に付与され
たものであり、その期間の更新許可がなされない限り日本国に滞在する資格はな
く、いつ退去を要求されても仕方がない地位に過ぎないことからいつても当然とい
わなければならない。
(証拠)(省略)
○ 理由
一、控訴人が、<地名略>に本籍を有する一九二七年一月五日生れの朝鮮人であつ
て、妻Aと婚姻し三子をもうけていること、控訴人は、昭和二〇年九月二日以前か
ら本邦に在留し、法律第一二六号第二条六項該当者であつたが、その後被控訴人法
務大臣から出入国管理令第五〇条の規定を根拠として一八〇日間に限つて在留を許
可される在留特別許可を受け(その効力はひとまず措く)、右在留期間の更新許可
を得てきたところ、控訴人の昭和四二年六月一一日以降の在留期間更新許可申請に
対し被控訴人法務大臣が同年一〇月一九日本件不許可決定をしたこと、これをうけ
て仙台入国管理事務所入国審査官は控訴人を出入国管理令第二四条四号ロに該当す
るとの認定をしたこと、控訴人が右の認定を不服として口頭審理の請求をしたが、
同所特別審理官が右入国審査官の認定に誤りがない旨の判定をしたので、更に被控
訴人法務大臣に異議を申し出たが、昭和四三年八月六日右異議申出が棄却されたこ
とは当事者間に争いがない。
二、ところで、成立に争いのない乙第一ないし第八号証、第九号証の一、二、第一
〇ないし第一五号証、第一六号証の一、二、第一七号証および第一九号証の各記載
を総合すると、本件不許可決定がなされるにいたつた経緯として次のような事実が
認められる。すなわち、
控訴人は、前示のように法律第一二六号第二条六項該当者であつたが、昭和三四年
三月一四日秋田地方裁判所において窃盗罪等により懲役二年、罰金二万円の判決言
渡を受け、右判決が確定して秋田刑務所に服役したので、仙台入国管理事務所入国
審査官は昭和三四年七月二五日控訴人の行為が出入国管理令第二四条四号リに該当
する旨の審査をした。控訴人は、右審査につき同所特別審理官に口頭審理の請求を
したが、右入国審査官の認定に誤りがない旨の判定を受けたので、更に被控訴人法
務大臣に異議の申出を行つた。被控訴人法務大臣は右異議の申出は理由がないと認
めたが、同令第五〇条一項を適用して昭和三五年七月二七日在留特別許可(在留資
格出入国管理令第四条一項一六号。在留期間一八〇日)の裁決をし、右在留特別許
可書が交付され、その後、控訴人は在留期間の更新許可を得てきた。ところが、控
訴人は、右許可にかかる在留期間(昭和三八年一月二四日期間九〇日として短縮許
可)の満了日である昭和三八年四月二三日までに在留期間更新許可申請を行なわず
に同日をこえて在留し、かつ同年七月一一日秋田地方裁判所において傷害罪等によ
り懲役一年二月の判決言渡を受け右判決が確定したので、仙台入国管理事務所入国
審査官は昭和四〇年二月一五日、出入国管理令第二四条四号ロ及びリに該当する旨
の認定をした。控訴人は、右認定に対し口頭審理の申立をしたが同所特別審理官は
右入国審査官の認定に誤まりがない旨の判定をしたので、更に被控訴人法務大臣に
異議の申出を行ない、同被控訴人において昭和四〇年六月九日前同様在留特別許可
(在留資格前同、在留期間一八〇日)の裁決をし、同月一一日控訴人は在留特別許
可書の交付を受けた。その後控訴人は右在留期間の更新許可を得てきたものである
が、本件不許可決定にさきだつ昭和四二年六月二八日にも秋田簡易裁判所において
賭博罪および銃砲刀剣類所持等取締法違反により罰金五万円の有罪判決を受けてい
る。右認定を左右し得る証拠はない。
右に認定した経緯にてらすと、控訴人は、かつて法律第一二六号第二条六項該当者
としての法的地位を有していたが、昭和三五年七月二七日、被控訴人法務大臣が出
入国管理令第五〇条の規定を適用して在留特別許可(在留期間一八〇日)を与えた
ことによつて、法律第一二六号第二条六項該当者としての法的地位を喪失し、その
後は二度にわたる在留特別許可とその更新の範囲で日本国に在留できる法的地位を
有するに過ぎなかつたものであるというべきである。したがつて控訴人が今日でも
なお法律第一二六号第二条六項該当者として、別に法律の定めがあるまで在留資格
