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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
平成29年10月22日施行の衆議院小選挙区選出議員の岡山県第1区ない
し第5区における選挙を無効とする。
第2事案の概要
1本件は,平成29年10月22日施行の衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」
という。)について,岡山県第1区ないし第5区の選挙人である原告らが,衆議院
小選挙区選出議員の選挙(以下「小選挙区選挙」という。)の選挙区割りに関する
公職選挙法の規定は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件
選挙の前記各選挙区における選挙も無効であるなどと主張して提起した選挙無
効訴訟である。
2争いのない事実等
(1)原告Aは岡山県第1区の,原告Bは岡山県第2区の,原告Cは岡山県第3
区の,原告Dは岡山県第4区の,原告Eは岡山県第5区の本件選挙の選挙人で
ある。
(2)本件選挙の小選挙区選挙は,平成29年法律第58号により改定された選
挙区割り(以下「本件選挙区割り」という。)の下で施行されたものである(以
下,本件選挙に係る衆議院小選挙区選出議員の選挙区を定めた公職選挙法13
条1項及び別表第1を併せて「本件区割規定」という。)。
(3)本件選挙施行当時の選挙制度によれば,衆議院議員の定数は465人とさ
れ,そのうち289人が小選挙区選出議員,176人が比例代表選出議員とさ
れ(公職選挙法4条1項),小選挙区選挙については,全国に289の選挙区を
設け,各選挙区において1人の議員を選出するものとされ(同法13条1項,
別表第1),比例代表選出議員の選挙(以下「比例代表選挙」という。)につい
ては,全国に11の選挙区を設け,各選挙区において所定数の議員を選出する
ものとされている(同法13条2項,別表第2)。総選挙においては,小選挙区
選挙と比例代表選挙とを同時に行い,投票は小選挙区選挙及び比例代表選挙ご
とに1人1票とされている(同法31条,36条)。
(4)本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数が最も
少ない鳥取県第1区と選挙人数が最も多い東京都第13区との間で1対1.9
79であった(乙1)。
3当事者の主張の要旨
(1)原告らの主張
ア憲法前文第1文,1条,56条は,人口比例選挙すなわち投票価値の平等
を定めている。
また,最高裁平成23年3月23日大法廷判決・民集65巻2号755頁
(以下「平成23年大法廷判決」という。)は,平成24年法律第95号によ
る改正前の衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下「旧区画審設置法」と
いい,改正の前後を通じて「区画審設置法」という。)3条2項が,小選挙区
選出議員の選挙区の区割りの基準につき,各都道府県の区域内の選挙区の数
を各都道府県にあらかじめ1を配当すること(以下「1人別枠方式」という。)
を含む区割りの基準(以下「旧区割基準」という。)に従って改定された平成
24年法律第95号による改正前の公職選挙法13条1項及び別表第1(以
下「旧区割規定」という。)の定める選挙区割り(以下「旧選挙区割り」とい
う。)は,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判示し
た。本件区割規定も,平成24年法律第95号による0増5減(各都道府県
の選挙区数を増やすことなく,うち5県の各選挙区数をそれぞれ1減ずるこ
とをいう。以下同じ。)及び平成28年法律第49号による0増6減の措置
を経たものの,同措置における定数削減の対象とされた県以外の都道府県に
ついては,旧区割基準に基づいて配分された定数がそのまま維持されている
から,1人別枠方式の構造的な問題が解決されているとはいえず,これが,
本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差が1対1.979にも
達した主な要因になったというべきである。
平成23年大法廷判決は,人口以外の要素も,合理性を有する限り,国会
において考慮することを許容しているとしつつ,一人別枠方式が,投票価値
の不平等を生じさせるだけの合理性があるとはいい難いと判示しているの
であって,本件選挙においても,被告主張による12都県には,一人別枠方
式による議員定数が配分されている以上,本件選挙区割りは憲法上考慮する
ことのできない要素を考慮したものであって,違憲であることを免れない。
したがって,本件区割規定の定める本件選挙区割りは,違憲である。
イ合理的期間の法理は,違憲な国の行為を有効とするものであって,憲法の
最高法規制を定める憲法98条1項に反する。
また,平成23年大法廷判決から本件選挙まで6年6月30日が経過した
から,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったといえる。
したがって,本件区割規定の定める本件選挙区割りは,違憲である。
ウ衆議院には,現在,比例代表選出議員176人が存在するから,本件選挙
