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平成一二年(ワ)第一七八七五号 商標権等移転登録請求事件
(口頭弁論終結日 平成一二年一二月一五日)
判     決
 原告      A
   右訴訟代理人弁護士加藤貞晴
   被告      有限会社小沢工業
 右代表者代表取締役      B
   右訴訟代理人弁護士田中平八
  主   文
一 被告は、原告に対し、別紙意匠権等目録記載の意匠権及び商標権について、
移転登録手続をせよ。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
  事実及び理由
第一 請求
  主文同旨。
第二 事案の概要
一 争いのない事実
1 株式会社ダイモン(以下「ダイモン」という。)は、別紙意匠権等目録記
載の意匠権及び商標権(以下、右本意匠及び類似意匠に係る意匠権を「本件意匠
権」、右本意匠及び類似意匠を「本件意匠」、右商標権を「本件商標権」、その商
標を「本件商標」といい、本件意匠権と本件商標権を合わせて「本件意匠権等」と
いう。)を有していた。
2 ダイモンは、本件意匠の実施品である組立て屋根に本件商標を付して販売
し、多数の業者との間で右商品の販売代理店契約を締結し、契約金を受領していた
ものの、平成八年一〇月、銀行取引停止処分を受けて事実上倒産した。
3 ダイモンに契約金を支払ったまま商品の供給を受けられなくなった右業者
らの一部は、同年一一月、支払済みの契約金の返還、未払分の支払停止、商品の安
定供給等を求めて、「株式会社ダイモン被害者の会」(以下「ダイモン被害者の
会」という。)を結成し、被告がその代表幹事となった。
4 本件意匠権等は、東京国税局から差押えを受けており、また、複数の者が
本件意匠権につきダイモンから通常実施権の設定を受けていたので、誰かが本件意
匠権等をダイモンから譲り受け、右差押えを解除し、右通常実施権者との問題も解
決した上で、ダイモンが製造販売していたのと同様の組立て屋根(以下「本件製
品」という。)を安定供給していくことが必要であった。
5 被告は、ダイモンとの間で、平成九年六月九日付けで、被告がダイモンか
ら本件意匠権等を譲り受ける旨の契約書を作成した。そして、被告は、移転登録を
経て、本件意匠権等の登録名義人となった。
6 被告は、平成一一年二月一九日、ダイモン被害者の会の代表幹事を辞任し
た。
 二 本件は、原告が、ダイモン被害者の会の代表幹事に就任したと主張して、被
告に対し、本件意匠権等の移転登録手続を求める事案である。
第三 争点及びこれに関する当事者の主張
 一 争点
1 被告がダイモンから本件意匠権等を信託的に譲り受けたか
2 原告が被告に本件意匠権等の登録の移転を請求できるか
 二 争点に関する当事者の主張
  1 争点1について
   (原告の主張)
被告は、ダイモン被害者の会の代表幹事であったことから、ダイモンが製
造販売していたものと同様の組立て屋根を右会の会員に継続的に供給するという目
的の下に、右会ないしはその構成員全員の受託者の立場において、本件意匠権等の
譲受人になったものであり、信託的に本件意匠権等を取得したものである。
   (被告の主張)   
    被告は、ダイモンから、前記第二の一5の契約により、本件意匠権等を譲
り受けたが、右譲渡は信託的なものではない。
 (一) 被告は、ダイモン被害者の会の会員以外のダイモンの代理店や、一般
の顧客にも本件意匠の実施品を販売する目的で、本件意匠権等を譲り受けたもので
あって、被告は、本件意匠権等の取得、維持のために多額の支出をしている。
 (二) 本件意匠権等が信託財産であるとすると、必ずその信託の登録をして
いたはずであるが、そのような登録はされていない。
 (三) 原告の主張する信託は、いわゆる民事信託であって、特約のない限
り、受託者は無償で、委託者、受益者のために信託財産を管理、処分する義務を負
うが、このような管理を無償で行うようなことは、特別な事情がない限りあり得な
