弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。 
         事実及び理由
第1 請求
1 被告らは,原告に対し,連帯して,金50万円及びこれに対する平成12年3
月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告に対し,連帯して,A名を以て,別紙記載の陳謝文を縦横1メ
ートルの白紙に墨書し,瀬戸市立原山小学校玄関に1か月間掲示せよ。
第2 事案の概要
 1 本件は,原告が勤務する被告瀬戸市立原山小学校の校長である被告Aが,原
告による平成11年7月28日午後及び同年8月4日午前の研修取得申請並びに同
月2日,同年9月18日及び同月30日の家族休暇(夏季)(以下,単に「家族休
暇」という。)取得申請をすべて不承認としたため,原告が,被告Aによるこれら
の不承認措置はいずれも違法であるとして,被告A及び被告瀬戸市に対し,共同不
法行為に基づいて慰謝料の支払を求めるとともに謝罪文の掲示を請求した事案であ
る。
2 争いのない事実等(証拠を示した部分以外は争いがない。)
(1)ア 原告は,昭和51年4月1日,愛知県教育委員会から被告瀬戸市の公立学校
教員に任命され,平成10年4月1日からは,被告瀬戸市立原山小学校(以下「本
件小学校」という。)の教諭として勤務している。
なお,原告は,職員団体の瀬戸がっこうユニオンに加入している。
イ 被告Aは,平成9年4月1日,本件小学校の校長として赴任したも のであ
り,平成11年度も本件小学校校長の地位にあった。
ウ 被告瀬戸市は,憲法・地方自治法に則り結成された地方公共団体であり,普通
教育機関としての小学校,中学校を設置し,その維持・管理・運営に責任を負担す
るものである。
(2)ア 本件小学校では,「夏季休業中 職員動向表」と題する書面(以下「動向
表」という。)が教職員に配布され,各教職員は,夏季休業期間(生徒の夏休み期
間)中の家族休暇,指定休,研修,年次有給休暇等の取得に関する事項を動向表に
記入の上,校長宛てに提出する取扱いになっていた(乙1)。
イ(ア) 原告は,平成11年7月16日,被告Aに対し,同年7月28 日(以下
「7月28日」という。)午後及び同年8月4日(以下 「8月4日」という。)
午前を研修,同月2日(以下「8月2  日」という。)を家族休暇と記入した動
向表を提出して研修及び 家族休暇の取得を申請したが,被告Aは,7月28日午
後及び8 月4日午前の研修については,半日研修が認められないことを理 由
に,8月2日の家族休暇については,原告に日直(学校管理当 番)勤務が割り当
てられていたことを理由に,いずれも不承認と した(乙1ないし3,原告本人尋
問の結果,被告A本人尋問の結 果。なお,上記研修の取得申請に対する不承認の
時期については 争いがあり,原告は,上記申請に係る研修日以前に被告Aから当
 該研修を不承認とさ
れたことはない旨主張するが,研修日以前に 不承認とされたことは後記認定のと
おりである。)。
    そこで,原告は,8月2日については,年次有給休暇を取得す   るこ
とにしたが,7月28日午後及び8月4日午前については,   研修承認がない
まま登校しなかった。
(イ) 原告は,被告Aに対し,平成11年9月14日,同月18日  (以下「9
月18日」という。)を家族休暇として取得申請し, さらに,同月28日,同月
30日(以下「9月30日」とい   う。)を家族休暇として取得申請したが,
被告Aはいずれも不承 認とした。
(3)ア 教育公務員特例法(以下「教特法」という。)20条1項は,「教育公務員
には,研修を受ける機会が与えられなければならない。」と,同条2項は,「教員
は,授業に支障のない限り,本属長の承認を受けて,勤務場所を離れて研修を行う
ことができる。」と規定している。
イ 家族休暇は,「職員の勤務時間,休日,休暇等に関する条例」(昭
和42年3月24日条例第4号)12条2項により定められた特別休暇であり,同
条項は,「任命権者は,(中略)人事委員会と協議して定める場合には,必要と認
める期間の特別休暇を与えることができる。」と規定しており(乙4),また,同
