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平成25年9月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ワ)第2525号,第6312号債務不存在確認請求本訴,損害賠
償請求反訴事件
口頭弁論の終結の日平成25年6月4日
判決
当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり
主文
1原告の訴えを却下する。
2原告は,被告に対し,3億3664万1920円及びこれに対する平
成19年3月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告のその余の請求を棄却する。
4訴訟費用は,これを30分し,その1を原告の負担とし,その余を被
告の負担とする。
5この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1本訴
原告と被告との間において,原告の別紙原告製品目録記載1及び2の各製品
の輸入及び販売について,被告が特許第3852854号の特許権の侵害を理
由とする損害賠償請求権を有しないことを確認する。
2反訴
原告は,被告に対し,100億円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本訴は,原告が,入力装置等に関する特許権を有する被告に対し,原告の小
型携帯装置の輸入販売が被告の特許権を侵害しないと主張して,被告が上記特
許権の侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求め,反訴は,
被告が,原告に対し,原告の上記輸入販売が被告の特許権を侵害すると主張し
て,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害金627億4800万円の
うち100億円及びこれに対する不法行為の後の日である反訴状送達の日の翌
日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める
事案である。
2前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容
易に認めることができる事実)
(1)被告の特許権
被告は,発明の名称を「接触操作型入力装置およびその電子部品」とする
特許権(特許番号第3852854号。以下「本件特許権」といい,これの
特許を「本件特許」という。)を有している。本件特許は,平成10年1月
6日にされた特許出願(平成10年特許願第012010号。以下「原出
願」という。)から,平成17年5月2日に分割出願され,平成18年9月
15日に特許権の設定の登録がされたものである。
(2)被告の発明
ア本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の記載は,本判決添付の特許
公報の該当項に記載のとおりであるが,被告は,平成21年3月5日,請
求項1及び2について,特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の
釈明を目的として,訂正審判請求(訂正2009-390032号事件)
をし(以下,この訂正を「本件訂正」という。),特許庁は,同月31日,
本件訂正を認める旨の審決(以下「本件訂正審決」という。)をした。本
件訂正は,請求項1について,「リング状である軌跡上」を「指先でなぞ
るように操作されるための所定の幅を有する連続したリング状に予め特定
された軌跡上」に訂正する訂正事項1,「タッチ位置検出センサーが配置
されたタッチ位置検知手段」を「タッチ位置検出センサーが配置され,前
記軌跡に沿って移動する接触点を一次元座標上の位置データとして検出す
るタッチ位置検知手段」に訂正する訂正事項2,「タッチ位置検出センサ
ーが連続して配置される前記軌跡に沿って,前記プッシュスイッチ手段が
配置され」を「タッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡に
沿って,前記プッシュスイッチ手段の接点が,前記連続して配置されるタ
ッチ位置検出センサーとは別個に配置されているとともに,前記接点のオ
ンまたはオフの状態が,前記タッチ位置検出センサーが検知しうる接触圧
力よりも大きな力で保持されており」に訂正する訂正事項3,「前記タッ
チ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前
記軌跡上における押下により」を「前記タッチ位置検知手段におけるタッ
チ位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡上における前記タッチ
位置検出センサーに対する接触圧力よりも大きな接触圧力での押下によ
り」に訂正する訂正事項4,請求項2について,「前記プッシュスイッ
チ」を「前記プッシュスイッチ手段」に訂正する訂正事項5からなる。
イ本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は,次のとおり
である(以下,請求項1の記載を引用する請求項3の発明を「本件発明
1」,請求項2の記載を引用する請求項3の発明を「本件発明2」といい,
併せて「本件各発明」という。)。
「【請求項1】指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有する連
続したリング状に予め特定された軌跡上に連続してタッチ位置検出センサ
ーが配置され,前記軌跡に沿って移動する接触点を一次元座標上の位置デ
ータとして検出するタッチ位置検知手段と,接点のオンまたはオフを行う
プッシュスイッチ手段とを有し,前記タッチ位置検知手段におけるタッチ
位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡に沿って,前記プッシュ
スイッチ手段の接点が,前記連続して配置されるタッチ位置検出センサー
とは別個に配置されているとともに,前記接点のオンまたはオフの状態が,
前記タッチ位置検出センサーが検知しうる接触圧力よりも大きな力で保持
されており,かつ,前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出セン
サーが連続して配置される前記軌跡上における前記タッチ位置検出センサ
ーに対する接触圧力よりも大きな接触圧力での押下により,前記プッシュ
スイッチ手段の接点のオンまたはオフが行われることを特徴とする接触操
作型入力装置。
【請求項2】請求項1記載の接触操作型入力装置であって,前記プッシ
ュスイッチ手段が4つであることを特徴とする接触操作型入力装置。
【請求項3】請求項1または請求項2記載の接触操作型入力装置を用い
た小型携帯装置。」
(3)本件各発明の分説
本件各発明は,それぞれ次の構成要件からなる(以下,分説した構成要件
を,それぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。)
ア本件発明1
A指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有する連続したリン
グ状に予め特定された軌跡上に連続してタッチ位置検出センサーが配置
され,前記軌跡に沿って移動する接触点を一次元座標上の位置データと
して検出するタッチ位置検知手段と,
B接点のオンまたはオフを行うプッシュスイッチ手段とを有し,
C前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して
配置される前記軌跡に沿って,前記プッシュスイッチ手段の接点が,前
記連続して配置されるタッチ位置検出センサーとは別個に配置されてい
るとともに,前記接点のオンまたはオフの状態が,前記タッチ位置検出
センサーが検知しうる接触圧力よりも大きな力で保持されており,かつ,
D前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して
配置される前記軌跡上における前記タッチ位置検出センサーに対する接
触圧力よりも大きな接触圧力での押下により,前記プッシュスイッチ手
段の接点のオンまたはオフが行われる
Eことを特徴とする接触操作型入力装置
Fを用いた小型携帯装置。
イ本件発明2
AないしD上記アと同じ。
G前記プッシュスイッチ手段が4つである
E及びF上記アと同じ。
(4)原告の行為
原告は,本件特許の設定登録後,別紙原告製品目録記載1ないし5の各製
品(以下,それぞれを目録の番号に従い「原告製品1」のようにいい,併せ
て「原告各製品」という。)を輸入,販売してきた。
(5)原告各製品の構成
原告各製品は,別紙原告製品説明書記載のとおり説明することができる
(乙16)。
第3争点
1原告各製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否か(争点1)
(1)原告各製品が構成要件Aを充足するか否か(争点1-1)
(2)原告各製品が構成要件Bを充足するか否か(争点1-2)
(3)原告各製品が構成要件Cを充足するか否か(争点1-3)
(4)原告各製品が構成要件Dを充足するか否か(争点1-4)
(5)原告各製品が構成要件Gを充足するか否か(争点1-5)
2本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか否か
(争点2)
(1)訂正事項1の訂正が新規事項の追加に当たるか否か(争点2-1)
(2)訂正事項2の訂正が新規事項の追加に当たるか否か(争点2-2)
(3)訂正事項3の訂正が新規事項の追加又は実質上特許請求の範囲を拡張す
るものか否か(争点2-3)
(4)訂正事項4の訂正が新規事項の追加に当たるか否か(争点2-4)
(5)訂正事項5の訂正が実質上特許請求の範囲を拡張するものか否か(争点
2-5)
(6)本件各発明は当業者が甲5に記載された発明に基づいて容易に発明をす
ることができたか否か(争点2-6)
(7)本件各発明は当業者が甲6に記載された発明に基づいて容易に発明をす
ることができたか否か(争点2-7)
(8)本件各発明は当業者が甲7に記載された発明に基づいて容易に発明をす
ることができたか否か(争点2-8)
(9)本件各発明は当業者が甲31に記載された発明に基づいて容易に発明を
することができたか否か(争点2-9)
(10)本件各発明は当業者が甲39に記載された発明に基づいて容易に発明を
することができたか否か(争点2-10)
3被告が受けた損害の額(争点3)
第4争点に関する当事者の主張
1争点1(原告各製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否か)について
(1)争点1-1(原告各製品が構成要件Aを充足するか否か)について
(被告)
原告各製品の前面中心部には,クリックホイールがあり,その形状は,別
紙原告製品説明書第2の1の図のとおり,白い帯状のリング状である。
クリックホイールには,リング状の軌跡上に全周にわたって連続的にタッ
チ位置検出センサー(以下「タッチセンサー」又は「センサー」ともい
う。)が配置され,指の接触位置の変化を連続的に検知することができるよ
うになっているから,クリックホイールの部分に設けられているタッチセン
ス方式のパッドは,「指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有す
る連続したリング状に予め特定された軌跡上に連続してタッチ位置検出セン
サーが配置され」ている。
また,クリックホイールは,リング状に予め特定された軌跡(白い円環状
の部分)に沿って指先を移動させることで,その移動する接触点を一次元座
標上の位置データとして検出することにより,画面の楽曲等の表示をスクロ
ール操作等できるようになっているから,「前記軌跡に沿って移動する接触
点を一次元座標上の位置データとして検出するタッチ位置検知手段」に当た
る。
したがって,原告各製品は,構成要件Aを充足する。
(原告)
アタッチ位置検出センサーが「連続して」配置されていないこと
原告各製品は,センサーとセンサーとの間に切れ目(物理的な隙間)が
あるから,いずれもタッチ位置検出センサーが「連続して」配置されてい
ない。
イ一次元座標上の位置データを検出するものではないこと
(ア)構成要件Aは,「前記軌跡に沿って移動する接触点」とあるように,
接触点が「移動する」ものであるから,接触点の変化(変位量)がどの
ように検出されるかに関わるものであって,移動する指の変位量を用い
て計算が行われることを前提とする。
また,構成要件Aは,接触点を「一次元座標上の位置データ」として
検出するものである。本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明
細書」という。)の発明の詳細な説明には,「一次元座標上の位置デー
タ」に関し,段落【0020】に「…各種の検知手段によれば,接触点
をその軌跡に1対1に対応させた1次元座標上の位置データとして出力
されるものであり」とあるのみであるが,被告は,本件訂正審判手続に
おいて,この記載を根拠に訂正事項1の訂正を求めたのであるから,軌
跡上の位置である「接触点」と出力される「一次元座標上の位置デー
タ」とは1対1に対応しなければならず,例えば,ユーザーの指先が,
軌跡上,3時の位置から5時の位置まで動いた場合には,常に2(5マ
イナス3)と出力されなければならない。
これに対し,クリックホイールは,静電容量の加重平均から類推され
た指の移動速度と方向とを用いて計算が行われるのであって,指の変位
量を用いて計算が行われるわけではないから,検出のメカニズムが全く
異なる。すなわち,クリックホイールは,複数(通常14ないし16
個)の静電容量式センサー電極を使用しており,ユーザーの指がクリッ
クホイールに十分に近づくか触れることにより起動し,時間の経過によ
る個々のセンサー電極の静電容量値変化を計算するもので,この複数の
静電容量値と時間とが,全ての電極(重心)の静電容量変化の加重平均
の時間変化の計算のために用いられ,この加重平均の時間変化に基づい
て指の移動速度と移動方向とが計算されて,その計算された速度及び方
向を用いて表示メニュー上でカーソルを動かすためのユーザーインター
フェースコードが出力される。なお,重心は,次の計算式(以下「重心
の計算式」という。)により計算される(nTは時間,c(nT)は時間nTに
おける重心,iは電極の指数,fi(nT)は時間nTにおける電極iの静電容量
変化,Nsは電極の総数,ioはfio(nT)=0における指数を表す。)。








+=∑∑


=
−+
=
−−
=
)()(.
)(
)(
ss
s
ss
N
ii
Ni
Ni
NiiN
ii
nTifnTif
nTf
nTc
そして,クリックホイールは,ユーザーインターフェースコードを作
成する際に,クリックホイール上の指が接触する位置のデータを使用し
ないから,接触点を一次元座標上の位置データとして検知する必要がな
く,検出されるのは全ての電極(重心)の静電容量変化の加重平均であ
って,この加重平均は,「軌跡上の位置に1対1に対応する」ものでは
ない。なぜなら,加重平均は,上記式のとおり,電極の静電容量変化f
iに電極の指数iを乗じた値を加算することによって決定されるもので
あって,静電容量変化fiの大小によって変動し得るところ,指の位置
は変わらなくても,指の近接,大小,形状,角度,接触領域の面積,皮
膚の状態,汗,周囲の湿度等によって静電容量変化fiは影響を受け,
一定しないからである。構成要件Aを充足するためには,接触位置が一
定である限り,加重平均も一定でなければならないが,上記のとおり加
重平均は一定しないから,加重平均からは「接触点を一次元座標上の位
置データとして検出する」ことができないことになる。
(イ)タッチセンサーは,単に指の接触の有無あるいはこれに加え大きさ
のみを検出するものであって,それを超えて,位置データを計算したり,
それを所定の座標系に合致させたりするためには,コンピューター処理
が必要不可欠であるから,「移動する接触点を一次元座標上の位置デー
タとして検出する」という構成要件Aの「検出」には,情報処理も含む
ことが明らかであり,移動する接触点を一次元座標上の位置データとし
て「検出」するには,位置データを計算するためにタッチセンサーから
得られた情報を処理することが必要である。
そこで,クリックホイールにおいて,出力されるデータが「一次元座
標上の位置データ」といえるか,また,これが軌跡と1対1で対応する
ものであるかについて見ると,クリックホイールは,約16のセンサー
電極の静電容量値と時間データとを処理し,移動する指の速度と方向と
を同時に計算し,全てのセンサー電極の静電容量変化の加重平均と時間
データを用いるが,クリックホイール上の指の位置そのものは検出され
たり使用されたりせず,速度と方向は,いずれも位置データとはいえず,
一次元座標上のものともいえないし,ユーザーインターフェースコード
も,移動する指の速度と方向に基づいているから位置データとはいえず,
一次元座標上のものともいえない。また,計算された速度と方向は,ク
リックホイール上の位置に1対1で対応するものとはいえず,出力され
るユーザーインターフェースコードも同様である。このことは,クリッ
クホイールにおいて,移動する指の接触点の始点と終点が同じであって
も周回数や移動方向が違えば異なるデータとして検出され,始点と終点
及び移動距離が同じであっても移動速度が違えば異なるデータが検出さ
れる一方で,始点と終点,速度及び距離が異なる場合でも同じデータが
検出されることがあることからも明らかである。
(ウ)被告は,「検出」には情報処理が含まれないと解するようであるが,
この場合,「検出」されるものは,静電容量,電圧,圧力,光,通電等
の変化といった,いわゆる生の情報そのものであり,「検出」とは,か
かる生の情報を,情報処理又は計算が行われる前に検査して見つけ出す
ことを意味することになる。
クリックホイールは,約16の静電容量値と時間とを同時に「検出」
するものであるが,こうした静電容量値や時間は,位置データであると
も一次元座標上にあるともいえないから,被告の上記見解を前提として
も,これらの「検出」は,「一次元座標上の位置データの検出」に当た
らない。
ウしたがって,原告各製品は,タッチ位置検出センサーが「連続して」配
置されていないし,一次元座標上の位置データを検出するものでもないか
ら,構成要件Aを充足しない。
(被告)
アタッチ位置検出センサーが「連続して」配置されていること
「連続して」とは,日本語の通常の意味として,「切れ目なく続くこ
と」を意味するから,構成要件Aの「連続して」とは,軌跡上で指の接触
位置を移動させた場合に,実用上,その位置の変化を連続的な変化として
検知することができる程度にタッチ位置検出センサーが連続して配置され
ていることを意味する。
クリックホイールのタッチ位置検出センサーが,このような意味で連続
して設けられていることは明らかである。
イ一次元座標上の位置データを検出するものであること
(ア)原告各製品は,クリックホイールを指先でなぞることで指先の接触
点の移動距離に応じたスクロール操作を行うことができるものであるか
ら,クリックホイールは,それに沿って移動する指先の接触点を一次元
座標上の位置データとして検出していることが明らかである。
原告各製品は,指の移動の始点と終点のみを検出しているわけではな
く,クリックホイール上で指を摺動させるとリアルタイムで画面表示が
スクロールされることから明らかなように,指を始点から終点まで連続
的に摺動させる場合,短い時間間隔で定期的にタッチセンス方式のパッ
ドの一次元座標上の位置データを検出し,その位置の移動量に基づいて
処理を行っている。この定期的な処理の積み重ねの結果,クリックホイ
ール上での指の摺動に連動して画面表示がスクロールする。
例えば,下図に示すとおり,最初の検出では,接触位置がその時点の
相対座標の原点から2/3周移動し,次の検出では上記移動後の位置か
ら2/3周移動し,次の検出でも更に2/3周移動した場合,指はちょ
うど2周することになる。この場合,指の位置は1周回した位置と同じ
であるが,タッチセンス方式のパッドが検出した指の総移動距離は,2
周回の距離となっているから,1周回したときと操作結果が当然異なる
ことになる。
2/3周

2/3周


2/3周
2/3周2/3周2/3周++=2周≠1周
(イ)原告の主張は,①「タッチ位置検出センサー」が検出する情報
(移動する接触点の位置データ)と,②「タッチ位置検出センサー」
から得られた情報を用いて「小型携帯装置」内で他の情報(例えば移動
時間)をも組み合わせて情報処理した結果である画面へのデータ表示の
方法とを混同している点で誤っている。すなわち,構成要件Aが規定し
ているのは,①の「タッチ位置検出センサー」が検出する情報が「移動
する接触点を一次元座標上の位置データとして検出する」という構成で
ある。そして,原告各製品は,距離と時間の2つのデータを処理してい
るが,この「距離」は,ある時点でタッチ位置検出センサーが検出した
指の接触点の一次元座標上の位置データと,一定時間後に次のタイミン
グでタッチ位置検出センサーが検出した指の接触点の位置データとの差
分により求められるものである。原告は,静電容量の加重平均に基づい
て計算された指の移動速度と移動方向とを用いると主張するが,移動速
度は単位時間当たりの移動距離であるから,「静電容量の加重平均に基
づいて計算された指の移動速度」は,所定の時間当たりの加重平均の変
化量であり,所定の時間を(mT-nT)とすれば,「静電容量の加重
平均に基づいて計算された指の移動速度」は,重心の移動距離を移動時
間で除する次の式により得られる。
移動速度={c(mT)-c(nT)}/(mT-nT)
つまり,原告各製品は,それぞれの時間における重心すなわち接触点
の位置を検出し,それを基に移動速度を計算している。また,移動方向
は,前に検出した重心(接触点)の位置と次に検出した重心の位置(接
触点)の大小関係により判定される。したがって,原告各製品は,重心
(接触点)の位置c(nT)を一定時間間隔で求め,これを基に各種の
処理を行っているに過ぎない。
このように,原告各製品が,その装置内部でタッチセンス方式のパッ
ドが検出した接触点の一次元座標上の位置データを用いて,これに移動
時間のデータを組み合わせて移動速度を算出し,移動速度の大小によっ
て画面表示のスクロール量を調整する処理(上記②の処理)を行ってい
るとしても,タッチセンス方式のパッドが検出した接触点の一次元座標
上の位置データを用いる以上,構成要件Aを充足することに変わりはな
い。
(ウ)重心の計算式により求められる重心c(nT)は,指が複数の電極
にまたがって接触している場合の接触面の中心とみなされる位置である
接触点を,電極番号(原告は,indexの略であるiを電極の「指数」で
あるとするが,ここにいうindexは,16個の電極に割り振られている
番号(0~15)であるから,iは電極の「番号」と訳すべきであ
る。)の小数点以下2桁まで計算した数値にほかならない。例えば,下
図のAのように指が電極2だけに接触して電極2の静電容量のみが変化
し,他の電極の静電容量変化がない場合,c(nT)は2.00であり,
Bのように指が電極7と8とにまたがって触れ,両電極の静電容量の変
化量が同じ場合は,c(nT)は7.50,Cのように指が電極10と
11とにまたがって触れ,両電極の静電容量の変化量の比が1:3の場
合,c(nT)は10.75となる。
A
C
B
そうであるから,c(nT)は,構成要件Aの「一次元座標上の位置
データとして検出」される「前記軌跡に沿って移動する接触点」に該当
する。
(エ)原告は,指の位置は変わらなくても,指の近接,大小,形状,角度,
接触領域の面積,皮膚の状態,汗,周囲の湿度等によって静電容量変化
fiは影響を受け,一定しないから,加重平均は,「軌跡上の接触位置
に1対1に対応する」ものでないと主張するが,そもそも位置だけを持
ち,長さ,面積,体積を持たない数学上の概念的な図形としての「点」
は現実世界に存在せず,現実世界の「接触点」は,必ず一定の物理的広
がり(面)を持ち,その面が相当程度小さい場合を点と呼ぶのである。
そして,原告各製品は,重心の計算式に基づき,一定の物理的広がりを
持つ接触面の中心とみなすべき位置をc(nT)として算出しているの
であり,これが構成要件Aの「接触点」ないし「一次元座標上の位置デ
ータ」に該当する。指の近接,大小,形状,角度等が異なる値となる場
合とは,電極への指の触れ方が異なっている場合であるから,これら各
種の条件により接触面の中心とみなすべき位置である接触点であるc
(nT)が異なる値となることは当然である。
(2)争点1-2(原告各製品が構成要件Bを充足するか否か)について
(被告)
クリックホイールの上下左右4箇所の位置には,「メニューボタン」,
「再生/一時停止ボタン」,「次へ/早送りボタン」及び「前に/巻き戻し
ボタン」のラベルが付され,各ラベルの下面には,プッシュスイッチ手段が
設けられて,各ラベルの位置を押下することでプッシュスイッチ手段の接点
のオン,オフを行い,各ラベルに割り当てられている機能を実行することが
できるから,これら4つのプッシュスイッチ手段が,「接点のオンまたはオ
フを行うプッシュスイッチ手段」に該当する。
したがって,原告各製品は,構成要件Bを充足する。
(原告)
アプッシュスイッチ手段によってセンサーの接点のオン又はオフが行われ
ることがないこと
構成要件Bの「接点」が,センサーの接点を意味することは,本件明細
書の発明の詳細な説明の段落【0012】に「前記スイッチ手段は,キー
トップに接触検知部を付設し,プッシュしたときにセンサーの接点が離れ
ることにより,同じく上述した課題を解決した。」,段落【0034】に
「キートップ80をプッシュしたときにセンサーの接点84が接合したり
(図21(a)乃至(b)参照),もしくは逆に離れるようにするものであっ
ても良い。」と記載され,本件特許の願書に添付した図面(以下「本件図
面」という。)中の【図21】の符号84がこの「センサーの接点」に当
たると明示されていることから明らかである。
これに対し,クリックホイールの4つのボタンは,「再生/一時停止」
等の予め決められた所定の機能を有していて,センサーの接点のオン又は
オフを行うものではない。
イボタンが押された場合に,ボタンからのオンオフ情報とセンサーからの
位置情報(位置データ)とを一体化して検知しないこと
本件各発明の接触操作型入力装置は,プッシュスイッチ手段において接
点のオン又はオフが行われた場合,タッチ位置検知手段からの位置情報
(位置データ)とプッシュスイッチ手段からのオンオフ情報とを一体化し
て検知するものであるから,構成要件Bのプッシュスイッチ手段は,タッ
チ位置検知手段とプッシュスイッチ手段からの情報を一体化した結果,作
動する。このことは,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】
に「…前記タッチ位置検知手段による軌跡上の接触点からの位置情報と,
前記スイッチ手段による接点のオンオフ情報とを一体化させて検知するこ
とにより,同じく上述した課題を解決した。」,段落【0016】に「前
記タッチ位置検知手段による軌跡上の接触点からの位置情報と,前記スイ
ッチ手段による接点のオンオフ情報とを一体化して検知する構成とした接
触検知方式に基づく接触操作型入力装置である。」とあること等から明ら
かである。
これに対し,クリックホイールは,ボタンからのオンオフ情報とセンサ
ーからの情報とが互いに独立し,2つの情報が一体化されることはない。
ウそれぞれ異なる機能を有する4つのボタンが別々に存在し,上面全体が
一体として押下されて入力操作が行われるものではないこと
本件各発明に対応する唯一の実施例である本件図面中の【図21】の入
力装置は,単一のプッシュスイッチ手段を備えるものであることが明らか
であり,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】,【001
3】,【0015】,【0034】等の記載や被告の平成17年11月8
日付け早期審査に関する事情説明書(甲10)の「本願発明を利用すれば
…指をそれまで連続的な回転動作を行っていたタッチ位置入力部の操作軌
道から一旦離して離間した位置に直線的に移動させるという不連続な動作
が不要となる。ユーザによってはこのような不連続な操作は一連の動作を
分断させることになるので好ましくないのに対し,本願発明はこれら一連
の動作をタッチ位置入力部の操作軌道上での指の円周移動の一環として行
えるので,操作の連続感をユーザに与えることになり,好ましい操作性を
得ることができる。」,「刊行物6においては,プッシュ操作は中央部に
おいて1つのプッシュスイッチで行うことしか想定されておらず,リング
状での指の移動とプッシュ操作に連続性を持たせる発想も,プッシュ操作
を複雑かつ多様なタイプの機能を切り替えるための手段に利用する発想も,
そもそも存在しないのである。」との記載からすれば,「接点のオンまた
はオフを行うプッシュスイッチ手段」は,1つの接触操作型入力装置に1
つであり,また,本件図面中の【図21】(a)には,4本の均等な長さ,
太さを有する下向きの矢印が一列に,キートップ80の上面全体に一律に
向けられていることが図示されているから,その上面全体が一体として押
し下げられてその入力操作が行われるものである。
これに対し,クリックホイールは,中央にあるセンターボタンを除けば,
4つの別個独立したボタンを有するのであって,1つの接触操作型入力装
置に単一ではなく4つのプッシュスイッチ手段を備え,また,上面全体が
一体として押下されて入力操作が行われるものではない。
エしたがって,原告各製品は,プッシュスイッチ手段によってセンサーの
接点のオン又はオフが行われることはなく,ボタンからのオンオフ情報と
センサーからの位置情報とを一体化して検知せず,それぞれ異なる機能を
有する4つのボタンが別々に存在し,また,クリックホイールの上面全体
が一体として押下されて入力操作が行われるものではないから,構成要件
Bを充足しない。
(被告)
ア「接点」は,「プッシュスイッチ手段」の接点を意味すること
構成要件Bの「プッシュスイッチ手段」は,「接点のオンまたはオフを
行う」とされていることからしても,プッシュ操作により可動接点の接触,
非接触を切り替えてスイッチをオン,オフする接点オンオフ型プッシュス
イッチであることが明らかであり,構成要件Bの「接点」は,当該プッシ
ュスイッチの接点を意味する。これは,構成要件Cが,本件訂正により,
「前記プッシュスイッチ手段の接点が,前記連続して配置されるタッチ位
置検出センサーとは別個に配置されている」と訂正されたことからも明ら
かである。
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0034】には,「キートップ
80の上面周縁には指先でなぞるようにして操作されるための例えばリン
グ状の接触検知部83を付設し,キートップ80をプッシュしたときにセ
ンサーの接点84が接合したり(図21(a)乃至(b)参照),もしくは逆
に離れるようにするものであっても良い。」と記載されているが,この
「センサー」は,本件図面中の【図21】の「リング状の接触検知部8
3」を指すことが明らかであるように,接触を検知する部材を指す。また,
上記【図21】の番号「84」が「接点84」であることも明らかである。
そうであるから,上記段落【0034】の「センサーの接点84」は,
「センサーの下面に設けられた接点84」を意味する。
イプッシュスイッチ手段が,2つの入力情報を一体化させて検知するよう
に接点のオンオフを行うものであると解すべき必要はないこと
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】の「前記タッチ位置
検知手段による軌跡上のタッチ位置の状態と,前記スイッチ手段による接
点の状態とを一体化させて検知することにより,上述した課題を解決し
た。」,「前記タッチ位置検知手段による軌跡上の接触点からの位置情報
と,前記スイッチ手段による接点のオンオフ情報とを一体化させて検知す
ることにより,同じく上述した課題を解決した。」との記載は,「前記タ
ッチ位置検知手段により軌跡上のタッチ位置の状態と,前記スイッチ手段
による接点の状態とを一体化させて検知することにより」という記載を含
んでいた原出願の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載を引き写したも
ので,本件各発明とは異なる構成の発明に関する。
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0034】及び本件図面中の
【図21】が本件各発明の実施例に関する記載であり,これらには,2つ
の情報を「一体化させて検知する」ことの記載はない。
そうであるから,上記段落【0012】の記載は,本件各発明を限定解
釈すべき根拠にはならない。
なお,本件各発明は,従来技術において別個に構成されていたタッチ位
置検出センサーとプッシュスイッチとを一体化して,接触点の位置,変移
値及び押圧力という異なる入力情報を一つの電子部品ないし入力装置とい
う1種類のハードウエアで検知するようにしたものであり,本件明細書の
発明の詳細な説明の段落【0012】の「一体化させて検知する」という
のも,「情報を一体化させて検知」するという意味ではなく,「軌跡上の
