弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役三月に処し一年間その執行を猶予する。
     訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴趣意は記録にある被告人及び弁護人目代誠吉各提出の控訴趣意書記載の
とおりであるからこれを引用する。
 被告人の趣意第三点について
 所論は要するに、原判決はその挙示の証拠によつて、被告人が判示階下階段下脇
壁下地板横四三センチメートル位縦八〇センチメートル位を破壊したと認定してい
るが、原判決が証拠として引用している原審の検証調書添付の右破壊個所の写真
は、Aの告訴状添付の写真に比し破損部分が広大になつており、正確性はなく、原
判決が右調書を証拠として右破壊部分を判示のように認定したのは事実の誤認であ
るというのである。
 原審第五回公判における証人Aの供述調書、当審受命裁判官の同人に対する尋問
調書、原審の検証調書、当審受命裁判官の検証調書、当審において取調べた右下地
板破損部分の写真のネガ、Aの右下が提出書、その領置調書、右ネガによる焼付写
真を総合すると、右下地板が被告人によつて破壊された昭和三一年九月七日頃の数
日後、Aによつて右破壊個所が写真にとられたが、その後被告人が同個所から破損
された下地板数枚を取り外し去つたこと、従つて原審検証調書に添付されている右
検証の際に撮影した右破損個所の写真は、破壊された当時の原形とは幾分異なつて
いることが認められるが、右両者の写真を対比すると、その差異は僅少であるとい
うことができる。そしてかかる破損個所の範囲は犯情を明らかにする程度に認めら
れれば、それで充分であつて、右破損部分についての原判決の認定は、横四三セン
チメートル位縦八〇センチメートル位とされており、ほぼ右原形を表わしていると
認められ、原判決の右認定に誤りがあるとすることはできないから、この点につい
ての所論は理由がないが、職権によつて調査すると、原審は「被告人はBと共謀の
上昭和三一年九月七日頃、有限会社C商店(代表取締役A)がDから賃借中の芦屋
市a町b番地所在の木造二階建家屋(延坪約一四坪三合)の階下階段下脇壁下地板
横約一尺縦約二尺平方位並びに階下西側壁上の直径約二寸平方及び横約三寸縦約六
寸平方の二個所を薪割用斧で破壊し、もつて建造物を損壊した」という公訴事実に
対し、判示証拠によつて被告人が単独で、右日時頃薪割用斧を振りまわし、右家屋
の階下階段下脇壁下地板横四三センチメートル位縦八〇センチメートル位、階下西
側壁直径一〇センチメートル位及び横六・五センチメートル位縦二〇センチメート
ル位の三個所を破壊し、もつて建造物を損壊したと認定していることが明らかであ
る。しかし右証拠によつては被告人が単独で右三箇所を破壊したことを認めること
ができない。かえつて原審第三回公判における証人Dの供述調書同第五回公判にお
ける証人Aの供述調書、同第六回公判における証人Eの供述調書、原審の検証調
書、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書、当審受命裁判官の検証調
書、同証人Aに対する証人尋問調書、原告B被告D間の西宮簡易裁判所昭和三一年
(ハ)第五三号建物収去土地明渡請求事件の判決謄本を総合すると、本件家屋所在
の土地は被告人の父Bの所有に属し、Dに賃貸し、同人は右地上に本件家屋を所有
していたが、両者間の建物収去土地明渡請求事件について、昭和三一年七月一二日
西宮簡易裁判所において原告勝訴の判決が言渡され、その判決は同月二八日確定し
たこと、有限会社C商店(代表取締役A)は右確定後の同月三一日Dから右家屋を
賃借し、Dの承諾を得て右家屋を改造することとし、同年八月頃そのことを伝え且
つ隣地との境界を確かめるため使用人Eを被告人方へ行かせたこと、被告人らは同
女に対し右判決のあつたことを告げ改造を禁じたこと、しかるにC商店は同年九月
一日頃から大工を入れて改造工事を始め、被告人は同月五日頃これを知つてその中
止を要求したこと、同月七日頃なお工事が続けられているので、兄Fとともに右家
屋へ行きAに対し更に中止を求めたが応じられなかつたこと、被告人は同夜父Bに
これを話しともに立腹し、工事を中止させる目的をもつて同行し、Aに対しともに
怒声をあげて工事を続けていることを責めた上、同人が家主の承諾を得ているか
ら、他人から干渉される筋はないという趣旨のことを言つてなおも中止要求を拒否
したので憤激し、両人がかわるがわる被告人が携えて行つた薪割用斧を振りまわし
て前記下地板及び壁をたたき、よつて前記三個所に損傷を加えたこと、右下地板は
C商店が階段を移動した上附加したもの、西側壁はもとからあつたものであるこ
と、すなわち両人共謀してD所有の右建造物を損壊したことを認めることができ
る。しかるに原判決がその挙示の証拠によつて判示事実を認められるとしたのはそ
の理由にくいちがいの誤りがあり、原判決はこの点において破棄を免れない。
 同第一、第二点並びに弁護人の趣意中事実誤認及び法令適用の誤りについて。
 所論は要するに、本件家屋の所在土地は被告人の父Bの所有であるところ、その
土地賃借人Dに対する建物収去土地明渡請求訴訟において原告である父の勝訴の判
決が確定した後、有限会社C商店(代表取締役A)がDから右建物を賃借しその承
諾を得たとし、被告人らの警告制止にかかわらず右建物の改造工事を進めたが、こ
れはまさしく右土地所有権に対する急迫不正の侵害に当り、被告人は右侵害に対す
る正当防衛として本件損壊に及んだのであるという被告人の主張に対し、原判決が
C商店のした改造工事は急迫不正の侵害に当らないとしたのは事実を誤認し法令の