い。被告とダイモン被害者の会又はその会員との間に、このような特別な事情はな
かった。
2 争点2について
 (原告の主張)
被告は、ダイモン被害者の会の代表幹事であったことから、右会ないしは
その構成員全員の受託者の立場において、本件意匠権等の譲受人になったものであ
るが、被告が右会の代表幹事を辞任し、原告が右会の代表幹事となったのであるか
ら、信託法五〇条一項の適用若しくは類推適用又は同項の趣旨により、被告から原
告へ本件意匠権等の登録を移転すべきである。 
 (被告の主張)
  原告の右主張は否認する。
  原告を含むダイモン被害者の会の役員は、会員総会で選任された者でない
から、原告は、同会を代表する権限を有していない。
第四 当裁判所の判断
 一 争点1について
  1 前記第二の一の事実に証拠(甲一ないし七、一〇、一一、一六、一七、乙
一、八、一一、一六、一七)と弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ
る。
   (一) ダイモンは、平成八年一〇月、事実上倒産した。
 同年一一月に、ダイモン被害者の会が結成され、会員総会において、被
告、有限会社アタゴ、有限会社白浜工務店、有限会社沼津住機、エンジョイライフ
井上ことC、Dが幹事に選任され、幹事の互選によって被告が代表幹事になった。
同会は、ダイモンに契約金を支払ったまま商品の供給を受けられなくなった業者ら
に広く呼びかけ、それに賛同した業者らによって結成されたものである。
(二) 本件意匠権等は、東京国税局による差押えを受けており、また、複数
の者が既にダイモンから本件意匠権について通常実施権の設定を受けていたので、
誰かが本件意匠権等をダイモンから譲り受け、右差押えを解除し、右通常実施権者
との問題も解決した上で、本件製品を安定的に供給していくことが必要であった。
(三) ダイモン被害者の会の幹事らは、本件意匠権等の適当な譲受先を探し
ていたが、結局、右会の代表幹事である被告を譲受人とすることにした。
(四) 被告は、同年六月、ダイモンに対し、「当社は、標記商品を貴社が取
り引きしていた代理店等の要望に基づいて、生産し、供給するものです。」、「本
件譲渡について、第三者より当社が訴訟等を起こされても当社の責任において解決
し、貴社に御迷惑をおかけしません。」などと記載した確認書を交付した。
 (五) 被告は、ダイモンとの間で、同月九日付けで、本件意匠権等の譲渡契
約書を作成し、ダイモンに対し、その対価として、一五三万四二〇〇円を支払った
が、そのダイモン作成の領収書には、被告名に続けて「被害者の会代表」と明記さ
れていた。
 右一五三万四二〇〇円は、ダイモンによって、滞納していた国税の支払
にあてられた。
(六) 被告は、平成一一年二月一九日、同会の代表幹事を辞任した。その
際、被告代表者は、本件意匠権等がダイモン被害者の会のものであることの確認を
求められ、「『あっ晴れさん』意匠登録第〇八四〇九〇六号及び商標登録第二三八
八三八八号は有限会社小沢工業代表取締役B氏の所有でなく、株式会社ダイモン被
害者の会の所有であることを確認する。」との内容の確認書に署名押印した。
2 右1認定の事実によると、被告は、ダイモンから、平成九年六月九日付け
の契約によって、本件意匠権等を譲り受けたものと認められる。
 しかし、右1(一)ないし(三)認定の事実によると、本件意匠権等の譲渡
は、本件製品を安定的に供給するという目的の下にされたもので、ダイモン被害者
の会の幹事らにより、譲渡先の選定等が進められ、被告が右会の代表幹事であった
ことから、被告に譲渡することに決定したものと認められ、被告がダイモン被害者
の会の代表幹事であったこと以外に、被告に決定した積極的な理由は認められない
こと、右1(五)認定の領収書の記載や右1(六)認定の確認書の記載、法人格のない
ダイモン被害者の会名義での意匠権等の登録は認められておらず、また、ダイモン
被害者の会の会員全員の名義で右登録するのはあまりに煩雑であるから、誰か一名
