弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、被上告人B1の上告人A1、同A2、同A3に対する第一審
判決別紙目録記載の土地の明渡および昭和三二年一二月一日以降右土地および同目
録記載の建物の明渡ずみまで一か月につき金一万円の割合による損害金請求に関し
同上告人らの控訴を棄却した部分ならびに上告人A1、同A2、同A4、同A5の
被上告人B2、同B3に対する右建物の所有権移転登記手続請求に関し同上告人ら
の控訴を棄却した部分を破棄し、右各部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
     上告人A1、同A3.同A2、同A4、同A5のその余の上告を棄却す
る。
     前項の上告に関する費用は、同項記載の上告人らの負担とする。
         理    由
 上告人ら代理人林徹の上告理由第一点について。
 本訴請求中、被上告人B1の上告人A1、同A2、同A3(以下「上告人A1ほ
か二名」という。)に対する第一審判決別紙目録記載の土地、建物(以下「本件土
地」、「本件建物」という。)の明渡および損害金請求(原判示甲事件)について、
原判決が是認した第一審判決は、主文第二項において、「甲事件被告(上告人)A
1、同A2、同A3は甲事件原告(被上告人)B1に対し、別紙目録記載の土地建
物を明渡し、昭和三二年一二月一日以降右明渡ずみに至るまで一ケ月につき金一万
円の割合による金員を支払え」と表示しているが、右別紙目録には、土地の表示と
して「東京都西多摩郡a町b字cd番地、登記簿上同都同郡同町b字ed番地(な
お、本件記録によれば、昭和三三年一〇月四日受付により右所在地番のとおり更正
登記がなされていることが明らかである。)、一、山林三反四畝歩のうち東部の宅
地一三九坪」との記載があるにすぎない。しかし、右記載によつては、右明渡を求
める土地一三九坪の範囲が前記一筆の土地のどの部分にあたるかを特定するに由な
く、また、本件記録中にもこれを窺うに足りる手掛りは存在しない。してみれば、
原判決の肯認した第一審判決主文第二項は土地明渡の範囲を明確に示したものとは
認めがたく、右部分について主文不明確の違法があるというほかはないから、右土
地の表示について違法をいう論旨は理由があり、右部分につき原判決は破棄を免れ
ない。
 しかし、被上告人B1が明渡を求める本件建物に関しては、右第一審判決別紙目
録には「同所同番地所在、一、木造瓦葺二階建住家一棟建坪四〇坪七合五勺、外二
階二六坪、附属建物一、木造瓦葺平家建店舗一棟建坪三坪、一、木造杉皮葺平家建
鶏小屋一棟建坪三坪、一、木造杉皮葺平家建物置一棟建坪二坪」と表示されており、
しかも、原審が確定するように右建物が登記ずみであることに徴すれば、右建物の
表示はいまだ特定を欠くものではなく、これに対する明渡の強制執行も不可能とは
認められないから、本件建物に関しては、原判決に不特定の違法はなく、右の違法
をいう論旨は採用しがたい。
 しかるところ、原審は、上告人の本件土地建物に対する上告人A1ほか二名の不
法占有を理由とする損害金請求をも認容すべきものとしているが、原判文によれば、
右損害金は本件土地建物を一括して使用した場合の損害として算出されたものでそ
の内訳を知ることができない。してみれば、本件土地の範囲を特定しない原判決の
違法は、右損害金請求に関する原判決全部の違法を来たすものというべきであるか
ら、論旨はこの点に関しても理由があり、原判決中右損害金の支払を命じた部分は
破棄を免れない。
 同第二点について。
 本訴請求中、原判示乙事件に関する請求は、上告人A1、同A2、同A4、同A
5(以下「上告人A1ほか三名」という。)において、被上告人B3に対し売買を
原因として本件建物の所有権移転登記手続を求め、被上告人B2に対し右登記請求
権をもつて被上告人B3に代位して同被上告人に対する本件建物の所有権(持分)
移転登記手続を求めるものであるが、原審は右各請求について、同被上告人らは上
告人A1ほか三名の請求原因事実を自白したものとし、右上告人ら主張の各所有権
移転登記手続をなすべき義務があるとしたうえ、「前段原審甲事件において判示の
とおり本件建物については第三者B1が、昭和二十六年十月、当時の本件建物の所
有者被控訴人B2およびDよりその所有権を取得し、且つ同人において、昭和四十
一年一月十八日、被控訴人B2およびDの相続人B4らより所有権移転登記をうけ
ており、しかも同人は、本件原審甲事件において、控訴人A1外二名を相手に本件
建物の所有権を主張していること、ならびに控訴人A1外三名の本件建物について
の所有権取得が、同人に対して対抗し得ないものであること、前段判示のとおりで
ある。そうだとすると、控訴人A1外三名が、本件建物の所有権に基づく登記請求
権をもつと解することはできない。而して同人らの被控訴人B2および被控訴人B
3に対する本訴請求を上記売買契約に基づくものと解することができるとしても、
上記のごとき事情のもとにおいては客観的に不能な給付を求めるものといわざるを
得ない」と説示して、上告人A1ほか三名の請求を排斥している。しかし、論旨の
指摘するように、乙事件のみの当事者である被上告人B2、同B3が、原審におい
て、被上告人B1が被上告人B2ならびに訴外亡Dから本件建物の所有権を取得し、
すでに右B2およびDの相続人である被上告人B4らから所有権移転登記を受けた
等の事実を主張したことは本件記録上窺うことができず、右の事実は甲事件につい
てのみ当事者となつている被上告人B1から主張されたものにすぎない。そして、