中の小選挙区選挙を無効としても,定足数を維持して,全ての議事を行うこ
とができるし,これにより,国務大臣等が失格しても,同様のことは,衆議
院の解散でもありうることであるから,小選挙区選挙が無効とされることに
よる社会的混乱はなく,事情判決の法理を適用して本件選挙の違法を宣言す
るにとどめるべきではない。
(2)被告の主張
ア投票価値の平等が,選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,国
会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連にお
いて調和的に実現されるべきものであることは,最高裁昭和51年4月14
日大法廷判決・民集30巻3号223頁以降の累次の大法廷判決の趣旨とす
るところである。
そして,大法廷判決は,選挙区の改定案の作成につき,選挙区間の人口の
最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきものと
する旧区画審設置法3条1項が,投票価値の平等に配慮した合理的な基準を
定めたものと評価していた。
また,人口比例による配分方式の一つであるアダムズ方式(各都道府県の
人口を一定の数で除し,その商の小数部分を切り上げて各都道府県の議員定
数として配分する方法)に従った定数配分及び選挙区割りが,平成32年に
実施される大規模国勢調査(以下「平成32年大規模国勢調査」という。)か
ら行われるところ(平成28年法律第49号による改正後の区画審設置法3
条2項),この間の経過措置として,平成28年法律第49号附則2条に従
って,選挙区間の最大較差が,平成27年10月に実施された簡易国勢調査
(以下「平成27年簡易国勢調査」という。)の結果に基づいて1対1.95
6倍となり,本件選挙時において1対1.979倍となる定数配分及び選挙
区割りを採用したことは,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有
するといえる。
したがって,本件区割規定の定める本件選挙区割りは,憲法の投票価値の
平等の要求に反する状態に至っていない。
イ仮に,本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にある
としても,平成23年大法廷判決の趣旨に沿って,1人別枠方式を廃止し,
選挙区間の人口の最大較差を2倍未満にしたから,国会において,本件選挙
区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあると認識すること
はできず,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとは
いえない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
第2の2の争いのない事実等,顕著な事実及び証拠(後掲括弧内記載)によれ
ば,以下の事実が認められる。
(1)ア旧区画審設置法3条は,小選挙区選出議員の選挙区の区割りの基準につ
き,①1項において,同選挙区の改定案を作成するに当たっては,各選挙区
の人口の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少な
いもので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし,行政
区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならな
いものと定めるとともに,②2項において,各都道府県の区域内の選挙区の
数は,各都道府県にあらかじめ1を配当することとし(1人別枠方式),この
1に,小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数
を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とすると定めていた
(旧区割基準)。
なお,旧区画審設置法において1人別枠方式が採用された経緯についてみ
ると,同法案の国会での審議において,法案提出者である政府側から,各都
道府県への定数の配分については,投票価値の平等の確保の必要性がある一
方で,過疎地域に対する配慮,具体的には人口の少ない地方における定数の
急激な減少への配慮等の視点も重要であることから,人口の少ない県に居住
する国民の意思をも十分に国政に反映させるために,定数配分上配慮して,
各都道府県にまず1人を配分した後に,残余の定数を人口比例で配分するこ
ととした旨の説明がされている。
イ平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙(以下「平成21年選挙」
という。)は,平成12年10月に実施された大規模国勢調査(以下「平成1
2年大規模国勢調査」という。)の結果に基づき旧区画基準に従って改定さ
れた旧区割規定の定める旧選挙区割りの下で施行されたものである。
平成21年選挙施行当時の選挙制度によれば,衆議院議員の定数は480
人とされ,そのうち300人が小選挙区選出議員,180人が比例代表選出
議員とされ,小選挙区選挙については,全国に300の選挙区を設け,各選