条項に基づき愛知県教育委員会が,各県立学校長,各教育事務所長,名古屋給付事
務所長,各市町村教育委員会に対して発した「家族休暇の新設について」(昭和6
1年5月23日61教職第154号教育委員会)は,「県立学校(大学を除く。)
の職員並びに市町村立学校職員給与負担法第1条及び第2条に規定する職員(以下
「職員」という。)が,次の各号のいずれかの事由に該当する場合には,それぞれ
当該各号に掲げる期間を単位として,すべての事由を通じて1暦年につき9日以内
の期間の特別休暇を
与えることができる。ただし,第1号の場合にあっては1暦年につき6日以内の期
間と(中略)する。」とし,第1号(夏季)は,「家族休暇」の事由として「夏季
において元気回復又は家庭生活の充実を図る場合」,要件として「6月15日から
9月30日までの期間に利用できる。」,単位として「1日 土曜日(4時間勤務
日)は,半日」,取扱方針(以下「取扱方針」という。)として「(1) 教育公務員
特例法第20条の適用又は準用を受ける職員にあつては,その職務の特殊性にかん
がみ,努めて7月21日から8月31日までの間に利用するものとする。」と規定
している(乙5)。
3 争点
本件の主な争点は,被告Aが,原告の研修及び家族休暇の取得申請を不承認とした
措置が違法かどうかである。
4 争点に対する当事者の主張
(1) 研修不承認措置について
ア 原告の主張
(ア) 教特法20条1項は,教育行政に対し,教員の研修機会付与を 義務づけた
規定であり,同条2項は,授業に支障がない限り研修 を行い得ることを権利とし
て宣言した規定であるから,授業に支 障がない夏季休業期間中の研修取得申請は
当然承認されるべきで ある。
 原告が研修として取得申請した7月28日午後及び8月4日午 前は,いずれも
学校運営上の支障がない日であり,実際,勤務場 所を離れた研修として承認され
た教員もいる。
 したがって,被告Aによる研修不承認措置は,その裁量権を逸 脱,濫用した違
法な行為である。
 これに対して被告らは,半日単位の研修は実効性に乏しい旨主 張するが,同主
張には合理性がないばかりか,「時間による職免 研修」が広く認められている教
育現場の実情(具体的には,入学 式,始業式,終業式,卒業式などの行事日の午
後や長期休業期間 中におけるプール監視,部活動の前後の時間などは,半日又は
時 間単位の校外研修が認められており,本件小学校はもとより,瀬 戸市及びこ
れに隣接する自治体における職場慣行になってい   る。)にもそぐわない。ま
た,被告A自身,「職務場所をかえて 勤務するとき,研修承認簿や出勤簿に表れ
ないが,時間単位や半 日単位の研修内容の勤務をしてもよい。」と述べて時間単
位又は 半日単位の研修を認めており,実際,原告も,平成11年12月 28日
に5時間の校外研修
を承認されている。
 なお,半日研修を制度として採用している学校も存在する。
(イ) 被告Aは,原告による上記研修取得申請について,研修日前に 不承認とし
たことはなく,その許否を留保していたにすぎず,平 成11年8月27日になっ
て初めて,同研修取得申請を不承認と して代わりに週休日を指定すると原告に告
げたのである。原告が 既に研修を行っているにもかかわらず,事後に不承認とす
ること は,裁量権の濫用であり,被告Aによる研修不承認措置はこの点 でも違
法である。
イ 被告の主張
(ア) 教特法20条は,研修の許否につき,その判断を,承認権者で ある学校長
の合理的な裁量に委ねていると解されるところ,学校 長は,授業に生じる支障の
有無だけではなく,研修の実効性その 他の事情も考慮に入れて,研修の許否を判
断するのである。
 被告Aは,半日単位の研修では研修の実が上がらないという判 断のもと,原告
の研修取得申請を不承認としたのであり,かかる 判断に違法なところはない。な
お,愛知県下の小中学校において は,同様の理由により,半日単位の研修は承認
されていない。
(イ) 被告Aは,平成11年7月19日に,原告の研修取得申請を不 承認とした
のであり,研修の許否を留保した事実はない。
(2) 家族休暇不承認措置について
ア 原告の主張
家族休暇は,学校長の承認事項ではあるが,取得申請があれば必ず承認しなければ