タッチ位置の状態を検知するタッチ位置検知手段と,接点の状態を検知す
るスイッチ手段とをハードウエアとして一体化させること」,すなわち,
従来技術において別個独立のハードウエア部品(スライドスイッチ,ジョ
グダイヤルとプッシュスイッチ)として構成されていたものを,タッチ位
置検出センサーを利用することでハードウエア的に一体化すること(ハー
ドウエアの一体化)を意味する。
ウ上面全体が一体として押下されて入力操作が行われる必要はないこと
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0034】には,キートップ8
0の上面全体を一体として押し下げることに限定することの記載はなく,
本件図面中の【図21】(a)の上方の4本の下向きの矢印は,タッチ位置
検知手段83において押下圧力を加えることを示すものに過ぎない。同
【図21】(a)に記載されたリング状のタッチ位置検知部の上下左右4箇
所の矢印は,タッチ位置検知部において押下圧力を加えるべき箇所を示し,
同図(b)及び(c)は,(a)の4箇所の矢印に対応して,その下面に4つの
接点が設けられていることを示しているが,仮に上面全体が一体として押
下されるものであるならば,プッシュスイッチ手段は全体として1つの入
力操作しか認識することができないことになり,わざわざ接点を4つ設け
る意味がないばかりか,無駄にコストをかけて不必要に複雑な構造を採用
することになってしまう。そうであるから,上記段落【0034】の「キ
ートップ80をプッシュしたとき」は,「キートップ80の周辺部の4点
のいずれかの位置をプッシュしたとき」を意味するのであって,キートッ
プ80の構造を見れば,その素材に,例えば弾性体を用いて円周上の一部
を押し下げることにより4つの接点をそれぞれ個別にオンオフするように
構成することは,当業者にとって自明な事項である。
また,被告の平成17年11月8日付け早期審査に関する事情説明書
(甲10)の「本願発明を利用すれば…指をそれまで連続的な回転動作を
行っていたタッチ位置入力部の操作軌道から一旦離して離間した位置に直
線的に移動させるという不連続な動作が不要となる。ユーザによってはこ
のような不連続な操作は一連の動作を分断させることになるので好ましく
ないのに対し,本願発明はこれら一連の動作をタッチ位置入力部の操作軌
道上での指の円周移動の一環として行えるので,操作の連続感をユーザに
与えることになり,好ましい操作性を得ることができる。」との記載は,
本件各発明と従来技術の操作性との相違,すなわち,リング状の軌跡上と
は離間した位置にあるプッシュスイッチ手段を押下しなければならないよ
うな発明と比較して,本件各発明の優れた操作性につき述べたもので,タ
ッチ位置検知手段の軌道上で指の摺動を停止したその位置から指を離すこ
となくその位置でプッシュスイッチ手段の押下が可能なことを意味するの
ではない。このことは,上記記載の直前に,「例えば,本願発明を利用す
れば,検索したメニュー項目を選択等する際,選択操作をしている位置で
そのまま指を押下してプッシュスイッチを作動させることで,あるいは所
望の機能の割り当てられたプッシュスイッチの近傍に指をスムーズに移動
させてプッシュスイッチを作動させることで当該選択等の操作を行うこと
が可能になるのであり」との記載があることからも明らかである。
(3)争点1-3(原告各製品が構成要件Cを充足するか否か)について
(被告)
クリックホイールの上下左右4箇所の位置には,「メニューボタン」,
「再生/一時停止ボタン」,「次へ/早送りボタン」及び「前に/巻き戻し
ボタン」のラベルが付され,各ラベルの下面には,プッシュスイッチ手段が
設けられているから,これらのプッシュスイッチ手段の接点は,「前記タッ
チ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記
軌跡に沿って」配置されている。
これらのプッシュスイッチ手段の接点は,クリックホイールの部分に設け
られているタッチセンス方式のパッドとは「別個に配置」されている。
そして,各ラベルの位置を押下することによりプッシュスイッチ手段の接
点のオンオフを行い,その際には,タッチ位置を検知するためにクリックホ
イールを指先でなぞるように操作する際の接触圧力よりも大きな接触圧力で
押下する必要があるから,上記4つのプッシュスイッチ手段の接点は,「前
記接点のオンまたはオフの状態が,前記タッチ位置検出センサーが検知しう
る接触圧力よりも大きな力で保持されて」いる。
したがって,原告各製品は,構成要件Cを充足する。
(原告)
ア静電容量センサーを採用し,接触圧力を検知するものではないこと
構成要件Cが「前記タッチ位置検出センサーが検知しうる接触圧力より
も大きな力で保持されて」いるとし,構成要件Dが「前記タッチ位置検出
センサーに対する接触圧力よりも大きな接触圧力での押下により,前記プ
ッシュスイッチ手段の接点のオンまたはオフが行われる」としていること
から明らかなように,本件訂正後の請求項1は,タッチ位置検出センサー
が「接触圧力」を検知するタイプのものであることを新たに限定し,プッ
シュスイッチ手段のオン又はオフの際の接触圧力が,タッチ位置検出セン
サーに対する接触圧力よりも大きなものであることを明示的に要求してい
る。
これに対し,クリックホイールは,人間の指等の導電性材料の近接によ
る電界の変化を静電容量である電気的特性の変化として検出することによ
って機能する静電容量センサーを用いているところ,この静電容量センサ
ーは,加えられた圧力を検知,検出するものではない(圧力を検知,検出
することができない)から,原告各製品は,「接触圧力」を検知する「タ
ッチ位置検出センサー」を有しない。
イクリックホイールの4つのボタンの接点の「オンまたはオフの状態」が,
「力で保持」されていないし,タッチセンサーによって「検知しうる接触
圧力よりも大きな力で保持されて」もいないこと
「保持」とは,「たもちつづける」ことであるから,構成要件Cは,接
点のオン又はオフの状態が,オン又はオフの状態にした後も「たもちつづ
ける」ことを要求しているのであって,接点は,もう一度スイッチが押下
されるまで,オン又はオフの状態を「たもちつづけ」なければならない。
また,構成要件Cは,接点のオン又はオフの状態が「前記タッチ位置検出
センサーが検知しうる接触圧力よりも大きな力で保持されて」いることに
ついて規定しているから,接点のオン又はオフの状態は,「力」によって
保持されなければならない。
これに対し,クリックホイールの4つのボタンは,薄く弾性がある金属
の上部接点と平坦な薄い金属の下部接点からなるドーム状のスイッチを用
い,このドーム状のスイッチは,初期状態ではオフの状態を「たもちつづ
け」ているが,ドームの先端が指で押下されると,上部接点が下部接点と
電気接触を行い,ユーザーがオンの状態にスイッチを押下した場合,ユー
ザーが指の圧力を解放して上部接点のたわみが元のドーム状に戻されると,
スイッチはオフの状態に戻るから,ボタンを押下して接点がオンになった
としても,その状態を「たもちつづける」ことなく,ボタンはすぐに押し
戻るのであって,接点のオンの状態が「保持」されることはない。また,
力がゼロでも接点はデフォルトでオフの状態を「たもちつづける」から,
接点のオフの状態は,「力」によって保持されていない。
構成要件Cの「接点のオンまたはオフの状態が…よりも大きな力で保持
される」は,接点のオンの状態もオフの状態も,より大きな力で保持され
るものであるが,クリックホイールのプッシュスイッチ手段は,接点をオ
ンもオフもするものであり,ボタンを押下して接点をオンの状態にしても,
上記のとおりすぐに接点が離れたオフの状態に戻ってしまうから,接点の
オンの状態が,タッチパッドが検知しうる接触圧力よりも大きな力で「保
持」されるとはいえないし,接点のオフの状態を保持するのに接触圧力は
不要であるから,接点のオフの状態がタッチ位置検出センサーが検知しう
る接触圧力よりも「大きな力」で保持されるともいえない。
ウ接点がクリックホイールの真下にあること
構成要件Cは,プッシュスイッチ手段の接点が,「軌跡」「に沿って」
配置されることを規定するが,ある物体がリング状である軌跡(下図の領
域A)「に沿って」配置された場合,一般に,その物体が,①軌跡の上又
は下(領域A),②軌跡の外周(領域B)及び③軌跡の中央(領域C)に
配置されている状態を含む。
ところで,被告は,原出願の際,平成16年10月18日付け手続補正
書(乙2)に,スイッチ手段が「リング状の中央又は外周に配置された」
と記載して,スイッチ手段の配置される位置として,領域B及びCは含む
が領域Aを含まないことを明らかにし,同月22日付け意見書(甲12)
により,審査官に対し,「リング状タッチ位置検知センサの中央又は外周
に入力部を配置」することが顕著な効果を奏する発明の新規な構成である
と主張した。被告がスイッチ手段の位置を「中央又は外周」(領域B及び
C)と特定したのは,タッチパネルの下(領域A)に配置されたスイッチ
手段を開示する先行技術に基づき原出願の拒絶理由通知を受けていたので,
タッチ位置検知手段の軌跡の下にスイッチ手段を有する構成を排除して,
上記拒絶理由を克服しようとしたためであり,公知技術を回避し,公知技
術との差別化を図るために,スイッチ手段の位置に関し,領域Aを放棄し
て領域B及びCのみに限定した。
これに対し,クリックホイールの4つのボタンは,正にタッチセンサー
の真下に配置されているから,「軌跡」「に沿って」配置されたものでは
ない。
エしたがって,原告各製品は,いずれも静電容量センサーを採用して,接
触圧力を検知するものではなく,クリックホイールの4つのボタンの接点
の「オンまたはオフの状態」が「力で保持」されておらず,タッチセンサ
A
C
B
ーによって「検知しうる接触圧力よりも大きな力で保持されて」もおらず,
また,接点がクリックホイールの真下にあるから,構成要件Cを充足しない。
(被告)
アタッチ位置検出センサーが接触圧力を検知するものに限定されないこと
タッチ位置検出センサーには,抵抗膜式センサー,可動電極式センサー,
静電容量式センサー及び光学式センサーなど各種の方式のものがあるが,
指を宙に浮かせたままでの操作は極めて不安定で非実用的であり,いずれ
の方式のセンサーを採用した場合でも,実用上は,センサーの操作面にユ
ーザーの指を接触させて操作することになる。
本件各発明は,「タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサー
が連続して配置される前記軌跡上」を「押下」することにより「プッシュ
スイッチ手段の接点のオンまたはオフ」を行う構成であり(構成要件D),
「プッシュスイッチ手段」の操作を行う場合,「タッチ位置検知手段」に
指が接触することになるので,「タッチ位置検知手段」の操作のために指
を操作面に触れた際に,誤って「プッシュスイッチ手段」を操作すること
のないよう,両手段の誤操作を避ける必要がある。構成要件Cが「前記タ
ッチ位置検出センサーが検知しうる接触圧力よりも大きな力で保持され
て」いるとし,構成要件Dが「前記タッチ位置検出センサーに対する接触
圧力よりも大きな接触圧力での押下により,前記プッシュスイッチ手段の
接点のオンまたはオフが行われる」としているのは,タッチ位置検知手段
の操作のために加えられる程度の接触圧力によっては,プッシュスイッチ
手段の接点のオン又はオフの状態が変化しないだけの大きさの力で接点の
オン又はオフ状態が保持されていることを規定したものである。このこと
は,構成要件C及びDの文言を一体として読めば明らかであって,構成要
件C及びDの上記文言は,センサーを接触圧力を検知するものに限定する
のではない。
イタッチセンサーによって「検知しうる接触圧力よりも大きな力で」ある
こと
クリックホイールが採用する静電容量式センサーの場合,実用上は操作
面に軽く触れるだけで指の接触を検知できるから,「接触圧力」はわずか
な圧力であり,その下面に配設されたプッシュスイッチ手段の接点のオン
又はオフの状態は,これよりも大きな力で押下した場合にのみ切り替わる
ようになっている。
ウプッシュスイッチ手段の接点が軌跡の真下にある場合が除外されないこと
被告の平成16年10月18日付け手続補正書(乙2)及び同月22日
付け意見書(甲12)はいずれも原出願に関するものであり,原出願にお
いて,操作軌道の真下にプッシュスイッチが配置される構成を除外したと
しても,その分割出願に係る本件各発明に影響を及ぼすことはない。「前
記軌跡に沿って」との構成が,軌跡の真下も含むことは文言上明らかであ
る。
(4)争点1-4(原告各製品が構成要件Dを充足するか否か)について
(被告)
原告各製品は,クリックホイール上のラベルの位置を押下することにより,
その下面に設けられたプッシュスイッチ手段の接点のオン又はオフが行われ,
その際には,タッチ位置を検知するためにクリックホイールを指先でなぞる
ように操作する際の接触圧力よりも大きな接触圧力で押下する必要がある。
したがって,原告各製品は,構成要件Dを充足する。
(原告)
ア静電容量センサーを採用して,接触圧力を検知するものではないこと
原告各製品は,前記(3)(原告)アに記載のとおり,「接触圧力」を検
知する「タッチ位置検出センサー」を有しないし,原告各製品のタッチセ
ンサーは,静電容量センサーを採用していて,接触圧力を検知することが
できないから,プッシュスイッチ手段のオン又はオフの際の接触圧力がタ
ッチ位置検出センサーに対する「接触圧力よりも大きな」ものとなること
もない。
イ4つのボタンはセンサーからの指の位置データを入力するものではない
こと
タッチ位置検知手段は,「軌跡に沿って移動する接触点を一次元座標上
の位置データとして検出する」(構成要件A)もので,プッシュスイッチ
手段は,「接点のオンまたはオフを行う」(構成要件B)ものであり,
「タッチ位置検出センサーが連続して配置される軌跡上における…押下に
より」接点のオン又はオフが行われる(構成要件D)のであるから,「位
置データ」と「接点のオンまたはオフ」とは直接的に関連し,タッチ位置
検出センサーの配置された軌跡上を押下することにより,接点がオンの状
態(情報が入力され又は電流が流れる)又はオフの状態(情報の入力がな
されずまた電流の流れが止まる)となり,軌跡上のユーザーの指の位置デ
ータの入力が行われる。すなわち,構成要件Dの「タッチ位置検出センサ
ーが連続して配置される前記軌跡上における…押下により,前記プッシュ
スイッチ手段の接点のオンまたはオフが行われる」とは,軌跡上に配置さ
れたセンサーを押下するとともにプッシュスイッチ手段を操作することに
より,ユーザーの指の軌跡上の位置データを入力することを意味する。こ
れは,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】,【0016】,
【0034】及び本件図面中の【図21】の記載のほか,被告が出願経過
において,本件特許の従来技術との違いが「連続した操作」にあり,ユー
ザーが指で軌跡をなぞった後,軌跡から指を話すことなくプッシュスイッ
チ手段を押下することに新規な特徴があると繰り返し述べて,「連続的な
操作」のできない入力装置を除外していることからも明らかである。
これに対し,クリックホイールの4つのボタンは,それぞれ予め定めら
れた別個の機能を有していて,センサーからの指の位置情報が4つのボタ
ンによって原告各製品に入力されるわけではなく,押下により接点のオン
オフを行うこととセンサーからの指の位置情報とは全く関わりがない。原
告各製品を用いてメニューをスクロールする際,選択入力は,クリックホ
イールの中央にあるセンターボタンを押し,又は,クリックホイールやタ
ッチセンサーから指を離すことによって行われるから,軌跡上から指を離
すことなくタッチセンサーの軌跡上を押下することにより指の位置情報の
入力がされることはなく,また,クリックホイールにおいて軌跡上のボタ
ンとボタンとの間の部分を押下しても,物理的に4つのボタンのうちのう
ちの1つを作動させるようなことも起こらないから,クリックホイールの
4つのボタンは,センサーからの位置情報を入力するものではない。
ウ「前記タッチ位置検出センサーに対する接触圧力よりも大きな接触圧力
での押下により,前記プッシュスイッチ手段の接点のオンまたはオフが行
われる」ものではないこと
構成要件Dは,「前記タッチ位置検出センサーに対する接触圧力よりも
大きな接触圧力での押下により,前記プッシュスイッチ手段の接点のオン
またはオフが行われる」として,プッシュスイッチ手段の接点のオン又は
オフが行われる際に加えられる接触圧力がタッチ位置検出センサーに対す
る接触圧力よりも大きいことを明示している。
これに対し,原告各製品は,前記(3)(原告)アのとおり,クリックホ
イールの静電容量センサーが圧力を検知することは物理的に不能であって,
それよりも大きな圧力というものが観念できないし,クリックホイールの
タッチセンサーの下のボタンがタッチセンサーが検知しうる接触圧力より
も大きな圧力によって作動するということもない。
また,原告製品2,4及び5(iPodnano第2ないし第4世
代)は,クリックホイールのボタンがセンサーの真下にあるために,ボタ
ンがオンされる際に加えられる接触圧力は,センサーに加えられる接触圧
力と必然的に同じになるから,これらの製品は,この点でも構成要件Dを
充足しない。
エ4つのボタンはタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡
上における押下によらないこと(原告製品1及び3(iPod第5世代及
びiPodclassic))
構成要件Aが「軌跡上に連続してタッチ位置検出センサーが配置され」
と規定し,構成要件Dが「タッチ位置検出センサーが連続して配置される
前記軌跡上」と規定しているから,構成要件Dの「軌跡上」には,連続し
てタッチ位置検出センサーが配置され,「軌跡上…における…押下により,
前記プッシュスイッチ手段の接点のオンまたはオフが行われる」際には,
軌跡上に連続して配置されたタッチ位置検出センサーが押下されて,プッ
シュスイッチ手段の接点のオン又はオフが行われる。
これに対し,原告製品1及び3(iPod第5世代及びiPodcl
assic)は,下図のとおり,クリックホイールのセンサー電極に4つ
の穴があり,これらの穴の中にボタンの上部接点の先端のアクチュエータ
が収納されていて,ボタンを押下するに当たっては,センサーの穴の中に
位置するアクチュエータを押下して,ボタンの上部接点を押下することに
なるのであって,押下されるのは,「軌跡」でもなければ,連続して軌跡
上に配置されたセンサーでもない。
iPod第5世代iPodclassic
オしたがって,原告各製品は,いずれも静電容量センサーを採用して,接
触圧力を検知するものではなく,4つのボタンはセンサーからの指の位置
データを入力するものでもなく,また,「前記タッチ位置検出センサーに
対する接触圧力よりも大きな接触圧力での押下により,前記プッシュスイ
ッチ手段の接点のオンまたはオフが行われる」ものではないから,構成要
件Dを充足しない。これに加え,原告製品1及び3(iPod第5世代及
びiPodclassic)の4つのボタンは,タッチ位置検出センサ
ーが連続して配置される前記軌跡上における押下によらないから,構成要
件Dを充足しない。
(被告)
アタッチ位置検出センサーが接触圧力を検知するものに限定されないこと
構成要件C及びDは,前記(3)(被告)アのとおり,センサーを接触圧
力を検知するものに限定するのではない。
原告製品2,4及び5(iPodnano第2ないし第4世代)も同
様であり,これらが採用する静電容量式センサーは,センサー面に指を軽
く触れることで「接触点を…検知する」(構成要件A)から,「接触圧
力」はわずかな圧力であり,クリックホイール下面に配設されたプッシュ
スイッチ手段の接点のオン又はオフ状態は,それよりも大きな力で押下し
た場合にのみ切り換わるようになっている。
イ軌跡上を押下するものであれば足り,タッチ位置検出センサーを押下す
るものである必要はないこと
構成要件Dに「前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサ
ーが連続して配置される前記軌跡上における…押下により」とあるように,
軌跡上での押下があれば,押下する物理的対象がタッチ位置検出センサー
であろうとなかろうと,構成要件Dに該当すると解するのが合理的である。
また,本件各発明の実施例である本件図面中の【図21】(b)では,「プ
ッシュスイッチ手段の接点」に相当する接点84が「タッチ位置検出セン
サー」に相当する接触検知部83のリング状のやや内周に配置されている
から,押下する位置は,接触検知部83の真上に限られず,その内側であ
る同【図21】(a)の4つの矢印の付近であっても接点84がオンオフす
ることが理解できる。
原告各製品は,「軌跡」に相当するクリックホイールのカバーに印字さ
れたラベル付近を押下することで,その下面に設けられた接点オンオフ型
プッシュスイッチであるボタンがオンオフするようになっている。
(5)争点1-5(原告各製品が構成要件Gを充足するか否か)について
(被告)
原告各製品のクリックホイール上の4箇所のラベルの下面にプッシュスイ
ッチ手段が設けられていて,その個数は4つである。
したがって,原告各製品は,構成要件Gを充足する。
(原告)
プッシュスイッチ手段は,構成要件BやDについて述べたように,①2
つの入力手段からの情報が一体化して検知されるものでなければならず,②
センサーの接点のオンオフを行うものでなければならず,③1つの接触操
作型入力装置に1つだけ存在するものでなければならず,④上面全体が一
体として押下されるものでなければならず,⑤センサーからの指の位置デ
ータを入力するものでなければならない。
これに対し,原告各製品のボタンはこれらをいずれも充足しないから,原
告各製品は,構成要件Gを充足しない。
2争点2(本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められる
か否か)について
(1)争点2-1(訂正事項1の訂正が新規事項の追加に当たるか否か)につ
いて
(原告)
ア「軌跡」が「所定の幅」を有することの記載がないこと
本件訂正前の明細書(以下「本件訂正前明細書」という。)の発明の詳
細な説明の段落【0034】には,接点のオンオフを行う入力キーである
キートップ80の上面周縁に「リング状の接触検知部83を付設」したと
の記載があるから,当業者は,通常の入力キーの大きさを考えれば,本件
図面中の【図21】(a)に示される接触検知部83には実質的な幅がない
ものと理解する。
本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】の「接触検知
センサーを1次元上…の所定の軌跡上に連続して帯状に配置すれば,この
所定の軌跡を曲線とすれば該曲線を引き延ばして直線上の線分としたとき
の端点からの距離が検知できる。」との記載は,「所定の軌跡上に」接触
検知センサーを「連続して帯状に配置」するというに過ぎず,軌跡につい
ては,所定の幅を有するとも連続しているともいっていない。また,本件
訂正前明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】の「前記タッチ位置
検出センサーは,幅広な帯状にして一様に分布されているか,もしくは粗
密性を有する不均一分布にして配されているものとした」,段落【003
2】の「前記タッチ位置検出センサーは,…幅広な帯状にして一様に分布
したり,もしくは粗密性を有する不均一分布にして配置したりして構成す
ることができる。」との記載も,タッチ位置検出センサーについての記載
であって,軌跡についての記載ではないし,これらの記載は,本件図面中
の【図12】ないし【図16】及び【図22】という本件各発明とは別の
発明についての記載である。
イ「予め特定された軌跡」の記載がないこと
本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】には,従来技
術や発明の課題について,「予め決められた1次元または2次元もしくは
3次元上の軌跡上の位置,変移値および押圧を検知するような軌道に沿っ
た指先による接触点の位置を検出すると共にその変位,移動量を算出する
電子部品又は該変位,移動量を算出するための出力を有する一体化された
電子部品等は存在しない。」と記載し,これに続き,この種の電子部品を
使用する機器においては,従来ではタッチパネルとスイッチとを別個の部
品として配置し,2つの部品によって重層して操作していたと記載してい
るから,これらの記載を訂正の根拠とするには,本件各発明の請求項1に
係る構成が,タッチ位置検知手段により位置を検知すると共に,プッシュ
スイッチ手段がその変位や移動量を検出又は算出するための出力を有する
ものでなければならないが,請求項1にそのような限定はない。上記段落
【0012】に「直線または平面曲線もしくは空間曲線状の所定の軌跡上
に連続してタッチ位置検出センサーを配したタッチ位置検知手段と」とし
て「予め特定された軌跡」(所定の軌跡)の構成を記載している点も,こ
れに引き続いて「タッチ位置検知手段による軌跡上の接触点からの位置情
報と,スイッチ手段による接点のオンオフ情報とを一体化させて検知す
る」との構成を記載しているから,前記と同様に解すべきであるが,前記
のとおり請求項1にそのような限定はない。
また,本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】の「指
先からの軌跡上のアナログ的な変移情報または接点の移動情報が電子機器
へ入力することを可能にさせ,1次元上,2次元上または3次元上の所定
の軌跡上を倣って移動,変移する接触点の位置,変移値および押圧力を検
知することを可能にさせる。」との記載の後にも「…以上の接触センサー
付きプッシュキーにより,単純なキーの押下以外に接触もしくは十分に弱
い押圧によりイベント入力を行わせる。」との記載があり,これは,プッ
シュキーに接触検出センサーが付いている,すなわち,「1つのプッシュ
キー上に接触検出センサーが設けられている」という構成についてのもの
であるが,請求項1にそのような限定はない。
このように,これらの記載はいずれも本件各発明に係る請求項1にない
構成を有する発明について述べた箇所であるから,これらの記載を根拠と
した訂正事項1の訂正は,本件訂正前明細書に記載した事項の範囲内にお
いてしたものとはいえない。
(被告)
ア「軌跡」が「所定の幅」を有することの開示があること
「指先でなぞるようにして操作」するためには,「接触検知部83」が
少なくとも指先に相当する「所定の幅」を有すべきことは明らかであり,
「軌跡」は,「タッチ位置検出センサー(接触検知部83)」を配置する
ためのコースとして予め特定されるものであるから,両者は密接不可分の
関係にある。「接触検知部83」が「所定の幅」を有する以上,当該「接
触検知部83」を配置するために特定される「軌跡」が「所定の幅」を有
することは自明であって,本件訂正前明細書等の全ての記載を総合するこ
とにより導かれる技術的事項である。
本件訂正前明細書の発明の詳細な説明において,「キートップ80」が
指1本で操作されるような大きさであることに限定する記載はなく,仮に
その程度の大きさのものを製造したとしても,実用上,「接触検知部8
3」が「所定の幅」を備えることは当然であるから,キーの大きさに基づ
いて,実質的な幅がないということはできない。
本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の段落【0032】等の記載は,
特定の実施例に限定した記載ではなく,本件特許に係る「タッチ位置検出
センサー」全般についての説明を記載したものである。
イ「予め特定された軌跡」の開示があること
本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】の記載がある
としても,本件各発明は,従来技術において別個独立のハードウエア部品
(スライドスイッチ,ジョグダイヤルとプッシュスイッチ)として構成さ
れていたものを,タッチ位置検出センサーを利用することでハードウエア
的に一体化することを意味するのであって,本件各発明の請求項1に係る
構成が,タッチ位置検知手段により位置を検知するとともに,プッシュス
イッチ手段がその変移や移動量を検出又は算出するための出力を有するも
のでなければならないわけではない。
また,本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】や【0
013】の記載は,「情報を一体化させて検知することにより」との記載
を除き,本件各発明にも当てはまる構成について記載したものである。
(2)争点2-2(訂正事項2の訂正が新規事項の追加に当たるか否か)につ
いて
(原告)
本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】の「要するに2
次元上に展開された接触検知構造を1次元に展開し,しかも連続に軌跡上に
配置するのである。」との記載は,平面状(2次元)の接触検知構造を線状
や帯状(1次元)の接触検知構造に単に形状変更することを意味するに過ぎ
ず,位置データをどのような座標形態により検出するかを説明したものでは
ない。そして,本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の段落【0020】に
「以上説明したように各種の検知手段によれば,接触点をその軌跡に1対1
に対応させた1次元座標上の位置データとして出力させるものであり」との
記載があることから,「接触点」を「一次元座標上の位置データとして検出
する」ことについての記載があると解することができるとしても,「軌跡に
沿って移動する接触点」を「一次元座標上の位置データとして検出する」こ
とについての記載はなく,むしろ,「接触点をその軌跡に1対1に対応させ
た1次元座標上の位置データ」との記載から,タッチ位置検知手段は,移動
する接触点を検出するという連続的な検出を目的とするものではなく,予め
一つ一つの部分に区分けされた位置における指の接触を検出することを目的
とするものと理解される。
また,本件図面中の【図21】のような「リング状」の無終端の閉曲線か
ら「一次元座標上の位置データ」を想定することもできない。
したがって,訂正事項2の訂正は,本件訂正前明細書に記載した事項の範
囲内においてしたものではない。
(被告)
接触点の位置データを検出しうる接触検知構造が一次元に展開された場合,
その出力は,「一次元座標上の位置データ」にしかなり得ないのは当業者に
とって自明であり,このことは本件明細書の発明の詳細な説明の段落【00
07】の全体を見れば明らかである。
また,本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の段落【0020】には,
「以上説明したように各種の検知手段によれば,接触点をその軌跡に1対1
に対応させた1次元座標上の位置データとして出力されるものであり」とし
て,「接触点」を「一次元座標上の位置データ」として検出することが明確
に記載されている(なお,この記載は,「接触点の軌跡」に「1次元座標」
を対応させることで,「接触点」の位置データが「一次元座標上の位置デー
タ」として出力されることを意味する。)。
そして,本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】や【0
011】に「所定の軌跡上を倣って移動,変移する接触点」等の記載があり,
「接触点」が「軌跡に沿って移動する」ことが明記されている。
(3)争点2-3(訂正事項3の訂正が新規事項の追加又は実質上特許請求の
範囲を拡張するものか否か)について
(原告)
ア「接点のオンまたはオフの状態が,前記タッチ位置検出センサーが検知
しうる接触圧力よりも大きな力で保持されている」ことの記載や「プッシ
ュスイッチ手段の接点」が「タッチ位置検出センサーとは別個に配置され
ている」ことについての記載がないこと
本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】の「該タッチ
位置検出センサーの用いられる軌跡上で指が移動する方向以外の物理的な
移動または押下により接点のオンまたはオフを行うスイッチ手段とを有
し」との記載は,これに続く「前記タッチ位置検知手段による軌跡上のタ
ッチ位置の状態と,前記スイッチ手段による接点の状態とを一体化させて
検知することにより,上述した課題を解決した。」との記載からして,タ
ッチ位置の状態と接点の状態とを一体化させて検知するという本件各発明
とは異なる発明に関する記載である。また,同段落の「該タッチ位置検出
センサーの用いられる軌跡の接線に直交する方向への物理的な移動または
押下により接点のオンまたはオフを行うスイッチ手段とを有し」との記載
も,これに続く「前記タッチ位置検知手段による軌跡上の接触点からの位
置情報と,前記スイッチ手段による接点のオンオフ情報とを一体化させて
検知することにより,同じく上述した課題を解決した。」との記載からし
て,本件各発明とは異なる発明に関する記載である。そして,本件訂正前
明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】の「以上の接触検出センサ
ー付きプッシュキーにより,単純なキーの押下以外に接触もしくは十分に
弱い押圧によりイベント入力を行わせる。」との記載や段落【0015】
