弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和六一年九月三〇日付けでした原告の昭和五九年分所得税の更正のう
ち分離長期譲渡所得金額三一八六万九〇二九円、納付すべき税額四七七万七五〇〇
円を超える部分(ただし、昭和六二年二月二七日付け異議決定により一部取り消さ
れ、昭和六三年九月三〇日付け再更正により減額された後のもの)及び過少申告加
算税賦課決定(ただし、昭和六二年二月二七日付け異議決定により一部取り消さ
れ、昭和六三年一月二九日付け変更決定及び昭和六三年九月三〇日付け再更正によ
りそれぞれ減額された後のもの)を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告の昭和五九年分所得税に係る原告の確定申告、被告の更正等の経緯は、別
表記載のとおりである(以下、この更正を「本件更正」、この過少申告加算税賦課
決定を「本件決定」という。)。
2 しかしながら、本件更正のうち分離長期譲渡所得金額三一八六万九〇二九円、
納付すべき税額四七七万七五〇〇円を超える部分(ただし、昭和六二年二月二七日
付け異議決定により一部取り消され、昭和六三年九月三〇日付け再更正により減額
された後のもの)は、原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、そ
の違法な更正を前提とする本件決定(ただし、昭和六二年二月二七日付け異議決定
により一部取り消され、昭和六三年一月二九日付け変更決定及び昭和六三年九月三
〇日付け再更正によりそれぞれ減額された後のもの)も違法である。
3 よって、原告は、被告に対し、請求の趣旨記載のとおり、本件更正及び本件決
定の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1(処分等の経緯)は認めるが、同2(処分等の違法)は争う。
三 被告の主張
1 本件更正の適法性
(一) 昭和五九年分の原告の長期譲渡所得の金額(分離課税分)は、次の出収入
金額から(2)取得費、(3)譲渡費用及び(4)特別控除額を控除して算出した
金額一億二一九八万七三七七円である。
(1) 収入金額              一億三七八五万三〇〇〇円
原告は、昭和五九年五月二九日、株式会社田邊工務店(以下「田邊工務店」とい
う。)に対し、東京都立川市<地名略>の土地(以下「本件土地」という。)の原
告の共有持分権(持分割合一〇〇〇分の九〇一)を代金一億三七八五万三〇〇〇円
で譲渡(以下「本件譲渡」という。)した。
(2) 取得費                  九五四万一六六〇円
(3) 譲渡費用                 五三二万三九六三円
(4) 特別控除額                一〇〇万〇〇〇〇円
(二) 本件更正(ただし、昭和六二年二月二七日付け異議決定により一部取り消
され、昭和六三年九月三〇日付け再更正により減額された後のもの)は、長期譲渡
所得の金額を右と同額の一億二一九八万七三七七円であると認定しているから、適
法である。
2 本件決定の適法性
本件決定(ただし、昭和六二年二月二七日付け異議決定により一部取り消され、昭
和六三年一月二九日付け変更決定及び昭和六三年九月三〇日付け再更正によりそれ
ぞれ減額された後のもの)は、右のとおり適法な更正を前提として、国税通則法に
従って算出した金額一五一万八〇〇〇円を過少申告加算税として賦課したものであ
るから、適法である。
四 被告の主張に対する原告の認否
1 被告の主張1(本件更正の適法性)の(一)のうち、(1)ないし(4)は認
めるが、原告の長期譲渡所得の金額が一億二一九八万七三七七円であるとの主張は
争う。
2 被告の主張1(本件更正の適法性)の(二)は争う。
3 被告の主張2(本件決定の適法性)は争う。
五 原告の反論
本件譲渡による譲渡所得については、次のとおりの事実経過からして、租税特別措
置法(以下「措置法」という。)三七条(特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡
所得の課税の特例)一項表五号、三項の規定を適用すべきである。
1 本件土地の譲渡に関する事実経過は、次のとおりである。
(一) 原告の養父Aは、かって本件土地の所有者であったところ、かねてから本