ならないものである。
また,次に述べるように,被告Aによる本件家族休暇の不承認措置は,いずれも裁
量権を逸脱,濫用した違法な行為である。
(ア) 8月2日の家族休暇不承認措置について
学校長は,各職員に対して日直を命ずることができるから,家族休暇取得申請者が
日直を担当しているからといって直ちに学校運営上の支障があることにはならな
い。すなわち,職員が日直担当日を家族休暇として申請した場合には,まず,学校
長の方で他の職員に日直を命ずるべきなのであり,他の職員全員が日直を拒否した
場合に初めて,当初の日直担当者による家族休暇取得申請を不承認とすることが許
されるのである。
また,被告A自身,8月2日は,学校運営上の支障がない日で あったことを認め
ている。
したがって,被告Aは,原告の8月2日の家族休暇取得申請を 承認すべきであっ
たのに,正当な理由もなくこれを不承認とした ものである。
 これに対して,被告らは,日直の交代は,日直担当者自身が事 前に手当てして
おくのが本件小学校の慣行であると主張するが, 単なる慣行であって法令等に根
拠をおくものではない。
(イ) 9月18日及び9月30日の家族休暇不承認措置について
 9月18日及び9月30日は,週休日(指定休)を指定できる日, すなわち,
学校運営上の支障がない日であり,被告A自身このこ とを認めている。にもかか
わらず,被告Aは,正当な理由もなく 原告の家族休暇取得申請を不承認としたも
のである。
これに対して被告らは,上記家族休暇不承認措置は,取扱方針 に則った適法なも
のであると主張するが,取扱方針は,条例に明 記されていない制限を恣意的に加
えるものであり,職員に保障さ れた家族休暇取得権を制限する根拠足り得ない。
また,被告らは,家族休暇と指定休とは全く別の休暇であるか ら同列に論じるこ
とはできないと主張するが,指定休は長期休業 中にまとめて取得するものであ
り,学期中は原則として認められ ないものであるから,学期中に指定休を与えつ
つ,職員からの家 族休暇申請を不承認とすることは,被告Aによる恣意的な休暇
処 理というほかなく,裁量権の逸脱,濫用として違法である。
イ 被告らの主張
家族休暇は学校長の承認のもとに許容されるものである。
原告が家族休暇取得を申請した日のうち,8月2日は原告の日直担当日であり,9
月18日及び9月30日は取扱方針に反するため,被告Aは,原告の申請を承認し
なかったのである。
原告は,9月18日及び9月30日が週休日として指定できたことを上記不承認措
置の違法性を根拠づける事情として挙げるが,家族休暇と指定休とは全く異なった
性質の別の休暇であるから,同列に比較するのは誤りである。
第3 当裁判所の判断
1 前提となる事実
前記当事者間に争いのない事実等及び甲1ないし4,9,17,27,乙1ないし
10,15の1ないし3,原告本人尋問の結果,被告A本人尋問の結果並びに弁論
の全趣旨によると,次の事実が認められる。
(1) 本件小学校では,夏季休業期間(生徒の夏休み期間)に入る前に動向表が教職
員に配布され,各教職員が,動向表に夏季休業期間中の出張,旅行,年次有給休
暇,研修,指定休等の取得に関する事項を記入した上,承認権者である校長宛てに
提出し,これを受けた校長が,必要に応じて各教職員から事情を聞き,不適切な部
分について訂正を求めた後,問題がなければ動向表に押印することで承認をなし,
夏季休業期間中の出校日等に,各教職員が夏季休業期間中の変更等を加味して動向
表の記載を訂正した後,各承認簿に必要事項を記入し,校長が各承認簿に承認印を
押印する取扱いになっていた。
(2)ア 原告は,平成11年7月16日,被告Aに対し,7月28日午後及び8月4
日午前を研修,8月2日を家族休暇と記入した動向表を提出して,研修及び家族休
暇の取得を申請した。
 イ 被告Aは,新任教頭や新任校長のときに受けた愛知県教育委員会からの指導
などに基づき,研修の実を上げるためには1日単位とする必要があり,また,濫用
を防止するためにも時間単位や半日単位の研修を認めるべきでないと判断し,その
判断に基づき,原告に対し,半日研修は認められないので,1日研修とするように
と指導した。
