弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
第1事案の概要
1本件は,被上告人が,職務発明について,我が国の特許を受ける権利と共に
外国の特許を受ける権利を上告人に譲渡したことにつき,上告人に対し,特許法3
5条(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下同じ。)3項所定の相当
の対価の支払を求める事案である。
2原審が適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,電気関連製品の開発,製造,販売等を行う総合電器メーカーで
ある。被上告人は,昭和44年11月から平成8年11月までの間,上告人に雇用
され,上告人の中央研究所の主管研究員等として勤務していた。
(2)被上告人は,上告人の従業員であった当時,他の従業員と共同して,第1
審判決別紙特許目録記載1∼3の各特許に係る発明をした(以下,これらの発明を
それぞれ同目録の番号に従い「本件発明1」,「本件発明2」,「本件発明3」と
いい,「本件各発明」と総称する。)。本件各発明は,いずれも,レーザー光を利
用して情報を記憶媒体(光ディスク)に記録再生する装置や方法に関するもので,
その性質上,上告人の業務範囲に属し,かつ,発明をするに至った行為が上告人に
おける被上告人の職務に属するものであって,特許法35条1項所定の職務発明に
当たる。
(3)被上告人は,本件発明1につき昭和52年9月13日,同2につき昭和4
8年1月20日,同3につき昭和49年12月26日,上告人との間で,それぞれ
特許を受ける権利(外国の特許を受ける権利を含む。)を上告人に譲渡する旨の契
約を締結した(以下,これらの契約を「本件譲渡契約」と総称する。)。
(4)上告人は,本件各発明について,我が国において特許出願をし,その設定
登録を受けて,特許権を取得するとともに,本件発明1につきアメリカ合衆国,カ
ナダ,イギリス,フランス及びオランダの各国において,本件発明2及び3につき
アメリカ合衆国,ドイツ,イギリス,フランス及びオランダの各国において,それ
ぞれ特許権を取得した。
(5)上告人は,本件譲渡契約を締結した当時,発明をした従業員に対し,特許
出願時及び設定登録時において一定額の賞金を授与するとともに,実施効果の顕著
なものについてその功績の区分に応じた賞金を授与するという内容の「発明,考案
等に関する表彰規程」を定めていたが,さらに,平成3年6月までに,発明をした
従業員に対し,我が国及び外国における特許出願時,我が国及び外国における特許
権設定登録時,社内における実績成績が顕著であって業績に貢献したと認められた
とき,第三者に実施権を許諾し実施料収入を得たときなどに所定の基準に従って算
定された補償金を支払うという内容の「発明考案等取扱規則」,「発明考案等に関
する補償規程」及び「発明考案等に関する補償基準」を定めた(以下,上告人にお
いて定められたこれらの表彰規程等を「本件規定」と総称する。)。
(6)上告人は,我が国及び外国において特許出願をし又は設定登録を得た本件
各発明について,複数の企業との間で本件各発明の実施を許諾する契約を締結し,
その実施料を収受するなどして利益を得た。
(7)上告人は,被上告人に対し,本件各発明に係る特許を受ける権利の譲渡の
対価として,本件規定に基づき,本件発明1につき合計231万8000円,本件
発明2につき合計5万1400円,本件発明3につき合計1万0700円の賞金又
は補償金を支払った。
3原審は,次のとおり判断して,被上告人が本件各発明の特許を受ける権利の
譲渡に伴い上告人に対して請求し得る相当の対価の額(本件規定に基づいて支払を
受けた分を差し引いた額)を,本件発明1につき1億6284万6300円,本件
発明2につき13万1750円,本件発明3につき2万5666円であると認定
し,合計1億6300万3716円の支払を求める限度で被上告人の請求を認容し
た。
(1)本件譲渡契約に基づく特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題につい
ては,その対象となる権利が我が国及び外国の特許を受ける権利である点において
渉外的要素を含むため,その準拠法を決定する必要があるところ,本件譲渡契約
は,日本法人である上告人と,我が国に在住して上告人の従業員として勤務してい
た日本人である被上告人とが,被上告人がした職務発明について我が国で締結した
ものであり,上告人と被上告人との間には,本件譲渡契約の成立及び効力の準拠法
を我が国の法律とする旨の黙示の合意が存在すると認められるから,法例7条1項
の規定により,その準拠法は,外国の特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題
を含めて,我が国の法律である。
(2)特許法35条3項にいう「特許を受ける権利」には,我が国の特許を受け
る権利のみならず,外国の特許を受ける権利が含まれるから,被上告人は,上告人
に対し,外国の特許を受ける権利の譲渡についても,同条3項に基づく同条4項所
定の基準に従って定められる相当の対価の支払を請求することができる。
第2上告代理人末吉亙ほかの上告受理申立て理由第3について
1外国の特許を受ける権利の譲渡に伴って譲渡人が譲受人に対しその対価を請
求できるかどうか,その対価の額はいくらであるかなどの特許を受ける権利の譲渡
の対価に関する問題は,譲渡の当事者がどのような債権債務を有するのかという問
題にほかならず,譲渡当事者間における譲渡の原因関係である契約その他の債権的
法律行為の効力の問題であると解されるから,その準拠法は,法例7条1項の規定
により,第1次的には当事者の意思に従って定められると解するのが相当である。