の「以上の接触検出センサー付プッシュキーにより,単純なキーの押下以
外に接触もしくは十分に弱い押圧によりイベント入力が行なえる。」との
記載は,いずれも「接触検出センサー付プッシュキー」という,1つのプ
ッシュキー上に接触検出センサーが設けられている構成についての記載で
あり,本件各発明とは異なる発明に関する記載である。
本件訂正前明細書及び本件図面に,「プッシュスイッチ手段の接点」が
「タッチ位置検出センサーとは別個に配置されている」ことについての記
載はない。
イ「センサーの接点」を意味する「接点」を「プッシュスイッチ手段の接
点」に変更することは,特許請求の範囲を実質的に変更するものであるこ

「接点」は,前記1(2)(原告)アのとおり,「プッシュスイッチ手段
の接点」ではなく,「センサーの接点」を意味する。
ウこのように,本件訂正前明細書又は本件図面中に,「接点のオンまたは
オフの状態が,前記タッチ位置検出センサーが検知しうる接触圧力よりも
大きな力で保持されている」ことや「プッシュスイッチ手段の接点」が
「タッチ位置検出センサーとは別個に配置されている」ことの記載はない
から,訂正事項3の訂正は,本件訂正前明細書に記載した事項の範囲内に
おいてしたものでなく,仮にそうでないとすると,「接点」は「センサー
の接点」を意味するから,これを「プッシュスイッチ手段の接点」に変更
することは,特許請求の範囲を実質的に変更するものである。
(被告)
ア「接点のオンまたはオフの状態が,前記タッチ位置検出センサーが検知
しうる接触圧力よりも大きな力で保持されている」ことや「プッシュスイ
ッチ手段の接点」が「タッチ位置検出センサーとは別個に配置されてい
る」ことについての記載があること
本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】の記載は,
「一体化させて検知することにより」との記載を除き,本件各発明にも当
てはまるし,段落【0013】や段落【0015】の記載について,「接
触検出センサー付きプッシュキー」を「1つのプッシュキー上に接触検出
センサーが設けられている」構成に限定して解釈すべき記載はない。
本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の段落【0034】及び本件図面
中の【図21】(a),(b)には,「接触検知部83(タッチ位置検出セン
サー)」が「キートップ80」の上面周縁に付設されていることが記載さ
れ,【図21】(b)には,「接点84(プッシュスイッチ手段の接点)」
が「キートップ80」の内部に設けられている構成が記載されているから,
「プッシュスイッチ手段の接点」が「タッチ位置検出センサーとは別個に
配置されている」ことは,本件訂正前明細書及び本件図面に記載がある。
イ「接点」が「プッシュスイッチ手段の接点」を意味するものであること
本件訂正前の請求項1は,「前記プッシュスイッチ手段の接点のオンま
たはオフが行われる」と記載されているから,「接点」が「プッシュスイ
ッチ手段の接点」であることは,文言上明確である。
(4)争点2-4(訂正事項4の訂正が新規事項の追加に当たるか否か)につ
いて
(原告)
「接点のオンまたはオフの状態が前記タッチ位置検出センサーが検知しう
る接触圧力よりも大きな接触圧力での押下により保持されている」ことにつ
いては,前記(3)(原告)アのとおり,本件訂正前明細書及び本件図面に記
載がない。
したがって,訂正事項4の訂正は,本件訂正前明細書及び本件図面に記載
した事項の範囲内においてしたものではない。
(被告)
本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】の記載は,前記
(3)(被告)アのとおり,「一体化させて検知することにより」との記載を
除き,本件各発明にも当てはまるし,段落【0013】や段落【0015】
に「以上の接触検出センサー付きプッシュキーにより,単純なキーの押下以
外に接触もしくは十分に弱い押圧によりイベント入力を行わせる」との記載
があり,段落【0034】に「キートップ80の上面周縁には指先でなぞる
ようにして操作されるための例えばリング状の接触検知部83を付設し,キ
ートップ80をプッシュしたときにセンサーの接点84が接合したり(【図
21】(a)乃至(b)参照),もしくは逆に離れるようにするものであっても
良い。」との記載があり,「タッチ位置検出センサー(接触検知部)」は,
「指先でなぞるようにして操作」されるのに対し,「接点84」をオンオフ
させるには,「キートップ80」をプッシュする必要があることが分かるか
ら,「プッシュスイッチ手段」の押下は,「タッチ位置検出センサー」への
入力に要する接触圧力よりも大きな接触圧力で行うように構成されているこ
とが明らかである。
(5)争点2-5(訂正事項5の訂正が実質上特許請求の範囲を拡張するもの
か否か)について
(原告)
4つのプッシュスイッチ手段は,4つのプッシュスイッチよりも明らかに
広義であるし,本件訂正前明細書の発明の詳細な説明に,「プッシュスイッ
チ手段」を4つ備えた入力装置は開示されておらず,本件図面中の【図2
1】の入力キーは,それ自体が全体として1つのプッシュスイッチ手段であ
って,符号84で示される4つの接点は,その1つのプッシュスイッチ手段
のために設けられているものであるに過ぎない。本件訂正前の請求項2に係
る発明が本件訂正前明細書の発明の詳細な説明に記載されているという前提
に立つとするならば,ここにいう4つのプッシュスイッチは,4つのプッシ
ュスイッチ手段ではあり得ず,プッシュスイッチの「4つの接点」という意
味に解さざるを得ないから,これを「4つのプッシュスイッチ手段」に変更
する訂正は,特許請求の範囲を実質的に拡張,変更するものである。
(被告)
本件訂正前明細書の発明の詳細な説明に,4つの接点が同一で単一のオン
オフ情報しか検知できないと限定する記載はなく,そのような限定をすべき
根拠もない。本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の段落【0034】に
「キートップ80の上面周縁には指先でなぞるようにして操作されるための
例えばリング状の接触検知部83を付設し,キートップ80をプッシュした
ときにセンサーの接点84が接合したり(【図21】(a)乃至(b)参照),
もしくは逆に離れるようにするものであっても良い。」との記載があり,キ
ートップ80がプッシュされたときに,各接点84が接合もしくは離れるよ
うにして検知するためには,各接点84がそれぞれ独立に接合もしくは離れ
る構造を備える必要があるし,本件図面中の【図21】には4個の「接点8
4」を備えた「接触操作型入力装置」が記載されているから,「プッシュス
イッチ手段」が4つであることは当業者にとって自明である。
(6)争点2-6(本件各発明は当業者が甲5に記載された発明に基づいて容
易に発明をすることができたか否か)について
(原告)
ア甲5に記載された発明
(ア)原出願前に頒布された刊行物である甲5(特開平6-96639号
公報。以下「甲5公報」という。)は,ジョグ機能を備えたシートタイ
プのメンブレンスイッチに関するもので,別紙刊行物図面1の図面が記
載されているところ,(a)ジョグエリアは,リング状で,メンブレン
スイッチ上にリング状に近接して配置された12個の小型可動電極(タ
ッチセンサー)C1ないしC6,C9ないしC14からなり,この12
個の可動電極は,ユーザーの指でなぞるリング状のジョグエリアの裏面
に配置され,ユーザーがこのリング状の領域(リング状のジョグエリ
ア)に沿って指でなぞるとその動きが読み取られ,例えば,指をなぞる
早さによって,早送り,巻戻し等のスピードを変えた操作などを行うこ
とができる,(b)ユーザーは,停止,スキップ/早送り,休止/再
生,又は,スキップ/巻戻しのために,12時,3時,6時又は9時の
方向という4つの異なる領域でリング状の領域上における押下ができる,
(c)圧潰力が可動電極の一つにかけられ,底部の金属のメン
ブレンスイッチと電気的に接触することによって情報の入力が可能にな
るというものである。
(イ)そうすると,甲5公報には,次の発明(以下「甲5発明」とい
う。)が記載されている。
a1指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有する連続した
リング状に予め特定された軌跡上に連続して可動電極C1ないしC
6,C9ないしC14及び固定電極(タッチ位置検出センサー)が
配置され,前記軌跡に沿って移動する接触点(指)を一次元座標上
の位置データとして検出するジョグエリア7又はリング状領域20
と,
b1可動電極及び固定電極(接点)のオン又はオフを行う複数のキー
21ないし24(プッシュスイッチ手段)とを有し,
c1’リング状の領域20に沿って複数のキー21ないし24の接点が
配置され,タッチ位置を検出する機能とは別個にプッシュスイッチ
機能を有するが,タッチ位置検出センサーとプッシュスイッチ手段
とは同じ部品によって兼ね備えられており,プッシュスイッチ手段
の接点のオン又はオフの状態はタッチ位置を検知しうる接触圧力と
同じ力で保持されうるものであり,かつ
d1’リング状の領域20上におけるタッチ位置を検知しうる接触圧力
と同じ接触圧力での押下により,キー21ないし24の可動電極及
び固定電極(接点)のオン又はオフが行われうることを特徴とする
g14つのキー21ないし24を有する装置
e1接触操作型入力装置
f1VTR及びCDプレーヤーなどのリモコン
イ本件各発明との対比
(ア)構成要件Aと構成a1
構成a1のジョグエリア7又はリング状領域20は,可撓性シート2
の表面のキーを押す指の移動方向及び移動速度を各電極がオンになる順
序及び単位時間中にオンになったキー数に基づいて認識し,例えば早送
り,巻き戻し等のスピードを変えた操作などを行い,軌跡に沿って移動
する接触点(指)を一次元座標上の位置データとして検出するものであ
るから,「タッチ位置検知手段」に相当する。
そうであるから,構成要件Aと構成a1は同一である。
(イ)構成要件Bと構成b1
構成要件Bと構成b1は同一である。
(ウ)構成要件Cと構成c1’
構成c1’において,リング状の領域20に沿ってプッシュスイッチ
手段である複数のキー21ないし24が配置され,タッチ位置を検出す
る機能(「連続キーオン操作」機能すなわちジョグ機能)とは別個のプ
ッシュスイッチ機能(「単独キーオン操作」機能)を有するが,両機能
は同じ電極C1ないしC6,C9ないしC14が兼ね備えているため,
タッチ位置検出センサーとプッシュスイッチ手段とは,部品としては別
個のものではなく,また,プッシュスイッチ手段の接点のオン又はオフ
の状態は,タッチ位置を検知しうる接触圧力と同じ力で保持され得るも
のである。
そうであるから,構成c1’は,構成要件Cのうち「前記タッチ位置
検出手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌
跡に沿って,前記プッシュスイッチ手段の接点が…配置されている」点
で同一であるが,前記プッシュスイッチ手段の接点が「前記連続して配
置されるタッチ位置検出センサーとは別個に」配置されている点及び
「前記接点のオンまたはオフの状態が前記タッチ位置検出センサーが検
知しうる接触圧力よりも大きな力で保持されて」いる点で異なる。
(エ)構成要件Dと構成d1’
構成d1’において,リング状の領域20上における押下により,プ
ッシュスイッチ手段である複数のキー21ないし24の可動電極及び固
定電極がオン又はオフされるが,この押下するときの接触圧力は,タッ
チ位置を検知しうる接触圧力と同じである。
そうであるから,構成d1’は,構成要件Dのうち「押下により,前
記プッシュスイッチ手段の接点のオンまたはオフが行われる」点で同一
であるが,前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが
連続して配置される前記軌道上における「前記タッチ位置検出センサー
に対する接触圧力よりも大きな接触圧力での」押下である点で異なる。
(オ)構成要件Gと構成g1
構成要件Gと構成g1は同一である。
(カ)構成要件Eと構成e1
構成要件Eと構成e1は同一である。
(キ)構成要件Fと構成f1
構成f1のVTR及びCDプレーヤー等のリモコンは,構成要件Fの
「小型携帯装置」に相当するから,構成要件Fはf1と同一である。
ウ相違点
本件各発明と甲5発明の相違点は次の2点である。
(ア)相違点1
甲5発明は,タッチ位置検出センサーとプッシュスイッチ手段とが同
じ電極C1ないしC6,C9ないしC14によって構成されていて,部
品として別個のものではないのに対し,本件各発明ではプッシュスイッ
チ手段の接点がタッチ位置検出センサーとは別個に配置されている点
(イ)相違点2
甲5発明は,プッシュスイッチ手段の接点のオン又はオフの状態がタ
ッチ位置を検知しうる接触圧力と同じ力で保持されうるのに対し,本件
各発明では接点のオン又はオフの状態がタッチ位置を検知しうる接触圧
力と同じ力で保持され得る点
エ相違点の検討
(ア)相違点1について
甲5発明のメンブレンスイッチは,タッチ位置検出センサーとプッシ
ュスイッチ手段との双方を構成するものであるが,タッチ位置を検出す
る機能とプッシュスイッチ機能とは,それぞれ別個に区別されているか
ら,例えば特開平8-115158号公報(甲6。以下「甲6公報」と
いう。別紙刊行物図面2参照)の【図7】や特開平5-189110号
公報(甲39。以下「甲39公報」という。別紙刊行物図面10参照)
の【図4】に記載されているように,これらを別個の部品により構成す
ることは,当業者にとって設計事項に過ぎない。
(イ)相違点2について
タッチ位置検出センサーとプッシュスイッチ手段の両部品を別個に重
層的に配置する場合に,下部のプッシュスイッチ手段の接点のオン又は
オフの状態をタッチ位置検出センサーが検知しうる接触圧力よりも大き
な力で保持することは,当業者にとって常識の範疇に含まれる。また,
プッシュスイッチ手段を別個の部品としてタッチ位置検出センサーの下
に配置すれば,ユーザーがかかる装置のプッシュスイッチ手段を押す場
合,必然的にタッチ位置検出センサーを操作するときよりも強い力で押
下するから,相違点1が解消されれば相違点2も同時に解消される。
オしたがって,相違点1及び2は,当業者が通常なし得る設計事項に過ぎ
ず,相違点2は,タッチ位置検出センサーとプッシュスイッチ手段とを別
個の部材により構成する以上,必然的に導かれるものであるから,甲6公
報や甲39公報などの記載に基づいて,甲5発明の構成を設計変更して本
件各発明の構成を得ることは,当業者であれば容易であった。
(被告)
ア甲5発明と本件各発明との対比
(ア)構成要件A
甲5発明は,テレビ等のリモコンに関するものであるが,甲5公報に
よると,ジョグエリア7には,12個の独立したキーK1ないしK12
が離間して不連続に配置され(【図2】,【図3】),これらのキー位
置に対応させて,可動電極及び固定電極が設けられて,キーを指で押下
すると可動電極が固定電極に接触してオンとなり,そのキー位置を検出
するように構成されている(段落【0008】)から,可動電極及び固
定電極は,指が触れた位置を検出する「タッチ位置検出センサー」では
なく,押されたキーの位置を検出するプッシュスイッチに過ぎない。ま
た,甲5発明のジョグ機能は,プッシュスイッチたる各キーK1ないし
K12を連続的に順次押すというジョグ操作をしたとき,その「オンに
なった順序」と「単位時間内にオンになったキー数」に基づいて,「移
動方向」及び「移動速度」に対応する「コード」を出力するものであり
(段落【0009】,【0028】,【0032】,【0039】),
ここでの「移動方向」は,早送りか巻き戻しかを決定する「右回し」か
「左回し」かの情報であり,「移動速度」は早送りスピードや巻き戻し
スピードを決定する「低速」か「高速」かの情報であるから,ジョグ機
能が出力するデータは,単にある時間内に押下されたキーの組合せに基
づく「コード」であって,いずれも「一次元座標上の位置データ」に相
当しない。
そうであるから,甲5発明は,構成要件Aを開示していない。
(イ)構成要件C及びD
甲5発明のジョグエリアは,タッチ位置検知手段に相当しないから,
甲5発明は,構成要件C及びDに該当する構成も全く存在しない。
イ相違点
原告は,甲5発明として,第1の実施例と第2の実施例とを組み合わせ
て1つの発明を想定するが,第2の実施例には「リング状の領域20」と
のみ記載され,これが第1の実施例の「ジョグキーエリア7」に相当する
旨の記載や「連続キーオン操作」及び「単独キーオン操作」の定義やそれ
らの操作がどのような課題を解決し,どのような構成を持って作用,効果
を奏するものであるのかの記載もないのに拡大解釈ないし推測によって引
用発明を導いているのであって,原告の想定する引用発明は,それ自体妥
当ではない。
このように,原告が主張する甲5発明の内容はそもそも不適当であるが,
仮にそのような引用発明を特定したとしても,本件各発明と対比すると,
少なくとも次の6つの相違点がある。
(ア)相違点①
甲5発明は,各キーの間隔が離間され,不連続であるから,予め特定
された軌跡上に「連続して」タッチ位置検出センサーが配置されている
とはいえない点
(イ)相違点②
甲5発明は,「移動方向」及び「移動速度」に対応する「コード」を
出力しているのであって,「軌跡に沿って移動する接触点を一次元座標
上の位置データとして検出」していない点
(ウ)相違点③
甲5発明は,プッシュスイッチ手段の接点が,連続して配置されるタ
ッチ位置検出手段とは「別個に」配置されていない点
(エ)相違点④
甲5発明は,接点のオン又はオフの状態が,タッチ位置検出センサー
が検知しうる接触圧力よりも大きな力で保持されていない点
(オ)相違点⑤
甲5発明は,タッチ位置検出センサーに対する接触圧力よりも大きな
接触圧力での押下により,プッシュスイッチ手段の接点のオン又はオフ
が行われていない点
(カ)相違点⑥
本件各発明は,接触点を検知しうる「接触操作型入力装置」であるの
に対し,甲5発明は,主として入力の切り換えを目的とする「メンブレ
ンスイッチ」である点
ウ相違点③(原告主張の相違点1)の検討
(ア)甲5発明は,キーのオンオフを行うリモートコントロールスイッチ
に関するものであり,開示されているのはスイッチ手段のみであるから,
本件各発明のセンサーのように連続して配置されるタッチ位置検知手段
に関する記載はなく,また,当該センサーとは「別個に」プッシュスイ
ッチを配設する構成の記載もないのであって,甲5発明に「タッチ位置
検知手段を一次元の連続したリング状に配置して,単に1つの指のみの
動作により複数の操作を行うこと」に着目して,1つの部品で複数の操
作ができるという,本件各発明の特徴点についての示唆はない。また,
甲5発明は,複雑な機械的な構造を排することでスイッチの薄型化を目
的とするものであるから,本件各発明のように,タッチ位置検出センサ
ーを検出しうる接触圧力よりも大きな力で保持されるプッシュスイッチ
をタッチ位置検知手段とは「別個に」配設する構成を採用することに,
明らかな阻害要因がある。
(イ)甲6公報には,次のとおり,本件各発明に相当する「タッチ位置検
出センサー」が記載されておらず,「プッシュスイッチ手段」を「タッ
チ位置検出センサー」と別個に配置することについての記載や示唆はな
いから,これを適用しても本件各発明に想到しない。すなわち,甲6公
報の【図7】では,4分割された電極面31ないし34が相互に電気的
に絶縁されて配置されているに過ぎず,本件各発明のように「連続し
て」配置されていないし,甲6公報は,ディスプレイ上のカーソルを移
動させるためのXY座標を入力するポインティングデバイスが記載され
ているのであって(段落【0039】等),軌跡に相当する構成の開示
もないから,「予め特定された軌跡」が想定されていないし,そのよう
な軌跡を「連続したリング状」に構成することで,指先でなぞるコース
を特定するという意図もない。
(ウ)甲39公報では,タッチパネルとプッシュスイッチ手段とを別個に
構成することについて記載や示唆は一切ない。甲39公報のタッチパネ
ルは,4行×5列のマトリクス状に配列された20個のデータの中から
所望の1つのデータを選択,確定するためのものである(段落【002
2】,【0023】)から,指でなぞって接触点を移動,変移するため
のコースとしての「軌跡」に相当する構成が存在せず,【図4】に記載
されている「接触スイッチ部」は,20箇所の接触領域aないしtのう
ち,いずれの接触領域がオンされたかということを検出するオンオフス
イッチであって(段落【0019】),押圧感度の異なる2種類のオン
オフスイッチが重ねられているだけであり,「タッチ位置検出センサ
ー」に相当するものがないのである。
(7)争点2-7(本件各発明は当業者が甲6に記載された発明に基づいて容
易に発明をすることができたか否か)について
(原告)
ア甲6に記載された発明
(ア)原出願前に頒布された刊行物である甲6公報は,4つの扇形の電極
面が円形状に配置された,円形状の感触操作エリアを有する小型の接触
操作型入力装置に関するもので,別紙刊行物図面2の図面が記載されて
いるところ,(a)この入力装置は,感触操作エリアの表面の指の動き
によって作動し,典型的にはカーソルを動かすことによって用いられ,
感触操作エリアは,リング状の傾斜面によって囲まれ,この傾斜面は指
の手繰り操作を容易にし,感触操作エリアからの指の滑り落ちを防ぐよ
うになっている,(b)感触操作エリアの下にプッシュスイッチが配置
された実施例として,プッシュスイッチ5は,やや外周に近い位置に設
けられ,感触操作エリアは,ばねの上部に位置し,ばねの復帰方向の力
よりも大きな力で押下された場合,プッシュスイッチ5のオン又はオフ
の状態が切り替わるというものであり,甲6公報には,円形状のタッチ
センサーや,リング状の(楕円)軌跡とリング状の指の動きに関する記
載がある。
(イ)そうすると,甲6公報には,次の発明(以下「甲6発明」とい
う。)が記載されている。
a2指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有する連続した
リング状である軌跡上に連続して電極面が配置され,前記軌跡に沿
って移動する接触点を一次元座標上の位置データとして検出する感
触操作エリア,又は,
a2’指先でなぞるように(円周に沿って等)操作されるための所定の
幅を有する連続した円形状の軌跡上に連続して電極面が配置され,
前記軌跡に沿って移動する接触点を一次元座標上の位置データとし
て検出する感触操作エリアと,
b2接点のオン又はオフを行うスイッチとを有し,
c2感触操作エリアにおける電極面が連続して配置される軌跡に沿っ
て,スイッチが配置され,かつ
d2感触操作エリアにおける電極面が連続して配置される軌跡上にお
ける押下により,スイッチの接点のオン又はオフが行われることを
特徴とする
g2’1つのスイッチ
e2接触操作型入力装置
f2携帯端末
イ本件各発明との対比
(ア)構成要件Aと構成a2又はa2’
構成a2又はa2’の電極面31ないし34は「タッチ位置検出セン
サー」に相当し,これらは円周上に配列された一次元センサーで,移動
する接触点を一次元座標上の位置データとして検出することができるか
ら,構成a2又はa2’の感触操作エリアは「タッチ位置検知手段」に
相当する。
そうであるから,構成要件Aと構成a2は同一である。なお,仮に甲
6発明に「リング状に予め特定された軌跡」が明示されていないとすれ
ば,この点で構成a2’は構成要件Aと相違する。
(イ)構成要件Bと構成b2
構成b2のスイッチは「プッシュスイッチ手段」に相当するから,構
成要件Bは構成b2と同一である。
(ウ)構成要件Cと構成c2
甲6公報には,電極面の下部にスイッチ5が別個に設けられて,軌跡
に沿ってスイッチ5の接点が,電極面31ないし34とは別個に配置さ
れているとともに,接点のオン又はオフの状態が,電極面31ないし3
4が検知しうる接触圧力よりも大きな力で保持された構成が開示されて
いる。
そうであるから,構成c2は構成要件Cと同一である。
(エ)構成要件Dと構成d2
甲6発明のスイッチ5は,ばね6の力で復帰する方向に付勢されてお
り,これは,電極板3のどこを押したとしてもオン又はオフするように
構成されているから(甲6公報の段落【0028】,【0029】),
電極板3上における軌跡がどのような形状であったとしても,当該軌跡
上における接触圧力よりも大きな圧力での押下によりスイッチ5の接点
のオン又はオフが行われる。
そうであるから,構成要件Dは構成d2と同一である。
(オ)構成要件Gと構成g2’
構成g2’は,1つのスイッチであるのに対し,構成要件Gのプッシ
ュスイッチ手段は4つであるから,構成g2’は構成要件Gと異なる。
(カ)構成要件Eと構成e2
構成e2は構成要件Eと同一である。
(キ)構成要件Fと構成f2
構成f2の携帯端末は構成要件Fの小型携帯装置に相当するから,構
成要件Fと構成f2は同一である。
ウ相違点
本件各発明と甲6発明の相違点は次の2点である。
(ア)相違点1
甲6発明に「リング状に予め特定された軌跡」が明記されていない
(構成a2’)とすれば,本件各発明ではタッチ位置検出センサーがリ
ング状に予め特定された軌跡上に配置されている点
(イ)相違点2
甲6発明は,スイッチが1つであるのに対し,本件発明2は,プッシ
ュスイッチ手段が4つである点
エ相違点の検討
(ア)相違点1について
甲6公報の第5実施例【図9】や特開平7-261899号公報(甲
7。以下「甲7公報」という。別紙刊行物図面3参照)の【図7】(a)
において,リング状に予め特定された軌跡上に配置されたタッチセンサ
ーが配置され,特開平5-325723号公報(甲36。以下「甲36
公報」という。別紙刊行物図面9参照)の段落【0012】,【001
7】,【図2】等には,タッチセンサーであるスイッチ部SW1ないし
4が楕円状(リング状)に連続して配置され,その表面を指でリング状
に摺動可能な構成が記載されている。また,特開平6-111695号
公報(甲35。以下「甲35公報」という。別紙刊行物図面8参照)の
【図6】,【図17】等には,静電容量型の複数のセンサーを円周上に
配置した構成,すなわち,センサーを「リング状に予め特定された軌
跡」上に配置した構成が開示されている。
甲6公報のセンサーは,既に円形状に配置され,指を円周に沿ってリ
ング状に操作できるのであるから,これを,例えばアナログ量の入力あ
るいは連続した指による操作等を行うために,「リング状に予め特定さ
れた軌跡」上に配置し,それにより指をリング状に操作できるようにす
ることは,当業者が容易になし得るものである。
(イ)相違点2について
例えば,米国特許公報第5367199号(甲16。以下「甲16公
報」という。別紙刊行物図面4参照)には複数の押圧起動式スイッチ機
構PSを設けてもよいことが記載され(8欄52ないし58行),特開
平9-251347号公報(甲31。以下「甲31公報」という。別紙
刊行物図面6参照)の【図5】(b)には,タッチセンサーの下に2つの
スイッチを設けた構成が開示されているように,スイッチの個数を更に
増加させることは,当業者が必要に応じて行う設計事項に過ぎない。ま
た,甲5公報の【図7】,特開平10-198507号公報(甲30。
以下「甲30公報」という。別紙刊行物図面5参照)の【図2】及び特
開昭61-117619号公報(甲32。以下「甲32公報」という。
別紙刊行物図面7参照)の【図1】に記載されているように,タッチパ
ネルの下部に4つのプッシュスイッチ手段を設けることは,原出願当時
において周知技術であった。
そうであるから,甲6発明の押圧開閉式スイッチ5をリング状の感触
操作エリア10の軌跡に沿って配置する際に,押圧開閉式スイッチ5の
個数を4個にすることに格別の困難はなく,また,このような限定は,
何ら格別な作用効果を奏するものでもない。
オしたがって,相違点1及び2は周知慣用技術に過ぎないから,これを甲
6発明の構成に適用して本件各発明の構成に想到することは,当業者にと
って容易であった。
(被告)
ア甲6発明と本件各発明との対比
(ア)構成要件A
甲6公報によると,発明のリング状の突片部21は,円形の電極板3
を内蔵する縁枠部材2に一体に具備され,感触操作エリア10の領域を
外枠で制限し,円形状に形作っているものに過ぎず(段落【0018】,
【0019】),タッチ位置検出センサーを配置するリング状の軌跡を
特定していないし,感触操作エリアは,二次元座標データを検出するた
めのエリアであるから,甲6公報には,「指先でなぞるように操作され
るための所定の幅を有する連続したリング状に予め特定された軌跡上
に」タッチ位置検出センサーが配置されていない。また,感触操作エリ
ア10を構成する電極面31ないし34の相互間には電気絶縁用の隙間
35ないし38が確保され,各電極面は4つに分割されて相互に電気的
に絶縁され,上下左右方向の指示に用いるよう構成されているから,所
定の軌跡上に「連続して」タッチ位置検出センサーが配置されていない。
さらに,電極面は,電極面31,33がX軸方向の座標に対応し,電極
面32,34がY軸の座標に対応し,各電極面の中心部が原点Oに対応
するもので(段落【0008】,【0023】,【0024】,【00
38】,【図2】),電極面が検出したX座標及びY座標に基づいて,
ディスプレイ上のカーソルをXY方向に移動させる感触式座標入力装置
であり,「一次元座標上の位置データ」を検出するものではない。
そうであるから,甲6発明は,構成要件Aを開示していない。
(イ)構成要件C及びD
甲6発明には構成要件Aが開示されていないから,「前記軌跡に沿っ
て」プッシュスイッチ手段の接点が配置されるという構成要件Cの開示
はなく,「前記軌跡上における」押下によりプッシュスイッチ手段の接
点のオン又はオフが行われるという構成要件Dの開示もない。
イ相違点の検討
(ア)原告主張の相違点1について
甲6発明は,X-Y軸方向における二次元座標の検出を前提として,
「感触操作エリアとは別個にプッシュスイッチを配設し,プッシュスイ
ッチは感触操作エリアが検知しうる接触圧力よりも大きな力で保持され
る」という構成を採用したものであり,本件各発明のように,「タッチ
位置検知手段を一次元の連続したリング状に配置して,単に1つの指の
みの動作により複数の操作を行うこと」に着目して上記構成を採用する
という発想についての示唆はない。
甲35公報のセンサーはジョグダイヤル状スイッチの薄型化を目的と
するものであるから,甲6発明の上記構成を採ることは,その目的に反
し,阻害要因がある。仮に甲35公報のタッチ位置検知手段を甲6発明
に適用することを想定したとしても,甲35公報には単に回転方向と回
転量を検出するセンサーが開示されているに過ぎず,また,甲36公報
のジョグダイヤルスイッチは,単に回転方向と摺動速度を検出するスイ
ッチを開示するに過ぎないから,甲6発明との組合せを論理付けるX-
Y軸の二次元の位置情報の取扱いに関する示唆や本件各発明のような一
次元座標上の位置データを検出するセンサーとは別個にプッシュスイッ
チを配設する構成に関する示唆はなく,本件各発明の構成に想到するこ
とは困難である。
また,甲7公報の文字選択エリアは,X-Y軸方向の二次元座標を検
出するものであるから,仮にこれを甲6発明に適用することを想定して
も,本件各発明の一次元座標上の位置データとして検出する構成に想到
することは困難である。
さらに,甲16公報には,ゲーム機に使用されるディスプレイに表示
されているオブジェクトの移動方向を指示する指示キーが記載されてい
るが,これは,ディスプレイに表示されるオブジェクトを上下左右や斜
め方向といった移動方向を指示するゲーム機のプッシュボタンの代用物
であり,一次元座標上の位置データを検出するものではないから,甲1
6公報の上記指示キーを甲6発明に適用することを想定したところで,
本件各発明の構成に想到することは困難である。
(イ)原告主張の相違点2について
甲16公報及び甲31公報に,プッシュスイッチ手段を4つ設けるこ
との記載はない。また,本件発明2の4つのプッシュスイッチ手段は,
それぞれが独立して機能し得るものであって,単に接点が4つあること
を規定したものではないが,甲30公報及び甲32公報に記載された4
つのスイッチは,いずれもタッチパッドのどの位置を押しても確実にス
イッチングできるようにした単なる4つの接点であって,機能上1個の
プッシュスイッチ手段であるし,甲5公報のプッシュスイッチは,タッ
チパネルの下部に設けられたものではなく,単にリング状の領域20に
4つのキー21ないし24を割り当てたメンブレンスイッチであって,
甲6発明の押圧開閉式スイッチのような機械式のものとは異なる上,甲
6発明の感触操作エリアとの兼ね合い上,4個のメンブレンスイッチと
の使い分けも不可能である。
そうであるから,スイッチの個数を増加させることは,当業者の設計
事項であるということはできない。
(8)争点2-8(本件各発明は当業者が甲7に記載された発明に基づいて容
易に発明をすることができたか否か)について
(原告)
ア甲7に記載された発明
(ア)原出願前に頒布された刊行物である甲7公報は,タッチパネルを用
いた文字入力装置に関するもので,別紙刊行物図面3の図面が記載され
ているところ,(a)第1の実施例(【図1】)では,長方形の静電方
式のタッチパネルの文字選択エリア9において区画部14が5行11列
のマトリックス上に配置されているが(【図5】),それとは別の実施
例として,【図7】(a)にリング状の文字選択エリア16(時計回り,