   しかし,原告は納得せず,平成11年7月19日,両者で話し合いが持たれ
たが,結局折り合いはつかず,被告Aは,原告に対し,半日単位の研修は認められ
ないと述べて,原告の上記研修取得申請を不承認とした。この際,原告は,被告A
に対し,承認できない法的根拠の説明を求めたが,被告Aは回答しなかった。
 ウ 本件小学校では,日直は各職員が順番で担当することになっており,日直担
当日が差し支えの場合には,日直担当職員自身が事前に他の職員に日直を交代して
もらうのが通常であったところ,8月2日は原告の日直担当日であるのに,原告が
日直を他の職員と交代しないまま家族休暇として申請していたことから,被告A
は,そのままでは校務運営上の支障があると判断し,平成11年7月23日,原告
に電話し,8月2日は原告の日直担当日であるから家族休暇として承認できない旨
告げ,原告の上記家族休暇取得申請を不承認とした。
   これに対し,原告は,家族休暇が認められないのであれば代わって年次有給
休暇を取得するが,当初の申請どおり家族休暇の取得を承認するように要求し,こ
れにつき職場交渉を申し入れた。
エ 原告は,平成11年8月23日,被告Aに対し,7月28日午後及び8月4
日午前の研修の許否につき確認したところ,被告Aは,やはり認められないと述べ
て,既になされた不承認を確認する趣旨の回答をした。そのため,原告は,被告A
に対し,職場交渉を申し入れる旨通告した。
被告Aは,平成11年8月27日,原告に電話し,再度,7月28日午後及び8月
4日午前を研修として承認することはできず,同両日を指定休として処理する旨述
べて,既になされた不承認を再確認した。
なお,原告は,7月28日午後及び8月4日午前を研修,8月2日を家族休暇とし
て取得申請する旨,動向表のほかに,研修承認簿(乙2)及び「療養休暇,特別休
暇及び職免承認簿,欠勤簿」(乙3)にも記載しているが,いずれについても被告
Aの承認印はない。
(3) 瀬戸がっこうユニオンは,平成11年9月1日,被告Aに対し,「1,時間単
位あるいは半日の校外研修を認めること。2,家族休暇(夏季)を,希望通り認め
ること。3,上記関連事項一切。」についての交渉要求書(甲1)を提出した。
(4) 原告は,被告Aに対し,平成11年9月14日に,9月18日を家族休暇とし
て,同月28日に,9月30日を家族休暇として,それぞれ取得申請したが,被告
Aは,指定休として申請するのであれば承認するが,家族休暇としては承認できな
い旨不承認の回答をした。そのため,原告は,9月18日を年次有給休暇とし,9
月30日は出勤した。
(5) 被告Aと瀬戸がっこうユニオンは,平成11年10月29日開催の職場交渉に
おいて,7月28日午後と8月4日午前の時間帯は研修を取る上で学校運営上の支
障はなかったこと,同じ時間帯に他の教員には研修を認めていること,研修を認め
ない法的根拠はないこと,しかし,研修は1日単位のみとする上司の指導があり,
「出勤簿及び年休処理簿の記載方法について」にも時間単位あるいは半日単位の研
修はないから,そのような校外研修は認められないことをそれぞれ確認して,その
旨の確認書(甲2)を作成し,さらに,平成12年2月8日開催の職場交渉におい
て,家族休暇を申請した9月18日と9月30日は学校運営上の支障を小さくでき
る日であったこと,学期につき1回ずつは家族休暇を承認すること,9月18日と
9月30日は取扱方
針があるから承認しなかったこと,8月2日は学校運営上の支障はなかったが,原
告の日直担当日であり,日直業務をしてほしかったため承認しなかったことをそれ
ぞれ確認し,その旨の確認書(甲3)を作成した。
なお,9月18日及び9月30日は,いずれも平常の授業日であり,原告もクラス
担任として,生徒の授業その他の業務を担当していた。
(6) 被告Aは,従前,取扱方針に則りつつ各教員の便宜を図るべく,夏季休業期間
外であっても,夏季休業期間の前後各1回ずつに限って,家族休暇を承認してきた
ものであり,原告に対しても,平成11年7月8日及び同年9月7日を家族休暇と
して既に承認していた。
2 争点に対する判断
(1) 研修不承認措置について
 ア 学校長は,授業に支障がある場合は研修を承認してはならないが,この場合
