弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人鍜治利一の上告趣旨第一点について。
 論旨は、第一審判決がその判示第三の事実を被告人の公廷における供述と被告人
の検察官に対する供述調書とを証拠として認定したのは刑訴三一九条二項並びに憲
法三八条三項に違反し、原判決が黙示的にこれを適法としたのは、右憲法の条項に
反し刑訴四〇五条一号に該当するというに帰する。しかし、被告人が原審に対して
控訴趣旨として申立てたのは第一審判決の量刑が不当であるという主張だけであつ
て、従つて、原第二審判決もこれに対する判断を示しただけで、所論の違法、違憲
のものであるとの点については明示的にも、黙示的にも何等判断を示していないの
である。しかも原審は控訴趣意に含まれていないかかる論点については判断を示す
の必要もないのである。されば原二審判決は、第二審判決に対する適法な上告理由
を定めた刑訴四〇五条一号にいわゆる憲法の違反又は憲法の解釈に誤りがある場合
に当るとの所論は、その前提を欠き採用し難い。しかのみならず、公判廷における
自白が憲法三八条三項の自白に含まれないことは、当裁判所不動の判例であるから、
第一審判決が判示第三の事実を被告人の公判廷における供述のみで認定したとして
も、右憲法の条項の違反とはならない。
 同第二点について。
 論旨は原審に対する控訴趣意には、第一審判決の判示第一事実は業務上の横領で
はなく詐欺であるとの申立があるにもかかわらず、原審はこの点について何等の判
断を示さないのは刑訴三九二条一項に違反するというのであるが、かゝる論旨は明
らかに刑訴四〇五条に定める上告理由たる事由に当らないばかりでなく、控訴趣意
には所論のような事実認定についての申立がなされているのでないことは、論旨に
摘録せる控訴趣意自体に徴して明らかなところであるから、原判決には所論のよう
な判断遺脱の違法はなく、従つて何等法令違反のかどは存しない。されば本件には
所論の刑訴四一一条一号を適用することをえないものといわなければならぬ。
 同第三点について。
 論旨は原判決の是認した第一審判決の量刑を不当とするのであつて、かゝる論旨
は明らかに刑訴四〇五条に定める上告理由たる事由にあたらないし、本件について
は同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて刑訴四一四条、三八六条一項三号一八一条一項に従い裁判官全員一致の意
見で主文のとおり決する。
  昭和二五年一一月一六日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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