反時計回りの双方向に動く指をなぞるようにして用いられる。)におい
て16個の区画部15が円周方向に配列形成されている,(b)接触検
知構造を有するタッチパネルは,X軸とY軸の二次元での動きのみなら
ず,三次元の指の動きや押下の検知ができ,この際,入力する文字は,
文字選択エリアを指でなぞって選択され,押下する圧力を関知するタッ
チパネルを使用することによって入力が可能となるというものである。
(イ)そうすると,甲7公報には,次の発明(以下「甲7発明」とい
う。)が記載されている。
a3指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有する連続した
リング状に予め特定された軌跡上に連続して静電容量の変化を検出
するセンサーが配置され,前記軌跡に沿って移動する接触点(指)
を一次元座標上の位置データとして検出するリング状の文字選択エ
リア16と
b3押下操作により接点のオン又はオフを行うプッシュスイッチを含
む圧力感知手段とを有し,又は,
b3’オン又はオフを行うプッシュスイッチ手段である圧力感知手段と
を有し,
c3リング状の文字選択エリア16(軌跡)に沿って,文字選択エリ
ア16とは別個に圧力感知手段(プッシュスイッチ手段)が配置さ
れているとともに,圧力感知手段のオン又はオフの状態が,文字選
択エリア16が検知しうる接触圧力よりも大きな力で保持されてお
り,かつ
d3リング状の文字選択エリア16(軌跡)上における文字選択エリ
ア16に対する接触圧力よりも大きな接触圧力での押下により,圧
力感知手段(プッシュスイッチ手段)のオン又はオフが行われるこ
とを特徴とする
g3’個数について限定がない圧力感知手段(プッシュスイッチ)を有
する装置
e3接触操作型入力装置
f3’ATMに応用した例及びマウス,トラックボール,ジョイスティ
ック,携帯可能な液晶ディスプレイなどの小型携帯装置
イ本件各発明との対比
(ア)構成要件Aと構成a3
文字選択エリア16は静電方式のタッチパネルであり,静電式タッチ
パネルはパネル裏面に静電容量の変化を検出するセンサーを備えるデバ
イスであって,センサーは「タッチ位置検出センサー」に,文字選択エ
リア16は「タッチ位置検知手段」に相当する。
そうであるから,構成要件Aと構成a3は同一である。
(イ)構成要件Bと構成b3又はb3’
構成要件Bと構成b3は同一である。構成b3’は,構成要件Bのう
ち「オンまたはオフを行うプッシュスイッチ手段」の点で同一であるが,
「接点の」オン又はオフを行う点で異なる。
(ウ)構成要件Cと構成c3
構成要件Cはc3と同一である。
(エ)構成要件Dと構成d3
構成要件Dはd3と同一である。
(オ)構成要件Gと構成g3’
構成g3’の圧力感知手段は個数については特に限定がないのに対し,
構成要件Gのプッシュスイッチ手段は4つであるから,構成g3’は構
成要件Gと異なる。
(カ)構成要件Eと構成e3
構成要件Eは構成要件e3と同一である。
(キ)構成要件Fと構成f3’
構成f3’は,ATMのディスプレイに応用した例であるのに対し,
構成要件Fは,小型携帯装置であるから,構成f3は構成要件Fと異な
る。
ウ相違点
本件各発明と甲7発明の相違点は次の3点である。
(ア)相違点1
甲7発明は,オン又はオフを行うプッシュスイッチ手段である「圧力
感知手段」について接点の存在が明示されていないのに対し,本件各発
明では「接点」の存在が明示されている点
(イ)相違点2
甲7発明の圧力感知手段の個数は限定されていないのに対し,本件発
明2のプッシュスイッチ手段は4つである点
(ウ)相違点3
甲7発明の接触操作型入力装置が実施例の一つとしてATMへ適用さ
れるのに対し,本件各発明の接触操作型入力装置は小型携帯装置に用い
られる点
エ相違点の検討
(ア)相違点1について
甲6公報には,「接続状態が開状態と閉状態との間で切り換わる押圧
開閉式スイッチ5」のように,タッチパネルの下に「接点のオンまたは
オフを行うスイッチ」を設置することについての記載があり(段落【0
028】,【0029】,【図7】),甲39公報には,タッチパネル
の下に,「押圧スイッチ部288」及び「接点群286」が記載され,
「接点」のオン又はオフが行われるスイッチが明示されているから(段
落【0016】,【0017】,【0022】,【0023】,【図
4】),タッチパネルの下に「接点のオンまたはオフを行うスイッチ」
を設けることは,周知技術に過ぎない。
甲39公報には,タッチ位置検出センサーとプッシュスイッチ手段と
を別個の部品により構成することやZ軸方向の圧力を感知する圧力感知
式タッチパネルと「接点」を有するスイッチを下部に備えたタッチパネ
ルとが代替可能であることが明記されている。
そうであるから,甲7発明の圧力感知式タッチパネルに代えて,「接
点」を有するタッチ位置センサーとプッシュスイッチ手段との組合せに
置き換えることは,当業者にとって容易であった。
(イ)相違点2の検討
甲7公報には圧力感知手段の個数についての限定はないし,そもそも
「プッシュスイッチ手段」の個数は,当業者が必要に応じて適宜設定す
る設計事項に過ぎない。例えばポインターを上下左右に移動させたり,
再生,停止,早送り,巻き戻しなどの操作をしたりするために,圧力感
知手段をリング状の軌跡に沿って4箇所に配置することは,甲5公報に
開示されているように,周知慣用技術であった。なお,甲39公報の段
落【0029】も接触領域の数(すなわち,接点又はプッシュスイッチ
手段の数)を自由に設定することができる旨を記載しており,甲30公
報及び甲32公報も4つのスイッチを開示している。
(ウ)相違点3の検討
甲7公報において,ATM全体の大きさは問題とならず,文字選択エ
リアそのものは小型携帯端末に十分に適用することができる。また,小
型携帯端末の表面にタッチパネル入力装置を敷設することは,慣用技術
であるし,甲7公報は,マウス,トラックボール,ジョイスティック,
携帯可能な液晶ディスプレイなどの小型携帯装置でもあるから,甲7発
明のタッチパネル入力装置を小型携帯装置に適用することは,当業者が
必要に応じて行う設計事項に過ぎない。
オしたがって,相違点1ないし3は周知技術若しくは当業者が通常なし得
る設計事項に過ぎないから,甲6公報や甲39公報などの開示に基づいて,
上記の周知技術や設計変更を甲7公報に記載の構成に適用して本件各発明
の構成に想到することは,当業者であれば容易になし得ることであった。
(被告)
ア甲7発明と本件各発明との対比
(ア)構成要件A
甲7公報の【図7】(a)における文字選択動作は,①指が接触した
区画部15の座標データ(X-Y)を検知し,②座標データ(X-
Y)を監視して,指の移動方向を求め,③メモリにアクセスして「選
択文字ファイル」内の文字配列を参照し,現在の「選択文字」から「移
動方向」に移動した区画部15の数分の文字を順次選択する,というス
テップで行うものである(段落【0041】,【0043】,【005
5】等)。つまり,【図7】(a)において,原始的に検出する座標デー
タは「二次元座標データ」であり,この「二次元座標データ」から順方
向か逆方向か(「移動方向」)だけを求めて,順次,文字列を区画部1
5の数に応じて前後に変更させているに過ぎない。このように,各区画
部15(文字選択エリア16)は,それぞれ独立して対応文字を検出す
るに過ぎず,本件特許発明のように連続的に移動する「接触点の一次元
座標上の位置データを検出する」ものではないから,本件各発明の「タ
ッチ位置検知手段」に該当しない。
そうであるから,甲7発明は,構成要件Aを開示していない。
(イ)構成要件B
甲7公報(段落【0052】)に開示されているのは,「押下する圧
力を感知するタッチパネル」に過ぎず,「接点のオンまたはオフを行う
プッシュスイッチ手段」に当たらない。
(ウ)構成要件C及びD
甲7発明の「文字選択エリア16」は,「移動する接触点を一次元座
標上の位置データとして検出」しないから,本件各発明の「タッチ位置
検知手段」に相当しない。
イ相違点の検討
(ア)原告主張の相違点1について
甲7公報には,タッチパネルとメカニカルな接点オンオフ型プッシュ
スイッチを組み合わせることについて開示も示唆もない。接点オンオフ
型プッシュスイッチは,接点を可動とするために機械的な可動部分を備
えることが必要であるのに対し,甲7公報の圧力感知手段のようなタッ
チセンサーは,一般に電子的な部品のみで構成可能であるから,タッチ
センサーに接点オンオフ型プッシュスイッチを組み合わせると,構造が
複雑になりコストが増大するのであって,そのような組合せは通常想起
されない。仮に【図7】(a)の圧力感知手段に代えて機械的な可動部分
を備える接点オンオフ型プッシュスイッチを採用するとすれば,リング
状の文字選択エリア16をタッチパネル33から切り離し,独立した揺
動可能な部材として構成する必要があるから,それぞれ別個に接触位置
の座標データを検出する手段を設ける必要が生じてしまうのである。
そして,甲6公報の【図7】にはそもそも「タッチ位置検出センサ
ー」に相当するものがないから,「プッシュスイッチ手段」を「タッチ
位置検出センサー」と別個に配置することについての記載や示唆はなく,
「軌跡」も想定されていないから,軌跡上における押下によって「プッ
シュスイッチ手段」の接点をオンオフさせることについての記載や示唆
もない。甲39公報のタッチパネルも指でなぞって接触点を移動,変移
するためのコースとしての軌跡に相当する構成が存在せず,導電膜によ
るスイッチと抵抗膜によるスイッチとの一体化の可能性の記載はあるが
(段落【0026】),圧力感知式タッチパネルとタッチパネルとの代
替可能性についての記載や示唆はない。そうであるから,甲6公報や甲
39公報を挙げて,タッチパネルの下に「接点のオンまたはオフを行う
スイッチ」を設けることが周知技術であるということはできない。
(イ)原告主張の相違点3について
甲7公報のタッチパネル入力装置は,ATMのような大型据置型装置
の入力手段としての用途に好適なものであって(段落【0027】等),
年寄りや弱視者にも使いやすい入力装置の提供を課題とするものである
から(段落【0001】,【0007】,【0009】,【0024】
等),文字選択エリアを小さくすることには限界があり,甲7公報に接
した当業者がこの目的を無視して小型携帯装置を想到することはあり得
ない。
(9)争点2-9(本件各発明は当業者が甲31に記載された発明に基づいて
容易に発明をすることができたか否か)について
(原告)
ア甲31に記載された発明
(ア)原出願前に頒布された刊行物である甲31公報は,タッチパネルお
よびプッシュスイッチを有する座標入力装置に関するもので,別紙刊行
物図面6の図面が記載されているところ,(a)これは,2つのボタン
装置とボタン装置の上部に設けられた長方形のタッチパネル部とを有し,
ユーザーは,タッチパネル部の上面に軌跡を描くように触れることによ
って座標入力を行う,(b)タッチパネルは支点56の頂点に位置し,
タッチパネルにおいて軌跡を描くように触れながら強く押し込むことで
ボタン装置55,57が押し下がり,押している力を抜けばボタン装置
はばねの力でもとの状態に戻るというものである。
(イ)そうすると,甲31公報には,次の発明(以下「甲31発明」とい
う。)が記載されている。
a4’指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有する連続した
軌跡上に連続してセンサーが配置され,前記軌跡に沿って移動する
接触点を座標上の位置データとして検出するタッチパネル部と,
b4接点のオン又はオフを行うボタン装置とを有し,
c4タッチパネル部におけるセンサーが連続して配置される軌跡に沿
って,ボタン装置の接点が,連続して配置されるタッチパネル部と
は別個に配置されているとともに,前記接点のオン又はオフの状態
が,前記タッチパネル部が検知しうる接触圧力よりも大きな力で保
持されており,かつ
d4タッチパネル部におけるセンサーが連続して配置される軌跡上に
おけるタッチパネル部に対する接触圧力よりも大きな接触圧力での
押下により,ボタン装置の接点のオン又はオフが行われることを特
徴とする
g4’2つのボタン装置
e4座標入力装置
f4携帯端末
イ本件各発明との対比
(ア)構成要件Aと構成a4’
構成a4’のセンサーは「タッチ位置検出センサー」に,タッチパネ
ル部は「タッチ位置検知手段」に相当するから,構成a4’は,構成要
件Aのうち「指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有する連
続した軌跡上に連続してタッチ位置検出センサーが配置され,前記軌跡
に沿って移動する接触点を座標上の位置データとして検出するタッチ位
置検知手段」の点で同一であるが,「リング状に予め特定された」軌跡
である点及び「一次元座標上の」として検出する点で異なる。
(イ)構成要件Bと構成b4
構成b4のボタン装置は本件各発明の「プッシュスイッチ手段」に相
当するから,構成要件Bは構成b4と同一である。
(ウ)構成要件Cと構成c4
構成要件Cは構成c4と同一である。
(エ)構成要件Dと構成d4
構成要件Dは構成d4と同一である。
(オ)構成要件Gと構成g4’
構成g4’のボタン装置は2つであるのに対し,構成要件Gのプッシ
ュスイッチ手段は4つであるから,構成g4’は構成要件Gと異なる。
(カ)構成要件Eと構成e4
構成e4の座標入力装置は,指を接触させて操作するタッチパネルを
用いたものであるから,構成要件Eは構成e4と同一である。
(キ)構成要件Fと構成f4
甲31発明の座標入力装置は携帯端末に設けられるものであるから,
構成要件Fは構成f4と同一である。
ウ相違点
本件各発明と甲31発明の相違点は次の3点である。
(ア)相違点1
甲31発明のセンサーは長方形状の軌跡上に配置されていて,その軌
跡がリング状に予め特定されているとは明記されていないのに対し,本
件各発明では,タッチ位置検出センサーがリング状に予め特定された軌
跡上に配置されている点
(イ)相違点2
甲31発明のタッチパネル部は軌跡に沿って移動する接触点を二次元
座標上の位置データとして検出するのに対し,本件各発明では,接触点
を一次元座標上の位置データとして検出する点
(ウ)相違点3
甲31発明のボタン装置は2つであるのに対し,本件発明2のプッシ
ュスイッチ手段は4つである点
エ相違点の検討
(ア)相違点1及び2について
センサーが「リング状に予め特定された軌跡」上に配置されているこ
と(相違点1)及びセンサーが移動する接触点を「一次元座標上の位置
データとして検出する」こと(相違点2)は,周知技術に過ぎない。
甲35公報には,静電容量型の複数のセンサーを円周上に配置した構
成が明確に開示され(段落【0058】,【図17】等),センサーを
円周に沿ってなぞることによって,いわゆる指の円運動が可能となるこ
とも示されていて(段落【0070】),センサーを「リング状に予め
特定された軌跡」上に配置した構成が開示されている。複数のセンサー
は,円周上に一列に配置され,これらのセンサーが移動する接触点を
「一次元座標上の位置データとして検出する」ことも明らかであり,連
続したアナログ情報の入力が可能となって,例えばボリュームや選択周
波数のアップダウンを指の円運動により行うことができるのであって
(段落【0060】,【0070】),「アナログ的な情報の入力」も
明確に開示されている。
甲35公報には,他の実施例として,菊花状に配置されたセンサー部
の開示もあり,この表面を指でなぞることにより回転方向及び回転量の
検出が可能となることが示されているが(段落【0020】,【002
1】,【図6】),このセンサーも「リング状に予め特定された軌跡」
状に配置された構成を有し,移動する接触点を「一次元座標上の位置デ
ータとして検出」するものである。
そして,甲35公報には,センサー部31A,31B,31C…を二
次元のマトリクス状に配置したり【図19】,一次元のリング状の軌跡
上に配置したりする【図17】等,用途に応じてセンサーの配列を適宜
変更し得ることが示されている(段落【0058】,【0062】)ほ
か,2列(二次元)の矩形のセンサー部31の配列(【図21】)を,
一次元の円弧状の配列(【図22】)に変更し得ることも示されており
(段落【0065】,【0066】),X-Y座標を検出可能な二次元
センサーを用途に応じて直線,曲線又はリング状をなす一次元のセンサ
ーに容易に変更し得ることが示されている。
そうであるから,甲31発明において,二次元の矩形のセンサーであ
るタッチパネル部52を,甲35公報の【図6】,【図17】,【図2
2】に示すような一次元のリング状,菊花状,円弧状等の形状に変更し,
移動する接触点を一次元座標上の位置データとして検出することは,当
業者であれば通常なし得る設計事項に過ぎない。
また,甲6公報の【図9】や甲7公報の【図7】(a)においても,
「リング状に予め特定された軌跡」状に配置されたタッチセンサーが開
示され,甲36公報にもタッチセンサーであるスイッチ部SW1ないし
4が楕円状(リング状)に連続して配置され,その表面を指でリング状
に摺動可能な構成が記載されているが(【0012】,【0017】,
【図2】等),これらのタッチセンサーは,いずれも一次元に配列され,
移動する接触点を「一次元座標上の位置データとして検出する」もので
あるところ,これらの先行技術からも明らかなように,センサーを「リ
ング状に予め特定された軌跡」上に配置するとともに,移動する接触点
を「一次元座標上の位置データとして検出する」ことは,周知技術に過
ぎない。
(イ)相違点3について
ボタン装置の個数を更に増加させることは,当業者が必要に応じて行
う設計事項に過ぎないし,甲5公報,甲30公報,甲32公報及び甲3
6公報が4つのスイッチの使用を開示しているように,周知慣用技術で
ある。
オしたがって,相違点1ないし3は,周知技術若しくは当業者が通常なし
得る設計技術に過ぎず,本件各発明による技術的効果も従来技術の技術的
効果に過ぎないから,これらの周知技術若しくは設計変更を甲31発明の
構成に適用して本件各発明の構成に想到することは,当業者であれば容易
になし得ることであった。
(被告)
ア甲31発明と本件各発明との対比
(ア)構成要件A
甲31公報の【図5】(a)のタッチパネル部52は,ディスプレイ上
のマウスポインタ等の座標入力に用いられるポインティングデバイスで
あって,「軌跡59」はポインティングデバイス上でポインターを移動
させるために指を移動した跡のことであって,自由自在にどのような形
にもなり得るもので,いわば指を移動させるという「人の行為の形跡」
にほかならず,ある形状に特定されることはあり得ない。これに対して,
構成要件Aの「軌跡」は,指をなぞって接触点を移動,変移するための
コース(軌道)を意味し,使用者が指でなぞって操作するためのコース
として「所定の幅を有する連続したリング状に予め特定され」て接触操
作型入力装置上に設けられているものである。このように,甲31発明
には,構成要件Aの「予め特定された軌跡」そのものが存在せず,その
「軌跡」が「所定の幅を有する連続したリング状」に構成されてもいな
いのである。
(イ)構成要件C及びD
甲31公報の軌跡59は,「指でなぞった後の形跡」であって,本件
各発明のような「予め特定された軌跡」とは全く異なる上,接触点がタ
ッチパネル部52上を制限されることなく自由に動き回るものであって,
リング状の軌跡に沿って制限されることはなく,プッシュスイッチ手段
の接点が「前記軌跡に沿って」配置されることはないし,プッシュスイ
ッチ手段が「前記軌跡上において」押下されることもない。
そうであるから,甲31発明は,構成要件C及びDを開示していない。
イ原告主張の相違点1及び2の検討
(ア)甲31公報のタッチパネル部52は,ディスプレイ上のX-Y座標
入力に用いられるポインティングデバイスであるから,その機能を果た
すためには,タッチパネル部52内を自由に動き回る接触点は,二次元
座標として検出されなければならず,これを仮に一次元座標上の位置デ
ータとして検出するように変更してしまうと,ポインティングデバイス
としての機能を失い,目的を達成できないから,甲31公報では,接触
点を「一次元座標上の位置データとして」検出することは想定していな
い。むしろ一次元座標を検出する構成を採用することは,阻害要因とな
る。甲35公報では,メカニカルなジョグダイヤルの欠点,すなわち部
品点数の増加や薄型化の困難性の問題を解決するために,可動部材に代
えてセンサーを採用したものであるから,可動部分を有することを特徴
とする甲31発明に甲35公報に記載された発明を適用することは,甲
35公報に記載された発明の目的に反し,この点においても組合せに阻
害要因がある。
(イ)甲31公報のタッチパネル部52は,矩形状のディスプレイに対応
させて形成された矩形状であって,その内を自由に動き回る接触点を二
次元座標として検出するポインティングデバイスであるから,タッチパ
ネル部52をリング状に変形させてしまうと使い勝手が悪く,構造や制
御処理が複雑になってしまうため,リング状にするメリットがないので
あって,甲31発明を構成要件Aのように構成することはあり得ない。
(ウ)甲35公報の【図17】,【図19】,【図21】,【図22】は,
複数のセンサーが離間して配置され,各センサー部にはそれぞれチュー
ナ,VTR等の異なる「選択モード」が選択できるように独立した機能
が備えられているのであって(段落【0058】),甲35公報の各セ
ンサーは,構造上,それぞれ別個独立のスイッチであり,構成要件Aの
ような軌跡上に連続して配置されたセンサーに該当しない上,ジョグダ
イヤルスイッチであって,甲31発明のように,二次元座標データを検
出する目的も課題も備えていない。
甲6公報の【図9】は,トラックボールの操作を実現するために,電
極3の中心部を開口させて,そこに球体7を埋め込んだポインティング
デバイスであり(段落【0034】ないし【0037】),感触操作エ
リア10は,球体7を囲むようにして4分割された電極面31ないし3
4が配置されているため,一見,リング状に配置されているように見え
るが,実際には,相互に電気的に絶縁され,かつ4分割された電極面3
1ないし34が球体7の周りに配置されているに過ぎず,本件各発明の
ような「予め特定された軌跡」が想定されているのではなく,しかもそ
のような軌跡を連続したリング状に構成することにより指先でなぞるコ
ースを特定するという意図もない。電極面31ないし34は,上下左右
方向の指示に用いるよう構成されており,「連続して」は位置されてお
らず,各電極面はそれぞれX-Y軸方向の二次元座標を検出するもので
あって,一次元座標上の位置データを検出するものではない。したがっ
て,甲6発明は,上記周知技術として適用できない。
また,甲7公報の【図7】(a)の文字選択エリア16は,区画部15
を円周方向に配列したリング状の文字選択エリアであり,一見,センサ
ーがリング状に配置されているように見えるが,実際は,単に複数の区
画部15がリング状に配置されているに過ぎず,文字選択エリア16が
検出するのは一次元座標上の位置データではなく,入力文字キー10に
表示されている選択文字を基準にして,左右いずれの移動方向であるか
を判別し,各区画部15に対応する文字を順に選択文字ファイルから出
力するものであり,その選択文字ファイルは【図5】(b),(c)に示す
ようにX軸データとY軸データから求められる座標データである(段落
【0041】,【0043】,【0055】等)。すなわち,検出され
るデータは,「移動方向」とX軸データ,Y軸データから求められる
「選択文字ファイルの座標データ」であって,一次元座標上の位置デー
タではない。また,甲31発明は,ディスプレイ上の二次元位置座標を
求めるポインティングデバイスであるのに対し,甲7公報の文字選択エ
リアは文字を選択してディスプレイ上に表示するための技術であるから,
技術分野が異なる。
さらに,甲36公報の各センサーは,構造上,それぞれ別個独立のス
イッチで(段落【0023】),軌跡上に連続して配置されたセンサー
に該当しないし,甲36発明はジョグダイヤルスイッチ装置であって,
甲31発明のように二次元座標を検出する目的も課題もないのであるか
ら,本件各発明の特徴に相当する示唆もない。
(10)争点2-10(本件各発明は当業者が甲39に記載された発明に基づい
て容易に発明をすることができたか否か)について
(原告)
ア甲39に記載された発明
(ア)原出願前に頒布された刊行物である甲39公報は,タッチパネル及
び複数の機械的スイッチを有する入力装置に関するもので,(a)長方
形のタッチパネルの接触部は20の接触領域に分割され,これらの接触
領域は,連続して4行5列のマトリックス上に配置されていて,ユーザ
ーがその接触領域の1つから隣接する接触領域に向けてなぞると,入力
される文字が選ばれる,(b)タッチパネルの下には複数の押圧スイッ
チ部(プッシュスイッチ手段)が設けられ,これは,タッチパネルをな
ぞることによって文字が選ばれた後に,文字を入力するために用いられ
るというものである。
(イ)そうすると,甲39公報には,次の発明(以下「甲39発明」とい
う。)が開示されている。
a5’指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有する連続した
軌跡上に連続してセンサーが配置され,軌跡に沿って移動する接触
点を一次元座標上の位置データとして検出するタッチパネル部と,
b5接点のオン又はオフを行う押圧スイッチ部とを有し,
c5センサーが連続して配置される軌跡に沿って,押圧スイッチ部の
接点がセンサーとは別個に配置されるとともに,センサーが検知し
うる接触圧力よりも大きな力で接点のオン又はオフの状態が保持さ
れており,かつ
d5押圧スイッチ部の上にある軌跡上をセンサーに対する接触圧力よ
りも強く押下することにより,接点のオン又はオフが行われること
を特徴とする
g54つを含む複数のプッシュスイッチ手段を有する装置
e5接触により操作される入力装置
f5小型で携帯可能な入力装置
イ本件各発明との対比
(ア)構成要件Aと構成a5’
構成a5’の「センサー」は「タッチ位置検出センサー」に,タッチ
パネル部は「タッチ位置検知手段」に相当するから,構成a5’は,構
成要件Aのうち「指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有す
る連続した軌跡上に連続してタッチ位置検出センサーが配置され,軌跡
に沿って移動する接触点を一次元座標上の位置データとして検出するタ
ッチ位置検知手段」の点で同一であるが,「リング状に予め特定され
た」軌跡である点で異なる。
(イ)構成要件Bと構成b5
構成b5の押圧スイッチ部は本件各発明の「プッシュスイッチ手段」
に相当するから,構成要件Bはb5と同一である。
(ウ)構成要件Cと構成c5
構成要件Cは構成c5と同一である。
(エ)構成要件Dと構成d5
構成d5の押圧スイッチ部は,タッチパネルの接触領域を「軽く」指
で触れるよりも大きな力で「強く」,すなわち「所定値以上の圧力で」
押下するのであるから,構成要件Dは構成d5と同一である。
(オ)構成要件Gと構成g5
構成g5の複数のプッシュスイッチ手段は,当然に4つを含むから,
構成要件Gは構成g5と同一である。
(カ)構成要件Eと構成e5
構成要件Eは構成e5と同一である。
(キ)構成要件Fと構成f5
構成f5の入力装置は小型で携帯可能なものであるから,構成要件F
は構成f5と同一である。
ウ相違点
本件各発明と甲39発明の相違点は,甲39発明のセンサーが「4行5
列のマトリックス上の長方形状の軌跡」上に配置されているのに対し,本
件各発明ではリング状に予め特定された軌跡上に配置されている点である。
エ相違点の検討
接触領域の配置をリング状にすることは,周知技術に過ぎず,接触領域
の配置をマトリックス状の長方形状からリング状に変更することは,単な
る設計事項に過ぎない。
例えば,甲7公報の第1の実施例【図1】では,長方形の静電方式のタ
ッチパネルの文字選択エリア9において区画部14が,甲39発明のタッ
チパネルの個々の接触領域と同様,5行11列のマトリックス状に配置さ
れているが,それとは別の実施例として,【図7】(a)にリング状の文字
選択エリア16において,16個の区画部15が配列形成されていること
が開示されているから,甲7公報は,接触領域をリング状に配置する場合
と長方形状に配置する場合とが代替可能であることを明示している。また,
甲5公報,甲6公報,甲7公報,甲16公報,甲35公報及び甲36公報
等に示されたセンサーは,いずれもリング状である軌跡上に一次元に配置
されているから,この技術が当業者にとって周知であったことが明らかで
ある。
オしたがって,マトリックス状に配置された接触領域を周知のリング状に
変更,再配置することは,当業者であれば容易になし得ることであった。
(被告)
ア甲39発明と本件各発明との対比
(ア)構成要件A
前記(6)(被告)ウ(ウ)のとおり,甲39公報のタッチパネル28は,
4行×5列のマトリックス状に表示された20個のデータの中から所望
の1つのデータを選択,確定するために用いられるもので,構成要件A
の「軌跡」のように指をなぞって接触点を移動,変移するためのコース
(軌道)は存在せず,「軌跡」上での指の接触位置の変位量に応じた一
次元のデータを扱えるものではない。
また,甲39公報のタッチパネル28はキーボード類似の入力装置で
あるから,タッチパネル28の接触領域aないしtは隣接して設けられ
ているものの,どの領域が選択されているかを明確に区別して検知する
ようになっており,構成要件Aのように軌跡上での指の移動を「連続」
的に検知できるようにはなっていないのであって,「連続してタッチ位
置検出センサーが配置された」にも該当しない。
さらに,甲39発明の入力装置は,指の接触点を「一次元座標上の位
置データ」として検出するものではない。本件各発明の「一次元座標上
の位置データ」は,「軌跡に沿って移動する接触点」の移動量や変位量
等に応じたデータであるが,甲39発明の「パラメータ」は「助変数。
プログラムの起動と同時に指定し,その動作を決定する数値や文字など
のこと」であり,「ピッチ誤差補正量」及び「工具補正量」はそれぞれ
ピッチ誤差や工具に関する補正量を示すデータに過ぎないから,これら
はいずれも「一次元座標上の位置データ」に該当しない。甲39発明の
タッチパネルを構成する各接触領域aないしtは,いずれの接触領域が
オンされたかという通電の有無のみを検知する別個独立のスイッチであ
って,いずれかの接触領域がオンされたとき,当該接触領域に対応付け
て予め入力しておいた「パラメータ」等を入力データとして選択するの
みであるから,「軌跡に沿って移動する接触点」を検出するものではな
い。
なお,甲39公報には,指を接触領域に「触れたまま」移動させる旨
の記載があるが(段落【0022】,【図6】),これは,例えば指を
接触領域GからHへ「触れたまま」移動させても各接触領域のオンオフ
状態(Gがオンからオフへ,Hがオフからオンへ)を順次検知するだけ
であり,接触領域Gから指を離した後にHを押した場合と全く同一の情
報しか得られないもので,「指がなぞっている位置を検知できる」もの
ではない。
(イ)構成要件C及びD
甲39公報のタッチパネルは,本件各発明の「タッチ位置検知手段」
に相当しないから,甲39発明に構成要件C及びDに該当する構成は存
在しない。
(ウ)構成要件G
甲39公報に具体的に開示されているのは接触領域が20個の例のみ
であって,4個の例は記載されていないし,接触領域の数を4個のみと
することは,選択可能なデータが少なくなりすぎて甲39発明の実用性
を著しく欠くから,あり得ない構成である。
(エ)構成要件F
甲39公報の入力装置は,工場内に設置して使用される据置装置で,
小型携帯装置ではないから,甲39公報は,タッチパネル28を小型携
帯装置に用いることを開示していない。
イ原告主張の相違点の検討
甲39公報によると,表示装置27もタッチパネル28も同じマトリッ
クス状であり(【図6】),タッチパネル28は今触れている場所がマト
リックスのいずれのマスに帰属するのかということを表示しているに過ぎ
ず,これをリング型にした場合には,表示装置27もリング状にデータを
配列して表示することになるが,リングの内側部分がデータ表示領域とし
て利用できない死んだスペースになるので,マトリックス状の場合と比べ
てスペースの利用効率が低下する上,マトリックス状ならば指を直線的あ
るいはダイレクトに所望の領域に移動することで所望の入力データを選択
できるのに対し,リング状にすると円周をぐるりと廻らなければならない
という迂遠な操作を強いられ,指が所望の位置を行き過ぎるという誤操作
も生じ得るから,タッチパネル28の形状をリング状にすることによる効
果はなく,逆に操作性が低下してしまうのであって,当業者がそのような
組合せを想到することはない。
また,甲7公報でリング形状が採用されているのは,年寄りや弱視者に
も使いやすい入力装置の提供を課題とするからであるが,こうした特定の
理由なくして文字入力部の形状をリング状にする意味はない。
3争点3(被告が受けた損害の額)について
(被告)
原告各製品の売上高は,原告の平成23年5月26日付け準備書面(24)別紙
1の「Saito」欄の「ロイヤルティ」欄に「5976億円(72億ドル)
[72億2100万円(8700万ドル)]」との記載があることから明らか
なように,5976億円である。計算鑑定の結果は,製品別売上台帳等の取引
別の詳細データを用いておらず,原告が本件訴訟のために作成した資料と会社