や在留期間の定めなく日本国に在留できる法的地位を有することを前提として本件
不許可決定が無効であるとする控訴人の主張は失当である。けだし、法律第一二六
号第二条六項は「日本国との平和条約の規定に基づき同条約の最初の効力発生の日
において日本の国籍を離脱する者で昭和二〇年九月二日以前からこの法律施行の日
まで引き続き本邦に在留するものは、出入国管理令第二二条の二第一項の規定にか
かわらず、別に法律で定めるところによりその者の在留資格及び在留期間が決定さ
れるまでの間引き続き在留資格を有することなく本邦に在留することができる」と
いうのであり、その文言からして出入国管理令第二二条の二の例外規定-同条項
は、日本の国籍を離脱した者または出生その他により同令所定の上陸の手続を経る
ことなく本邦に在留することとなる外国人について、それぞれ日本の国籍を離脱し
た日又は出生その他当該事由が生じた日から六〇日間を限り引き続き在留資格を有
することなく本邦に在留することができるとして、日本の国籍を離脱した者の在留
期間を六〇日に限定している-に過ぎないことは明らかで、それ以上に出入国管理
令全体なかんずく同令第二四条の退去強制の規定の適用をも排除するものと解する
ことはできないからである。そうすれば、控訴人に前示認定のように同令第二四条
四号リに該当する犯罪歴があることが退去強制事由にあたるとしたうえで、同令第
五〇条の規定に基づき在留特別許可を与えた被控訴人法務大臣の措置はもとより適
法であり、法律第一二六号第二条六項該当者には在留特別許可をなし得ないことを
前提として本件不許可処分を論難する控訴人の主張は採用できない。
三、つぎに成立に争いのない乙第二八号証の記載によると、本件退去強制令書の控
訴人の国籍欄および送還先欄にそれぞれ「朝鮮」に記載されているところ、控訴人
が国籍を有する朝鮮民主主義人民共和国と日本との間に国交関係が存在しないこと
は被控訴人らも認めて争わない。しかし、外国人に対する退去強制は国家の権能に
基づいて当該外国人に対し自国からの退去を命ずる処分であるから、送還先となる
外国との国交関係または送還者引き取りの合意の有無によつて制約を受けるもので
はないというべきである。ただ国交関係のない外国に対して送還する場合は出入国
管理令第五二条三項の規定により直接に送還することが通常できないことになる
が、そのために同令は他の送還先への送還(同令第五三条二項)および自主退去
(同令第五二条四項)の方法を定めて送還の方法を確保しているのであるから、控
訴人の送還先が朝鮮民主々義人民共和国であるとしても、控訴人に対する退去強制
は可能であるというべく、したがつて本件退去強制令書の執行の不能を理由に本件
不許可決定が無効もしくは取り消されるべきものであるとする控訴人の主張は理由
がないといわざるを得ない。
四、控訴人は、予備的に被控訴人法務大臣の本件不許可決定が裁量権の逸脱または
権限の濫用によるもので違法であるから取り消されるべきであると主張する。
しかし、控訴人の法務大臣に対する本件不許可決定取消の訴は、行政事件訴訟法第
一四条一項により控訴人が右決定のあつたことを知つた日から三ヶ月以内になされ
なければならないところ、被控訴人法務大臣が控訴人に対し、昭和四二年一〇月一
九日本件不許可決定をし、右決定の書面が翌日控訴人に到達しているのに本件訴が
されたのは三ヶ月を経過したのちである昭和四三年九月二七日であることは当事者
間に争いがない。控訴人は、本件の出訴期間については行政事件訴訟法第一四条四
項の適用があるというが、右の規定は、処分又は裁決について審査請求ができる場
合または行政庁が誤まつて審査請求をすることができる旨を教示した場合におい
て、審査請求があつたときには、審査請求をした者について裁決があつたことを知
つた日または裁決の日を出訴期間の起算日とするというのであるところ、本件不許
可決定は、審査請求または異議申立等の行政法上の不服申立ができない処分である
ことは行政不服審査法第四条一項一〇号の規定上明らかであることに加えて、被控
訴人法務大臣が誤まつて審査請求をすることができる旨を教示したことを認め得る