適用を誤つたものである。D、Aはいずれも右家屋賃貸借契約当時右確定判決のあ
つたことを知つており、これに基く強制執行を妨害する目的をもつて右契約を結ん
だのであり、しからずとするも右判決後D及びC商店の右土地に対する占有は不法
である。又右改造工事は現に行われていたのであり、それが進行すればするだけ、
父Bに損害が大きくなり、右工事は明らかに急迫不正の侵害に当るというのであ
る。
 原審及び当審における証拠調の結果を総合すると、被告人が当夜前記斧を携えて
行つたのは、工事が進行すればそれだけ右家屋収去の費用負担がかさむと考え、こ
れを防ぐため土間のコンクリートを破壊してでも工事を中止させようと決意したた
めであり、被告人らが斧を振りまわして右家屋に前記損傷を加えたのは、前記のよ
うにAの態度に憤慨したことにもよるが、同時に右工事を中止させ右土地所有権侵
害に対しこれを防衛する意思によつたことも否定することができない。なお右証拠
によるとAは右賃借当時確定判決のあつたことを知らなかつたことが認められる
が、Aが当時これを知り又は右判決に因る強制執行を妨害する意図を有していたと
認められる資料はなく、又被告人らが当夜現場に行つたときには、夜間のため工事
は現に行われていなかつたことが認められるが、右破壊当時工事が現に行われ又は
現に行われていると誤認させるような気配があつたとすべき根拠は少しもない。
 <要旨>ところで前記のとおり、C商店がDから右家屋を賃借したのは、前記判決
確定後であるから、C商店は民事訴訟法第二〇一条の口頭弁論終結後の承継
人に該当し、右判決に因る強制執行の債務者となることは同法第四九七条の二に定
めてあるとおりであつて、その費用負担において同法第七三三条の強制執行の対象
となるのであり、しかも前記のとおり、被告人らからC商店に対し前記判決のあつ
たことを通告した後においても、右家屋の改造工事が遂行されていたことが明らか
であるから、たとえ右賃借当時Aが右判決のあつたことを知らず、それに因る強制
執行を妨害する意思はなく、又家屋改造についてDの承諾を得たとしても、C商店
の右土地占拠及び右工事遂行は不法違法というべく、刑法第三六条の不正の侵害に
当るということができる。しかし同法の急迫というのは、侵害が過去又は未来に属
せず現在し、又は侵害の危険が間近かに緊迫しており、これを排除するため反撃的
に防衛行為に出る外はない緊急状況にある場合を意味すると解するを相当とする。
(昭和三〇年一〇月二五日最高裁判所第三小法廷判決、最高裁判所判例集第九巻第
一一号二二九七頁、昭和三一年一二月一一日大阪高等裁判所判決、高等裁判所判例
集第九巻第一二号一二六四頁参照)ところが右工事は、前記のとおりあらかじめ通
知された上数日前から行われていたもので、被告人はこれを知つており、しかも本
件損壊当時現に行われていなかつたのであるから、右工事をもつて急迫の侵害とす
ることはできない。
 従つて原判決が、C商店は賃借人として仮処分その他法定の手続によつて排斥又
は制限されない限り、右家屋をその本来の用法に従つて使用収益する権利があるか
ら、賃貸人であるDの承認を得て改造工事に着手したことは違法ではなく、これを
もつて不正の侵害とはいえないとしたのは法令の解釈を誤つたという外はないが、
右侵害が急迫でなかつたとする点において前記と趣旨を同じくし、原判決は結論に
おいて当を得ているから、結局論旨は理由がない。
 以上各所論は理由がないが、原判決には上記のとおり理由のくいちがいの誤りが
あるから、その他の論点に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九二条第二項、第
三九七条、第三七八条第四号により原判決を破棄し、第四〇〇条但書に該当する場
合と認めて更に裁判をする。
 (罪となるべき事実)
 被告人の父Bは芦屋市a町b番地の土地を所有しこれをDに賃貸し、同人は右地
上に木造二階建一棟を所有していたが、同人に対し右家屋を収去し右土地を明渡す
べきことを命ずる判決が確定した後、有限会社C商店(代表取締役A)がDから右
家屋を賃借し、同人の承諾を得たとしてその改造工事を始め、被告人らの再三の中
止要求に応じなかつたので、被告人は昭和三一年九月七日Bとともに右家屋へ行き
同所においてAに対し中止要求の上、両名共謀して被告人が携えて行つた薪割斧を
かわるがわる振りまわし、同家階段下脇壁下地板及び階下西側壁をたたきつけ、よ
つて右下地板中の横四三センチメートル位縦八〇センチメートル位の部分に属する
数枚を破壊し又右壁上に直径一〇センチメートル及び横六・五センチメートル位縦
二〇センチメートル位の損傷を加え、もつてD所有の右建造物を損壊した。
 (証拠の標目)
 一、 原審第三回公判における証人Dの供述調書、同第五回公判における証人A
の供述調書、同第六回公判における証人Eの供述調書
 一、 原審の検察調書、当審受命裁判官の検証調書
 一、 当審受命裁判官の証人Aに対する証人尋問調書
 一、 領置にかかる写真ネが一枚(昭和三五年領置第九六号)
 一、 右ネガによる焼付写真
 一、 右ネガの提出書、領置調書
 一、 西宮簡易裁判所昭和三一年(ハ)第五三号建物収去土地明渡請求事件判決
謄本
 一、 被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書
 (法令の適用)
 刑法第二六〇条、第二五条第一項、刑事訴訟法第一八一条(被告人及び弁護人の
正当防衛の主張が採用できないことは前詳記のとおりである)
 (裁判長裁判官 小川武夫 裁判官 亀井左取 裁判官 柳田俊雄)

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