法に基づく計算書類数値の整合性を検証したものに過ぎないから,信用するこ
とができない。
そして,特許権の侵害を受けた場合に権利者が収受する損害賠償金は,消費
税の課税対象となるから,損害賠償額の算定の基礎とすべき原告各製品の売上
高は,5976億円に消費税相当額を加えた6274億8000万円となる。
また,本件各発明が原告各製品の商品訴求力の重要な要素であるクリックホ
イールに関する基本的な発明であることに鑑みれば,相当な実施料の額は,売
上高の10%を下らない。
したがって,被告は,原告による本件特許権の侵害により,少なくとも62
7億4800万円の損害を被った(特許法102条3項)。
(原告)
(1)平成18年10月1日から平成25年3月30日までの間の原告各製品
の販売台数は合計●(省略)●台であり,その売上高は合計●(省略)●円
(●(省略)●ドル)である。
本件各発明は,原告各製品の全体に関するものではなく,仮に何らかの改
善をしているとしても,原告各製品の一部品であるクリックホイールに関す
るものに過ぎないが,このように,発明が製品の一部分のみを対象とする場
合や製品売上に部分的に貢献したに過ぎない場合,実施料相当額は,対象特
許がどの部分において実施されているのかを,販売金額が細くできる最小単
位で認定し,その上で,当該特許が当該最小単位の部分(部品)に対してど
の程度関与しているのかを検討することにより,算出されるべきである。
原告はクリックホイールを第三者から購入しているから,実施料相当額は,
原告のクリックホイールの購入価格である●(省略)●円(●(省略)●ド
ル)をベースとすべきであり,実施料率は,類似する特許ライセンス契約に
おける中央値2.65%を超えるべきではない。
したがって,本件特許権に関する実施料相当額は,クリックホイール価格
に上記実施料率及び上記販売台数を乗じた●(省略)●円(●(省略)●ド
ル)を上回らない。
(2)実施料額の算定方法としては,原告各製品の売上高に実施料率を乗じ,
これに更に当該製品の該当部分が製品全体に寄与する割合を考慮して定めた
寄与度を乗じて算定する方法も考えられる。本件における寄与度は,市場が
実際に部品と最終製品とをどのように評価しているのかを示す客観的指標で
ある,原告各製品の価格と比較したクリックホイールの価格の割合を用いる
べきであり,具体的にはクリックホイールの平均購入価格●(省略)●円
(●(省略)●ドル)を原告各製品の平均販売価格1万8922円で除した
●(省略)●%を寄与度とすべきである。
したがって,実施料相当額は,●(省略)●円(●(省略)●ドル)を上
回るものではない。
(3)なお,アップルがライセンス料を一括払いしている同種ライセンス21
件の中から本件と比肩すべき度合いが最も高い9件を対象とした場合,平均
的な一括支払金額は,上記実施料相当額よりも遙かに低い。
第5当裁判所の判断
1争点1(原告各製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否か)について
(1)争点1-1(原告各製品が構成要件Aを充足するか否か)について
ア「指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有する連続したリン
グ状に予め特定された軌跡上にタッチ位置検出センサーが配置されたタッ
チ位置検知手段」であるか否かについて
前記前提事実に証拠(甲13,14,44,92,93,乙21)を総
合すれば,原告各製品のクリックホイールは,別紙原告製品説明書第2の
1の図にあるように,白色等のリング状(ドーナツ状)であり,その軌跡
上に,指でなぞり,メニュー項目や曲目等の表示画面をスクロールさせて
選択したり任意の音量に調節したりするためのタッチセンサーが配置され
ていることが認められ,これによれば,クリックホイールは,「指先でな
ぞるように操作されるための所定の幅を有する連続したリング状に予め特
定された軌跡上にタッチ位置検出センサーが配置されたタッチ位置検知手
段」に当たる構成を有すると認められる。
イ「連続して」タッチ位置検出センサーが配置されているか否かについて
証拠(甲1の1)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本
発明に係る接触型入力装置にあって,主に人体で最も感覚に優れている感
触器,操作器である指先からの軌跡上のアナログ的な変移情報または接点
の移動情報が電子機器へ入力することを可能にさせ,1次元上,2次元上
または3次元上の所定の軌跡上を倣って移動,変移する接触点の位置,変
移値および押圧力を検知することを可能にさせる。そして,この操作部品
により非常に多くの機能の選択を行なったり,例えばボリュームスイッチ
等のスイッチ入力を繊細に行わせたり,さらにはセンサータッチのイベン
ト数により入力を行なうための接触検知スイッチとして使用された場合に
は,イベント入力数を人間の指の感覚でもって自在に調節させ,指を当て
る場所に応じてイベント数を変更させることにより操作性と多機能性を向
上させる。また,このような操作性を発揮する電子機器の構成部品として
該機器の操作部の構造を単純化させ,且つメンテナンス性を向上させる。
そして,単一の操作部品でもって接触操作型電子部品およびプッシュスイ
ッチ夫々の機能を同時に操作することを可能とさせる。さらに,従来のプ
ッシュスイッチ付き回転操作型部品とは異なり,装置自体をスイッチ押下
方向に薄くして形成できるので,装置の中央に配することが可能となり,
片手で持って操作するような装置に組み込んだ場合,両手いずれでも操作
を簡単に行わせる。また,以上の接触検出センサー付きプッシュキーによ
り,単純なキーの押下以外に接触もしくは十分に弱い押圧によりイベント
入力を行わせる。」(段落【0013】),「本発明は以上のように構成
されており,特に指先からの軌跡上のアナログ的な変移情報または接点の
移動情報が電子機器へ確実に入力することができ,1次元上または2次元
上もしくは3次元上の所定の軌跡上を倣って移動,変移する接触点の位置,
変移値,および押圧力を検知することができる。そして,操作性良く薄型
でしかも少ない部品点数で電子機器を構成することができるように1つの
部品で複数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接触操作型電子部品を
提供することができる。」(段落【0014】)との記載があることが認
められ,これによると,本件各発明のタッチ位置検出センサーは,指でこ
れをリング状の軌跡に沿ってなぞることにより,アナログ量の検出が可能
となる機能を果たすことが認められるから,「連続して」タッチ位置検出
センサーが配置されるという構成要件Aの構成は,指の位置変化を連続的
な変化として検出できるようにタッチ位置検出センサーが配置されている
という,機能的な連続性を有する構成を意味するものと解される。
そして,前記ア及び後記ウのとおり,原告各製品のクリックホイールは,
指の位置変化を連続的な位置変化として検出するものであって,こうした
機能的な連続性を有する構成であるから,リング状に予め特定された軌跡
上に「連続して」タッチ位置検出センサーが配置されていると認められる。
ウタッチ位置検出手段が,「前記軌跡に沿って移動する接触点を一次元座
標上の位置データとして検出する」ものであるか否かについて
(ア)証拠(甲1の1)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,
段落【0013】,【0014】に前記イのとおりの記載があるほか,
次の記載があることが認められる。
「【発明が解決しようとする課題】【0007】例えば直線上の線分,
曲線,円弧,球面とラグビーボール状の球面の交わった軌跡,さらには
鳥の足状に交差する線分等の所定の軌跡上を倣って移動,変移する接触
点である例えば指先やペン先等の位置,変移値および押圧力を検知する
ための発明はされていなかった。ところが,今まで開示された公開公報
の中で全てのタッチパネル,タッチパット,タブレット,タッチセンサ
ーに用いられている接触検知センサーを1次元上または2次元上もしく
は3次元上の所定の軌跡上に連続して帯状に配置すれば,この所定の軌
跡を曲線とすれば該曲線を引き延ばして直線上の線分としたときの端点
からの距離が検知できる。要するに指の移動距離および移動時間が検知
できることになる。しかも,使用にあっての用途はタッチパネルやスラ
イドスイッチと異なり,また構造も軌跡上に展開されていることから既
存のものとは異なっている。要するに2次元状に展開された接触検知構
造を1次元に展開し,しかも連続に軌跡上に配置するのである。このた
めに今日現在までの全てのタッチパネル,タッチパット,タブレット,
タッチセンサーについての自然法則を利用した構造および利点の一部を
盛り込むことができる。」
「【0017】タッチ位置検知手段として静電誘導式検知手段(静電
容量タイプ)を使用した構成について説明すれば,これは指等の接触を
検知するためにガラス等の不導体を介して複数個のコンデンサーC1,
C2,C3,・・・を配置し,接触および接近によってこの夫々のコン
デンサーC1,C2,C3,・・・の容量が変化することを検知する
方式である。ここではコンデンサーC1,C2,C3,・・・は連続し
て所定の軌跡の下に連続して配置する。図1に示すように,連続して配
置したコンデンサーC1,C2,C3,・・・に対してパルス発生回路
1より,デコーダとカウンタを内蔵したスキャンドライブ回路2を介し
て順番に電圧をかけることによりCR移相発振回路3より発生した周波
数信号を周波数比較回路4へ送り,この信号と,予め前記パルス発生回
路1よりコントロール回路5を介して周波数比較回路4へ送られた基準
信号とを比較し,さらに周波数比較回路4からの信号と前記コントロー
ル回路5からの基準信号とを判定回路6に同時に送りそこで両信号を判
定することにより接触によって変わったコンデンサー容量を検知して指
の接触位置を検知するのである。」
「【0020】タッチ位置検知手段として抵抗膜式検知手段(抵抗膜電
極タイプ)を使用した構成について説明すれば,図6に示すように,こ
れは電極Aと電極Bとを均質な抵抗膜30を挟んでこれに駆動電圧と接
地電圧をかけて電位分布Qを発生させるものである。そして,図7に示
すように,この抵抗膜30に導体から成る電極31を抵抗膜30と平行
して上部もしくは下部に配設し,指等の接触により抵抗膜30と,平行
した電極31とを接触導通させ,その接触により変化した電圧を電圧測
定器32でもって測定することにより接触点の位置を検出するものであ
る。以上説明したように各種の検知手段によれば,接触点をその軌跡に
1対1に対応させた1次元座標上の位置データとして出力されるもので
あり,特にアナログ式に十分に近い場合では指先の動きでもって方向が
容易に認識できると共に,デジタル式でもポイント数が多い場合には認
識可能となるものである。」
(イ)上記認定の本件明細書の発明の詳細な説明の記載によると,タッチ
位置検知手段は,接触点の移動距離と移動時間とを検知するためもので,
また,接触点をその軌跡に1対1に対応させた一次元座標上の位置デー
タとして出力するものであり,こうした位置データにより,接触点の位
置の連続的な移動を検知して,指が接触を開始した点(始点)からの移
動距離(相対座標)が決定されるものと解することができる。
(ウ)証拠(甲93)及び弁論の全趣旨によれば,原告各製品のクリック
ホイールのタッチ位置検出センサーは,指先でなぞるように操作された
場合,重心の計算式により,16ミリ秒ごとに全ての電極の静電容量変
化の加重平均である重心を計算してこれを演算装置に出力し,演算装置
が重心の変化と時間に基づいてユーザーの指の速度と方向を計算するも
のであると認められるところ,速度が距離を単位時間で除したものであ
ることや,「クリックホイール上の移動距離と,その距離の移動に要し
た時間とが2つの変数として用いられ,メニューのスクロールが行われ
る」(原告準備書面(10))との原告の主張に照らすと,原告各製品もま
た,指が接触を開始した点(始点)からの連続した重心の変化を検知し
て移動距離(相対座標)が決定されていると認められる。
構成要件Aは,接触点の算出方法について,格別の限定はなく,原告
各製品における重心を接触点として算出することが排除されているとは
認められないことをも併せ考えると,クリックホイールのタッチ位置検
出センサーは,「移動する接触点を一次元座標上の位置データとして検
出している」と認められる。
(エ)原告は,本件各発明が接触点をその軌跡に1対1に対応させた一次
元座標上の位置データとして出力するものであることからすれば,軌跡
上の位置である「接触点」と出力される「一次元座標上の位置データ」
とは1対1に対応しなければならないが(絶対座標上の位置として1対
1に特定されるべきとの趣旨と解される。),クリックホイールにおい
て計算された速度と方向は,クリックホイール上の位置に1対1で対応
するものとはいえないと主張する。しかしながら,特許請求の範囲はも
ちろん,本件明細書の発明の詳細な説明においても,「接触点」と出力
される「一次元座標上の位置データ」とが,絶対座標上の位置として1
対1に特定されるべきものと限定する根拠は見出し難く,むしろ,「一
次元座標上の位置データ」が移動距離を決定するためのものであると考
えられるから,前記(ア)認定の本件明細書の発明の詳細な説明の「接触
点をその軌跡に1対1に対応させた1次元座標上の位置データとして出
力される」(段落【0020】)との記載も,始点から移動後の指の接
触点までの移動距離(相対座標)を決定することを意味すると解するの
が相当である。原告の上記主張は,採用することができない。
エしたがって,原告各製品は,本件各発明の構成要件Aを充足する。
(2)争点1-2(原告各製品が構成要件Bを充足するか否か)について
ア前記前提事実によれば,クリックホイールには,上下左右の4箇所にプ
ッシュスイッチ手段である合計4つのボタンがあり,これらは各ボタンの
接点のオン又はオフを行うものと認められる。
イ原告は,構成要件Bの「接点」はタッチ位置検出センサーの接点を意味
すると主張するが,構成要件Bは,文言のとおり,プッシュスイッチ手段
が接点のオン又はオフを行うものであり,このことは,構成要件C及びD
に「前記プッシュスイッチ手段の接点」とあることからも明らかである。
原告が指摘する本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0034】の「セ
ンサーの接点84」との記載も,本件図面中の【図21】(a)及び(b)と
併せて見れば,センサー(接触検知部83)の下部にある接点84を意味
すると考えられるから,上記の認定判断を妨げるものではない。
また,原告は,本件各発明の接触操作型入力装置は,プッシュスイッチ
手段において接点のオン又はオフが行われた場合,タッチ位置検知手段か
らの位置情報とプッシュスイッチ手段からのオンオフ情報とを一体化して
検知するものであるから,構成要件Bのプッシュスイッチ手段は上記情報
を一体化した結果作動すると主張する。しかしながら,構成要件Bは,そ
のような限定をしていない。かえって,特許請求の範囲の記載からは,タ
ッチ位置検知手段とプッシュスイッチ手段とがそれぞれ異なる機能を有す
るものと解される上,証拠(甲1の1)によれば,本件明細書の発明の詳
細な説明には「…従来のように接触操作するタッチパネル等の電子部品と
プッシュ操作するスイッチ等を各々別個の部品として配していたのでは機
器の小型化に対して不利であり,尚且つ2つの部品を夫々操作するのでは
使い勝手もはなはだ不便である。」(段落【0010】),「…上記した
従来の欠点を解決すべく,操作性良く薄型でしかも少ない部品点数で電子
機器を構成することができるように1つの部品で複数の操作ができるプッ
シュスイッチ付きの接触操作型電子部品を提供することを目的とするもの
である。」(同【0011】),「…操作性良く薄型でしかも少ない部品
点数で電子機器を構成することができるように1つの部品で複数の操作が
できるプッシュスイッチ付きの接触操作型電子部品を提供することができ
る。」(同【0014】),「…単一の操作部品でもって接触操作型電子
部品およびプッシュスイッチ夫々の機能を同時に操作することができ
る。」(同【0015】)との記載があることが認められ,このようにタ
ッチ位置検知手段とプッシュスイッチ手段とが異なる機能を有することを
前提とする記載があることからすると,原告主張のように解すべき根拠が
あるとはいえない。
さらに,原告は,「接点のオンまたはオフを行うプッシュスイッチ手
段」は,1つの接触操作型入力装置に1つであり,本件図面中の【図2
1】(a)の矢印の向きや形状からすれば,キートップの上面全体が一体と
して押し下げられてその入力操作が行われるものであると主張する。しか
しながら,構成要件Bは,プッシュスイッチ手段の個数を1つに限定して
いないし,本件明細書の発明の詳細な説明や被告の平成17年11月8日
付け早期審査に関する事情説明書(甲10)にもプッシュスイッチの個数
を1つに限定する根拠となる記載があるとは認められない。そして,本件
図面中の【図21】(a)における矢印の向きや形状から,原告主張のよう
に解すべき根拠も見出し難い。
原告の上記各主張は,いずれもこれを採用することができない。
ウしたがって,原告各製品は,本件各発明の構成要件Bを充足する。
(3)争点1-3(原告各製品が構成要件Cを充足するか否か)について
ア前記前提事実に証拠(甲13,14,44,乙21)及び弁論の全趣旨
を総合すると,原告各製品は,クリックホイールにおけるタッチセンサー
が配置されたリング状(ドーナツ状)の軌跡の真下に,プッシュスイッチ
手段に当たる4つのボタンの接点がタッチセンサーとは別個に配置されて
いることが認められるから,原告各製品は,「前記タッチ位置検知手段に
おけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡に沿って,
前記プッシュスイッチ手段の接点が,前記連続して配置されるタッチ位置
検出センサーとは別個に配置されている」ことが認められ,また,前記前
提事実に上記各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,原告各製品は,スク
ロールさせ得る程度の指の接触圧力ではボタンの接点はオフ状態に保たれ,
ボタンをより強い力で押下するとボタンの接点がオンの状態となり,押下
し続ける限りその状態を保持するが,指を離すとボタンの接点がオフの状
態に戻ることが認められるから,原告各製品は,「前記接点のオンまたは
オフの状態が,前記タッチ位置検出センサーが検知しうる接触圧力よりも
大きな力で保持されて」いることが認められる。
イ原告は,構成要件C及びDが「前記タッチ位置検出センサーが検知しう
る接触圧力」などと訂正されたこと等から,本件各発明のタッチ位置検出
センサーが「接触圧力」を検知するタイプのものに限定されたと主張する。
しかしながら,証拠(甲1の1,77)によれば,本件訂正前明細書や
本件図面には,タッチ位置検知手段として,静電容量センサーを使用した
実施例について記載があるところ(段落【0017】,【図1】),被告
は,本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の「該タッチ位置検出センサー
の用いられる軌跡上で指が移動する方向以外の物理的な移動または押下に
より接点のオンまたはオフを行うスイッチ手段とを有し」,「該タッチ位
置検出センサーの用いられる軌跡の接線に直交する方向への物理的な移動
または押下により接点のオンまたはオフを行うスイッチ手段とを有し」
(段落【0012】),「以上の接触検出センサー付きプッシュキーによ
り,単純なキーの押下以外に接触もしくは十分に弱い押圧によりイベント
入力を行なわせる。」(同【0013】),「以上の接触検出センサー付
プッシュキーにより,単純なキーの押下以外に接触もしくは十分に弱い押
圧によりイベント入力が行なえる。」(同【0015】),「単純に接点
のオンオフを行なっている入力キーに少ない接触圧力により更にもう1つ
の入力を行わせたい場合や,…キートップ80の上面周縁には指先でなぞ
るようにして操作されるための例えばリング状の接触検知部83を付設し,
キートップ80をプッシュしたときにセンサーの接点84が接合したり
(図21(a)乃至(b)),もしくは逆に離れるようにするものであっても
良い。」(同【0034】)との記載や本件図面中の【図21】の記載を
根拠に,訂正事項3の訂正を行い,上記段落【0013】,【0015】,
【0034】及び上記【図21】の記載を根拠に,訂正事項4の訂正を行
ったことが認められるから,この事実に照らすと,被告が,これらの訂正
により,タッチ位置検知手段として静電容量センサーを除外したとは考え
難いところである。構成要件Aは,タッチ位置検出センサーが配置された
軌跡を「指先でなぞるように操作される」と特定しているから,本件各発
明は,タッチ位置検出センサーに指先が触れて接触圧力がかかることが予
定されていると解されるが,「検知しうる」との文言は検知する可能性を
表現し,証拠(甲1の1)によれば,本件訂正前明細書の発明の詳細な説
明や本件図面に抵抗膜式のように接触圧力を検知するタイプのタッチ位置
検知手段を使用する実施例の記載(段落【0004】,【図2】)がある
ことが認められるから,ここにいう「検知しうる」接触圧力は,タッチ位
置検出センサーが接触圧力を検知するタイプのものである場合にはこれを
検知することが可能な程度の接触圧力であることを意味するに過ぎないと
解するのが相当である。
また,原告は,ボタンを押下して接点がオンになったとしても,その状
態を「たもちつづける」ことなく,ボタンはすぐに押し戻るから,接点の
オンの状態が「保持」されることはなく,力がゼロでも接点はデフォルト
でオフの状態を「たもちつづける」から,接点のオフの状態は「力」によ
って保持されていないなどと主張する。しかしながら,スクロールさせ得
る程度の指の接触圧力ではボタンの接点はオフ状態に保たれ,ボタンをよ
り強い力で押下して初めてボタンの接点がオンの状態となるのであるから,
ボタンの接点のオフの状態が,タッチセンサーが検知しうる接触圧力より
も大きな力で保持されていることは明らかであるし,ボタンをより強い力
で押下し続ける限りその接点がオンの状態を保ち続けるのであるから,ボ
タンの接点のオンの状態が,上記接触圧力よりも大きな力で保持されるこ
とも明らかである。原告は,ボタンの接点がオン又はオフされた後の作動
状態が保持されるべきであると主張するかのようであるが,構成要件Cの
「前記接点のオンまたはオフの状態」との文言に反するものといわなけれ
ばならない。
さらに,原告は,被告が,原出願の出願の際に,スイッチ手段の配置さ
れるタッチ位置検知手段の位置が軌跡の下にスイッチ手段を有する構成を
排除したところ,クリックホイールにおける4つのボタンはタッチセンサ
ーの真下に配置されているから,「軌跡に沿って」配置されたものとはい
えないと主張する。しかしながら,本件特許出願は,原出願から分割出願
されたものであって,原出願の出願経過が分割出願された発明の特許請求
の範囲の解釈に当然に影響を及ぼすものとはいえないし,本件において,
原出願の出願経過が本件各発明に影響を及ぼすと解すべき事情も見出し難
い。そして,「軌跡に沿って」という場合に当該軌跡の真下も含むことは,
原告も自認するように明らかというべきである。
原告の上記各主張は,いずれもこれを採用することができない。
ウしたがって,原告各製品は,本件各発明の構成要件Cを充足する。
(4)争点1-4(原告各製品が構成要件Dを充足するか否か)について
アクリックホイールは,前記(3)アのとおり,スクロールさせ得る程度の
指の接触圧力ではボタンの接点はオフ状態に保たれ,ボタンをより強い力
で押下するとボタンの接点がオンの状態となり,押下し続ける限りその状
態を保持するが,指を離すとボタンの接点がオフの状態に戻るというので
あるから,原告各製品は,「前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置
検出センサーが連続して配置される前記軌跡上における前記タッチ位置検
出センサーに対する接触圧力よりも大きな接触圧力での押下により,前記
プッシュスイッチ手段の接点のオンまたはオフが行われる」ことが認めら
れる。
イ原告は,クリックホイールでは静電容量センサーを採用して接触圧力を
検知することができないと主張するが,本件各発明のタッチ位置検出セン
サーに静電容量センサーを含むものであることは上記(3)イに判示したと
おりであるから,原告の上記主張は失当である。
また,原告は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載や出願の際に「連
続的な操作」のできない入力装置を除外したことからすれば,構成要件D
は,軌跡上に配置されたセンサーを押下するとともにプッシュスイッチ手
段を操作することにより,ユーザーの指の軌跡上の位置データを入力する
ことを意味すると主張する。しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説
明の記載を根拠として原告主張のように解することができないことは,前
記(2)イに説示したところからも明らかであるし,また,証拠(甲10)
によれば本件特許出願に係る「早期審査に関する事情説明書」には「例え
ば,本願発明を利用すれば,検索したメニュー項目を選択等する際,選択
操作をしている位置でそのまま指を押下してプッシュスイッチを作動させ
ることで,あるいは所望の機能の割り当てられたプッシュスイッチの近傍
に指をスムーズに移動させてプッシュスイッチを作動させることで当該選
択等の操作を行うことが可能となるのであり」などの記載があることが認
められるのであって,このことを併せ考えると,被告が「連続的な操作」
のできない入力装置を除外したということはできないし,「意見書」(甲
18)は,原出願に係るものであり,これが本件各発明に影響を及ぼすと
解すべき事情も窺えない。
さらに,原告は,原告製品2,4及び5(iPodnano第2ない
し第4世代)は,クリックホイールのボタンがセンサーの真下にあるため
に,ボタンがオンされる際に加えられる接触圧力は,センサーに加えられ
る接触圧力と必然的に同じになると主張するが,原告製品2,4及び5に
おいても,「前記タッチ位置検出センサーが検出しうる接触圧力」,すな
わち,スクロールさせ得る程度の指の接触圧力よりも大きな接触圧力での
押下があって初めてボタンの接点のオン又はオフが行われるのである。
さらにまた,原告は,原告製品1及び3(iPod第5世代及びiPo
dclassic)は,クリックホイールのセンサー電極に4つの穴が
あり,ボタンを押下するに当たっては,センサーの穴の中に位置するアク
チュエータを押下してボタンの上部接点を押下することになるのであるか
ら,押下されるのは,「軌跡」でもなければ,連続して軌跡上に配置され
たセンサーでもないと主張する。しかしながら,構成要件Dは,「前記軌
跡上における…押下により,前記プッシュスイッチ手段の接点のオンまた
はオフが行われる」としているから,「軌跡上における押下」があれば足
りるところ,原告製品1及び3においても,ボタンはリング状の軌跡の真
下に位置し,それを押下する場合に,「軌跡上における押下」がされるこ
とは明らかである。
原告の上記各主張は,いずれもこれを採用することができない。
ウしたがって,原告各製品は,構成要件Dを充足する。
(5)争点1-5(原告各製品が構成要件Gを充足するか否か)について
原告各製品のプッシュスイッチ手段であるボタンは4つあるから,原告各
製品は,構成要件Gを充足する。
(6)原告各製品がクリックホイールという接触操作型入力装置を用いた小型
携帯装置であって,構成要件E及びFを充足することは当事者間に争いがな
いから,原告各製品は,本件各発明の構成要件を全て充足する。
(7)そうすると,原告各製品は,本件各発明の技術的範囲に属する。
2争点2(本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められる
か否か)について
(1)争点2-1(訂正事項1の訂正が新規事項の追加に当たるか否か)につ
いて
証拠(甲1の1)によれば,本件訂正前明細書の発明の詳細な説明には,
段落【0007】に「今まで開示された公開公報の中で全てのタッチパネル,
タッチパット,タブレット,タッチセンサーに用いられている接触検知セン
サーを1次元上または2次元上もしくは3次元上の所定の軌跡上に連続して
帯状に配置すれば,この所定の軌跡を曲線とすれば該曲線を引き延ばして直
線上の線分としたときの端点からの距離が検知できる。」と,段落【001
2】に「前記タッチ位置検出センサーは,幅広な帯状にして一様に分布され
ているか,もしくは粗密性を有する不均一分布にして配されているものとし
たことにより,同じく上述した課題を解決した。」と,段落【0032】に
「前記タッチ位置検出センサーは,変移単位の同じかまたは変移単位の異な
る複数の接触検知軌跡上に沿って配置されていたり,幅広な帯状にして一様
に分布したり,もしくは粗密性を有する不均一分布にして配置したりして構
成することができる。」と,段落【0034】に「…キートップ80の上面
周縁には指先でなぞるようにして操作されるための例えばリング状の接触検
知部83を敷設し,キートップ80をプッシュしたときにセンサーの接点8
4が接合したり(図21(a)乃至(b)参照),もしくは逆に離れるようにす
るものであっても良い。」との記載があり,本件図面中の【図21】(a)に
は,一定の幅を有するリング状の接触検知部83が図示されていることが認
められ,これによると,本件訂正前明細書及び本件図面には,所定の幅を有
するリング状に予め特定された軌跡について記載されていたことが明らかで
ある。
したがって,訂正事項1の訂正は,本件訂正前明細書及び本件図面に記載
した事項の範囲内においてしたものである。
(2)争点2-2(訂正事項2の訂正が新規事項の追加に当たるか否か)につ
いて
証拠(甲1の1)によれば,本件訂正前明細書の発明の詳細な説明には,
段落【0007】に,前記(1)で認定した記載のほかに,「要するに指の移
動距離および移動時間が検知できることになる。しかも,使用にあっての用
途はタッチパネルやスライドスイッチと異なり,また構造も軌跡上に展開さ
れていることから既存のものとは異なっている。要するに,2次元上に展開
された接触検知構造を1次元に展開し,しかも連続に軌跡上に配置するので
ある。」と,段落【0020】に「…以上説明したように各種の検知手段に
よれば,接触点をその軌跡に1対1に対応させた1次元座標上の位置データ
として出力されるものであり,特にアナログ式に十分に近い場合では指先の
動きでもって方向が容易に認識できると共に,デジタル式でもポイント数が
多い場合には認識可能となるものである。」との記載があることが認められ,
これによると,本件訂正前明細書には,接触検知センサーを所定の軌跡上に
連続して帯状に配置して,接触点を一次元座標上の位置データとして出力す
ることが記載されていると認められる。
したがって,訂正事項2の訂正は,本件訂正前明細書に記載した事項の範
囲内においてしたものであると認められる。
(3)争点2-3(訂正事項3の訂正が新規事項の追加又は実質上特許請求の
範囲を拡張するものか否か)について
ア証拠(甲1の1)によれば,本件訂正前明細書の発明の詳細な説明には,
段落【0012】に「所定の軌跡上に連続してタッチ位置検出センサーを
配したタッチ位置検知手段と,該タッチ位置検出センサーの用いられる軌
跡の接線に直交する方向への物理的な移動または押下により接点のオンま
たはオフを行うスイッチ手段」との記載があることが認められ,これによ
ると,本件訂正前明細書には,押下により接点のオンオフを行うスイッチ
手段(プッシュスイッチ手段)の接点が,所定の軌跡に沿って,かつ,タ
ッチ位置検出センサーとは別個に配置されていることが記載されていると
認められる。また,証拠(甲1の1)によれば,本件訂正前明細書の発明
の詳細な説明には,段落【0013】及び同【0015】に「以上の接触
検出センサー付きプッシュキーにより,単純なキーの押下以外に接触もし
くは十分に弱い押圧によりイベント入力を行わせる。」と,段落【003
4】に「キートップ80の上面周縁には指先でなぞるようにして操作され
るための例えばリング状の接触検知部83を付設し,キートップ80を
プッシュしたときにセンサーの接点84が接合したり(図2(a)乃至(b)
参照),もしくは逆に離れるようにするものであっても良い。」との記載
があることが認められ,これによると,本件訂正前明細書には,プッシュ
スイッチ手段の接点のオン又はオフの状態が,指先でなぞるように操作さ
れるタッチ位置検出センサーが検知しうる接触圧力よりも大きな力で保持
されていることが記載されていると認められる。
したがって,訂正事項3の訂正は,本件訂正前明細書に記載した事項の
範囲内においてしたものである。
イ原告は,「接点」は「センサーの接点」を意味するから,これを「プッ
シュスイッチ手段の接点」に変更することは,特許請求の範囲を実質的に
変更するものであると主張するが,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項
1は,「接点のオンまたはオフを行うプッシュスイッチ手段を有し…前記
プッシュスイッチ手段の接点のオンまたはオフが行われることを特徴とす