挙区において1人の議員を選出するものとされ,比例代表選挙については,
全国に11の選挙区を設け,各選挙区において所定数の議員を選出するもの
とされていた。
平成12年大規模国勢調査の結果による人口を基に,旧区割り規定の下に
おける選挙区間の人口の格差を見ると,最大較差は人口が最も少ない高知県
第1区と人口が最も多い兵庫県第6区との間で1対2.064であり,高知
県第1区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は9選挙区であった。
また,平成21年選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙
人数が最も少ない高知県第3区と選挙人数が最も多い千葉県第4区との間
で1対2.304であり,高知県第3区と比べて較差が2倍以上となってい
る選挙区は45選挙区であった。
ウ平成23年大法廷判決は,このような状況の下で旧選挙区割りに基づいて
施行された平成21年選挙について,旧区画審設置法3条1項の定めは,投
票価値の平等の要請に配慮した合理的な基準を定めたものであると評価す
る一方,平成21年選挙時において,選挙区間の投票価値の較差が前記のと
おり拡大していたのは,1人別枠方式がその主要な要因となっていたことが
明らかであり,かつ,人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮
等の視点から導入された1人別枠方式は既に立法時の合理性が失われてい
たものというべきであるから,旧区割基準のうち1人別枠方式に係る部分及
び旧区割基準に従って改定された旧区割規定の定める旧選挙区割りは憲法
の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判示した。そして,平
成23年大法廷判決は,これらの状態につき憲法上要求される合理的期間内
における是正がされなかったとはいえず,旧区割基準及び旧区割規定が憲法
14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上
で,事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に前記の状態を解
消するために,できるだけ速やかに旧区割基準中の1人別枠方式を廃止し,
旧区画審設置法3条1項の趣旨に沿って区割規定を改正するなど,投票価値
の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があると判示した。
(2)ア平成23年大法廷判決を受けて,旧区画審設置法3条2項の削除及び0
増5減を内容とする平成24年法律第95号が,平成24年11月16日,
成立し(以下,この区画割りの基準を「平成24年区画基準」という。),こ
れに基づく選挙区割りの改定を内容とする平成25年法律第68号が,平成
25年6月24日,成立した(以下,前記改正後の公職選挙法13条1項及
び別表第1を併せて「平成25年区割規定」といい,平成25年区割規定に
基づく前記改定後の選挙区割りを「平成25年選挙区割り」という。)。
なお,前記0増5減は,較差拡大の主因が,人口が90万人以下の鳥取県,
島根県,高知県,徳島県,福井県,佐賀県及び山梨県にあり,既に定数2と
なっている鳥取県及び島根県以外の5県の定数を2とした上で,人口最小県
の鳥取県の選挙区の人口をできるだけ平準化し,選挙区間の較差が2倍未満
となるよう区割りの改定を行うものである(乙3の1)。
前記改定の結果,平成25年選挙区割りの下において,平成22年10月
に実施された大規模国勢調査(以下「平成22年大規模国勢調査」という。)
の結果によれば,選挙区間の人口の最大較差は1対1.998となるものと
されたが,平成25年3月31日現在及び平成26年1月1日現在の各住民
基本台帳に基づいて総務省が試算した選挙区間の人口の最大較差は,それぞ
れ1対2.097及び1対2.109であり,前記試算において較差が2倍
以上となっている選挙区は,それぞれ9選挙区及び14選挙区であった。
イ最高裁平成25年11月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁
(以下「平成25年大法廷判決」という。)は,旧選挙区割りに基づいて平成
24年12月16日に施行された衆議院議員総選挙について,旧選挙区割り
は憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものではあるが,憲法
上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえないと判
示した。
また,平成25年大法廷判決は,前記0増5減の措置における定数削減の
対象とされた県以外の都道府県については,旧区画基準に基づいて配分され
た定数がそのまま維持されており,平成22年大規模国勢調査の結果を基に
1人別枠方式の廃止後の平成24年区画基準に基づく定数の再配分が行わ
れているわけではなく,全体として旧区画審設置法3条1項の趣旨に沿った
選挙制度の整備が十分に実現されているといえず,そのため,今後の人口変
動により再び較差が2倍以上の選挙区が出現し増加する蓋然性が高いと想
定されるなど,1人別枠方式の構造的な問題が最終的に解決されているとは