件土地を他に譲渡し、その譲渡代金をもって郊外に農地を買い換えることを計画
し、昭和五八年一月一〇日、不動産業者であるBとの間で、本件土地の譲渡及びそ
の代替地の取得の媒介をBに依頼する旨の専任媒介契約を締結していた。その後、
本件土地の売買交渉についての話がまとまるより前に、入間市所在の土地を取得す
る目処がついたため、Aは、その取得資金に充てるため、昭和五八年三月一八日、
東京相互銀行砂川支店から一億五〇〇〇万円を借り入れた。
(二) ところが、Aは、昭和五八年三月二五日に死亡し、本件土地につき、原告
が持分一〇〇分の一の共有持分権を、Aの妻(原告の養母)Cが持分一〇〇分の九
九の共有持分権をそれぞれ相続により取得した。また、Aの右借入金債務は、Cが
全額承継した。Cは、昭和五八年五月一七日、前記借入金をもって、Dから埼玉県
入間市<地名略>の畑(一五三五平方メートル)及び同所<地名略>の畑(一九八
三平方メートル)の各土地(以下「入間市の土地」という。)を買い受けた。
(三) その後、Cが昭和五九年三月一五日に死亡し、本件土地のCの共有持分権
のうち、一〇〇〇分の八九一を原告が、一〇〇〇分の九九を原告のEがそれぞれ相
続により取得し、また、入間市の土地の所有権は、原告が相続により取得した。そ
して、原告とEは、昭和五九年五月二九日、Bの仲介により本件土地の共有持分権
をそれぞれ田邊工務店に売却し、その売却代金をもって前記借入金を返済した。
2 A、C及び原告は、いずれも本件土地を農業の用に供しており、また、C及び
原告は、いずれも入間市の土地を農業の用に供しているのであって、本件土地及び
入間市の土地は、いずれも措置法三七条一項の表五号の事業用資産に該当するもの
いうべきである。
3 本件における資産の買換えについては、右のとおり、Aが買換えを計画して買
換資産の取得資金を借り入れ、Cが買換資産を取得し、原告が譲渡資産を売却して
その代金を右借入金の返済に充てるというように、その各取引の主体が異なってき
ているが、CはAの法的地位を相続により包括承継し、原告はCの法的地位を相続
により包括承継しているのであるから、結局、法律上は同一人が右の各行為をした
ものとみることができる。したがって、右のような方法による資産の買換えについ
ても、措置法三七条の規定を適用すべきである。
六 原告の反論に対する被告の認否及び再反論
1 原告の反論の冒頭の主張は争う。
2 同1(一)のうち、Aが昭和五八年三月一八日に東京相互銀行砂川支店から一
億五〇〇〇万円を借り入れたことは認めるが、その余の事実は知らない。
同(二)のうち、Aの借入金債務をCが全額承継したことは知らないが、その余の
事実は総て認める。同(三)は認める。
3 同2及び3は争う。
4 措置法三七条は、個人が自己の有する事業用資産を譲渡し、その譲渡代金で新
たな資産を取得して自己の事業の用に供した場合に一定の要件のもとに譲渡所得の
課税の繰延べを認めるものである。しかし、本件では、原告は、買換資産である入
間市の土地をCから相続により取得したものであり、本件土地の譲渡代金で取得し
たものではないうえ、本件土地及び入間市の土地のいずれをも原告の事業の用に供
していないのであるから、本件譲渡に関し、措置法三七条の規定が適用されないこ
とは明らかである。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1(処分等の経緯)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件更正が適法であるかどうかについて検討する。
1 まず、被告の主張1(本件更正の適法性)の(一)の(1)(収入金額)、
(2)(取得費)、(3)(譲渡費用)及び(4)(特別控除額)については、い
ずれも当事者間に争いがない。
2 次に、本件譲渡による譲渡所得について、措置法三七条三項の規定の適用があ
るか否かについて検討する。
(一) 本件土地の譲渡等に関する事実経過は次のようなものであったことが認め
られる。
(1) Aは、かって本件土地の所有者であったところ、かねてから本件土地を他
に譲渡し、その譲渡代金をもって郊外に農地を買い換えることを計画し、昭和五八
年一月一〇日、Bとの間で、本件土地の譲渡及びその代替地の取得の媒介をBに依
頼する旨の専任媒介契約を締結していた。その後、本件土地の売買交渉についての
話がまとまる前に、入間市の土地を取得する目処がついたため、Aは、その取得資
