弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人岡部秀温、同荒川正一の上告趣意第一点について。
 所論は単なる法令違反の主張であつて刑訴四〇五条の適法な上告理由に当らない。
のみならず所論指示書と題する文書の内容文言が、たとえ被告人以外の者の手で既
に記載されてあつた場合であつても、それが無権限者によつてなされたものであり、
且つa地方事務所長たる記名職印が施されてはじめて効用ある文書として完成する
ものであると認められる以上、行使の目的をもつて右文言の書面に無権限に右事務
所長名の記名ゴム印及びその職印を押印するときは、右文言と右押印とが相結合し
てここに該文書全体につき刑法一五五条の公文書偽造罪を構成するものと解すべき
である。所論刑法一六五条二項前段の印章署名の不正使用罪は、その使用のみが独
立して犯罪を構成する場合であつて、本件はこの場合に当らないこと前段の説明に
徴して明らかである。論旨は採用できない。
 同第二点について。
 一般人をして公務所または公務員の職務権限内において作成せられたものと信ぜ
しめるに足る形式外観を具えている以上は、その作成名義者たる公務所または公務
員にその作成権限がない場合においても刑法一五五条の偽造公文書というを妨げな
いことは所論指摘の当裁判所の判例(昭和二六年(れ)第二四三九号、同二八年二
月二〇日第二小法廷判決。判例集七巻二号四二六頁)とするところであるばかりで
なく、原判決も説示する如く、所論指示書と題する文書はa地方事務所長の職務権
限上作成し得べき文書に該当することは第一審第三回公判調書中の証人Aの供述記
載によつてこれをうかがうことができるのである。そして該供述は所論の如く単な
る意見としての供述と解すべきでないことは該供述調書の全趣旨に徴して肯認でき
る。この点に関する所論引用の判例は本件には不適切である。また本件指示書が本
件三輪自動車の名義登録等に無益不要であつたとの所論は記録に徴し首肯できない。
それ故所論はすべて採ることができない。
 同第三点について。
 所論は審理不尽を前提とする事実誤認の主張であつて刑訴四〇五条の適法な上告
理由に当らない。のみならず記録上、被告人に所論指示書を作成すべき代理権限が
あつたとの事実は到底認めることができない。
 なお、記録を調べても本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められな
い。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとお
り決定する。
  昭和三二年一一月二九日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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