いえないことを説示した。
ウ平成26年12月14日施行の衆議院議員総選挙(以下「平成26年選挙」
という。)は,平成25年選挙区割りの下において,施行されたものである。
平成26年選挙施行当時の選挙制度によれば,衆議院議員の定数は475
人とされ,そのうち295人が小選挙区選出議員,180人が比例代表選出
議員とされ,小選挙区選挙については,全国に295の選挙区を設け,各選
挙区において1人の議員を選出するものとされ,比例代表選挙については,
全国に11の選挙区を設け,各選挙区において所定数の議員を選出するもの
とされていた。
平成26年選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数
が最も少ない宮城県第5区と選挙人数が最も多い東京都第1区との間で1
対2.129であり,宮城県第5区と比べて較差が2倍以上となっている選
挙区は13選挙区であった。
エ最高裁平成27年11月25日大法廷判決・民集69巻7号2035頁
(以下「平成27年大法廷判決」という。)は,このような状況の下で施行さ
れた平成26年選挙について,平成25年選挙区割りにおいては,前記0増
5減の措置における定数削減の対象とされた県以外の都道府県について旧
区画基準に基づいて配分された定数の見直しを経ておらず,1人別枠方式を
定めた旧区画審設置法3条2項が削除された後の平成24年区画基準に基
づいた定数の再配分が行われていないことから,いまだ多くの都道府県にお
いて,そのような再配分が行われた場合に配分されるべき定数とは異なる定
数が配分されているということができ,これが,前記のような投票価値の較
差が生じた主な要因となっているというべきであり,前記のような投票価値
の較差が生じたことは,全体として,平成24年区画基準の趣旨に沿った選
挙制度の整備が実現されていたとはいえないことの表れというべきである
から,平成25年選挙区割りはなお憲法の投票価値の平等に反する状態にあ
ったものといわざるを得ないと判示した。
そして,平成27年大法廷判決は,これらの状態につき憲法上要求される
合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,平成25年区割規定
が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないと
した上で,より適切な民意の反映が可能となるよう,今後も,旧区画審設置
法3条1項の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられ
ていく必要があると判示した。
(3)ア平成27年大法廷判決を受けて,①各都道府県の区域内の衆議院小選挙
区選出議員の選挙区の数について,大規模国勢調査の結果に基づき,人口比
例による配分方式の一つであるアダムズ方式を用いること,②アダムズ方式
は,平成32年大規模国勢調査から導入すること,③衆議院議員の定数を,
即10削減すること,すなわち,小選挙区選出議員の定数を6削減し,比例
代表選出議員の定数を4削減すること,④小選挙区選出議員の定数を6削減
する対象県について,平成27年簡易国勢調査(平成28年2月26日速報
値発表,同年10月26日確定値公表)に基づきアダムズ方式に従い都道府
県別定数を計算した場合に減員対象となる都道府県のうち,議員1人当たり
人口の最も少ない都道府県から順に6県とすることなどを内容とする平成
28年法律第49号が,平成28年5月20日,成立し,これに基づく選挙
区割り(本選挙区割り)の改定を内容とする平成29年法律第58号が,平
成29年6月9日,成立した(本件区割規定)。
6削減する都道府県は,小選挙区選出議員の定数を6削減することを前提
に,平成27年簡易国勢調査に基づきアダムズ方式に従えば,鹿児島県,岩
手県,青森県,熊本県,三重県,奈良県,長崎県,新潟県,愛媛県,宮城県,
滋賀県,山口県及び広島県をそれぞれ1減し,埼玉県及び愛知県をそれぞれ
1増,神奈川県を2増,東京都を3増する(7増13減する)ことになると
ころ,鹿児島県,岩手県,青森県,熊本県,三重県及び奈良県が対象になっ
た。
なお,国立社会保障・人口問題研究所が平成25年3月に推計した平成3
2年における日本の地域別将来推計人口に基づきアダムズ方式に従えば,前
記7増13減の後,和歌山県,岡山県及び福島県をそれぞれ1減し,滋賀県,
東京都及び千葉県をそれぞれ1増することになる(乙10)。
イ平成28年法律第49号においてアダムズ方式の導入が平成32年大規
模国勢調査からとされた経緯についてみると,同法案の国会での審議におい
て,法案提出者である政府側から,①平成27年簡易国勢調査より古い平成
22年大規模国勢調査の結果を用いる合理性が乏しい旨,②平成22年大規
模国勢調査の後に2度の衆議院議員総選挙を経ているため,平成22年大規
模国勢調査の結果に基づき定数配分を見直せば,従前と異なる定数を配分さ
れた都道府県の選挙人を中心に,これら2度の衆議院議員総選挙の正当性や
選出された議員の地位に対し疑念を抱かせるおそれがある旨,③平成32年
大規模国勢調査を控えて,立て続けに定数配分の見直しを行うことは,制度
の安定性を欠く旨の説明がされていた(乙12の2)。
また,小選挙区選出議員の定数の6削減を平成27年簡易国勢調査に基づ