に限らず,申請された研修の内容,場所等に照らして当該研修が職務に関連し,教
員の資質,人格の向上に寄与するものであるか否かの見地,さらには,研修を承認
した場合に生じる校務運営上の支障の有無,程度等を総合的に考慮してその許否を
決するべきであり,その判断は学校長の一定の裁量に委ねられていると解するのが
相当である。したがって,教特法20条2項が授業に支障がない限り研修を行い得
ることを権利として宣言した規定であるから,授業に支障がない限り夏期休業期間
中の研修取得申請は当然承認されるべきであるとする原告の前記主張は採用するこ
とができない。
   ところで,名古屋地区の小中学校(小学校261校,中学校108校)にお
いて半日単位の研修を承認している学校は存在せず,尾張地区の小中学校(小学校
356校,161校)においても,半日単位の研修を承認している学校は平成12
年度においてわずか7校にとどまっており(被告A本人尋問の結果,弁論の全趣
旨),また,愛知県教育委員会教育長が平成13年3月29日に各県立学校長宛て
に発した「教員の研修の取扱いについて(通知)」(12教職第628号。乙15
の3)にも,研修の単位は原則として1日とするとされているのであって,いずれ
も研修の実効性を考慮した運用であると解されるところ,一般に余りに短時間では
研修の実効が上がらないと考えられ,したがって,このような面から研修を認める
最小単位について何ら
かの規制を設けることも不合理とはいえないというべきである。
   そうすると,学校長が,当該申請に係る半日単位の研修では,教員の資質・
人格の向上といった研修の本来的目的を達成する上で実効性に乏しいと判断して,
研修取得申請を不承認とすることは,学校長に与えられた上記裁量権の範囲を逸脱
するものではないというべきである。
   そして,前記認定のとおり,被告Aは,原告が申請した7月28日午後及び
8月4日午前の研修取得申請について,半日単位の研修では実が上がらない等の判
断に基づいて,これを不承認としたのであるから,かかる不承認措置をもって,学
校長の裁量権を逸脱,濫用した違法な行為ということはできない。
 イ これに対して原告は,瀬戸市あるいは他の都道府県内の一部学校で半日単位
の研修が承認されているとか,本件小学校においても時間単位の研修が承認されて
いると主張する。
   しかしながら,半日単位の研修を認めている学校が存在するとしても,それ
は各学校ごとの研修の承認手続の厳格性や学校長の管理運営方針等の相違に基づく
ものであるから,これにより被告Aの研修不承認措置の違法性が基礎づけられると
いうことはできない。また,原告が主張する時間単位の研修というのは,研修承認
簿による申請,承認などの手続を履践しているものではなく,本件小学校において
事実上認められてきた職場以外での勤務であり(被告A本人尋問の結果,弁論の全
趣旨),その合法性自体疑わしいものであるから,このことを根拠に本件研修不承
認措置の違法性を基礎づけようとするのは本末転倒である。
(2) 家族休暇不承認措置について
 家族休暇の取得は任命権者の承認事項(「職員の勤務時間,休日,休暇等に関す
る条例」12条2項)であるところ,同条項が,「任命権者は,(中略)必要と認
める期間の特別休暇を与えることができる。」と規定していることに加えて,「夏
季において元気回復又は家庭生活の充実を図る」という家族休暇の目的からする
と,家族休暇の許否については,学校長に一定の裁量権が付与されていると解する
のが相当である。そして,学校長としては,授業及びその他の校務運営上の支障の
有無,程度,家族休暇取得の必要性等を総合的に考慮して,その裁量権に基づいて
許否を決することができると解すべきである。
 そこで,被告Aが原告の家族休暇取得申請を不承認としたことが,裁量権を逸
脱,濫用する違法な行為か否かについて判断する。
ア 8月2日の家族休暇取得申請不承認措置について
原告が家族休暇の取得を申請した8月2日は,原告の日直担当日であり,原告は同
日の日直を他の職員と交代しないまま家族休暇として申請したのであるから,被告
Aにおいて,そのままでは校務運営上の支障があると判断して8月2日の家族休暇
