弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人高橋孝志の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)
について
1原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)Aは,昭和62年8月12日,Bとの間で,被保険者をA,保険金受取人
を同人の妻であるCとして生命保険契約(以下「本件契約」という。)を締結し
た。Dは,Bの保険契約を包括的に承継し,その後,上告人がDの保険契約を包括
的に承継した。
(2)平成13年7月20日,AとCの両名が,一方が他方の死亡後になお生存
していたことが明らかではない状況で死亡した。AとCとの間には子はなく,Aの
両親及びCの両親は,いずれも既に死亡していた。Aには弟であるE以外に兄弟姉
妹はおらず,Cには兄である被上告人以外に兄弟姉妹はいない。
2本件は,上記事実関係の下において,Cの兄である被上告人が,商法676
条2項の規定により保険金受取人になったと主張して,保険会社である上告人に対
し,保険金等の支払を求めた事案である。
所論は,保険契約者兼被保険者と保険契約者によって保険金受取人と指定された
者(以下「指定受取人」という。)とが同時に死亡した場合には,商法676条2
項の規定により保険金受取人を確定すべきであるが,同項の規定を適用するに当た
っては,指定受取人が保険契約者兼被保険者よりも先に死亡したものと扱うべきで
あるから,本件においては,Cの相続人である被上告人とCの順次の相続人である
Eの両名が保険金受取人となるはずであるのに,被上告人のみを保険金受取人とし
た原審の判断には法令解釈の誤りがあるというのである。
3商法676条2項の規定は,保険契約者と指定受取人とが同時に死亡した場
合にも類推適用されるべきものであるところ,同項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ
者ノ相続人」とは,指定受取人の法定相続人又はその順次の法定相続人であって被
保険者の死亡時に現に生存する者をいい(最高裁平成2年(オ)第1100号同5
年9月7日第三小法廷判決・民集47巻7号4740頁),ここでいう法定相続人
は民法の規定に従って確定されるべきものであって,指定受取人の死亡の時点で生
存していなかった者はその法定相続人になる余地はない(民法882条)。したが
って,指定受取人と当該指定受取人が先に死亡したとすればその相続人となるべき
者とが同時に死亡した場合において,その者又はその相続人は,同項にいう「保険
金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」には当たらないと解すべきである。そして,指定受
取人と当該指定受取人が先に死亡したとすればその相続人となるべき者との死亡の
先後が明らかでない場合に,その者が保険契約者兼被保険者であったとしても,民
法32条の2の規定の適用を排除して,指定受取人がその者より先に死亡したもの
とみなすべき理由はない。
そうすると,前記事実関係によれば,民法32条の2の規定により,保険契約者
兼被保険者であるAと指定受取人であるCは同時に死亡したものと推定され,Aは
Cの法定相続人にはならないから,Aの相続人であるEが保険金受取人となること
はなく,本件契約における保険金受取人は,商法676条2項の規定により,Cの
兄である被上告人のみとなる。
これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用する
ことができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官
田原睦夫裁判官近藤崇晴)

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