いて行うこととされた経緯についてみると,①定数削減を先送りしないとい
う内閣総理大臣の政治的な決断があった旨,②減員対象となる6県が,平成
32年大規模国勢調査の結果に基づく定数配分の見直しにより減員される
蓋然性が極めて高く,見直しに伴う定数の削減幅を小さくするという観点か
らも合理的である旨の説明がされていた(乙12の2)。
ウ前記改定の結果,本件選挙区割りの下において,平成27年簡易国勢調査
の結果によれば,平成27年国勢調査人口に基づく選挙区間の人口最大較差
は1対1.956となるものとされ,平成32年見込人口に基づく選挙区間
の最大較差は1対1.999となるものであった。
エ本件選挙は,本件選挙区割りの下において,施行された。
本件選挙施行当時の選挙制度によれば,衆議院議員の定数は465人とさ
れ,そのうち289人が小選挙区選出議員,176人が比例代表選出議員と
され,小選挙区選挙については,全国に289の選挙区を設け,各選挙区に
おいて1人の議員を選出し,比例代表選挙については,全国に11の選挙区
を設け,各選挙区において所定数の議員を選出するものとされていた。
また,本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数
が最も少ない鳥取県第1区と選挙人数が最も多い東京都13区との間で1
対1.979であった。
2本件区割規定の定める本件選挙区割りは,憲法の投票価値の平等の要求に反す
る状態に至っているか否か
(1)憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば投票価値の平等を要求している
ものと解される。他方,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,
絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ない
し理由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ,国会の両
議院の議員の選挙については,憲法上,議員の定数,選挙区,投票の方法その
他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(憲法43条2項,47条),
選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている。
この点,平成27年大法廷判決は,衆議院議員の選挙につき,全国を多数の
選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には,選挙制度の仕組みのうち
定数配分及び選挙区割りを決定するに際して,憲法上,議員1人当たりの選挙
人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基
準とすることが求められているというべきであるが,それ以外の要素も合理性
を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるの
であって,具体的な選挙区を定めるに当たっては,都道府県を細分化した市町
村その他の行政区画などを基本的な単位として,地域の面積,人口密度,住民
構成,交通事情,地理的状況などの諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民
意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請と
の調和を図ることが求められているところであり,このような選挙制度の合憲
性は,これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお,国会に与えられた裁量権
の行使として合理性を有するといえるか否によって判断されることになり,国
会がかかる選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,前記のような
憲法上の要請に反するため,前記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えて
おり,これを是認することができない場合に,初めてこれが憲法に違反するこ
とになるものと解すべきであると判示している。
原告らが,他に選挙区間の最大較差を1倍に近づける方法があることをもっ
て投票価値の平等に反することを主張するのであれば,これを採用することは
できない。
他方,旧区画審設置法3条1項及び平成28年法律第49号による改正後の
区画審設置法3条1項が,選挙区間の人口の最大較差が2倍未満になるように
区割りをすることと共に,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して
合理的に行わなければならないことと定めているのも,前記法理に沿って解す
るべきである。したがって,結果的に投票価値の最大較差が2倍未満に収まっ
たことをもって投票価値の平等に反しないことをいう被告の主張も,採用する
ことができない。
(2)前記の見地に立って,本件選挙当時の本件区割規定及びこれに基づく本件
選挙区割りの合憲性について検討する。
平成23年大法廷判決は,1人別枠方式について,憲法の投票価値の平等の