甲事件と乙事件とは、たんに第一審以来弁論が併合されて審理されたにとどまり、
被上告人B1と同B2、同B3との間に必要的共同訴訟人としての関係は存在しな
いから、被上告人B1の主張が乙事件の訴訟資料となる余地はないというべきであ
る。
 してみれば、乙事件について当事者の主張しない前記事実を採用してこれに基づ
き上告人A1ほか三名の被上告人B2、同B3に対する請求を排斥した原判決は違
法であり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判
決中右請求に関する部分は破棄を免れない。
 つぎに、論旨は、原判示乙事件に関する請求中、上告人A1ほか三名の被上告人
B4、同B5、同B6、同B7、同B8、同B9、同B10、同B11、同B12、
同B13(以下「被上告人B4ほか九名」という。)に対する本件建物の所有権移
転登記手続請求について、原審が、甲事件について提出された証拠を右請求につい
ての主張の当否の認定資料に供したのは採証法則に違背するという。
 しかし、甲事件と乙事件とは前記のように第一審以来弁論を併合のうえ審理され
て来たものであり、したがつて、被上告人B1と被上告人B4ほか九名とはたがい
に共同訴訟人の関係にあるが、共同訴訟人の一人が提出した証拠は、その相手方に
対するばかりでなく、他の共同訴訟人とその相手方に対する関係においても証拠と
して認定資料に供することができるものであるから、原審が被上告人B1の提出し
た証拠を乙事件に関する主張の認定資料に供したからといつて、原判決に所論の違
法を生ずる余地はない。論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難するものにすぎ
ず、採用するに足りない。
 同第三点について。
 原判示甲事件につき、原審が認定した事実関係によれば、被上告人B2は、昭和
二六年一〇月、訴外亡Dとともに、両名の共有にかかる本件建物を被上告人B1に
売り渡しておきながら、さらに昭和三〇年四月五日、自己の単独所有を装つてこれ
を被上告人B3に売り渡し、B3は、同三二年一二月頃、これを上告人A1、同A
2、同A4、同A5に売り渡した。その後、昭和三三年八月一二日付をもつて、被
上告人B1は、本件建物が未登記であつたため売主のDと被上告人B2に代位して
本件建物につき所有権保存登記を経由したうえ、同日、譲渡、質権抵当権賃借権の
設定その他一切の処分を禁止する旨の仮処分命令(以下「第一次仮処分」という。)
を執行しその旨の登記を経由したが、他方、同三三年一〇月二七日付をもつて、上
告人A1もまた、本件建物につき右両名を仮処分債務者とする右と同一内容の処分
禁止の仮処分命令(以下「第二次仮処分」という。)を得てこれを執行した。さら
にその後、被上告人B1は、第一次仮処分の本案訴訟として提起した亡Dの訴訟承
継人である被上告人B4ほか九名および被上告人B2に対する本件建物の所有権移
転登記請求訴訟において勝訴の確定判決を得て(原判決の措辞は十分でないが、原
審における被上告人B1の主張の内容と本件記録上明らかな訴訟の経過に照らせば、
原審は、かかる趣旨をも判示したものであることを窺うに足りる。)、昭和四一年
一月一八日、被上告人B2および同B4ほか九名から、所有権移転登記を受けた、
というのである。
 右の事実関係のもとにおいては、被上告人B1は、上告人A1のためにされた前
示第二次仮処分の登記の存在にかかわらず、本件建物に対する所有権の取得をもつ
て上告人A1にも対抗することができるものと解すべきであつて、これと同旨に出
た原審の判断は正当である。所論引用の判例(当裁判所昭和二六年(オ)第一三七
号同三〇年一〇月二五日第三小法廷判決、民集九巻一一号一六七八頁)は、本件と
異なり、前記の第一次仮処分が存在しない事案に関するものであつて、本件に適切
でない。論旨は採用することができない。
 同第四点および上告人A1ほか四名の上告理由について。
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決の挙示する証拠関係に照らし肯認す
るに足り、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の裁量に属する
証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
 以上の次第で、原判決中、被上告人B1の上告人A1ほか二名に対する本件土地
の明渡および本件土地、建物の不法占有を理由とする損害金請求に関し同上告人ら
の控訴を棄却した部分ならびに上告人A1ほか三名の被上告人B2、同B3に対す
る所有権移転登記手続請求に関し同上告人らの控訴を棄却した部分についてはそれ
ぞれ破棄を免れず、右部分についてはさらに審理をさせる必要があるので、民訴法
四〇七条に従い、本件を原審に差し戻すべきものとする。
 しかし、本件上告中、被上告人B1の上告人A1ほか二名に対する本件建物の明
渡請求に関する部分および上告人A1ほか三名の被上告人B4ほか九名に対する所
有権移転登記手続請求に関する部分はいずれも理由がないから、民訴法三九六条、
三八四条、九五条、八九条、九三条に従いこれを棄却し、右各部分の上告に関する
費用は、同上告人らに負担させるものとする。
 よつて、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    村   上   朝   一

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