弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人太田耐造、同玉沢光三郎の上告趣意第一点について。
 所論は、憲法三八条三項、刑訴三一九条三項の違反と経験則違反を主張する。し
かし憲法違反の前提たる理由は、原審で弁護人が争わないと述べ、所論のような主
張はしなかつたのであり(控訴趣意第一の(一)末段)、従つて原審の判断もなか
つた事項に関するものであるから、適法な上告理由とは認められない。(しかし所
論について検討してみるに、第一審判決の判示第二の事実に掲げる被告人がAに譲
渡した二瓩位の本件粉末の現品が本件検挙当時存在せず、その鑑定を命ずることを
得ないで終つたことは所論のとおりである。所論は、かくては二瓩位の粉末が覚せ
い剤取締法の対象であるかどうかを確認することができないから、結局被告人の自
白以外に証拠がないこととなり前記各違反があるというのである。しかし鑑定の点
は別として、被告人の自白以外に補強証拠の存することは、第一審挙示の各証拠を
検討すれば明らかであるから、この点に関する所論は採用できない。次に右粉末に
ついて鑑定を行うに由なく、他の証拠によつて本件犯罪事実を認定したことが違法
であるという所論について考えてみるに、本件のような薬品が取締の対象となる成
分をもつているかどうかは原則として専門の鑑定によつて定めるのを相当とするけ
れども、覚せい剤のように常に多数の違反者が相次いで検挙され、法のきびしい取
締に服している薬剤は、これに関与する取締官憲並びに違反者の間においては、こ
れを識別するに必しも専門の鑑定によらなければ不可能であり、あるいは危険であ
るということはできない。ところで本件において採用された証拠を検討してみると、
記録によれば、被告人は薬品会社の社長であり、A、Bとの間で取引した粉末が覚
せい剤であることは商売柄一寸品物を見れば判るという趣旨を供述し〔記録一五七
丁以下〕、Aは、私は薬品ブローカ―であつて、被告人から買い受けた覚せい剤は、
共同者も細密の検査をし、私の今までの経験からも覚せい剤の原末に相違ないとい
う趣冒を供述し〔同二一丁以下〕、Bは、昭和二七年二月五日頃から同月二八日頃
までの間三回にわたり被告人から覚せい剤原薬を買い受けた趣旨を供述し〔同五〇
丁以下〕ているところがら見れば、原判決の維持した第一審判決がこれらの証拠に
よつて鑑定によらず本件粉末を法の取締の対象となつている覚せい剤と認定したこ
とは必しも不当ではなく、これを経験則違反というは当らない。所論はこの点にお
いても採用できない。)
 同第二点について。
 所論も原審で主張判断がなかつた事項であるから適法な上告理由にあたらない(
類似の理由が原審で述べられているが、量刑不当の主張について理由とされている
にすぎない。なお所論は、左旋性L体が覚せい剤取締法の対象外であるという独自
の見解を主張するが、仮りに所論のようにL体の効力か軽度であるとしても、所論
を肯定するに足る成法上の根拠はない)。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三一年一〇月二三日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    島           保
            裁判官    垂   水   克   己

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