る」というものであって,「接点」が「プッシュスイッチ手段の接点」を
意味することは明らかであるから,これを採用することはできない。
(4)争点2-4(訂正事項4の訂正が新規事項の追加に当たるか否か)につ
いて
上記(3)に判示したように,本件訂正前明細書には,プッシュスイッチ手
段の接点のオン又はオフの状態が,指先でなぞるように操作されるタッチ位
置検出センサーが検知しうる接触圧力よりも大きな力で保持されていること
が記載されているから,訂正事項4の訂正は,本件訂正前明細書に記載した
事項の範囲内においてしたものである。
(5)争点2-5(訂正事項5の訂正が実質上特許請求の範囲を拡張するもの
か否か)について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1は,「接点のオンまたはオフを行
うプッシュスイッチ手段と」,「前記プッシュスイッチ手段が配置され」,
「前記プッシュスイッチ手段の接点のオンまたはオフが行われる」というの
であって,請求項2の「前記プッシュスイッチ」が請求項1にいう「プッシ
ュスイッチ手段」を指すことは明らかである。
したがって,訂正事項5の訂正は,明りょうでない記載の釈明を目的とす
るものであって,特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(6)争点2-6(本件各発明は当業者が甲5発明に基づいて容易に発明をす
ることができたか否か)について
ア甲5発明の要旨
(ア)証拠(甲5)によれば,原出願(平成10年1月6日)前に頒布さ
れた刊行物である甲5公報(平成6年4月8日公開)には,別紙刊行物
図面1の図面のほか,次の記載があることが認められる。
「【0002】【従来の技術】最近,VTR,CDプレ-ヤ,ビデオデ
ィスク,DAT等の編集およびプログラム設定のための遠隔操作用に,
ジョグ機能を備えたスイッチが広く使用されるようになった。」
「【0005】しかし,この型のジョグ機能を備えたスイッチは,機械
的な構造が複雑なため,製造上,小型化や低コスト化が困難であるとい
う欠点がある。」
「【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は,従来のジョ
グ機能を備えたスイッチにおいて複雑であった機械的構造をできるだけ
電気的構造およびソフトウェア処理することによって,薄型で低価格の
ディジタルスイッチを実現することに課題を有している。」
「【0007】【課題を解決するための手段】本発明によるジョグ機能
を備えたメンブレンスイッチは,複数のキーに対応して,可動電極を形
成した可撓性シートと,該可動電極に対応した固定電極を形成したプリ
ント配線基板とからなり,前記可動電極と固定電極が所定の間隔を維持
して対向するように前記可撓性シートとプリント配線基板とを積属配置
したメンブレンスイッチであって,前記メンブレンスイッチ上のキーの
何れかが押されてオンになった時,そのキー信号を検出し,所定時間内
に複数のキーが連続的にオンになった時,オンキーの移動方向及び移動
速度に対応したコードを出力するジョグ機能を備えたメンブレンスイッ
チであって,又前記複数のキーが同心円上に配設されていること,又,
オンキーの移動方向及び移動速度に対応したコードは予めマイコンに設
定されたコードであり,並びに前記複数のキーが各固有のキー特性を持
つとリモートコントロールスイッチと同一基板上に配置したジョグ機能
を備えたメンブレンスイッチである。」
「【0008】【作用】上記の構成を有するジョグ機能を備えたメンブ
レンスイッチにおいて,可撓性シートの表面に配列されているキーを指
などで押すと,可撓性シートの裏面のそのキー位置にある可動電極が下
方へ押され,その結果,その可動電極の真下にある固定電極に接触し,
そのキーはオンとなり,その押されたキーのキー位置が検出される。」
「【0009】また,複数のキーをある方向にある速さで順次押すジョ
グ操作を行うと,連続的にオンになった複数のキーの番号の組み合わせ
と,オンになった順序と,単位時間内にオンになったキー数とに基づき
ジョグ操作の移動方向と移動速度とを認識し,それらに対応するコード
を出力する。
「【0010】リモートコントロールスイッチと同一基板上にジョグ機
能を備えたメンブレンスイッチを配設したことにより,例えば,電源オ
ンオフ,各チャンネル毎の操作の外に早送り,巻戻し等のスピードを変
えた操作を行えると共に,装置を小型化できる。」
「【0011】【実施例】以下,本発明の実施例について図面を参照し
て詳細に説明する。本発明によるジョグ機能を備えたメンブレンタイプ
のスイッチは,例えば,リモートコントロールスイッチに適用して使用
されるものであり,図1(省略)に示すように,プリント配線基板1と
可撓性シート2とを貼り合わせて構成される。」
「【0012】プリント配線基板1の裏面にはマイコン3が組み込まれ
ており,その表面には,後述するように,全体としてマトリックスを形
成するプリント配線4,5,6が印刷されている。マイコン3とプリン
ト配線4,5,6とは,プレント配線基板1に設けられたスルーホール
を通して接続されている。」
「【0013】可撓性シート2は,ポリカボネ-ト又はポリエステルの
シ-トによって作られた極めて薄い(例えば280ミクロン)シ-トで
構成される。可撓性シート2の表面には,図2に示すように,ジョグキ
ーエリア7,シャトルキーエリア8,9,一般キーエリア10が配置さ
れている。」
「【0014】各キーまたはキー位置にはキー番号が付けられている。
すなわち,ジョグキーは,円形のジョグキーエリア7に,同心円上に各
キーが配置されている。その各キーは,最上キー位置から右回りにキー
K1~K6,同じく左回りにキーK9~K14の合計12個のキー番号
が付けられている。」
「【0015】シャトルキーは,シャトルキーエリア8に正方向(FW
D)キーがK17~K19の3個,シャトルキーエリア9に逆方向(R
EV)キーがK21~K23の3個,合計6個設けてある。一般用キー
は,一般キーエリア10に,K25~K40の16個が設けられている。
これら一般キーは,例えば電源スイッチ,チャンネルスイッチ及びテレ
ビジョンとテープレコーダとの切り換えスイッチ等の夫々が固有のキー
特性を有するものである。」
「【0016】一方,可撓性シート2の裏面には,図3に示すように,
全てのキー位置に可動電極であるカ-ボン電極Ci(iはキー番号)が
印刷されている。一方,プリント配線基板1側には,各カーボン電極C
iに対向配置するように同じくカーボン電極からなる固定電極が(図示
せず)が印刷されている。カ-ボン電極Ci(i=1~40)は,プリ
ント配線基板1と可撓性シート2とを貼り合わせた時に可動電極と固定
電極が通常の状態で接触しないようにカーボン電極Ciの周囲をエンボ
ス加工等により上方へ僅かに浮かして取り付けられている。」
「【0017】前記ジョグエリア7は,同心状に配列したキーK1~K
14の外側を囲む外側リブ7aと内側を囲む内側リブ7bとにより区画
され,該外側リブ7aと内側リブ7bとの間は,図4に示したように,
段差をもってプリント配線基板1から浮かせた状態に形成され,その浮
かせた状態の内側に可動電極となる前記カーボン電極C1~C14が取
り付けてある。この外側リブ7aと内側リブ7bとの間隔は,人の指が
ガイドされてなぞりやすいように設定されている。」
「【0018】可撓性シート2の表面のキーKi(i=1~40)を指
などでおすと,可撓性シート2の可撓性によって,押されたキーは凹み,
その結果,対応するカ-ボン電極Ciはプリント配線基板1の固定電極
と接触することになる。指を離せば,可撓性シート2の可撓性によって
カ-ボン電極Ciは復元する。つまり,カ-ボン電極Ciは,スイッチ
の短絡電極の機能を果たす。」
「【0021】又,図6(省略)に示すように,各キー位置Kiで交差
する二つのプリント配線は,カ-ボン電極Ciによって,接続されたり
(キーオン),切り離されたり(キー-オフ)するようになっており,
これによってオン/オフスイッチを形成している。」
「【0028】ジョグ機能は,可撓性シート2の表面のキー-を押す指
の移動方向及び移動速度を,ジョグキーK1~K6,K9~K14のオ
ンになる順序および単位時間中にオンになったキー数に基づいて認識す
ることが基本である。」
「【0029】ジョグ機能を開始するための特定のトリガ-キーは存在
しない。キーK1~K62の内のどれかがキーオンとなったことによっ
て,マイコン3は,スタンバイ状態からウェイクアップ状態へ移行す
る。」
「【0030】ジョグ機能の出力の開始は,ジョグ操作の回転方向が確
定した後に行われる。ジョグ操作の回転方向は,最初のキーオンを含め
3つのキーが連続して押された時にジョグ操作が開始されたものとし,
同時にそのジョグ操作の操作方向(回転方向)を認識する。そして,最
初のキーオンがなされた時に,同時に後述する単位時間内でのキーオン
のカウント数を検出し始めるようになっている。」
「【0031】その後は,方向のみを確認しながら,所定時間内(例え
ば本実施例ではリモートコントロール信号の送信単位である1フレーム
と同一時間の90ms)のキーオンのカウント数に対応するコ-ドを出
力する。」
「【0032】即ち,マイコン3は,ジョグキーエリア7にあるジョグ
キーK1~K14が所定時間の間に連続的にオンにされたキーの数をカ
ウントすることによって,下表(省略)のように出力するコ-ドを決め
る。このキースキャンの周期は10msとしている。」
「【0034】一例で説明すると,最初にキーK2が押されたとすると,
その時からマイコンがウェークアップ状態に移行し,マイコンの端子s
outから10msの周期でスキャン信号が発信する。引続きキーK3
が押されても特定の制御コードは出力されない。更に連続してキーK4
が押されると,マイコンではジョグ操作であると認識する。」
「【0035】最初に押圧したキーK2から所定時間である90ms以
内にキーK3,K4,K5まで押されたとすると,上記別表1(省略)
に示すようにコード“22”を出力する。その後,90ms間に更にキ
ーK6,K14,K13が押されたとすれば,コード“23”が出力さ
れる。」
「【0039】ジョグモ-ドにおいて,上記別表1(省略)のコードの
出力は,そのジョグ操作方向を示すコードと共に,赤外線信号に変調さ
れて他の一般のキーが押された時と同様の手段及びタイミングで送信さ
れる。」
「【0040】全てのジョグキーがオフになった後,一定時間後ジョグ
モードが解除され,出力コードの送信が停止する。」
「【0048】図7は,本発明に係る第2の実施例を示す。この実施例
では,リング状の領域20に複数のキー21~24を割り当て,連続キ
ーオン操作と単独キーオン操作との複合機能を持たせている。」
「【0052】以上,本発明によるメンブレンタイプのディジタルスイ
ッチをリモコンに応用した実施例について説明したが,本発明の考え方
は,プリント配線基板にマイコンとプリント配線を設け,このプリント
配線基板の表面には,キー位置にカ-ボン電極Ciを配列した可撓性の
メンブレンを貼付し,メンブレンの表面でのジョグ操作をマイコンに検
出させることによって,ジョグ操作の移動量,移動速度を認識し,認識
された諸元の組み合わせに対応するコ-ドを出力するようにしたもので
ある。」
「【0053】従って,リモコンに限らず,メンブレンの表面でのキー
操作の方向および速度によって各種のコ-ドを出力するような機械器具
の分野に広く応用することができる。」
「【0054】【発明の効果】以上説明したように,本発明によるジョ
グ機能を備えたメンブレンスイッチは,マイコンとプリント配線基板に
取り付けられた固定電極と,各キー位置に可動電極を取り付けた可撓性
シートとを貼り合わせただけの簡単な構造で極めて薄いコンパクトなメ
ンブレンスイッチであるから,スイッチの薄型化および低コスト化に寄
与すると云う優れた効果を奏する。」
「【0055】更に,例えばリモコンのチャンネル等を切り換える固有
のスイッチと併存させて配設することができ,早送り巻戻し等のスピー
ドを変えた走査が一つのリモコンで行うことができると共に,小型化で
きると云うきわめて優れた効果を奏する。」
(イ)上記(ア)認定の事実によれば,甲5発明は,「円形状のジョグエリ
アに複数のキーが配列され,各キーに対応して可動電極を形成する可撓
性シートと該可動電極に対応する固定電極が所定の間隔を維持して対向
配置され,いずれかのキーが押下されるとその接点がオン,離すとオフ
となり,オンになるとキーの位置が検出されるが,複数のキーをある方
向にある速さで順次押すジョグ操作を行うと,連続的にオンになった複
数のキーの番号の組合せと,オンになった順序と,単位時間内にオンに
なったキー数とに基づき同操作の移動方向,移動速度を認識してそれら
に対応するコードを出力するメンブレンスイッチ」であることが認めら
れる。
原告は,甲5発明のジョグ機能は,可撓性シートの表面のキーを押す
指の移動方向及び移動速度を各電極がオンになる順序及び単位時間中に
オンになったキー数に基づいて認識することにより,早送り,巻き戻し
等のスピードを変えた操作などを行うことができるから,接触点を一次
元座標上の位置データとして検出していると主張する。しかしながら,
甲5発明は,連続的にオンになった複数のキーの番号の組合せと,オン
になった順序と,単位時間内にオンになったキー数とに基づきジョグ操
作の移動方向と移動速度とを認識するものであって,指が接触を開始し
た点(始点)からの指の位置の移動を検知してその移動距離を決定して
いるものではないから,接触点を一次元座標上の位置データとして検出
しているものということはできない。原告の上記主張は,採用すること
ができない。
イ本件各発明との対比
(ア)一致点
本件各発明(構成要件Gについては本件発明2)と甲5発明とは,次
の点で一致する。
a指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有する連続したリ
ング状に予め特定された軌跡上に連続してタッチ位置検出センサーが
配置されたタッチ位置検知手段と,
b接点のオン又はオフを行うプッシュスイッチ手段とを有し,
c前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続し
て配置される前記軌跡に沿って,前記プッシュスイッチ手段の接点が
配置されており,かつ,
d前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続し
て配置される前記軌跡上における押下により,前記プッシュスイッチ
手段の接点のオン又はオフが行われる
g前記プッシュスイッチ手段が4つである
eことを特徴とする接触操作型入力装置
fを用いた小型携帯装置。
(イ)相違点
本件各発明と甲5発明は,次の3点で相違する。
①相違点1
本件各発明は,「前記軌跡に沿って移動する接触点を一次元座標上
の位置データとして検出する」(構成要件A)のに対し,甲5発明は,
接触点を一次元座標上の位置データとして検出するものではない点
②相違点2
本件各発明は,プッシュスイッチ手段がタッチ位置検出センサーと
は別個の手段であり,その接点が別個に配置されている(構成要件
C)のに対し,甲5発明では,プッシュスイッチ手段とタッチ位置検
出センサーとが同一の手段であり,接点も同一である点
③相違点3
本件各発明は,プッシュスイッチ手段の接点のオン又はオフの状態
がタッチ位置検出センサーが検知しうる接触圧力よりも大きな力で保
持されており(構成要件C),タッチ位置検出センサーに対する接触
圧力よりも大きな接触圧力での押下によりプッシュスイッチ手段の接
点のオン又はオフが行われる(構成要件D)のに対し,甲5発明では
そのような構成を有しない点
ウ相違点について
甲5発明は,接触点を一次元座標上の位置データとして検出するもので
はない。そして,甲5公報には,接触する指の移動距離を得ることについ
て,記載も示唆もなく,これを得ることが原出願当時技術常識であったと
認めるに足りる証拠はない。そうであるから,相違点1に係る本件各発明
の構成は,甲5発明に基づいて,当業者が容易に想到することができたと
は認められない。
したがって,本件各発明は,甲5発明及び技術常識に基づいて,当事者
が容易に発明をすることができたということはできない。
(7)争点2-7(本件各発明は当業者が甲6発明に基づいて容易に発明をす
ることができたか否か)について
ア甲6発明の要旨
(ア)証拠(甲6)によれば,原出願前に頒布された刊行物である甲6公
報(平成8年5月7日公開)には,別紙刊行物図面2の図面のほか,次
の記載があることが認められる。
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は,4つの電極面を備えた
電極板を電気絶縁層の上からオペレータが指で押さえたり電気絶縁層の
上で指を動かしたりすることにより4つの上記電極面の相互間に生じる
静電容量の変化に基づいて座標信号を変化させることのできる感触式座
標入力装置の感触操作部構造に関する。」
「【0002】【従来の技術】特表平4-507316号公報により,
一般的に汎用されている座標入力装置としてのマウスによって実行され
る機能と類似の機能を備え,オペレータの指の位置でディスプレイ上で
のカーソル位置を変化させ得る感触式座標入力装置が提案されている。
この公報では,多数設けられている個々の電極面とオペレータの指との
間での静電容量の変化に伴って出力される信号を合成処理してディスプ
レイ上でのカーソル位置を表す信号に変換することが開示されているか
も知れないけれども,そのような感触式座標入力装置の使い勝手を高め
るための対策やその装置のサイズを小型化・薄型化するための対策など
については何らの開示もなされていないように思える。」
「【0003】【発明が解決しようとする課題】本発明は以上の事情に
鑑みてなされたものであり,感触式座標入力装置の感触操作部の構造に
工夫を講じて,感触式座標入力装置の使い勝手を高め,また,そのサイ
ズの小型化・薄型化を達成しやすくすることを目的としている。」
「【0004】【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明によ
る感触式座標入力装置の感触操作部構造は,周方向で4分割され相互に
電気的に絶縁された4つの電極面を備えそれらの電極面が中心部におい
て相互に突合せ状に配置された電極板と,4つの電極面を覆って電極板
に重なり状に配備されかつ表面にオペレータの指が接触される電気絶縁
層と,電気絶縁層が重ねられた電極板の周縁部において4つの上記電極
面の感触操作エリアを形作ると共に外方に向かって上り勾配となり上記
感触操作エリアに連続して配備される傾斜面を備えた縁枠部材と,を備
えるというものである。このような感触操作部構造においては,請求項
2に係る発明のように,各種電気部品や電子部品を搭載した配線基板を
内蔵するケースに,縁枠部材が突出状に設けられているという構成を採
用することが望ましい。」
「【0006】さらに,請求項1や請求項3に係る発明においては,請
求項4に係る発明のように,4つの電極面の電極板の中心部にオペレー
タが指を置いたときにその指が4つの電極面に電気絶縁層を介して重な
るように4つの電極面が相互に突合せ状に配置されており,かつその指
の周囲に指の動き代が確保される大きさに感触操作エリアが形成されて
いるという構成を採用したり,請求項5に係る発明のように,縁枠部材
が設けられたケースに,各種電気部品や電子部品を搭載した配線基板と,
操作部を押し込むことにより接続状態が開状態と閉状態との間で切り換
わる押圧開閉式スイッチとが内蔵されていると共に,電気絶縁層が重ね
られた電極板がケースに対して押込み復帰可能でありかつ常時復帰方向
に弾発付勢された状態で上記ケースに収容されており,上記スイッチの
操作部の押込み復帰動作が電極板の押込み復帰動作に連動されていると
いう構成を採用することが可能である。」
「【0007】請求項6に係る発明は,ベース部材に回転自在に保持さ
れた球体と,この球体に嵌合されてこの球体の一部を表面側へ突出させ
る開口を有すると共に周方向で4分割され相互に電気的に絶縁された4
つの電極面が上記開口の周囲において相互に突合せ状に配置された電極
板と,上記球体に嵌合されてこの球体の一部を表面側へ突出させる開口
を有すると共に4つの電極面を覆って電極板に重なり状に配備されかつ
表面にオペレータの指が接触される電気絶縁層と,を備えるというもの
であり,このような感触操作部構造においては,請求項7に係る発明の
ように,電気絶縁層に具備されて球体に嵌合されている開口の周縁部が
その球体の表面に重ねられていることが望ましい。また,請求項8に係
る発明のように,電気絶縁層が重ねられた電極板の周縁部において4つ
の上記電極面の感触操作エリアを形作る縁枠部材を備えるという構成を
採用することが可能であり,その場合には,請求項9に係る発明のよう
に,縁枠部材が,外方に向かって上り勾配となり感触操作エリアに連続
して配備される傾斜面を備えるという構成を採用することが望まし
い。」
「【0008】【作用】請求項1~請求項9に係る発明において,一般
的には,周方向で4分割された4つの電極面のうち,1つおきに位置す
る所定の2つの電極面がディスプレイのX軸方向の+座標と-座標とに
割り当てられ,残る2つの電極面がディスプレイのY軸方向の+座標と
-座標とに割り当てられ,4つの電極面が集まる電極板の中心部が原点
すなわち座標〔0,0〕に割り当てられる。このような状況の下で感触
操作部をオペレータが指で操作する場合においては,原点の位置や感触
操作エリアを目で見ずに明確に認識し得ること(以下,ブラインド操作
性という)が有用であり,また,感触操作エリアから指が不慮に滑り出
てしまうという事態を防止し得ること(以下,滑り防止性という)や,
指を感触操作エリア内で繰り返し手繰り動作するときの操作性(以下,
手繰り操作性という)のよいことなどが望まれ,それらの性質が優れて
いる場合に使い勝手のよいものとなる。」
「【0009】請求項1に係る発明は,感触操作エリアが縁枠部材によ
って形作られているので,オペレータは指が縁枠部材に当たったときに
容易に感触操作エリアの輪郭を認識できるようになってブラインド操作
性が向上する。また,縁枠部材は,感触操作エリアに連続しかつ外方に
向かって上り勾配となる傾斜面を備えていることにより,ブラインド操
作性がいっそう改善されるのみならず,その傾斜面で指を滑らせた後感
触操作エリアに指を戻す動作が上り勾配の傾斜面によって自然に助けら
れることになるので,指の手繰り動作を楽に行うことができるようにな
り良好な手繰り操作性が得られる。さらに,上記傾斜面が感触操作エリ
アからの指の滑り落ちを防ぐことに役立つので滑り防止性も改善され
る。」
「【0013】請求項5に係る発明は,電極板を指で押し込んで押圧開
閉式スイッチの開閉状態を切り換えることができるので,ディスプレイ
上でのカーソル位置の確定操作を,カーソルの移動を制御していたその
指で直ちに行うことができる(ポインター機能)。」
「【0014】請求項6に係る発明は,指先で球体を回転させる操作が
自然に電気絶縁層の上で指を動かせる操作につながり,しかも指の移動
により球体が回転するので,微小範囲で指を動かすような操作がスムー
ズにしかも容易に行われるようになる。また,球体が電気絶縁層の開口
から突出しているので,球体を指で感覚的に認識することによって座標
の原点が容易に認識される。」
「【0017】【実施例】図1は本発明の第1実施例に係る感触式座標
入力装置の感触操作部Aを示す概略斜視図,図2は感触操作部Aに具備
された感触操作エリア3の説明図,図3(省略)は図1の感触操作部A
を一部破断した概略側面図である。」
「【0018】図1において,1は合成樹脂成形体でなる中空のケース
で,縦横の長さがそれぞれ33mm,高さが13mm程度の立方体でな
り,このケース1には,信号合成回路や出力回路などの必要な回路を形
成するための各種電気部品や電子部品を搭載した配線基板(不図示)が
内蔵されており,その側面にインターフェイス用端子12が設けられて
いる。また,ケース1の上面に背低円柱状の縁枠部材2が一体に突出さ
れている。図3(省略)のように,縁枠部材2は円形の電極板3を内蔵
している。そして,この縁枠部材2はそれに一体に具備されたリング状
の突片部21が上記電極板3の周縁部に重なっており,この突片部21
によって電極板3に円形の感触操作エリア10が形作られている。」
「【0019】電極板3は,周方向で4分割され相互に電気的に絶縁さ
れた4つの電極面31,32,33,34を備えている。これらの電極
面31~34は,電極板3の中心部に向かって漸次幅狭となる扇形をな
し,それらの電極面31~34が中心部において相互に突合せ状に配置
されている。また,4つの電極面31~34の相互間には電気絶縁用の
隙間35,36,37,38が確保されている。そして,電気絶縁シー
ト4が,4つの電極面31~34を覆って電極板3に重ねられており,
オペレータはこの電気絶縁シート4の上から上記電極面31~34に指
を押し付けたり電気絶縁シート4の上で指を動かしたりするようになっ
ている。」
「【0020】上記縁枠部材2において,感触操作エリア10を形作っ
ているリング状の突片部21には,外方に向かって上り勾配となり感触
操作エリア10に連続して配備された傾斜面22(テーパ面)が備わっ
ている。」
「【0021】このような感触操作部Aにおいて,電極板3の中心部に
電気絶縁シート4の上からオペレータが指Fを置いたときには,その指
Fが4つの電極面31~34に電気絶縁シート4を介して重なり,しか
も,感触操作エリア10の大きさは,電極板3の中心部に置いた指Fの
周囲に,ある程度の指Fの動き代が確保される大きさになっている。」
「【0023】以上のように構成された感触式座標入力装置の感触操作
部Aにおいて,図2に示したように,1つおきに位置する所定の2つの
電極面31,33がディスプレイのX軸方向の+座標と-座標とに割り
当てられ,残る2つの電極面32,34がディスプレイのY軸方向の+
座標と-座標とに割り当てられ,4つの電極面31~34が集まる電極
板3の中心部Oが原点すなわち座標〔0,0〕に割り当てられる。」
「【0024】この構成で,オペレータが自分の指Fを図3(省略)の
ように電気絶縁シート4の上から電極板3の上に置いた場合,個々の電
極面31~34と指Fとの間の静電容量が,個々の電極面31~34に
対する指の重なり面積に応じて相違する。したがって,指を置いたとき
に個々の電極面31~34を経て出力される信号を合成処理することに
より,ディスプレイ上でカーソルをX軸方向およびY軸方向に移動させ
ることができるようになる。」
「【0025】ディスプレイ上でカーソルを移動させたい方向にオペレ
ータが指Fを電気絶縁シート4に接触させてその上で動かす場合,その
指Fが縁枠部材2の突片部21に当たると,その位置が感触操作エリア
10の輪郭位置であると感覚的に認識できる。このため,オペレータは
感触操作エリア10を目で見ていなくても,感触操作エリア10の中で
指Fを所望の方向に動かしてディスプレイ上のカーソルを自由に移動さ
せることができる。また,オペレータが感触操作エリア10の中で指F
を繰り返し手繰り操作してディスプレイ上のカーソルを広範囲に動かす
場合には,指Fが楕円軌跡を描くような運動を行うが,この実施例では,
縁枠部材2に,感触操作エリア10に連続しかつ外方に向かって上り勾
配となる傾斜面22が備わっていることにより,そのような指Fの運動
が傾斜面22によって助けられ,指Fの手繰り操作を楽に行うことがで
きるようになる。さらに,縁枠部材2は,目で見ずに操作を行う所謂ブ
ラインドタッチの操作時に感触操作エリア10からの指Fの滑り落ちを
防ぐことに役立つ。」
「【0026】また,感触操作エリア10が指Fを動かすことができる
大きさになっているので,指Fを動かしてディスプレイ上でのカーソル
の動く範囲を広くしたり,指Fを電気絶縁層4に押し付けたり電気絶縁
層4の上で傾けたりすることにより上述した重なり面積を変化させてデ
ィスプレイ上でカーソルを微小移動させることが容易である。」
「【0027】図7は第1実施例で説明した感触操作部Aの基本構造を
そのまま使用して感触操作部Aにポインター機能を具備させた第2実施
例の感触操作部Aの概略縦断側面図である。」
「【0028】この第2実施例において,ケース1には,信号合成回路
や出力回路などの必要な回路を形成するための各種電気部品や電子部品
を搭載した配線基板Pと,押圧開閉式スイッチ5とが内蔵されている。
このスイッチ5は,操作部51を押し込むことにより接続状態が開状態
と閉状態との間で切り換わる。また,電気絶縁シート4が重ねられた電
極板3がケース1に対して縁枠部材2の内部で押込み復帰可能であり,
しかも,ばね6の力で常時復帰方向に弾発付勢されている。そして,上
記スイッチ5の操作部51の押込み復帰動作が電極板3の押込み復帰動
作に連動されている。」
「【0029】この第2実施例によれば,電気絶縁シート4の上で動か
した指で電極板3を押し込むと,それに連動して上記スイッチ5の操作
部51が押し込まれてこのスイッチ5の開閉状態が切り換わるので,デ
ィスプレイ上でのカーソル位置の確定操作を,カーソルの移動を制御し
ていたその指で直ちに行うことができるというポインター機能が付与さ
れる。」
「【0034】図8は第5実施例による感触操作部Aの縦断側面図,図
9はその感触操作エリア10の平面図である。」
「【0035】この実施例では,球体7が合成樹脂成形体でなるベース
部材8に具備された凹部81に回転自在に保持されている。電極板3は
中央部に開口39を有し,その開口39が球体7に嵌合されてこの球体
7の一部を表面側へ突出させている。そして,周方向で4分割され相互
に電気的に絶縁された4つの電極面31~34が上記開口の周囲におい
て相互に突合せ状に配置されている。電気絶縁シート4はその中央部に
球体7の直径よりも径小の円形開口を有している。電気絶縁シート4は,
4つの電極面31~34を覆って電極板3に重なり状に配備されかつ表
面にオペレータの指Fが接触されるものであり,球体7の直径よりも径
小の上記円形開口を球体7に合わせてある。したがって,電気絶縁シー
ト4の開口の周縁部41が球体7の表面に重なって,球体7がベース部
材8の凹部81から脱落することを防いでいる。電気絶縁シート4には,
ある程度の腰の強さを有するが,それほど大きな剛性を持たない合成樹
脂シートが用いられているので,球体7に電気絶縁シート4の開口の周
縁部41が重なっているとしても,球体7の回転は円滑に行われる。」
「【0036】このような感触操作部Aにおいては,図8に仮想線で示
したように,電極板3の周縁部において4つの上記電極面31~34の
感触操作エリア10を形作る縁枠部材2を設けたり,その縁枠部材2に,
外方に向かって上り勾配となり感触操作エリア10に連続して配備され
る傾斜面22を備えさせることは,必要に応じて行われることであ
る。」
「【0037】この実施例によれば,指Fで球体7を回転させれば,そ
の操作が自然に電気絶縁シート4の上で指を動かす操作につながり,し
かも指Fの移動により球体7が回転するので,微小範囲で指Fを動かす
ような操作をスムーズにしかも容易に行うことができる。また,球体7
が電気絶縁シート4の開口から突出しているので,球体7を指Fで感覚
的に認識することによって座標の原点を認識することができる。また,
球体7を指Fで回転させる操作は,従来より一般的に座標入力装置とし
て使用されているトラックボールのボール回転操作と同じであるため,
今までトラックボールを常用していたオペレータにとっては,感触操作
部Aの操作が違和感を感じない操作になるという利点がある。」
「【0038】以上説明した各実施例の感触操作部Aにおいては,たと
えば4つの電極板31~34のそれぞれにAC125KHzの電荷が印
加され,そうした場合には,電気絶縁シート4の上から電極面31~3
4にオペレータが指Fを置いたときに,指Fと個々の電極面31~34
との対向面積に相応して個々の電極面31~34の電圧が変動する。し
たがって,個々の電極面31~34から電圧を取り出し,その取出信号
を所謂マイコンで処理することにより,ディスプレイ上でのカーソルの
動きが指Fの動きに対応するようになる。この場合,たとえば50ms
ecのサンプリングにより個々の電極面31~34の電圧変化を読み取
り,指Fの移動に伴って発生するディスプレイ上でのX座標およびY座
標に対応するカーソルの位置を計算し,それに基づいてカーソルを動か
すことができる。このような制御方法を行う場合,たとえば図1で説明
した第1実施例の感触制御部Aにおいて,感触操作エリア10の大きさ
を1円硬化(直径が略20mm)程度にしておいても,X軸方向および
Y軸方向での分解能を100~150カウントにでき,指を大きく動か
さなくてもカーソル移動エリアが非常に大きくなる。」
「【0039】【発明の効果】請求項1~請求項9に係る発明によれば,
感触操作部をオペレータが指で操作する場合のブラインド操作性,滑り
防止性,手繰り操作性が向上し,使い勝手のよい感触式座標入力装置の
感触操作部を提供することができる。特に,請求項1に係る発明によれ
ば,感触操作エリアを形作っている縁枠部材が,感触操作エリアに連続
しかつ外方に向かって上り勾配となる傾斜面を備えているので,指の手
繰り動作を楽に行うことができるという効果がある。」
「【0040】請求項2に係る発明によれば,感触操作部のサイズを容
易に小型化・薄型化することができるという効果がある。」