なお,譲渡の対象となる特許を受ける権利が諸外国においてどのように取り扱わ
れ,どのような効力を有するのかという問題については,譲渡当事者間における譲
渡の原因関係の問題と区別して考えるべきであり,その準拠法は,特許権について
の属地主義の原則に照らし,当該特許を受ける権利に基づいて特許権が登録される
国の法律であると解するのが相当である。
2本件において,上告人と被上告人との間には,本件譲渡契約の成立及び効力
につきその準拠法を我が国の法律とする旨の黙示の合意が存在するというのである
から,被上告人が上告人に対して外国の特許を受ける権利を含めてその譲渡の対価
を請求できるかどうかなど,本件譲渡契約に基づく特許を受ける権利の譲渡の対価
に関する問題については,我が国の法律が準拠法となるというべきである。
以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用する
ことができない。
第3上告代理人末吉亙ほかの上告受理申立て理由第4について
1我が国の特許法が外国の特許又は特許を受ける権利について直接規律するも
のではないことは明らかであり(1900年12月14日にブラッセルで,191
1年6月2日にワシントンで,1925年11月6日にヘーグで,1934年6月
2日にロンドンで,1958年10月31日にリスボンで及び1967年7月14
日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する1883年3月20日
のパリ条約4条の2参照),特許法35条1項及び2項にいう「特許を受ける権
利」が我が国の特許を受ける権利を指すものと解さざるを得ないことなどに照ら
し,同条3項にいう「特許を受ける権利」についてのみ外国の特許を受ける権利が
含まれると解することは,文理上困難であって,外国の特許を受ける権利の譲渡に
伴う対価の請求について同項及び同条4項の規定を直接適用することはできないと
いわざるを得ない。
しかしながら,同条3項及び4項の規定は,職務発明の独占的な実施に係る権利
が処分される場合において,職務発明が雇用関係や使用関係に基づいてされたもの
であるために,当該発明をした従業者等と使用者等とが対等の立場で取引をするこ
とが困難であることにかんがみ,その処分時において,当該権利を取得した使用者
等が当該発明の実施を独占することによって得られると客観的に見込まれる利益の
うち,同条4項所定の基準に従って定められる一定範囲の金額について,これを当
該発明をした従業者等において確保できるようにして当該発明をした従業者等を保
護し,もって発明を奨励し,産業の発展に寄与するという特許法の目的を実現する
ことを趣旨とするものであると解するのが相当であるところ,当該発明をした従業
者等から使用者等への特許を受ける権利の承継について両当事者が対等の立場で取
引をすることが困難であるという点は,その対象が我が国の特許を受ける権利であ
る場合と外国の特許を受ける権利である場合とで何ら異なるものではない。そし
て,特許を受ける権利は,各国ごとに別個の権利として観念し得るものであるが,
その基となる発明は,共通する一つの技術的創作活動の成果であり,さらに,職務
発明とされる発明については,その基となる雇用関係等も同一であって,これに係
る各国の特許を受ける権利は,社会的事実としては,実質的に1個と評価される同
一の発明から生じるものであるということができる。また,当該発明をした従業者
等から使用者等への特許を受ける権利の承継については,実際上,その承継の時点
において,どの国に特許出願をするのか,あるいは,そもそも特許出願をすること
なく,いわゆるノウハウとして秘匿するのか,特許出願をした場合に特許が付与さ
れるかどうかなどの点がいまだ確定していないことが多く,我が国の特許を受ける
権利と共に外国の特許を受ける権利が包括的に承継されるということも少なくな
い。ここでいう外国の特許を受ける権利には,我が国の特許を受ける権利と必ずし
も同一の概念とはいえないものもあり得るが,このようなものも含めて,当該発明
については,使用者等にその権利があることを認めることによって当該発明をした
従業者等と使用者等との間の当該発明に関する法律関係を一元的に処理しようとい
うのが,当事者の通常の意思であると解される。そうすると,同条3項及び4項の
規定については,その趣旨を外国の特許を受ける権利にも及ぼすべき状況が存在す
るというべきである。
したがって,従業者等が特許法35条1項所定の職務発明に係る外国の特許を受
ける権利を使用者等に譲渡した場合において,当該外国の特許を受ける権利の譲渡
に伴う対価請求については,同条3項及び4項の規定が類推適用されると解するの
が相当である。
2本件において,被上告人は,上告人との間の雇用関係に基づいて特許法35
条1項所定の職務発明に該当する本件各発明をし,それによって生じたアメリカ合
衆国,イギリス,フランス,オランダ等の各外国の特許を受ける権利を,我が国の
特許を受ける権利と共に上告人に譲渡したというのである。したがって,上記各外
国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については,同条3項及び4項の規定
が類推適用され,被上告人は,上告人に対し,上記各外国の特許を受ける権利の譲
渡についても,同条3項に基づく同条4項所定の基準に従って定められる相当の対
価の支払を請求することができるというべきである。
所論の点に関する原審の判断は,結論において正当であり,論旨は採用すること
ができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官那須弘平裁判官上田豊三裁判官藤田宙靖裁判官
堀籠幸男)

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