弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人A1、同A2に関する部分を破棄し、右部分につき本件
を大阪高等裁判所に差し戻す。
     上告人A3の本件上告を却する。
     前項の部分に関する上告費用は、上告人A3の負担とする。
         理    由
 上告代理人真田重二の上告理由第一点、第二点について。
 上告人A1は、D組なる商号を使用して土木建築請求負業を営んでいる者である
が、昭和二八年から病気のため自から営業をすることができなかつたため、息子の
上告人A2をして右請負業の監督をさせており、上告人A3は、土木建築下請負業
を営む者であること、上告人A1は、和歌山県から水害復旧道路工事等を請負い、
昭和二九年三月頃より数回上告人A3と下請負契約を締結し、本件事故発生当時は、
上告人A1が和歌山県から請負つた同県有田郡a村(現在b町)c地内の昭和二八
年度および同二九年度県道高野湯浅港線道路復旧工事の下請工事をさせており、上
告人A3は、右下請工事に要する砂利、セメントその他の材料等の運搬、右下請工
事に関する連絡などに本件小型四輪貨物自動車を使用していたこと、右自動車は、
上告人A3において昭和二九年三月一〇日前所有者たる上告人A1より買い受けた
ものであるが、登録名義の変更手続をせず、本件事故が発生した同年八月一三日当
時においても、登録上は上告人A2の名義となつていたばかりでなく、右自動車に
金文字でD組の表示のあるままで前記用途に使用することを上告人A1A2両名に
おいて黙認していたこと、本件下請負契約においては、上告人A3の施行する下請
工事につき、上告人A1は和歌山県の設計書に基づいて、コンクリートの配合状況、
道路の中心の確認、道路ののりの勾配、床堀の状況等の監督をすることになつてお
り、上告人A3は右監督のもとに工事を施行する約束で、実際においても、上告人
A1の方から、毎日のように工事現場に施行の監督に来ていたこと、本件事故当日
は盆休みであつて、上告人A3は神戸市の自宅に居住する妻が手術をすることにな
つており、右自宅に帰る必要が生じたので帰宅することになつたが、たまたま右下
請負業に使用する本件自動車の雇運転手が盆休みで帰郷していたため右自動車を運
転する者がいなかつたので、前日の一二日息子のEをして自動三輪車の運転免許し
か受けていないFに本件自動車の運転を依頼させてその承諾をえ、事故当日まず運
転免許を受けていないEに本件自動車を運転させて前記b町大字cの飯場事務所を
出発し、同町大字bでFを同乗させたところ、途中Fは同人の元雇主Gからその所
有する自動三輪車の故障の修理方法を和歌山市所在のHモータース店に問い合せて
くれるよう依頼を受けてこれを承諾し、ついでEと交代してFが本件自動車を運転
して海南市d駅に至り、上告人A3はここで降りるとともに、その後はFおよびE
の両名が和歌山市を経て前記飯場事務所まで右自動車を運転することを許容し、F
は右自動車を運転して和歌山市に至り、Hモータース店に立ち寄りGから依頼を受
けた用件をすませ、Eの運転により帰途につき、和歌山県e附近からFが交代して
運転しているときに、海南市fI電気軌道株式会社f停留所附近の道路上で、同人
の運転上の過失により本件事故を惹起したことは、いずれも原判決が確定した事実
である。
 右事実関係からすれば、Fの本件自動車の運転は、上告人A3の下請負業自体の
執行ではないけれども、自動車を使用する同人の前記下請負業と密接な関係にあり、
客観的にみて同人の支配の範囲内にあるものであるから、その事業の執行について
なされたものというべきであるとした原判決は、正当としてこれを是認しうる。第
一点の論旨は、独自の見解に立脚するもので採用できない。
 つぎに、元請負人が下請負人に対し、工事上の指図をしもしくはその監督のもと
に工事を施行させ、その関係が使用者と被用者との関係またはこれと同視しうる場
合において、下請負人がさらに第三者を使用しているとき、その第三者が他人に加
えた損害につき元請負人が民法七一五条の責任を負うべき範囲については、下請工
事の附随的行為またはその延長もしくは外形上下請負人の事業の範囲内に含まれる
とされるすべての行為につき元請負人が右責任を負うものと解すべきではなく、右
第三者に直接間接に元請負人の指揮監督関係が及んでいる場合になされた右第三者
の行為のみが元請負人の事業の執行についてなされたものというべきであり、その
限度で元請負人は右第三者の不法行為につき責に任ずるものと解するのを相当とす
る。そして、前示原判決の確定した事実関係からすれば、本件Fの行為は、原判決
のとおり、上告人A3の本件下請負業自体の執行ではなくただそれと密接な関係に
あるため外形上同人の事業の執行の範囲内に含まれるといえるにすぎないのである
から、このような場合のFの行為が元請負人たる上告人A1の事業の執行について
なされたものとするための前記要件をみたすものとは到底認めることができない。
したがつて、上告人A1と上告人A3との関係が使用者と被用者との関係と同視し
うること、上告人A3が本件自動車を使用してその事業を営むことについて上告人
A1の指揮監督を受けていたことおよびFの本件行為が上告人A3の事業の執行に
ついてなされたものと認めうるとのことから、たやすく右Fの本件不法行為が上告
人A1の指揮監督権の及ぶ事業の範囲内において発生したものであるとした原判決
には、法律の解釈を誤つたかもしくは理由不備の違法があるというべきである。さ
れば、論旨第二点は理由あるに帰し、原判決は上告人A1および同A2に関する部
分については破棄を免れない。そして、本件は右部分について、なお前示上告人A
1の指揮監督関係の点をさらに審理判断すべき要があるものと認められるから、右
部分について本件を原裁判所に差し戻すことを相当とする。
 同第三点について。
 原判決が、亡Jの得べかりし利得は、死亡当時の三二年六月からその後満六〇年
まで二七年六月間、年間七四、○○○円の割合による合計二、〇三五、○○○円と
なるが、これを死亡時において一時に支払を受けるものとし、ホフマン式計算法に
より年五分の割合の中間利息を控除して計算すると一、三〇一、七一五円(円以下
切捨)となることは計算上明らかであると説示していることは所論のとおりである。
ところで、論旨がホフマン式計算法として挙示する算式は、推定余命年間の全利得
をその最終時に利得するものとの仮定に立つてその金額から中間利息を控除して算
出する方法であるが(これをかりに単式と名づける。)、同じくホフマン式計算法
といつても、推定余命年間を数期に分ち、各期末ごとに利得するものとの仮定に立
つてその各金額から各中間利息を控除してそれらの合算額を算出する方法もある(
これをかりに複式と名づける。)そして、前記のように、原判決は元年ごとの得べ
かりし利得を七四、○○○円と確定しているのであるから、このような本件の場合
においては、一年ごとの期間に分ち前記複式により算出するのが相当である。よつ
て、この方法により前記数字をあてはめて計算してみると、少なくとも、原判決が
最終的に第一審判決の限度において被上告人B1、同B2、同B3の三名に対して
認容した損害賠償請求額の合計九七八、三〇五円以上になることは計算上明らかで
あるから、論旨は、なんら原判決に影響を及ぼすべき法令違反の主張とはならない。
論旨は採用できない。
 よつて、民訴四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全
員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助

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