「【0043】請求項5に係る発明は,ケースに対して電極板を押込み
復帰可能であり,しかもその電極板の押込み復帰動作が,ケースに内蔵
された押圧開閉式スイッチの操作部の押込み復帰動作に連動されている
ので,電極板を指で押し込んで押圧開閉式スイッチの開閉状態を切り換
えることができるというポインター機能が具備されるという効果があ
る。」
「【0044】請求項6に係る発明は,球体が座標の原点に位置し,そ
の球体の周囲に4つの電極面が配置されているので,球体の回転により
電極面での指の移動がスムーズに行われ,また,微小範囲で指を動かし
やすくなるという効果がある。また,原点の認識も容易になるという効
果がある。」
(イ)上記(ア)認定の事実によれば,甲6発明は,「電極板は,周方向で
4分割され相互に電気的に絶縁された4つの電極面が中心部で相互に突
き合わせ状に配置され,前記電極板が設置された円形状の感触操作エリ
アにおいて,対向する2つの電極面が1組となってディスプレイのX軸,
Y軸方向の+座標と-座標に,中心部が原点Oにそれぞれ割り当てられ
ており,指を感触操作エリア上に置くとその位置に応じた二次元座標上
の位置データが検出され,常時復帰方向に弾発付勢された前記電極板の
下に,前記電極板を下に押し込むことでオンとオフとの切り換えがなさ
れる押圧開閉式スイッチが設置された感触式座標入力装置」であること
が認められる。
原告は,甲6発明の電極面は円周上に配置された一次元センサーであ
るから,移動する接触点を一次元座標上の位置データとして検出するこ
とが可能であると主張するが,甲6公報にその旨の記載はなく,むしろ
二次元座標上の位置データを検出する旨が明記されているから(段落
【0008】,【0023】,【0024】),原告のこの点の主張は
失当というほかなく,これを採用することはできない。
イ本件各発明との対比
(ア)一致点
本件各発明(構成要件Gについては本件発明2)と甲6発明とは,次
の点で一致する。
a指先でなぞるように操作されるための予め特定された領域上に連続
してタッチ位置検出センサーが配置されたタッチ位置検知手段と,
b接点のオン又はオフを行うプッシュスイッチ手段とを有し,
c前記プッシュスイッチ手段の接点が,前記タッチ位置検出センサー
とは別個に配置されているとともに,前記接点のオン又はオフの状態
が,前記タッチ位置検出センサーが検知しうる接触圧力よりも大きな
力で保持されており,かつ,
d前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続し
て配置される前記領域上における前記タッチ位置検知手段におけるタ
ッチ位置検出センサーに対する接触圧力よりも大きな接触圧力での押
下により,前記プッシュスイッチ手段の接点のオン又はオフが行われ

eことを特徴とする接触操作型入力装置
fを用いた小型携帯装置。
(イ)相違点
本件発明1と甲6発明は,次の3点(①ないし③)で相違し,本件発
明2と甲6発明は,次の4点(①ないし④)で相違する。
①相違点1
本件各発明は,タッチ位置検出センサーが「所定の幅を有する連続
したリング状に予め特定された軌跡上に」配置されている(構成要件
A)のに対し,甲6発明は,このような構成となっていない点
②相違点2
本件各発明は,「軌跡に沿って移動する接触点を一次元座標上の位
置データ」として検出するものである(構成要件A)のに対し,甲6
発明には,このような構成が記載されず,タッチ位置検出センサーも
二次元座標上の位置データを検出するものである点
③相違点3
本件各発明は,プッシュスイッチ手段の接点が「前記タッチ位置検
知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌
跡に沿って」配置されているのに対し,甲6発明は,そのような構成
ではない点
④相違点4
本件発明2は,プッシュスイッチ手段が4つである(構成要件G)
のに対し,甲6発明は,これが1つである点
ウ相違点について
(ア)相違点1について
甲6公報の段落【0034】以下や【図8】及び【図9】に記載され
た第5実施例は,感触操作エリアが所定の幅を有するリング状に形成さ
れ,「所定の幅を有する連続したリング状に予め特定された軌跡上に」
配置された例の記載があるから,甲6発明を相違点1のような構成とす
ることは,当業者が容易に想到することができたものと認められる。
(イ)相違点2について
甲7公報,甲16公報,甲35公報及び甲36公報に,軌跡に沿って
移動する接触点を一次元座標上の位置データとして検出することについ
て,記載も示唆もなく,接触点を一次元座標上の位置データとして検出
することが技術常識であったと認める足りる証拠もない。そうであるか
ら,相違点2に係る本件各発明の構成は,甲6発明に基づいて,当業者
が容易に想到することができたとは認められない。また,甲6発明は,
ディスプレイ上でのカーソルの位置の移動及び確定をするための感触式
座標入力装置に関するものと解されるから,感触操作エリアにおいて一
次元座標上の位置データを検出するように変更する動機付けがあるとも
認め難い。
(ウ)したがって,本件各発明は,甲6発明に基づいて,当業者が容易に
発明をすることができたということはできない。
(8)争点2-8(本件各発明は当業者が甲7発明に基づいて容易に発明をす
ることができたか否か)について
ア甲7発明の要旨
(ア)証拠(甲7)によれば,原出願前に頒布された刊行物である甲7公
報(平成7年10月13日公開)には,別紙刊行物図面3の図面のほか,
次の記載があることが認められる。
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は,操作者が情報処理装置
のディスプレイ装置を見ながら文字等を入力する装置に係り,特に,誤
入力を低減し視力の弱い人でも容易に入力可能な文字等の入力装置に関
するものである。更に具体的には,本発明は表示手段の表示面上に透明
なタッチパネル入力手段を配置することで,表示画面に各種の操作ガイ
ダンスや操作キーを表示し,該操作キーを指先や入力ペンを介して触れ
ることにより入力を行うタッチパネル入力装置により好ましく適用され
るものである。」
「【0002】【従来の技術】従来より,CRTデイスプレイや液晶デ
イスプレイ等の表示器の表示画面上に透明な座標入力タブレット(タッ
チパネル入力手段)を配置し,表示面にソフトウエア的なキーボードを
表示し,表示された各キー上の座標入力面を操作して情報入力を行う装
置が知られている。」
「【0004】【発明が解決しようとする課題】前記従来例においては,
入力面の操作位置とは異なる場所にその操作に対応した入力機能名が表
示されるために,操作者は容易に現在の操作に対応した機能を選択する
ことができる。しかし,表示画面に表示された入力機能キーの部分を押
下し,押下を中止した時点でその入力機能が実施されるので,入力者が
誤って表示面から指先などを離した時点で入力機能が実施されるという
誤入力のおそれがある。」
「【0005】特に,この種のタッチパネル入力装置は,操作が不慣れ
な利用者が利用する情報装置,例えば,利用者層が幅広い現金自動預入
装置等の自動取引処理装置に採用されることが多いため,表示面から指
先などを離した時点で入力機能が実施される前記従来例では,誤入力が
大きな課題となる。」
「【0006】更に,前記従来例では,押下した機能を取止める場合,
押下するキーの領域外に指をずらしてから離さなくてはならず,操作に
不慣れな利用者にとって分かりにくく,わずらわしいものである。」
「【0007】また,この種のタッチパネル入力装置は,一つの表示画
面上に各種操作キーや操作ガイダンス等の多くの情報を表示するため,
必然的に各キーのサイズを小さくする必要がある。特に,対象キーが多
くなる日本文やアルフアベットの入力画面においては,多数の入力キー
からなるキーボードが表示され,その多数の入力キーから目的の入力キ
ーを選んで押下することは,お年寄りや弱視のユーザに多大な負担を強
いることになる。」
「【0008】本発明は,このような課題を解決するために成されたも
のであり,その目的は文字の誤入力を低減する入力装置と文字入力方法
を提供することにある。」
「【0009】また,他の目的は,弱視のユーザに使いやすい文字入力
装置および文字入力方法を提供することにある。」
「【0010】【課題を解決するための手段】以下,上記目的を達成す
るための本発明の代表的な構成を示す。」
「【0011】本発明による文字入力装置は,入出力結果を表示する表
示手段と,前記表示手段の表示内容に対応して座標指示を行う入力手段
と,前記表示手段と入力手段を制御する制御手段とを備え,前記表示手
段の表示画面に,予め定められた複数の文字の中から入力文字を選択す
る文字選択エリアと,少なくとも該文字選択エリアで選択される選択文
字を確定文字として確定されるまでの間,文字選択エリアで選択される
選択文字を随時表示し,該選択文字入力を確定文字として指定すること
により,確定文字を順次表示する表示エリアとを備えたものである。」
「【0012】好ましくは,前記表示エリアは,少なくとも前記文字選
択エリアで選択される選択文字を確定文字として確定されるまでの間,
文字選択エリアで選択される選択文字を随時表示し,該選択文字を指定
して入力確定文字とする選択文字指定表示エリアと,該入力確定文字を
順次表示する確定文字表示エリアとを備える。前記選択文字指定表示エ
リアは,少なくとも前記文字選択エリアで選択される選択文字を確定文
字として確定されるまでの間,前記文字選択エリアで選択される選択文
字を随時表示する選択文字表示エリアと,該選択文字表示エリアに表示
された選択文字を入力確定文字とする指定表示エリアとを備える。」
「【0013】本発明による文字入力装置は,他の見地によれば,入出
力結果を表示する表示手段と,前記表示手段の表示面上に配置され,表
示内容に対応して座標指示を行う透明なタッチパネル入力手段と,前記
表示手段と入力手段を制御する制御手段とを備え,前記表示手段の表示
画面の概略上半分全面に入力文字キーを選択する確定文字表示エリアを
設け,表示画面の概略下半分に,予め定められた複数の文字の中から入
力文字を選択する文字選択エリアと,少なくとも前記文字選択エリアで
選択される選択文字を確定文字として確定されるまでの間,文字選択エ
リアで選択される選択文字を随時表示し,該選択文字を指定して入力確
定文字とする選択文字指定表示エリアとを並設したものである。」
「【0014】この場合,表示画面の概略下半分の操作腕側角近傍に前
記文字選択エリアを設け,表示画面の概略下半分の中央に前記選択文字
指定表示エリアを設け,表示画面の概略下半分の操作腕側の反対側に前
記確定文字表示エリアの内容を実行させる実行キーと前記内容を消去す
るクリアキーとを設けることが望ましい。前記操作腕が右腕の場合の画
面と前記操作腕が左腕の場合の画面とを切り替える画面反転キーを設け
てもよい。」
「【0015】前記文字選択エリアには個々の文字に対応した複数の区
画が表示されることが好ましく,該複数の区画の各々には当該区画がど
の文字に対応するかを示すマークは付される必要はない。」
「【0016】本発明による文字入力方法は,入出力結果を表示する表
示手段と,前記表示手段の表示内容に対応して座標指示を行う入力手段
と,前記表示手段と入力手段を制御する制御手段とを備えた文字入力装
置において,以下のステップからなるものである。」
「【0017】①表示手段に表示される文字選択エリアで予め定められ
た複数の文字の中から入力文字を選択する
②文字選択エリアで選択された入力文字を選択文字として一時表示す

③前記選択文字を確定指示する
④確定指示された選択文字を確定文字として所定の位置に表示す
る。」
「【0018】一時表示された選択文字が確定指示されず,再度文字選
択エリアで選択文字が選択された場合には,最初に選択された選択文字
を消去し,最新の選択文字を一時表示する。」
「【0019】好ましくは,前記選択文字は,前記文字選択エリアとは
別の予め定められた固定位置において一時表示し,前記確定文字は,前
記文字選択エリアとは別の固定エリア内に順次並べて表示する。」
「【0020】本発明による文字入力方法は,他の見地によれば,入出
力結果を表示する表示手段と,前記表示手段の表示内容に対応して座標
指示を行う前記表示手段の表示画面上に配置されるタッチパネルと,座
標データに対応して入力文字を定義した選択文字ファイルを備えた記憶
手段と,前記表示手段と入力手段と記憶手段を統括する制御手段とを備
えた文字入力装置において,以下のステップからなるものである。」
「【0021】①表示手段に表示され,入力文字に対応して設定された
複数の区画部が標準文字順列にしたがって配置された文字選択エリアを
なぞるように接触指示することにより区画部を選択する
②前記選択された区画部の座標データをタッチパネルから得て,該座
標データに対応する選択文字を選択文字ファイルから読込んで,少なく
とも確定文字として確定されるまでの間,該選択文字を,文字選択エリ
アの領域外に操作キーの形式で拡大表示される選択文字指定表示エリア
に随時一時表示する
③選択文字指定表示エリアに一時表示された前記選択文字を確定指示
する
④確定指示された選択文字を確定文字として確定文字表示エリアの所
定の位置に表示する。」
「【0022】【作用】本発明によれば,文字選択エリアで選択する任
意の選択文字は,少なくとも確定文字として確定するまでの間に文字選
択エリアの領域外に一旦一時表示(仮表示)される。利用者は,この一
時表示を確認して,再度文字入力選定作業に戻ったり,入力作業を続行
することができる。すなわち,該選択文字指定表示エリアに一時表示さ
れる選択文字の正誤を確認して,間違っていれば,再度文字選択エリア
で入力文字を選択し,正しければ,選択文字指定表示エリア(または入
力確定文字を指定するために他のエリアと分離独立して設けた指定エリ
ア)で入力確定文字を確定することにより,前記確定文字表示エリアに
確定文字が順次表示される。」
「【0023】このように,入力文字の確定指示は入力文字の選択動作
とは別個の動作であるので,誤入力のおそれが軽減される。しかも,選
択文字は文字選択エリアの領域外に表示されるので,文字選択エリアの
目視は必ずしも必要ではなく,また各区画に文字マークを付す必要もな
い。したがって,利用者が指でなぞる文字選択エリアの範囲を小さくす
ることができ,指示操作が容易になる。」
「【0024】一方,目視が必要な文字指定エリアは1文字を表示でき
ればよいので,表示画面上の固定位置に大きいエリアを設定することが
できる。したがって,お年寄りや弱視の利用者にも見やすく使いやすい,
操作性の高い文字入力装置を提供することができる。」
「【0025】また,文字選択エリアで選択する任意の選択文字が一時
表示されるエリアを,入力確定文字を順次表示する確定文字表示エリア
と分離独立して設け,選択文字が確定される毎にその確定文字を確定文
字表示エリアに順次転送表示することにより,利用者は,当該文字が確
定されたことを容易にかつ的確に認識することができる。」
「【0026】更に,タッチパネル入力装置を採用し,表示画面の概略
上半分全面に確定文字表示エリアを設け,表示画面の概略下半分に,文
字選択エリアと選択文字指定表示エリアとを並設,または,操作腕側角
近傍に文字選択エリア,中央に選択文字指定表示エリア,操作腕側の反
対側に実行キーとクリアキーを設けることにより,操作する腕が目視が
必要な文字指定エリアと表示エリアを隠すことがない。このような画面
構成は,利用者が操作腕により文字入力を行う上で,最適な操作性を提
供するものである。」
「【0027】本発明の文字入力方法および入力装置は,特に,現金自
動預入機等の不特定多数の利用者を対象とした用途に使用して好適であ
る。」
「【0028】【実施例】以下,本発明に係る実施例を,図面を参照し
て詳細に説明する。」
「【0032】次に,図1において,本実施例に係るタッチパネル入力
装置の表示画面を説明する。表示器1に表示される表示画面8には,画
面下部右側に文字選択エリア9と,画面下部中央に選択文字指定表示エ
リア10(入力文字キーという)と,画面下部左側に実行キー11とク
リアキー12と,画面上部に確定文字表示エリア13とが表示され
る。」
「【0033】文字選択エリア9は,入力文字キー10を選択するエリ
アであり,縦横に区画された碁盤状に文字群が表示され,該当する区画
部14を押下することにより入力文字を選択することができる。入力文
字キー10は文字選択エリア9で選択された入力文字をキーの形式で表
示するものであり,この入力文字キー10を押下することにより入力文
字を確定文字とすることができる。確定文字表示エリア13は,入力文
字キー10で確定された確定文字を順次表示するエリアである。実行キ
ー11は,確定文字表示エリア13に表示された確定文字列を利用して
処理続行を指示する操作キーである。クリアキー12は,確定文字表示
エリア13に表示された確定文字列を消去する操作キーである。ここで,
入力文字キー10と実行キー11及びクリアキー12は陰影や色彩で凹
凸感をグラフイックで表現することで,押下する操作キーであることを
操作者に印象付けるようにしている。」
「【0036】次に,図5において,文字選択エリア9から入力文字キ
ー10に表示すべき文字を選択するフアイル構成を説明する。図中,
(a)図は文字選択エリア9の拡大図,(b)図はメモリ6に納められた選
択文字ファイルの構成図,(c)図は文字選択エリア9と選択文字ファイ
ルの選択文字キー対応表である。先ず,本実施例では,カタカナ50音
に対応する入力文字を選択するために,文字選択エリア9をX軸方向に
「アカサタナ・・」の11列,Y軸方向に「アイウエオ」の5段を示す
ように区画している。各区画部14には対応する文字の識別表示をせず,
周囲の区画部と識別できる程度に交互に白黒反転させている。また,文
字選択エリア9上に位置するタッチパネル2には各区画部14に対応す
る部分について,X軸方向とY軸方向でそのアドレスが特定される。な
お,図面中,白黒反転の(a)図の文字選択エリア9の周囲に座標数字と
XYを記載しているが,これは説明用に付したものであり,実際の表示
画面で表示しなくとも同様の効果を得ることができる。また,図示しな
いが,文字選択エリア9に濁点を有する文字,拗音等の文字を追加して
もよい。さらに,「かな」と「アルファベット」とを切り替え選択する
ための文字種選択キーと,アルファベット対応の文字選択エリア9とを
設け,その文字種選択キーの切り替えによって所望の文字種で入力でき
るようにすることも可能である。」
「【0037】一方,(b)図に示すように,メモリ6には,文字選択エ
リア9で特定されるX軸データとY軸データとからなるアドレスデータ
と,そのデータに対応した対応文字とが格納された選択文字ファイル5
0が納められている。例えば,アドレスデータのX1,Y1には「ア」
の文字が対応づけられ,アドレスデータのX1,Y4には「エ」の文字
が対応づけられている。このアドレスデータと対応文字とは,(c)図に
示すように,文字選択エリア9が50音表をなすように設定してい
る。」
「【0038】本実施例では,操作者による文字選択エリア9の各区画
14の指示により,その区画14に対応した文字が文字選択エリア9と
は別に設けられた選択文字指定表示エリア10に拡大されて表示される
ので,文字選択エリア9に表示文字を付さなくても現在指示している文
字が何であるかを容易に認識することができる。さらに,文字選択エリ
ア9の文字文字配列を操作者の慣れ親しんだ50音表形式とすることに
より,目的の文字の指示も迅速に行なえる。しかも,文字選択エリア9
をなぞるように操作することにより選択文字を入力文字キー10で確認
しながら操作できるので,文字選択エリア9のサイズを小さく,即ち多
数の入力キーを凝縮して配置することができるので,表示画面8をスペ
ースのゆとりをもたせることができるから,結果として,入力文字キー
10の大きく表示することができる。」
「【0040】先ず,図1に示した形態の初期画面について,制御部7
はメモリ6から図1に示す画像データを呼び出して表示制御部4を介し
て表示器1に表示している。この状態において,文字選択エリア9で選
択文字の選定を行うことができる(S61)。」
「【0041】選択文字を選定する場合には,指先または入力ペンで文
字選択エリア9を押下すると,座標検知部5はタッチパネル2から得ら
れるX軸データとY軸データに基づいて座標データを生成し,制御部7
に出力する。制御部7は前記座標データを受けて,メモリ6に納められ
た選択文字ファイル50からアドレスデータに対応した対応文字を抽出
し,表示制御部4を介して入力文字キー10に表示する(S62)。本
タッチパネル入力装置では,選択文字を文字選択エリア9で探して選択
文字キー10で確認するようしているので,通常,入力文字キー10に
表示される文字を確認しながら文字選択エリア9をなぞるようにして目
的の選択文字を探すようにする。例えば,図5において,文字「ヒ」を
選択する場合には,矢印Qに沿って目的の選択文字を選択することがで
きる。つまり,先ず,X1Y1の位置で表示画面を指でタッチするこに
より入力文字キー10に「ア」を表示させ,次に,指をX軸方向になぞ
ることにより,入力文字キー10に「ア」「カ」「サ」「タ」「ナ」
「ハ」と順に表示させ,X6Y1(ハ)の位置でY軸方向になぞると,
目的の「ヒ」を選択することができる。」
「【0042】図1は選択文字の選定中の画面表示を示したものであり,
既に,「ナ」と「マ」を確定文字として確定文字表示エリア13に表示
し,今,文字選択エリア9における指の指示により「エ」を選択した状
態を示している。」
「【0043】次に,入力文字キー10に表示された選択文字を確定す
る場合は,入力文字キー10を押下することにより(S63,YES),
座標検知部5はタッチパネル2から得られるX軸データとY軸データに
基づいて座標データを生成し,制御部7に出力する。制御部7は,前記
座標データを受けて,入力文字キー10に表示される選択文字が確定さ
れたことを認識し,入力文字キー10全体を一時的に反転表示させて操
作者に押下したことを認識させ,その後,選択文字を確定文字として確
定文字表示エリア13の所定の位置に表示するとともに,入力文字キー
10に表示された選択文字を削除する(S64)。ここで,本実施例で
は文字入力キー10内の選択文字を確定と同時に削除しているが,次に
新たな文字が文字選択エリア9から選択されたときに削除するようにし
てもよい。これにより,新たな文字を選択するまでは,入力文字キー1
0にそのまま前の選択文字が表示されつづけるので,偶然,同一の文字
が連続する場合に,同一の入力文字を再度選択することなく,確定操作
をするだけで済む。」
「【0052】更に,文字選択エリア9ではX軸とY軸の2次元で選択
文字を選択するようにしているが,例えば,押下する圧力を感知するタ
ッチパネルを使用することにより,タッチパネル2の押下の圧力をZ軸
として文字の種別(ひらがな,カタカナ等)を指示する等,3次元で選
択文字の選択を可能とすることができる。」
「【0053】また,本実施例では入力装置をタッチパネルとしている
が,表示内容に対応して座標指示を行う入力装置,例えば,マウス,ト
ラックボール,ジョイスティク等のポインティングデバイスでも同様な
効果を得ることができる。この場合,表示画面を手で触れる動作は,ポ
インティングデバイスに付属のボタンを押すことで代替できる。すなわ
ち,文字選択エリア9の指示は付属のボタンを押したままポインティン
グカーソルを移動させることが,指で文字選択エリアをなぞることに対
応する。キー10,11,12の指示も,そのボタンを押下することに
より行なえる。」
「【0054】図7は本発明に係るタッチパネル入力装置の他の実施例
の文字選択エリアの説明図である。」
「【0055】(a)図中,16は,区画部15を円周方向に配列形成し
たリング状の文字選択エリアであり,該文字選択エリア15を円周方向
になぞることにより,入力文字を選択し入力文字キー10に表示するも
のである。この文字選択エリア15を制御する制御部は,座標データを
監視して移動方向を求め,現在,入力文字キー10に表示されている選
択文字を基準にして,対応文字が順に配列されるメモリ6内に納められ
た選択文字フアイルから出力し,入力文字キー10に表示する。したが
って,指で円周方向に文字選択エリア16をなぞることにより,選択文
字を選択することができる。なお,タッチパネル2の指先が接触する表
面に文字選択エリア16に沿って凹凸形状の透明なガイドを設けること
により,より操作性向上することができる。」
「【0070】【発明の効果】本発明によれば,文字選択エリアで選択
する任意の選択文字は,確定文字として確定するまでの間に一旦文字表
示エリアに仮表示されるから,この仮表示を確認して,再度文字入力選
定作業に戻ったり,入力作業を続行することができ,その結果,誤入力
を軽減することができる。」
「【0071】また,本発明によれば,目視が不要な文字選択エリアを
凝縮し,目視が必要な選択文字の仮表示を見やすく,大きくして,前記
選択文字を確認しながら必要な選択文字を選択でき,しかも,該選択文
字による確定指示により選択文字を確定文字として所定の位置に順次表
示することができるので,入力文字の視認性を向上させて操作性を向上
させることができる。」
(イ)上記(ア)認定の事実によれば,甲7発明は,「リング状の領域を指
でなぞることにより入力文字の選択を行う文字選択エリアにおいて,選
択した所望の文字の入力を前記文字選択エリア上での押下により行うこ
とができる,ATM等に用いられるためのタッチパネル入力装置」であ
ることが認められる。
原告は,甲7公報の【図7】(a)に示される文字選択エリア16は,
区画部15に沿って移動する指(接触点)を一次元座標上の位置データ
として検出していると主張する。しかしながら,甲7公報には,【図
7】(a)についての説明である段落【0055】に文字選択エリアを操
作することにより一次元座標上の位置データとして検出する旨の記載は
なく,かえって,文字選択エリアにおける文字選択に用いる座標データ
は二次元座標データであると記載されているから(段落【0036】,
【0037】,【0041】,【0043】,【0052】),文字選
択エリアが一次元座標上の位置データを検出することについての記載が
あるとは認められない。原告の上記主張は,採用することができない。
イ本件各発明との対比
(ア)一致点
本件各発明と甲7発明とは,次の点で一致する。
a指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有する連続したリ
ング状に予め特定された軌跡上に連続してタッチ位置検出センサーが
配置されたタッチ位置検知手段を有する
e接触操作型入力装置
(イ)相違点
本件発明1と甲7発明は,次の4点(①ないし③及び⑤)で相違し,
本件発明2と甲7発明は,次の5点(①ないし⑤)で相違する。
①相違点1
本件各発明は,タッチ位置検知手段が「前記軌跡に沿って移動する
接触点を一次元座標上の位置データとして検出する」(構成要件A)
のに対し,甲7発明では,そのような構成とされていない点
②相違点2
本件各発明は,「接点のオンまたはオフを行うプッシュスイッチ手
段」(構成要件B)を有するのに対し,甲7発明では,このようなプ
ッシュスイッチ手段が記載されていない点
③相違点3
本件各発明は,プッシュスイッチ手段の接点が,タッチ位置検出セ
ンサーとは別個に配置されているとともに,接点のオンオフの状態が,
タッチ位置検出センサーが検知しうる接触圧力よりも大きな力で保持
され(構成要件C),タッチ位置検出センサーに対する接触圧力より
も大きな接触圧力での押下によりプッシュスイッチ手段の接点のオン
又はオフが行われる(構成要件D)のに対し,甲7発明では,接点の
オン又はオフを行うプッシュスイッチ手段が記載されていない点
④相違点4
本件発明2では,プッシュスイッチ手段が4つであるのに対し,甲
7発明では接点のオン又はオフを行うプッシュスイッチ手段が記載さ
れていない点
⑤相違点5
本件各発明は,小型携帯装置に関するものであるのに対し,甲7発
明は,そうではない点
ウ相違点1について
甲7公報には,文字選択エリアが一次元座標上の位置データを検出する
ことについて,記載も示唆もなく,接触点を一次元座標上の位置データと
して検出することが周知技術であったとか,技術常識であったと認めるこ
ともできない。そうであるから,原出願当時,相違点1に係る本件各発明
の構成は,甲7発明に基づいて,当業者が容易に想到することができたと
は認められない。
したがって,本件各発明は,甲7発明に基づいて,当業者が容易に発明
をすることができたということはできない。
(9)争点2-9(本件各発明は当業者が甲31発明に基づいて容易に発明を
することができたか否か)について
ア甲31発明の要旨
(ア)証拠(甲31)によれば,原出願前に頒布された刊行物である甲3
1公報(平成9年9月22日)には,別紙刊行物図面6の図面のほか,
次の記載があることが認められる。
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,電子計算機や通信
端末等の出力画面上で座標位置を入力する装置に関する。」
「【0002】【従来の技術】従来のコンピュータ端末や通信用の携帯
端末などで出力画面上から座標入力やスイッチ動作を行う場合,出力画
面上の固定された枠内の座標を入力するためにタッチパネル上の位置を
なぞることで座標を指示し,別にタッチパネル上の一瞬のタッチ動作で
スイッチ動作としてのクリック操作を行っていた。」
「【0003】あるいは,出力画面上の固定された枠内をタッチパネル
として座標入力を行い,クリック用ボタンをその固定枠外においてクリ
ック入力を行うようにしていた。」
「【0004】しかし,前者の場合のような座標入力操作やクリック操
作では,どちらもタッチするという操作が同じであり,タッチする時間
の違いで機能の判断を行っている。このような,一瞬タッチするという
あやふやな入力動作では,確実に入力を行ったというクリック感が損な
われるし,またコンピュータ側でもこのような動作は曖昧であるために,
指定したとおりに動作しなかったり,誤った機能として働いたりすると
いう問題があった。」
「【0005】一方,後者のような方法では,クリック用ボタンをその
固定枠外においているため,操作性が損なわれるという問題があっ
た。」
「【0006】【発明が解決しようとする課題】上述のごとく,従来か
らの出力画面を用いた座標入力やスイッチ動作では,入力動作が不完全
で誤りが多かったり,使用感や操作性の面で不便であったりする不都合
があった。」
「【0007】本発明はこのような問題を解決して,同じ長方形型の枠
内でありながら,座標入力はタッチパネルで行い,クリックはボタンを
押す動作で行い,明確に座標入力とクリック操作とを区別し,操作感の
あるクリック機能を実現するとともに,誤りが少なく操作性に優れた座
標入力を実現した座標入力装置の提供を課題とする。」
「【0008】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため,
本発明の座標入力装置には,座標入力機能を有するタッチパネルとして
動作する上面パネル手段と,前記上面パネル手段を押し下げることによ
って接点をオンオフするスイッチ手段とを設ける。」
「【0009】これにより,同一の操作部分を用いて,座標入力はタッ
チパネルで行い,クリックはボタンを押す動作で行い,明確に座標入力
とクリック操作とを区別し,操作感のあるクリック機能を実現すること
ができる。」
「【0012】本発明のさらに他の座標入力装置には,座標入力機能を
有するタッチパネルとして動作する上面パネル手段と,前記上面パネル
手段の左右の端部を押し下げることによって独立に接点をオンオフする
2つのスイッチ手段とを設ける。これにより,同一の操作部分を用いて,
座標入力はタッチパネルで行い,クリックはボタンを押す動作で行い,
明確に座標入力とクリック操作とを区別し,操作感のあるクリック機能
を実現することができるとともに,2つボタン対応にすることができ,
かつ操作部分を小形にすることができる。」
「【0033】(実施の形態3)この実施形態の座標入力装置は,ボタ
ンにシーソー形の動作を許し,ボタンを押す位置で2つボタン対応がで
きるようにし,ボタンの上部にタッチパネルのセンサを設けるようにし
たものである。」
「【0035】図5(a)は,上記座標入力装置(タッチパネル付きクリ
ックボタン)を示す正面図である。図5(a)において51は入力装置,
52はタッチパネル部,また,59はタッチパネル部の上面をなぞった
時の軌跡である。」
「【0036】図5(b)はタッチパネル部52のボタンが押される前の
断面図であり,図5(c)は左ボタン装置55が押された後の断面図であ
る。また,図5(d)は右ボタン装置57が押された後の断面図である。
56はタッチパネル部52の支点である。」
「【0037】次に,この実施形態の動作を説明する。この固定座標入
力装置では,操作性を損なわぬように同じ場所で座標入力動作と,クリ
ック動作とを行うことを可能とし,また動作を,触れる動作と押す動作
とに明確に区分し,ボタンを確実に押したというクリック感を出すよう
にしている。」
「【0038】入力装置51上部のタッチパネル部52に,軌跡59を
描くように触れることによって,携帯端末のディスプレイ31上ではマ
ウスポインタ32が,マウスポインタ33の位置に移動する。」