取得申請を不承認としたことに裁量権の逸脱,濫用はなく,違法ということはでき
ない。
これに対して,原告は,学校長には,各職員に対して日直を命ずる権利があるか
ら,職員が日直担当日を家族休暇として申請した場合には,まず,学校長の方で他
の職員に日直を命ずるべきであり,他の職員全員が日直を拒否した場合に初めて,
当初の日直担当者による家族休暇取得申請を不承認とすることが許される旨主張す
るが,独自の見解であり採用することができない。
また,被告Aは,平成12年2月8日開催の職場交渉において,8月2日は学校運
営上の支障はなかったが,原告の日直担当日であり,日直業務をしてほしかったた
め承認しなかったとの事実を確認しているが,原告が日直を他の職員と交代しない
ままでは,原告に日直をしてもらうほかなく,そのままでは校務運営上の支障があ
るというべきであって,「8月2日は学校運営上の支障はなかった」との記載をも
って,原告が日直を他の職員と交代しないままでも学校運営上の支障がなかったこ
とを確認したものと認めることはできない。
イ 9月18日,9月30日の家族休暇取得申請不承認措置について
原告が家族休暇として取得申請した9月18日及び9月30日は,いずれも夏季休
業期間外であるところ,夏季休業期間外に教員が家族休暇を取得すると,当日は生
徒が登校してくる日であるため,生徒の教育指導に関して支障が生じる可能性が高
く,そのため,取扱方針は,教員の家族休暇取得につき,原則として夏季休業期間
中に限定しているものと解される。したがって,学校長の判断としても,夏季休業
期間外の場合には原則として家族休暇を承認しないとすることに合理的理由がある
というべきである。
ところで,被告Aは,夏季休業期間外に家族休暇を取得したいという一部教員の要
望と上記の取扱方針の趣旨を考慮して,夏季休業期間外については,夏季休業期間
の前後各1日ずつに限って,家族休暇を承認していたのであり,原告に対しても,
平成11年7月8日及び同年9月7日を家族休暇として既に承認していたことか
ら,9月18日及び9月30日の申請については,原則どおり取扱方針に則って不
承認としたものである。そして,実際に,9月18日及び9月30日は,平常の授
業日であり,原告も学級担任として授業その他の教育業務を担当していた日である
から,授業及び校務運営上の支障があったことは明らかというべきである。
したがって,被告Aが取扱方針に基づいて家族休暇取得申請を不承認としたことに
裁量権の逸脱,濫用はなく,違法ということはできない。
これに対して,原告は,本件小学校においては,平常の授業日に指定休が指定され
ていたのであるから,平常の授業日であっても授業に支障がない日が存在すること
は明らかであり,平常の授業日であることは校務に支障があることの理由にはなら
ない旨主張する。しかし,指定休は,教育公務員の場合,一般公務員と異なり,毎
月第1,第3,第5土曜日に出勤しなければならないことから,その分を夏季・冬
季等の長期休業期間中等において,まとめ取りという方式によって取得する休日の
ことであり,その具体的時期は学校長が指定するものであるのに対し,家族休暇
は,「夏季において元気回復又は家庭生活の充実を図る」ために学校長の承認を要
件として許容される特別休暇であって,両者は,権利の性質,休業の趣旨,取得の
方法等が全く異なって
いる(乙9,被告A本人尋問の結果,弁論の全趣旨)から,授業及び校務運営に対
する支障の有無・程度やその許否の判断についても同一に論ずることはできないと
いうべきである。
第4 結論
  以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することと
し,主文のとおり判決する。
 名古屋地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官橋   本   昌  純
    裁判官 夏  目  明  徳
  裁判官佐藤久文は,転補のため署名・押印できない。  
  裁判長裁判官橋  本  昌  純
 (別紙省略)

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