弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人高野弦雄樋口俊二同倉重達郎の上告趣意第一点について。
 原判決が論旨指摘のような擬律をしていること並びに指定生産資材割当規則(昭
和二三年六月一五日総、法、蔵、文、厚、農、商、運、逓、労令第一号、以下新規
則と略称する)第一四条が論旨の言うように規定していることは、いずれも所論の
とおりである。
 しかし、指定生産資材割当規則と称したものには前記規則のほかに昭和二二年一
月二四日閣、商、農、蔵、内、文、厚、運、逓、司令第一号(以下旧規則と略称す
る)があり、右新旧両規則はいずれも臨時物資需給調整法に基くものであつて、新
規則第一四条と同趣旨の規定は旧規則第一一条であり、同規則第一四条は全く別の
規定である。そして、旧規則は新規則の附則第二項によつて廃止されたが、同附則
第三項によると新令施行前になされた行為に対する罰則の適用については旧令はな
お効力を有すると規定されているのであるから、原判決の認定した本件犯行の日時
から見れば、本件には旧規則が適用されることは明らかである。それゆえ、論旨で
指定生産資材割当規則第一四条と言つているのは旧規則第一一条の誤記と解せられ
る。ところで、「同条は指定生産資材の取引で物価に関連あるものはその物価に関
連ある部面については物価統制に関する他の法令(例えば物価統制令等)の規定を
適用し、その規定に違反した場合には物価統制に関する法令の罰則を適用しその限
度においては臨時物資需給調整法の罰則は無関係であるとの趣旨を規定したもので
右取引が他面指定生産資材割当規則の規定に違反しても之を不問に付し、臨時物資
需給調整法の罰則の適用を全然排除する趣旨ではないと解すべきである」ことは、
すでに当裁判所の判例(昭和二四年(れ)第二七五〇号同二五年四月一四日第二小
法廷判決)とするとおりである。されば、原審が原判示事実につき物価統制令のほ
か臨時物資需給調整法の罰則を適用したのは正当であつて所論のような違法はない。
従つて所論憲法違反の主張はその前提を欠くが故に問題とならない。
 同第二点について。
 (一)「労役場留置は、いわゆる換刑処分であつて、その本刑に準ずべき性質の
ものであり、自由刑が科せられる場合と何ら異るところがないから、罰金不完納の
場合の労役場言渡についてもいわゆる不利益変更禁止の規定の適用がある」ことは、
すでに当裁判所の判例とするところである(昭和二四年(れ)第三〇三六号、同二
五年四月二五日第三小法廷判決)。従つて、所論大審院判例に反することを主張す
る論旨は、刑訴第四〇五条第三号に定める上告の事由に当らない。しかのみならず、
原判決は決して第一審判決より被告人に不利益な換刑処分を言渡したものではない。
すなわち、第一審判決は被告人に対し懲役一年(二年間執行猶予)罰金一〇万円、
罰金不完納の場合には金五〇〇円を一日に換刑した期間被告人を労役場に留置する
ことを言渡したのであるが、原判決は被告人に対し懲役刑は全然言渡さず、罰金三
万円、罰金不完納の場合には金三〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留
置することを言渡したこと記録上明らかである。このように原判決は第一審判決の
言渡した懲役刑を言渡さないばかりでなく第一審判決よりも罰金額を減じたので、
被告人を労役場に留置する期間は、第一審の二〇〇日から一〇〇日に減少したので
あるから、労役場留置の一日の換算率だけのみを見ると不利益に変更したように見
えても、第一審判決の言渡した刑と原判決の言渡した刑とをその全体において比較
すれば原判決は決していわゆる不利益変更禁止の規定に反して第一審判決の刑より
も重い刑を言渡したものではないこと明らかである。
 (二)原審第一回公判調書によると、裁判長は所論の販売表を被告人に読み聞け
て証拠調を行つたこと明らかである(原審では第三回公判で審理が更新され、証拠
調等はすべて同審第一回公判調書どおり行われた)。しかのみならず、聴取書に添
付された一覧表は聴取書の一部をなし、これと一体をなすものであるから、聴取書
につき証拠調が行われた以上、一覧表についても、証拠調が行われたものと言うこ
とができる。それゆえ、原審の手続は所論のように判例に違反するものではない。
 (三)原判決は、昭和二六年一月二七日言渡されたこと記録上明らかである。さ
れば本件には「旧刑訴事件の控訴審及び上告審における審判の特例に関する規則(
昭和二五年一二月二〇日当裁判所規則第三〇号同二六年一月四日施行)が適用され
るのである。そして、右規則第二章控訴審に関する規定第八条によれば、証拠によ
り罪となるべき事実を認めた理由を説明するには証拠の標目を掲げれば足りるので
ある。また、有罪の言渡をするには必ずしも各犯罪事実ごとに個別的にこれを認め
た証拠の標目を示さなければならないわけではなく、数個の犯罪事実について数多
の証拠の標目を一括して掲げて説明しても違法でないことは当裁判所の判例とする
ところである(昭和二五年(あ)第一〇六八号同年九月一九日第三小法廷判決)。
それゆえ、論旨引用の東京高等裁判所の判例は当裁判所の前記判例により変更され
たものである。されば、原判決には所論のような判例違反はない。
 よつて、本件上告を理由ないものと認め、刑訴施行法第三条の二刑訴第四〇八条
に従い、裁判官全員の一致した意見により主文のとおり判決する。
  昭和二六年一〇月一六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保

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