証拠もなく、しかも、控訴人の異議申出は本件不許可決定に対する審査請求ではな
く、仙台入国管理事務所入国管理官が不法在留に関する調査の結果、出入国管理令
第二四条四号ロに該当するとした認定を誤りがないとした、同所特別審理官の判定
に対する不服申立に過ぎないことは控訴人の主張自体で明らかであるから、本件訴
の提起について行政事件訴訟法第一四条四項を適用する余地はなく、控訴人の主張
は採用できない。
したがつて本件不許可決定取消の訴は出訴期間を徒過したのちに提起されたもので
不適法であり、その内容に立ち入つて判断するまでもなく却下すべきものである。
(なお付言すると、出入国管理令第五〇条および第二一条に定める被控訴人法務大
臣の在留特別許可およびその更新については、その許否は法務大臣の自由裁量に属
するものであるのみならず、前記二で判示したような控訴人の犯罪歴を考えると、
原審証人B、同C、同D、同E、同Fの各証言、原審および当審における控訴人本
人尋問の結果から窺われる控訴人の生活歴、家族関係、生活状況その他諸般の事情
を斟酌しても、被控訴人法務大臣の本件不許可決定に裁量権の逸脱または濫用があ
るとは到底認め難い。「日本国に居住する大韓民国国民の法的地位および待遇に関
する日本国と大韓民国との間の協定」によつて永住許可を認められた大韓民国国民
との取り扱いの相違を理由として被控訴人法務大臣の裁量権の濫用をいう控訴人の
主張は採用できない)。
五、被控訴人主任審査官が本件退去強制令書を発付して本件退去強制処分をしたこ
とは当事者間に争いがない。そして本件退去強制令書が、旅券に記載された在留期
間を経過して本邦に残留する者について退去強制を定めた出入国管理令第二四条四
号口を根拠として発付されているところ、控訴人が従来法律第一二六号第二条六項
該当者であつたために、旅券そのものを所持していないことは被控訴人主任審査官
も認めて争わない。しかし、出入国管理令第二条五号によると、同令にいう旅券と
は、日本国政府、日本国政府の承認した外国政府または権限のある国際機関の発行
した旅券またはこれに代る証明書を意味するものとされ、また同法施行規則第三七
条九号は、在留特別許可において在留期間その他の条件を付す場合において当該外
国人が旅券又はこれに代わる証明書を所持していない場合には、特別許可の条件等
を記載した同規則所定の在留特別許可書を交付するものと定めていることを勘案す
ると、出入国管理令第二四条四号ロは、狭義の旅券を所持している者に限らず、旅
券に代わる証明書および在留期間を明示した在留特別許可書を所持しているものに
ついて、所定の在留期間を徒過して本邦に残留する場合には退去強制の事由に該当
すると定めたものと解すべきである。したがつて控訴人が旅券を所持するものでな
いことを理由に右規定の適用を受けない旨の控訴人の主張は採用できない。そのほ
か、控訴人がいまなお法律第一二六号第二条六項該当者であることを理由に出入国
管理令第二四条の適用を受けないとする控訴人の主張が理由がなく、被控訴人法務
大臣の本件不許可決定が無効もしくは取り消すべきものと認められないことは既に
判示したとおりであり、本件退去強制令書の執行が不能でないことも前示のとおり
であるから、控訴人の被控訴人主任審査官に対する請求は理由がないといわざるを
得ない。
六、以上の次第で、控訴人の被控訴人法務大臣に対する主位的請求および被控訴人
主任審査官に対する請求はいずれも理由がないから失当として棄却すべきであり、
被控訴人法務大臣に対する本件不許可処分の取消の訴は不適法であつてこれを却下
すべきである。これと同趣旨にでた原判決は正当であり、本件控訴は理由がないの
で棄却すべきである。よつて控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九
条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 兼築義春 守屋克彦 田口祐三)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