の者がダイモン被害者の会又はその会員に代わって譲り受けるという形をとらざる
を得なかったと考えられることを総合すると、被告は、ダイモン被害者の会の代表
幹事という立場において、本件製品を安定的に供給するという目的の下に、同会又
は同会の会員に代わって、本件意匠権等を譲り受けたものと認められ、被告が、ダ
イモン被害者の会又は同会の会員とは別個の独自の立場で本件意匠権等を譲り受け
たとは認められない。
 そうすると、被告は、ダイモン被害者の会の目的に従って財産の管理行為
等を行うために、右会又はその会員全員の受託者の地位において、本件意匠権等を
譲り受けたものであって、信託的に本件意匠権等を取得したものと解される。
3 右2の譲渡につき、信託の登録がなされたことを認める証拠はないが、右
1認定の事実からすると、信託の登録がされなかったからといって、右2の判断が
左右されるわけではない。
 また、被告が本件意匠権等の取得、維持に要した費用があったとしても、
その費用は、右2認定の委託の趣旨に従って清算されるべき筋合のものにすぎず、
右2の判断が左右されるわけではない。
 さらに、被告は、被告が信託の受託者として本件意匠権等の管理を無償で
行うようなことは、特別な事情がない限りあり得ないところ、被告とダイモン被害
者の会又はその会員との間に、このような特別な事情はなかったと主張するが、右
1認定の事実によると、被告は、ダイモン被害者の会の代表幹事として、ダイモン
に契約金を支払ったまま商品の供給を受けられなくなった業者らを代表する立場に
あったのであるから、右2認定のとおり信託の受託者となったとしても何ら不自然
ではない。
二 争点2について
 前記第二の一6のとおり、被告が、平成一一年二月一九日、ダイモン被害者
の会の代表幹事を辞任したことは当事者間に争いがない。
 証拠(甲一六)と弁論の全趣旨によると、被告の右辞任後、有限会社白浜工
務店の代表者である原告、被告代表者B、有限会社沼津住機代表者、Cらによっ
て、原告は、ダイモン被害者の会の代表幹事に選出されたことが認められる。右選
出には、ダイモン被害者の会の当初の幹事のうち、有限会社アタゴ代表者とDが加
わっていないが、右選出は過半数の幹事によるものであること、右選出には、被告
代表者も賛成しており、その当時、ダイモン被害者の会において選出に異議が出さ
れたことを認めるに足りる証拠はないことなどに照らすと、直ちに右選出手続が違
法であるということはできず、他に右選出手続が違法であったというべき事実は認
められない。
 前記一のとおり、被告は、ダイモン被害者の会の代表幹事として、本件意匠
権等を信託的に譲り受けたものであるが、信託法五〇条一項の趣旨に照らすと、こ
のような場合、被告は、代表者の地位を失うとともに、右受託者の地位をも失い、
新代表者である原告が、右受託者の地位を取得し、旧代表者である被告に対し、本
件意匠権等の登録移転手続を求めることができると解するのが相当である。
三 以上の次第で、原告の本訴請求は理由がある。
   東京地方裁判所民事第四七部
       裁判長裁判官  森 義之
          裁判官  岡口基一
          裁判官男澤聡子
別紙意匠権等目録
 (一) 意匠権
(1)意匠
 出願  平成元年九月一八日
 登録  平成四年三月二七日
 登録番号第○八四〇九〇六号
 意匠に係る物品組立て屋根
登録意匠別紙一意匠公報記載のとおり
(2)類似意匠
出願  平成元年九月一八日
登録  平成四年四月一三日
登録番号第○八四〇九〇六号の類似一
 意匠に係る物品組立て屋根
 登録意匠別紙二意匠公報記載のとおり
(二) 商標権
  出願  平成元年四月一四日
  登録  平成四年三月三一日
  登録番号第二三八八三八八号
  指定商品屋外装置品、家具、畳類、建具、屋内装置品(書画お
よび彫刻を除く)、記念カツプ類
登録商標別紙三商標公報記載のとおり

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