金に充てるため、昭和五八年三月一八日、東京相互銀行砂川支店から一億五〇〇〇
万円を借り入れた。(甲第一号証、第二号証、証人Bの証言及び原告本人尋問の結
果により以上の事実が認められる。)
(2) ところが、Aは、昭和五八年三月二五日に死亡し、本件土地につき、原告
が持分一〇〇分の一の共有持分権を、Cが持分一〇〇分の九九の共有持分権をそれ
ぞれ相続により取得した。Cは、昭和五八年五月一七日、前記借入金をもって入間
市の土地を買い受けた。(以上の事実については、当事者間に争いがない。)な
お、
Aの前記借入金債務はCが重畳的に引き受け、原告及びEがこれを連帯して保証し
た(甲第一五号証により認められる。)。
(3) その後、Cが昭和五九年三月一五日に死亡し、本件土地のCの共有持分権
のうち、一〇〇〇分の八九一を原告が、一〇〇〇分の九九をEがそれぞれ相続によ
り取得し、また、入間市の土地の所有権は、原告が相続により取得した。そして、
原告とEは、昭和五九年五月二九日、Bの仲介により本件土地の共有持分権をそれ
ぞれ田邊工務店に売却し、その売却代金をもって前記借入金を返済した。(以上の
事実については、当事者間に争いがない。)
(二) 以上の事実経過に基づいて本件譲渡による譲渡所得について措置法三七条
三項の規定が適用されるか否かを考える。
(1) まず、措置法三七条三項は、所定の譲渡資産で事業の用に供しているもの
の譲渡をした個人が当該譲渡をした日の属する年の前年中に所定の買換資産の取得
をし、かつ、当該取得の日から一年以内に当該取得をした資産を当該個人の事業の
用に供した場合においても、同条一項の買換えの特例の規定を準用する旨を定めて
いる。しかし、この場合においても、右規定が準用されるのは、譲渡資産の譲渡を
した個人が買換資産の取得をした場合に限られることは、法文上明らかなものとい
わなければならない。
これを本件についてみると、譲渡資産である本件土地(の共有持分権)を譲渡した
のは原告であるが、買換資産である入間市の土地を取得したのはCであって、原告
ではないのであるから、本件譲渡による原告の譲渡所得について措置法三七条の規
定を適用することはできないものというべきである。
(2) これに対し、原告は、原告がCの法的地位を相続により包括承継している
のであるから、両者を法律上同一人とみることができるとして、本件のような場合
にも措置法三七条の規定を適用すべきであると主張する。しかし、措置法三七条の
規定について、被相続人が買換資産の取得をした場合にこれを相続人が取得したも
のと同視する旨の規定が置かれていない以上、被相続人が買換資産の取得をしこれ
を相続によって取得した相続人が譲渡資産を譲渡した場合においてもなお措置法三
七条の規定の適用があるとすることは困難なものといわざるを得ない。
(三) そうすると、その余の点について判断するまでもなく、
本件譲渡による譲渡所得について措置法三七条三項の規定を適用することはできな
いものというべきである。
3 したがって、原告の長期譲渡所得の金額は、被告が主張するとおり、前記収入
金額一億三七八五万三〇〇〇円から、取得費九五四万一六六〇円、譲渡費用五三二
万三九六三円及び特別控除額一〇〇万円を控除して算出した金額である一億二一九
八万七三七七円となる。そうすると、本件更正(ただし、昭和六二年二月二七日付
け異議決定により一部取り消され、昭和六三年九月三〇日付け再更正により減額さ
れた後のもの)は、長期譲渡所得の金額を右と同額と認定したものであり、適法で
ある。
三 また、本件決定(ただし、昭和六二年二月二七日付け異議決定により一部取り
消され、昭和六三年一月二九日付け変更決定及び昭和六三年九月三〇日付け再更正
によりそれぞれ減額された後のもの)は、右のとおり適法な更正を前提として、国
税通則法に従って算出した金額一五一万八〇〇〇円を過少申告加算税として賦課し
たものであるから、適法である。
四 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の
負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判
決する。
(裁判官 涌井紀夫 市村陽典 小林昭彦)
別表(省略)

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