要求に反する状態に至っている旨判示したものである。また,平成25年大法
廷判決は,前記0増5減の措置について,1人別枠方式の構造的な問題が最終
的に解決されているとはいえないことを説示していたところ,平成27年大法
廷判決も,前記0増5減の措置について,その旨説示し,憲法の投票価値の平
等の要求に反する状態に至っている旨判示したものである。
そして,平成27年大法廷判決を受けて成立した平成28年法律第49号に
より,アダムズ方式による定数配分の見直しを平成32年大規模国勢調査の結
果からとする一方で,経過措置として,本件区割規定が定められ,小選挙区選
出議員の定数を6削減することを前提に,平成27年簡易国勢調査の結果に基
づくアダムズ方式に従い見直した定数配分のうち,削減の対象とされた都道府
県の中から6県のみ再配分する(0増6減の措置)本件選挙区割りの下で本件
選挙が施行されたものである。
そうすると,前記1(3)アのとおり,本件選挙区割りにおいては,前記0増5
減及び0増6減の措置における定数削減の対象とされた県以外の都道府県(長
崎県,新潟県,愛媛県,宮城県,滋賀県,山口県及び広島県の各1減,埼玉県
及び愛知県の各1増,神奈川県の2増,東京都の3増)について,旧区画基準
に基づいて配分された定数の見直しを経ておらず,1人別枠方式を定めた旧区
画審設置法3条2項が削除された後の区割りの基準に基づいた定数の再配分
が行われていないことが認められる。
しかるところ,前記1(3)エのとおり,本件選挙区割りにおいては,本件選挙
時における選挙区間の選挙人数の最大較差は1対1.979に達していたもの
である。このような投票価値の格差が生じた主な要因は,東京都などを増員さ
せていないこと,そのために長崎県などを減員させていないことにあるという
べきである。したがって,1人別枠方式の構造的な問題が既に解決されている
という被告の主張は,採用することができない。
しかしながら,平成23年大法廷判決が,1人別枠方式の構造的な問題を指
摘し,1人別枠方式は,既に立法時の合理性が失われていたとして,旧区割基
準のうち1人別枠方式に係る部分及び旧区割基準に従って改定された旧区割
規定の定める旧選挙区割りが違憲状態にあると判示して以降,前記0増5減及
び0増6減の措置という2度に亘る改正がなされて本件選挙区割りに至って
おり,本件選挙区割りにより,選挙区間の較差が2倍以上となる選挙区が0と
なったことは,前記の累次の大法廷判決の趣旨に沿って,較差の是正が図られ
つつあるものとみることができる。また,その改定の手法についても,前記0
増6減の措置については,平成27年の簡易国勢調査に基づきアダムズ方式に
より都道府県別定数を計算した場合に削減対象となる都道府県のうち議員1
人当たり人口の最も少ない都道府県から順に6県を対象としたもので(平成2
8年法律第49号附則2条2項),6県の定数を減じるという限りでは,一応
の合理性があるというべきである。
加えて,同法は,平成32年大規模国勢調査の後は,大規模国勢調査の度に,
アダムズ方式による都道府県別定数の配分を行うと共に,大規模国勢調査及び
その5年後の年に行われる簡易国勢調査の度に,選挙区間の最大較差が2以上
にならないように選挙区割りを変更することを義務付けるに至り,併せて,同
法の施行後においても,全国民を代表する国会議員を選出するための望ましい
選挙制度の在り方について,不断の見直しを求めており(附則第5条),これら
は,いずれも,前記の累次の大法廷判決を受けて,更なる較差の是正を指向す
るものと評価することができる。
他方で,本件選挙区割りがそうであるように,選挙区毎の人口の均衡を図る
ためには,いわゆる分割市区町村が生じることは避けられないところであり,
これに対しては,自治体の一体性を損なうなどの批判が生じることが,容易に
想像できるところでもある。
以上のように,法は,選挙区間の較差の是正に向けて,具体的方策を示して
おり,他方で,較差の是正に伴う別の問題の発生も考えられ,投票価値の平等,
すなわち選挙区間の較差の是正には,その対応や合意の形成に様々な困難が伴
うといわなければならず,このような状況下で,平成28年法律第49号が,
0増6減の措置を定めたことは,投票価値の平等の要請に配慮した合理的な選
挙制度の実現に向けた漸次的な見直しとして,国会の裁量権の範囲内にあると
いうべきである。
そうすると,本件選挙当時,本件選挙区割りの下で実施された本件選挙にお
ける投票価値の不均衡は,違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態にあっ
たものということはできず,本件選挙区割りが憲法に違反するということはで
きない。
第4結論
以上のとおりであって,本件選挙区割りは,憲法の投票価値の平等に反する状
態にあったということはできないから,本件選挙に無効原因があるということは
できず,原告らの請求はいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
広島高等裁判所岡山支部第2部
裁判長裁判官松本清隆
裁判官永野公規
裁判官西田昌吾は差し支えのため署名押印できない。
裁判長裁判官松本清隆

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