弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士野尻昌次の上告理由第一点について。
 所論原判示の特約は原審挙示の証拠に照し首肯できなくはなく、また右特約締結
の事実は第一審以来被上告人において主張していることは、判文上明らかである。
されば、所論は事実認定に関する原審の専権行使を非難するか或は原判決を正解し
ないで原判決を攻撃するに帰するものであつて、いずれも採るを得ない。
 同第二点について。
 しかし所論証人Dの証言は、被上告人において援用はしているが、判文上明らか
のように原審は所論賃貸借の成否の点について右証言を何ら事実認定の資料とはし
ていないのである。従つて所論も亦原判決を正解しないで、原判決を非難するもの
であつて、採るを得ない。
 同第三点について。
 しかし、所論の点に関する原判決認定の事実によれば、所論調停は上告人の承諾
を得難く不成立に帰したというのであるから、所論調停申立書は上告人に受領され
ていることが判文上明らかであるというべく、従つて、これによつて観れば、原判
決は上告人によつて受領されている調停申立書によつて解約申入をしたという趣旨
を認定しているものと解するを相当とする。所論は、右調停申立書の文言について
彼是論議するが、家屋の明渡を求める調停の申立は賃貸借契約の存続とは相容れな
いものであるから、判文上特別事情の認められない本件においては、その申立の理
由の如何を問わず、右調停の申立によつて解約申入の意思表示がなされたものと解
するを相当とする(昭和三六年一一月七日当裁判所第三小法廷判決、集一五巻一〇
号参照)。されば原判決には所論の違法ありと言い難く、所論はひつきよう独自の
見解というの外なく、採用できない。
 同第四点について。
 しかし、原判決の認定にかかるもろもろの事情ないしは事態の推移の下で被上告
人のなした所論解約申入はいわゆる正当の事由あるものと言うべきであるとした判
断は、当裁判所も正当としてこれを是認する。所論は右に反する独自の所見という
の外なく、採用できない。
 同第五点について。
 しかし、上告人が所論供託前に被上告人に対し現実に弁済の供託をなした事実は
これを認め得る証拠がないとした原判決の判断は、本件証拠関係に照し首肯できな
くはなく、その判断の過程に所論違法のかどあるを見出し得ない。それ故、所論も
採用し難い。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとお
り判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    高   木   常   七

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