「【0039】次に,タッチパネル部52でクリック動作を行う場合の
動作を説明する。左クリックを行う場合には,タッチパネル部52の左
側をそのまま強く押し込むことで左ボタン装置55が押し下がり,図5
(b)の状態から図5(c)の状態になる。押している力を抜けば,左ボタ
ン装置55は,ばねの力で図5(b)の状態に戻り,左クリック動作が行
われる。」
「【0040】右クリックを行う場合には,タッチパネル部52の右側
をそのまま強く押し込むことで右ボタン装置57が押し下がり,図5
(b)の状態から図5(d)の状態になる。押している力を抜けば,右ボタ
ン装置57は,ばねの力で図5(b)の状態に戻り,右クリック動作が行
われる。」
「【0041】このようにすることによって,入力装置51の枠内だけ
で座標入力とクリック動作が可能であり,2つの動作を明確に区別でき,
かつ2つボタン対応にすることができる。」
「【0042】【発明の効果】以上説明したように本発明では,座標入
力装置の表面をタッチパネルとして働かせ,かつタッチパネル部分を押
し下げることでスイッチ動作ができるようにしたので,1つの操作枠内
で,座標入力とクリック動作が可能になり,俊敏な操作性を維持すると
共に,2つの動作を明確に区別でき,かつクリック感があり,誤動作の
少ない座標入力装置を実現することができる。」
(イ)上記(ア)認定の事実によれば,甲31発明は,「座標入力機能を有
するタッチパネルとして動作する長方形型の上面パネル手段と,前記上
面パネル手段の左右の端部を押し下げることによって独立に接点をオン
オフする2つのボタン装置であるスイッチ手段とを有し,タッチパネル
部に指で触れることにより座標入力がされ,タッチパネル部の左端又は
右端を強く押し込むことでタッチパネル部とは別個にその下部に配置さ
れたボタン装置が押し下がって接点のオンオフがされ,離すと元に戻る
ことによってクリック操作が行われる座標入力装置」であることが認め
られる。
原告は,甲31公報では,【図5】(a)に軌跡59が示されているか
ら,タッチ位置検出センサーが「所定の幅を有する連続した軌跡上」に
配置されていることが記載されていると主張する。しかしながら,証拠
(甲1の1)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,解決すべ
き課題に関し,「予め決められた1次元または2次元もしくは3次元上
の軌跡上の位置,変移値および押圧を検知するような軌道に沿った指先
による接触点の位置を検出すると共にその変位,移動量を算出する電子
部品または該変位,移動量を算出するための出力を有する一体化された
電子部品等は存在しない。」(段落【0002】),「近年,これらの
X-Y軸上での位置検出に非常に多くの接触型検知手段およびセンサー
形状が提案されているが,いずれもこの2軸上の位置検出に目を奪われ
ているために特定の軌道上での接触検知に対する発明がなされていない
のが実状である。」(段落【0008】)との記載があることが認めら
れるところ,本件各発明が課題を解決するためのものであることからす
ると,「軌跡」は,指先でなぞるように操作されるための所定の軌道を
意味するものと解される。ところで,甲31公報の【図5】(a)の軌跡
59は,このような軌道でなく,単に指でなぞった跡を示すに過ぎない
から,これをもって,タッチ位置検出センサーが「所定の幅を有する連
続した軌跡上」に配置されていることが記載されていると解することは
できず,他に甲31発明にその記載があると認めこともできない。原告
の上記主張は,採用することができない。
イ本件各発明との対比
(ア)本件各発明と甲31発明とは,次の点で一致する。
a指先でなぞるように操作されるための領域上に連続してタッチ位置
検出センサーが配置されたタッチ位置検知手段と,
b接点のオン又はオフを行うプッシュスイッチ手段とを有し,
c前記プッシュスイッチ手段の接点が,前記連続して配置されるタッ
チ位置検出センサーとは別個に配置されているとともに,前記接点の
オン又はオフの状態が,前記タッチ位置検出センサーが検知しうる接
触圧力よりも大きな力で保持されており,
d前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続し
て配置される前記領域上における前記タッチ位置検出センサーに対す
る接触圧力よりも大きな接触圧力での押下により,前記プッシュスイ
ッチ手段の接点のオン又はオフが行われる
eことを特徴とする接触操作型入力装置
fを用いた小型携帯装置。
(イ)相違点
本件発明1と甲31発明は,次の3点(①ないし③)で相違し,本件
発明2と甲31発明は,次の4点(①ないし④)で相違する。
①相違点1
本件各発明は,タッチ位置検出センサーが「所定の幅を有する連続
したリング状に予め特定された軌跡上」に配置されているのに対し
(構成要件A),甲31発明ではそのようなリング状の軌跡上に配置
されていない点
②相違点2
本件各発明は,タッチ位置検知手段が「前記軌跡に沿って移動する
接触点を一次元座標上の位置データとして検出する」(構成要件A)
のに対し,甲31発明では,そのような構成が記載されていない点
③相違点3
本件各発明は,タッチ位置検出センサーが連続して配置される軌跡
に沿って,プッシュスイッチ手段の接点が配置されている(構成要件
C)のに対し,甲31発明では,そのような構成が記載されていない

④相違点4
本件発明2は,プッシュスイッチ手段が4つである(構成要件G)
のに対し,甲31発明では,これが2つである点
ウ相違点について
(ア)相違点1について
甲31発明は,座標入力機能を有するタッチパネルとして動作する長
方形型の上面パネル手段であるから,タッチパネルをリング状の軌跡上
に配置すると,上面パネル手段の形状と異なるので,所望の位置の座標
入力(上面パネル手段上でのポインタの移動)が不可能ないしは著しく
困難となってしまうと考えられる。そうであるから,甲31発明には,
タッチ位置検出センサーをリング状の軌跡上に配置することについて,
阻害要因があるというべきである。
(イ)相違点2について
甲5公報,甲6公報,甲7公報,甲16公報,甲35公報及び甲36
公報に,接触点を一次元座標上の位置データとして検出することについ
て,記載も示唆もなく,接触点を一次元座標の位置データとして検出す
ることが技術常識であったと認めるに足りる証拠もない。そうであるか
ら,相違点2に係る本件各発明の構成は,甲31に基づいて,当業者が
容易に想到することができたと認めることはできない。
(ウ)したがって,本件各発明は,甲31発明に基づいて,当業者が容易
に発明をすることができたということはできない。
(10)争点2-10(本件各発明は当業者が甲39発明に基づいて容易に発明
をすることができたか否か)について
ア甲39発明の要旨
(ア)証拠(甲39)によれば,原出願前に頒布された刊行物である甲3
9公報(平成5年7月30日公開)には,別紙刊行物図面10の図面の
ほか,次の記載があることが認められる。
「【0001】【産業上の利用分野】本発明はデータを入力するための
入力装置に関し,特に数値制御装置等のデータ入力に用いられる入力装
置に関する。」
「【0003】そこで,CRT等の表示画面上にマトリクス状のタッチ
式スイッチを設けた,所謂タッチスクリーンと呼ばれる入力装置が使用
されている。このタッチスクリーンには,抵抗膜方式,静電容量方式,
赤外線方式,および超音波方式等の方式がある。」
「【0004】【発明が解決しようとする課題】しかし,抵抗膜方式お
よび静電容量方式は,表示画面上に薄い膜を張るので透明度が低下する
という問題点があった。また,これらは表示画面に直接手を触れて入力
する方式なので,画面が汚れ易いという欠点があった。特に,数値制御
装置等に用いた場合には,油や埃等のため,さらに汚れがひどくなると
いう問題点があった。」
「【0005】また,赤外線方式や超音波方式の場合には,表示画面上
に直射日光が当たったり,虫や水滴等が付着しただけでもスイッチが入
ってしまう虞れがあった。本発明はこのような点に鑑みてなされたもの
であり,フレキシブルな対応が可能であり,表示画面を汚すことなく,
かつ正確なデータ入力の可能な入力装置を提供することを目的とす
る。」
「【0006】【課題を解決するための手段】本発明では上記課題を解
決するために,データを入力するための入力装置において,マトリクス
状の複数の接触領域を有する接触部と,前記接触領域が所定範囲内の圧
力を受けたとき入力を検知する第1の入力機構部と,前記接触領域が前
記所定範囲より大きい圧力を受けたとき入力を検知する第2の入力機構
部と,からなるタッチパネルと,前記タッチパネルで選択するための入
力データを表示装置の画面上の各表示領域に表示する入力データ表示手
段と,前記第1の入力機構部により前記接触領域の入力が検知されると
前記入力された接触領域に対応する前記表示領域を特徴表示する特徴表
示手段と,前記第2の入力機構部により前記接触領域の入力が検知され
ると前記入力された接触領域に対応する前記画面上の前記入力データを
確定する入力データ確定手段と,から構成されることを特徴とする入力
装置が提供される。」
「【0007】【作用】オペレータがタッチパネルの接触領域を所定範
囲内の圧力で押すと,第1の入力機構部がこれを検知するとともに,入
力された接触領域に対応する表示装置の表示領域が特徴表示される。こ
れにより,オペレータが押した接触領域が画面のどの位置に対応してい
るかが一目で分かる。」
「【0008】さらに,オペレータがタッチパネルの接触領域を所定範
囲より大きい圧力で押すと,第2の入力機構部がこれを検知するととも
に,入力された接触領域に対応する入力データが確定される。」
「【0013】なお,これらの構成要素はバス32によって互いに結合
されている。図3は表示装置27およびタッチパネル28の概念図であ
る。タッチパネル28には接触部28aが設けられている。この接触部
28aは,a~tまでの20個の接触領域に区切られている。表示装置
27の表示画面27aには,タッチパネル28の各接触領域a~tに対
応する表示領域A~Tが設けられている。各表示領域A~Tには,タッ
チパネル28で選択すべき入力データが必要に応じて表示される。タッ
チパネル28では,各表示領域A~Tに表示された入力データをフレキ
シブルに選択できるようになっている。すなわち,接触部28aの接触
領域a~tの何れかを押せば,それに対応する表示領域A~Tの何れか
の入力データが確定される。」
「【0014】図4は図3のX-X線に沿う断面図である。この図では,
接触領域f~jの断面構造が示されている。接触部28a全面には防護
膜281が被覆されている。防護膜281の下部には,接触スイッチ部
287が設けられている。この接触スイッチ部287は,導電膜群28
2,283およびスペーサ284から構成される。導電膜群282は,
接触領域a~e,f~j,k~o,およびp~tに沿ってそれぞれ設け
られる4本の帯状導電膜282a~282dから構成される。」
「【0015】一方,導電膜群283は,接触領域a~p,b~q,c
~r,d~s,およびe~tに沿ってそれぞれ設けられる5本の帯状導
電膜283a~283eから構成される。導電膜群282と283との
間には,スペーサ284が設けられている。スペーサ284は絶縁体で
形成された一枚の薄膜であり,各接触領域a~tに対応する部分にそれ
ぞれ穴284a~284tが形成されている。導電膜群282および2
83は,通常はスペーサ284によって隔離されているが,防護膜28
1側から軽く押圧されると穴284a~284tを通じて接触できるよ
うになっている。」
「【0016】接触スイッチ部287の下部には,押圧スイッチ部28
8が設けられている。押圧スイッチ部288は,接触端子群285と接
点群286とから構成される。また,接触端子群285は,各接触領域
a~tに対応する部分にそれぞれ設けられる接触端子285a~285
tから構成される。各接触端子285a~285tは,一端部がそれぞ
れ帯状導電膜283a~283eと接触するか,あるいは接近された状
態で取り付けられている。また,各接触端子285a~285tは,図
示されていないバネにより上下に移動できるようになっている。このた
め,各接触端子285a~285tは,帯状導電膜283a~283e
側からの押圧により下方へ移動するようになっている。」
「【0017】接点群286は,各接触端子285a~285tの他端
にそれぞれ設けられる接点286a~286tから構成される。各接点
286a~286tは,各接触端子285a~285tが帯状導電膜2
83a~283e側から所定値以上の圧力を受けたときに,それぞれ接
触するようになっている。接点286a~286tの各接触端子285
a~285t側の端子は,接触領域a~p,b~q,c~r,d~s,
およびe~t毎に接続されている。また,他方の端子は,接触領域a~
e,f~j,k~o,およびp~t毎に接続されている。」
「【0018】なお,図4においては,これらの構成要素のうち,帯状
導電膜282b,穴284f~284j,接触端子285f~285j,
および接点286f~286jのみが示されている。」
「【0021】図1(省略)および図6は上記構成を有するタッチパネ
ル28の操作方法を説明する図である。まず,表示画面27a上の各表
示領域A~Tには,入力データ,例えば数値制御装置の動作前に予め入
力しておくパラメータ,ピッチ誤差補正量および工具補正量等が表示さ
れる。さらには,NCプログラムの命令や,数字等も表示される。オペ
レータが指40により,例えばタッチパネル28の接触領域gを軽く押
した場合には,図1(省略)に示すように,それに対応する表示領域G
が他の領域と異なる色,例えば他の領域が白であるとすれば領域Gのみ
が青色等で表示される。」
「【0022】オペレータは,この表示領域Gの入力データを選択した
い場合には,接触領域gを強く押す。これにより,表示領域Gが例えば
赤色表示される。そして,この入力データが確定され,プロセッサ21
で処理される。入力したいデータが表示領域Gの入力データではなく,
例えば表示領域Hのデータであるとすると,オペレータは指40を接触
部28aに触れたまま表示領域Hの方向に移動させる。すると,図6に
示すように,指40の移動につれて青色表示されている部分も移動する。
この青色表示の部分が表示領域Hに来たところで,指40を強く押すこ
とにより,表示領域Hが赤色表示される。そして,この入力データが確
定され,プロセッサ21で処理される。」
「【0023】このように,本実施例では,タッチパネル28の接触部
28aを指40で軽くふれた場合には,表示画面27a上の対応する表
示領域を青色表示等の特徴表示を行うようにし,さらに強く押した場合
には入力データを確定できるようにしたので,接触部28aで入力でき
るデータがキーボード等のように固定されることなく,フレキシブルな
対応が図れる。」
「【0024】また,表示画面27aに直接指40で触れないので,画
面が汚れることがない。したがって,常に良質な画像表示が行われる。
さらには,赤外線方式や超音波方式を用いずにスイッチ機構部を構成で
きるので,接触部28aに直射日光が当たったり,虫や水滴等が付着し
ただけでスイッチが入ってしまう虞れがない。したがって,正確なデー
タ入力が可能となる。」
「【0028】また,本実施例では,タッチパネル28を数値制御装置
に適用したが,PC(プログラマブル・コントローラ),ロボット制御
装置,オートショット等,または一般の入力装置にも使用することがで
きる。」
「【0029】さらに,本実施例では,タッチパネル28の接触領域を
a~tまでの12個としたが,これに限られず,分解能の範囲内で自由
に個数を設定することができる。」
「【0030】【発明の効果】以上説明したように本発明では,タッチ
パネルの接触領域を軽く押した場合には,表示装置の画面上の対応する
表示領域を特徴表示を行うようにし,さらに強く押した場合には入力デ
ータを確定できるようにしたので,タッチパネルで入力できるデータが
キーボード等のように固定されることなく,フレキシブルな対応が図れ
る。」
「【0031】また,表示装置の画面に直接触れないので,画面が汚れ
ることがない。したがって,常に良質な画像表示が行われる。さらには,
赤外線方式や超音波方式を用いずにスイッチ機構部を構成できるので,
接触領域に直射日光が当たったり,虫や水滴等が付着しただけでスイッ
チが入ってしまう虞れがない。したがって,正確なデータ入力が可能と
なる。」
(イ)上記(ア)認定の事実によれば,甲39発明は,「所定範囲内の圧力
で押圧することにより各接触領域に対応する入力データが表示されるマ
トリクス状の複数の接触領域を有するタッチパネルと,接触領域に対応
した数の押圧スイッチ部を有し,押圧スイッチ部の接点がタッチパネル
とは別個にその下部に配置されているとともに,タッチパネルが入力を
検知するよりも大きな圧力を受けて初めて前記押圧スイッチ部のオンオ
フが行われるデータ入力装置」であることが認められる。
原告は,甲39発明の入力装置が指の接触点を表示領域ごとに予め入
力されたパラメータ,ピッチ誤差補正量及び工具補正量等の「一次元座
標上の位置データ」として検出している(構成要件A)と主張する。
しかしながら,甲39公報の記載によると,接触領域を指でなぞると,
表示領域に接触部における指の位置と指が接触している接触領域に対応
する入力データが表示され,所望の入力データが表示されたらその接触
領域を強く押して,予め設定しておいたパラメータ等の入力データの入
力を確定するものであるに過ぎず(段落【0006】,【0013】,
【0021】ないし【0023】),ある時点での指の接触位置を検知
しているとはいえても,始点から移動後の指の接触点までの移動距離の
決定をするものではないから,移動する接触点を「一次元座標上の位置
データ」として検出していると解することはできない。原告の上記主張
は,採用することができない。
イ本件各発明との対比
(ア)一致点
本件各発明と甲39発明とは,次の点で一致する。
a指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有する連続した軌
跡上にタッチ位置検出センサーが連続して配置され,前記軌跡に沿っ
て移動する接触点を検出するタッチ位置検知手段と,
b接点のオン又はオフを行うプッシュスイッチ手段とを有し,
c前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続し
て配置される前記軌跡に沿って,前記プッシュスイッチ手段の接点が,
前記連続して配置されるタッチ位置検出センサーとは別個に配置され
ているとともに,前記接点のオン又はオフの状態が,前記タッチ位置
検出センサーが検知しうる接触圧力よりも大きな力で保持されており,
かつ,
d前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続し
て配置される前記軌跡上における前記タッチ位置検出センサーに対す
る接触圧力よりも大きな接触圧力での押下により,前記プッシュスイ
ッチ手段の接点のオン又はオフが行われる
eことを特徴とする接触操作型入力装置
(イ)本件発明1と甲39発明は,次の3点(①,②,④)で相違し,本
件発明2と甲39発明は,次の4点(①ないし④)で相違する。
①相違点1
本件各発明は,軌跡が「連続したリング状」である(構成要件A)
のに対し,甲39発明では,マトリクス状である点
②相違点2
本件各発明は,タッチ位置検知手段が軌跡に沿って移動する接触点
を「一次元座標上の位置データとして」検出する(構成要件A)のに
対し,甲39発明では,そのような構成ではない点
③相違点3
本件発明2は,プッシュスイッチ手段が4つである(構成要件G)
のに対し,甲6発明では,プッシュスイッチ手段が接触領域の数だけ
存在する点
④相違点4
本件各発明は,小型携帯装置に関するものである(構成要件F)の
に対し,甲39発明は,そうではない点
ウ相違点について
(ア)相違点1について
甲7公報には,マトリクス状の文字選択エリア(【図5】(a))をリ
ング状の文字選択エリアに代替可能である趣旨の記載があるところ(段
落【0054】,【0055】,【図7】(a)),これは,データ入力
装置に関する甲39発明と同種の発明であるから,甲39発明の接触領
域をリング状に配置することは,当業者が容易に想到することができた
ものと認められる。
(イ)相違点2について
甲39公報に,移動する接触点を「一次元座標上の位置データ」とし
て検出することの示唆はなく,接触点を一次元座標上の位置データとし
て検出することが周知技術であったとか,技術常識であったと認めるに
足りる証拠もない。そうであるから,相違点2に係る本件各発明の構成
は,甲39発明に基づいて,当業者が容易に想到することができたとは
認められない。
(ウ)したがって,本件各発明は,甲39発明に基づいて,当業者が容易
に発明をすることができたということはできない。
(11)そうすると,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと
認めることはできない。
3争点3(原告が受けた損害の額)について
(1)証拠(甲95,98,127,128,計算鑑定の結果)及び弁論の全
趣旨によれば,平成18年10月1日から平成25年3月30日までの間の
原告各製品の日本国内における売上高(消費税抜き)は,●(省略)●円で
あり,消費税込みの売上高は,●(省略)●円であると認められる。
被告は,原告の平成23年5月26日付け準備書面(24)別紙1の記載を根
拠に,原告各製品の売上高が5976億円であると主張するが,原告は,上
記の記載が誤記であると述べている上,そもそも上記記載が売上高の記載で
あるかどうかも不明であり,他に原告の上記主張を裏付ける的確な証拠がな
いことに照らすと,これを採用することはできない。
また,被告は,計算鑑定の結果等は,製品別売上台帳等の取引別の詳細デ
ータを用いていないから信用することができないと主張するが,原告は製品
別売上台帳等の取引別の詳細データを常備していないというのであり,「<
以下略>の追加陳述書」(甲98)及び「<以下略>の補充的陳述書」(甲
128)の基となるデータは米国のアップル・インクに対する監査報告手続
において会計監査人が依拠している会計データベース(SAPデータベー
ス)から析出して得られたものであって,無作為に選択された25件の取引
レベルのサンプルデータにより,上記データベースから抽出した販売数量及
び売上データが請求システムのデータと一致することが確認されている上
(甲127),鑑定対象期間である平成18年10月1日から平成23年9
月24日までの売上高については上記データベースから抽出された製品別月
次売上データと原告の計算書類上の売上高との整合性に特段の問題はないと
されているから(計算鑑定の結果),原告の上記主張は,採用することがで
きない。
(2)本件各発明の実施に対し被告が受けるべき金銭の額に相当する額の金銭
を算出するに当たっては,前記消費税込みの売上高に相当な実施料率を乗じ
る方法によるのが相当である。
原告は,クリックホイールの価格をベースとすべきであると主張するが,
原告各製品の原価が証拠上不明であることに照らしても,採用することがで
きない。
(3)そこで,相当な実施料率につき,以下検討する。
ア実施料率〔第5版〕(乙54)によれば,「19.ラジオ・テレビ・そ
の他の通信音響機器」に含まれる「電気音響機械器具」には,録音装置,
再生装置,拡声装置及びそれらの付属品が含まれるところ,この分野の平
成4年度ないし平成10年度の実施料率(イニシャルなし)の平均値は,
5.7%である。なお,「20.電子計算機・その他の電子応用装置」の
同様の平均値は,33.2%であるが,これは主にソフトウエアの実施料
率が高率であることによるものとされているから,これを参考にすること
は相当でない。
なお,弁論の全趣旨によれば,被告が本件特許につき他に許諾した例は
ないことが認められる。
イ本件各発明は,①リング状に予め特定された軌跡上にタッチ位置検出
センサーを配置して軌跡に沿って移動する接触点を一次元座標上の位置デ
ータとして検出すること,及び,②前記軌跡に沿ってタッチ位置検出セ
ンサーとは別個にプッシュスイッチ手段の接点が設けられており,前記検
出とは独立してプッシュスイッチ手段の接点のオン又はオフを行うことが
できることに特徴があると考えられるところ,①については,同様の機能
を有するタッチホイールを搭載したiPodが原告各製品の販売開始より
前の平成14年7月に既に販売されていたものであり(乙3,26,36,
37,39,41),②については,甲5公報及び甲39公報に開示され
ていたほか,タッチ位置検出センサーの下部にプッシュスイッチ手段を設
置し,タッチ位置検出センサーによる検出とは独立してプッシュスイッチ
手段の接点のオン又はオフを行う構成については甲6公報,甲7公報及び
甲31公報等に開示があり,このような構成は,原出願当時,広く知られ
た技術であったと認められる。
そうであるから,本件各発明の技術内容,程度は高度なものであるとは
認め難いというべきである。
ウ代替手段については,平成19年9月から発売が開始されたiPod
touchではクリックホイールが採用されず,タッチパネルが採用され
ているが(乙26),これによる入力方法等の詳細は証拠上判然としない
から,これをもって代替手段となるとは認め難い。
原告各製品の販売開始前に販売されていたiPodは,前記のタッチホ
イール及びタッチホイールの上部(軌跡から外れた位置)等に配置してい
るものがあり(乙3,26),そのような構成で代替することは可能であ
ったということができるものの,それを採用したのでは操作性に劣り先進
性を欠くことになると考えられるし(乙30ないし38),実際に原告各
製品の販売開始後にそのような構成を採用したモデルがあることは窺えな
いから,この点を重視することはできない。
エ本件各発明の技術が原告各製品に対して寄与する程度について見る。
(ア)証拠(甲1の1)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,
発明の効果として,次の記載があることが認められる。
「本発明は,以上のように構成されており,特に指先からの軌跡上のア
ナログ的な変移情報または接点の移動情報が電子機器へ確実に入力する
ことができ,1次元上または2次元上もしくは3次元上の所定の軌跡上
を倣って移動,変移する接触点の位置,変移値,及び押圧力を検知する
ことができる。そして,操作性良く薄型でしかも少ない部品点数で電子
機器を構成することができるように1つの部品で複数の操作ができるプ
ッシュスイッチ付きの接触操作型電子部品を提供することができる。」
(段落【0014】)
「また,この操作部品により非常に多くの機能の選択を行ったり,例え
ばボリュームスイッチ等のスイッチ入力を繊細に行うことができる。さ
らにはセンサータッチのイベント数により入力を行うための接触検知ス
イッチとして使用された場合には,イベント入力数を人間の指の感覚で
もって自在に調節させ,指を当てる場所に応じてイベント数を変更させ
ることにより操作性と多機能性を向上することができる。しかも,この
ような操作性を発揮する電子機器の構成部品として該機器の操作部の構
造を単純化でき且つメンテナンス性を向上することもできる。そして,
単一の操作部品でもって接触操作型電子部品およびプッシュスイッチ
夫々の機能を同時に操作することができる。さらに,従来のプッシュス
イッチ付き回転操作型部品とは異なり,装置自体をスイッチ押下方向に
薄くして形成でき,装置の中央に配することが可能となり,片手で持っ
て操作するような装置に組み込んだ場合でも,両手いずれでも操作を簡
単に行なうことができる。また,以上の接触検出センサー付プッシュキ
ーにより,単純なキーの押下以外に接触もしくは十分に弱い押圧により
イベント入力が行なえる。」(同【0015】)
(イ)移動する接触点の位置等を検知し,機能の選択等を行う点は,既に
タッチホイールにより行われていた。
1つの部品で複数の操作ができるプッシュスイッチ付きの接触操作型
電子部品を提供する点は,原告各製品は本件図面中の【図21】のよう
にプッシュスイッチの上部にタッチ位置検出センサーが配置されて1つ
の部品で複数の操作ができるようになっているものではなく,これらは
別の部品で構成されているのであり(別紙原告製品説明書,乙16),
装置の薄型化は,バッテリや液晶ディスプレイとハードディスクとの配
置の工夫やフラッシュメモリの採用等により果たされていることが窺え
る(乙16,26)。
操作性の向上の点は,タッチホイールを採用していた従前のモデルの
後に,クリックホイールを採用した原告各製品等が販売されたことや原
告自身がクリックホイールによる操作性の向上を宣伝していること(乙
30ないし38)からすると,一定の寄与があるとは考えられるが,ク
リックホイールの機能の割当てや本件各発明とは無関係のセンターボタ
ンの存在の果たす役割も大きいと考えられるから,この点に関する本件
各発明の寄与の程度が大きいとは認め難い。
そうすると,本件各発明の技術が原告各製品に対して寄与する程度は
大きくないというべきである。
オ本件各発明が原告各製品の売上げに寄与する程度について見るに,証拠
(乙4,21,30,31,34,37,38,40,41,43)によ
れば,原告自身,クリックホイールを原告各製品の操作性の要と位置付け,
新機能,セールスポイントとしてこれを積極的に宣伝し,好評を博してき
たことが認められる。
また,証拠(甲97,乙4,16,23,27,28,29,31,3
4,38,39,40,53,62)によれば,「アップル」のブランド
の価値は非常に高く,原告各製品のデザイン,カラーバリエーション,i
Tunes,ビデオ再生,ゲーム,大型液晶,記憶容量,バッテリ容量,
小型軽量といった点の訴求力がかなり強いものであり,平成18年11月
16日時点におけるデジタルミュージックプレーヤー市場におけるiPo
dの国内シェアは約60%に達しているが,それには原告の販売努力が相
当程度貢献していることが認められる。
カこのような諸般の事情を総合考慮すると,相当な実施料率は,●(省
略)●%と認めるのが相当である。
(4)そうすると,被告が受けた損害の額は,次の算式のとおり,3億366
4万1920円(円未満切捨て)となる。
(算式)●(省略)●円×●(省略)●=336,641,920.824円
4以上によれば,被告の請求は,3億3664万1920円及びこれに対する
不法行為の後の日であり,反訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな
平成19年3月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損
害金の支払を求める限度で理由がある。
なお,原告は,原告製品1及び2について,被告が原告に対する本件特許権
侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求めるが,上記請求
に係る訴えは,被告が,原告製品1及び2を含む原告各製品について,本件特
許権侵害に基づく損害賠償を求める反訴を提起したことにより,確認の利益を
失ったから,不適法である。
よって,原告の訴えを却下し,被告の請求を上記の限度で認容し,その余を
失当としてこれを棄却することとし,なお,原告の仮執行の免脱の宣言の申立
ては,相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官高野輝久
裁判官三井大有
裁判官藤田壮
(添付の特許公報は省略)
別紙
当事者目録
東京都港区<以下略>
アップルジャパン株式会社
(旧商号アップルコンピュー
タ株式会社)訴訟承継人
組織変更前の商号有限会社ア
ップルジャパンホールディン
グス
原告・反訴被告AppleJapan
合同会社
(以下「原告」という。)
同代表者代表社員アップルオペレーションズ
インターナショナル
同訴訟代理人弁護士長沢幸男
服部誠
長沢美智子
同訴訟代理人弁理士越智隆夫
吉澤弘司
松井孝夫
萩原誠
日野真美
同訴訟復代理人弁護士矢倉千栄
永井秀人
金子晋輔
同補佐人弁理士井口司
岡部譲
東京都三鷹市<以下略>
被告・反訴原告株式会社齋藤繁建築研究所
(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士上山浩
川井信之
西本強
古谷友佳
小川直樹
井上拓
同訴訟代理人弁理士佐川慎悟
小林基子
同訴訟復代理人弁護士小川尚史
別紙
原告製品目録
1iPodという名称の付された小型携帯装置。ただし,第5世代のもの。
2iPodnanoという名称の付された小型携帯装置。ただし,第2世代
のもの。
3iPodclassicという名称の付された小型携帯装置。
4iPodnanoという名称の付された小型携帯装置。ただし,第3世代
のもの。
5iPodnanoという名称の付された小型携帯装置。ただし,第4世代
のもの。

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◎業務に関する質問等可能
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残り応募人数(2019年5月1日現在)
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独立支援は3名

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